説明

粉末状水溶性高分子

【課題】
下水処理場における下水余剰汚泥や下水消化汚泥のように繊維分の少ない所謂難脱水汚泥に対し、脱水ケーキ含水率低下の要求を満足し、同時に架橋あるいは分岐した水溶性高分子の難点とされる薬剤添加量の増加にも対応でき、コスト増加を抑制可能な汚泥脱水剤を提供する。
【解決手段】
定義1で表示される電荷内包率50%以上90%以下の水溶性カチオン性高分子(A)、水溶性両性高分子(B)および酸性物質(C)を組み合わせた粉末状水溶性高分子であって、前記水溶性カチオン性高分子(A)は、特定の単量体と高分子構造改質剤からなる共重合物であり、前記水溶性両性高分子(B)は、高分子構造改質剤の非存在下で重合した共重合物であり、これら水溶性高分子の配合物によって達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末水溶性高分子に関するものであり、詳しくは特定の構造を有する単量体、および架橋性単量体を必須として含有する単量体混合物を分散相とし、水に非混和性の有機液体を連続相となるように界面活性剤により乳化し重合した後、得られる油中水型エマルジョンを乾燥した水溶性カチオン性高分子の粉末であって、前記水溶性カチオン性高分子の電荷内包率が50%以上、90%以下である水溶性カチオン性高分子粉末(A)と、特定の構造を有する単量体を必須として含有し、架橋性単量体を含有しない単量体混合物を分散相とし、水に非混和性の有機液体を連続相となるように界面活性剤により乳化し重合した後、得られる油中水型エマルジョンを乾燥した水溶性両性高分子粉末(B)、および酸性物質(C)の混合物からなる粉末状水溶性高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水、し尿等で生じる有機性汚泥の脱水に対しては、カチオン性高分子凝集剤が広く使用され、その後両性高分子凝集剤が提案されている(特許文献1)。近年では下水処理場が脱水ケーキの含水率低下を要求する傾向が強く、上記の単なるカチオン性あるいは両性高分子では対応ができない状況である。また下水余剰汚泥や下水消化汚泥のように繊維分の少ない所謂難脱水汚泥では、特別の性能を要する凝集剤が必要になり、二種以上配合凝集剤が提案される所以である。
【0003】
例えば特許文献2は、メタアクリル系カチオンポリマー(A)と(メタ)アクリル系両性ポリマーが、特許文献3ではカチオン性高分子(A)と、酸基の3〜30モル%がアルカリにより中和されてなるアニオン性単量体単位を含む両性高分子(B)の配合が開示されている。これらは上記謂難脱水汚泥の処理を意図したものであるが、下水処理場の脱水ケーキ含水率低下の要求には到底満足されるものではない。また上記謂難脱水汚泥には、架橋あるいは分岐した水溶性高分子が有効とされているが(特許文献4など)、薬剤添加量が増加し処理コストを押し上げるのが問題となっている。薬剤添加量増大の解決策として架橋あるいは分岐した水溶性高分子と架橋あるいは分岐しない水溶性高分子の配合が開示されているが(特許文献5)、どのような架橋度の水溶性高分子を難脱水汚泥に適用すれば良いのかまでは記載されていない。
【特許文献1】特開昭63−260928号公報
【特許文献2】特開平8−112504号公報
【特許文献3】特開2000−218297号公報
【特許文献4】特開平9−225499号公報
【特許文献5】特開2004−057837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、下水処理場における下水余剰汚泥や下水消化汚泥のように繊維分の少ない所謂難脱水汚泥に対し、脱水ケーキ含水率低下の要求を満足し、
同時に架橋あるいは分岐した水溶性高分子の難点とされる薬剤添加量の増加にも対応でき、コスト増加を抑制可能な汚泥脱水剤を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため鋭意検討をした結果、以下に述べる発明に到達した。すなわち請求項1の発明は、下記一般式(1)および/又は下記一般式(2)で表わされる単量体、および架橋性単量体を必須として含有する単量体混合物を分散相とし、水に非混和性の有機液体を連続相となるように界面活性剤により乳化し重合した後、得られる油中水型エマルジョンを乾燥した水溶性カチオン性高分子の粉末であって、前記水溶性カチオン性高分子の下記定義1で表示される電荷内包率が50%以上、90%以下である水溶性カチオン性高分子粉末(A)と、下記一般式(1)および/又は下記一般式(2)で表わされる単量体、下記一般式(3)で表わされる単量体を必須として含有し、架橋性単量体を含有しない単量体混合物を分散相とし、水に非混和性の有機液体を連続相となるように界面活性剤により乳化し重合した後、得られる油中水型エマルジョンを乾燥した水溶性両性高分子粉末(B)、および酸性物質(C)の混合物からなる粉末状水溶性高分子である。
