説明

管路内残留液の送液方法

【課題】フィルター装置が配設された液体製品の製造管路に残留する残留物としての液体製品を有効に管路から送液させて回収する。
【解決手段】
管路内に残留した液体を加圧空気により圧送して送液する管路内残留液の送液方法であって、上記管路には液体をろ過するろ過フィルター装置が設けられ、上記管路に設けられたベントバルブの開度を調製することにより空気の流速を制御して管路内に残留する液体を上記空気と分離して送液する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管路内残留液の送液方法に係り、特に、液体をろ過するためのフィルター装置を有する管路内に残留する残留液を空気を圧送して送液させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、飲料水や、例えば、注射剤、点眼剤等の液状の医薬品等の液体製品を処理する液体製品製造プラントにおいては、管路内を調製タンクから貯液タンクを介して充填機へ管路内に所定圧の圧縮空気を供給して液体製品を圧送する場合、製造終了後に管路内等に所定量の液体製品が残留する場合がある。
【0003】
即ち、図5に示すように、液体製品製造プラントにおいて、上記調製タンク31、ろ過フィルター装置32、上記貯液タンク33がプラントの2階(調製室)に配設されると共に充填機34が1階(充填室)に配設され、さらに、この間の管路35が次第に高さが低くなるように階段状に設けられている場合には、調製タンク31内の液体製品は自然落下により充填機34に供給されることから、製造終了時に管路35内に残留液が発生する可能性はない。
【0004】
しかしながら、図6に示すように、液体製品製造プラントの設備事情から、プラント内において調製タンク31、貯液タンク33及び充填機34が同一フロアに配設される場合が一般的である。
【0005】
この点に関し、本件特許出願人が顧客である薬品製造会社に納入した、注射剤及び点眼剤調製設備を備えた全160プラントに関する追跡調査によれば、図5に示すような、調製タンクを有する調製室と充填機が備えられた充填室とが同一フロアに配置されている件数は139件(87%)であり、図6に示すような、調製室が例えば、2階にあり、充填室が1階にある例は21件(13%)であった。
【0006】
従って、多くの液体製品製造プラントにおいては、図5に示すように、調製タンク31を有する調製室と充填機34が備えられた充填室とが同一フロアに配置されていることとなる。この場合、図5に示すように、調製タンク31、貯液タンク33及び充填機34が同一フロアに配設された場合、液体製品に係る残留液は、特に、プラント内における管路を構成する配管35の個別の取り付け事情により配管35が上記調製タンク31及び貯液タンク33の送液孔から、設置面であるプラント床面Gよりも上方へ立ち上がって延設されている部位に発生する。
【0007】
上記のように、配管が立ち上がって形成された、いわゆる「立ち上がり配管部」)(例えば、図6中、35aにより示す部位)において、このような液体製品に係る残留液は、送液作業終了後、管路35a内に放置されたままとなることから、液体製品の回収率(歩留まり)を大きく低下させることとなる。従って、液体製品の歩留まりを向上させる観点から、このような管路内における液体製品の残留物を管路内から送液して適切に回収する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この場合、食品又は薬液等の製造プラントではない一般の液体処理プラントの送液管路であれば、管路において残留物が発生した場合には、管路内に瞬間的に加圧空気を所定の流速で供給させることにより管路内から残留液を強制的に送液させ回収することが可能である。
【0009】
しかしながら、各種飲料、薬品等の液体製品の製造プラントの場合には、管路35内に上記ろ過フィルター装置32が配置されている。このようなろ過フィルター装置32は、ミクロン単位の非常に細密な透過構造を有するフィルター部を有し、上記フィルター部を介して液体製品をろ過して除菌しつつ移送することとしている。
【0010】
従って、このようなろ過フィルター装置32に使用されるフィルターは、一度、液体に濡れた場合には、フィルターに含浸した水分が表面張力を有することから、上記のように残留液を送液するために空気を圧送した場合であっても、空気を透過しないことから圧送が不可能となる。
【0011】
