説明

細胞の基底膜への結合の切開

【課題】
【解決手段】 細胞は互いに結合するか、あるいは基底膜に結合して、層または複数の層を形成している。細胞は、ここに開示されているデバイスによって、細胞または基底膜を傷つけることなく、基底膜から分離することができる。このデバイスによって、細胞基底膜複合体を、細胞側および基底膜側の両側から同時に光エネルギィに露出させることができる。両側から特定の光エネルギィレベルでこの細胞基底膜複合体層を同時に露出させることによって、細胞を基底膜に付着させている結合を切開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、細胞と基底膜との間の結合を、細胞と基底膜を傷つけることなく切開するデバイスを開示する。このデバイスによれば細胞基底膜複合体を二方向からの特定強度の光エネルギィに露出させて、細胞側に入射する光エネルギィの強度を非常に低くすると共に、基底膜側に入射する光エネルギィの強度をより高くし、細胞と基底膜間の結合の切開を実現する。
【0002】
細胞基底膜複合体上の光の影響は、露出時の波長、強度、露出時間、その組織固有の組成、露出が作用する方向、に依存する。本出願は、細胞側からは非常に低強度の光の露出を、同時に基底膜側からはより高強度の露出を用いて、特定の波長の光エネルギィで、細胞の基底膜への結合の特定の切開を実現させることを扱っている。
【0003】
発明の背景
実験室での手順および、さまざまな外科的手順では、さまざまな理由で基底膜または被膜に結合している細胞を効率よく分離することが必要である。このような分離は、更なる合併症や、この膜または組織の悪化を防止して、細胞または基底膜の背後の構造または組織のより良好な視覚化を容易にし、例えば、細胞の写真撮影用のより良好な染色を行ったり、細胞の特性を研究するためにより適切な処置を行うといった光学的利点を達成するために、効果的なものでなくてはならない。
【0004】
細胞膜に結合した細胞を分離する目的のいくつかのデバイスと方法が、従来技術に開示されている。
【0005】
本発明は、従来技術に関連するさまざまな問題点を克服するデバイスと方法に関する。本発明は、上皮細胞を分離するための低強度の選択された波長の光を発するデバイスを具体化している。このデバイスによって、オペレータは細胞基底膜複合体を二方向からの光エネルギィに露出させて、上皮細胞が結合している基底膜から上皮細胞を分離するという所望の効果を達成することができる。この効果は、細胞と基底膜間の結合を切開することによって達成される。
【0006】
このデバイスは、数々の治療、実験および科学的手順に利用することができる。
【0007】
人体中で、および実験室では、細胞が単層または多層で基底膜の上に揃っている多くの状況に遭遇する。例えば、ヒトの眼では、角膜表面上に、ボウマンの膜(Bowman’s membrane)と呼ばれる基底膜の上に、上皮が4層ないし6層に順次配置されている。この細胞と基底膜間の結合は非常に強い。これらの上皮細胞は、外部からこの細胞の上に入ってくる光に対して非常に耐性がある。しかしながら、我々の研究によれば、光が低強度でこれらの結合に対して内側から向けられており、同時により強い光が外側からこの細胞に当たる場合、これらの細胞の基底膜に対する結合は、非常に脆く光エネルギィに対して脆弱であることがわかった。
【0008】
哺乳動物では、白内障の手術で水晶体物質の残りを除去した後に、眼の水晶体上皮細胞が増殖する。この増殖した細胞が白濁し、視覚に影響する「続発性白内障」を引き起こす。これらの細胞のいくらかは、手術後にその特性が変化し、繊維芽細胞となり、被膜内に繊維性瘢痕が形成されて、被膜収縮症候群を引き起こす。細胞がこれらの問題を生じない場合でも、被膜に白濁化が生じ、その後にその構造の視覚化を妨げる。これは、光学的理由により、網膜の治療と検査が非常に困難なものになる。
【0009】
術後期間中にこれらの問題が生じるのを全て防止するために、これらの細胞は白内障の手術中に除去することが好ましい。
【0010】
眼球被膜などの細胞膜は非常に薄く脆い。外科医が作業を行わなくてはならないスペースは非常に制限されており、被膜は周辺組織と共にぜひとも残さなくてはならない。目の内部構造は、化学物質、熱、電気、レーザ、機械的磨滅などの高エネルギィの侵襲に耐性がない。
【0011】
水晶体上皮細胞は被膜に内側から結合している。この細胞と被膜間の結合は非常に強力なので、単に洗浄しただけでは外に出てこない。この結合が緩むか、あるいは切れると、細胞は簡単に洗い出すか、シリンジに取り付けた簡単な筒状洗浄カニューレによって吸い出すことができる。
【0012】
これらの細胞はレーザ装置では切ることができない。なぜなら、細胞が死んでしまい、死んだ細胞が被膜に張り付いて、術後の期間に光学的問題が生じるからである。
