説明

粘着シートおよび半導体装置の製造方法

【課題】半導体ウエハのダイシング時、あるいは個片化された半導体チップの収容・搬送時に用いることで、半導体チップをフリップチップ実装する際にアンダーフィル材が半導体チップの裏面に這い上がることを抑制することができる粘着シート及び該粘着シートを用いる半導体装置の製造方法を提供すること。
【解決手段】粘着シート10は、基材1と、その片面に形成された粘着剤層2とからなる粘着シートであって、表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に該粘着剤層を貼付し、24時間後に該粘着剤層を半導体ウエハから剥離した後の半導体ウエハの裏面におけるターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルの接触角が32.0°以上となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートおよび該粘着シートを用いる半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一つに、所要の前処理を経て、表面に回路が形成された半導体ウエハを複数個の半導体チップ(以下、チップともいう)に切断分離するダイシング工程がある。この工程では、リングフレームと呼ばれる円形または方形の枠に、半導体ウエハ固定用のダイシングシートを貼着し、このダイシングシートに半導体ウエハを貼付し、回路毎にダイシングし、半導体チップとする。その後、必要に応じて行われるエキスパンド工程に続いて、たとえばエポキシ樹脂等のダイボンド用接着剤をチップ搭載用基板の端子部に塗布して半導体チップをチップ搭載用基板に接着するダイボンディング工程が行われる。さらに、ワイヤボンディング工程や検査工程などを経て、最終的にモールディング工程で樹脂封止を行い、半導体装置(製品)が製造される。
【0003】
一方、個片化された半導体チップをダイボンドせずに、収容・搬送することもある(ダイソート工程)。この工程では、半導体チップをダイシングシートからピックアップし、ダイソートシートに貼付して収容・搬送する。なお、この場合はアウトラインにてダイボンディング工程が行われる。
【0004】
ダイボンディング工程において、半導体チップをプリント配線基板に実装する場合には、半導体チップの回路面側の接続パッド部に共晶ハンダ、高温ハンダ、金等から成る導通用突起物(バンプ電極)を形成し、所謂フェースダウン方式により、それらのバンプ電極をチップ搭載用基板上の相対応する端子部に対面、接触させ、溶融/拡散接合するフリップチップ実装方法が採用されている。
【0005】
しかし、この方法によるときは、温度の周期的変動を受けると、半導体チップとチップ搭載用基板の熱膨張係数の違いにより接合部が破断する恐れがある。このため、フェースダウンで接続された半導体チップのバンプ電極が設けられた回路面全体と、相対向するチップ搭載用基板の間の間隙に液状の熱硬化性樹脂(アンダーフィル材)を注入、硬化させ、バンプ接合部全面をチップ搭載用基板に接合してバンプ電極に集中する熱応力を分散させ、破断を防止する方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、半導体チップの裏面(回路面の反対面)はアンダーフィル材に対する塗れ性が高い。そのため、半導体チップをフェースダウンでチップ搭載用基板上に接合し、チップと基板との間隙にアンダーフィル材を注入した際に、アンダーフィル材が半導体チップの裏面に這い上がり、外観不良を起こすと共に、製品の歩留まりを低下させるという問題がある。
【0007】
また、近年のICカードの普及にともない、その構成部材である半導体チップの薄型化が進められている。このため、従来350μm程度の厚みであったウエハを、50〜100μmあるいはそれ以下まで薄くすることが求められるようになり、以前にも増して、アンダーフィル材のチップ裏面への這い上がりが発生しやすくなっている。
【0008】
この問題の解決方法として、特定形状のカッターを用いて半導体ウエハをダイシングすることで、半導体チップの裏面と側面とが鋭角で交わる台形断面を有する半導体チップとし、アンダーフィル材のチップ裏面への這い上がりを防止する技術が、例えば、特許文献1(特開2002−164388号公報)などにより提案されている。
【0009】
しかしながら、このような半導体チップは、チップの裏面と側面とが鋭角で交わる台形断面を有するために、チップ端部の欠け(チッピング)が発生するおそれがある。
【0010】
また、特許文献1には、半導体チップの側面を矩形、あるいは曲線状にし、アンダーフィル材のチップ裏面への這い上がりを防止する技術が提案されているが、このような形状の半導体チップとするには、特別な形状のカッターやダイシング装置が必要となり、さらには、チッピングが発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−164388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものである。すなわち、本発明は、半導体ウエハのダイシング時、あるいは個片化された半導体チップの収容・搬送時に用いることで、半導体チップをフリップチップ実装する際にアンダーフィル材が半導体チップの裏面に這い上がることを抑制することができる粘着シート及び該粘着シートを用いる半導体装置の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)基材と、その片面に形成された粘着剤層とからなる粘着シートであって、
