説明

粉末状金属のマルチローブ状工具及び作成の方法

粉末状金属、例えば粉末形態の変性T15HSSで作られた工具(10)であって、マルチローブ状凹部を、ワークピース、例えば締結具の頭部に打印するためのマルチローブ状端部プロフィール(12)を有する。この工具(10)は均質であって、相対的に小さな、例えば1〜4ミクロンの範囲の炭化物だけを含有する。そのような工具を製作する方法も提供される。この方法は、粉末状金属のバーが切断され、その切断片が加工されてマルチローブ状工具を与えることを必要とする。最終部品は理論的に100%密度であって、これは金属射出成型部品における95〜98%程度の密度と対峙される。使用時に、最終部品は、それが作成された仕方に起因して、増強された柱強度と増強された衝撃抵抗とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は一般に、マルチローブ状凹部を、例えば、締結具の頭部に打印するためのマルチローブ状工具に関する。この発明はより具体的に、粉末状金属で形成されたマルチローブ状工具及び工具半製品に関する。この発明はまた、粉末状金属のマルチローブ状工具を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
しばしば“パンチピン”と呼ばれるマルチローブ状工具は、マルチローブ状凹部を、例えば締結具の頭部に打印することに使用される。図1は、マルチローブ状パンチピン10を示している。使用時に、マルチローブ状プロフィールを有するパンチピン10の頭部12は、ワークピース、例えば締結具の頭部に打ち込まれて、マルチローブ状凹部を形成する。
【0003】
典型的に、パンチピンは、標準的な工具鋼、例えばM42工具鋼によって形成されている。工具鋼は、本来、非常に非均質であって、しかも典型的に大きな、しばしば偏析された炭化物を含有している。図2は、M42工具鋼で形成されたパンチピンの画像を与えている。この画像は、顕微鏡によって400xで横断面に沿って(即ち図1の線2に沿って)取られたものである。図3は、同様であるが縦断面に沿って(即ち図1の線3に沿って)取られたものである。図示のように、多くは比較的大きなものである炭化物(画像中の明るい領域)は、いずれの断面に沿っても見出される。サイズに関すれば、通常の工具鋼で形成されたパンチピンには、10〜50ミクロンの大きさ又はそれよりも大きい炭化物がしばしば存在する。
【0004】
炭化物偏析の存在は、硬く、脆く、あるいは弱められた平面を生じる傾向があり、この場合、素材は、破砕又は分裂する傾向を持つ。一般的に言えば、パンチピンにとって、大きな炭化物及び炭化物偏析を含有することは望ましいものではない。これは、炭化物が弱い点を与えるからである。このことが特に真となるのは、かなり大きな炭化物がマルチローブ状パンチピンのローブに沿って存在することが起こった場合である。そのような場合、炭化物によって、ローブは使用中に、図4に示されるように、早い時期に欠けることがある。図4は、M42工具鋼で形成されたパンチピンの画像を与えている。この画像は、マルチローブ状凹部をワークピースに打印することにパンチピンが多数のサイクルで使用された後に、走査型電子顕微鏡(SEM)によって35xで取られたものである。それは、大きな炭化物がパンチピンのローブ上に存在する時に、可能性のある問題を呈する。それだけでなく、その問題は、パンチピンが大きくなると、より厳しいものにさえなる。
【0005】
米国特許第6,537,487号は、金属射出成型(“MIM”)プロセスを使用して粉末状金属部品を成型する方法を開示している。そのようなプロセスは、比較的複雑であって、しかもバインダーを使用する。このバインダーは、焼結中又は焼結前に除去(脱バインダー)されなければならない。そのようなプロセスで作られた完成部品は、典型的に95〜98%程度の密度であり、減少された柱強度と制限された衝撃抵抗とを有する。
【0006】
本発明の実施形態の1つの目的は、粉末状金属で形成されたマルチローブ状工具及び工具半製品を提供することにより、その工具が非常に均質で、しかも極めて小さい姿の炭化物だけを含むようにするものである。