【0013】
この分野の従来の技術は、上皮細胞を除去する問題を克服するさまざまな手段を開示している。
【0014】
いくつかの従来技術は、不要な細胞を除去する機械的手段の使用を開示している。これらの方法の主な制限は、周辺組織を傷つけてしまう可能性があることである。
【0015】
国際特許公開WO00/49976号、PCT/US00/04339号は、Nicapsulorhexis Valveについて述べている。これは、シラスティック弁であり、嚢切開(capsulorhexis)した開口に水密に取り付ける。これは、眼の内側表面の残りの部分が、被膜バッグ内に導入されることがあり、上皮細胞を破壊するある種の細胞毒性物質に接触しないようにする。
【0016】
国際特許公開WO99/04729号は、装置としての眼内リングを取り扱っている。この開示は、眼内リングと呼ばれる物理的装置を取り扱っている。この装置は、リングが細胞に接触することによって生じる圧力効果によって、細胞を殺すか、あるいは細胞の増殖を抑える。
【0017】
国際特許公開WO2004/039295号は、水晶体包の中で嚢切開を行う方法を開示している。気密耐性シーリングを提供するために、眼の水晶体包から水晶体を取り除いて、嚢切開をシーリング手段/デバイスで密封する。水晶体包がガスで膨張して、この膨張した水晶体包内で所望の手術が行われる。
【0018】
ここで、発明者は、被膜バッグを目の残りの部分から密封して、有毒なガスまたは液体をバッグ内に導入して細胞を殺すようにする気密シーリングデバイスを開示している。
【0019】
米国特許第6,432,078号は、ウオータジェットと吸引を用いて白内障または眼球中のその他の細胞を除去するシステムと方法を開示している。この特徴は、ウオータジェット、機械的ブラシ、その他を用いて、細胞をこすって、眼の外に細胞を吸引する機械的デバイスを開示している。
【0020】
国際特許公開WO98/25610/PCT/CA97/00949号は、続発性白内障治療用の薬剤製造用緑色ポルフィリンの使用を開示している。この特許では、コロンビア大学の研究者が、緑色ポルフィリンと呼ばれるある種の化学物質を開示している。これらの化学物質を上皮細胞に塗布し、光を照射して、この物質が塗布されている細胞を破壊する。これは、水晶体包の光感作治療と呼ばれる。
【0021】
ポルフィリンは化学物質であり、これを眼に導入しなければならない。従ってこの方法は、望ましくない。
【0022】
国際特許公開WO99/39722号、PCT/IB99/00905号は、水晶体上皮細胞を分離し、後側被膜の白濁化を防止する成分と方法を開示している。これは、接着域調整物質(focal contact-modulating substance)、または、リシン−プラスミノゲン(Lys-plasminogen)などの前酵素を含有する治療溶液を、眼の中に導入して、水晶体上皮細胞と水晶体包間の接着を媒介している接着域を、変形することによって達成される。
【0023】
国際特許公開WO02/047728号、PCT/GB01/05465号は、後側被膜の白濁化の治療を開示している。この開示は、化学リガンドで細胞を殺すことを取り扱っている。この化学リガンドは、Fasリガンドが好ましい。スペーサは、ポリエチレングリコールであることが好ましい。ポリマで眼内水晶体を構成することが好ましい。
【0024】
国際特許公開WO02/43632号、PCT/AU01/01554号は、眼の被膜バッグを密封するデバイスと、眼の水晶体へ液体または治療物質を送出する方法を開示している。眼の残りの部分から被膜バッグを密封し、同時に、このバッグへ強い化学物質を送出して細胞を殺す方法が開示されている。
【0025】
米国特許第4,966,577号は、水晶体の除去後に眼の中に続発性白内障が形成されることを防止する成分を開示している。この成分は、続発性白内障の形成に関連する特定の水晶体細胞に特異的な抗体を具える。この抗体は、抗増殖性薬剤と共役する。特定の好ましい抗増殖性薬剤は、ターゲット細胞に抗体を結合させた後活性化する必要であり、この活性化は、第2の成分を加えるか、あるいは眼を電磁エネルギィに露出させることによって行われる。また、水晶体を除去した部位に直接的に投与することによって、水晶体細胞を殺すか、水晶体細胞の増殖を抑える成分を用いる方法が開示されている。
【0026】
この開示は、また、まず、化学物質を導入して、次いで、別の化学物質を導入し、電磁エネルギィを使用してこの組み合わせを活性化して、被膜細胞を破壊することを特定している。
【0027】
米国特許第5,620,013号、第5,843,893号、第5,627,162号は、被膜細胞を破壊する化学剤を開示している。
【0028】
上記に開示されている化学的な方法の主たる制限は、毒性と、周辺組織に対する化学物質の悪影響である。
