説明

粒子状物質検出手段の故障判定装置

【課題】排気管に設けられたセンサ電極部の静電容量の変化に基づいて排気に含まれるPMを検出するPMセンサについて、このようなPMセンサの故障判定装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、エンジン1の排気管4に設けられたセンサ電極部61を有し、エンジン1から排出されたPMがセンサ電極部61に付着することによるこのセンサ電極部61の静電容量の変化に基づいて、排気に含まれるPMを検出するPMセンサ6の故障判定装置を提供する。故障判定装置は、エンジン1の始動直後に排気管4内に発生した凝縮水がセンサ電極部61に付着することによるこのセンサ電極部61の静電容量の変化に基づいて、PMセンサ6の故障を判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質検出手段の故障判定装置に関する。より詳しくは、排気通路に設けられた電極部の電気的特性の変化に基づいて排気に含まれる粒子状物質を検出する粒子状物質検出手段の故障判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の排気通路となる排気管内には、内燃機関から排出された粒子状物質を検出するため、粒子状物質検出手段が設けられる。粒子状物質の検出には様々な手法が知られているが、中でも特許文献1や特許文献2に示されているもののように、排気管内に設けられた電極部の電気的特性の変化に基づいて粒子状物質を検出する粒子状物質検出手段は、簡易な構成であっても高い精度で検出できることから近年では特に注目されている。
【0003】
より具体的には、特許文献1の煤検出センサでは、多孔質の導電性物質で形成された一対の煤検出電極を排気管内に設け、排気に含まれる煤が付着することによる煤検出電極の電気抵抗の変化に基づいて、排気に含まれる煤の量を検出する。
【0004】
また、特許文献2の粒子状物質検出装置では、排気管内に設けられた電極部に所定の電圧を印加することにより、排気に含まれる粒子状物質を電極部に積極的に付着させつつ、この時における電極部の電気的特性の変化に基づいて、排気中の粒子状物質の量を検出する。
【0005】
一方、特許文献3や特許文献4には、このような粒子状物質検出手段を、粒子状物質を捕集する排気浄化フィルタの故障判定装置に応用した技術が示されている。
より具体的には、特許文献3には、排気浄化フィルタの下流側に粒子状物質検出手段を設け、この粒子状物質検出手段により検出された粒子状物質の量に基づいて排気浄化フィルタの故障を判定する故障判定装置が示されている。
【0006】
また、特許文献4には、排気浄化フィルタの上流側と下流側に粒子状物質検出手段を設け、これら2つの粒子状物質検出手段の出力に基づいて排気浄化フィルタの故障を判定する故障判定装置が示されている。この故障判定装置では、2つの粒子状物質検出手段の出力値の比に基づいて、排気浄化フィルタに流入した粒子状物質のうち排気浄化フィルタを通過した粒子状物質の割合を算出し、この割合を正常値と比較することにより排気浄化フィルタの故障を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−266961号公報
【特許文献2】特開2008−139294号公報
【特許文献3】特開2007−315275号公報
【特許文献4】特開2007−132290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3や特許文献4に示された排気浄化フィルタの故障判定装置では、粒子状物質検出手段が正常に作動している場合には排気浄化フィルタの故障の判定を行えるものの、粒子状物質検出手段が故障した場合には排気浄化フィルタの故障の判定を行えないばかりか、誤信号に基づいて内燃機関の制御が行われてしまうおそれもある。
このため近年では、粒子状物質検出手段の故障を判定する故障判定装置の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、排気通路に設けられた電極部の電気的特性の変化に基づいて排気に含まれる粒子状物質を検出する粒子状物質検出手段について、このような粒子状物質検出手段の故障判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関(例えば、後述のエンジン1)の排気通路(例えば、後述の排気管4)に設けられた電極部(例えば、後述のセンサ電極部61)を有し、前記内燃機関から排出された粒子状物質が前記電極部に付着することによる当該電極部の電気的特性の変化に基づいて、排気に含まれる粒子状物質を検出する粒子状物質検出手段(例えば、後述のPMセンサ6)の故障判定装置(例えば、後述のECU5,5B)を提供する。前記故障判定装置は、前記排気通路に発生した液体(例えば、後述の凝縮水)、及び、供給された液体(例えば、後述の還元剤)の少なくとも何れかが前記電極部に付着することによる当該電極部の電気的特性の変化に基づいて、前記粒子状物質検出手段の故障を判定することを特徴とする。