定義1)水溶性カチオン性高分子
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αは酢酸にてpH4.0に調整した水溶性カチオン性高分子水溶液をポリビニルスルホン酸カリウム水溶液にて滴定した滴定量。βは酢酸にてpH4.0に調整した水溶性カチオン性高分子水溶液にポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を前記水溶性カチオン性高分子の電荷の中和を行うに十分な量加え、その後ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量をブランク値から差し引いた滴定量。ここでブランク値とは、水溶性カチオン性高分子水溶液無添加時にポリビニルスルホン酸カリウム水溶液をポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量である。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、あるいはベンジル基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。AはOまたはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化2】

一般式(2)
、Rは水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化3】

は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Y、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
【0006】
請求項2の発明は、前記粉末状水溶性高分子中の酸性物質の含有量が、前記粉末状水溶性高分子を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを4以下にする量であることを特徴とする請求項1に記載の粉末状水溶性高分子である。
【0007】
請求項3の発明は、前記水溶性カチオン性高分子(A)と前記水溶性両性高分子(B)の質量混合比が、(A):(B)=60〜90:40〜10であることを特徴とする請求項1に記載の粉末状水溶性高分子である。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の粉末状水溶性高分子を汚泥脱水剤として使用することを特徴とする粉末状水溶性高分子の使用方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉末状水溶性高分子の処理対象として推奨される汚泥は、消化汚泥や余剰汚泥など繊維分の少ない汚泥である。これら繊維分の少ない汚泥に対しては、いわゆる直鎖状水溶性高分子は汚泥脱水機に掛かるような強固なフロックを形成しにくい。すなわち直鎖状水溶性高分子は、水中に分子が広がった状態で存在する。重合系のような高分子量のカチオン性水溶性高分子の凝集作用は、「架橋吸着作用」による多数懸濁粒子を水溶性高分子の分子鎖による結合作用で起きると考えられる。しかし直鎖状水溶性高分子は伸びた状態にあり、そこに懸濁粒子を吸着させ生成した凝集フロックは、大きいがふわふわして強固になりにくい。強度を増すため添加量を増加していってもフロックの改善はない。その原因は、伸びた状態にあるため生成した凝集フロックとの接触サイトが多く、その凝集フロックにさらに直鎖状水溶性高分子が吸着して、その結果見かけ上の電荷的飽和になりやすい。攪拌強度を増加させ生成フロックを破壊し新しい吸着面を作ればよいが、破壊し小さくしたフロック表面にはまた直鎖状水溶性高分子が吸着して、小さくはなるが強度の弱いことには変わりはない。この時繊維分の多い汚泥では繊維がフロックの補強剤となるが、繊維分の少ない汚泥では、結局強固なフロックは生成しない。
【0010】