【0029】
国際特許公開WO01/54643号、PCT/US01/03052号は、眼の水晶体包などの、身体内のある部位の細胞を治療するシステムと方法を開示している。このシステムと方法は、エネルギィ放出デバイスと、水晶体包の細胞などの、身体内のある部位における細胞に対する位置にエネルギィ放出デバイスを配置する位置決めデバイスを使用して、エネルギィ放出デバイスから放出されるエネルギィが、体温以上の温度で、細胞内でたんぱく質の変性が生じる温度以下の温度に細胞を加熱して、細胞を殺すあるいは細胞の増殖を防ぐようにしている。このエネルギィ放出デバイスは、細胞を所望の温度に加熱する加熱流体を含有するコンテナを具えていても良い。この開示は、細胞を加熱して変性させ、または凝固させて細胞を破壊する方法を取り扱っている。
【0030】
国際特許公開WO98/18392号、PCT/US96/17322号は、眼球の水晶体包中の残留水晶体上皮細胞を破壊する器具を開示している。この器具は、電気エネルギィ源と、電極を具え、前記電気エネルギィ源に電気的に接続されているプローブと、絶縁スリーブとを具える。又、このプローブは、眼の虹彩と水晶体包との間で眼の中に挿入するように構成された遠位端部を有する。この開示において、発明者は、被膜細胞を電気的に焼灼して、この細胞を殺す方法を開示している。
【0031】
電気的方法の主たる制限は、細胞周辺の繊細な組織も焼灼されてしまうことである。
【0032】
米国特許第6,669,694号は、非常に局所的な熱媒介治療用の医療器具と技術を開示している。これは、細胞上で切除効果を実現するために、組織への高熱のエネルギィの送出を開示している。
【0033】
米国特許第4,963,142号は、エンドレーザ超微小手術用装置を開示している。エンドレーザ超微小手術法および装置が開示されており、この装置は、サファイアなどの好適な媒体を介してレーザエネルギィを送出できるプローブを接続したレーザ送出システムを具える。このプローブは、切除した組織及び/又は液体の吸引用の同軸カナルを具えている。この方法は、レーザによって組織を切除するステップと、切除した組織及び/又は液体を吸引するステップとを具える。この方法は、強膜切開、硝子体切開、および水晶体超音波吸引その他の代替として有益である。エンドレーザ超微小手術を実行し、切除した組織を除去するためのプローブが記載されている。ここに記載されている装置は、レーザエネルギィを送出し、組織を切除し、続いて切除した組織を除去するという意味である。
【0034】
切除という用語は、地質学用語である。定義によれは、これは、溶解または気化によって「徐々に消える」あるいは取り除くことを意味する。ここに述べるレーザエネルギィは、高エネルギィレベルを達成し、組織を溶かすのに十分に高く、切除した又は溶解した物質を除去することを意味する。この高エネルギィの達成は、微小領域に非常に高いエネルギィを集中させることが可能なレーザを用いて、短時間で行われ、周辺組織にダメージを与えることなく溶解を達成する。
【0035】
米国特許第6,238,386号、第6,554,824号、第6,582,421号、第6,712,808号、第6,726,680号は、レーザエネルギィをヒトの組織に当てる器具を開示している。
【0036】
米国特許第6,454,762号は、光、特にレーザ光をヒトまたは動物の身体に照射する器具を開示している。これは、外部源からの光エネルギィまたはレーザエネルギィをヒトの身体の所望の部分に向けることができる、可動先端を具える器具を開示している。
【0037】
米国特許第6,238,386号は、内視鏡によって体腔内部に音エネルギィとレーザエネルギィを当てることを開示している。ヒトの身体内部へのエネルギィの適用は、光ファイバ送出システムによって行われる。使用されるレーザは治療用レーザであり、遠位端にある光学パワーのレーザ照射を供給する。このパワーは、少なくとも5ワット、または前記遠位端において少なくとも1kWcm.sup.−2の強度である。組織の凝固に必要なパワーが開示されている。
【0038】
Mullerは、レーザエネルギィと音エネルギィを用いて内部身体部分を内視鏡的に治療するデバイスを開示しているが、このデバイスは上述したようなエネルギィを用いて、組織を凝固させている。この発明に開示されている最小エネルギィは5ワットである。1ワット=408ルクスであるので、使用するエネルギィの大きさは、2040lux/cm.sup−2、または2040,0000lux/metersq.となる。
【0039】
この発明に開示されているデバイスは、細胞側からは、最大1000lux/sq mtrという非常に低いエネルギィを用いており、同時に基底膜側からはより高いエネルギィを用いている。このエネルギィレベルでは凝固は生じない。ここに開示されたデバイスは、細胞基底膜複合体に、細胞側からおよび基底膜側からという二つの特定の方向に同時にエネルギィを向けて、所望の効果を達成する。