【0011】
電極部の電気的特性の変化に基づいて排気に含まれる粒子状物質を検出する粒子状物質検出手段は、粒子状物質が付着した場合と同様に液体が付着しても電極部の電気的特性が変化するため、これを検出することができる。本発明によれば、この点を利用して、排気通路に発生した液体及び供給された液体の少なくとも何れかが電極部に付着することによるこの電極部の電気的特性の変化に基づいて、粒子状物質検出手段の故障を判定する。
また、一般的には、内燃機関から排出される炭素を主成分とした粒子状物質に対して液体の導電率は高いため、粒子状物質が付着した場合と液体が付着した場合とで電極部の電気的特性の変化の大きさは異なる。このように、粒子状物質が付着した場合と液体が付着した場合とを区別することができるので、精度良く粒子状物質検出手段の故障を判定することができる。
また、この故障判定装置によれば、電極部の電気的特性の変化といった粒子状物質の検出と同じ論理に基づいて粒子状物質検出手段の故障を判定するため、従来の粒子状物質検出手段に対し、大きな改良を加えることなく故障判定装置を製造することができる。したがって、故障判定装置の製造にかかるコストを低減することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置において、前記排気通路に発生した液体は、当該内燃機関の始動時に排気通路に発生した凝縮水であることを特徴とする。
【0013】
内燃機関の始動時、特に長時間にわたり内燃機関を停止させていた後における始動時には、内燃機関から排出された高温の排気は、外気で冷めた排気通路で急激に冷やされるため、排気に含まれる水分が凝縮して凝縮水が発生する。このように発生した凝縮水は、排気の流れと共に下流側へ流れ、電極部に付着する場合がある。本発明によれば、このように内燃機関の始動時に必然的に発生する凝縮水を用いることにより、粒子状物質検出手段の故障をより高い精度で判定することができる。また、本発明によれば、液体を供給するための装置を別途設ける必要もないので、故障判定装置の製造にかかるコストを抑えることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置において、前記内燃機関を前回停止してから今回始動するまでの時間に基づいて、当該内燃機関の始動時に凝縮水が発生するか否かを判定する凝縮水判定手段をさらに備え、前記内燃機関の始動時に凝縮水が発生すると判定された場合に前記粒子状物質検出手段の故障を判定することを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、内燃機関を前回停止してから今回始動するまでの時間に基づいて、内燃機関の始動時に凝縮水が発生するか否かを判定し、凝縮水が発生すると判定された場合に粒子状物質検出手段の故障を判定することにより、粒子状物質検出手段の故障の判定精度をさらに向上することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れかに記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置において、前記排気通路に供給された液体は、前記排気通路とは別に設けられた液体供給手段(例えば、後述のインジェクタ8B)により供給された液体であることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、排気通路とは別に設けられた液体供給手段により供給された液体を用いることにより、上述のような内燃機関の始動時に限らずに粒子状物質検出手段の故障を判定することができる。また、液体供給手段により供給された液体を用いることにより、上述のように排気通路に発生した液体を用いた場合と比較して、液体が供給された時期を把握し易いので、粒子状物質検出手段の故障をより高い精度で判定することができる。
【0018】
ところで、排気を浄化する排気浄化装置には、燃料や尿素水などの液体を排気通路内に供給する供給装置を備えるものが知られている。そこで、上記液体供給手段としては、このような排気浄化装置の供給装置を流用することが好ましい。