加えて、上記液体製品のうち、特に、注射液剤、点眼剤等の液状の医薬品に関しては、非常に高価であることから、製品製造においては歩留まりの向上のために、製造の際に管路内に残留する液体製品である液状の医薬品を上記フィルター装置を破壊することなく効率よく回収することが従来より要請されていた。
【0012】
このような観点から特許文献を調査したところ、下記のような複数の特許文献を発見した。
【0013】
【特許文献1】特開平9−40092号公報
【特許文献2】実開平3−96500号公報
【特許文献3】特開昭61−66000号公報
【特許文献4】特開2007−263322号公報
【特許文献5】特開平9−40092号公報
【0014】
しかしながら、いずれの文献においても、フィルター装置が配設された管路内の残留液体を回収する技術は開示されていない。
そこで、本願発明の課題は、フィルター装置が配設された液体製品の製造管路に残留する残留物としての液体製品を有効に管路から送液させて回収することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような課題解決のため請求項1記載の発明にあっては、管路内に残留した液体を加圧空気により圧送して送液する管路内残留液の送液方法であって、上記管路には液体をろ過するろ過フィルター装置が設けられ、上記管路に設けられたベントバルブの開度を調製することにより空気の流速を制御して管路内に残留する液体を上記空気と分離して送液することを特徴とする。
【0016】
従って、請求項1記載の発明にあっては、ろ過フィルター装置が設けられている管路においても、ベントバルブの開度を調製して空気の流速を制御することによって、残留する液体を空気と分離して送液させることができる。
【0017】
請求項2記載の発明にあっては、上記管路は、液体製品を調製する調製タンクと液体製品を容器に充填する充填機との間に形成され、上記調製タンクと上記充填機との間には貯液タンクが配置されると共に上記調製タンクと上記貯液タンクとの間には上記ろ過フィルター装置が配設されていることを特徴とする。
従って、上記調製タンクと上記ろ過フィルターとの間には立ち上がり管路部において残留液が発生することから、請求項2記載の発明にあっては、この残留液を回収するものである。
【0018】
請求項3記載の発明にあっては、上記ろ過フィルター装置は上記調製タンクよりも設置面を基準として上方位置に設けられ、上記調製タンクと上記ろ過フィルターとの間には立ち上がり管路部が設けられていることを特徴とする。
従って、請求項3記載の発明にあっては、上記調製タンクと上記ろ過フィルターとの間には立ち上がり管路部において残留液が発生することから、この残留液を回収するものである。
【0019】
請求項4記載の発明にあっては、上記調製タンクから延出され調製タンクの送液孔部の高さ位置よりも設置面上方へ立ち上がって配設された立ち上がり管路部と、上記立ち上がり管路部の上端部から設置面に沿って延設された延設管路部と、上記延設管路部から分岐した排気管部と、上記延設管路部から分岐し、上記ろ過フィルター装置を備えた送液管部とにより構成されていることを特徴とする。
【0020】
従って、請求項4記載の発明にあっては、上記立ち上がり管路部において発生した残留液は、流速が制御された加圧空気が供給されることにより、延設管路部を介して、空気は上記排気管部から大気中へ流出すると共に、残留液は上記ろ過フィルターを介して送液管部から貯液タンクへ送液される。
【0021】
請求項5記載の発明にあっては、上記残留する液体の送液は、管路を形成する配管の内径と、上記管路内に供給される空気の圧力と、上記空気の流速と、上記加圧された空気の供給時間とにより制御されることを特徴とする。
即ち、管路内に発生する残留液の量は、配管の内径と、液体圧送のために管路内に供給される空気の圧力(圧送圧力)とにより決定される。従って、これを前提として、残留液を送液するために、空気の流速をいかに制御し、かつ当該流速の空気をどの程度の時間供給すればよいか、が本発明における管路内残留液の送液方法の要旨となる。
【0022】
請求項6記載の発明にあっては、上記立ち上がり管路部は1m、上記延設管路部は1m、上記送液管部は1.3mであって、上記空気の圧力は0.1MPaであることを特徴とする。
【0023】
請求項7記載の発明にあっては、上記ベントバルブの開度を小さくして、上記管路内に圧送される空気の流速を低く設定する初期行程と、上記初期行程の後、上記ベントバルブの開度を大きくして、上記管路内に圧送される空気の流速を高く設定する後期行程とを有することを特徴とする。