これに対し架橋性水溶性高分子は、架橋することによって水中における分子の広がりが抑制される。そのためにより「密度の詰まった」分子形態として存在し、さらに架橋が進めば水膨潤性の微粒子となる。通常高分子凝集剤として使用されるのは、前記の「密度の詰まった」分子形態である場合が効率的とされる。架橋性水溶性高分子が汚泥中に添加されると懸濁粒子に吸着し、粒子同士の接着剤として作用し結果として粒子の凝集が起こる。この時「密度の詰まった」分子形態であるため粒子表面と多点で結合し、より締った強度の高いフロックを形成すると推定される。多点で結合することは、懸濁粒子への吸着性能が優れ、そのため未吸着の水溶性高分子が少なく、汚泥中に遊離せず汚泥粘性の増加が発生しない。また水中における分子の広がりが抑制されるため、まるまった形態をした分子の内側に存在するカチオン性基は、懸濁粒子の電荷中和には寄与せず、見かけ上カチオン化度の低い分子として作用し、電荷的飽和による再分散作用は少なくなる。結果として小さなサイズで絞まった強固なフロックが形成され機械脱水時、水切れが良くケーキ含水率が低下すると考えられる。
【0011】
水溶性両性高分子は、分子内にカチオン性基とアニオン性基を有するためにこの分子を吸着し凝集した凝集粒子同士の結合もあり、さらに水溶性カチオン性高分子によって生成した凝集粒子同士の結合役もあり、その分水溶性カチオン性高分子単独の場合よりも添加量が節約できると考えられる。水溶性両性高分子の主な役割は、分子同士あるいは凝集粒子同士の仲立ちと、カチオン性基とアニオン性基によるカチオン性過多になるのを防ぎ、凝集性能低下の防止と考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
はじめに電荷内包率50%以上90%以下である水溶性カチオン性高分子(A)に関して説明する。電荷内包率は、以下のように定義される。すなわち
定義1)水溶性カチオン性高分子
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αは酢酸にてpH4.0に調整した水溶性カチオン性高分子をポリビニルスルホン酸カリウム水溶液にて滴定した滴定量。βは酢酸にてpH4.0に調整した水溶性カチオン性高分子水溶液にポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を前記水溶性カチオン性高分子の電荷の中和を行うに十分な量加え、その後ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量をブランク値から差し引いた滴定量。ここでブランク値とは、水溶性カチオン性高分子水溶液無添加時にポリビニルスルホン酸カリウム水溶液をポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量である。
【0013】
すなわち電荷内包率の高い水溶性高分子は、架橋が高まった水溶性高分子であり、電荷内包率の低い水溶性高分子は、架橋が少ない水溶性高分子であると言える。この理由は、以下の通りに説明される。直鎖状水溶性高分子は、希薄溶液中では、分子はほぼ「伸びきった」形状をしている。一方、架橋性水溶性高分子は、溶液中において粒子状の丸まった形状をしていて、粒子状の内部に存在するイオン性基は、外側には現われにくく、反対電荷との反応も緩慢に起こると考えられる。
【0014】
前記滴定量αは、試料である架橋性水溶性カチオン性高分子に反対電荷を有するポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を滴下して行き、水溶性カチオン性高分子の「表面」(粒子状の表面部)に存在するイオン性基にイオン的静電反応を行わせる操作を意味する。
【0015】
次に架橋性水溶性カチオン性高分子の理論的な電荷量を中和するに十分な量以上の反対電荷を有するポリビニルスルホン酸カリウムを添加し、反応時間を十分取ったその後、余剰のポリビニルスルホン酸カリウムをジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液により滴定する。また別に架橋性水溶性カチオン性高分子を添加しないでポリビニルスルホン酸カリウム溶液をジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液により滴定し、ブランク値を出しておき、ブランク値より架橋性水溶性カチオン性高分子を添加した場合の滴定量を差し引き、この値がβとなる。β値は、架橋性水溶性カチオン性高分子の化学組成から計算される理論的な電荷量に相当すると考えられる。すなわち架橋性カチオン性水溶性高分子に対し、反対電荷が多量に存在するので、表面のカチオン性電荷だけでなく、内部の電荷まで静電的な中和反応が行われると考えられる。架橋度が高ければ、αはβに対し小さくなり、(1−α/β)値は、1に比べ大きくなり電荷内包率は大きい(すなわち架橋の度合いは高くなる)。
