説明

管路更生材料と管路更生工法

【課題】ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂の熱伝導性を改善し、熱エネルギーのロスを低減し、熱効率を上げることによって加熱所要時間の短縮を図る事ができる管更生材料とその管更生材料を用いた管更生工法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂をフィルムコーティングされたフェルトからなるライニング材6を管路4に反転挿入し、熱硬化性樹脂を加熱硬化させて、管路4をライニングする。ライニング材のフェルトに含浸させる熱硬化性樹脂に、少なくともカーボンナノチューブを含んだフィラーを添加する。フェルトに含浸させた樹脂に少なくともカーボンナノチューブを含むフィラーを添加することで、従来の工法よりもフェルトの熱伝導性を改善し、熱のロスを低減し、樹脂を効率よく加熱して均一に硬化させ、運転時間の短縮を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽した管路を更生するための管路更生材、およびこの管路更生材を用いて管路の内周面にライニングを施して該管路を更生する管路更生工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された下水道管や工業用管路が老朽化した場合に、これらの管路を掘出すことなくその内周面にライニングを施して当該老朽管を補修、補強等する管路更生方法は既に提案され、実用化されている(例えば、特許文献1を参照)。すなわち、この管路更生方法は表面がフィルムコーティングされた柔軟性のあるフェルトに熱硬化性樹脂を含浸させた管状のライニング材を、流体圧によって老朽管内に反転させながら挿入するとともに、老朽管内周面に押圧させる。この状態から管状のライニング材の内部へ温水またはスチームを熱媒体として導入して加熱し、これに含まれる熱硬化性樹脂を硬化させることで、当該老朽管の内周面にライニング材による新たな管路を形成し、管路を更生している。
【特許文献1】特開昭60−242038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、該管更生工法では、使用するライニング材に含浸する熱硬化性樹脂を加熱硬化させるための媒体として、温水やスチームを用いて間接的に加熱を行っているが、熱硬化性樹脂が硬化するまでの間、温水を循環させて維持する必要がある。その為、硬化時間がかかるほど加熱に大きなエネルギーを消費するという問題点があった。
【0004】
樹脂製の管路更生材料はもともと熱伝導率が小さく、加熱に時間が掛かり熱ロスが多いが、このエネルギーロスを防ぐ為、更生材料の伝熱性を改善する方法は実施されていない。また、従来の工法において管路更生材料の物性を改善する為に、無機材料のフィラーを添加した例はある。しかし、物性改善のために添加したフィラーの水酸化アルミニウムがあるが、これの目的は粘度の制御、急反応による樹脂の硬化不良を抑制するためであり、伝熱対策ではない。現実に、水酸化アルミニウムを添加しても熱伝導率は0.25W/m・K程度までしか向上しない。
【0005】
本発明の課題は、上記問題を解決し、ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂の熱伝導性を改善し、熱エネルギーのロスを低減し、熱効率を上げることによって加熱所要時間の短縮を図る事ができる管路更生材料とその管路更生材料を用いた管路更生工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、管路更生工法に使用するライニング材へ含浸する熱硬化性樹脂に少なくともカーボンナノチューブを含む1種以上の炭素材料を添加して、該ライニング材を流体圧によって老朽管内に反転させながら挿入するとともに老朽管内周面に押圧させる。この状態から管状のライニング材の内部へ温水またはスチームを媒体として導入して加熱し、これに含まれる熱硬化性樹脂を硬化させることで、当該老朽管の内周面にライニング材による新たな管路を形成し管路を更生する。本発明により、該ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂の熱伝導性が改善される。
【0007】
本発明は、熱硬化性樹脂を含浸したフェルトの熱伝導率が0.3W/m・K以上となる管路更生材料であり、これを用いた管路更生工法である。従来の熱伝導率0.2W/m・Kより熱伝導率が大きく改善され、加熱所要時間の短縮および均一的なライニング材の加熱ができるようになった。
【0008】
また、本発明は、管路更生材料の熱伝導率を改善させる為に、熱硬化性樹脂に少なくともカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブ等を含んだ炭素材料をフィラーとして添加することで、該ライニング材の熱伝導率を改善したことを特徴とする。
【0009】