表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面(回路面の反対面)に該粘着剤層を貼付し、
24時間後に該粘着剤層を半導体ウエハから剥離した後の半導体ウエハの裏面におけるターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルの接触角が32.0°以上となる粘着シート。
(2)基材と、その片面に形成された粘着剤層とからなる粘着シートであって、
該粘着剤層がエネルギー線硬化型粘着剤組成物から形成されており、
該粘着剤層におけるターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルの接触角が20.0°以上となる粘着シート。
(3)基材と、その片面に形成された粘着剤層とからなる粘着シートであって、
該粘着剤層が非エネルギー線硬化型粘着剤組成物から形成されており、
該粘着剤層におけるターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルの接触角が35.0°以上となる粘着シート。
(4)該粘着剤層は、シリコーン化合物を含有する(1)〜(3)のいずれかに記載の粘着シート。
(5)半導体ウエハを個片化し半導体チップとする際に用いる(1)〜(4)のいずれかに記載の粘着シート。
(6)個片化された半導体チップを収容・搬送する際に用いる(1)〜(4)のいずれかに記載の粘着シート。
(7)上記(5)または(6)に記載の粘着シートから半導体チップをピックアップする工程、
ピックアップされた該半導体チップを、アンダーフィル材を介して基板にフリップチップ実装する工程を含む半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、極薄に研削された半導体ウエハであっても、半導体ウエハのダイシング時、あるいは個片化された半導体チップの収容・搬送時に用いることで、半導体チップをフリップチップ実装する際にアンダーフィル材が半導体チップの裏面に這い上がることを抑制することができる粘着シート及び該粘着シートを用いる半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る粘着シートを示す。
【図2】本発明に係る半導体装置の製造方法の一工程を示す。
【図3】本発明に係る半導体装置の製造方法の一工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい態様について、図面を参照にしながら、その最良の形態も含めてさらに具体的に説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明に係る粘着シート10は、基材1と、その片面に形成された粘着剤層2とからなる。本発明に係る粘着シート10の粘着剤層2を、表面に電極(例えばバンプ電極)の形成された半導体ウエハの裏面に貼付し、24時間後に粘着剤層2を半導体ウエハから剥離した後の半導体ウエハの裏面におけるターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルの接触角は32.0°以上、好ましくは32.0〜180.0°、さらに好ましくは34.0〜90.0°の範囲となる。
【0018】
また、本発明に係る粘着シート10の粘着剤層2におけるターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルの接触角は、粘着剤層2がエネルギー線硬化型粘着剤組成物で形成される場合、20.0°以上、好ましくは20.0〜180.0°、さらに好ましくは30.0〜90.0°の範囲となり、粘着剤層2が非エネルギー線硬化型粘着剤組成物で形成される場合、35.0°以上、好ましくは35.0〜180.0°、さらに好ましくは36.0〜90.0°の範囲となる。
【0019】
本発明に係る粘着シート10の粘着剤層2は、シリコーン化合物を含有することが好ましい。シリコーン化合物としては、特に限定されないが、例えば、シロキサン化合物、シロキサンオリゴマー、ポリシロキサンである。具体的には、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ジメチルシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体、ジフェニルシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものであるのが好ましい。
【0020】
シリコーン化合物の含有量は、粘着剤層中、好ましくは0.01〜0.5重量%、さらに好ましくは0.02〜0.2重量%である。
【0021】
上記物性を有する粘着シート10をダイシングシートとして用い、半導体ウエハを個片化し半導体チップとすることで、得られた半導体チップを基板にフリップチップ実装する際にアンダーフィル材が半導体チップの裏面に這い上がることを抑制することができる。
【0022】
また、上記物性を有する粘着シート10をダイソートシートとして用い、半導体チップを貼付して収容・搬送することで、得られた半導体チップを基板にフリップチップ実装する際にアンダーフィル材が半導体チップの裏面に這い上がることも抑制することができる。
【0023】