【0007】
本発明の実施形態のもう1つの目的は、マルチローブ状の粉末状金属工具を製作する比較的単純な方法を提供することである。この方法は、焼結前又は中の脱バインダー工程を必要としない。
【0008】
簡単に、そして前述の目的の少なくとも1つに従って、本発明の1つの実施形態は、粉末状金属、例えば粉末形態の変性(モリブデン添加)T15高速度鋼(HSS)で作られると共に、マルチローブ状凹部を、ワークピース、例えば締結具の頭部に打印するためのマルチローブ状端部プロフィールを有する工具を提供する。
【0009】
本発明のもう1つの実施形態は、マルチローブ状端部プロフィールを有する粉末状金属製の工具を製作する方法を提供する。この方法は、粉末状金属、例えば変性T15HSS(モリブデン添加で変性された)で形成されたロッドから所定の長さを切断する工程と、47°/45°面取部を両端に適用する工程と、部品の外径を所定のサイズに磨滅させる工程と、油を塗布すると共に、打抜プレスに固定された押出ダイで切断物の一方の端部にマルチローブ状構成を押出成形する工程と、熱処理炉中で部品のストレスを軽減する工程と、(必要であれば)部品に商標を鋳造する工程と、部品の外径を所定のサイズに磨滅させる工程と、部品を所定の長さに仕上げる工程と、刃先角(ノーズ角)を削る工程と、所定の硬度に熱処理する工程と、刃先角を磨滅させて所望の仕上り及び長さを達成する工程と、外径ステップを所定のサイズ及び長さに磨滅させる工程と、刃先角を所望の仕上りに研磨する工程とを備える。
【0010】
この発明の構造及び動作の組織及び手法は、その更なる目的及び利点と共に、添付図面に関連してなされる以下の説明を参照することによって、最も良く理解される。図面では、同様の参照符号は同様の要素を識別している。
【0011】
[説明]
本発明は異なる形の実施形態として受け入れ可能であるが、ここでは発明の実施形態が図面に示され、詳細に説明される。この説明は、発明の原理の例示と考えられるべきものであって、この発明を、ここで図示され説明されたものに限定しようとするものではない。
【0012】
上述したように、図2〜4は、M42工具鋼で形成されたパンチピンに関する。図5〜7は、同様の図であるが、粉末形態の変性T15HSS(モリブデン添加で変性された)で形成された本発明の一実施形態に係るマルチローブ状工具、特にパンチピンに関する。粉末状金属で形成された結果、パンチピンは、より一層均質になり、工具鋼で形成されたパンチピンに典型的に含有される炭化物と比べて、比較的小さな炭化物(図5及び6に示された画像内の明るい領域)だけを含有する。より均質になると共に比較的小さな炭化物だけを含有する結果、パンチピンは、非常に堅牢になって、使用中に(即ち、例えば締結具の頭部に凹部を打印することに使用されている間に)欠けたり故障したりしにくくなる。
【0013】
図5は、パンチピンの画像を与える。この画像は、顕微鏡によって400xで横断面に沿って(即ち図1の線2に沿って)取られたものである。図6は、図5と同様であるが、画像は縦断面に沿って(即ち図1の線3に沿って)取られたものである。図5及び6に示されているように、炭化物(画像内の明るい領域)は、図2及び3に示された工具鋼のパンチピン内に存在するものと比べて比較的小さい。具体的に、工具鋼製のパンチピン内に存在する炭化物は40ミクロン以上であるが、パンチピンを粉末状金属、例えば粉末形態の変性T15HSSで形成することによって、炭化物は1〜4ミクロン程度に小さくなり得る。
【0014】
図7は、パンチピンの画像を与える。この画像は、マルチローブ状凹部をワークピースに打印することにパンチピンが多数のサイクルで使用された後に、SEMによって50xで取られたものである。図7を図4と比較すると、粉末状金属のパンチピン(図7)は、欠けのない純粋に受け入れ可能な摩耗を呈するのに対し、工具鋼のパンチピン(図4)は、ローブで多少の欠けを呈する。
【0015】
