細胞応答計測装置および細胞応答計測チップ
【課題】薬剤に対する細胞の応答を計測する細胞応答計測装置及びそのためのチップを提供する。
【解決手段】チップ上に配置した1細胞のみの電気的状態の変化を計測することができる微小電極と、細胞が微小電極上に位置するように電極周囲を覆う細胞非接着性の壁と、細胞培養液が満たされた層と、この細胞培養液を還流し、かつ、必要によって薬剤を添加する手段と、上記微小電極の上方に位置した環状の比較電極と、上記、微小電極と比較電極を用いた細胞電位を計測し記録する手段と、チップ上に配置した1細胞の状態を光学的に計測する手段とからなる細胞応答計測装置。
【解決手段】チップ上に配置した1細胞のみの電気的状態の変化を計測することができる微小電極と、細胞が微小電極上に位置するように電極周囲を覆う細胞非接着性の壁と、細胞培養液が満たされた層と、この細胞培養液を還流し、かつ、必要によって薬剤を添加する手段と、上記微小電極の上方に位置した環状の比較電極と、上記、微小電極と比較電極を用いた細胞電位を計測し記録する手段と、チップ上に配置した1細胞の状態を光学的に計測する手段とからなる細胞応答計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤、電気刺激等に対する細胞の応答を計測する装置および細胞応答計測チップに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の状態の変化や、細胞の薬物等に対する応答を観察するのに多用されているのはバイオアッセイである。従来のバイオアッセイでは、一般的に培養細胞を用いることが多い。この系では複数の細胞を用いてアッセイを行うので、細胞集団の値の平均値をあたかも1細胞の特性であるかの様に観察してきた。
【0003】
しかし、実際には細胞は集団の中で細胞周期が同調しているものはまれであり、各々の細胞が異なった周期でタンパク質を発現している。このため、刺激に対する応答の結果を解析するときにゆらぎの問題が常に付きまとう。
【0004】
すなわち、細胞の反応機構自体が普遍的に持つ応答のゆらぎが存在するために、常に、平均的なレスポンスしか得ることができない。これらの問題を解決するために、同調培養等の手法が開発されているが、常に同じステージにある細胞群を使用することは、常にそのような細胞を供給し続けなければならないということで、バイオアッセイを広く一般に広める障害となっている。
【0005】
また、細胞に対する刺激(シグナル)は、細胞周辺の溶液に含まれるシグナル物質、栄養、溶存気体の量によって与えられるものと、他の細胞との物理的接触・細胞間インタラクションによるものの2種類があることからも、ゆらぎについての判断が難しいのが実情であった。
【0006】
細胞の物理的接触・細胞間インタラクションの問題は、バイオアッセイを組織断片のような細胞塊で行うことである程度解決できる。しかし、この場合、培養細胞と異なり、常に均一な素性の細胞塊を得ることができない。そのため、得られるデータがばらついたり、集団の中に情報が埋もれてしまったりする問題がある。
【0007】
細胞群の細胞の1つ1つを最小構成単位とする情報処理モデルの計測のために、本願の発明者らは特開2006‐94703(特許文献1)に示すように、細胞を特定の空間配置の中に閉じ込めておくための複数の細胞培養区画を構成し、隣接する区画間は細胞の通り抜けることができない溝またはトンネルでお互いを連結するとともに、必要に応じて、溝またはトンネルあるいは細胞培養区画に、細胞の電位変化を計測するための複数の電極パターンを持つ構造の集合細胞マイクロアレー(バイオアッセイチップ)を提案した。
【特許文献1】特開2006‐94703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のバイオアッセイでは、細胞を組織断片として扱うか、培養細胞のように1細胞として扱うかのいずれかであった。細胞の数が多すぎると上記従来技術の項で述べたように、得られる情報が平均的なものになってしまい、薬剤などに対するレスポンスが正確に得られない問題がある。細胞を1細胞ずつ用いる場合は、本来、多細胞組織の細胞として機能している細胞を、引き離された独立した状態の細胞として使用するために、細胞同士のインタラクションの影響が現れなくなることとなり、やはり正確な薬剤レスポンスすなわちバイオアッセイデータを得る上で問題がある。従って、1細胞で細胞電位、細胞形態が正確に計測できるとともに、必要なら、周辺に細胞を配置して細胞同士のインタラクションの影響を受ける形での1細胞の細胞電位、細胞形態が正確に計測できるデバイスやシステムを開発することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、1細胞を特定の空間配置の中に閉じ込めておくとともに、この細胞の細胞電位を計測するための微小電極を前記空間配置領域に形成し、比較電極を前記空間配置領域を含む範囲で前記微小電極の面よりZ軸方向に離れた位置に配置し、細胞には細胞培養液を還流して細胞の活性を維持できるようにする。細胞電位のより正確な計測のために、微小電極と比較電極間のX−Y軸方向の距離及びZ軸方向の距離を調整可能とする。また、前記細胞に作用する薬剤を添加する手段を付加する。
【0010】
さらに、細胞相互間のインタラクションの影響を評価できるように、特定の空間配置の中に閉じ込められた1細胞の周辺に適宜細胞を配置することを可能にし、あるいは、1細胞を特定の空間配置の中に閉じ込めた構成を規則的に配置した構成とする。また、1細胞を特定の空間配置の中に閉じ込めた構成を規則的に配置した構成を恒温層により同じ環境において、それぞれの細胞毎に異なった薬剤を作用させて、反応を評価することを可能にした構成とする。
【発明の効果】
【0011】
特定の空間配置の中に閉じ込められた1細胞の細胞電位、薬剤に対する細胞の応答を正確に計測することができるとともに、細胞相互間のインタラクションの影響を含めた評価ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の実施例に係る細胞応答計測装置の構造の1例を模式的に示した斜視図である。図2は、図1に示す細胞応答計測装置を光学観察装置のステージに載せて見た断面を示す模式図である。
【0013】
100は細胞応答計測装置であり、透明基板1の上に構築されている部品を主体として構成される。透明基板1は光学的に透明な材料、たとえば、ガラス基板あるいはシリコン基板である。2は微小電極であり、たとえば、ITOによる透明電極とされ、透明基板1上に配置される。2’は微小電極2の引き出し線である。31,32,33及び34はアガロースゲルによる壁であり、微小電極2の周辺に空間部41,42,43及び44を介して配置される。アガロースゲルによる壁31,32,33及び34は中心部が切り欠かれて細胞収納部となる空間を形成している。アガロースゲルによる壁31,32,33及び34により形成される細胞収納部となる空間の透明基板1上には微小電極2が配置され、この上に一つの細胞100が収納できる。5は金または白金リングによる比較電極であり、細胞収納部となる空間上部、すなわち細胞100の上部、でX−Y軸方向の距離及びZ軸方向の距離を調整可能な任意の位置に保持される。51は比較電極5を保持するリード部で一端が比較電極5に固着され他端が比較電極5の位置調整装置6に保持される。リード部51は比較電極の引き出し線を兼ねるものである。調整装置6は一端が基板1に固着される。61はZ軸方向の駆動装置であり、位置調整装置6に備えられる。Z軸方向の駆動装置61は後述するパソコン9の与える駆動信号Dzにより駆動されて比較電極5を保持するリード部51を介して比較電極5を上下方向に移動させる。62はY軸方向の駆動装置であり、位置調整装置6に備えられる。Y軸方向の駆動装置62は後述するパソコン9の与える駆動信号Dyにより駆動されて比較電極5を保持するリード部51を介して比較電極5をY軸方向に移動させる。63はX軸方向の駆動装置であり、位置調整装置6に備えられる。X軸方向の駆動装置63は後述するパソコン9の与える駆動信号Dxにより駆動されて比較電極5を保持するリード部51を介して比較電極5をX軸方向に移動させる。比較電極5の太さおよび直径は必要により変更してリード部51とともに位置調整装置6に装着できる。7は周辺を取り巻く壁であり、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34により形成される細胞収納部となる空間を取り巻いている。81,82は壁7の内部の領域に、細胞の培養液を還流するためのパイプであり、図の例では、基板1の底面近くまで延伸されたパイプ81から培養液が供給され、壁7の上面に近い位置のパイプ82から培養液が排出される。培養液を供給するパイプ81の培養液の出口の近くにパイプ83が結合され、このパイプ83を介して細胞に作用させたい薬剤が供給される。