この機構は必ずしも明らかではないが、粘着剤層を半導体ウエハあるいは半導体チップの裏面に貼付し剥離することで、粘着剤層に含まれるシリコーン化合物がウエハあるいはチップの裏面に移行し、ウエハあるいはチップの裏面の表面活性が低下する結果、アンダーフィル材との親和性が低減したためと考えられる。
【0024】
一方、粘着シート10が上記物性を満たさない場合(上記範囲よりも小さい場合)、半導体チップをフリップチップ実装する際に、アンダーフィル材が半導体チップの裏面に這い上がり、外観不良を起こすと共に、製品の歩留まりが低下する。
【0025】
基材1の材質は、上記物性を満足する限り特に限定はされないが、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリイミドフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、フッ素樹脂フィルム、およびその水添加物または変性物等からなるフィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルム、共重合体フィルムも用いられ、中でもエキスパンド性を考慮すると、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、ポリ塩化ビニルフィルムが好ましい。上記の基材は1種単独でもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた複合フィルムであってもよい。
【0026】
また、後述するように、粘着剤層2を紫外線硬化型粘着剤で形成し、粘着剤を硬化するために照射するエネルギー線として紫外線を用いる場合には、紫外線に対して透明である基材が好ましい。なお、エネルギー線として電子線を用いる場合には透明である必要はない。上記のフィルムの他、これらを着色した透明フィルム、不透明フィルム等を用いることができる。
【0027】
また、基材1の上面、すなわち粘着剤層2が設けられる側の基材表面には粘着剤との密着性を向上するために、コロナ処理を施したり、プライマー層を設けてもよい。また、粘着剤層2とは反対面に各種の塗膜を塗工してもよい。粘着シート10は、上記のような基材上に粘着剤層を設けることで製造される。基材1の厚みは、好ましくは20〜450μm、さらに好ましくは25〜200μm、特に好ましくは50〜150μmの範囲にある。
【0028】
粘着剤層2は、従来より公知の種々の粘着剤により形成され得る。このような粘着剤としては、何ら限定されるものではないが、例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル等の粘着剤が用いられる。また、エネルギー線硬化型や加熱発泡型、水膨潤型の粘着剤も用いることができる。エネルギー線硬化(紫外線硬化、電子線硬化等)型粘着剤としては、特に紫外線硬化型粘着剤を用いることが好ましい。
【0029】
粘着剤層2をエネルギー線硬化型粘着剤で形成する場合、エネルギー線硬化型粘着成分と必要に応じ光重合開始剤とを配合した粘着剤組成物を用いて、粘着剤層を形成する。さらに、上記粘着剤組成物には、各種物性を改良するため、必要に応じ他の成分が含まれていてもよい。以下、エネルギー線硬化型粘着成分について、アクリル系粘着剤を例として具体的に説明する。
【0030】
エネルギー線硬化型粘着成分は、粘着剤組成物に十分な粘着性および造膜性(シート加工性)を付与するためにアクリル重合体(A)を含有し、またエネルギー線硬化性化合物(B)を含有する。エネルギー線硬化性化合物(B)は、またエネルギー線重合性基を含み、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化し、粘着剤組成物の粘着力を低下させる機能を有する。また、上記成分(A)および(B)の性質を兼ね備えるものとして、主鎖または側鎖に、エネルギー線重合性基が結合されてなるエネルギー線硬化型粘着性重合体(以下、成分(AB)と記載する場合がある)を用いてもよい。このようなエネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)は、粘着性とエネルギー線硬化性とを兼ね備える性質を有する。
【0031】
アクリル重合体(A)としては、従来公知のアクリル重合体を用いることができる。アクリル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上200万以下であることが好ましく、10万以上150万以下であることがより好ましい。
【0032】
アクリル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−70℃以上30℃以下、さらに好ましくは−65℃以上20℃以下、特に好ましくは−60℃以上10℃以下の範囲にある。
【0033】
上記アクリル重合体(A)を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体が挙げられる。例えば、アルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;環状骨格を有する(メタ)アクリレート、例えばシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イミドアクリレートなどが挙げられ;水酸基を有する2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどが挙げられる。また、上記アクリル重合体(A)は、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルアセテートなどが共重合されたアクリル系共重合体でもよい。