この場合、液体を供給するための装置を別途設ける必要がなくなるので、故障判定装置のコストを抑えることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置において、前記液体供給手段により前記排気通路に液体が供給されているか否かを判定する液体供給判定手段をさらに備え、前記液体供給手段により液体が供給されていると判定された場合に前記粒子状物質検出手段の故障を判定することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、液体供給手段により液体が供給されているか否かを判定し、液体が供給されていると判定された場合に粒子状物質検出手段の故障を判定することにより、粒子状物質検出手段の故障の判定精度をさらに向上することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5の何れかに記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置において、前記排気通路には液体を含む排気の一部を前記電極部へ整流する整流手段(例えば、後述の整流板65A,66A)が設けられることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、液体を含む排気の一部を電極部へ整流する整流手段を設けた。これにより、より効率的に液体を電極部に付着させることができるので、粒子状物質検出手段の故障をより高い精度で判定することができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6の何れかに記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置において、前記排気通路には排気に含まれる粒子状物質を捕集する排気浄化フィルタ(例えば、後述のDPF3)が設けられ、前記電極部は、前記排気通路のうち前記排気浄化フィルタの下流側に設けられることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、排気通路のうち排気浄化フィルタの下流に電極部を設けた。これにより、粒子状物質検出手段を排気浄化フィルタの故障判定装置に応用することができる。すなわち、排気浄化フィルタの捕集性能が低下した場合には、排気浄化フィルタを通過した粒子状物質が電極部に付着するため、排気浄化フィルタの故障を判定することができる。
【0025】
ところで、排気浄化フィルタが正常である場合、排気中の粒子状物質は捕集されてしまうため、排気浄化フィルタの下流側へ排出される粒子状物質の量は僅かである。したがって、例えば、粒子状物質が付着することによる電極部の電気的特性の変化に基づいて粒子状物質検出手段の故障を判定する場合、排気浄化フィルタが正常であるときは粒子状物質検出手段の故障を判定することが困難である。これに対して本発明では、排気浄化フィルタを通過することもでき、また排気浄化フィルタの下流側に発生させたり供給したりすることもできる液体が付着することによる電極部の電気的特性の変化に基づいて粒子状物質検出手段の故障を判定する。したがって、排気浄化フィルタの状態にかかわらず粒子状物質検出手段の故障を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係るPMセンサの故障判定装置、及びこれを適用したエンジンとその排気浄化システムの構成を示す模式図である。
【図2】エンジンの始動直後におけるセンサ電極部の静電容量の特徴的な振る舞いを示す図である。
【図3】上記実施形態に係るPMセンサ故障判定処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る排気管の部分断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るPMセンサの故障判定装置、及びこれを適用したエンジンとその排気浄化システムの構成を示す模式図である。
【図6】上記実施形態に係るPMセンサ故障判定処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、第2実施形態以後の説明において、第1実施形態と共通する構成については説明を省略する。
【0028】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る粒子状物質検出手段の故障判定装置、及びこれを適用した内燃機関(以下、「エンジン」という)1とその排気浄化システム2の構成を示す模式図である。エンジン1は、各気筒内に燃料を直接噴射するディーゼルエンジンであり、各気筒には図示しない燃料噴射弁が設けられている。これら燃料噴射弁は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に電気的に接続されており、燃料噴射弁の開弁時間及び閉弁時間は、ECU5により制御される。
【0029】
エンジン1の排気通路となる排気管4内には、排気浄化フィルタ(以下、「DPF(Diesel Particulate Filter)」という)3と、排気に含まれる炭素を主成分とした粒子状物質(以下、「PM(Particulate Matter)」という)を検出する粒子状物質検出手段(以下、「PMセンサ」という)6とが、上流側からこの順で設けられている。
【0030】