【0016】
本発明では上記のような電荷内包率を有する架橋性水溶性カチオン性高分子(A)を製造するため重合時あるいは重合後、構造変性剤として架橋性単量体を単量体総量に対し0.0005〜0.0050モル%、また好ましくは0.0008〜0.002モル%存在させる。架橋性単量体の例としては、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルアミン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸―1,3−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、N−ビニル(メタ)アクリルアミド、N−メチルアリルアクリルアミド、アクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アクロレイン、グリオキザール、ビニルトリメトキシシランなどがあるが、この場合の架橋剤としては、水溶性ポリビニル化合物がより好ましく、最も好ましいのはN,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミドである。またギ酸ナトリウム、イソプロピルアルコール等の連鎖移動剤を併用して使用することも架橋性を調節する手法として効果的である。
【0017】
水溶性カチオン性高分子(A)を製造するため使用するカチオン性単量体は、
前記一般式(1)及び/又は一般式(2)で表わされる単量体を必須として含有する単量体あるいは単量体混合物を重合したものである。カチオン性単量体の例は、第4級アンモニウム塩あるいは第3級アミンの塩を含有するカチオン性単量体である。具体例としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートの塩などが挙げられる。前記一般式(2)で表される単量体は、ジアリルアンモニウム塩であり、具体的にはジアリルジメチルアンモニウム塩化物、ジアリルメチルベンジルアンモニウム塩化物などである。
【0018】
上記水溶性カチオン性高分子(A)は、非イオン性単量体との共重合体でも使用可能であり、非イオン性単量体は、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0019】
本発明で使用する水溶性両性高分子(B)は、上記カチオン性単量体とアニオン性単量体を必須として含有する単量体混合物を重合して得ることができる。
アニオン性単量体の例は、アクリル酸、メタアクリル酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、マレイン酸、イタコン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、エチレングリコールメタクリレートホスフェートなどが挙げられる。
【0020】
油中水滴型エマルジョンを乾燥した水溶性カチオン性高分子(A)および水溶性両性高分子(B)の粉末は、以下のようにして製造することができる。すなわち具体的な乾燥方法としては、噴霧乾燥機中に油中水滴型エマルジョン状液体を噴霧し、乾燥する方法がある。これは操作が簡便であり容易であるが、粒径が細かくなり、更に粒径調節の加工が必要である。また油中水滴型エマルジョン状液体を直接乾燥機に入れ、一定時間乾燥し、塊状物を粉砕する方法もある。この方法は、乾燥温度や乾燥時間の管理に注意する必要がある。乾燥時間を長くしすぎる場合、あるいは乾燥温度が高すぎる場合などは、水溶性高分子の架橋反応が進み過ぎて水に溶解しなくなることがある。
【0021】
本発明の粉末状水溶性高分子は、0.1質量%濃度の水溶液とした時の水溶液pHが通常4.0以下、好ましくは3.0以下である。水溶液pHが4.0を上回ると十分な性能が得られない。そのため酸性物質を配合する。この理由は二つある。すなわち両性水溶性高分子を配合するため溶液pHが約5〜約9の範囲でイオンコンプレックスを形成し溶液が白濁する。このイオンコンプレックスが生成した状態で汚泥など処理対照に添加すると、性能が低下するためである。またpHが5付近より高い範囲では本発明で使用する(メタ)アクリル系水溶性高分子が加水分解を受け、劣化しやすくなる。0.1質量%濃度というのは、処理対照に添加する場合の下限に近い溶液濃度である。これら現象を防止するため水溶液のpHは4以下にすることが好ましい。