【0014】
9はパソコンであり、微小電極2の引き出し線2’と比較電極5を保持するリード部51との間で細胞電位を計測し記録する。また、パソコン9には操作者の操作信号Msが加えられる。操作者は、細胞電位、薬剤に対する細胞の応答の計測、記録に先行して、細胞を微小電極2の上に細胞100を収納する前に壁7の内部の領域に培養液を入れ、ノイズ電圧を計測して、比較電極5の太さおよび直径の最適値を探索する。また、壁7の内部の領域に培養液を入れただけの状態で、操作者は駆動信号Dx,DyおよびDzを操作して比較電極5のX−Y軸方向の距離及びZ軸方向の距離を調整して最適位置を探索する。
【0015】
アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の中心部が切り欠かれて形成される細胞収納部となる空間の基板1上には微小電極2が配置され、この上に一つの細胞100が載置される。微小電極2の細胞100の載置面にはコラーゲン等の細胞が電極表面に接着するのを助ける素材を塗っておくのがよい。一方、アガロースゲルは細胞にとっては非接着性であるため、この壁31,32,33及び34の高さを細胞と同程度としても、壁を乗り越えて細胞100が移動することはない。また、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34中心部が切り欠かれて形成される細胞収納部の周辺の空間部41,42,43及び44は細胞の大きさより小さいものとされるから、この空間部41,42,43及び44をすり抜けて細胞100が移動することはない。したがって、細胞100はパイプ81,82により壁7の内部の領域に還流される細胞の培養液に曝されながら、微小電極2の上に安定して保持される。
【0016】
図1に示す細胞応答計測装置100の構造の主要なサイズの例を示すと以下のようである。これは、細胞の大きさを10μmφとした例である。透明基板1の大きさは100mm×150mm、微小電極2は8μm×8μmの大きさ、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の個々の大きさは20μm×20μm×10μm(高さ)、空間部41,42,43及び44の幅2μm、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34により形成される細胞収納部となる空間は12μmφの円柱状、壁7の外形は5mm×5mmとし高さは5mm、比較電極5は50μmφの太さの白金線で、リングの径は1mmφである。尚、ここでは、微小電極2は8μm×8μmの正方形としたが、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の全体と空間部41,42,43及び44の幅とで構成する細胞の収納部となる10μmφの円状の電極としてもよい。
【0017】
図2は、図1に示す細胞応答計測装置100を光学観察装置のステージに載せて細胞100の中心位置で見た断面を示す模式図であり、光学系により細胞の振る舞いを観察するときの概要を示す。21は光学観察装置のXYステージであり、光学的に透明であるとともに、パソコン9が与える信号に応じてX−Y駆動装置20により、任意の位置に移動される。図2では、細胞100の培養液11の供給が壁7の内側の領域にパイプ81から供給され、壁7の上面に近い位置のパイプ82から排出されている状態を示す。
【0018】
22は位相差顕微鏡あるいは微分干渉顕微鏡の光源であり、一般にハロゲン系のランプが用いられる。23は位相差等の実体顕微鏡観察の光源の光から特定の波長のもののみを透過させるバンドパスフィルタである。たとえば細胞100の観察の場合には、波長700nm近傍の狭帯域の光を用いることで細胞100の損傷を防ぐことができる。24はシャッターで、XYステージ21を移動させる場合など、画像計測をしていない間は光の照射を遮断する機能を有する。25はコンデンサレンズであり、位相差観察をする場合は位相差リングを導入し、微分干渉観察をする場合は、偏光子を導入する。XYステージ21上には基板1上に形成されている細胞応答計測装置100が載置されX−Y駆動装置20によって前記XYステージ21を移動させることで前記細胞応答計測装置100の任意の位置を観察し、計測することができる。前記細胞応答計測装置100内の細胞100の存在状態は、対物レンズ26で観察される。対物レンズ26の焦点位置はパソコン9による信号に応じて駆動装置27によって移動させることができる。対物レンズ26の倍率は40倍以上のものが使用できる。
【0019】
また、蛍光観察のために、光源31からの光をバンドパスフィルタ32によって励起光波長のみ透過させ、シャッター33によって観察するときのみ励起光が細胞100に照射されるように制御される。シャッター33を通過した励起光はダイクロイックミラー34によって細胞100に照射される。このとき対物レンズ26で観察されるのは、光源22から透過された光による細胞100の位相差像あるいは微分干渉像と、光源31からの励起光によって細胞100が発した蛍光像である。前記バンドパスフィルタ23を透過するのと同波長の光を反射するダイクロイックミラー35およびバンドパスフィルタ36によって、位相差顕微鏡像あるいは微分干渉顕微鏡像のみがカメラ37によって観察される。他方、蛍光像は、対物レンズ26を通過した光のうちミラー38およびバンドパスフィルタ39によって、蛍光観察の波長帯のみを選択的に透過させて、カメラ40で観察することができる。カメラ37で撮った位相差像あるいは微分干渉像は、パソコン9の画像処理機能で解析され、XYステージ21の移動量の制御、あるいは対物レンズ26の高さ制御、ピント合わせ等を行うことができる。カメラ37は1/200高速カメラが使用でき、拍動の画像解析に使用できる。
【0020】
図3(A)、図3(B)および図3(C)は、細胞電位の計測に関するノイズ信号の評価の概念を示す図である。それぞれ、横軸に微小電極2と比較電極5との距離をX方向、Y方向およびZ方向に変化させ、縦軸に微小電極2の引き出し線2’と比較電極5のリード51との間に検出できる電圧の振幅をとったときのノイズ信号の大きさを示す図である。それぞれ、任意の基点からLx,LyおよびLzの位置でノイズが急減することが分かる。このデータを計測に先行して計測しておき、パソコン9から駆動信号Dx,DyおよびDzを与えて比較電極5のX−Y軸方向の距離及びZ軸方向の距離を調整して最適位置で計測するようにする。
【0021】
以下、本発明の細胞応答計測装置100の構成例とこれを用いた具体的な計測例を説明する。
【0022】
図4は、図1および図2で説明した細胞応答計測装置100を用いて、心筋細胞100の拍動時の電位を計測するときの一つの使い方の例を示す図である。図1と対比して分かるように、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の全体と空間部41,42,43及び44の幅とで構成する細胞の収納部の微小電極2に心筋細胞100が載置される他に、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の全体と空間部41,42,43及び44の周辺で壁7の内側の領域に心筋細胞101,102,---,108が分散配置されている点を除けば、両者は同じである。この構成では、心筋細胞101,102,---,108の分散配置の状況に応じた微小電極2に載置された心筋細胞100の拍動時の電位が微小電極2の引き出し線2’と比較電極5のリード51との間の電位として計測される。
【0023】