【0034】
エネルギー線硬化性化合物(B)は、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する化合物である。このエネルギー線重合性化合物の例としては、エネルギー線重合性基を有する低分子量化合物(単官能、多官能のモノマーおよびオリゴマー)があげられ、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジシクロペンタジエンジメトキシジアクリレート、イソボルニルアクリレートなどの環状脂肪族骨格含有アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート、イタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物が用いられる。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、通常は、分子量が100〜30000、好ましくは300〜10000程度である。
【0035】
一般的には成分(A)100重量部に対して、成分(B)は10〜400重量部、好ましくは30〜350重量部程度の割合で用いられる。
【0036】
上記成分(A)および(B)の性質を兼ね備えるエネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)は、主鎖または側鎖に、エネルギー線重合性基が結合されてなる。
【0037】
エネルギー線硬化型粘着性重合体の主骨格は特に限定はされず、粘着剤として汎用されているアクリル系共重合体であってもよく、またエステル型、エーテル型の何れであっても良いが、合成および粘着物性の制御が容易であることから、アクリル系共重合体を主骨格とすることが特に好ましい。
【0038】
エネルギー線硬化型粘着性重合体の主鎖または側鎖に結合するエネルギー線重合性基は、たとえばエネルギー線重合性の炭素−炭素二重結合を含む基であり、具体的には(メタ)アクリロイル基等を例示することができる。エネルギー線重合性基は、アルキレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基を介してエネルギー線硬化型粘着性重合体に結合していてもよい。
【0039】
エネルギー線重合性基が結合されたエネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)の重量平均分子量は、1万以上200万以下であることが好ましく、10万以上150万以下であることがより好ましい。またエネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)のガラス転移温度は、通常−70〜30℃程度である。
【0040】
エネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)は、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を含有するアクリル系粘着性重合体と、該官能基と反応する置換基とエネルギー線重合性炭素−炭素二重結合を1分子毎に1〜5個を有する重合性基含有化合物とを反応させて得られる。該重合性基含有化合物としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0041】
上記のようなアクリル重合体(A)およびエネルギー線硬化性化合物(B)又は、エネルギー線硬化型粘着性重合体(AB)を含むエネルギー線硬化型粘着成分は、エネルギー線照射により硬化する。エネルギー線としては、具体的には、紫外線、電子線等が用いられる。
【0042】
光重合開始剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光開始剤、アミンやキノン等の光増感剤などが挙げられ、具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが例示できる。エネルギー線として紫外線を用いる場合に、光重合開始剤を配合することにより照射時間、照射量を少なくすることができる。さらに、粘着剤層2には、前述したようにシリコーン化合物が配合される。
【0043】
粘着剤層2の厚みは、好ましくは2〜200μm、さらに好ましくは5〜50μm、特に好ましくは5〜30μmの範囲にある。
【0044】
また、粘着剤層2には、その使用前に粘着剤層を保護するために剥離シートが積層されていてもよい。剥離シートは、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルムまたはそれらの発泡フィルムや、グラシン紙、コート紙、ラミネート紙等の紙に、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤で剥離処理したものを使用することができる。
【0045】
基材1の表面に粘着剤層2を設ける方法は、剥離シート上に所定の膜厚になるように塗布し形成した粘着剤層2を基材1の表面に転写しても構わないし、基材1の表面に直接塗布して粘着剤層2を形成しても構わない。
【0046】
次に、本発明に係る粘着シート10を用いる半導体装置の製造方法について説明する。本発明に係る半導体装置の製造方法では、粘着シート10をダイシング工程に用いる場合とダイソート工程に用いる場合とがある。