DPF3は、無数の細孔が形成された多孔質体のフィルタ壁を備え、排気がこのフィルタ壁を通過する際、排気に含まれるPMを、フィルタ壁の表面及びフィルタ壁中の細孔に堆積させることにより、これを捕集する。DPF3の捕集能力の限界、すなわち堆積限界までPMを捕集すると、圧損が大きくなる。そこで、DPFに捕集されたPMを適切な時期に燃焼除去するDPF再生処理がECU5により実行される。
【0031】
PMセンサ6は、排気管4の内部のうちDPF3の下流側に設けられたセンサ電極部61と、ECU5に接続され、このセンサ電極部61を制御するセンサコントローラ62と、を備える。
【0032】
センサ電極部61は、互いに平行にして配置された一対の電極板を備える。これら電極板の間には、排気中のPMが付着するキャビティが形成されている。PMセンサ6は、以下に示すように、排気管4内を流通する排気に含まれるPMが付着したセンサ電極部61の電気的特性を測定し、この測定値の変化に基づいて、排気管内を流通する排気中のPMを検出する。
【0033】
センサコントローラ62は、センサ電極部61の電極板に集塵電圧を印加する電源部63と、センサ電極部61の電気的特性を検出するインピーダンス測定器64と、を含んで構成される。
【0034】
電源部63は、ECU5から送信された制御信号に基づいて動作し、所定の集塵電圧をセンサ電極部61の電極板に印加する。これにより、排気に含まれるPMをセンサ電極部61のキャビティ内に積極的に付着させることができる。また、この電源部63は、センサ電極部61に設けられたヒータに通電することにより、センサ電極部61を暖機したり、堆積したPMを燃焼しセンサ電極部61を再生したりすることができる。
【0035】
インピーダンス測定器64は、ECU5から送信された制御信号に基づいて動作し、所定の測定電圧及び測定周期の交流信号のもとでセンサ電極部61の静電容量を検出し、検出した静電容量値に略比例した信号をECU5に出力する。
【0036】
ECU5には、以上のようなPMセンサの他、警告灯51、及びイグニッションスイッチ52などが接続されている。
【0037】
警告灯51は、例えば、図示しない車両のメータパネルに設けられ、ECU5から送信された制御信号に基づいて点灯する。後に詳述するように、ECU5は、PMセンサ6が故障したと判定した場合には、この警告灯51を点灯させる。これにより、PMセンサ6が故障したことを運転者に報知することができる。イグニッションスイッチ52は、例えば、車両の運転席に設けられ、エンジン1の起動又は停止を指令する信号をECU5に送信する。
【0038】
ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換するなどの機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)とを備える。この他、ECU5は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果などを記憶する記憶回路と、センサコントローラ62、警告灯51、及びエンジン1の燃料噴射弁などに制御信号を出力する出力回路とを備える。
【0039】
また、以上のようなハードウェア構成により、ECU5には、DPFの故障を判定するDPF故障判定部53や、PMセンサの故障を判定するPMセンサ故障判定部54などの各種モジュールが構成される。
【0040】
DPF故障判定部53は、PMセンサ6からの出力に基づいてDPF3の故障を判定する。エンジン1から排出されたPMはDPF3により捕集されるため、DPF3が正常である限りセンサ電極部61に到達するPMの量は制限される。しかしながらDPF3が故障すると、エンジン1から排出されたPMはDPF3を通過してセンサ電極部61に付着する。そこで、DPF故障判定部53では、エンジン1を運転している間にセンサ電極部61の静電容量の変化を監視しており、DPF3が故障したことでDPF3から排出されたPMがセンサ電極部61に付着することによる、このセンサ電極部61の静電容量の変化に基づいてDPF3の故障を判定する。
【0041】
PMセンサ故障判定部54は、上述のDPF故障判定部53と同様に、PMセンサ6からの出力に基づいてPMセンサ6の故障を判定する。以下、図2及び図3を参照して、PMセンサ故障判定部54によるPMセンサ故障判定処理について詳細に説明する。
【0042】
図2は、エンジンの始動直後におけるセンサ電極部の静電容量の特徴的な振る舞いを示す図である。この図2において、実線は正常に作動するPMセンサの静電容量の測定値を示し、破線は故障したPMセンサの静電容量の測定値を示す。
図2に示すように、センサ電極部の静電容量は、エンジンの始動直後に一時的に大きな値を示す。これは、エンジンの始動直後には、冷え切った排気管内をエンジンから排出された高温の排気が流通することにより、排気に含まれている水分が凝縮することで凝縮水が発生し、この凝縮水がセンサ電極部に付着したためであると考えられる。
