説明

紫外線吸収剤およびその使用

【課題】有機系紫外線吸収剤は、それ自体が紫外線で徐々に分解し、且つ耐熱性が悪い問題があり、用途が制限されている。
【解決手段】アニオン性のベンゾフェノン系有機紫外線吸収剤を、ハイドロタルサイト類構造の層間に化学結合させ、有機物が無機物でガードされた無機−有機複合体にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐紫外線、耐熱性および透明性に優れた有機・無機複合紫外線吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線吸収剤には、酸化チタンとか酸化亜鉛等の無機系紫外線吸収剤と、ベンゾトリアゾール系とかベンゾフェノン系等の有機系紫外線吸収剤とがある。無機系は耐紫外線性、耐熱性は優れているが、紫外線吸収性と透明性、特に透明性が有機系に比べて劣り、且つ光触媒活性があり、人の肌とか樹脂に悪影響を及ぼす。逆に有機系は紫外線吸収性と透明性が優れているが、耐紫外線性と耐熱性、特に耐紫外線性が悪く、日焼け止め化粧料等には使用されることが少なくなっている。
【特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
紫外線吸収性、透明性、耐紫外線性および耐熱性の全てが良好で、且つ光触媒活性の無い紫外線吸収剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、下記式(1)
【0005】
【化1】

(但し、式中、M2+はMgおよび/またはZnを、M3+は3価金属、好ましくはAlを、Bは2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸イオン、An−はn価のアニオンをそれぞれ示し、x,yおよびmはそれぞれ次の範囲にある。0<x<0.5、好ましくは0.2<x<0.4,0≦y<0.2、好ましくは0≦y<0.1,x>y,0≦m<4)で表されるハイドロタルサイト類を有効成分として含有する紫外線吸収剤を提供する。
【0006】
さらに本発明は、式(1)で表されるハイドロタルサイト類を有効成分として含有する日焼け止め化粧料を提供する。
【0007】
そしてさらに本発明は、式(1)で表されるハイドロタルサイト類を有効成分として含有する耐紫外線性樹脂組成物および樹脂製包装材料を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の紫外線吸収剤は、ポリエチレンに1重量%配合したフィルムにおいてベンゾフェノン系紫外線吸収剤に近い紫外線吸収性と同等以上の透明性を示す。さらに耐紫外線性として、紫外線を24時間照射しても紫外線吸収性は殆んど変化しない。熱分析により、ベンゾフェノン系が約180℃から分解開始するのに対し、本発明の紫外線吸収剤は約120℃高い300℃で分解開始する。また、酸化チタンおよび酸化亜鉛は紫外線照射でそれ等の上に吸着させた油を分解するのに対し、本発明の紫外線吸収剤は油の分解活性を示さず、従って光触媒活性を示さず、人の肌等に対して安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の紫外線吸収剤は、下記式(2)
【0010】
【化2】

(但し、式中、M2+は2価金属、M3+は3価金属、An−はn価のアニオンをそれぞれ示し、xおよびmは式(1)と同じ範囲にある)で表される層状構造をしているハイドロタルサイト類の層間アニオンAn−の一部または全部をベンゾフェノン系紫外線吸収剤である2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸イオンで置換した構造をしている。
【0011】
本発明の紫外線吸収剤の特徴である高い透明性および無毒〜低毒性を守るために、M2+としてはMgおよび/またはZnが好ましく、M3+としてはAlおよび/またはFe、特にAlが好ましい。M3+の量xが増加するほど紫外線吸収に寄与するBが増量するから、xの値としては許される最大値に近いほど好ましい。
【0012】
本発明の式(1)で表される紫外線吸収剤は、透明性をより高くするためには1次粒子を小さく、且つ2次粒子の凝集を抑えることが好ましい。他方、日焼け止め化粧料として伸びを良くするためとか、樹脂に配合して使用する場合は、ある程度以上1次粒子が大きいことが好ましい。このような要求から、BET比表面積が5〜40m/g、累積50%の平均2次粒子径が0.1〜2μmの範囲が好ましく、特にはそれぞれが9〜25m/g、0.1〜1μmの範囲が好ましい。
【0013】
本発明の紫外線吸収剤はそのまま用いることもできるが、日焼け止め化粧料とか樹脂に添加して使用するには、高級脂肪酸、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、リン酸エステル等のアニオン系界面活性剤、シラン系、チタネート系およびアルミニウム系のカップリング剤で表面処理して用いることが好ましい。特にはリン酸エステル(含フッ素リン酸エステルも含む)が好ましい。これ等表面処理剤としては、例えばラウリン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ラウリン酸ソーダ、ステアリン酸ソーダ等の高級脂肪酸のアルカリ金属塩、ステアリルアシッドフォスフェート、オレイルアシッドフォスフェート等のリン酸エステル、ビニルトリエトキシシランのγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピオネート等のカップリング剤を挙げることができる。表面処理はそれ自体公知の方法により実施できる。例えば、式(1)の化合物の水またはアルコール媒体のスラリーに、前記表面処理剤を水またはアルコールに溶解希釈した液状またはエマルジョン状にして攪拌下に加え、均一に混合する。或いは、式(1)の化合物の粉末をヘンシエルミキサー等で高速攪拌下に、前記表面処理剤の液状またはエマルジョン状物を加え、加熱または非加熱下に均一に混合する。表面処理剤の添加量は、本発明の式(1)化合物の重量に基づいて、0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。