【0047】
本発明に係る粘着シート10をダイシング工程に用いる半導体装置の製造方法は、半導体ウエハ11の裏面研削工程後、ウエハ11の研削面側に粘着シート10を貼付し、図2に示すように、ウエハ11のダイシングを行う。次いで、個片化された半導体チップ12を粘着シート10からピックアップし、ピックアップした半導体チップ12をフェースダウンで基板上に接合し、半導体チップ12と基板との間隙にアンダーフィル材を注入しフリップチップ実装する。その後、必要に応じて樹脂封止などの工程を経て、半導体装置が製造される。
【0048】
半導体ウエハ11はシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。ウエハ表面へのバンプ電極13の形成は、めっき法、ペースト印刷法、ボール搭載法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。半導体ウエハのバンプ電極形成工程において、所定のバンプ電極13が形成される。
【0049】
粘着シート10のウエハ裏面への貼付は、マウンターと呼ばれる装置(貼合装置)により行われるのが一般的だが特に限定はされない。
【0050】
ダイシング工程は、本発明の粘着シート10を用いる限り、特に限定はされない。一例として、ウエハ11のダイシング時には粘着シート10の周辺部をリングフレーム5により固定した後、ダイシングブレード3などの回転丸刃を用いるなどの公知の手法によりウエハ11のチップ化を行う方法などが挙げられる。
【0051】
次いで、粘着シート10からチップ12をピックアップする。なお、粘着シート10の粘着剤層2を紫外線硬化型粘着剤で形成した場合には、ピックアップに先立ち、粘着剤層2に紫外線を照射して粘着力を低下した後にチップ12のピックアップを行う。
【0052】
また、ダイシング終了後に、粘着シート10上に整列しているチップ群を、ピックアップ用の他の粘着シートに転写した後に、チップのピックアップを行ってもよい。ピックアップされたチップ12は、フェースダウンで基板上に接合される。次いで、チップ12と基板との間隙にアンダーフィル材が注入されてフリップチップ実装され、その後、必要に応じて樹脂封止などの工程を経て半導体装置が製造される。
【0053】
図3に示すように、本発明の粘着シート10’をダイソート工程に用いる半導体装置の製造方法は、何らかの方法で個片化された半導体チップ12’をピックアップし、リングフレーム5’で固定された粘着シート10’の粘着剤層2’にチップ12’を貼付し、収容・搬送する。収容・搬送されたチップ12’は、ダイボンディング工程においてピックアップされ、フェースダウンで基板上に接合される。次いで、チップ12と基板との間隙にアンダーフィル材が注入されてフリップチップ実装される。その後、必要に応じて樹脂封止などの工程を経て、半導体装置が製造される。半導体チップ12’のピックアップ及び粘着シート10’への貼付は、通常のダイボンド装置を使用することにより行うことができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例においては、半導体ウエハにおける接触角測定、粘着剤層における接触角測定およびアンダーフィル剤のチップ裏面への這い上がり確認は以下のように行った。
【0055】
<半導体ウエハにおける接触角測定>
半導体ウエハとして、シリコンウエハを用いた。シリコンウエハのミラー面に25mm幅の粘着シート10の粘着剤層2を貼付し、室温標準環境室(23±2℃、50±5%RH)にて、24時間放置した。なお、貼付はゴムロール(2kg、ゴム硬度80Hs)を1往復させて行った。
【0056】
粘着シート10をウエハに対して180°方向に300mm/minの速度で剥離した。なお、粘着剤層2を紫外線硬化型粘着剤で形成した場合には、粘着シート10を剥離する前に紫外線を照射した。
【0057】
粘着シート10を剥離したウエハの面に、ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル(日本化薬製「TGE−H」)を10ml滴下し、10分間放置した。ウエハとターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルとの接触角をKRUSS社製DSA100を用いて測定した。
【0058】
<粘着剤層における接触角測定>
粘着シート10の粘着剤層2に、ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル(日本化薬製「TGE−H」)を10ml滴下し、10分間放置した。なお、粘着剤層2を紫外線硬化型粘着剤で形成した場合には、粘着剤層2に剥離フィルムを貼付した状態で基材1側から紫外線を照射し、剥離フィルムを剥離した後、粘着剤層2にターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルを10ml滴下し、10分間放置した。粘着剤層2とターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルとの接触角をKRUSS社製DSA100を用いて測定した。
【0059】
<紫外線照射条件>
紫外線照射装置:リンテック社製 RAD2000m/12
紫外線照射速度:50mm/sec
照度:240mW/cm
光量:180mJ/cm
【0060】
<アンダーフィル材のチップ裏面への這い上がり確認>