大きな炭化物は弱い点を与え、またマルチローブ状工具、例えばパンチピンのローブは衝撃時に多くのストレスを受けるので、大きな炭化物がマルチローブ状工具のローブに存在しないようにしたり、そのことを確実にすることは重要である。典型的に、マルチローブ状工具、例えばパンチピンは、非常に非均質な工具鋼で形成されている。マルチローブ状工具を、その代わりに粉末状金属、例えば粉末形態の変性T15HSSで形成することによって、部品の結晶粒構造が一層均質になるようにする。そのようなものとして、1つのローブの領域内に又は1つのローブ上に大きな炭化物が存在する見込みは、少ないか、全くない。この結果、パンチピンは、より堅牢になると共に改良された柱強度及び衝撃抵抗を有し、そしてより長い有用耐用年数を有することになる。
【0016】
図8は、粉末状金属のマルチローブ状工具、例えば図5〜7に示されたパンチピンを製作する方法を示している。この方法は、本発明の一実施形態に係るものである。図示されているように、この方法は、粉末状金属、例えば変性T15HSS(モリブデン添加で変性された)で形成されたバーストックからのロッドから所定の長さを切断する工程と、47°/45°面取部を両端に適用する工程と、部品の外径を所定のサイズに磨滅させる工程と、油を塗布すると共に、打抜プレスに固定された押出ダイで切断物の一方の端部にマルチローブ状構成を押出成形する工程と、熱処理炉中で部品のストレスを軽減する工程と、(必要であれば)部品に商標を鋳造する工程と、部品の外径を所定のサイズに磨滅させる工程と、部品を所定の長さに仕上げる工程と、刃先角を削る工程と、所定の硬度に熱処理する工程と、刃先角を磨滅させて所望の仕上り及び長さを達成する工程と、外径ステップを所定のサイズ及び長さに磨滅させる工程と、刃先角を所望の仕上りに研磨する工程とを与える。このプロセスは、比較的単純であって、しかもバインダーが焼結中又は焼結前に除去されなければならない金属射出成型プロセスとは異なり、脱バインダー工程を必要としない。射出金属成型プロセスで作られた完成部品は、典型的に95〜98%程度の密度である。これに対し、上述した方法で製作された完成部品は、理論的に100%密度であって、しかも改良された柱強度、衝撃抵抗及び工具寿命を有する。
【0017】
上述した製作工程を行う前に、粉末状鋼バーを与えるために、以下のプロセスが使用される。
【0018】
1.適切な組成の溶融金属が、不活性雰囲気内で霧化される。
【0019】
2.結果として得られた粉末状金属は、5〜6フィート長で10〜12インチ径の鋼管である大きな金属“缶”内に封止される。
【0020】
3.封止された缶は、温度2100Fで1000気圧の圧力を作用させる熱間等方圧プレス(HIP)内に配置される。
【0021】
4.HIPプロセスの後に、鋼缶は、現在固体且つ100%密度のP.M.インゴットから機械加工される。
【0022】
5.このP.M.インゴットはそれから、通常の鋳込インゴットのように処理される。
【0023】
本発明の実施形態が図示され説明されたが、当業者が、この開示の精神及び範囲を逸脱することなく、本発明の種々の変形例を工夫することは想像される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】マルチローブ状パンチピンの斜視図である。
【図2】M42工具鋼で形成されたパンチピンの画像を与える。この画像は、顕微鏡によって400xで横断面に沿って(即ち図1の線2に沿って)取られたものである。
【図3】図2と同様であるが、画像は縦断面に沿って(即ち図1の線3に沿って)取られたものである。
【図4】M42工具鋼で形成されたパンチピンの画像を与える。この画像は、マルチローブ状凹部をワークピースに打印することにパンチピンが多数のサイクルで使用された後に、走査型電子顕微鏡(SEM)によって35xで取られたものである。
【図5】粉末形態の変性T15HSSで形成された本発明の一実施形態に係るパンチピンの画像を与える。この画像は、顕微鏡によって400xで横断面に沿って(即ち図1の線2に沿って)取られたものである。
【図6】図5と同様であるが、画像は縦断面に沿って(即ち図1の線3に沿って)取られたものである。
【図7】粉末形態の変性T15HSSで形成されたパンチピンの画像を与える。この画像は、マルチローブ状凹部をワークピースに打印することにパンチピンが多数のサイクルで使用された後に、SEMによって50xで取られたものである。
