説明

米麹を用いた降圧組成物

【課題】医療用薬剤としてのアンギオテンシン変換酵素阻害剤は、医師の処方に基づいて使用しなければならなく、さらにその価格が高いという問題がある。また、アンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドを用いる場合、それぞれ加水分解するなどの処理の必要があり、抽出などの手間やコストがかかるという問題がある。このため、少ない費用で入手でき、かつ手間などのかからないアンギオテンシン変換酵素阻害物質が望まれている。
【解決手段】そこで本発明者らは、種々の検討をした結果、米麹及び米麹水抽出物にアンギオテンシン変換酵素阻害活性があることを見出した。また、米麹中に含まれるタンパク質を部分分解したペプチドにも消化酵素耐性を示すアンギオテンシン変換酵素阻害活性があることを見出し、そのペプチドも同定した。また、ヒトモニター試験においても、米麹摂取による血圧の降下が確認された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清酒醸造原料を用いた組成物に関するものであり、特に高血圧を予防・治療・改善する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧は生活習慣病の一つに挙げられているが、高血圧はある程度まで進行しないと特別な自覚症状がない。このため、高血圧はサイレントキラーとも呼ばれ、自覚症状がないままに密かに病状が進行し、数々の合併症を引き起こす可能性がある。血管の壁は本来弾力性があるが、高血圧状態が長く続くと動脈硬化を引き起こし脳出血や脳梗塞、大動脈瘤、心筋梗塞、眼底出血などの原因となる。また、細小動脈の硬化が進むと腎硬化症を発症することにより腎臓の機能が低下し、腎不全や尿毒症になる場合もある。また、心臓に負担がかかることにより心臓肥大や心不全を引き起こすこともある。
【0003】
日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでは、血圧値に基づいて至適血圧、正常血圧、正常高値血圧、高血圧に分類されており、収縮期血圧(最高血圧)140mmHg以上、又は拡張期血圧(最低血圧)90mmHg以上を高血圧と定義している。血圧は年齢と共に上がる傾向にあり、高血圧患者は全国で3000万人から3500万人と言われており、そのうち約700万人が治療を受けている(平成18年現在)。
【0004】
高血圧患者の数は非常に多いが、現在の医学検査では高血圧の明らかな原因が見つからないものを本態性高血圧と言い、高血圧の90%以上を占めている。残りの10%程度の高血圧は二次性高血圧あるいは症候性高血圧と言い、血圧を上げる原因が見つかっている。二次性高血圧としては、大動脈縮窄症、腎血管性高血圧、腎実質性高血圧、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、大動脈炎症候群、甲状腺機能異常などが挙げられ、それぞれの原因疾患の治療を行うことが血圧の低下に有効である。
【0005】
一方、本態性高血圧は遺伝的な因子や生活習慣などの環境因子が関与しており、例えば過剰な塩分摂取・肥満・過度の飲酒・喫煙・精神的ストレス・自律神経の調節異常・過剰の肉体労働・タンパク質や脂質の不適切な摂取などがある。これらの要因は複雑に影響を及ぼしあっているため高血圧の原因となっている因子を特定することは難しい。従って、本態性高血圧を治療する有効な方法として、降圧剤で血圧を下げるということが中心に行われている。
【0006】
本態性高血圧の原因として考えられる因子のうちで、レニン・アンギオテンシン系は重要な因子と考えられている。このレニン・アンギオテンシン系でアンギオテンシン変換酵素(EC3.4.15.1)は中心的な働きをしている。即ち、肝臓で分泌されたアンギオテンシノーゲンは腎臓に存在するレニンによってアンギオテンシン1となり、アンギオテンシン変換酵素により血管壁平滑筋収縮作用のあるアンギオテンシン2が生成され、血圧が上昇する。さらにアンギオテンシン2は副腎皮質球状層のアルドステロン生成促進作用を有しているために、さらに血圧が上昇する。一方、降圧系では、キニノーゲンが血漿中に存在するカリクレインによって分解され、血管壁平滑筋拡張作用があるブラジキニンが生成されるが、このブラジキニンはアンギオテンシン変換酵素により分解され、不活性化される。従って、このアンギオテンシン変換酵素を阻害すれば昇圧性ペプチドであるアンギオテンシン2の生成を抑制し、降圧性ペプチドであるブラジキニンの分解をも抑制して血圧の降下が可能となる。
【0007】
本態性高血圧の治療としては、アンギオテンシン変換酵素阻害物質を主成分としたアンギオテンシン変換酵素阻害薬が医薬品として実用化されている。また、その他にはアンギオテンシン変換酵素阻害活性を持つペプチドがいくつか発見され、それらアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドを得る方法として、牛乳カゼイン、大豆タンパク質、イワシタンパク質、トウモロコシ、小麦、卵白アルブミンなどの加水分解物からの単離が報告されている。また、特許文献4や非特許文献1では、Aspergillus属糸状菌やMonascus属糸状菌の麹(紅麹)が高血圧の改善に有効であるという報告もある。しかし、非特許文献1では、Aspergillus属糸状菌の降圧効果成分としては、イソフラボン類が指摘され、Monascus属糸状菌の麹では降圧効果成分としてアンギオテンシン変換酵素阻害活性ペプチドの非関与が指摘されている。しかし依然として、降圧効果の作用機序および有効成分は不明であった。また、これらはラットを用いた動物実験の効果であり、ヒトが経口摂取した場合にどのような効果を示すかどうかは不明であった。
【特許文献1】特開平7−70180号公報
【特許文献2】特開2002−247955号公報
【特許文献3】特開平5−331190号公報
【特許文献4】特公平3−31170号公報
【非特許文献1】日本農芸化学会誌Vol.66,No8,p1241〜1246,1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