【0040】
これらのレーザは高エネルギィであり、組織の温度を第2の画分用に高レベルに上げることによって、組織のダメージまたは熱凝固が生じる。しかしながら、レーザなどの高エネルギィシステムが使用されている場合、周辺組織も切除されることがある。このようなエネルギィは、上皮細胞が凝固されると、下にある被膜に確実にダメージを与える。1.2ミリジュールのエネルギィレベルで被膜が破壊されることは良く知られており、従って、被膜から上皮細胞を分離するのにこの発明に開示されているデバイスを眼科で使用することはできない。これは、角膜および被膜そのものにダメージを与える。
【0041】
従来技術の制限
上述の従来技術は、被膜上皮細胞を破壊し、次いでこの細胞を以下の一般的な方法で除去することによって、被膜上皮細胞に関連する問題を止めようとしている。
A.機械的手段 これらの方法は、不要な細胞を除去するための機械的デバイスを開示している。これらの方法の主な制限は、周辺組織を傷つける可能性があることである。
B.化学的手段 これらの方法は、細胞を除去するために化学物質を使用している。この方法の主な制限は、これらの化学物質の周辺組織への毒性である。
C.電気的手段 この方法の主な制限も、細胞周辺の繊細な組織が焼灼されてしまうことである。
D.レーザまたは音波法/明るい光源 レーザは高エネルギィを生じ、組織の温度を数分の1秒間高レベルに上げることによって、組織の熱的ダメージまたは熱凝固を実行する。しかしながら、レーザなどの高エネルギィシステムを使用すると周辺組織も共に切除されることがある。これが角膜や、被膜そのものを傷つける。
【0042】
基底膜から細胞をそっと分離するという目的は、レーザでは達成することができない。なぜなら、光凝固した細胞が基底膜にくっついてしまい、レーザに露出させる前よりむしろ強く結合するためである。
【0043】
発明の概要
本発明は、一の方向、すなわち、細胞側から特定の低強度の光エネルギィに、同時に、基底膜側からより高い光エネルギィに細胞基底膜複合体を露出させて、この細胞を基底膜から分離するデバイスを実施する。このデバイスは、二つの特定の方向からのエネルギィに細胞を同時に露出させることを可能にする光ファイバチップまたは送出ミラーを具体化するものであっても良い。本発明は、低強度光源を具体化するデバイスと、上皮細胞と被膜間の結合を緩めることで上皮細胞を露出させる方法を提供することによって、従来技術のさまざまな欠点を克服している。基底膜からの細胞は、所望であれば、単に洗浄することで除去することができる。
【0044】
このことは、あるデバイスと方法によって、ターゲット細胞を、予め選択された波長194ないし850ナノメータの非常に低強度の光を細胞側に直接当てて、同時に、より高い強度の光エネルギィを基底膜側に当てることによって実現される。この低強度の光は、細胞側から細胞の上に当てられ、基底膜側からは当てられない。細胞−被膜複合体に光源キャリアの先端をほぼ実際に接触させ、上皮細胞と光源間の距離をほぼゼロにすることによって光が内側から細胞に送出される。露出時間は60秒未満である。この細胞基底膜複合体の基底膜側は、選択された波長194ないし850ナノメータ間の特定の光エネルギィに露出される。この光はコヒーレントであっても、なくてもよい。細胞基底膜複合体に当たるここに特定された光は、194ないし850ナノメータであり、ここに特定された照度0.002ないし500,000ルクスの光である。
【0045】
細胞は、この光が通常の外側から入る場合はこの光に対して非常に耐性があるが、本発明にあるような態様で内側から照射されると、この光に対して非常に感応性がある。細胞基底膜複合体の基底膜側は、照度0.002ルクスないし500,000ルクスというより高強度の光エネルギィに露出されなければならない。
【0046】
上述の図1ないし6を参照して、本発明について述べる。
【0047】
細胞基底膜の結合を切断するデバイスは、光源(1)と、この光を特定部位へ伝送し、基底膜または被膜がカールしたバッグ、あるいはエンベロープのような形状をしている場合は、このエネルギィを開口を介して被膜バッグへ伝送する搬送システム(5、13、17、18)とを具える。器具が入り込んで被膜と接触する搬送システムの先端(14、20、22)は、スムーズであり、組織を傷つけないようになっている。
【0048】
別の実施例では、二つの光パイプで光を眼へ伝送する。図5の符号19および18で示すように、一方は、被膜バッグの内側に入り、他方は、外側から被膜バッグを照射する。
【0049】
光源