【0024】
即ち、残留液の送液作業の当初から上記ベントバルブの開度を大きくして管路内に供給される空気の流速を高く設定した場合には、残留液である液体製品が圧送される空気と共にベントバルブを介して外部に回収されないまま送液されてしまうこととなる。
従って、初期工程においては、上記ベントバルブの開度を小さくして、上記管路内に圧送される空気の流速を低く設定し、その後、後期工程においては、上記ベントバルブの開度を大きくして、上記管路内に圧送される空気の流速を高く設定して残留液を送液するように構成されている。
【0025】
請求項8記載の発明にあっては、上記ベントバルブの開度は、初期工程から後期工程に至るまで、次第に開度が大きくなるよう設定されることを特徴とする。
従って、請求項8記載の発明にあっては、初期工程から後期工程にかけてベントバルブの開度は次第に開度が大きくなるように構成されていることから、供給される空気の流速もスムーズに大きくなるように構成されている。
【0026】
請求項9記載の発明にあっては、上記初期行程における空気の流速は16m/sであると共に、後期行程における空気の流速は24m/sであることを特徴とする。
【0027】
請求項10記載の発明にあっては、上記管路内径は10.5φ又は17.5φであって、上記初期行程から後期行程に至る所要時間は3分間であることを特徴とする。
【0028】
請求項11記載の発明にあっては、上記管路内径は23.0φであって、上記初期行程から後期行程に至る所要時間は5分間であることを特徴とする。
【0029】
請求項12記載の発明にあっては、上記液体は薬液であると共に、上記ろ過フィルター装置のフィルターは薬液ろ過フィルターであることを特徴とする。
従って、請求項12記載の発明にあっては、残留液である薬液を管路から送液させて回収することができる。
【0030】
請求項13記載の発明にあっては、上記フィルター装置は、除菌フィルターが積層されたフィルター部を備えていることを特徴とする。
【0031】
請求項14記載の発明にあっては、上記フィルターは0.22ミクロンに形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
請求項1,13及び14記載の発明にあっては、ろ過フィルター装置が設けられている管路においても、ベントバルブの開度を調製して空気の流速を制御することによって、ろ過フィルターを破壊することなく残留する液体を空気と分離して送液させることができ、液体製品の製造プラントの管路内に残留する残留物としての液体製品を有効に回収することができるため、液体製品の歩留りを向上させることができる。また、確実に、当該液体製品の製造完了時には管路内に残留した残留液を送液することが可能となる。
【0033】
請求項2及び請求項3記載の発明にあっては、上記調製タンクと上記ろ過フィルターとの間には立ち上がり管路部において発生した残留液を確実に回収することができる。
【0034】
請求項4記載の発明にあっては、上記立ち上がり管路部において発生した残留液は、流速が制御された加圧空気が供給されることにより、延設管路部を介して、空気は上記排気管部から大気中へ流出すると共に、残留液は上記ろ過フィルターを介して回収されることから、供給された加圧空気と残留液とが確実に気液分離した状態となる。
その結果、例えば、残留液が高価な液体薬品であったような場合に、高価な液体薬品が加圧された空気と共に大気中へ飛散してしまい充分な回収が不可能となる、という事態を有効に防止することができる。
【0035】
請求項5記載の発明にあっては、管路内に発生する残留液の量は、配管の内径と、液体圧送のために管路内に供給される空気の圧力(圧送圧力)とにより決定されるため、残留液を送液するために、空気の流速をいかに制御し、かつ当該流速の空気をどの程度の時間供給すればよいか、という観点からの制御を行えばよいことから、制御項目は「加圧空気の流速」及び「加圧空気の供給時間」のみであり、制御作業の容易な管路内残留液の送液方法を提供することが可能となる。
【0036】
請求項6記載の発明にあっては、上記空気の圧力は0.1MPaであることから、
通常、液体製品の搬送に使用される圧送圧力と変わらない圧力でよく、特別な圧力を設定することは不要であることから、制御作業の容易な管路内残留液の送液方法を提供することができる。
【0037】