医療用薬剤としてのアンギオテンシン変換酵素阻害剤は、医師の処方に基づいて使用しなければならなく、さらにその価格が高いという問題がある。また、アンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドを用いる場合、イワシ由来ペプチドや発酵乳のペプチドを用いる場合は、ペプチド自体がえぐ味、雑味を有しており、食品として添加する場合に呈味性の問題がある。さらに、ペプチドで製造したものを摂取しても、胃あるいは膵臓由来の消化酵素に不安定で、小腸吸収時にはアミノ酸に分解され、アンギオテンシン変換酵素阻害活性を消失することも問題である。また、他のペプチドを用いる場合にしても、それぞれ加水分解するなどの処理の必要があり、抽出、分解、遠心、凍結乾燥などの操作が必要となり、これらの操作専用の高額な装置を購入しなければならず、装置の維持費や装置の購入コストがかかるという問題があり、結果として高額な機能性食品素材として販売されている。さらに、食品タンパク質から機能性ペプチドを工業的に生産する場合に、市販のプロテアーゼ酵素剤は各種プロテアーゼ分子の混合物であり、機能性を発揮しうる構造のペプチドとして残存するように反応を停止させることが工業上難しく、アミノ酸まで分解される過分解が報告されている。過分解されたアミノ酸を多く含むペプチドを用いた場合に、アミノ酸の緩衝能が高いために、食品添加物として使用する場合に、pH調節のために過剰な有機酸を添加する必要があり、食品本来の風味を破壊する問題がある。このため、安価に製造購入でき、かつ複雑な製造ステップを必要としないアンギオテンシン変換酵素阻害物質が望まれている。また、麹による降圧作用については、その作用機序及び有効成分が不明であり、有効成分を富化することにより、降圧作用を増強した麹を作成できない問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは鋭意検討の結果、降圧効果をもたらす要因として、Aspergillus属糸状菌の米麹及び米麹水抽出物にアンギオテンシン変換酵素阻害活性があることを見出した。またさらに、米麹中に含まれるタンパク質を人工胃腸消化したペプチドにもアンギオテンシン変換酵素阻害活性があることを見出し、そのペプチドを同定することにも成功した。当該ペプチドは、経口摂取でも、消化酵素に安定で、小腸に直接吸収されうる。さらに、ヒトモニター試験の結果、米麹の摂取により、正常高値血圧〜軽症高血圧である者の血圧が有意に降下することを確かめた。
【0010】
本発明は、上記知見に基づき完成されたもので、以下、降圧効果のある組成物、その組成物を有効成分とする高血圧の予防・治療・改善剤、その組成物を含有し、高血圧を予防または改善するために用いられる旨の表示を付した飲食品などを提供すること、及びそれらの製造方法などに関する。
【0011】
項1. 平均粒子径が3360μm以下であることを特徴とする米麹を有効成分として成る血圧降下作用を持つ組成物。
【0012】
項2. 平均粒子径が500μm以下の粉末であることを特徴とする米麹を有効成分として成る血圧降下作用を持つ組成物。
【0013】
項3. 項1〜2のいずれか1項に記載の米麹を水抽出したものを有効成分として成る血圧降下作用を持つ組成物。
【0014】
項4. 米麹を構成する菌が、Aspergillus oryzae、Aspergillus niger、Aspergillus kawachii、Aspergillus awamori、Aspergillus usamii、Aspergillus saitoi、Aspergillus sojae、Aspergillus glaucus、Aspergillus tamariiのうち、少なくとも1つから成る項1〜3記載の組成物。
【0015】
項5. Aspergillus kawachiiの米麹を水を含む溶媒又は熱水を含む溶媒で抽出したものを有効成分として成る血圧降下作用を持つ組成物。
【0016】
項6. 新規ペプチドVal−Ala−Asn−Asp。
【0017】
項7. 項6記載のペプチドを有効成分として成る血圧降下作用を持つ組成物。
【0018】
項8. 項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を有効成分とする高血圧予防・治療・改善剤。
【0019】
項9. 項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を高血圧予防・治療・改善に使用する方法。
【0020】
項10. 項1から5記載の組成物の製造方法。
【0021】
項11. 米麹をペプシンにより分解して得られる項6記載のペプチドの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の結果、高額で副作用の高い医療用アンギオテンシン変換酵素阻害剤や、高額なアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドとは異なり、安価で製造ステップが容易な米麹を有効成分とする血圧降下作用を有する組成物を産業的に提供、量産できることとなった。また、米麹あるいはその抽出されるペプチドは、過分解や消化酵素耐性に問題があるアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドとは異なり、経口摂取した場合に、胃あるいは膵臓由来の消化酵素に安定なアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドを大量に体内に供給することができる。さらに、胃あるいは膵臓由来の消化酵素に安定なアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドの構造を決定することにより、当該ペプチドを富化増強することにより、従来にないアンギオテンシン変換酵素阻害活性が高い米麹を産業的に提供することが可能となった。また、米麹は平均粒子径の大きさにより、アンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドの抽出量が変化することから、米麹を摂取する上で、最適な平均粒子径を決定することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に記述する。
【0024】
(1)清酒醸造原料を用いた組成物
【0025】