シリコンウエハ(直径:150mm、厚み:200μm)の裏面(#2000研磨面)に、粘着シート10の粘着剤層2を貼合装置(リンテック社製 RAD-2500m/12)を用いて貼付し、ダイシングを行い、10×10mmのチップを作製した。粘着シート10の粘着剤層2を紫外線硬化型粘着剤で形成した場合には、粘着剤層2に紫外線を照射して粘着力を低下させた。
【0061】
基板として、ガラスエポキシ樹脂基板(Panasonic電工社製)の表面にソルダーレジスト(太陽インキ社製 PSR4000AUS303)を1.6mm厚で有している基板を用意した。粘着シート10からチップをピックアップし、チップの粘着シート10貼付面と反対側の面がソルダーレジスト面に接するように静置した。
【0062】
アンダーフィル材としてターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル(日本化薬製「TGE−H」)を用い、注射針(TERUMO社製「23G」)を取り付けたシリンジ(TERUMO社製「SS−01T」)から、基板上に置かれたチップの1辺に、ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルを30μl塗布し、チップ裏面への塗布液の這い上がりを観察した。
【0063】
(実施例1)
アクリル系共重合体(ブチルアクリレート/アクリル酸=91/9(重量比)、重量平均分子量=78万、Tg=−45℃)100重量部に対し、エネルギー線硬化性化合物として2〜3官能ウレタンアクリレート(重量平均分子量=8000)303重量部を配合したエネルギー線硬化型粘着成分に、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「イルガキュア184」)10.8重量部、イソシアナート化合物(東洋インキ製造社製「オリバイン BHS 8515」)31.3重量部、およびシリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)0.73重量部を配合(全て固形分換算による配合比)し、粘着剤組成物とした。なお、上記シリコーンの含有量は、粘着剤組成物中、0.16重量%であった。
【0064】
剥離フィルムに、上記粘着剤組成物を塗布した後に、乾燥(オーブンにて100℃、1分間)させ、厚み10μmの粘着剤層を作製した。次いで、基材として、厚さ80μmのポリ塩化ビニルフィルム(フタル酸エステル系可塑剤添加量20〜40%)を用い、粘着剤層を転写し、粘着シートを得た。この粘着シートについて、半導体ウエハにおける接触角測定、粘着剤層における接触角測定およびアンダーフィル材のチップ裏面への這い上がり確認を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2)
基材として、片面にコロナ処理を施した厚さ80μmのエチレン−メタクリル酸共重合体フィルム(エチレン/メタクリル酸=91/9(重量比))を用い、このコロナ処理面に粘着剤層を転写した以外は実施例1と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
シリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)の添加量を0.36重量部(固形分換算)とした以外は実施例2と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記シリコーンの含有量は、粘着剤組成物中、0.081重量%であった。
【0067】
(実施例4)
シリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)の添加量を0.18重量部(固形分換算)とした以外は実施例2と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記シリコーンの含有量は、粘着剤組成物中、0.040重量%であった。
【0068】
(実施例5)
アクリル系共重合体(ブチルアクリレート/アクリル酸=91/9(重量比)、重量平均分子量=78万、Tg=−45℃)100重量部に対し、エネルギー線硬化性化合物として3〜4官能ウレタンアクリレート(重量平均分子量=8000)142.3重量部を配合したエネルギー線硬化型粘着成分に、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「イルガキュア184」)4.27重量部、イソシアナート化合物(東洋インキ製造社製「オリバイン BHS 8515」)12.5重量部、およびシリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)0.11重量部を配合(全て固形分換算による配合比)し、粘着剤組成物とした以外は実施例2と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記シリコーンの含有量は、粘着剤組成物中、0.042重量%であった。
【0069】
(実施例6)
アクリル系粘着性重合体(ブチルアクリレート/メチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート/アクリルアミド=68.5/30/0.5/1(重量比)、重量平均分子量=60万、Tg=−37℃)100重量部に対して、イソシアナート化合物(綜研化学社製「TD−75」)2.25重量部およびシリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)0.043重量部を配合(全て固形分換算による配合比)し、粘着剤組成物とした以外は実施例2と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記シリコーンの含有量は、粘着剤組成物中、0.042重量%であった。