請求項7記載の発明にあっては、上記ベントバルブの開度を小さくして、上記管路内に圧送される空気の流速を低く設定する初期行程と、上記初期行程の後、上記ベントバルブの開度を大きくして、上記管路内に圧送される空気の流速を高く設定する後期行程とを有することを特徴とし、残留液の送液作業の当初から上記ベントバルブの開度を大きくして管路内に供給される空気の流速を高く設定した場合には、残留液である液体製品が圧送される空気と共にベントバルブを介して外部に回収されないまま送液されてしまう事態を防止することができるため、例えば、液体製品が高価な薬液であったような場合には、特に、確実に気液を分離した形で回収することができる。
【0038】
請求項8及び9記載の発明にあっては、初期工程から後期工程にかけてベントバルブの開度は次第に開度が大きくなるように構成されていることから、管路内へ供給される空気の流速もスムーズになり、管路の屈曲部があった場合であっても、液体が特に滞留することなく、円滑に管路内を送液される、という効果を奏する。
【0039】
請求項10及び11記載の発明にあっては、上記初期行程から後期行程に至る所要時間は3分間又は5分間であることから、管路から短時間で残留液を送液することができる。
【0040】
請求項12記載の発明にあっては、薬液が残留液であった場合には、液体食品等に比して製造原価が高価な薬液を確実に管路から送液させて回収することができ、高価な液体製品の回収率を向上させ、歩留まりを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づき、本願発明を検証するために作成された実験装置に基づき、本願発明を詳細に説明する。
【0042】
本実施の形態に係る管路内残留液の送液方法は、管路30内に残留した液体を加圧空気により圧送して送液する管路内残留液の送液方法であって、上記管路30には液体をろ過するろ過フィルター装置16が設けられ、上記管路35に設けられたベントバルブ20の開度を調製することにより空気の流速を制御して管路内に残留する液体を上記空気と分離して送液するように構成されている。
【0043】
上記管路35は、液体製品を調製する調製タンク10と液体製品を容器に充填する充填機34との間に形成され、上記調製タンク31と上記充填機34との間には貯液タンク33が配置されると共に上記調製タンク31と上記貯液タンク33との間には上記ろ過フィルター装置32が配設されている。
また、上記ろ過フィルター装置32は上記調製タンク31よりも設置面Gを基準として上方位置に設けられ、上記調製タンク31と上記ろ過フィルター装置16との間には立ち上がり管路部12が設けられている。
上記調製タンク10から延出され調製タンク10の送液孔部36の高さ位置よりも設置面G上方へ立ち上がって配設された立ち上がり管路部12と、上記立ち上がり管路部12の上端部から設置面Gに沿って延設された延設管路部14と、上記延設管路部14から分岐した排気管部21と、上記延設管路部14から分岐し、上記ろ過フィルター装置16を備えた送液管部21とにより構成されている。
【0044】
本実施の形態にあっては、上記液体は薬液であり、上記ろ過フィルター装置16のフィルターは薬液ろ過フィルターにより構成されている。上記ろ過フィルター装置16は、一般的な除菌フィルター部を備え、上記除菌フィルター部は上記フィルター0.22ミクロンの除菌を目的とするフィルターからなる。
上記残留する液体の送液は、管路35の長さと、管路35を形成する配管の内径と、上記管路内に供給される空気の圧力と、上記空気の流速と、上記加圧された空気の供給時間とにより制御される。
【0045】
上記立ち上がり管路部12は1m、上記延設管路部14は1m、上記送液管部50は1.3mであって、上記空気の圧力は0.1MPaである。
上記ベントバルブ20の開度を小さくして、上記管路35内に圧送される空気の流速を低く設定する初期行程と、上記初期行程の後、上記ベントバルブ20の開度を大きくして、上記管路35内に圧送される空気の流速を高く設定する後期行程とを有し、上記ベントバルブの開度は、初期工程から後期工程に至るまで、除々に開度が大きくなるよう設定されている。
【0046】
上記初期行程における空気の流速は16m/sであると共に、後期行程における空気の流速は24m/sとなるように設定されている。
上記管路内径は、10.5φ又は17.5φの場合には、上記初期行程から後期行程に至 る所要時間は3分間に設定され、上記管路内径が23.0φの場合には、上記初期行程から後期行程に至る所要時間は5分間となるように設定されている。