一方、図5は、図1および図2で説明した細胞応答計測装置100を用いて、心筋細胞100の拍動時の電位を計測するときの他の一つの使い方の例を示す図である。図4と対比して分かるように、図4の構成では、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の全体と空間部41,42,43及び44の周辺で壁7の内側の領域に心筋細胞101,102,---,108が分散配置されるのみでこれらの心筋細胞101,102,---,108の位置を厳密に管理できるものではなかった。これに対して、図5の構成では、心筋細胞100のみならず心筋細胞101,102,---,108の全てをアガロースゲルによる壁31,32,33及び34の全体と空間部41,42,43及び44で囲ったので、心筋細胞101,102,---,108の位置も厳密に管理できる。さらに、図5の構成では、心筋細胞100,101,102,---,108が載置されたそれぞれの微小電極20,21,22,---,28(図面では参照符号の表示を省略した)と心筋細胞100,101,102,---,108のすべてに対して共通に設けられる共通の比較電極5との間でそれぞれの微小電極2に載置されたそれぞれの心筋細胞100,101,102,---,108の拍動時の電位がそれぞれの微小電極2の引き出し線2’0,2’1,2’2,---,2’8と比較電極5のリード51との間の電位として計測できる。
【0024】
図6(A)は、心筋細胞100が孤立している状態、すなわち、図4、図5に示す心筋細胞101,102,---,108が無い状態(図1に示す状態)での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。図6(B)は、心筋細胞100の周辺に図4、図5に示す心筋細胞101,102,---,108のうちの一つのみが配置された2細胞状態での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。図6(C)は心筋細胞100の周辺に図4、図5に示す心筋細胞101,102,---,108の全てが分散配置された9細胞状態での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。図6(A)〜(C)を対比して分かるように、心筋細胞100の孤立状態が最も不安定な拍動状態であり、2細胞状態では少し改善が見られ、9細胞状態は安定な拍動状態であることが分かる。
【0025】
図7(A)〜(C)は、心拍の間隔の揺らぎ(CV%)について心筋細胞がネットワークを組む細胞の配置パターンに関してネットワークを組む心筋細胞の数との関係を評価した実験結果を示す図である。図の左側に、横軸にネットワークを組む心筋細胞の数を取り、縦軸に心拍の間隔の揺らぎ(CV%)を取った特性を示し、図の右側に細胞ネットワークを組む細胞の配置パターンをアガロースゲル3が作る壁の構造として示したものである。すなわち、図7(A)は細胞の配置パターンが格子状である場合、図7(B)は細胞の配置パターンが放射状である場合、図7(C)は細胞の配置パターンが直線状である場合である。細胞の配置パターンを放射状とするため、図7(B)では、対角位置にある外側のアガロースゲル3が作る壁は45°回転した構成とし、対角位置にある中心位置のアガロースゲル3が作る壁は対角線の方向にも空間部を持つ構成とした。細胞の配置パターンがどういう形になっていても、心拍の間隔の揺らぎ(CV%)がネットワークを組む心筋細胞の数の増加によって改善されることが分かる。
【0026】
図7(D)は、図7(A)〜(C)に示す特性を重ねて表示した特性である。図7(A)〜(C)に示す特性は実質的に重なったものであることが分かる。すなわち、ネットワークを組む心筋細胞の心拍の間隔の揺らぎ(CV%)は、細胞の配置パターンには依存しないことが分かる。
【0027】
図8は、心筋細胞が受ける薬剤の効果を評価するためのタイムスケジュールを最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(a)〜(e)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。拍動の波形は縦軸に信号強度を採り、横軸に時間をとったものであり、拍動分布は縦軸に頻度をとり、横軸に拍動周期をとったものである。図8は、図5に示す構成で4細胞を格子状に配置し、パイプ81から培養液を供給しながらパイプ82から排出して培養液を壁7の領域内に還流させながら、パイプ81に接続されたパイプ83を通して、抗精神病薬ハロペリドール(HPL)を培養液に添加して薬剤の効果を評価する実験の結果を示すものである。
【0028】
時点(a)はコントロール状態であり、薬剤の効果の評価の基準状態となる。コントロール状態の期間には図5のパイプ81から培養液が供給され、パイプ82から排出されている。コントロール状態が6分継続された後、パイプ83を通して抗精神病薬ハロペリドール(HPL)が添加された培養液が壁7の領域内に還流されるようにする。時点(b)はHPL投与1分後であり、時点(c)はHPL投与5分後である。HPL投与を7分間継続した後、パイプ83を通した抗精神病薬ハロペリドール(HPL)の添加を停止し、培養液のみが壁7の領域内に還流されるようにする。すなわち、HPLにさらされた細胞を洗浄する。時点(d)はHPL洗浄6分後であり、時点(e)はHPL洗浄12分後である。
【0029】
コントロール状態においては、時点(a)の拍動の信号波形は安定しており、拍動分布も拍動周期がほぼ1秒の範囲に収まっている。コントロール状態を6分間継続した後、HPL投与を開始した。HPL投与1分後の時点(b)について見ると拍動の信号波形に乱れが生じており、矢印で示すように大きな変形を示すときが見られる。さらにHPL投与が継続され、HPL投与6分後の時点(c)について見ると拍動の信号波形の乱れはより大きくなっており、矢印で示すように大きな変形を示す状況が増大している。HPL投与を7分間継続した後、HPL投与を停止して、培養液のみを還流させて、細胞のHPLを洗浄する。HPLの洗浄6分後の時点(d)について見ると拍動の周期は伸びているが信号波形の乱れは低下している。さらにHPLの洗浄を継続し、HPLの洗浄12分後の時点(e)について見ると拍動の周期も短くなってくるとともに、信号波形の乱れは低下している。
【0030】
図9(A)、(B)はHPL投与・洗浄過程での心筋細胞の拍動ゆらぎ変化を統括的に説明する図であり、図9(A)はコントロール、HPL投与および洗浄過程の時間の経過に応じた拍動周期の揺らぎを示し、下向きの三角で示すのがそれぞれの過程の最終状態における値である。図9(B)は横軸には拍動周期をとり、縦軸に拍動周期の揺らぎをとったときのコントロール、HPL投与および洗浄過程の最終状態における値を示す図である。
【0031】
図9(A)から分かるように、HPL投与の時間経過とともにHPLの効果が高まり、拍動状態が不安定になる。すなわち、拍動周期の揺らぎが増大する。次いで、HPL投与を停止して、培養液のみを還流させて、細胞のHPLを洗浄しても、しばらくは拍動周期の揺らぎが増大した状態が続き、洗浄を継続することにより、拍動周期の揺らぎは低下する。すなわち、培地交換により徐々に拍動状態が回復する傾向を示す。しかしながら、図9(B)から分かるように、コントロール、HPL投与およびHPL洗浄のそれぞれの過程の最終状態を見ると、拍動周期および拍動周期の揺らぎはHPL洗浄によりHPL投与により受けた影響は低減されるが、太い矢印で示すように、元の状態には戻らない。
【0032】
図10は、図5に示す構成で9細胞を格子状に配置して図8で説明したと同様の薬剤の効果の評価をするためのタイムスケジュールを最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(a)〜(d)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。拍動の波形は縦軸に信号強度を採り、横軸に時間をとったものであり、拍動分布は縦軸に頻度を採り、横軸に拍動周期をとったものである。細胞に対してパイプ81から培養液を供給しながらパイプ82から排出して培養液を壁7の領域内に還流させ、且つ、パイプ81に接続されたパイプ83を通して、抗精神病薬ハロペリドール(HPL)を培養液に添加して薬剤の効果を評価する実験の結果を示すものである。
【0033】
図8および図10に示す時点(a)〜(d)は、それぞれ、(a)はコントロール状態、(b)はHPL投与1分後、(c)はHPL投与5分後であり、(d)はHPL投与を7分間継続した後、HPLにさらされた細胞を洗浄した後の、HPL洗浄6分後である。
【0034】
図8の時点(a)から(c)と図10の時点(a)から(c)を対比して見ると、図10では、9細胞を格子状に配置した細胞群としたので、HPL投与による拍動の基本的なパターンの変化が小さい、すなわち、拍動の周期の変化が小さい一方で、本来の拍動の波形の直後に表れるピークが大きいことが観察される。図8(d)と図10(d)を対比してみると、図10(d)では、拍動の周期および拍動の波形がともにコントロール状態に近いことが観察される。