【0043】
また、凝縮水などの液体は、一般的に、炭素を主成分とするPMに比べて導電率が高いため、凝縮水がセンサ電極部に付着した際における静電容量の変化量は、PMがセンサ電極部に付着した際における静電容量の変化量よりも十分に大きい。このため、凝縮水がセンサ電極部に付着した場合、センサ電極部の静電容量の測定値には、図2に示すようなピークが発生する。
【0044】
PMセンサ故障判定部54では、エンジンの始動時に排気管内に発生した凝縮水がセンサ電極部に付着することによる、このセンサ電極部の静電容量の変化に基づいて、PMセンサの故障を判定する。より具体的には、PMセンサ故障判定部54は、図2に示すようなエンジン始動時から所定の判定期間内に、センサ電極部の静電容量の測定値が所定の正常判定値を上回った場合に、PMセンサは正常であると判断する。
【0045】
図3は、PMセンサ故障判定処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、イグニッションスイッチがオンにされた直後に、ECUのPMセンサ故障判定部により実行される。
ステップS1では、エンジンを前回停止してから今回始動するまでの時間を示すソーク時間を取得し、ステップS2に移る。
【0046】
ステップS2では、取得したソーク時間に基づいて凝縮水が発生するか否かを判別する。より具体的には、ソーク時間が所定値以上であるか否かを判別することにより、凝縮水が発生するか否かを判別する。この判別がYESの場合、すなわち、所定時間以上、エンジンを停止していた場合には、排気管は外気温度と略等しくなるまで冷え切った状態であるため、凝縮水が発生すると考えられる。そこで、凝縮水を利用してPMセンサの故障を判定するべく、ステップS3に移る。一方、この判別がNOの場合には、排気管が冷え切っておらず、凝縮水を利用したPMセンサの故障判定を行うことができないと判断し、この処理を直ちに終了する。
【0047】
ステップS3では、所定の判定期間にわたってセンサ素子の静電容量を測定し、ステップS4に移る。
ステップS4では、上記判定期間の間に、静電容量の測定値が正常判定値を超えたか否かを判別する。この判別がYESの場合は、PMセンサにより凝縮水を検出できたことを意味するので、PMセンサは正常な状態であると判断し、この処理を直ちに終了する。一方、この判別がNOの場合は、PMセンサにより凝縮水を検出できなかったことを意味するので、PMセンサは故障した状態であると判断し、ステップS5に移り警告灯を点灯し、この処理を終了する。
【0048】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態によれば、排気管4内に発生した凝縮水がセンサ電極部61に付着することによるこのセンサ電極部61の静電容量の変化に基づいて、PMセンサ6の故障を判定する。また、一般的には凝縮水はPMよりも導電率が高いため、PMが付着した場合と凝縮水が付着した場合とを区別することができるので、精度良くPMセンサ6の故障を判定することができる。また、この故障判定装置によれば、センサ電極部61の電気的特性の変化といったPMの検出と同じ論理に基づいてPMセンサ6の故障を判定するため、従来のPMセンサに対し、大きな改良を加えることなく故障判定装置を製造することができる。したがって、故障判定装置の製造にかかるコストを低減することができる。
【0049】
(2)本実施形態によれば、このようにエンジン1の始動時に必然的に発生する凝縮水を用いることにより、PMセンサの故障をより高い精度で判定することができる。また、本実施形態によれば、液体を供給するための装置を別途設ける必要もないので、故障判定装置の製造にかかるコストを抑えることができる。
【0050】
(3)本実施形態によれば、ソーク時間に基づいて、エンジン1の始動時に凝縮水が発生するか否かを判定し、凝縮水が発生すると判定された場合にPMセンサ6の故障を判定することにより、PMセンサ6の故障の判定精度をさらに向上することができる。
【0051】
(4)本実施形態によれば、排気管4のうちDPF3の下流にセンサ電極部61を設けた。これにより、PMセンサ6をDPF3の故障判定装置に応用することができる。すなわち、DPF3の捕集性能が低下した場合には、DPF3を通過したPMがセンサ電極部61に付着するため、このPMの付着によるセンサ電極部61の静電容量の変化に基づいてDPF3の故障を判定することができる。
【0052】
ところで、DPF3が正常である場合、排気中のPMは捕集されてしまうため、DPF3の下流側へ排出されるPMの量は僅かである。したがって、例えば、PMが付着することによるセンサ電極部61の静電容量の変化に基づいてPMセンサ6の故障を判定する場合、DPF3が正常であるときはPMセンサ6の故障を判定することが困難である。これに対して本実施形態では、DPF3を通過することもでき、またDPF3の下流側に発生させたり供給したりすることもできる液体が付着することによるセンサ電極部61の静電容量の変化に基づいてPMセンサ6の故障を判定する。したがって、DPF3の状態にかかわらずPMセンサ6の故障を判定することができる。