本発明で言う、清酒醸造原料を用いた組成物とは、麹のことを言い、特に米麹のことを言う。米麹の作成法は常法に従って行えばよいが、例えば次のように行うことができる。吸水させた米を水切りし、蒸米器で40分〜80分蒸きょうする。蒸きょうした米に種麹(麹菌の胞子)を接種するが、接種する菌は、黄麹菌と黒麹菌、白麹菌が可能である。白麹菌とは黒麹菌の色素欠失変異体で、遺伝的にはほとんど同種あるいは等価である。黄麹菌としては、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae、Aspergillus tamariiから選ばれるいずれか1つから成るものである。これらは遺伝的に非常に近い菌株であり、それぞれ等価な菌株といえる。また、黒麹菌としては、Aspergillus niger、Aspergillus awamori、Aspergillus usamii、Aspergillus saitoi、Aspergillus glaucus、から選ばれるいずれか1つから成るものである。これらは遺伝的に非常に近い菌株であり、それぞれ等価な菌株といえる。白麹菌としては、Aspergillus kawachiiからなるものである。これについても、Aspergillus niger、Aspergillus awamori、 Aspergillus usamii、Aspergillus saitoi、Aspergillus glaucusなどの黒麹菌と遺伝的に同等であり、黒麹菌と等価な菌株であるといえる。これを恒温恒湿器などの温度制御できる容器で38〜50時間、30℃〜45℃の温度で製麹を行う。これにより作成されたものを米麹と呼ぶ。
【0026】
本発明において本組成物を、降圧効果のある組成物、その組成物を有効成分とする高血圧の予防・治療・改善剤、その組成物を含有し、高血圧を予防または改善するために用いられる旨の表示を付した飲食品などとして用いる。その場合は、本組成物を平均粒子径3360μm以下、より好ましくは平均粒子径2000μm以下,さらに好ましくは平均粒子径1000μm以下、さらに好ましくは平均粒子径500μm以下、さらに好ましくは平均粒子径355μm以下、さらに好ましくは平均粒子径250μm以下、さらに好ましくは平均粒子径150μm以下、さらに好ましくは平均粒子径125μm以下、さらに好ましくは平均粒子径90μm以下、さらに好ましくは平均粒子径63μm以下に粉砕して用いることがより効果的である。
【0027】
また、本発明の組成物は米麹又は粉砕した米麹を抽出などの工程なしに直接使用することもできるし、さらに米麹又は粉砕した米麹からペプチドを水又は適当なバッファーで抽出したものも使用することができる。抽出としては、米麹1に対して水又は適当なバッファー1〜10を加え、数秒から1時間以上撹拌した後にこれを遠心、濾過などで固形物を除く。遠心はバッチ式の遠心又は連続式の遠心など、一般的な遠心分離方法を広く用いることができる。濾過は漏斗と濾紙による通常の濾過、ブフナー漏斗を用いた減圧吸引式の濾過などの濾過方法を広く用いることができる。得られた濾液はその後、限外濾過などで濃縮することもできるし、凍結乾燥やスプレードライで乾燥することもできる。
【0028】
(2)アンギオテンシン変換酵素阻害活性の測定
【0029】
アンギオテンシン変換酵素阻害活性の測定法として最も利用されているCushman&Cheung法を参考に、アンギオテンシン変換酵素により基質から遊離した馬尿酸を、逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィ(HPLC)により直接定量する方法で行った。つまり、適当な濃度(阻害率50%前後となる濃度)のペプチド溶液60μlと、100mMホウ酸バッファー(pH8.3)に溶解した0.1unit/mlアンギオテンシン変換酵素溶液(SIGMA from rabbit lung)30μlを混和し、37℃3分保持する。対照は蒸留水を使用する。これに、さらに100mMホウ酸バッファー(pH8.3)に溶解した最終濃度5mMヒプリルヒスチジルロイシンと最終濃度400mMNaClの基質溶液300μlを加え、37℃30分反応させる。30分後に、3%メタリン酸溶液500μl を加え反応を停止させる。遊離する馬尿酸をHPLCにより定量する。HPLC条件は、カラムがWaters SunFireTM C−18 (150mmX3.0mm、粒子径3.5μm)、バッファーが20mMKH2PO4(pH3.0):メタノール=55:45、流速0.3ml/minを採用した。阻害率は、(対照の遊離馬尿酸−サンプルの遊離馬尿酸)/対照の遊離馬尿酸X100で算出した。また、IC50は阻害率が50%となる反応溶液中(390μl)での阻害物質(サンプル)濃度で算出する。
【0030】
(3)アンギオテンシン変換酵素阻害ペプチド
【0031】
本発明で用いたアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドは次のようにして調製した。
【0032】
ペプチドの抽出に用いる米麹としては、そのままの粒状のものを用いても良いし、ミルなどの加工機を用いて物理的に粉状にしたものも用いることができる。抽出条件としては、米麹1に対して等量以上の容量の水、あるいはバッファーを用いて、室温あるいは加熱して抽出することもできる。好ましくは、加熱する場合に、自己消化を促すために麹由来のプロテアーゼ酵素反応が進行しうる30−60℃の加熱をすることも可能であり、さらに熱湯抽出することも可能である。抽出時間は、数秒から1時間でも可能であるが、1時間以上の抽出も可能である。抽出した溶液を遠心あるいはろ過により、上清を抽出し、その上清を凍結乾燥あるいはスプレードライを用いて乾燥させ、ペプチド標品とすることができる。また、米麹を水あるいはバッファーに浸し、市販のプロテアーゼ酵素剤を添加して、ペプチドを増強することもできる。ペプチドを増やしてから、その上清を遠心、ろ過で抽出し、その上清を凍結乾燥あるいはスプレードライを用いて乾燥させ、ペプチド標品とすることができる。分解に用いるプロテアーゼは、微生物、植物、動物由来の酵素ならいずれも使用でき、例えば、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼのいずれでもよく、例えば、コクラーゼ、サモアーゼ、レンネット、プロテアーゼA「アマノ」G、プロテアーゼM「アマノ」G、プロテアーゼN「アマノ」G、ニューラーゼF3G、パパインW−40、ウマミザイムG、プロメラインF、サモアーゼPC10F、ペプチダーゼR、サーモリシン、モルシンF、スミチームAP、ニュートラーゼ、アクチナーゼASなどの、市販の食品工業用酵素を広く使用できる。
【0033】
(4)発酵組成物を有効成分とする高血圧予防・治療剤
【0034】
本発明の発酵組成物を用いた高血圧予防・治療剤は、そのまま又は薬学的に許容される各種担体(賦形剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、付湿剤、着色剤、矯味矯臭剤らが含まれる)と配合して、適当な製剤とされる。また、この製剤には慣用の添加剤などを混合して医薬組成物として調製できる。
【0035】