【0035】
図11は、図10を参照して説明したタイムスケジュールでの薬剤の効果の評価に続けて、さらにHPLを投与するHPL再投与およびこのHPL再投与に続けてHPLを洗浄するHPL再洗浄をした場合の薬剤の効果の評価を最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(e)〜(g)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。図11における時点(d)は図10における時点(d)と同じ時点である。図11においても、拍動の波形は縦軸に信号強度を採り、横軸に時間をとったものであり、拍動分布は縦軸に頻度を採り、横軸に拍動周期をとったものである。細胞に対してパイプ81から培養液を供給しながらパイプ82から排出して培養液を壁7の領域内に還流させ、且つ、パイプ81に接続されたパイプ83を通して、抗精神病薬ハロペリドール(HPL)を培養液に添加して薬剤の効果を評価する実験の結果を示すものである。
【0036】
図11に示す時点(e)〜(g)は、それぞれ、(e)はHPLの再投与1分後、(f)はHPLの再投与5分後であり、(g)はHPLの再投与を7分間継続した後、HPLにさらされた細胞を再度洗浄したHPLの再洗浄6分後である。
【0037】
図11の時点(e)、(f)と図10の時点(b)、(c)を対比して見ると、HPLの再投与による薬剤が細胞に及ぼす影響は、HPLの最初の投与による薬剤が細胞に及ぼす影響よりはるかに大きなものであることが分かる。すなわち、図11の時点(e)、(f)では、図10の時点(b)、(c)に矢印で示す拍動の信号波形の変形と比較してはるかに大きい信号波形の変形が生じている。一方、図11の時点(g)に示すHPLの再洗浄6分後の拍動の信号波形、拍動周期と図10の時点(a)に示すコントロール状態の拍動の信号波形、拍動周期とは類似したものとなっている。
【0038】
図12(A),(B)はHPL投与・洗浄過程、HPL再投与・再洗浄過程での心筋細胞の拍動ゆらぎ変化を統括的に説明する図であり、図12(A)はコントロール、HPL投与および洗浄過程、これに続くHPL再投与・再洗浄過程の時間の経過に応じた拍動周期の揺らぎを示し、下向きの三角で示すのがそれぞれの過程の最終状態における値である。図12(B)は横軸には拍動周期をとり、縦軸に拍動周期の揺らぎをとったときのコントロール、HPL投与および洗浄過程、これに続くHPL再投与・再洗浄過程の最終状態における値を示す図である。
【0039】
図12(A)から分かるように、HPL投与の時間経過とともにHPLの効果が高まり、拍動状態が不安定になる。すなわち、拍動周期の揺らぎが増大する。次いで、HPL投与を停止して、培養液のみを還流させて、細胞のHPLを洗浄しても、しばらくは拍動周期の揺らぎが増大した状態が続き、洗浄を継続することにより、拍動周期の揺らぎは低下する。すなわち、培地交換により徐々に拍動状態が回復する傾向を示す。次いで、HPLの再投与によりHPLの効果が非常に強く表れ、拍動周期の揺らぎが大きく増大する。次いで、HPL再投与を停止して、培養液のみを還流させて、細胞のHPLを再洗浄すると拍動周期の揺らぎは大きく改善され、再洗浄を継続することにより、拍動周期の揺らぎはコントロールと同程度まで低下する。すなわち、培地交換による拍動状態の回復は再洗浄では大きな効果を示す。
【0040】
図12(B)から分かるように、しかしながら、9細胞を格子状に配置した細胞群により薬剤が細胞に及ぼす影響を評価した場合には、図9(B)に示した4細胞を格子状に配置した細胞群による評価結果と比較して、洗浄、再洗浄の結果、コントロール状態とほぼ同じ状態まで戻る。すなわち、コントロール、HPL洗浄、HPL再洗浄の過程の最終状態における拍動周期および拍動周期の揺らぎが狭い範囲に収まり、HPL投与およびHPL再投与の過程の最終状態における拍動周期および拍動周期の揺らぎが狭い範囲に収まる。これは、図8(B)に示されるコントロール、HPL投与およびHPL洗浄のそれぞれの過程の最終状態がHPL洗浄によってもHPL投与により受けた影響は低減されるが、太い矢印で示すように、元の状態には戻らないのとは大きく異なることである。
【0041】
図13(A)、(B)および(C)は、上述した心筋細胞の集団化効果に着目して、図5で説明した細胞応答計測装置100を用いて、心筋細胞の拍動リズム解析への応用の一例を説明する図である。すなわち、数個から成る小細胞集団でも安定性獲得が獲得できることに着目して、電気計測による拍動波形解析および薬剤に対するイオンチャネルレベルの応答の計測により、QT延長症候群の評価が可能となり、分子レベルの理解・薬剤スクリーニングへの応用が可能となる。
【0042】
図13(A)は心臓の拍動波形(心電図)の例を示す図であり、左側に正常な心電図波形を右側にQT延長症候群を発症している心電図波形を示す。QT延長症候群は致死性不整脈誘導あるいは抗不整脈薬により誘導することができるから、薬剤スクリーニングにおいてQT延長症候群の評価ができることが重要である。図13(B)は培養した心筋細胞の電気計測による拍動波形の計測例を示す図であり、左側に細胞外電位記録法による正常な波形を、右側にQT延長症候群の波形を示す。図13(A)と図13(B)とを対比して分かるように、培養心筋細胞の電気計測では、(1)波形の翻訳が心電図と相似、(2)Na+、K+、Ca2+チャネルの働き計測可能、(3)再分極の波形がT波様の形状を示す、メリットがあり、QT延長の評価が可能である。図13(C)は、図5に示す構成の細胞応答計測装置100により9個の培養心筋細胞の電気計測による拍動波形の取得(左側)と、パイプ83経由で付与した抗不整脈薬により誘導した薬剤スクリーニングによるQT延長検出結果(右側)を示す図である。
【0043】
図14(A)および(B)は、上述した心筋細胞の集団化効果を利用した計測における注意点の一つを説明する図である。図14(A)は、図5で説明した細胞応答計測装置100の壁7の内部に8×8(=64)細胞の配置が可能となるように構成して、その内の1列の8個の細胞を用いて、チャンネルCH1からCH8への心筋細胞の拍動の伝播を計測した結果を示す電圧のピーク波形図である。図14(B)は、均等に配列された微小電極上に8個の細胞が載置された列の各微小電極間の伝播時間を解析した結果を示す図である。図14(A)および(B)から分かるように、細胞間での伝播時間には大きなばらつきがある。したがって、計測にあたっては、心筋細胞の集団化効果を利用した安定化とともに、集団内の1細胞に着目した計測とすることが重要となる。
【0044】
さらに、図面による説明は省略するが、細胞が受ける薬剤の効果を評価するに際しては、細胞に刺激を与えない方式の連続還流系の付加が重要であるが、本発明の実施例では、薬剤は培養液の還流系の中に注入されてから細胞に作用することになり、細胞に対する刺激は低減されたものとできる。
【0045】
図15は、図5で説明した細胞応答計測装置100を用いて、20細胞からなる細胞群の心筋細胞の拍動リズムを光学的に解析する応用の一例を説明する図である。図15では、右肩に番号1から20を付して示すように、20細胞を配列して、1/30カメラによる拍動画像解析を行った。20細胞の輝度の平均変化量を測定し、最初の点を0として表示したものである。
【0046】
図16は、図5で説明した細胞応答計測装置100と対極となる細胞応答計測装置200の実施例を示す斜視図である。すなわち、図5で説明した細胞応答計測装置100は壁7で囲われた領域内に複数個の細胞が所定の関係を保持できるように配置され、これらのすべての細胞に共通の培養液が供給されるものとした。これに対して、図16では図1で説明した細胞応答計測装置100を単位とする計測装置1001,1002,1003,---,1009を共通の恒温層200に収納したものとした。もちろん、図16でも、図5で説明した細胞応答計測装置100を単位とする計測装置1001,1002,1003,---,1009を共通の恒温層200に収納するものとしてもよい。この実施例では、共通の恒温層200によって与えられる同一の環境の下で、それぞれの細胞応答計測装置100にここに設定される条件化での細胞の反応を容易に評価できる。なお、図16に示す実施例は、図が煩雑となるので、個々の構成要素の参照符号は省略した。
【0047】
