説明

糸継ぎ装置及び糸継ぎ方法

【課題】繊維糸条同士を均一に交絡させることで耐炎化工程中の繊維糸条の糸切れを防止し、耐炎化処理温度の低下幅を小さくすることができる糸継ぎ装置及び糸継ぎ方法を提供する。
【解決手段】二本の集合トウ2a,2bの一部を重ね合わせ、この重ね合わせた部分を前後で挟持する一対の挟持部3,4を近接可能に設け、挟持部3,4間に集合トウ2a,2bの重ね合わせた部分を保持した状態で圧縮流体を噴射して交絡させる交絡装置7a,7b,7cを少なくとも三つ配置し、各交絡装置7a,7b,7cに隣接して挟持部3,4の近接時に各交絡装置7a,7b,7cに保持された集合トウ2a,2bの重ね合わせた部分に弛緩量を付与する重錘23を着脱可能に設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭素繊維等の糸条を交絡させる糸継ぎ装置及び糸継ぎ方法に関し、特に複数の小トウに幅方向に分割可能な集合トウである炭素繊維前躯体の一方の小トウの終端部と他方の小トウの始端部とを糸継ぎする糸継ぎ装置及び糸継ぎ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭素繊維の製造工程(耐炎化工程)における操業性を向上させるために、その炭素繊維の前躯体となるアクリル系等の糸条繊維の端部同士を交絡させて接合し、連続的に炭素繊維の製造工程に糸条繊維を供給するための糸継ぎ装置が知られている。
この糸継ぎ装置としては、例えば、特許文献1に開示されているように、押え台と押え棒とからなる糸条を挟持するための一対のクランプ手段と、このクランプ手段間に設けられた複数の交絡手段とを備え、糸条を弛緩するためにクランプ手段の間隔が縮まるようになっているものが提案されている。
【0003】
また、交絡処理室の糸条の長手方向に3個以上の交絡手段を備え、各交絡手段の両側にそれぞれ糸条の長手方向に横切る方向に揺動可能に支持された糸把持手段と、この糸把持手段と交絡手段を揺動させる揺動操作手段とを設け、交絡手段相互の間隔を70〜300mmとしたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に開示された装置の糸把持手段を揺動させる揺動操作手段は、最初に任意の1個の糸把持手段で糸条を把持し、次にその1個の糸把持手段から離れる方向に向けて各糸把持手段で順次糸条を把持せしめる機構を有している。
【0004】
さらに、2本の繊維糸条の端部を引き揃え同端部を流体で絡合ノズルから連続的に流体を噴射して2本の繊維糸条の接続領域にわたって、少なくとも1回往復させて糸条を扁平状に接続させる方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
そして、重ね合わせた糸条を把持する把持装置と把持装置間に複数個の交絡手段を配置した装置で扁平状に交絡する装置が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特公平4−33711号公報
【特許文献2】特許第3389624号公報
【特許文献3】特開2002−302342号公報
【特許文献4】特願2003−503871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、クランプ手段間の弛み寸法は所定の寸法に規定されているが、複数個の交絡手段を設けたときには、バルーニング防止プレートを設けているだけで各交絡手段の弛み代を個々に規制していないため、交絡が不揃いとなり、十分な糸継ぎ効果が得られないとい課題がある。また、局部的に糸条密度の高い部分ができ、耐炎化工程中にその高密度部分が蓄熱し、糸切れを起こすおそれがあるため、耐炎化処理温度を低下させなければならないという課題がある。
【0006】
また、特許文献2に開示された技術では、糸把持手段間に交絡手段が設けられ、さらに、交絡手段の両側に揺動による糸弛緩手段により個々に弛み代を設けられるようになっているが、個々に把持手段や糸弛緩手段が設けられているため、複数個の交絡を必要とする場合には装置が大型化するという課題がある。
【0007】