製剤形態は、特に限定されず、例えばこの医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、座剤等の非経口投与剤などの各種製剤形態)を挙げることができる。経口投与剤の方が、非経口投与剤に比べて患者への負担が小さいために、使用し易い。
【0036】
賦形剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖等の各種の糖類、バレイショデンプン、コムギデンプン、トウモロコシデンプン等の各種デンプン類、結晶セルロース等の各種セルロース類、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等の各種無機塩類等が挙げられる。
【0037】
結合剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、結晶セルロース、プルラン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
【0038】
崩壊剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、デンプン、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0039】
潤沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油などが挙げられる。
【0040】
付湿剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、ココナッツ油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、大豆リン脂質、グリセリン、ソルビトールなどが挙げられる。
【0041】
矯味矯臭剤としては、通常使用される甘味料、酸味料、香料など公知のものを広く使用でき、例えば、白糖、グルコース、フルクトース、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ケイヒ油、ハッカ油、メントールなどが挙げられる。
【0042】
(5)高血圧予防・治療剤を含む飲食品組成物
【0043】
本発明の高血圧予防・治療剤は食品添加剤として用いることができる。食品添加剤には、本発明の高血圧予防・治療剤の他に、糖類、デンプン類、セルロース、ステアリン酸マグネシウム、植物油などの担体や、添加剤が含まれていてもよい。食品添加剤の剤形は、特に限定されないが、例えば、粉状、顆粒状、液体状のような剤形とすることができる。
【0044】
本発明の組成物は、食品の風味を損ねるような味や匂いを有さない。従って、食品の種類は特に限定されない。例えば、飴、ガム、ケーキ、パイ、クッキー、パン、クラッカー、ゼリー、チョコレート、プディング、アイスクリーム、ポテトチップス、羊羹、煎餅、饅頭、中華饅頭のような菓子;酒類、茶類、コーヒー類、スポーツドリンク類、清涼飲料水、スープ、乳飲料のような飲料;ヨーグルト、バター、チーズのような乳製品;ハム、ソーセージ、蒲鉾、竹輪のような練り物;ソース、ドレッシング、マヨネーズ、醤油、味噌、酢、味醂、トマト加工品(ケチャップ、トマトペースト、トマトピューレ)、カレールウ、酒粕、顆粒だしのような調味料;ふりかけ、漬物、佃煮、塩昆布のような常備惣菜類;惣菜;麺、米飯、粥のような主食類などが挙げられる。また、ペットフードに用いることができる。
【0045】
また、水抽出した本発明の組成物は、飲料や、ソース、ドレッシング、醤油、酢、味醂のような液状調味料などの液状食品に用いることができ、酒類、茶類、コーヒー類、スポーツドリンク類、及び清涼飲料水に用いることがより好ましい。また低pH条件下でも高い水溶性を示すため、マヨネーズやドレッシングのような液状酸性食品の添加剤としても好適に使用できるという利点がある。さらに高温高圧処理に耐えるため、本発明の組成物を添加した食品の加熱加圧滅菌を行えるとともに、レトルト処理のような特殊な製造工程を経ることもできるという利点もある。加えて本組成物は、清酒製造原料を用いたもの、又はそれに含まれているものであることから、その安全性が歴史的に確認されている点でも、食品添加物として好適である。
【0046】
本発明の食品組成物には、その他に、加工食品に通常添加される各種の添加剤が含まれていてもよい。食品組成物の調製に当たり慣用されている各種添加剤を添加配合することができる。添加剤としては、例えば、安定化剤、pH調整剤、糖類、甘味料、香料、各種ビタミン類、ミネラル類、抗酸化剤、賦形剤、可溶化剤、結合剤、滑沢剤、懸濁剤、湿潤剤、皮膜形成物質、矯味剤、矯臭剤、着色料、保存剤等を例示することができる。
【0047】
また、本発明の食品組成物は、高血圧の予防若しくは改善のための栄養補助食品、即ちサプリメントとしても好適に使用できる。この場合の食品組成物中には、本発明の組成物の他に、サプリメントの担体として公知の成分が含まれていればよい。このような担体として、例えば糖類、デンプン類、セルロース、ステアリン酸マグネシウム、植物油が挙げられる。
【0048】
サプリメントの形状は特に限定されないが、例えば、錠剤状、粉状、顆粒状などの形状が挙げられる。
【0049】
(6)ヒトモニター試験
【0050】
米麹の血圧降下作用の確認を、in vivo試験として、ヒトに米麹を摂取させるヒトモニター試験により行う。被験者は正常高値血圧〜軽症高血圧を対象とし、以下1)、2)のいずれか、または両方に当てはまるという条件に適合する者で、降圧剤非使用者かつ喫煙習慣なしである者とし、米麹摂取試験を実施する。
1)収縮期血圧130mmHg以上169mmHg以下
2)拡張期血圧85mmHg以上109mmHg以下
また、当該試験は、ヘルシンキ宣言の趣旨に従い、被験者に対しては研究内容、方法等について十分な説明を行い、文書による同意を得て実施する。
【0051】
モニター試験におけるサンプル摂取に当たっては、本発明により同定された、アンギオテンシン変換酵素阻害活性が確認されたペプチドを使用してもよいが、高血圧予防・治療剤を含む飲食品組成物として実際に摂取する現実的な形態で試験を行うため、単離・精製などの手順を必要としない、血圧降下作用を持つペプチドを含む米麹を用いることの方が好ましい。
【0052】
用いる米麹は血圧降下作用を持つペプチドを含むものであればどれでも構わないが、血圧降下に有効な量を摂取するモニターの負担なども考慮すると、血圧降下の比活性の高いAspergillu kawachiiの米麹を用いることがより望ましい。この時の1日あたりの摂取量はin vitroの試験結果から計算した、5〜30gが好ましいが、より好ましくは10〜20gである。摂取期間は、効果を確認するため、2週間〜6週間が好ましいが、より好ましくは3〜5週間である。