【0022】
このような酸性物質の例として、無機あるいは有機の酸として塩酸、硫酸、酢酸、スルファミン酸、クエン酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸などである。これら酸性物質の添加量として水溶性高分子の固形分換算として、5〜20質量%であり、好ましくは7〜15質量%であり、0.1質量%濃度に溶解してもpHが4以下を確保できる。
【0023】
本発明の粉末状水溶性高分子は、上記で定義したように比較的高度に架橋した
水溶性カチオン性高分子(A)および直鎖状水溶性両性高分子(B)、それに酸性物質(C)の配合物からなる。また本発明の粉末状水溶性高分子の処理対象として推奨される汚泥は、消化汚泥や余剰汚泥など繊維分の少ない汚泥である。
これら繊維分の少ない汚泥に対しては、いわゆる直鎖状水溶性高分子は汚泥脱水機に掛かるような強固なフロックを形成しにくい。すなわち直鎖状水溶性高分子は、水中に分子が広がった状態で存在する。重合系のような高分子量のカチオン性水溶性高分子の凝集作用は、いわゆる「架橋吸着作用」による多数懸濁粒子を水溶性高分子の分子鎖による結合作用で起きると考えられている。しかし直鎖状水溶性高分子は伸びた状態にあり、そこに懸濁粒子を吸着させ生成した凝集フロックは、大きいがふわふわして強固になりにくい。強度を増すため添加量を増加していってもフロックの改善はない。その原因は、伸びた状態にあるため生成した凝集フロックとの接触サイトが多く、その凝集フロックに
さらに直鎖状水溶性高分子が吸着して、その結果見かけ上の電荷的飽和になりやすい。攪拌強度を増加させ生成フロックを破壊し新しい吸着面を作ればよいが、破壊し小さくしたフロック表面にはまた直鎖状水溶性高分子が吸着して、小さいが強度の弱いことには変わりはない。この時繊維分の多い汚泥では繊維がフロックの補強剤となるが、繊維分の少ない汚泥では、結局強固なフロックは生成しない。
【0024】
これに対し架橋性水溶性高分子は、架橋することによって水中における分子の広がりが抑制される。そのためにより「密度の詰まった」分子形態として存在し、さらに架橋が進めば水膨潤性の微粒子となる。通常高分子凝集剤として使用されるのは、前記の「密度の詰まった」分子形態である場合が効率的とされる。架橋性水溶性高分子が汚泥中に添加されると懸濁粒子に吸着し、粒子同士の接着剤として作用し結果として粒子の凝集が起こる。この時「密度の詰まった」分子形態であるため粒子表面と多点で結合し、より締った強度の高いフロックを形成すると推定される。多点で結合することは、懸濁粒子への吸着性能が優れ、そのため未吸着の水溶性高分子が少なく、汚泥中に遊離せず汚泥粘性の増加が発生しない。また電荷内包率のところで説明したようにまるまった形態をした分子の内側に存在するカチオン性基は、懸濁粒子の電荷中和には寄与せず、見かけ上カチオン化度の低い分子として作用し、カチオン性飽和による再分散作用は少なくなる。結果として小さなサイズで絞まった強固なフロックが形成され機械脱水時、水切れが良くケーキ含水率が低下すると考えられる。
【0025】
上記現象は、水溶性カチオン性高分子を単独で使用した場合の基本的な作用でありで、添加量的には直鎖高分子より添加量が増加しコスト的には不利である。そこで本発明においては、両性水溶性高分子を配合している。水溶性両性高分子は、分子内にカチオン性基とアニオン性基を有するためにこの分子を吸着し凝集した凝集粒子同士の結合もあり、さらに水溶性カチオン性高分子によって生成した凝集粒子同士の結合役もあり、その分水溶性カチオン性高分子単独の場合よりも添加量が節約できると考えられる。水溶性両性高分子の主な役割は、
分子同士あるいは凝集粒子同士の仲立ちと、カチオン性基とアニオン性基によるカチオン性過多になるのを防ぎ、凝集性能低下の防止と考えられる。
【0026】