【0047】
[実施例]
上記構成に係る本発明を調製タンク10と管路35に配設されたろ過フィルター装置16との間の管路内において、本発明の実施を行った。
【0048】
1.実験装置の管路構成
図1に示すように、管路30及び調製タンク10により実験装置29を構成して、本発明の実施を行った。上記調製タンク10は、円筒状に形成され、100Lの液体を収納しうる。上記管路30は、上記調製タンク10の下端部から外方に略水平に延設された延出管路部11と、延出管路部11の下流側端部から略垂直に立ち上がって延設された立ち上がり管路部12と、この立ち上がり管路部12の上端部から、バルブ13a,13bを介して略水平に延設された水平管路部14と、上記水平管路部14の下流側端部に接続された第一分岐管部18と、上記第一分岐管部18の上方側端部に接続された排気部38と、上記第一分岐管部18の下方側端部に接続された排液部39とにより構成されている。
【0049】
上記排気部38は、上記第一分岐部18の上方側端部に接続されたガラス製の部材であるサイトグラス17と、サイトグラス17の下流側に接続された第二分岐管28と、上記第二分岐管28に配設された圧力計と、上記第二分岐管28の下流側端部に配設されたベントバルブ20と、ベントバルブ20の下流側に配設された流量計22と、流量計22の下流側に固定された排気管21とからなる。
【0050】
また、上記送液部39は、上記第一分岐管18の下方側端部に接続されたろ過フィルター16と、ろ過フィルター16に接続された送液管部50とからなる。
なお、図中符号24は圧縮エア供給源であり、符号25は圧縮エア供給源の開閉バルブである。また、符号51は各管路の開閉バルブである。
【0051】
本実施例に係る実験装置29における各管路部の長さは以下のとおりである。上記延出管路部11は1mであり、上記水平管路部14は1.5mである。また、上記水平管路部14は、下流方向へ向かって50分の1の勾配を以って配設されている。
【0052】
そして、本実施例においては、図2に示すように、ポリカーボネート製であって内部が視認できるように構成された「スケルトンパイプ」26が使用され、図1に示すように、延出管路部11、水平管路部14、送液管部50には上記スケルトンパイプ26が使用され、内部の残留液の搬送状態が視認できるように構成されている。また、これらの「スケルトンパイプ」26の各接合部、第一分岐管18、第二分岐管28及び排気管21にはステンレス製のパイプが使用されている。
【0053】
このように構成された管路30において、調製タンク10内に食紅を添加した水を収納し、上記バルブ25を開放して圧縮エア供給源24からの圧縮エアを調製タンク10内へ導入して水を加圧し管路30内へ供給した。
図1に示す実験装置29にあっては、各液体製品製造プラントに配設されている管路と同様の部位に各バルブ51が配設されている。また、上記立ち上がり管路部12と延出管路部11との接合部位に配設されたバルブ51aにおいて上記立ち上がり管路部12における残留液の状況を確認することとしたものである。
【0054】
2.残留液の状況
以上のような管路30において、残留液は、上記立ち上がり管路部12及び延出管路部11において発生する。表1は、管路を構成するパイプの内径と、適用される圧送圧力と残液量との関係で取得されたデータが記載されている。表1から明らかなように、本実験装置における残留液量は、管路径及び圧縮エア供給源24からの圧縮エアによる圧送圧力により異なる。
【0055】
表1は、本発明に係る管路内残留液の送液方法を実施しない場合の、通常の圧送後における配管内の残留液量を示す。なお、「8A」,「15A」,「1S」は内径の夫々異なるスケルトンパイプを示す。即ち、「8A」は10.5φ、「15A」は17.5φ、「1S」は23.0φである。この条件下で、圧送圧力が夫々、「0.05MPa」、「0.1MPa」、「0.2MPa」、「0.3MPa」の場合の夫々の配管内における残液量がデータとして取得されている。

〔表1〕

【0056】
3.残留液の送液作業の3つの観点
1残留液送液のための圧縮エア圧力について
圧縮エア圧力は高ければよい、というものではない。残留液送液のためには0.1MPa程度の圧力で充分であることが認識されている。
【0057】
2ベントバルブ20の操作について
前提として、圧縮エア供給源24から供給される圧縮エアと残留液とは分離して送液する必要がある。
【0058】