【0053】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
米麹の製麹及び組成物の調製
【0055】
精米歩合70%の粳米6kgを井戸水に浸漬し、一晩置いた後、これを蒸米器で1時間蒸きょうし、30℃まで冷却した後にAspergillus oryzae OT1、Aspergillus oryzae LAB、Aspergillus oryzae KM、Aspergillus oryzae3129−7、Aspergillus oryzae1117、Aspergillus kawachii、Aspergillus oryzae EK、Aspergillus oryzaeスリー、Aspergillus oryzaeM70、Aspergillus oryzae BET、Aspergillus oryzae BF1、Aspergillus sojaeの各種麹をそれぞれ蒸米500gずつに0.5gずつ塗布して蒸米を攪拌し、これを固体培養装置(ヤエガキ社製)に入れた。温度を35℃に調節し、10時間後から30時間後まで時々米麹をかき混ぜ、その後温度を40℃に調節して、固体培養装置に入れてから48時間後に固体培養装置から出して通風乾燥しそれぞれの製麹を終えた。
【0056】
製麹した粒状の米麹あるいはそれを粉砕した粉状の米麹について、該米麹の5倍量の水を加え、室温で2時間撹拌した後に、ブフナー漏斗で減圧濾過し、水不溶物を除去して、米麹の水抽出液を得た。この上清を凍結乾燥して得たエキス粉末をアンギオテンシン変換酵素阻害アッセイに供した。
【実施例2】
【0057】
米麹のアンギオテンシン変換酵素阻害活性の比較
【0058】
実施例1で製麹した米麹の水抽出物の凍結乾燥エキス粉末を3%の水溶液として、これをアンギオテンシン変換酵素阻害アッセイのペプチド溶液として使用した。上記ペプチド溶液60μlと、100mMホウ酸バッファー(pH8.3)に溶解した0.1unit/mlアンギオテンシン変換酵素溶液(SIGMA from rabbit lung)30μlを混和し、37℃3分保持する。対照は蒸留水を使用する。これに、さらに100mMホウ酸バッファー(pH8.3)に溶解した最終濃度5mMヒプリルヒスチジルロイシンと最終濃度400mMNaClの基質溶液300μlを加え、37℃30分反応させる。30分後に、3%メタリン酸溶液500μl を加え反応を停止させる。遊離する馬尿酸をHPLCにより定量する。HPLC条件は、カラムがWaters SunFireTM C−18 (150mmX3.0mm、粒子径3.5μm)、バッファーが20mMKH2PO4(pH3.0):メタノール=55:45、流速0.3ml/minを採用した。阻害率は、(対照の遊離馬尿酸−サンプルの遊離馬尿酸)/対照の遊離馬尿酸X100で算出した。
【0059】
その結果を表1に示す。なお、表1及びこれ以降「A.」とあるのは「Aspergillus」の略記である。
【0060】
【表1】

表1の結果から、今回検討した中でアンギオテンシン変換酵素阻害活性が高い順としては、焼酎麹で用いるA.kawachii、A.oryzae KM、A.oryzae 3129−7、A.sojae 9、A.oryzae OT1だということが分かった。また、同じA.oryzae種であっても、アンギオテンシン変換酵素阻害活性は23.8%から62.9%と、幅広かった。なお、A.oryzaeスリーは清酒醸造用ではなく、醤油醸造用である。また、A.oryzaeの中で阻害活性が高かったA.oryzae 3129−7は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−20961として寄託されている株である。これらのことから、Aspergillus属の麹菌は、種の間、種の中でも阻害の程度に差があるとは言え、アンギオテンシン変換酵素阻害活性を持っていると言える。
【実施例3】
【0061】
各焼酎麹のアンギオテンシン変換酵素阻害活性の比較
【0062】
実施例2で、アンギオテンシン変換酵素阻害活性が最も高かったのが焼酎麹であったことから、各種焼酎麹のアンギオテンシン変換酵素阻害活性を調べた。調べたのは次の麹である。Aspergillus kawachii、Aspergillus sp.、Aspergillus oryzae、Aspergillus awamori。アンギオテンシン変換酵素阻害活性の測定は実施例2の方法に準じて行った。市販の飯米に上記4種類の麹菌を植え、48時間の米麹作成を行った。凍結乾燥した米麹を10倍量の水で10分抽出し、得られた上清を凍結乾燥した。凍結乾燥粉末を3%の水溶液として、これをアンギオテンシン変換酵素阻害アッセイのペプチド溶液として使用した。その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

表2から分かるように、アンギオテンシン変換酵素阻害活性が最も高かったのは、Aspergillus kawachiiであった。次に活性が高かったのはAspergillus sp.であった。その次に活性が高かったのはAspergillus awamoriであった。このことから、最も高いアンギオテンシン変換酵素阻害活性を得るには、Aspergillus kawachiiを用いるのがよいことが分かった。
【実施例4】
【0064】
米麹の粉末化によるアンギオテンシン変換酵素阻害活性への影響
【0065】
米麹から抽出できるペプチド量は、米麹の形態が粒状あるいは粉末状で違いがあるかどうかについて検討した。米麹としては、A.oryzae OT1、A.sojae 9、A.oryzae 3129−7、A.oryzae KM、A.kawachiiのそれぞれの米麹と、対照として米のみをブレンダーで粉末状に粉砕した。これらの粒状又は粉末状とした米麹又は米を10倍量の水で室温1時間抽出し、得られた上清を凍結乾燥させて、3%水溶液のアンギオテンシン変換酵素阻害活性を実施例2の方法に準じて測定した。その結果を図1に示す。
【0066】
その結果、全ての米麹において、粉砕により粉末化した米麹はアンギオテンシン変換酵素阻害活性が上昇しており、活性は粉砕をしない粒状の米麹に比べて約20%増加した。このことから、米麹を粉末化した方がアンギオテンシン変換酵素阻害に有効であることが分かった。
【0067】