本発明の粉末状水溶性高分子を使用した場合の推奨の脱水機は、スクリュープレスや回転式圧縮濾過機など初期の濾過工程において圧搾、せん断などの作用をフロックが受けるため被処理原水の濾過性も処理状態を決める重要な因子と考えられる。従って架橋性水溶性高分子を添加してより締った強度の高いフロックを形成することは、初期の濾過工程において迅速な濾過性を有し、以後の圧搾、せん断への作用を効率よく行なうことが可能である。フロックが締った強度の高いものが形成されていると言うことは、圧搾、せん断によってフロックが破壊せず脱水されるべき「水の通り道」が確保され脱水作用が効率よく行なわれることを意味する。その結果従来の水溶性高分子にくらべ脱水ケーキ含水率も低下すると推定される。
【0027】
本発明の粉末状水溶性高分子は、推奨する対象汚泥は、下水の処理で生じる有機性汚泥である下水消化汚泥や余剰汚泥である。通常0.1〜0.3質量%水溶液として添加される。
【0028】
本発明における水溶性カチオン性高分子(A)と水溶性両性高分子(B)の質量混合比は、(A):(B)=60〜90:40〜10であり、好ましくは(A):(B)=60〜80:40〜20である。この理由は、上記の凝集機構で考察したように水溶性両性高分子(B)は、水溶性カチオン性高分子(A)の改良剤として働き、架橋性水溶性高分子の添加量増加を抑制するなど作用が期待されるからである。
【0029】
また、本発明の粉末状水溶性高分子は、単独で汚泥脱水に使用しても良いが、脱水効果面からより好ましいのは、鉄塩、アルミ塩等の無機多価金属塩と併用する方法である。該無機多価金属塩としては、塩鉄、硫鉄、ポリ鉄、PAC、硫酸バンド、石灰などが挙げられる。汚泥に対する本発明の水溶性高分子組成物の添加量は、通常汚泥固形分に対し0.3〜2質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%である。また、併用される無機多価金属塩の添加量は、通常汚泥固形分に対し0.2〜0.6質量%である。
【0030】
使用する脱水機の種類は、デカンター、スクリュープレス、ベルトプレス、ロータリープレスなど通常の脱水機が可能である。
【0031】
(実施例)以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
(合成例1)攪拌機および温度制御装置を備えた反応槽に沸点190°Cないし230°Cのイソパラフィン126.0gにソルビタンモノオレート6.0g及びポリリシノ−ル酸/ポリオキシエチレンブロック共重合物0.6gを仕込み溶解させた。アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMQと略記)80%水溶液183.8g、アクリルアミド(AAMと略記)50%水溶液107.9g、メチレンビスアクリルアミド0.1質量%水溶液1.2g(対単量体0.0015質量%)、イソプロパノール1質量%水溶液1.0g(対単量体0.05質量%)および脱イオン水69.8gを採取し、各々仕込み混合し完全に溶解させた。その後水溶液相のpHを4.02に調節し、油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて1000rpmで15分間攪拌乳化した。この時の単量体組成は、DMQ/AAM=50/50(モル%)である。
【0033】
得られた単量体溶液エマルジョンの温度を30〜33℃に保ち、窒素置換を30分行った後、2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物の1質量%水溶液2.0g(対単量体0.01質量%)を加え、重合反応を開始させた。反応温度を32±2℃で12時間重合させ反応を完結させた。これを試料−1とした。得られた試料をミューテック社製PCD滴定装置により電荷内包率を測定し、また光散乱法による重量平均分子量は740万であった。同様な操作によりDMQ/AAM=80/20(モル%、試作−2)、DMC/AAM=70/30(モル%、試作−3)からなる油中水型エマルジョンを合成した。結果を表1に示す。
【0034】
(合成例2)攪拌機および温度制御装置を備えた反応槽に沸点190°Cないし230°Cのイソパラフィン126.0gにソルビタンモノオレート6.0g及びポリリシノ−ル酸/ポリオキシエチレンブロック共重合物0.6gを仕込み溶解させた。別に脱イオン水58.0gとアクリル酸(AACと略記)60%水溶液19.7gを混合し、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMQと略記)80%水溶液119.1g、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物(以下DMCと略記)80%水溶液42.6g、アクリルアミド(AAMと略記)50%水溶液116.4gを採取し、各々を混合し完全に溶解させた。その後水溶液相のpHを3.95に調節し、油と水溶液を混合し、ホモジナイザーにて1000rpmで15分間攪拌乳化した。この時の単量体組成は、DMC/DMQ/AAC/AAM=10/30/10/50(モル%)である。