光源は、コヒーレントであっても、非コヒーレントであってもよく、単色性または多色性であっても良い。LED、レーザ源、アーク灯源、タングステンフィラメント光源、あるいはその他の光源であってもよい。日光を用いてもよく、日光を光源として変形しても良い。
【0050】
光源は白色光源であっても、色付光源であっても良い。白色光源は、フィルタを用いて純色源に変更することができる。フィルタ付単一の光源を用いて、純色波長を作り、被膜バッグ内部を純色に露出することができる。白色光の混合光源を用いることもできる。選択された波長は194ないし850ナノメータである。
【0051】
強度は、本デバイスの決定的部分である。本発明で使用されている光源の強度は、最後に細胞に当たる入射光が0.001ルクスないし約1000ルクスの照度で、非常に低強度でなくてはならない。40ワットの国産電球の照度は、電球表面に非常に近接して測定すると、数千ルクスである。
【0052】
一の好ましい実施例では、1秒間に数回光源がスイッチングするか、オンおよびオフのパルス化される。
【0053】
光源は1又はそれ以上であってもよく、波長の異なる光に交互に細胞が露出されるようにしても良い。
【0054】
第1の光源と組み合わせて、第2の光源を使用しなくてはならない。これは、外科用顕微鏡の外付光源であっても、あるいは全く別の光源であっても良く、これによって光を基底膜に伝送する。このような光源は、小さなLED、フィルタ、光学焦点水晶体、偏光器または減衰器によって変調した日光、レーザ光源、外部電球光源であっても良い。
【0055】
一の好ましい実施例では、このような光源が0.002ルクスないし500000ルクスの照度で用いられている。
【0056】
第2の光源は、必須である。これは、内側から又は細胞基底膜複合体の細胞側から作用する第1の光源の照度より高い照度で、細胞基底膜複合体の基底膜側を照射しなければならない。この露出は、最良の効果を得るためには同時でなくてはならない。第2の光源は、白色光であっても良いが、さまざまな色の光源であっても良い。
【0057】
基底膜側へのエネルギィの入射が、細胞側への入射より高いという条件を満たすために、一以上の光源を用いて、細胞基底膜複合体の基底膜側を露出することができる。
【0058】
第1の光源が白色光であり、フィルタを用いて純粋な波長を作って、被膜の内側へ送出する場合は、第1の光源を、フィルタをバイパスさせ、図2に示すように新しいフィルタと減衰器をつけることで、第2の光源として使用しても良い。
【0059】
送出システム
光ファイバケーブル(図2の符号5、図4の符号13、図5の符号18、19)、または反射ミラー(図3の符号8)を用いて、光エネルギィを細胞に直接送出する。光ファイバケーブルは、透明な水密筒状カニューレ内に封入して、眼の組織との接触を防止することができる。カニューレの先端(図4の符号14、図6の符号20、22)は、スムーズで丸く、被膜の下側表面に接触したときに、この面を破ったり、傷つけたりしないようにしている。
【0060】
方法
実際の手順の間は、まず、細胞基底膜複合体に結合している全てのデブリスや、ほこりを、そっと吸い取って取り除いた後、洗浄する。この手順が実験室、皿、あるいは容器内で行われる場合は、細胞基底膜複合体を保存する液体を、汚染または不溶性浮遊粒子状物質が付かないように保つ。この手順が、白内障の手術中など人体内部で行われる場合は、白内障の核が除去される。表層をきれいにする。デバイスを介して被膜バッグ内へ低強度の光が伝送され、細胞が内側からこの光に露出される。顕微鏡灯を、基底膜側からの露出用の第2の光源として用いることができる。実験室では、細胞基底膜複合体をスライドの上において、細胞側に光源からの低強度のエネルギィを直接当てて両側から光エネルギィに露出させることができる。実験室では、手順が顕微鏡下で実行される場合、この顕微鏡灯を第2の明るい光源として使用することができる。この光源は、同時に基底膜側をより高いエネルギィに露出させる。低い強度に細胞表面を露出させ、基底膜表面は、デバイスからの高い強度の光に露出させることによって、細胞が自由になる/分離される。分離した上皮細胞は、所望であれば、単純な洗浄と吸引などの公知の方法によって除去することができる。
【0061】
このデバイスは、被膜細胞を両側から同時に光に露出させることによって実効がある。一の光ビームは、外側から前側被膜に当たる。このビームは、顕微鏡の操作時に外科医によって使用される光源から、あるいは外側に配置した光源からのものであり、光ファイバでできた光パイプによって被膜の前側表面に照射される。外側から前側被膜に当たる光は、照度が0.002ルクスから500000ルクスである。
【0062】
しかしながら、この外側光ビームのみがデバイスを形成しているわけではなく、デバイスは本質的に、内側から細胞に同時に当たる特定の低い照度の内側光ビームを含んでいなければならない。