上記の結果から、アンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドは、粉末状の米麹から大幅に抽出量が増加することから、粉末の粒子径と抽出されるアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチド量の相関について検討した。凍結乾燥したA.kawachiiの米麹をブレンダーで適当に破砕し、10種類のふるい(開き目(μm):63,90,125,150,250,355,500,1000,2000,3360)にかけ、そのふるいを通した平均粒子径(μm)が『1つ小さいサイズのふるいの開き目<米麹の直径≦ふるいの開き目』となるよう大きさを揃えた。15ml容のチューブに各粉末0.5gと蒸留水5mlを加え、十分に攪拌し、10分間室温にて静置したのち、遠心して得られた上清を1mlサンプリングし、10分間沸騰水中で湯煎したのち遠心して得られた上清を用いて、アンギオテンシン変換酵素阻害活性およびBiuret反応によるトリペプチド以上のペプチド・タンパク質濃度を測定した。
【0068】
ふるいの開き目(μm)、Biuret反応(ペプチド・タンパク質量mg/ml)およびアンギオテンシン変換酵素阻害活性率(%)のうちの2項目をそれぞれの軸にプロットしたもの(対数表示の場合あり)を図2から図4に示す。
【0069】
図2では、ふるいの開き目とペプチド・タンパク質量が累乗近似で示され、図3ではふるいの開き目とアンギオテンシン変換酵素阻害活性率が、図4ではペプチド・タンパク質量とアンギオテンシン変換酵素阻害活性率が対数近似で示される関係であることが明らかとなった。いずれも非常に高い正の相関が認められた。これらは、米麹はより細かい粒として摂取するほうがより効果的に血圧上昇抑制作用が得られることを示している。
【実施例5】
【0070】
米麹の人工胃腸消化試験
【0071】
米麹からアンギオテンシン変換酵素阻害活性を有する機能性ペプチドが大量に抽出できることが明らかとなった。しかし、これらの機能性ペプチドが経口摂取した場合に、胃あるいは膵臓由来の消化酵素により分解され、小腸の吸収時にはアンギオテンシン変換酵素阻害活性を消失している可能性が高い。米麹由来のアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドが経口摂取した場合に、胃あるいは膵臓由来の消化酵素に耐性を有しているかどうかは、実際に生体内でアンギオテンシン変換酵素阻害活性を発揮する上で非常に重要である。
【0072】
米麹としては、実施例2で活性が高いA.kawachii、A.oryzae KM、A.oryzae 3129−7、A.sojae 9、A.oryzae OT1の米麹を凍結乾燥しブレンダーで粉末化したものを使用した。
【0073】
1)粗タンパク質測定
【0074】
消化酵素の使用量を決定するため、各米麹の粗タンパク質含量を常法に従いケルダール法で求めた。
【0075】
2)人工消化試験
【0076】
酵素は、ペプシン(豚胃粘膜由来Pepsin 1:60,000(和光純薬))とパンクレアチン(豚膵臓由来Pancreatin(SIGMA))を用いて、in vitro胃腸消化試験を行った。50mlの三角フラスコに、1.6gの米麹凍結乾燥粉末、蒸留水16mlを加え、0.1N HClでpH2.0に調整した。ペプシンを各サンプルの粗タンパク質量に対して4%となるように添加し、恒温水槽にて60分間、37℃、120rpmで反応させた後、0.9M NaHCO3を約1ml加え、pH6〜7にして反応を停止させた。続いて、1N NaOHでpH7.5に調整した。パンクレアチンを、各サンプルの粗タンパク質量に対して4%となるように添加し、恒温水槽にて120分間、37℃、120rpmで反応させた後、10分間沸騰水中で加熱し反応を停止させた。
【0077】
反応開始直後(t=0ペプシン)からペプシン処理(t=30、60ペプシン)、パンクレアチン処理(t=120、180パンクレアチン)の計5回、1mlずつサンプリングし、3分間沸騰水中で加熱し、遠心後の上清を0.45μmフィルターでろ過し、アンギオテンシン変換酵素阻害活性測定時まで−20℃に冷凍した。ブランクは、酵素を添加せずに各サンプル粉末液を3分間沸騰水中で加熱したものを使用した。
【0078】
粗タンパク質
【0079】
粗タンパク質含量を表3に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
人工消化試験
【0082】
人工消化試験においては、パンクレアチン処理後はすべてのサンプルの粘性は低くなり、タンパク質もデンプン質が分解されたことを示している。
【0083】
表4に各酵素処理時間のアンギオテンシン変換酵素阻害活性を示す。t=0はペプシンを添加してすぐに沸騰水中で加熱したサンプルであるが、わずかな時間でも酵素反応が進み活性ペプチドが増加したと考えられ、ブランクと比較し2倍〜10倍以上阻害活性が上昇した。その後、ペプシンを60分間作用させることで、阻害活性は最大となり、最も強い阻害活性を示したA.kawachii麹では、ブランクと比較し2.4倍の活性増加が認められた(t=60)。一方で、ブランクでは阻害活性の低かったA.sojae 9麹およびA.oryzae OT1麹も、ペプシン処理30分後(t=30)、60分後(t=60)には、焼酎麹に近い強いアンギオテンシン変換酵素阻害活性を示した。その後、60分間のパンクレアチン分解により、阻害活性は1〜2割減少するが(t=120)、さらに60分間パンクレアチン処理を継続しても、それ以上の阻害活性低下は認められなかった(t=180)。
【0084】
ペプシン添加は、ヒトなどの哺乳動物の胃でのタンパク質分解のモデルであり、パンクレアチン添加は同様に小腸でのタンパク質分解のモデルである。以上の結果より、米麹を経口摂取した場合、胃で米麹タンパク質がペプシン分解を受けることで、米麹からアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドの生成が増加し機能性が向上することが示された。さらに、続いて小腸におけるパンクレアチン分解を受けてもアンギオテンシン阻害活性は維持され、機能性ペプチドとして血管内へ吸収される可能性が高いことが示唆された。また、米麹にすることで、麹菌由来のプロテアーゼが米タンパク質の消化分解を助け、機能性ペプチドの生産が効率よく行われることがわかった。
【0085】
【表4】

【実施例6】
【0086】
米麹の熱水抽出の効果
【0087】