さらに、特許文献3に開示された技術では、ニップ間を近接させることにより糸を弛緩させ、そして、絡合ノズルが移動して繊維糸条の端部同士を交絡させるため、絡合ノズルから流体を噴射させた初期には多くの交絡部分が形成され、その後徐々に交絡形成が減少してしまう。このため、繊維糸条の交絡部分が全体的に不揃いとなり、十分な糸継ぎ効果が得られないとい課題がある。また、局部的に糸条密度の高い部分ができ、耐炎化工程中にその高密度部分が蓄熱し、糸切れを起こすおそれがあるため、耐炎化処理温度を低下させなければならないという課題がある。
【0008】
そして、特許文献4に開示された技術では、糸把持するニップ間に複数個の交絡手段を配置しているが、糸把持装置を近接することにより糸を弛緩させ、複数個の交絡手段により同時に交絡させるため、個々の交絡が不揃いとなり、交絡個数分の糸継ぎ効果が得られず、必要以上に交絡個数を増加させなければならないという課題がある。
【0009】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、繊維糸条同士を均一に交絡させることで耐炎化工程中の繊維糸条の糸切れを防止し、耐炎化処理温度の低下幅を小さくすることができる糸継ぎ装置及び糸継ぎ方法を提供するものである。
また、小型で、繊維糸条同士を均一に交絡させることができ、少ない交絡個数で十分な糸継ぎ効果を得ることができる糸継ぎ装置及び糸継ぎ方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、二本の繊維糸条の一部を重ね合わせ、この重ね合わせた部分を前後で挟持する一対の糸条挟持部を近接可能に設け、前記糸条挟持部間に前記繊維糸条の重ね合わせた部分を保持した状態で圧縮流体を噴射して交絡させる交絡装置を少なくとも三つ配置し、各交絡装置に隣接して前記糸条挟持部の近接時に各交絡装置に保持された繊維糸条の重ね合わせた部分に弛緩量を付与する重錘を着脱可能に設けたことを特徴とする。
この場合、前記交絡装置間の間隔が30〜70mmに設定され、前記弛緩量が1〜5mmに設定されていてもよい。
【0011】
また、本発明は、前記繊維糸条は複数の小トウに幅方向に分割可能に束ねられた集合トウであって、前記交絡装置には分割された各小トウ同士を幅方向で間隔をおいて保持する小トウ保持部が設けられていることを特徴とする。
この場合、前記小トウ保持部に前記小トウのうち一方の小トウの終端部と前記小トウのうち他方の小トウの始端部とが重ね合わせた状態で保持されていてもよいし、さらに、前記一方の小トウの終端部と前記他方の小トウの始端部とを予め耐炎化処理してもよい。
【0012】
そして、本発明は、二本の繊維糸条の一部を重ね合わせ、糸条挟持部によってこの重ね合わせた部分を前後で挟持し、この糸条挟持部間に前記繊維糸条の重ね合わせた部分を保持した状態で圧縮流体を噴射して交絡させる交絡装置を少なくとも三つ配置し、前記交絡装置の各々に隣接した部位に重錘により外力を付与した状態で各交絡装置に保持された前記繊維糸条の重ね合わせた部分を弛緩し、その後、重錘による外力の付与を解除し、これにより各交絡装置近傍に形成された弛緩部分を弛緩量として各交絡装置により前記繊維糸条を交絡することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、交絡装置毎に一つの重錘を設け、一対の糸条挟持部を設ければよいため、糸継ぎ装置全体を小型化することができる。
また、各交絡装置に保持された繊維糸条の重ね合わせた部分に弛緩量を付与する重錘がそれぞれ設けられているため、交絡装置毎の弛緩量を一定に保ちつつ、交絡装置毎に繊維糸条を交絡させることができる。よって、繊維糸条を確実に交絡させることができ、少ない交絡個数で十分な糸継ぎ効果を得ることができる。また、各交絡部を均一にすることができるため、耐炎化工程中の繊維糸条の糸切れを防止し、耐炎化処理温度の低下幅を小さくすることができる。
【0014】
とりわけ、複数の小トウに幅方向に分割可能に束ねられた集合トウにあっては、交絡装置に、各小トウ同士を幅方向で間隔をおいて保持する小トウ保持部が設けられているため、分割した小トウ毎の一方の始端部と他方の終端部とを確実に交絡させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図8は、本発明に係る糸継ぎ装置1を示すものであって、操作手順に沿って順番に配列している。尚、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1に示すように、糸継ぎ装置1は、一対の挟持部3,4を備えている。この挟持部3,4は、一方の集合トウ2aの終端部と他方の集合トウ2bの始端部とのそれぞれ重ね合わせた部分を前後で挟持するものであって、一方の挟持部3が他方の挟持部4に対して近接可能に設けられている。挟持部3,4は、それぞれ二つの挟持部材3a,3b,4a,4bからなり、一方の挟持部材3a,4aが上下方向に当接、離反可能に設けられている。これら挟持部材3a,4a間、挟持部材3b、4b間に集合トウ2a,2bが配索され、弛みのない状態で挟持部3,4に挟持されるようになっている。