図1、図5で説明した細胞応答計測装置100は共通の培養液の下での一つの細胞の振る舞い、あるいは、細胞集団での細胞の振る舞い、細胞集団内での個々の細胞の振る舞いを評価するのに適した実施例と言うことができるのに対して、図16説明した細胞応答計測装置は、共通の環境の下での一つの細胞の振る舞い、あるいは、細胞集団での細胞の振る舞い、細胞集団内での個々の細胞の振る舞いを評価するのに適した実施例と言うことができる。
【0048】
図17(A)〜(D)は、図1で説明した透明基板1、微小電極2、微小電極2の引き出し線2’の具体例を説明する図である。図17(A)は平面図を示す顕微鏡写真、図17(B)は微小電極の部分を拡大して示す顕微鏡写真(左側)、説明図(右側)、図17(C)は、図17(B)に示す顕微鏡写真のa−a位置で矢印方向に見た断面図、図17(D)は微小電極の部分の実体顕微鏡像である。
【0049】
図17(A)〜(D)は、心筋細胞が組むネットワークを図7(C)に示す細胞の配置パターンを直線状とした場合の評価を一度に多数の心筋細胞グループに対して実施できるように工夫されたものである。すなわち、8個の微小電極2を直線状に縦方向に配列したパターンを4本、8個の微小電極2を直線状に横方向に配列したパターンを4本構成し、それぞれの微小電極2に接続されている引き出し線2’を基板周辺に引き出している構造である。この実施例では、8本のパターンのそれぞれに異なった細胞グループを対応させて評価すれば、一度に8グループの細胞の評価ができる。
【0050】
この実施例を実現するには、まず、基板1の上面に、微小電極2および引き出し線2’を形成するためのITO膜41を全面に形成する。その後、図17(B)右側に示すように、微小電極2および引き出し線2’を一体とした導電パターンとして周辺のITO膜を微小電極2(たとえば、4μmφ)および引き出し線2’(たとえば、幅4μm)を一体とした導電パターンに沿った周辺部の狭い幅(たとえば1μm)をエッチングしたエッチング部42,43により除去する。この結果、全ての微小電極2および引き出し線2’を一体とした導電パターンがITO膜41から切り離されるとともに、残りのITO膜41は全体が接続された導電体として基板1に残る。次いで、ITO膜41からエッチングにより切り出された微小電極2および引き出し線2’を一体とした導電パターンを含む全面にポリイミドによる絶縁膜47を形成する。これにより、図17(C)に示すように、エッチングにより除去された微小電極2および引き出し線2’を一体とした導電パターンに沿った周辺のエッチング部42,43をポリイミドによる絶縁膜47で埋めるとともに全面をポリイミドによる絶縁膜47で覆う。次いで、図17(C)、(D)に示すように、微小電極2に対応する位置のポリイミドによる絶縁膜47を除去して微小電極2の上にPt/Pt−blackよりなる細胞載置膜46を形成する。微小電極2と細胞載置膜46とは電気的に接続されているのは当然である。
【0051】
この実施例では微小電極2および引き出し線2’を一体としたパターン以外の部分の全面のITO膜はグランド層として利用することができる。したがって、隣接した微小電極2および引き出し線2’相互の間で信号の干渉が起こることはない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に関する細胞応答計測装置に関する産業上の利用の形態についてみると、研究者あるいは製薬会社等の細胞応答計測装置を利用する立場と、細胞応答計測装置のためのチップを供給するメーカの立場での利用があり得る。利用する立場から言えば、細胞応答計測装置の細胞収納部となる空間に心筋細胞を収納した細胞応答計測装置のためのチップを供給されるのが簡便である。しかし、チップの状態では、培養液が入れられた状態でも、細胞収納部となる空間に収納された心筋細胞は長時間生存し得ないので、チップを供給するメーカは、使用期限を短期間に限った形でのチップの供給とするか、あるいは、図1に示す基板部分の要素からなるチップの供給とがあり得る。チップの供給の場合は、細胞応答計測装置の細胞収納部となる空間への心筋細胞の収納および全体の組み立てはユーザに任せることになる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例に係る細胞応答計測装置の構造の1例を模式的に示した斜視図である。
【図2】図1に示す細胞応答計測装置を光学観察装置のステージに載せて縦方向の中心位置において奥行方向に見た断面図である。
【図3】(A)は細胞電位の計測に関するノイズ信号の評価の例を示す図、(B)は、微小電極と比較電極の距離をパラメータとして、横軸に比較電極のリングの径のサイズ、縦軸に微小電極の引き出し線と比較電極のリードとの間に検出できる電圧信号の信号/ノイズ比(S/N)を採ったときの特性図、(C)は、比較電極のリングの径のサイズをパラメータとして、横軸に、微小電極と比較電極の距離、縦軸に微小電極の引き出し線と比較電極のリードとの間に検出できる電圧信号の信号/ノイズ比(S/N)を採ったときの特性図、である。
【図4】(A)は、の細胞保持区画の細胞収納部となる空間に一つの心筋細胞を収納して心筋細胞の拍動を計測した測定結果を模式的に示す図、(B)は細胞保持区画の細胞収納部となる空間の周辺部にいくつかの心筋細胞を入れ、この心筋細胞と周辺部の心筋細胞が突起を伸ばし接触してギャップジャンクションを形成して、お互いの細胞とインタラクションしている状態で心筋細胞の拍動を計測した測定結果を模式的に示す図、である。
【図5】図1および図2で説明した細胞応答計測装置100を用いて、心筋細胞100の拍動時の電位を計測するときの他の一つの使い方の例を示す図である。
【図6】(A)は、心筋細胞100が孤立している状態での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。図6(B)は、心筋細胞100の周辺に一つの細胞が配置された2細胞状態での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。図6(C)は心筋細胞100の周辺に9細胞が分散配置された9細胞状態での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。
【図7】(A)〜(C)は、心拍の間隔の揺らぎ(CV%)について心筋細胞がネットワークを組む細胞の配置パターンに関してネットワークを組む心筋細胞の数との関係を評価した実験結果を示す図である。
【図8】心筋細胞が受ける薬剤の効果を評価するためのタイムスケジュールを最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(a)〜(e)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。
【図9】(A)、(B)はHPL投与・洗浄過程での心筋細胞の拍動ゆらぎ変化を統括的に説明する図である。
【図10】図5に示す構成で9細胞を格子状に配置して図8で説明したと同様の薬剤の効果の評価をするためのタイムスケジュールを最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(a)〜(d)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。
【図11】図10を参照して説明したタイムスケジュールでの薬剤の効果の評価に続けて、さらにHPLを投与するHPL再投与およびこのHPL再投与に続けてHPLを洗浄するHPL再洗浄をした場合の薬剤の効果の評価を最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(e)〜(g)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。
【図12】(A),(B)はHPL投与・洗浄過程、HPL再投与・再洗浄過程での心筋細胞の拍動ゆらぎ変化を統括的に説明する図である。
【図13】(A)、(B)および(C)は、心筋細胞の集団化効果に着目して、図5で説明した細胞応答計測装置100を用いて、心筋細胞の拍動リズム解析への応用の一例を説明する図である。
【図14】(A)および(B)は、心筋細胞の集団化効果を利用した計測における注意点の一つを説明する図である。
【図15】図5で説明した細胞応答計測装置100を用いて、20細胞からなる細胞群の心筋細胞の拍動リズムを光学的に解析する応用の一例を説明する図である。
【図16】図5で説明した細胞応答計測装置100と対極となる細胞応答計測装置200の実施例を示す斜視図である。