【0053】
[第2実施形態]
第2実施形態に係るPMセンサ6の故障判定装置は、排気管4A内のうちセンサ電極部61の近傍の構成が第1実施形態と異なる。
図4は、排気管4Aの部分断面図である。
【0054】
図4に示すように、排気管4A内には、DPF3から下流側のセンサ電極部61のキャビティCへ延びる整流板65A,66Aが設けられている。このような整流板65A,66Aを設けることにより、凝縮水などの液体を含む排気の一部を、センサ電極部61のキャビティCへ向けて整流し、排気管4A内で発生した凝縮水をセンサ電極部61に付着させることができる。また、これら整流板65A,66Aには、エンジンの始動直後における排気を冷やし、整流板65A,66A上に凝縮水を積極的に生成させる作用もあるので、さらに多くの凝縮水をセンサ電極部61に付着させることができる。
【0055】
以上詳述したように、本実施形態によれば、上述の効果(1)〜(4)に加えて、以下の効果を奏する。
(5)本実施形態によれば、凝縮水を含む排気の一部をセンサ電極部61のキャビティCへ整流する整流板65Aを設けた。これにより、より効率的に凝縮水をセンサ電極部61に付着させることができるので、PMセンサ6の故障をより高い精度で判定することができる。
【0056】
[第3実施形態]
第3実施形態に係るPMセンサ6の故障判定装置は、PMセンサ6が設けられる排気浄化システム2Bの構成が第1実施形態と異なる。
図5は、本実施形態に係るPMセンサ6の故障判定装置、及びこれを適用したエンジン1とその排気浄化システム2Bの構成を示す模式図である。
【0057】
図5に示すように、排気浄化システム2Bは、DPF3及びPMセンサ6の他、排気に含まれるNOxを浄化するNOx浄化装置7Bと、このNOx浄化装置7Bに還元剤を供給するインジェクタ8Bとをさらに備える点が第1実施形態と異なる。
【0058】
NOx浄化装置7Bは、排気管4内のうち、DPF3及びPMセンサ6のセンサ電極部61よりも下流側に設けられる。このNOx浄化装置7は、排気中のNOxを捕捉しておき、インジェクタ8Bから供給された還元剤の存在下で捕捉したNOxを還元することにより、排気中のNOxを浄化する。
【0059】
インジェクタ8Bは、排気管4内のうちDPF3とPMセンサ6のセンサ電極部61との間に設けられ、図示しないタンクに貯蔵された液体の還元剤を、排気中に噴射する。なお、インジェクタ8Bが噴射する還元剤としては、例えばエンジン1の燃料や、尿素水が用いられる。また、インジェクタ8BはECU5Bに電気的に接続されており、インジェクタ8Bからの還元剤の噴射量及び噴射時期は、ECU5Bにより制御される。
【0060】
ECU5Bのインジェクタ駆動部55Bでは、NOx浄化装置7Bに捕捉されたNOxの量を逐次積算しておき、NOxの捕捉量が所定の量に達したことに応じてインジェクタ8Bを駆動し、排気管4内へ還元剤を噴射することにより、NOx浄化装置7Bに捕捉されたNOxを還元する。
【0061】
ECU5BのPMセンサ故障判定部54Bでは、インジェクタ8Bから供給された還元剤がセンサ電極部61に付着することによる、このセンサ電極部61の静電容量の変化に基づいて、PMセンサ6の故障を判定する。
【0062】
図6は、PMセンサ故障判定処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、イグニッションがオンにされた後に、ECUのPMセンサ故障判定部により所定の周期で繰り返し実行される。
【0063】
ステップS11では、インジェクタにより液体が供給されているか否か、すなわち、インジェクタにより排気管内へ還元剤が供給されているか否かを判別する。この判別がYESの場合には、還元剤を利用してPMセンサの故障を判定するべく、ステップS12に移る。一方、この判別がNOの場合には、還元剤を利用したPMセンサの故障判定を行うことができないと判断し、この処理を直ちに終了する。
【0064】
ステップS12では、所定の判定期間にわたってセンサ素子の静電容量を測定し、ステップS13に移る。
ステップS13では、上記判定期間の間に、静電容量の測定値が正常判定値を超えたか否かを判別する。この判別がYESの場合は、PMセンサにより還元剤を検出できたことを意味するので、PMセンサは正常な状態であると判断し、この処理を直ちに終了する。一方、この判別がNOの場合は、PMセンサにより還元剤を検出できなかったことを意味するので、PMセンサは故障した状態であると判断し、ステップS14に移り警告灯を点灯し、この処理を終了する。
【0065】