【0035】
得られたエマルジョンにイソプロピルアルコール10質量%水溶液2.0g(対単量体0.1質量%)を加え、単量体溶液の温度を30〜33℃に保ち、窒素置換を30分行った後、2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物の1質量%水溶液2.0g(対単量体0.01質量%)を加え、重合反応を開始させた。反応温度を32±2℃で12時間重合させ反応を完結させた。これを試料−4とした。得られた試料をミューテック社製PCD滴定装置により電荷内包率を測定し、また光散乱法による重量平均分子量は約650万であった。同様な操作によりDMQ/AAC/AAM=70/10/20(モル%、試作−5)、DMC/AAC/AAM=50/10/40(モル%、試作−6)からなる油中水型エマルジョンを合成した。結果を表1に示す。
【0036】
(粉末品の合成)
油中水型エマルジョン試作−1〜試作−6に関し、噴霧乾燥機を用いてスプレードライ製粉末を作成した(試作−11〜試作−16)。また油中水型エマルジョン試作−1〜試作−6に関し、油中水型エマルジョンを分散液の状態で乾燥機に入れ、乾燥物にした後、粉砕し粉末製品を作成した(試作−17〜試作−22)。以上の結果をまとめて表1に示す。
【0037】
(表1)

DMQ:アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物
DMC:メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物
AAM:アクリルアミド、AC:アクリル酸、酸性物質(C):水溶性高分子全量に対する質量%、電荷内包率:%、
【実施例1】
【0038】
(粉末状水溶性高分子の調製)
下記表1で示される物性を有する水溶性カチオン性高分子(A)水溶性両性高分子(B)および酸性物質としてスルファミン酸(C)を、表1で示される比率で配合した水溶性高分子組成物を調製した。なお酸性物質(C)の添加量は、水溶性高分子の合計量に対する質量%により表わされている。配合後の結果を表2に示す。
【0039】
(表2)

【実施例2】
【0040】
下水混合生汚泥(pH6.52、ss分24,500mg/L)を用い、本発明の粉末状水溶性高分子を用い汚泥脱水試験を実施した。200mLをポリビ−カ−に採取し、表2の試料−30〜試料−35をそれぞれ対汚泥SS分1.25%(懸濁粒子質量%)加え、ビ−カ−移し替え攪拌20回行った後、T−1179Lの濾布(ナイロン製)により濾過し、50秒間の濾液量の測定、及びフロック強度(大きさ)を目視により測定した。その後50秒間濾過した汚泥をプレス圧3Kg/m2で1分間脱水する。その後、濾布剥離性を目視によりチェックし、ケ−キ含水率(105℃で20hr乾燥)を測定した。結果を表2に示す。
【0041】
(比較試験1)
実施例2と同様な操作により、配合前の試料−11〜試料−13、試料−17〜試料−19に関して試験を実施した。結果を表3に示す。
【0042】
表3において、配合前の試料−11〜試料−13、試料−17〜試料−19に較べ、本発明のカチオン性水溶性高分子粉末(A)、水溶性両性高分子粉末(B)および酸性物質(C)からなる粉末状水溶性高分子試料−30〜試料−35が脱水性能および濾水性とも優れた効果を示していることがわかる。
【0043】
(表3)

ケーキ含水率:質量%、添加量:対ss質量%、50秒間濾液量:mL
フロック大きさ:mm
【実施例3】
【0044】
し尿余剰汚泥(pH7.01、ss分20,000mg/L)を用い、本発明の粉末状水溶性高分子を用い汚泥脱水試験を実施した。200mLをポリビ−カ−に採取し、表2の試料−36〜試料−41をそれぞれ対汚泥SS分1.30%(懸濁粒子質量%)加え、ビ−カ−移し替え攪拌20回行った後、T−1179Lの濾布(ナイロン製)により濾過し、50秒間の濾液量の測定、及びフロック強度(大きさ)を目視により測定した。その後50秒間濾過した汚泥をプレス圧3Kg/m2で1分間脱水する。その後、濾布剥離性を目視によりチェックし、ケ−キ含水率(105℃で20hr乾燥)を測定した。結果を表4に示す。