【0063】
被膜の内側から細胞を治療するのに使用される光源からの光は、一秒間に1回から15回、オンオフ切替が行われる。
【0064】
本発明のもう一つの実施例では、光エネルギィが、曲げ管中に配置されたミラーセットによって前側被膜の内側に搬送され、光ファイバキャリアに代わって、光が中空パイプ内を通り、これらの反射ミラーとプリズムによって所望の経路へ向きを変える。
【0065】
本発明の別の実施例では、図3に示す反射ミラーを使用することによって、光源が、光ファーバケーブルを介して通ることなく被膜細胞の露出が可能な地点に光が直接的に伝送される。しかしながら、本発明は、特定のアプリケーションまたは環境に限定されるものではない。代りに、当業者は、異なる強度の低い光源、または複数の光源の組み合わせ、この強度の低い光源をその他の直接的あるいは間接的な方法又は手段によって適用する方法、ミラーまたはその他の反射デバイスを用いて、本発明をあらゆるアプリケーションや環境に有利に適応できることがわかるだろう。以下に述べる例示的な実施例の記載は、従って、説明の目的であり、限定するものではない。
【0066】
最も好適な実施例
A.デバイス
青と赤のLEDでできた二つの光源であり、青色光が360ないし420ナノメータ、赤色LEDが700ないし850ナノメータである。LEDsは、1秒間にゼロ回から、1秒間に15回にパルス化されている。この光源は、細胞基底膜複合体を内側から、あるいは細胞表面から露出するのに使用される。強度は非常に低く、細胞表面上の照度は0.001ないし1000ルクスである。
【0067】
第2の光源は、外科用顕微鏡から直接使用される光である。この光は、細胞基底膜複合体の基底膜側を、角膜を通して直接的に照射するのに使用される。露出を容易にするために、瞳孔を目薬、あるいは外科医によって機械的に拡張させ、虹彩が第2の光源の経路の外に移動するようにする。使用される強度は、基底膜の照射が0.002ないし500,000ルクスになるような強度である。
【0068】
第1の光源から出てくる光は、光ファイバ光パイプでピックアップされ、このパイプで眼の内側に伝送する。
【0069】
光ファイバの末端部は、先端が透明なカニューレ(図6の符号20、22)であり、この光を被膜へ送出可能とする。
【0070】
B.好ましい実施例 − 方法
上皮細胞を分離する低強度デバイスの適用に当たって、核と表層が欠けている被膜バッグ内側にカニューレを当てて、外科用顕微鏡からの第2の光を、外科医が手術前に瞳孔を薬剤で拡張させる、あるいは、虹彩を機械的に引き離すことによって、基底膜に当てる。被膜は第1のカニューレで多数箇所を内側から触診され、デバイスからの光が瞬間的に被膜のさまざまな領域に当たる。細胞が緩み、むしろ前眼房内の液体中に浮遊し始める。これらの細胞は、手動のシリンジとカニューレで、あるいはほとんどの水晶体超音波吸引機械で得られる自動システムを用いて、そっと灌水および吸引して洗浄するなどの公知の方法で除去することができる。
【0071】
最も好ましい実施例では、このデバイスは従来技術に開示されている機械的デバイスと異なる。本発明のデバイスは、可動パーツはなんら含んでおらず、細胞に高強度の光は伝送せず、厳密に規定されたある波長の光のみを、厳密に規定された低い強度で、厳密に規定された時間だけ、特に細胞基底膜複合体の厳密に規定された部分に伝送する。
【0072】
本出願に記載されているデバイスは、細胞側に特定のエネルギィレベルである、光エネルギィを使用している。このエネルギィレベルは、従来使用されているレベルより数千倍低い。本発明におけるエネルギィ送出は、組織を「凝固させる」ことが目的ではない。この出願に開示されているデバイスは、細胞基底膜複合体の細胞側に非常に低い光エネルギィを使用し、基底膜側により高いエネルギィを当てて、細胞が分離できるように細胞と基底膜間の接着を切開することによって、細胞をそっと分離するまたは緩める。
【0073】
従来技術で使用されている典型的なレーザエネルギィは、この出願で特定して送出しているエネルギィの数千倍ものエネルギィである。本出願で開示されているデバイスは、細胞側からは照度レベルが0.001ルクスないし最大で1000ルクスのものを使用し、同時に、被膜側、あるいは外側からは0.002ルクスないし500000ルクスのより高い照度レベルのものを使用する。ここに記載されている本デバイスに必要なエネルギィは、内側からの照射用には0.0000024ワットである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、上皮細胞を分離するための低強度デバイスを表す図である。符号1は、細胞基底膜複合体の基底膜側を露出する光源、符号2は、細胞基底膜複合体の細胞側を露出する光源2、符号3は、基底膜、符号4は、細胞である。