【0016】
集合トウ2a,2bは、小トウ5a,5bをそれぞれ幅方向に分割可能に複数個並列して束ねられたものであり、図に示した集合トウ2a,2bは、小トウ5a,5bをそれぞれの幅方向に分割可能に3個並列して束ねられたものである。この集合トウ2a,2bとしては、通常アクリル系繊維糸条が用いられる。このアクリル系繊維糸条は、アクリロニトリルを主成分として含有するアクリル繊維であれば特に限定されるものでないが、アクリロニトリル単位85%質量以上、より好ましくは90%以上を含有するアクリロニトリル系重合体を使用するアクリル繊維であることが好ましい。このアクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリルの単独重合体、又は共重合体、或いはこれらの重合体の混合重合体を使用し得る。さらに、アクリロニトリル系重合体はアクリロニトリルと共重合しうる単量体とアクリロニトリルの共重合成生成物であり、アクリロニトリルと共重合しうる単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の酸類、及びそれらの塩類や、マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、スチレンスルホン酸ソーダ、アリルスルホン酸ソーダ、β−スチレンスルホン酸ソーダ、メタアリルスルホン酸ソーダ等のスルホン基を含む重合性不飽和単量体、2−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン等のピリジン基を含む重合性不飽和単量体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
挟持部3,4間には、集合トウ2a,2bの長手方向に沿うように交絡装置7a,7b,7cが三箇所等間隔に設けられている。
交絡装置7a,7b,7cは、集合トウ2a,2bの重ね合わせた部分を保持して交絡させるためのものである。尚、以下の説明において、交絡装置7aに保持された集合トウ2a,2bの重ね合わせた部分を交絡部6a、交絡装置7bに保持された集合トウ2a,2bの重ね合わせた部分を交絡部6b、交絡装置7cに保持された集合トウ2a,2bの重ね合わせた部分を交絡部6cという。
【0018】
図10に示すように、交絡装置7a,7b,7cは、圧縮流体である圧縮空気等を噴射する第一ノズル8と第二ノズル9とを備え、各々第一ノズル8と第二ノズル9とが重ね合わさっている。集合トウ2a,2bの各交絡部6a,6b,6cは、この第一ノズル8と第二ノズル9との間に分割された状態(小トウ5a,5b毎の状態)でそれぞれ収容されるようになっている。
第一ノズル8は、その内部に圧縮空気が導入される通路10が形成されている。第一ノズル8の一側面には、この通路10に連通する圧縮空気導入口12が設けられ、この圧縮空気導入口12が不図示の圧縮機に接続されている。
【0019】
第一ノズル8の第二ノズル9との合わせ面14には、各小トウ5a,5bを収容して保持する小トウ保持部15,15,15が小トウ5a,5bの個数に対応するように間隔をあけて三箇所形成されている。各小トウ保持部15は凹状であって、小トウ5a,5bの長手方向に沿うように形成されており、それぞれ側面16と底面17とを有している。
この底面17と通路10との間には複数の細孔18が幅方向に沿うように等間隔に一列で形成されている。これら細孔18から圧縮空気が第二ノズル9側に向って噴射するようになっている。
【0020】
尚、ここでは、それぞれ小トウ保持部15の側面16の高さHは2.5mm、側面16間の幅Wは19mmに設定され、細孔18と後述する細孔20の径はφ0.5mm、それぞれ細孔18の間隔Xは0.8mmに設定されている。