米麹からアンギオテンシン変換酵素阻害活性を有する機能性ペプチドを抽出する場合に、抽出に用いる溶媒の温度が影響するかどうかについて検討した。実施例2で作成したA.kawachii、A.oryzae KM、A.oryzae 3129−7、A.sojae 9、A.oryzae OT1の米麹の粉末を、一方は室温の10倍量の水で1分以内に抽出し、他方は10倍量の熱水で1分以内に抽出した。対照として、米のみの抽出を行った。抽出液は不溶成分をろ過後、ろ液を凍結乾燥した。各凍結乾燥物の3%溶液を作成し、実施例2に記載のアンギオテンシン変換酵素阻害活性を算出した。その結果、表5に示すように、A.oryzae KM、A.oryzae 3129−7、A.sojae 9、A.oryzae OT1の米麹は、室温抽出に比べて、熱水抽出では、抽出されるアンギオテンシン変換酵素阻害活性ペプチドの抽出量が減少した。しかし、A.kawachiiの米麹については、室温水抽出に比べて、熱水抽出では、抽出されるアンギオテンシン変換酵素阻害活性ペプチドの抽出量が4.4%増加した。よって、産業的には、A.kawachiiの米麹は、熱水抽出することで、アンギオテンシン変換酵素阻害活性ペプチドを増強できることが示された。また、加熱加工品として摂取してもアンギオテンシン変換酵素阻害活性が維持されることが示された。
【0088】
【表5】

【実施例7】
【0089】
米麹中のアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドの単離と同定
【0090】
米麹の人工胃消化試験で得られるアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドの単離と構造決定を試みた。2日間製麹した焼酎米麹(日本晴70%精米使用)を凍結乾燥後細かく粉砕した米麹粉末80gに対し、蒸留水800ml、1NHClを32ml加えてpH2.0に調整したものを、8本のバッフル付き300ml三角フラスコに分注し、それぞれペプシン25mg(米麹粉末の0.25%)を添加し、37℃、120ストロークで1時間反応させた後、NaOHでpHを7.0 に調整し反応を停止させ、米麹人工胃消化物とした。この消化物を遠心分離した上清を回収し、凍結乾燥させ46gのエキス粉末を得た。この粉末は前回までの試験で、高いアンギオテンシン変換酵素阻害活性が認められ、さらにそのアンギオテンシン変換酵素阻害活性は消化酵素耐性であることが分かっている画分である。上記の米麹の人工胃消化物中のペプチドをオープンタイプのゲルろ過カラムクロマトグラフィー(バイオラッドP−2ゲル)により分画した。分離条件として、カラムは直径1.5cm,高さ75cm、溶媒は10%エタノールで、流速0.08ml/分であった。その後C30の逆相HPLC(野村化学 Develosil C30−UG−5)で、溶媒は0.1%トリフルオロ酢酸を含有する水−アセトニトリル系で、5−100%アセトニトリルのグラジエント分離し、アセトニトリル5%の画分に最も強い活性が確認された。さらにC30の逆相HPLC(野村化学 Develosil C30−UG−5)で、溶媒は0.1%トリフルオロ酢酸を含有する水−メタノール系で、0−30%メタノールのグラジエント分離を行った。その結果、メタノール5−10%で溶出するサンプルに顕著なアンギオテンシン変換酵素阻害活性が検出された。得られたサンプルのペプチドについて、常法であるエドマン分解によるN末端シーケンスを行った結果、ペプチド配列はVal−Ala−Asn−Aspのテトラペプチドであると決定した。
【0091】
得られたペプチド配列Val−Ala−Asn−Aspの標品を合成し、アンギオテンシン変換酵素阻害活性を測定した結果を表6に示した。アンギオテンシン阻害活性は、ペプチド濃度に正比例して増加し、この測定値から、阻害率50%を示す本Val−Ala−Asn−Aspのアンギオテンシン変換酵素阻害活性のIC50は411ppmであることが判明した。
【0092】
【表6】

【実施例8】
【0093】
米麹中のアンギオテンシン変換酵素阻害ペプチドVal−Ala−Asn−Aspのパンクレアチン消化耐性
【0094】
実施例7においては、A.kawachiiの焼酎米麹を人工胃消化試験としてペプシン消化を行い、その消化物の中から、アンギオテンシン変換酵素阻害活性を示すペプチドとして、Val−Ala−Asn−Aspのテトラペプチドを同定した。よって、当該Val−Ala−Asn−Aspのテトラペプチドは、ペプシン消化耐性を有し、経口摂取した場合、胃での消化を受けずに、活性を維持したまま小腸に移行しうるペプチドであるといえる。当該Val−Ala−Asn−Aspのテトラペプチドがパンクレアチン消化耐性を有していれば、活性を維持したまま小腸で吸収されるペプチドであることが立証できる。そこで、当該Val−Ala−Asn−Aspのテトラペプチドのパンクレアチン消化酵素耐性について検証した。
【0095】
サンプルとしては、当該Val−Ala−Asn−Aspの合成ペプチド溶液(20mg/ml)、10mMリン酸バッファー(pH7.5)に溶解させた豚すい臓由来パンクレアチン溶液(SIGMA)(89μg/ml)、10mMリン酸バッファー(pH7.5)を用意した。
【0096】
反応物としては、以下のものを検討した。
ブランク 水10μLと上記パンクレアチン溶液90μL
対照 上記ペプチド溶液10μLと上記リン酸バッファー90μL
試験区 上記ペプチド溶液10μLと上記パンクレアチン溶液90μL
上記検体を37度で反応させ、0、60、120分後に10分間沸騰させ、反応を停止し、アンギオテンシン変換酵素阻害活性の経時変化を測定した。その結果を表7に示した。
【0097】
【表7】

表7の結果においては、ブランクでパンクレアチン由来の自己消化物にアンギオテンシン変換酵素阻害活性が認められることが判明した。当該Val−Ala−Asn−Aspのテトラペプチドのアンギオテンシン変換酵素阻害活性の経時変化のみを対照と試験区において比較するために、試験区からブランクを差し引いた値と対照を表8に記載した。
【0098】
【表8】

表8の結果から、当該Val−Ala−Asn−Aspのテトラペプチドは、パンクレアチンの添加に関わらず、消化反応前と比較して、120分間の消化で15%前後アンギオテンシン変換酵素阻害活性の低下が認められた。しかしながら、表7の結果より、該Val−Ala−Asn−Aspのテトラペプチドとパンクレアチンの混合物のアンギオテンシン変換酵素阻害活性は、120分間のパンクレアチン消化処理によってまったく低下しないことが判明した。すなわち、当該Val−Ala−Asn−Aspのテトラペプチドのアンギオテンシン変換酵素阻害活性は、ペプシン消化耐性を有し、かつパンクレアチン消化によっても総活性が維持されることが明らかとなった。
【0099】