【図2】図2は、単一の外付ライトを使用したデバイスを示しており、ここでは、フィルタと減衰器で、細胞基底膜複合体に対して基底膜側からおよび細胞側から当たる光の強度と波長を調整して、細胞側からの露出が、基底膜側からの露出に比べて非常に低い強度となるようにしている。この光は、光ファイバケーブルによって伝送される。 符号1は、単一の光源、符号5は光ファイバケーブル、符号6は、複合体の基底膜側へ光エネルギィを伝送するフィルタと、減衰器と、偏光器、符号7は、細胞基底膜複合体の細胞側へ、異なる特定のスペクトラル成分のより暗い光を伝送するフィルタと、減衰器と、偏光器である。
【図3】図3は、基底膜に直接照射するが、細胞側には反射ミラーを介して当てる外部光を示す。減衰器、フィルタおよび偏光器が、概略図の形で示されており、この分野の当業者には自明である。露出は、細胞基底膜複合体の基底膜側に当たっているエネルギィが、細胞基底膜複合体の細胞側に当たっているエネルギィより高くなるように行われるべきである。 符号1は、波長194ないし1600ナノメータの光源、符号9は、フィルタ/偏光器/減衰器、符号3は基底膜、符号4は細胞、符号10は、フィルタ偏光器/減衰器、符号8はミラーである。
【図4】図4は、外側の光源から基底膜への露出を示す図であり、この光は透明な角膜を通って、水晶体包の外側へ光エネルギィを露出させる。一方で、光ファイバが別の光源、または同じ光源から光を伝送するが、フィルタと減衰器によって変調された光を伝送し、複合体の細胞側を光エネルギィに露出させる。 符号11は、顕微鏡光源などの外部光源であり、符号12は、この外部光源から組織の基底膜側へ通過する光であり、符号13は、別の光源または同じ光源、すなわち、細胞側から、減衰し、ろ波された光エネルギィを、細胞基底膜複合体の他方の側へ伝送する光ファイバであり、符号14は、スムーズな無外傷性先端を有する光ファイバによって伝送される光に露出されている細胞基底膜複合体の内側、または細胞側であり、符号15は透明な角膜であり、符号16は、嚢切開(capsulorhexis)と呼ばれる被膜バッグの切り取った部分を示し、符号17は被膜バッグの外側を示す。
【図5】図5は、内側から被膜へ接触する、あるいは近接したスムーズな先端を示しており、また、デバイス先端を正しい方法で露出させ配置した、先端が湾曲したデュアル源デバイスを示す。 符号19と18は、光ファイバ光源であり、符号16は、被膜または基底膜、符号17は、内側から被膜を裏張りしている細胞である。
【図6】図6は、光ファイバコードでできた、あるいは光ファイバコードをケースに入れた、二つのスムーズな曲線ホックを示す。スムーズホックは、組織を傷つけず、近接することがあるその他の生物学的構造を傷つけるのを防ぐために行われる。細胞−基底膜複合体の細胞側への光キャリアの距離は細胞に非常に近接している。 符号20は、組織を傷つけないように設計されたスムーズな湾曲光搬送システムによる、基底膜−細胞複合体の基底膜側への露出を示し、符号21は、露出されている基底膜の態様を示し、符号22は別のスムーズに表面加工された組織を傷つけないカニューレによって細胞基底膜複合体の細胞側を露出している第2の光源を示し、符号23は細胞基底膜複合体の細胞側を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞と基底膜または被膜間の結合を切開するデバイスにおいて、194ナノメータから850ナノメータで変化する特定の波長で、細胞基底膜複合体の細胞表面と基底膜表面を、前記複合体の細胞側に当たるエネルギィを非常に低い強度にした二つの異なる光エネルギィレベルに同時に露出させる移送システムを有する光源または複数の光源と、この光エネルギィを前記被膜または基底膜を裏張りしている上皮細胞が前記基底膜を通ることなく前記デバイスから出射する光に直接に露出するように伝送して、一方のレベルの光エネルギィが、当該エネルギィが基底膜を通過することなく、前記デバイスから上皮細胞に直接に当たるようにした光伝送システムと、を具えることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記細胞を直接露出する前記光源が、水晶体上皮細胞に作用する最終エネルギィが0.001ルクスないし1000ルクスの間に近くなるような大きさの低光エネルギィを出射することを特徴とするデバイス。
【請求項3】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記細胞基底膜複合体の細胞側に作用する光源が外部光源であり、前記光が194ナノメータないし850ナノメータの間の光エネルギィを通過させる光ファイバ管によって被膜細胞に伝送されることを特徴とするデバイス。