【0014】
本発明の紫外線吸収剤の製造は、式(2)において層間アニオンAn−が1価のアニオンAであるハイドロタルサイト類を従来公知の方法で製造し、これをBのアルカリ金属塩水溶液でイオン交換することにより製造できる。イオン交換は、Aに対し当量以上、好ましくは2倍〜4倍当量のB級のアルカリ金属塩水溶液を使用して行う。Aとしては、イオン半径が大きいほどイオン交換され易いので好ましい。具体的にはNO,ClO,HCOO,CHCOO等を挙げることができる。
【0015】
式(2)において、An−が1価のハイドロタルサイト類の製造は二通りあり、例えばAn−がNOの場合について、具体的に説明する。第一の方法は、Mgおよび/またはZnの硝酸塩と硝酸アルミニウムの混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とをpHを約9以上に保って共沈させ、その後、ろ過、水洗、乾燥、粉砕の工程を適宜選択して用いることにより製造できる。第二の方法は、An−がCO2−であるハイドロタルサイト類を用い、このCO2−の当量以上の硝酸水溶液と攪拌下に混合反応させることにより製造できる。
【0016】
本発明の紫外線吸収剤の透明性、樹脂中での分散性、および日焼け止め化粧料としての伸び、を良くするために、Bのアルカリ金属塩でイオン交換する前のハイドロタルサイト類を120℃〜200℃で10〜20時間水熱処理することが好ましい。
【0017】
本発明の紫外線吸収剤は、例えばシリコーンオイル、高級アルコール、ラノリングリセリンステアレート、カカオ脂、ソルビタンセスキオレート、プロピレングリコール、ミネラルオイル、イソプロピルミリステート、ペトロラクタム、アクリル酸ポリマー、エタノール、水およびこれらの混合物等の液体担体中に分散させ、日焼け止め化粧料として使用できる。日焼け止め化粧料として、現在主流の微粒子酸化亜鉛および酸化チタンの欠点である透明性と光触媒活性を解消できる。
【0018】
本発明の紫外線吸収剤は、食品等の包装材、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等の樹脂フィルムに添加、分散または、塗布させることにより、食品等の紫外線による品質劣化、着色、鮮度低下等を防ぐことができる。フィルムはヒートシール性樹脂を必ず含有し、1種または2種以上の異なった樹脂フィルムをラミネートして用いることができる。また、各種ゴム、樹脂自体の紫外線による悪影響を低減できる。本発明紫外線吸収剤のゴムおよび/または樹脂100重量部に対し、0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部である。
【0019】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0020】
および[比較例1] 市販のハイドロタルサイト粉末(組成:Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HO、BET比表面積=12m/g、累積50%の平均2次粒子径=0.4μm)500gを約4リットル(約35℃)の水にケミスターラーで分散させ、攪拌下に、0.7モル/リットルのHNO水溶液4リットル(約35℃)を徐々に添加した。このスラリーを約70℃に加熱後、4モルの2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸ソーダを溶解した約5リットルの水溶液(約70℃)を攪拌下に加え、約20分間反応させた。その後、20gのステアリルアシッドフォスフェートを300mlのイソプピルアルコールに加熱(約60℃)溶解した溶液を加え表面処理を行った。この後、ろ過、水洗、乾燥、粉砕した。粉砕物のXRD測定結果は、層間が拡大したハイドロタルサイトと考えられる回析パターンであり、最強ピークであるd003=約20.8Åであった。CO型およびNO型ハイドロタルサイトのd003に相当する7.6Å、9.0Åの回析は検出されず、したがって、CO型およびNO型ハイドロタルサイトはほとんど残っていなかった。これは、層状構造における単位層厚がCO型の約7.6Åから、BイオンがCOに代わって入って、約20.8Åに拡大したことを示している。液体窒素吸着法で測定したBET比表面積=15m/g、エタノールに入れ超音波を5分間かけた後、レーザー回析法で測定した粒度分布から求めた累積50%の平均2次粒子径=0.4μmであった。
【0021】
MgとAlをキレート滴定、NO吸光光度法、有機物をTOC測定、結晶水量をTG−DTAで測定して化学組成を求めた結果は次の通りであった。Mg4.5Al(OH)13(B1.99(NO0.01・2H
【0022】
本発明上記紫外線吸収剤とBの酸型の3水和物[比較例1]のTG−DTAを測定し、耐熱性を熱分解率を評価した結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
100〜150℃での減量は、結晶水によるものであるため、Bの構造破壊による減量は150℃以上である。したがって、150〜300℃間の減量を比較すると、本発明の紫外線吸収剤の減量が5.5%であるのに対し、Bは51.6%である。Bが本発明により、大幅に熱安定性が良くなっている。樹脂の加工温度が約200〜300℃であることを考慮すると、Bは300℃までに50%以上分解し、使用が制限されているのに対し、本発明の紫外線吸収剤は約5%しか分解しないため、多くの樹脂に使用範囲が拡大できる。