【図17】(A)〜(D)は、図1で説明した透明基板1、微小電極2、微小電極2の引き出し線2’を含む多電極基板の具体例を説明する図である。
【符号の説明】
【0054】
1…基板、2…微小電極、2’…微小電極2の引き出し線、31,32,33及び34…アガロースゲルによる壁、41,42,43及び44…空間部、5…白金リングによる比較電極、51…比較電極5を保持するリード部、6…位置調整装置、7…周辺を取り巻く壁、61…Z軸方向の駆動装置、62…Y軸方向の駆動装置、63…X軸方向の駆動装置、Dx,DyおよびDz…駆動信号、81,82,83…パイプ、9…パソコン、Ms…パソコンの操作信号、100,102,103---,109…心筋細胞、20…X−Y駆動装置、21…光学観察装置のステージ、22…光源、23…バンドパスフィルタ、24…シャッター、25…コンデンサレンズ、26…対物レンズ、27…駆動装置、31…光源、32,36,39…バンドパスフィルタ、33…シャッター、34,35…ダイクロイックミラー、37,40…カメラ、41…ITO膜、42,43…エッチング部、46…細胞載置膜、47…ポリイミドによる絶縁膜、200…恒温層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤、電気刺激等に対する細胞の応答を計測する装置および細胞応答計測チップに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の状態の変化や、細胞の薬物等に対する応答を観察するのに多用されているのはバイオアッセイである。従来のバイオアッセイでは、一般的に培養細胞を用いることが多い。この系では複数の細胞を用いてアッセイを行うので、細胞集団の値の平均値をあたかも1細胞の特性であるかの様に観察してきた。
【0003】
しかし、実際には細胞は集団の中で細胞周期が同調しているものはまれであり、各々の細胞が異なった周期でタンパク質を発現している。このため、刺激に対する応答の結果を解析するときにゆらぎの問題が常に付きまとう。
【0004】
すなわち、細胞の反応機構自体が普遍的に持つ応答のゆらぎが存在するために、常に、平均的なレスポンスしか得ることができない。これらの問題を解決するために、同調培養等の手法が開発されているが、常に同じステージにある細胞群を使用することは、常にそのような細胞を供給し続けなければならないということで、バイオアッセイを広く一般に広める障害となっている。
【0005】
また、細胞に対する刺激(シグナル)は、細胞周辺の溶液に含まれるシグナル物質、栄養、溶存気体の量によって与えられるものと、他の細胞との物理的接触・細胞間インタラクションによるものの2種類があることからも、ゆらぎについての判断が難しいのが実情であった。
【0006】
細胞の物理的接触・細胞間インタラクションの問題は、バイオアッセイを組織断片のような細胞塊で行うことである程度解決できる。しかし、この場合、培養細胞と異なり、常に均一な素性の細胞塊を得ることができない。そのため、得られるデータがばらついたり、集団の中に情報が埋もれてしまったりする問題がある。
【0007】
細胞群の細胞の1つ1つを最小構成単位とする情報処理モデルの計測のために、本願の発明者らは特開2006‐94703(特許文献1)に示すように、細胞を特定の空間配置の中に閉じ込めておくための複数の細胞培養区画を構成し、隣接する区画間は細胞の通り抜けることができない溝またはトンネルでお互いを連結するとともに、必要に応じて、溝またはトンネルあるいは細胞培養区画に、細胞の電位変化を計測するための複数の電極パターンを持つ構造の集合細胞マイクロアレー(バイオアッセイチップ)を提案した。
【特許文献1】特開2006‐94703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のバイオアッセイでは、細胞を組織断片として扱うか、培養細胞のように1細胞として扱うかのいずれかであった。細胞の数が多すぎると上記従来技術の項で述べたように、得られる情報が平均的なものになってしまい、薬剤などに対するレスポンスが正確に得られない問題がある。細胞を1細胞ずつ用いる場合は、本来、多細胞組織の細胞として機能している細胞を、引き離された独立した状態の細胞として使用するために、細胞同士のインタラクションの影響が現れなくなることとなり、やはり正確な薬剤レスポンスすなわちバイオアッセイデータを得る上で問題がある。従って、1細胞で細胞電位、細胞形態が正確に計測できるとともに、必要なら、周辺に細胞を配置して細胞同士のインタラクションの影響を受ける形での1細胞の細胞電位、細胞形態が正確に計測できるデバイスやシステムを開発することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、1細胞を特定の空間配置の中に閉じ込めておくとともに、この細胞の細胞電位を計測するための微小電極を前記空間配置領域に形成し、比較電極を前記空間配置領域を含む範囲で前記微小電極の面よりZ軸方向に離れた位置に配置し、細胞には細胞培養液を還流して細胞の活性を維持できるようにする。細胞電位のより正確な計測のために、微小電極と比較電極間のX−Y軸方向の距離及びZ軸方向の距離を調整可能とする。また、前記細胞に作用する薬剤を添加する手段を付加する。
【0010】
さらに、細胞相互間のインタラクションの影響を評価できるように、特定の空間配置の中に閉じ込められた1細胞の周辺に適宜細胞を配置することを可能にし、あるいは、1細胞を特定の空間配置の中に閉じ込めた構成を規則的に配置した構成とする。また、1細胞を特定の空間配置の中に閉じ込めた構成を規則的に配置した構成を恒温層により同じ環境において、それぞれの細胞毎に異なった薬剤を作用させて、反応を評価することを可能にした構成とする。
【発明の効果】
【0011】
特定の空間配置の中に閉じ込められた1細胞の細胞電位、薬剤に対する細胞の応答を正確に計測することができるとともに、細胞相互間のインタラクションの影響を含めた評価ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の実施例に係る細胞応答計測装置の構造の1例を模式的に示した斜視図である。図2は、図1に示す細胞応答計測装置を光学観察装置のステージに載せて見た断面を示す模式図である。
【0013】
100は細胞応答計測装置であり、透明基板1の上に構築されている部品を主体として構成される。透明基板1は光学的に透明な材料、たとえば、ガラス基板あるいはシリコン基板である。2は微小電極であり、たとえば、ITOによる透明電極とされ、透明基板1上に配置される。2’は微小電極2の引き出し線である。31,32,33及び34はアガロースゲルによる壁であり、微小電極2の周辺に空間部41,42,43及び44を介して配置される。アガロースゲルによる壁31,32,33及び34は中心部が切り欠かれて細胞収納部となる空間を形成している。アガロースゲルによる壁31,32,33及び34により形成される細胞収納部となる空間の透明基板1上には微小電極2が配置され、この上に一つの細胞100が収納できる。5は金または白金リングによる比較電極であり、細胞収納部となる空間上部、すなわち細胞100の上部、でX−Y軸方向の距離及びZ軸方向の距離を調整可能な任意の位置に保持される。51は比較電極5を保持するリード部で一端が比較電極5に固着され他端が比較電極5の位置調整装置6に保持される。リード部51は比較電極の引き出し線を兼ねるものである。調整装置6は一端が基板1に固着される。61はZ軸方向の駆動装置であり、位置調整装置6に備えられる。Z軸方向の駆動装置61は後述するパソコン9の与える駆動信号Dzにより駆動されて比較電極5を保持するリード部51を介して比較電極5を上下方向に移動させる。62はY軸方向の駆動装置であり、位置調整装置6に備えられる。Y軸方向の駆動装置62は後述するパソコン9の与える駆動信号Dyにより駆動されて比較電極5を保持するリード部51を介して比較電極5をY軸方向に移動させる。63はX軸方向の駆動装置であり、位置調整装置6に備えられる。X軸方向の駆動装置63は後述するパソコン9の与える駆動信号Dxにより駆動されて比較電極5を保持するリード部51を介して比較電極5をX軸方向に移動させる。比較電極5の太さおよび直径は必要により変更してリード部51とともに位置調整装置6に装着できる。7は周辺を取り巻く壁であり、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34により形成される細胞収納部となる空間を取り巻いている。81,82は壁7の内部の領域に、細胞の培養液を還流するためのパイプであり、図の例では、基板1の底面近くまで延伸されたパイプ81から培養液が供給され、壁7の上面に近い位置のパイプ82から培養液が排出される。培養液を供給するパイプ81の培養液の出口の近くにパイプ83が結合され、このパイプ83を介して細胞に作用させたい薬剤が供給される。