【0070】
(実施例7)
アクリル系粘着性重合体(2−エチルヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート=80/10/10(重量比)、重量平均分子量=50万、Tg=−55℃)100重量部に対して、イソシアナート化合物(東洋インキ製造社製「オリバイン BHS 8515」)1.88重量部およびシリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)0.043重量部を配合(全て固形分換算による配合比)し、粘着剤組成物とした以外は実施例2と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。なお、上記シリコーンの含有量は、粘着剤組成物中、0.042重量%であった。
【0071】
(比較例1)
シリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例2)
シリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)を添加しなかったこと以外は実施例2と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例3)
シリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)を添加しなかったこと以外は実施例5と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(比較例4)
シリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)を添加しなかったこと以外は実施例6と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例5)
シリコーン(東レ・ダウコーニングシリコーン社製「SH 28」)を添加しなかったこと以外は実施例7と同様の方法で粘着シートを得、評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
実施例1〜7の粘着シートは、チップ裏面へのアンダーフィル材の這い上がりが起こらなかった。
【0078】
比較例1〜5の粘着シートは、チップ裏面へのアンダーフィル材の這い上がりが起きた。
【符号の説明】
【0079】
10(10’)…粘着シート
1(1’)…基材
2(2’)…粘着剤層
3…ダイシングブレード
5(5’)…リングフレーム
11…半導体ウエハ
12(12’)…半導体チップ
13(13’)…バンプ電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、その片面に形成された粘着剤層とからなる粘着シートであって、
表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面に該粘着剤層を貼付し、
24時間後に該粘着剤層を半導体ウエハから剥離した後の半導体ウエハの裏面におけるターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルの接触角が32.0°以上となる粘着シート。
【請求項2】
基材と、その片面に形成された粘着剤層とからなる粘着シートであって、
該粘着剤層がエネルギー線硬化型粘着剤組成物から形成されており、
該粘着剤層におけるターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルの接触角が20.0°以上となる粘着シート。
【請求項3】
基材と、その片面に形成された粘着剤層とからなる粘着シートであって、
該粘着剤層が非エネルギー線硬化型粘着剤組成物から形成されており、
該粘着剤層におけるターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテルの接触角が35.0°以上となる粘着シート。
【請求項4】
該粘着剤層は、シリコーン化合物を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項5】
半導体ウエハを個片化し半導体チップとする際に用いる請求項1〜4のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項6】
個片化された半導体チップを収容・搬送する際に用いる請求項1〜4のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項7】
請求項5または6に記載の粘着シートから半導体チップをピックアップする工程、
ピックアップされた該半導体チップを、アンダーフィル材を介して基板にフリップチップ実装する工程を含む半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−238799(P2010−238799A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83104(P2009−83104)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】