また、側面16間の幅Wは、0.002mm/texから0.005mm/texであることが好ましい。側面16間の幅Wが0.002mm/texより小さい場合には、小トウ5a,5bを挟持部3,4に挟持させる際に捩れが生じやすい。このため、耐炎化工程で集合トウ2a,2bが捩れによりその厚みが厚くなり蓄熱しやすく、集合トウ2a,2bが破断や焼き切れを起こしやすくなるので好ましくない。また、側面16間の幅Wが0.005mm/texより大きい場合には、小トウ5a,5bを開繊するのが困難となり、接続部(交絡部)でのムラが発生し、接続強度が低下するために好ましくない。集合トウ2a,2bのトウ幅WAは、側面16の幅Wの小トウ5a,5bの本数分の幅と小トウ保持部15の側面16間の壁幅を足したものとなっている。
【0021】
第二ノズル9は、第一ノズル8の各小トウ保持部15を覆うように第一ノズル8にセットされている。第二ノズル9は、第一ノズル8と同様にその内部に圧縮空気が導入される通路11がそれぞれ形成されている。第二ノズル9の一側面には、この通路11に連通する圧縮空気導入口13が設けられ、これら圧縮空気導入口13が不図示の圧縮機に接続されている。
第二ノズル9の第一ノズル8との合わせ面19と通路11との間には複数の細孔20が第一ノズル8に形成されている細孔18に対応する部分に形成されている。これら細孔20から圧縮空気が第一ノズル8側に向って噴射するようになっている。
【0022】
したがって、一方の集合トウ2aの終端部と他方の集合トウ2bの始端部は、一方の小トウ5aの終端部と他方の小トウ5bの始端部とが各々重ね合わせた状態で小トウ保持部15に収容され、小トウ保持部15の側面16と底面17及び第二ノズル9の合わせ面19とで周囲を略矩形状に囲まれた状態で小トウ保持部15毎に各ノズル8,9によって扁平状に交絡される(糸継ぎされる)ようになっている。
ここで、それぞれ交絡装置7a,7b,7c間の間隔L1(図1参照)は、30〜70mmであることが望ましい。間隔L1が30mm未満では、各交絡部6a,6b,6cがそれぞれ重なってしまい、十分な糸継ぎ効果が得られないおそれがある。一方、間隔L1が70mmを超えると必要以上に接続長さ(糸継ぎ長さ)を延ばし、接続部の接続低下、作業性の低下を伴い、接続するための装置(糸継ぎ装置1)が大きくなるため好ましくない。
【0023】
図1に示すように、各交絡装置7a,7b,7cの近傍には、弛緩部21a,21b,21cが設けられている。弛緩部21a,21b,21cは、各交絡装置7a,7b,7c毎に集合トウ2a,2bの各交絡部6a,6b,6cの近傍に弛緩部分を形成するためのものであって、それぞれ断面略矩形のベース部材22と重錘23とで構成され、重錘23がベース部材22に対して上下方向に着脱自在になっている。ベース部材22は、各交絡部6a,6b,6cの弛緩量を決定するものであって、集合トウ2a,2bの下方に一定の間隔dをあけて配置されている。
【0024】
そして、重錘23を集合トウ2a,2bの上部からベース部材22に装着すると、集合トウ2a,2bの各交絡部6a,6b,6cの近傍は、重錘23の重みによってベース部材22の上面まで弛緩され弛緩部分を形成する(図2参照)。つまり、集合トウ2a,2bとベース部材22との間に予め設けられている間隔dによって各交絡部6a,6b,6cの弛緩量が決定し、重錘23によって弛緩部分を形成するようになっている。
尚、弛緩部21aは交絡装置7aに対応する交絡部6aの近傍に、弛緩部21bは交絡装置7bに対応する交絡部6bの近傍に、弛緩部21cは交絡装置7cに対応する交絡部6cの近傍に弛緩部分を形成するようになっている。
【0025】
図2に示すように、一方の挟持部3は、それぞれ交絡装置7a,7b,7c毎の各交絡部6a,6b,6cの弛緩量に基づいて他方の挟持部4側に向って(矢印B方向に向って)移動する。この挟持部3の移動距離(弛緩量)L2は、交絡部一つあたり1〜5mmが好ましい。尚、交絡部一つあたりの移動距離が1mm未満の場合では交絡が十分でなく糸継ぎ効果が得られない。一方、交絡部一つあたりの移動距離が5mmを超える場合では交絡させた交絡部の厚みが厚くなり、例えば、耐炎化工程中にその交絡部が蓄熱しやすくなり破断や焼き切れを起こすおそれがあるため、好ましくない。すなわち、本実施形態においては、交絡装置によって交絡させる箇所が三箇所である(交絡部が三つである)ため、移動距離L2は、3〜15mmであることが好ましい。
【0026】
次に、糸継ぎ装置1の糸継ぎ動作について図1〜図8に基づいて説明する。