本発明に使用するカーボンナノチューブは炭素原子からなるグラファイトシートを円筒状に丸め同心円状に多数積層した繊維状の多層カーボンナノチューブである。その繊維径はナノメートルオーダーと非常に小さいのに対し、繊維長さ(軸方向の長さ)はマイクロメートルオーダーにまで達するため、アスペクト比(繊維長さ/繊維径の比)が非常に高い。このように繊維径が細く、高アスペクト比を有するため、かさ密度が高く、立体構造をとり易く、フィラー効果を発揮して高い熱伝導性を達成できる。使用するカーボンナノチューブはCVD法で得られ、径の長さやばらつきがあり、また、分岐した形状のものや、一部に粒子状の炭素も含まれる。しかし、熱伝導率向上の効果は洗浄部分で発揮されるので、効果には影響しない。得られたカーボンナノチューブは1200℃以上の温度で熱処理された後、解砕される。熱処理温度は出来るだけ高い温度で処理したほうが熱伝導率が高いので、好ましくは2500℃以上が良く、フィラー効果が高い。添加するフィラーはカーボンナノチューブ単独でも、また、カーボンナノチューブと他の炭素材料や、無機材料、金属粉末等のフィラーを複数混合して使うこともできる。混合して使用可能な炭素材料としてはカーボンナノコイル、カーボンブラック、黒鉛粉末、炭素繊維等がある。
【0010】
使用するカーボンナノチューブをはじめとする炭素材料は電気・熱の高伝導性、耐薬品性に優れ、軽量で取り扱いやすいので、熱硬化性樹脂にも付与するフィラーとして添加される。
【0011】
本発明は、熱硬化性樹脂に添加するカーボンナノチューブを含むフィラーの含有量は0.5wt%以上、30wt%以下であることを特徴とする。さらに、熱伝導率を改善するために添加するカーボンナノチューブの量は少なくとも0.5wt%以上が好ましい。熱硬化性樹脂に添加するカーボンナノチューブを含むフィラーの含有量が0.5wt%よりも少なくなると求める熱伝導性を得る事ができない。また、30wt%を超える添加量ではコストが非常にかかる上、流動性が低下し、強度も低下するため含浸工程に適さない。
【0012】
また、本発明は、熱硬化性樹脂に添加するカーボンナノチューブのアスペクト比が少なくとも10以上、好ましくは100以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、熱硬化性樹脂に添加するカーボンナノチューブの繊維径が20nm以上、好ましくは50nm以上であることを特徴とする。繊維径が20nmより細いと繊維の強度が弱くなり、混合中に絡みあってフロック状になって機能を発揮しづらくなる。また、ここで述べる径は分布を持つので、平均径によって示すものとする。
【0014】
更に、本発明は、前記熱硬化性樹脂に添加するカーボンナノチューブの繊維長さが少なくとも200nm以上、好ましくは500nm以上であることを特徴とする。カーボンナノチューブの繊維長さは長いほうが伝熱距離を確保できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、フェルトに含浸させた樹脂に少なくともカーボンナノチューブを含むフィラーを添加することで、従来の工法よりもフェルトの熱伝導性を改善し、熱のロスを低減し、樹脂を効率よく加熱して均一に硬化させ、運転時間の短縮を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。しかし、以下に示す実施例は本発明を説明するために提供されるものであり、多様な他の形に変形でき、本発明の範囲が後述する実施例によって限定されるものと解釈されてはならない。また、図面における要素の形状などは明確な説明を強調するものであり、本発明の要素の仕様、寸法を限定されるものと解釈されてはならない。
【0017】
図1は本発明に係る管路更生材料ないし工法に使用する熱硬化性樹脂へ添加するフィラーの方法について説明したものである。容器1に液状の熱硬化性樹脂2、例えば不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ樹脂等を投入し、次に水酸化アルミニウム、シリカ、タルク、炭化カルシウム等のいずれからなる充填剤、熱分解してラジカルを生成する硬化剤、そして少なくともカーボンナノチューブを含んだフィラー等添加剤を容器1内へ投入し、プロペラ3で攪拌をおこなう。攪拌の形態は密閉系でも開放系でも特に問題は無く、また、プロペラの形状、回転速度、投入順序、攪拌時間についてはそれぞれの配合材料や組成によって異なるので材料にとって最適な条件でおこなう。
【0018】
図2は前記熱硬化性樹脂がフェルトに含浸されて構成されるライニング材を示したものである。ライニング材の外周面は気密性、水密性、電気絶縁性の高いウレタン、ポリエチレン等のフィルム4からなり、ポリエステル製フェルト5をコーティングしている。該フェルト5に該熱硬化性樹脂が含浸されている。
【0019】