ベントバルブ20を開状態にすることにより圧縮エアを送液させることができる。しかしながら、ベントバルブ20の開度が問題であり、ベントバルブ20の開度が大きすぎた場合には、排気管部21は大気中に開放されていることから、気液が分離することなくベントバルブ20を介して排気管部21から大気中に送液されてしまうため、確実に気液を分離させ、加圧空気は排気管部21から大気中に送液すると共に残留液はろ過フィルター16を介してろ過して回収することが必要となる。
【0059】
そこで、ベントバルブ20の開放の仕方に工夫が必要であり、残留液送液のための作業の初期においてはベントバルブ20の開度を小さく設定しておき、その後、次第に開度を大きくすることにより、圧縮エアの流速を0から次第に大きくして、気液の分離を図り、残留液はろ過フィルターを介して回収することができることが実験の結果判明している。
【0060】
本実験例にあっては、上記ベントバルブ20の開度を小さくして、上記管路30内に圧送される空気の流速を低く設定する初期行程と、上記初期行程の後、上記ベントバルブの開度を大きくして、上記管路内に圧送される空気の流速を高く設定する後期行程とにより行う。
【0061】
上記初期行程における空気の流速は16m/sであると共に、後期行程における空気の流速は24m/sである。また、上記初期行程及び後期行程の所要時間は、表1及び表2に示すように、管路30を構成する配管の内径により異なる。配管の内径が10.5φ及び17.5φの場合には3分であり、23.0φの場合には5分間である。
【0062】
3圧送回数について
圧送回数そのものについては、残留液回収作業には直接に関係はないことが実験の結果判明している。
【0063】
4.実施条件
本実験装置29において、上記バルブ25を開放して圧縮エア供給源24からの圧縮エアを調製タンク10内へ導入し、調製タンク10内に収納された水に対して0.1MPaの圧力の圧縮エアを供給して、管路30内へ上記水を圧送した。その後、ベントバルブ20の開度を小さくして空気の流速を16m/sに設定して圧送した(初期行程)。
【0064】
この状態で、上記立ち上がり管路部12内を水が少しずつであるが上昇していることが視認された。この場合、上記立ち上がり管路部12を昇りきった水は第二水平管路部14へ入り、ろ過フィルター16へ送られる。その後、ベントバルブ20の開度を次第に大きくして、管路30内における空気の流速が24m/sとなるように設定する(後期行程)。
【0065】
なお、本実験例においては、上記ベントバルブ21はボールバルブにより構成され、初期工程における開度は10%程度であり、後期工程における開度は30%程度である。
【0066】
この場合、空気流量と残液量との関係は表2から明らかである。即ち、液体製品の通常の圧送作業を行った後に、本発明に係る管路内残留液の送液方法を実施したものである。
〔 表2 〕

【0067】
この場合、表2に示すように、表1に示したスケルトンパイプ1S(内径φ23.0)を例に採ると、圧送流量400L/min(N)の水を流速16m/sにより圧送した際には、上記立ち上がり管路部12内には、第1回目の実験では10.9g、第2回目の実験では11.1gの残留液量の水が確認された。また、圧送流量500L/min(N)の水を流速20m/Sで圧送した際には、第1回目の実験では1.0g、第2回目の実験では1.2gの残留液量が確認された。そして、600L/min(N)の圧送流量の水を24m/Sの流速で圧送した際には、約5分で残留液量は0gとなることがテストデータとして確認されている。
【0068】
図3及び図4は、水平管路部14と第一分岐管部18との接合部27を拡大して示している。上述のように、第一分岐管部18の下端部にはろ過フィルター17が配設されている。上記第一分岐管18の上端部にはサイトグラス16を介して第二分岐管28が配設され、上記第二分岐管部28の上端部には圧力計23が配設されており、上記第二分岐管部28の下流側端部にはベントバルブ20が取り付けられ、ベントバルブ20の下流側には流量計22が取り付けられ、上記流量計22の下流側には排気管21が固定されている。なお、図中、Aは加圧空気の流れ、Wは水の流れを示す。
【0069】