まず、図1に示すように、一方の集合トウ2aの終端部と、他方の集合トウ2bの始端部とを分割(本実施形態においては三分割)し、それぞれ小トウ5a,5bの幅を引き揃える。そして、一方の小トウ5aの終端部と、他方の小トウ5bの始端部とをそれぞれ重ね合わせ、弛みのない状態にしてその重ね合わせた部分を前後で挟持する。尚、それぞれ小トウ5aの終端部と小トウ5bの始端部は、予め耐炎化処理されている。
【0027】
次に、挟持部3,4間に設置されている交絡装置7a,7b,7cに各小トウ5a,5bをセットする。セットの方法としては、交絡装置7a,7b,7cの第一ノズル8に形成されている小トウ保持部15にそれぞれ小トウ5a,5bを収容し、その後第二ノズル9を第一ノズル8に重ね合わせて固定する。
次に、図2に示すように、各交絡装置7a,7b,7cに隣接して設けられている弛緩部21a,21b,21cによって各交絡部6a,6b,6cの近傍にそれぞれ弛緩部分を形成する。具体的には、弛緩部21a,21b,21cの重錘23を用いて小トウ5a,5bをその重錘23の重みでベース部材22の上面まで弛ませる。
すると、一方の挟持部3が各交絡部6a,6b,6cの弛緩量に基づいて他方の挟持部4側に向って(矢印B方向に向って)移動する(移動距離L2)。
【0028】
次に、図3に示すように、交絡装置7aに対応する弛緩部21aの重錘23を外す、そして交絡装置7aの各ノズル8,9から圧縮空気を噴射する(図10参照)。すると、交絡装置7a内に保持されている交絡部6aが交絡され、弛緩部分がなくなる(図4参照)。
尚、圧縮空気のエア圧は、0.3〜0.6MPaであることが好ましい。エア圧が0.3MPaよりも低い場合は交絡が十分でないおそれがある。エア圧が0.6MPaを超える場合は糸切れが生じるおそれがある。また、圧縮空気の噴射時間は5秒以上が好ましい。
【0029】
次に、図5に示すように、交絡装置7bに対応する弛緩部21bの重錘23を外す、そして交絡装置7bの各ノズル8,9から圧縮空気を噴射する。すると、交絡装置7bに保持されている交絡部6bが交絡され、弛緩部分がなくなる(図6参照)。
【0030】
同様に、図7、図8に示すように、弛緩部21cの重錘23を外し、交絡装置7cによって交絡部6cを交絡する。
このようにして糸継ぎされた集合トウ2a,2bは、図9(a)、図9(b)に示すように、各交絡装置7a,7b,7cによって三箇所の各交絡部6a,6b,6cがそれぞれ確実、且つ均一に交絡された状態になっている。
【実施例】
【0031】
次に、この発明の実施例と比較例を具体的に示して糸継ぎ方法を説明する。尚、本発明の実施例は以下に記載された事項によって限定されるものではない。
(実施例)
まず、単糸繊度1.2dTex/フィラメント、フィラメント数50000のアクリル繊維(小トウ)を三本集合させた集合トウ(フィラメント数150000)である炭素繊維前躯体を二つ用意し、一方の炭素繊維前躯体の終端部と、他方の炭素繊維前躯体の始端部とを耐炎化処理として240℃の熱風が循環している炉内で6.5m/texの張力下で70分処理を行い、密度1.36g/cm3とした。
【0032】
次に、一方の炭素繊維前躯体においては終端部の小トウのトウ幅を17.5mmに引き揃え、他方の炭素繊維前躯体においては始端部の小トウのトウ幅を18mmに引き揃え、それぞれを重ね合わせて糸継ぎ装置1の挟持部3,4によって弛みのないように挟持した。尚、この実施例においては、小トウの幅をそれぞれ17.5mm、18mmとして、重ね合わせるそれぞれの小トウのトウ幅に多少の誤差(0.5mmの誤差)がある場合について実施し、その誤差によって問題が発生するかどうかを確認したが、当然のことながらそれぞれのトウ幅は同等であることが望ましい。
【0033】
次に、交絡装置の小トウ保持部15(図10参照)にそれぞれ小トウをセットし、弛緩部21の重錘23によって各小トウに弛緩部分を形成した。尚、この実施例においては交絡装置を5個設置し、それぞれ交絡装置間の間隔L1(図1参照)を60mmとした。また、弛緩箇所毎(交絡部一箇所あたり)の弛緩量を2mm、つまり、挟持部3の移動距離L2(図2参照)を2mm×5(交絡装置の数)=10mmとした。
次に、第一ノズル8、第二ノズル9より0.55MPaの圧縮空気を5秒噴射させ、一方の炭素繊維前躯体の終端部と他方の炭素繊維前躯体の始端部とを扁平状に交絡させた。
【0034】