よって、米麹から人工胃消化試験で精製するアンギオテンシン変換酵素阻害活性を有するペプチドの構造を決定することができた。本ペプチドは、米麹の経口摂取で、麹由来のプロテアーゼ、および経口摂取時における胃のペプシン分解などにより得られることから、麹由来のプロテアーゼ耐性を有し、消化管内において安定な小腸吸収時のペプチド構造を示しているといえる。
【実施例9】
【0100】
パン
【0101】
小麦粉100g、イースト3g、砂糖5g、食塩2g、イーストフード0.1g、実施例2記載のA. kawachiiの米麹の粉末3gをよく混ぜて、焼成した。焼成後も、アンギオテンシン変換酵素阻害活性は保持されていた。
【実施例10】
【0102】
クッキー
【0103】
小麦粉100g、バター60g、砂糖270g、全卵140g、食塩3g、実施例2記載のA. kawachiiの米麹の粉末30gをよく混ぜて、焼成した。焼成後も、アンギオテンシン変換酵素阻害活性は保持されていた。
【実施例11】
【0104】
甘酒
【0105】
実施例2記載のA. kawachiiの米麹1に対して水2(1:2)の混和物を、55℃で6時間以上糖化させることにより甘酒を製造した。製造後も、アンギオテンシン変換酵素阻害活性は保持されていた。
【実施例12】
【0106】
ヒトでの血圧降下作用の確認
【0107】
ヒトモニター試験による米麹の血圧降下作用の確認を行った。被験者は正常高値血圧〜軽症高血圧を対象とし、以下1)、2)のいずれか、または両方に当てはまるという条件に適合する男性3名(平均年齢46.7±5.7歳、平均体重72.3±12.7kg、降圧剤非使用者かつ喫煙習慣なし)による米麹摂取試験を実施した。
1)収縮期血圧130mmHg以上169mmHg以下
2)拡張期血圧85mmHg以上109mmHg以下
また、当該試験は、ヘルシンキ宣言の趣旨に従い、被験者に対しては研究内容、方法等について十分な説明を行い、文書による同意を得て実施した。
【0108】
1)試験材料及び方法
実施例4で作成した、凍結乾燥したA.kawachiiの米麹をブレンダーで適当に破砕し、ふるい(目開き(μm):500)にかけた粉末を使用した。1日あたり前記粉末15gの摂取を4週間毎日継続した。摂取法は、一日の摂取量を守れば、摂取時間・回数は自由であり、水または嗜好飲料に混ぜたり、他の食品と一緒に食べたりしても構わない条件とした。
【0109】
2)血圧測定
血圧測定には、テルモ社電子血圧計P2000を使用した。血圧測定は、摂取試験開始の1週間前、摂取期間4週間の毎週、及び摂取試験終了から1週間後に行った。
【0110】
3)測定結果
各3名の収縮期血圧を図5に示した。3名ともに、摂取試験開始から4週目までに降下する傾向がみられ、摂取試験終了後1週間は上昇する傾向がみられた。また、その平均値についても図6に示したように、摂取試験開始から4週目までに降下する傾向がみられ、摂取試験終了後1週間は上昇する傾向がみられた。
【0111】
次に、各3名の拡張期血圧を図7に示した。3名ともに、摂取試験開始から4週目までに降下する傾向がみられ、摂取試験終了後は上昇する傾向がみられた。また、その平均値についても図8に示したように、摂取試験開始から4週目までに降下する傾向がみられ、摂取試験終了後1週間は上昇する傾向がみられた。また、図9に示すように、摂取試験開始から4週目の拡張期血圧の平均値は、摂取試験開始1週間前の拡張期血圧の平均値と比較して、有意に降下していることが示された(p<0.05)。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】焼酎麹のアンギオテンシン変換酵素阻害活性の比較を示した図である。
【図2】米麹の粉末の平均粒子径と水溶性タンパク質・ペプチド含量の相関を示した図である。
【図3】米麹粉末の粒径とACE阻害活性の相関を示した図である。
【図4】水溶性タンパク質・ペプチド含量とACE阻害活性の相関を示した図である。
【図5】各人の米麹摂取による収縮期血圧の変化を示した図である。
【図6】米麹摂取による収縮期血圧の変化の平均を示した図である。
【図7】各人の米麹摂取による拡張期血圧の変化を示した図である。
【図8】米麹摂取による拡張期血圧の変化の平均を示した図である。
【図9】米麹摂取前と摂取4週間後の拡張期血圧の平均を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が3360μm以下であることを特徴とする米麹を有効成分として成る血圧降下作用を持つ組成物。
【請求項2】
平均粒子径が500μm以下の粉末であることを特徴とする米麹を有効成分として成る血圧降下作用を持つ組成物。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか1項に記載の米麹を水抽出したものを有効成分として成る血圧降下作用を持つ組成物。
【請求項4】
米麹を構成する菌が、Aspergillus oryzae、Aspergillus niger、Aspergillus kawachii、Aspergillus awamori、Aspergillus usamii、Aspergillus saitoi、Aspergillus sojae、Aspergillus glaucus、Aspergillus tamariiのうち、少なくとも1つから成る請求項1〜3記載の組成物。
【請求項5】
Aspergillus kawachiiの米麹を水を含む溶媒又は熱水を含む溶媒で抽出したものを有効成分として成る血圧降下作用を持つ組成物。
【請求項6】
新規ペプチドVal−Ala−Asn−Asp。
【請求項7】
請求項6記載のペプチドを有効成分として成る血圧降下作用を持つ組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を有効成分とする高血圧予防・治療・改善剤。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物を高血圧予防・治療・改善に使用する方法。
【請求項10】
請求項1から5記載の組成物の製造方法。
【請求項11】
米麹をペプシンにより分解して得られる請求項6記載のペプチドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−247888(P2008−247888A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39965(P2008−39965)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】