【0045】
(比較試験2)
実施例3と同様な操作により、配合前の試料−11〜試料−13、試料−17〜試料−19に関して試験を実施した。結果を表4に示す。
【0046】
表4において、配合前の試料−11〜試料−13、試料−17〜試料−19に較べ、本発明のカチオン性水溶性高分子粉末(A)、水溶性両性高分子粉末(B)および酸性物質(C)からなる粉末状水溶性高分子試料−36〜試料−41が脱水性能および濾水性とも優れた効果を示していることがわかる。
【0047】
(表4)


ケーキ含水率:質量%、添加量:対ss質量%、50秒間濾液量:mL
フロック大きさ:mm

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)および/又は下記一般式(2)で表わされる単量体、および架橋性単量体を必須として含有する単量体混合物を分散相とし、水に非混和性の有機液体を連続相となるように界面活性剤により乳化し重合した後、得られる油中水型エマルジョンを乾燥した水溶性カチオン性高分子の粉末であって、前記カチオン性水溶性高分子の下記定義1)で表示される電荷内包率が50%以上、90%以下である水溶性カチオン性高分子粉末(A)と、下記一般式(1)および/又は下記一般式(2)で表わされる単量体、下記一般式(3)で表わされる単量体を必須として含有し、架橋性単量体を含有しない単量体混合物を分散相とし、水に非混和性の有機液体を連続相となるように界面活性剤により乳化し重合した後、得られる油中水型エマルジョンを乾燥した水溶性両性高分子粉末(B)、および酸性物質(C)の混合物からなる粉末状水溶性高分子。
定義1)水溶性カチオン性高分子
電荷内包率[%]=(1−α/β)×100
αは酢酸にてpH4.0に調整した水溶性カチオン性高分子水溶液をポリビニルスルホン酸カリウム水溶液にて滴定した滴定量。βは酢酸にてpH4.0に調整した水溶性カチオン性高分子水溶液にポリビニルスルホン酸カリウム水溶液を前記水溶性カチオン性高分子の電荷の中和を行うに十分な量加え、その後ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量をブランク値から差し引いた滴定量。ここでブランク値とは、水溶性カチオン性高分子水溶液無添加時にポリビニルスルホン酸カリウム水溶液をポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液にて滴定した滴定量である。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、あるいはベンジル基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。AはOまたはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化2】

一般式(2)
、Rは水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表す。
【化3】

は水素またはCHCOOY、R10は水素、メチル基またはCOOY、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOOであり、Y、Yは水素または陽イオンをそれぞれ表す。
【請求項2】
前記粉末状水溶性高分子中の酸性物質の含有量が、前記粉末状水溶性高分子を0.1質量%以上に溶解した場合の溶解液pHを4以下にする量であることを特徴とする請求項1に記載の粉末状水溶性高分子。
【請求項3】
前記水溶性カチオン性高分子(A)と前記水溶性両性高分子(B)の質量混合比が、(A):(B)=60〜90:40〜10であることを特徴とする請求項1に記載の粉末状水溶性高分子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の粉末状水溶性高分子を汚泥脱水剤として使用することを特徴とする粉末状水溶性高分子の使用方法。

【公開番号】特開2010−195915(P2010−195915A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41697(P2009−41697)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】