このように糸継ぎ(交絡)した炭素繊維前躯体を227〜248℃の熱風が循環している耐炎化炉にて工程張力が24.5mN/texで60分間の耐炎化処理し、300〜600℃、1150〜1250℃の温度分布を有する窒素雰囲気中で5mN/tex、16mN/texで各1.5分間の炭素化処理を行い、工程通過性を確認した。その結果、それぞれ重ね合わせた小トウのトウ幅に多少の誤差がある場合であっても、糸の切断等はなかった。
【0035】
(比較例)
実施例に対して、弛緩箇所毎(交絡部一箇所あたり)の弛緩量を7mm、つまり、挟持部3の移動距離L2(図2参照)を7mm×5(交絡装置の数)=35mmとし、それ以外の工程は、実施例と同様の条件とした。
その結果、各交絡装置における交絡部の弛緩量が多く、交絡部の厚みが厚くなり、耐炎化工程でスモークが発生し、糸が切断した。
【0036】
したがって、上述の実施形態によれば、集合トウ2a,2bの小トウ5a,5bのフィラメント数が48000本以上の太い炭素繊維前躯体であっても、交絡装置7a,7b,7cの小トウ保持部15によって小トウ5a,5b毎に均一に扁平状な交絡部を形成することができる。このため、例えば、耐炎化炉に炭素繊維前躯体を給糸する給糸工程と、耐炎化炉にて炭素繊維前躯体を耐炎化処理する耐炎化工程との間で小トウが捩れることを防止することができる。
また、小トウ保持部15によって確実に小トウ5a,5b毎に交絡することができるため、複数本に分割可能な糸(例えば、本実施形態の集合トウ2a,2b)の糸継ぎ作業を迅速化させることができ、分割可能な糸での接続後(交絡後)の糸の長さの不揃いをなくすことができる。
【0037】
さらに、交絡装置7a,7b,7c毎に弛緩部21が設けられているため、交絡部6a,6b,6c毎に所定の弛緩量(交絡部一つあたり1〜5mm)を確保することができるため、それぞれ均一に交絡することができる。よって、耐炎化工程中の各交絡部6a,6b,6cの蓄熱を防止し、糸切れを防止することができる。
【0038】
そして、予め一方の小トウ5aの終端部と他方の小トウ5bの始端部を耐炎化処理し、その後糸継ぎ装置1によって交絡させることで確実に耐炎化工程で破断や糸切れを起こすことなく耐炎化工程通過を可能にすることができる。よって、耐炎化処理温度を低下させる必要がなくなる。
また、それぞれの交絡装置7a,7b,7cで確実、且つ均一な交絡部6a,6b,6cを形成することができるため、少ない交絡個数で十分な糸継ぎ効果を得ることができると共に、交絡装置を複数個(本実施形態においては三個)配置した場合であっても、一対の挟持部3,4だけで集合トウ2a,2bを挟持するため、コンパクトで持ち運び可能な糸継ぎ装置1にすることができる。
【0039】
尚、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
また、上述した実施形態では、例えば、挟持部3,4間に三つの交絡装置7a,7b,7cを設置した場合について、さらに、上述した実施例では五つの交絡装置を設置した場合について説明したが、交絡装置の設置数は三つ以上であればよい。この場合、弛緩部の個数も交絡装置の設置数に対応する。
【0040】
そして、上述した実施形態では、例えば、弛緩部21a,21b,21cが断面略矩形のベース部材22と重錘23とで構成されている場合について説明したが、集合トウ2a,2bの各交絡部6a,6b,6cの弛緩量をそれぞれ一定にできれば重錘だけでもよい。
また、上述した実施形態では、例えば、弛緩部21a,21b,21cのベース部材22と重錘23が断面略矩形である場合について説明したが、集合トウ2a,2bの各交絡部6a,6b,6cの近傍に弛緩部分を形成できる形状であればよい。
【0041】
さらに、上述した実施形態では、例えば、集合トウ2a,2bが小トウ5a,5bを三本束ねたものである場合について説明したが、小トウの数は三本に限らない。
そして、上述した実施形態では、例えば、交絡装置7a,7b,7cの第一ノズル8,8,8に設けられている小トウ保持部15の側面16の高さHが2.5mm、側面16間の幅Wが19mmに設定され、細孔18と後述する細孔20の径がφ0.5mm、それぞれ細孔18の間隔Xが0.8mmに設定されている場合について説明したが、これらの形状に限らず、各小トウの間隔をおいて保持でき、各々小トウ同士を交絡させることができる形状であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態における糸継ぎ装置を示し、一方の集合トウの終端部と他方の集合トウの終端部とを重ね合わせて挟持し、交絡装置にセットした状態を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態における糸継ぎ装置を示し、弛緩部によって交絡装置近傍に弛緩部分を形成した状態を示す平面図である。