次に、図3は上記に示した工程により作製したライニング材6をコンプレッサ10等を用いて流体圧によって老朽管内7に反転させながら挿入するとともに、老朽管内周面に押圧させ、この状態からライニング材の内部へ温水またはスチームを媒体としてホース8から導入して加熱し、ライニング材6に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させる。これらの工程は熱伝導率を向上させた該樹脂を用いることによって従来の樹脂を用いた場合よりも熱のロスが少なく、効率良く樹脂を加熱して硬化を促し、運転時間を短縮させることができる。
【0020】
図4に本発明で使用するカーボンナノチューブの顕微鏡写真を示す。カーボンナノチューブの製造方法は、炭化水素を原料としたCVD法により合成したものであり、これらの条件を調節することでその繊維径や長さを制御することができる。尚、ここで説明している繊維径、繊維長さ、アスペクト比は代表的な数値で示したものである。
【0021】
以下に本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1に示す容器1に、不飽和ポリエステル樹脂2を800g投入し、次にカーボンナノチューブを該樹脂の3wt%を添加し、プロペラ3を用いて回転数500rpm、時間15minで攪拌した。更に硬化剤t−Butyl peroxy 2−ethylhexanoate 8.8g、Bis(4−t−butyl cyclohexyl)peroxy dicarbonate 4.4gを投入し、回転数500rpm、時間15minで攪拌した。
【0023】
次に、前記作製した樹脂をフェルトに含浸する作業を図5に基づいて説明する。ポリエチレンからなる管状のチューブ15の内部に平面状のポリエステル製のフェルト5を挿入して、矢印の方向から樹脂2を導入して密閉し、真空ポンプ16を用いて真空状態にしてフェルト5へ樹脂2を含浸した。
【0024】
次に、図6では鉄板17で上記含浸したフェルトを挟みこみ、ボルト18で厚みを12mmに固定し、60℃の温水槽に浸して60〜90min加熱硬化させた。
【0025】
硬化させたフェルトを幅150mm×170mmに切り出し、板状のサンプルを製作し、熱伝導率を測定した。測定した結果、得られた熱伝導率は表1に示されるように0.54W/m・Kであった。
【0026】
【表1】

【実施例2】
【0027】
実施例1と同じく、添加するカーボンナノチューブの量を5wt%にしてサンプルを作製し、熱伝導率を測定した結果、得られた熱伝導率は表1に示されるように0.75 W/m・Kであった。
【実施例3】
【0028】
上記実施例と同様にして、不飽和ポリエステル樹脂10.5kgにカーボンナノチューブを5wt%添加して攪拌し、更に硬化剤t−Butyl peroxy 2−ethylhexanoate 115.5g、Bis(4−t−butyl cyclohexyl)peroxy dicarbonate 57.8g等を投入して攪拌し、樹脂を作製した。
【0029】
次に表面がフィルムコーティングされた柔軟性のあるフェルトを管状にしてなるライニング材φ250mm、長さ3mに、前記製作した樹脂を含浸し、図3に示した構成で硬化実験を行った。すなわち、老朽管7にライニング材6をコンプレッサ10を用いて圧力0.04MPaで反転させながら挿入するとともに老朽管7内周面に圧力0.06MPaで押圧させ、この状態からライニング材6の内部へ温水を媒体としてホース8から導入して加熱し、硬化させた。硬化スケジュールは60℃45min、85℃45minとした。結果として従来よりも硬化時間を短縮できたことが確認できた。
【比較例】
【0030】
次に比較例として、4種類のフィラーを用いてそれぞれの熱硬化性樹脂の熱伝導率を実施例と同様の工程でおこなった。それら熱伝導率については表1(比較例1、比較例2、比較例3、比較例4)に示す。
【0031】
表1によれば、カーボンナノチューブを添加することによって熱伝導率が向上することが明らかであり、従来の熱伝導率の2倍から3倍の改善が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に関わる管路更生工法に使用する熱硬化性樹脂へのフィラーの添加方法を説明する説明図である。
【図2】本発明に関わる管路更生工法に使用するライニング材の構成を示した説明図である。
【図3】本発明に関わる管路更生工法において、更生対象となる管路の更生の例を示した説明図である。
【図4】本発明に関わる管更生材料において使用するカーボンナノチューブの顕微鏡写真図である。
【図5】本発明に関わる管路更生材料において、熱伝導率を測定するサンプルを作製する過程で、フェルトに樹脂を含浸する方法について示した説明図である。
【図6】本発明に関わる管路更生材料において、熱伝導率を測定するサンプルを作製する過程で、フェルトに含浸した樹脂を硬化させる方法について示した説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 攪拌用容器
2 熱硬化性樹脂
3 攪拌用プロペラ
4 フィルム
5 フェルト
6 ライニング材(熱硬化性樹脂が含浸されたフェルト)
7 老朽管
8 シャワーホース