【図8】マルチローブ状工具、例えばパンチピンを製作する方法のフローチャートを与える。この方法は、本発明の一実施形態に係るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、マルチローブ状凹部をワークピースに打印するためのマルチローブ状端部プロフィール(12)とを有する工具(10)であって、前記本体は、粉末状金属製であることを特徴とする工具(10)。
【請求項2】
前記工具(10)は、粉末形態の高速度鋼製である請求項1に記載の工具(10)。
【請求項3】
高速度鋼は、T15高速度鋼である請求項2に記載の工具(10)。
【請求項4】
高速度鋼は、モリブデンを含む請求項2に記載の工具(10)。
【請求項5】
T15高速度鋼は、モリブデンを含む請求項3に記載の工具(10)。
【請求項6】
前記工具(10)は、マルチローブ状凹部を締結具の頭部に打印する構成である請求項1に記載の工具(10)。
【請求項7】
粉末状金属製の工具(10)を製作する方法であって、この工具(10)はマルチローブ状凹部をワークピースに打印するためのマルチローブ状端部プロフィール(12)を有し、前記方法は、粉末状金属で形成されたロッドを供給する工程と、このロッドから部品を規定する所定の長さを切断する工程と、面取部を部品の少なくとも一方の端部(12)に適用する工程と、部品の外径を所定のサイズに磨滅させる工程と、部品の一方の端部にマルチローブ状構成を押出成形する工程と、部品の外径を所定のサイズに磨滅させる工程と、部品を所定の長さに形成する工程とを備えることを特徴とする方法。
【請求項8】
熱処理炉中で部品のストレスを軽減する工程を更に備える請求項7に記載の方法。
【請求項9】
部品に商標を鋳造する工程を更に備える請求項7に記載の方法。
【請求項10】
部品を所定の最終長さに仕上げる工程を更に備える請求項7に記載の方法。
【請求項11】
部品上の刃先角を削る工程を更に備える請求項7に記載の方法。
【請求項12】
部品を所定の硬度に熱処理する工程を更に備える請求項7に記載の方法。
【請求項13】
刃先角を所望の仕上りに研磨する工程を更に備える請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ロッドから所定の長さを切断する工程は、高速度鋼で形成されたロッドから所定の長さを切断する工程を含む請求項7に記載の方法。
【請求項15】
ロッドから所定の長さを切断する工程は、T15高速度鋼で形成されたロッドから所定の長さを切断する工程を含む請求項7に記載の方法。
【請求項16】
ロッドから所定の長さを切断する工程は、モリブデンを含む高速度鋼で形成されたロッドから所定の長さを切断する工程を含む請求項7に記載の方法。
【請求項17】
ロッドから所定の長さを切断する工程は、モリブデンを含むT15高速度鋼で形成されたロッドから所定の長さを切断する工程を含む請求項7に記載の方法。
【請求項18】
面取部を部品の少なくとも一方の端部に適用する工程は、47°/45°面取部を部品の両端部に適用する工程を含む請求項7に記載の方法。
【請求項19】
部品の一方の端部にマルチローブ状構成を押出成形する工程は、部品に油を塗布すると共に、打抜プレスに固定された押出ダイでマルチローブ状構成を押出成形する工程を更に含む請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−532320(P2007−532320A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508342(P2007−508342)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/007040
【国際公開番号】WO2005/102559
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(507065795)アキュメント インテレクチュアル プロパティーズ エルエルシー (11)
【Fターム(参考)】