【図3】本発明の実施形態における糸継ぎ装置を示し、弛緩部の重錘を一つ外した状態を示す平面図である。
【図4】本発明の実施形態における糸継ぎ装置を示し、交絡装置によって集合トウを一箇所交絡させた状態を示す平面図である。
【図5】本発明の実施形態における糸継ぎ装置を示し、弛緩部の重錘を二つ外した状態を示す平面図である。
【図6】本発明の実施形態における糸継ぎ装置を示し、交絡装置によって集合トウを二箇所交絡させた状態を示す平面図である。
【図7】本発明の実施形態における糸継ぎ装置を示し、弛緩部の重錘を三つ外した状態を示す平面図である。
【図8】本発明の実施形態における糸継ぎ装置を示し、交絡装置によって集合トウを三箇所交絡させた状態を示す平面図である。
【図9】本発明の実施形態における集合トウを示し、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図10】本発明の実施形態における交絡装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1…糸継ぎ装置
2a…一方の集合トウ(繊維糸条)
2b…他方の集合トウ(繊維糸条)
3,4…挟持部(糸条挟持部)
5a…一方の小トウ
5b…他方の小トウ
6a,6b,6c…交絡部
7a,7b,7c…交絡装置
15…小トウ保持部
21a,21b,21c…弛緩部
22…ベース部材
23…重錘
L1…交絡装置間の間隔
L2…移動距離(弛緩量)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二本の繊維糸条の一部を重ね合わせ、この重ね合わせた部分を前後で挟持する一対の糸条挟持部を近接可能に設け、前記糸条挟持部間に前記繊維糸条の重ね合わせた部分を保持した状態で圧縮流体を噴射して交絡させる交絡装置を少なくとも三つ配置し、各交絡装置に隣接して前記糸条挟持部の近接時に各交絡装置に保持された繊維糸条の重ね合わせた部分に弛緩量を付与する重錘を着脱可能に設けたことを特徴とする糸継ぎ装置。
【請求項2】
前記交絡装置間の間隔が30〜70mmに設定され、前記弛緩量が1〜5mmに設定されていることを特徴とする請求項1に記載の糸継ぎ装置。
【請求項3】
前記繊維糸条は複数の小トウに幅方向に分割可能に束ねられた集合トウであって、前記交絡装置には分割された各小トウ同士を幅方向で間隔をおいて保持する小トウ保持部が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の糸継ぎ装置。
【請求項4】
前記小トウ保持部に前記小トウのうち一方の小トウの終端部と前記小トウのうち他方の小トウの始端部とが重なり合った状態で保持されていることを特徴とする請求項3に記載の糸継ぎ装置。
【請求項5】
前記一方の小トウの終端部と前記他方の小トウの始端部とを予め耐炎化処理することを特徴とする請求項4に記載の糸継ぎ装置。
【請求項6】
二本の繊維糸条の一部を重ね合わせ、糸条挟持部によってこの重ね合わせた部分を前後で挟持し、この糸条挟持部間に前記繊維糸条の重ね合わせた部分を保持した状態で圧縮流体を噴射して交絡させる交絡装置を少なくとも三つ配置し、前記交絡装置の各々に隣接した部位に重錘により外力を付与した状態で各交絡装置に保持された前記繊維糸条の重ね合わせた部分を弛緩し、その後、重錘による外力の付与を解除し、これにより各交絡装置近傍に形成された弛緩部分を弛緩量として各交絡装置により前記繊維糸条を交絡することを特徴とする糸継ぎ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−94539(P2008−94539A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277492(P2006−277492)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】