9 温度記録計
10 コンプレッサ
11 圧力計
12 水槽
13 ロータリーポンプ
14 ボイラー(温水加熱用)
15 ポリエチレンチューブ
16 真空ポンプ
17 鉄板
18 ボルト・ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がフィルムコーティングされた柔軟性のあるフェルトに熱硬化性樹脂を含浸してなる管状ライニング材を管路に挿入して加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させることで、管路内周面に管状ライニング材によって更生された管路を形成するための管路更生材料であって、前記熱硬化性樹脂を含浸したフェルトの熱伝導率が0.3W/m・K以上であることを特徴とする管路更生材料。
【請求項2】
フェルトに含浸させる熱硬化性樹脂の熱伝導性を向上させる為に、少なくともカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブを含んだ炭素材料をフィラーとして添加させることを特徴とする請求項1に記載の管路更生材料。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂に添加するカーボンナノチューブを含むフィラーの含有量が0.5から30wt%であることを特徴とする請求項2に記載の管路更生材料。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂へ添加するカーボンナノチューブのアスペクト比が少なくとも10以上、好ましくは100以上であることを特徴とする請求項2又は3に記載の管路更生材料。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂に添加するカーボンナノチューブの繊維径が20nm以上、好ましくは50nm以上であることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の管路更生材料。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂へ添加するカーボンナノチューブの繊維長さが少なくとも200nm以上、好ましくは500nm以上であることを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の管路更生材料。
【請求項7】
表面がフィルムコーティングされた柔軟性のあるフェルトに熱硬化性樹脂を含浸してなる管状ライニング材を管路に挿入して加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させることで、管路内周面に管状ライニング材によって更生された管路を形成し、管路を更生するための管路更生工法であって、前記熱硬化性樹脂を含浸したフェルトの熱伝導率が0.3W/m・K以上であることを特徴とする管路更生工法。
【請求項8】
フェルトに含浸させる熱硬化性樹脂の熱伝導性を向上させる為に、少なくともカーボンナノチューブまたはカーボンナノチューブを含んだ炭素材料をフィラーとして添加することを特徴とする請求項7に記載の管路更生工法。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂に添加するカーボンナノチューブを含むフィラーの含有量が0.5から30wt%であることを特徴とする請求項8に記載の管路更生工法。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂へ添加するカーボンナノチューブのアスペクト比が少なくとも10以上、好ましくは100以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載の管路更生工法。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂に添加するカーボンナノチューブの繊維径が20nm以上、好ましくは50nm以上であることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の管路更生工法。
【請求項12】
前記熱硬化性樹脂へ添加するカーボンナノチューブの繊維長さが少なくとも200nm以上、好ましくは500nm以上であることを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の管路更生工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−238658(P2008−238658A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84011(P2007−84011)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(592057385)株式会社湘南合成樹脂製作所 (61)
【Fターム(参考)】