【0025】
本発明紫外線吸収剤の耐紫外線分解性を調べるために、粉末状試料約1gを時計皿に入れて、0.4mw/cmの強度の紫外線を7時間照射し、重量変化を測定した。その結果を図1に示す。
【0026】
以上の結果、Bは紫外線照射で分解し、重量が減少するのに対し、本発明の紫外線吸収剤は、僅かに重量が増加する程度で、殆ど分解しないことを示している。
【0027】
次に、紫外線吸収性と透明性を調べるために、本発明紫外線吸収剤とBの酸型の無水物、さらに市販の超微粒子酸化チタン[比較例2]、および酸化亜鉛[比較例3]をそれぞれ直鎖低密度ポリエチレン100重量部に対し、1重量部混合した後、オープンロールを用い、約190℃で熔融混練後、プレス成形機を用い、厚さ0.3mmのシートに成形した。このシートを用い、250〜500nmの波長範囲の光線透過率を測定した。その結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から次のことが判る。本発明紫外線吸収剤は、有機系とほぼ同じ透明性(可視光線透過率)と紫外線吸収性を示す。透明性は、無機系より明らかに優れており、紫外線吸収性は、無機系とほぼ同じである。
【実施例2】
【0030】
酸化亜鉛と硝酸アルミニウムの混合水溶液(Zn=1.0モル/リットル,Al=0.5モル/リットル)(約30℃)と3モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液(約30℃)をそれぞれ約100ml/分の速度で、定量ポンプを用いて連続的に容量約5リットルの反応槽に供給し、攪拌下にpHを約7.5〜7.8に保って共沈させた。共沈物を水洗後、オートクレーブに入れ、150℃で20時間水熱処理を行った。得られたスラリーの乾燥物換算で500gを採り、攪拌下に、約60℃まで加熱した後、1モル/リットルのBのNa塩水溶液5リットルを加え、約60℃で、さらに30分間攪拌した。この後、ろ過、水洗、乾燥、粉砕した。この粉末の化学組成と物性は次の通りであった。COは、AGK式CO測定法で測定した。化学組成:Zn0.67Al0.33(OH)0.31(CO0.01・1.8HO。BET比表面積=12m/g、累積50%の平均2次粒子径=0.3μm。上記粉末100gを約400mlのエタノールに分散後、3gのパーフルオロアルキルリン酸エステルジエタノールアミン塩を100mlのエタノールに分散して添加し、約20分間攪拌した後、ろ過、乾燥、粉砕した。これを下記処方で、高速ミキサーで均一に混合し、日焼け止め化粧料を作成した。
イオン交換水 30重量%
本発明紫外線吸収剤 20重量%
分岐型ポリエーテル変性シリコン 1重量%
1,3−ブチレングリコール 6重量%
カプリルメチコン 5重量%
オクタメチルシクロテトラシロキサン 26重量%
オクチルメトキシシンナメート 9重量%
エデト酸塩 0.5重量%
エタノール 2.5重量%
この化粧料は、肌への伸びが大変良かった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】紫外線照射による紫外線吸収剤の分解性を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(但し、式中、M2+はMgおよび/またはZn、M3+はAl等の3価の金属、Bは2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸イオン、An−はn価のアニオンをそれぞれ示し、x,yおよびmはそれぞれ次の範囲にある。0<x<0.5,0≦y<0.2,x>y,0≦m<4)で表されるハイドロタルサイト類を有効成分として含有する紫外線吸収剤。
【請求項2】
式(1)のハイドロタルサイト類の表面がリン酸エステル系アニオン界面活性剤で表面処理されている請求項1記載の紫外線吸収剤。
【請求項3】
式(1)のハイドロタルサイト類の累積50%の平均2次粒子径が1.0μm以下で、且つBET比表面積が25m/g以下である請求項1記載の紫外線吸収剤。
【請求項4】
式(1)のM3+がAlである請求項1記載の紫外線吸収剤。
【請求項5】
シリコーンオイル、高級アルコール、ラノリングリセリンステアレート、カカオ脂、ソルビタンセスキオレート、プロピレングリコール、ミネラルオイル、イソプロピルミリステート、ペトロラクタム、アクリル酸ポリマー、エタノール、水、およびこれらの混合物、等の液体担体中に、式(1)の紫外線吸収剤を分散させたことを特徴とする日焼け止め化粧料。
【請求項6】
樹脂100重量部に、式(1)で表される紫外線吸収剤を0.01〜20重量部配合した耐紫外線および/または紫外線吸収性樹脂組成物。
【請求項7】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、エチレン酢ビコポリマー等の樹脂に、式(1)で表される紫外線吸収剤を分散または塗布した、単層または2種以上のフィルムをラミネートした多層フィルムからなる紫外線吸収性包装材料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−1774(P2008−1774A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171465(P2006−171465)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(391001664)株式会社海水化学研究所 (26)
【Fターム(参考)】