本実施例にあっては、上記のように、残留液の送液のために圧送の初期状態(初期行程)においては、ベントバルブ20の開度を小さくし、かつこの状態から少しずつ開度を大きくするように構成され、初期行程においては空気の流速は16m/sに設定されており、流速がより高く設定されていた場合には、空気の圧力により液体もベントバルブ20から外方へ送液されてしまうが、流速は低いことから、残留液W中の空気Aはベントバルブ20から外方へ送液されると共に、残留液Wはろ過フィルター17を介してベントバルブ20から流量計22を介して排気管21から管路外方へ送液されると共に、水Wは空気Aと共に排気管21から管路外方へは送液されないことを、排気管の排気口に吸水性のペーパーを配置して確認した。
【0070】
一方、残留液Wは、上記第一分岐管路部18において空気Aと分離し、第一分岐管路部18の下方に配設されたろ過フィルター16を介して管路30外方へ送液される。この状態は、図8に示すように、圧送中期以降のベントバルブ20の開度が次第に大きくなり流速が24m/sとなる第二行程においても同様であり、安定して空気Aと残留液Wとが分離した状態で送液されるものである。
【0071】
表3(1)は、従来の送液作業における残留液量を示す。管路内径8A〜1Sに応じて、また、同時に圧送圧力に応じて、夫々に、残留液が発生している。
これに対して、表3(2)に示すように、本実施例に係る液体製品の送液方法を実施した場合には、夫々、口径10.5φの場合(8A)には3分、口径17.5φ(15A)の場合には3分、口径23φ(1S)の場合には5分で残留液量は0になったことが確認された。
〔表3〕

(1) (2)

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る管路内残留液の送液方法は、広く、ろ過フィルターを備えた管路において液体製品の搬送後に残留する液体製品を回収する作業に広く適用される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る管路内残留液の送液方法を示す一実施の形態であって、液体製造プラントにおける調製タンクとろ過フィルターとの間に形成される立ち上がり管路を再現した実験装置としての管路構成を示す概念図である。
【図2】本発明に係る管路内残留液の送液方法を示す一実施の形態であって、管路内残留液の送液方法を実施する実験装置としての管路に使用されるスケルトン配管を示す写真である。
【図3】本発明に係る管路内残留液の送液方法を示す一実施の形態であって、本実施の形態に係る管路内残留液の送液方法が適用される管路構成の内、ろ過フィルターが設けられている部位を概念的に拡大して示す図である。
【図4】本発明に係る管路内残留液の送液方法を示す一実施の形態であって、本実施の形態に係る管路内残留液の送液方法が適用される管路構成の内、ろ過フィルターが設けられている部位を概念的に拡大して示す図である。
【図5】液体製品製造プラントにおいて、上記調整タンク、ろ過フィルター、上記貯液タンクがプラントの2階に配設されると共に充填機が1階に配設され、さらに、この間の管路が次第に高さが低くなるように階段状に設けられている状態を概念的に示す図である。
【図6】液体製品製造プラントにおいて、調製タンク、ろ過フィルター、貯液タンク及び充填機が同一フロアに配設される場合を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0074】
10 調製タンク
11 延出管路部
12 立ち上がり管路部
13 バルブ
14 水平管路部
16 ろ過フィルター装置
17 サイトグラス
18 第一分岐管
20 ベントバルブ
21 排気管部
22 流量計
23 圧力計
24 圧縮エア供給源
25 バルブ
26 スケルトンパイプ
27 接合部
28 第二分岐管
29 実験装置
30 管路
31 調製タンク
32 ろ過フィルター装置
33 貯液タンク
34 充填機
35 管路
50 送液管部
51 開閉バルブ
G 設置面
A 空気
W 残留液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路内に残留した液体を加圧空気により圧送して送液する管路内残留液の送液方法であって、上記管路には液体をろ過するろ過フィルター装置が設けられ、上記管路に設けられたベントバルブの開度を調製することにより空気の流速を制御して管路内に残留する液体を上記空気と分離して送液することを特徴とする管路内残留液の送液方法。
【請求項2】
上記管路は、液体製品を調製する調製タンクと液体製品を容器に充填する充填機との間に形成され、上記調製タンクと上記充填機との間には貯液タンクが配置されると共に上記調製タンクと上記貯液タンクとの間には上記ろ過フィルター装置が配設されていることを特徴とする請求項1記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項3】