【請求項4】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記細胞基底膜複合体の細胞側に作用する光源が、反射ミラーを用いて、この光が前側あるいは後側被膜を通ることなく被膜細胞の露出が可能である地点へ、直接伝送されることを特徴とするデバイス。
【請求項5】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記基底膜がバッグまたはエンベロープ状であり、このバッグまたはエンベロープ内部を裏張りしている細胞を伴う場合、前記光エネルギィが曲げ管内に配置されたミラーセットによって、前記細胞基底膜複合体の内側または細胞側に搬送され、光ファイバキャリアに代えて、前記光が中空パイプを通り、これらの反射ミラーとプリズムによって、必要な経路へ向きを変えることを特徴とするデバイス。
【請求項6】
請求項1に記載のデバイスにおいて、前記光源自体が前記中空パイプ内に取り付けられており、前記被膜バッグ内側において前記細胞基底膜複合体の前記細胞側を直接露出することを特徴とするデバイス。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のデバイスにおいて、追加の光源が外側から前記被膜バッグを照射して、被膜バッグが内側と外側の両方から同時に照射されるようにし、当該追加の光源は、外部光源からコヒーレント光または非コヒーレント光であり、波長が194ないし850ナノメータ、基底膜への照射強度が0.002ルクスないし500,000ルクスの単色性あるいは多色性であることを特徴とするデバイス。
【請求項8】
請求項7に記載のデバイスにおいて、前記追加の第2の光源が、手術用顕微鏡の光源であるか、あるいはその他の外部光であることを特徴とするデバイス。
【請求項9】
請求項7に記載のデバイスにおいて、前記基底膜がバッグまたはエンベロープ状の形である場合、前記第2の光源が光ファイバ光源によって、前記基底膜または被膜表面の前側あるいは外側表面に直接伝送されることを特徴とするデバイス。
【請求項10】
請求項7に記載のデバイスにおいて、前記第2の光源が、前記基底膜または前側被膜の外側表面に、眼の中に配置された反射ミラーを用いて伝送されることを特徴とするデバイス。
【請求項11】
請求項7に記載のデバイスにおいて、前記第2の光源が、基底膜または被膜の上に配置された基底膜の前側または外側表面へ直接伝送され、これを直接照射することを特徴とするデバイス。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のデバイスにおいて、前記基底膜または被膜がバッグまたはエンベロープ状の形である場合、当該被膜バッグへ進む前記デバイスの一部が、スムーズに丸い先端内に変わることを特徴とするデバイス。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のデバイスにおいて、前記被膜バッグへ進む前記デバイスの一部が、丸いループまたは球の中に回転することを特徴とするデバイス。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項に記載のデバイスを使用する方法において、基底膜または被膜がバッグまたはエンベロープの形状をしている場合に前記デバイスの先端を前記基底膜の中に通過するステップと、前記デバイスを被膜細胞に向けて、前記デバイスを前記細胞に近接させ、前記デバイスの先端で細胞に接触するステップと、その後、通常の灌水吸引システムによって前記基底膜複合体から前記細胞を洗浄または吸引するステップと、を具えることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1ないし13のいずれか1項に記載のデバイスを使用する方法において、基底膜がバッグまたはエンベロープの形状をしている場合に、前記第1の光が前記バッグの内側から前記細胞を露出し、前記第2の光源が、前記基底膜または被膜の外側または前側表面に第2の先端を配置することによって、外側から基底膜または被膜を照射することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−510561(P2008−510561A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529141(P2007−529141)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【国際出願番号】PCT/IN2004/000410
【国際公開番号】WO2006/021970
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(507056818)
【Fターム(参考)】