【0014】
9はパソコンであり、微小電極2の引き出し線2’と比較電極5を保持するリード部51との間で細胞電位を計測し記録する。また、パソコン9には操作者の操作信号Msが加えられる。操作者は、細胞電位、薬剤に対する細胞の応答の計測、記録に先行して、細胞を微小電極2の上に細胞100を収納する前に壁7の内部の領域に培養液を入れ、ノイズ電圧を計測して、比較電極5の太さおよび直径の最適値を探索する。また、壁7の内部の領域に培養液を入れただけの状態で、操作者は駆動信号Dx,DyおよびDzを操作して比較電極5のX−Y軸方向の距離及びZ軸方向の距離を調整して最適位置を探索する。
【0015】
アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の中心部が切り欠かれて形成される細胞収納部となる空間の基板1上には微小電極2が配置され、この上に一つの細胞100が載置される。微小電極2の細胞100の載置面にはコラーゲン等の細胞が電極表面に接着するのを助ける素材を塗っておくのがよい。一方、アガロースゲルは細胞にとっては非接着性であるため、この壁31,32,33及び34の高さを細胞と同程度としても、壁を乗り越えて細胞100が移動することはない。また、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34中心部が切り欠かれて形成される細胞収納部の周辺の空間部41,42,43及び44は細胞の大きさより小さいものとされるから、この空間部41,42,43及び44をすり抜けて細胞100が移動することはない。したがって、細胞100はパイプ81,82により壁7の内部の領域に還流される細胞の培養液に曝されながら、微小電極2の上に安定して保持される。
【0016】
図1に示す細胞応答計測装置100の構造の主要なサイズの例を示すと以下のようである。これは、細胞の大きさを10μmφとした例である。透明基板1の大きさは100mm×150mm、微小電極2は8μm×8μmの大きさ、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の個々の大きさは20μm×20μm×10μm(高さ)、空間部41,42,43及び44の幅2μm、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34により形成される細胞収納部となる空間は12μmφの円柱状、壁7の外形は5mm×5mmとし高さは5mm、比較電極5は50μmφの太さの白金線で、リングの径は1mmφである。尚、ここでは、微小電極2は8μm×8μmの正方形としたが、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の全体と空間部41,42,43及び44の幅とで構成する細胞の収納部となる10μmφの円状の電極としてもよい。
【0017】
図2は、図1に示す細胞応答計測装置100を光学観察装置のステージに載せて細胞100の中心位置で見た断面を示す模式図であり、光学系により細胞の振る舞いを観察するときの概要を示す。21は光学観察装置のXYステージであり、光学的に透明であるとともに、パソコン9が与える信号に応じてX−Y駆動装置20により、任意の位置に移動される。図2では、細胞100の培養液11の供給が壁7の内側の領域にパイプ81から供給され、壁7の上面に近い位置のパイプ82から排出されている状態を示す。
【0018】
22は位相差顕微鏡あるいは微分干渉顕微鏡の光源であり、一般にハロゲン系のランプが用いられる。23は位相差等の実体顕微鏡観察の光源の光から特定の波長のもののみを透過させるバンドパスフィルタである。たとえば細胞100の観察の場合には、波長700nm近傍の狭帯域の光を用いることで細胞100の損傷を防ぐことができる。24はシャッターで、XYステージ21を移動させる場合など、画像計測をしていない間は光の照射を遮断する機能を有する。25はコンデンサレンズであり、位相差観察をする場合は位相差リングを導入し、微分干渉観察をする場合は、偏光子を導入する。XYステージ21上には基板1上に形成されている細胞応答計測装置100が載置されX−Y駆動装置20によって前記XYステージ21を移動させることで前記細胞応答計測装置100の任意の位置を観察し、計測することができる。前記細胞応答計測装置100内の細胞100の存在状態は、対物レンズ26で観察される。対物レンズ26の焦点位置はパソコン9による信号に応じて駆動装置27によって移動させることができる。対物レンズ26の倍率は40倍以上のものが使用できる。
【0019】
また、蛍光観察のために、光源31からの光をバンドパスフィルタ32によって励起光波長のみ透過させ、シャッター33によって観察するときのみ励起光が細胞100に照射されるように制御される。シャッター33を通過した励起光はダイクロイックミラー34によって細胞100に照射される。このとき対物レンズ26で観察されるのは、光源22から透過された光による細胞100の位相差像あるいは微分干渉像と、光源31からの励起光によって細胞100が発した蛍光像である。前記バンドパスフィルタ23を透過するのと同波長の光を反射するダイクロイックミラー35およびバンドパスフィルタ36によって、位相差顕微鏡像あるいは微分干渉顕微鏡像のみがカメラ37によって観察される。他方、蛍光像は、対物レンズ26を通過した光のうちミラー38およびバンドパスフィルタ39によって、蛍光観察の波長帯のみを選択的に透過させて、カメラ40で観察することができる。カメラ37で撮った位相差像あるいは微分干渉像は、パソコン9の画像処理機能で解析され、XYステージ21の移動量の制御、あるいは対物レンズ26の高さ制御、ピント合わせ等を行うことができる。カメラ37は1/200高速カメラが使用でき、拍動の画像解析に使用できる。
【0020】
図3(A)、図3(B)および図3(C)は、細胞電位の計測に関するノイズ信号の評価の概念を示す図である。それぞれ、横軸に微小電極2と比較電極5との距離をX方向、Y方向およびZ方向に変化させ、縦軸に微小電極2の引き出し線2’と比較電極5のリード51との間に検出できる電圧の振幅をとったときのノイズ信号の大きさを示す図である。それぞれ、任意の基点からLx,LyおよびLzの位置でノイズが急減することが分かる。このデータを計測に先行して計測しておき、パソコン9から駆動信号Dx,DyおよびDzを与えて比較電極5のX−Y軸方向の距離及びZ軸方向の距離を調整して最適位置で計測するようにする。
【0021】
以下、本発明の細胞応答計測装置100の構成例とこれを用いた具体的な計測例を説明する。
【0022】
図4は、図1および図2で説明した細胞応答計測装置100を用いて、心筋細胞100の拍動時の電位を計測するときの一つの使い方の例を示す図である。図1と対比して分かるように、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の全体と空間部41,42,43及び44の幅とで構成する細胞の収納部の微小電極2に心筋細胞100が載置される他に、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の全体と空間部41,42,43及び44の周辺で壁7の内側の領域に心筋細胞101,102,---,108が分散配置されている点を除けば、両者は同じである。この構成では、心筋細胞101,102,---,108の分散配置の状況に応じた微小電極2に載置された心筋細胞100の拍動時の電位が微小電極2の引き出し線2’と比較電極5のリード51との間の電位として計測される。
【0023】