上記ろ過フィルター装置は上記調製タンクよりも設置面を基準として上方位置に設けられ、上記調製タンクと上記ろ過フィルターとの間には立ち上がり管路部が設けられていることを特徴とする請求項2記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項4】
上記調製タンクから延出され調製タンクの送液孔部の高さ位置よりも設置面上方へ立ち上がって配設された立ち上がり管路部と、上記立ち上がり管路部の上端部から設置面に沿って延設された延設管路部と、上記延設管路部から分岐した排気管部と、上記延設管路部から分岐し、上記ろ過フィルター装置を備えた送液管部とにより構成されていることを特徴とする請求項3記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項5】
上記残留する液体の送液は、管路の長さと、管路を形成する配管の内径と、上記管路内に供給される空気の圧力と、上記空気の流速と、上記加圧された空気の供給時間とにより制御されることを特徴とする請求項1,2,3又は4のいずれか1項に記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項6】
上記立ち上がり管路部は1m、上記延設管路部は1m、上記送液管部は1.3mであって、上記空気の圧力は0.1MPaであることを特徴とする請求項1,2,3又は4のいずれか1項に記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項7】
上記ベントバルブの開度を小さくして、上記管路内に圧送される空気の流速を低く設定する初期行程と、上記初期行程の後、上記ベントバルブの開度を大きくして、上記管路内に圧送される空気の流速を高く設定する後期行程とを有することを特徴とする請求項1,2,3,4,5又は6記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項8】
上記ベントバルブの開度は、初期工程から後期工程に至るまで、除々に開度が大きくなるよう設定されることを特徴とする請求項7記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項9】
上記初期行程における空気の流速は16m/sであると共に、後期行程における空気の流速は24m/sであることを特徴とする請求項7又は8記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項10】
上記管路内径は、10.5φ又は17.5φであって、上記初期行程から後期行程に至る所要時間は3分間であることを特徴とする請求項5,6,7,8又は9のいずれか1項に記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項11】
上記管路内径は、23.0φであって、上記初期行程から後期行程に至る所要時間は5分間であることを特徴とする請求項5,6,7,8又は9のいずれか1項に記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項12】
上記液体は薬液であると共に、上記ろ過フィルター装置のフィルターは薬液ろ過フィルターであることを特徴とする請求項1記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項13】
上記フィルター装置は除菌フィルターを備えていることを特徴とする請求項1記載の管路内残留液の送液方法。
【請求項14】
上記除菌フィルターは0.22ミクロンに形成されていることを特徴とする請求項13記載の管路内残留液の送出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−23866(P2010−23866A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186069(P2008−186069)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000157946)岩井機械工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】