以上詳述したように、本実施形態によれば、上述した効果(1)及び(4)に加えて、以下の効果を奏する。
(6)本実施形態によれば、排気管4とは別に設けられたインジェクタ8Bにより供給された還元剤を用いることにより、上述のようなエンジン1の始動時に限らずにPMセンサ6の故障を判定することができる。また、インジェクタ8Bにより供給された還元剤を用いることにより、上述のように排気管4内に発生した凝縮水を用いた場合と比較して、液体が供給された時期を把握し易いので、PMセンサ6の故障をより高い精度で判定することができる。また、排気浄化システム2Bのインジェクタ8Bを流用することにより、液体を供給するための装置を別途設ける必要がなくなるので、故障判定装置の製造にかかるコストを抑えることができる。
【0066】
(7)本実施形態によれば、インジェクタ8Bにより還元剤が供給されているか否かを判定し、還元剤が供給されていると判定された場合にPMセンサ6の故障を判定することにより、PMセンサ6の故障の判定精度をさらに向上することができる。
【0067】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
上記第3実施形態では、PMセンサの故障の判定に、排気浄化システム2Bのインジェクタ8Bにより供給された燃料や尿素水などの還元剤を利用したが、還元剤に限らず水を利用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…エンジン(内燃機関)
2,2B…排気浄化システム
3…DPF(排気浄化フィルタ)
4,4A…排気管(排気通路)
6…PMセンサ(粒子状物質検出手段)
61…センサ電極部(電極部)
5…ECU(故障判定装置、凝縮水判定手段、液体供給判定手段)
65A,66A…整流板(整流手段)
8B…インジェクタ(液体供給手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた電極部を有し、前記内燃機関から排出された粒子状物質が前記電極部に付着することによる当該電極部の電気的特性の変化に基づいて、排気に含まれる粒子状物質を検出する粒子状物質検出手段の故障判定装置であって、
前記排気通路に発生した液体、及び、供給された液体の少なくとも何れかが前記電極部に付着することによる当該電極部の電気的特性の変化に基づいて、前記粒子状物質検出手段の故障を判定することを特徴とする粒子状物質検出手段の故障判定装置。
【請求項2】
前記排気通路に発生した液体は、当該内燃機関の始動時に排気通路に発生した凝縮水であることを特徴とする請求項1に記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置。
【請求項3】
前記内燃機関を前回停止してから今回始動するまでの時間に基づいて、当該内燃機関の始動時に凝縮水が発生するか否かを判定する凝縮水判定手段をさらに備え、
前記内燃機関の始動時に凝縮水が発生すると判定された場合に前記粒子状物質検出手段の故障を判定することを特徴とする請求項2に記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置。
【請求項4】
前記排気通路に供給された液体は、前記排気通路とは別に設けられた液体供給手段により供給された液体であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置。
【請求項5】
前記液体供給手段により前記排気通路に液体が供給されているか否かを判定する液体供給判定手段をさらに備え、
前記液体供給手段により液体が供給されていると判定された場合に前記粒子状物質検出手段の故障を判定することを特徴とする請求項4に記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置。
【請求項6】
前記排気通路には前記液体を含む排気の一部を前記電極部へ整流する整流手段が設けられることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置。
【請求項7】
前記排気通路には排気に含まれる粒子状物質を捕集する排気浄化フィルタが設けられ、
前記電極部は、前記排気通路のうち前記排気浄化フィルタの下流側に設けられることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の粒子状物質検出手段の故障判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−275917(P2010−275917A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128605(P2009−128605)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】