一方、図5は、図1および図2で説明した細胞応答計測装置100を用いて、心筋細胞100の拍動時の電位を計測するときの他の一つの使い方の例を示す図である。図4と対比して分かるように、図4の構成では、アガロースゲルによる壁31,32,33及び34の全体と空間部41,42,43及び44の周辺で壁7の内側の領域に心筋細胞101,102,---,108が分散配置されるのみでこれらの心筋細胞101,102,---,108の位置を厳密に管理できるものではなかった。これに対して、図5の構成では、心筋細胞100のみならず心筋細胞101,102,---,108の全てをアガロースゲルによる壁31,32,33及び34の全体と空間部41,42,43及び44で囲ったので、心筋細胞101,102,---,108の位置も厳密に管理できる。さらに、図5の構成では、心筋細胞100,101,102,---,108が載置されたそれぞれの微小電極20,21,22,---,28(図面では参照符号の表示を省略した)と心筋細胞100,101,102,---,108のすべてに対して共通に設けられる共通の比較電極5との間でそれぞれの微小電極2に載置されたそれぞれの心筋細胞100,101,102,---,108の拍動時の電位がそれぞれの微小電極2の引き出し線2’0,2’1,2’2,---,2’8と比較電極5のリード51との間の電位として計測できる。
【0024】
図6(A)は、心筋細胞100が孤立している状態、すなわち、図4、図5に示す心筋細胞101,102,---,108が無い状態(図1に示す状態)での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。図6(B)は、心筋細胞100の周辺に図4、図5に示す心筋細胞101,102,---,108のうちの一つのみが配置された2細胞状態での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。図6(C)は心筋細胞100の周辺に図4、図5に示す心筋細胞101,102,---,108の全てが分散配置された9細胞状態での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。図6(A)〜(C)を対比して分かるように、心筋細胞100の孤立状態が最も不安定な拍動状態であり、2細胞状態では少し改善が見られ、9細胞状態は安定な拍動状態であることが分かる。
【0025】
図7(A)〜(C)は、心拍の間隔の揺らぎ(CV%)について心筋細胞がネットワークを組む細胞の配置パターンに関してネットワークを組む心筋細胞の数との関係を評価した実験結果を示す図である。図の左側に、横軸にネットワークを組む心筋細胞の数を取り、縦軸に心拍の間隔の揺らぎ(CV%)を取った特性を示し、図の右側に細胞ネットワークを組む細胞の配置パターンをアガロースゲル3が作る壁の構造として示したものである。すなわち、図7(A)は細胞の配置パターンが格子状である場合、図7(B)は細胞の配置パターンが放射状である場合、図7(C)は細胞の配置パターンが直線状である場合である。細胞の配置パターンを放射状とするため、図7(B)では、対角位置にある外側のアガロースゲル3が作る壁は45°回転した構成とし、対角位置にある中心位置のアガロースゲル3が作る壁は対角線の方向にも空間部を持つ構成とした。細胞の配置パターンがどういう形になっていても、心拍の間隔の揺らぎ(CV%)がネットワークを組む心筋細胞の数の増加によって改善されることが分かる。
【0026】
図7(D)は、図7(A)〜(C)に示す特性を重ねて表示した特性である。図7(A)〜(C)に示す特性は実質的に重なったものであることが分かる。すなわち、ネットワークを組む心筋細胞の心拍の間隔の揺らぎ(CV%)は、細胞の配置パターンには依存しないことが分かる。
【0027】
図8は、心筋細胞が受ける薬剤の効果を評価するためのタイムスケジュールを最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(a)〜(e)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。拍動の波形は縦軸に信号強度を採り、横軸に時間をとったものであり、拍動分布は縦軸に頻度をとり、横軸に拍動周期をとったものである。図8は、図5に示す構成で4細胞を格子状に配置し、パイプ81から培養液を供給しながらパイプ82から排出して培養液を壁7の領域内に還流させながら、パイプ81に接続されたパイプ83を通して、抗精神病薬ハロペリドール(HPL)を培養液に添加して薬剤の効果を評価する実験の結果を示すものである。
【0028】
時点(a)はコントロール状態であり、薬剤の効果の評価の基準状態となる。コントロール状態の期間には図5のパイプ81から培養液が供給され、パイプ82から排出されている。コントロール状態が6分継続された後、パイプ83を通して抗精神病薬ハロペリドール(HPL)が添加された培養液が壁7の領域内に還流されるようにする。時点(b)はHPL投与1分後であり、時点(c)はHPL投与5分後である。HPL投与を7分間継続した後、パイプ83を通した抗精神病薬ハロペリドール(HPL)の添加を停止し、培養液のみが壁7の領域内に還流されるようにする。すなわち、HPLにさらされた細胞を洗浄する。時点(d)はHPL洗浄6分後であり、時点(e)はHPL洗浄12分後である。
【0029】
コントロール状態においては、時点(a)の拍動の信号波形は安定しており、拍動分布も拍動周期がほぼ1秒の範囲に収まっている。コントロール状態を6分間継続した後、HPL投与を開始した。HPL投与1分後の時点(b)について見ると拍動の信号波形に乱れが生じており、矢印で示すように大きな変形を示すときが見られる。さらにHPL投与が継続され、HPL投与6分後の時点(c)について見ると拍動の信号波形の乱れはより大きくなっており、矢印で示すように大きな変形を示す状況が増大している。HPL投与を7分間継続した後、HPL投与を停止して、培養液のみを還流させて、細胞のHPLを洗浄する。HPLの洗浄6分後の時点(d)について見ると拍動の周期は伸びているが信号波形の乱れは低下している。さらにHPLの洗浄を継続し、HPLの洗浄12分後の時点(e)について見ると拍動の周期も短くなってくるとともに、信号波形の乱れは低下している。
【0030】
図9(A)、(B)はHPL投与・洗浄過程での心筋細胞の拍動ゆらぎ変化を統括的に説明する図であり、図9(A)はコントロール、HPL投与および洗浄過程の時間の経過に応じた拍動周期の揺らぎを示し、下向きの三角で示すのがそれぞれの過程の最終状態における値である。図9(B)は横軸には拍動周期をとり、縦軸に拍動周期の揺らぎをとったときのコントロール、HPL投与および洗浄過程の最終状態における値を示す図である。
【0031】
図9(A)から分かるように、HPL投与の時間経過とともにHPLの効果が高まり、拍動状態が不安定になる。すなわち、拍動周期の揺らぎが増大する。次いで、HPL投与を停止して、培養液のみを還流させて、細胞のHPLを洗浄しても、しばらくは拍動周期の揺らぎが増大した状態が続き、洗浄を継続することにより、拍動周期の揺らぎは低下する。すなわち、培地交換により徐々に拍動状態が回復する傾向を示す。しかしながら、図9(B)から分かるように、コントロール、HPL投与およびHPL洗浄のそれぞれの過程の最終状態を見ると、拍動周期および拍動周期の揺らぎはHPL洗浄によりHPL投与により受けた影響は低減されるが、太い矢印で示すように、元の状態には戻らない。
【0032】
図10は、図5に示す構成で9細胞を格子状に配置して図8で説明したと同様の薬剤の効果の評価をするためのタイムスケジュールを最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(a)〜(d)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。拍動の波形は縦軸に信号強度を採り、横軸に時間をとったものであり、拍動分布は縦軸に頻度を採り、横軸に拍動周期をとったものである。細胞に対してパイプ81から培養液を供給しながらパイプ82から排出して培養液を壁7の領域内に還流させ、且つ、パイプ81に接続されたパイプ83を通して、抗精神病薬ハロペリドール(HPL)を培養液に添加して薬剤の効果を評価する実験の結果を示すものである。
【0033】
図8および図10に示す時点(a)〜(d)は、それぞれ、(a)はコントロール状態、(b)はHPL投与1分後、(c)はHPL投与5分後であり、(d)はHPL投与を7分間継続した後、HPLにさらされた細胞を洗浄した後の、HPL洗浄6分後である。
【0034】
図8の時点(a)から(c)と図10の時点(a)から(c)を対比して見ると、図10では、9細胞を格子状に配置した細胞群としたので、HPL投与による拍動の基本的なパターンの変化が小さい、すなわち、拍動の周期の変化が小さい一方で、本来の拍動の波形の直後に表れるピークが大きいことが観察される。図8(d)と図10(d)を対比してみると、図10(d)では、拍動の周期および拍動の波形がともにコントロール状態に近いことが観察される。
【0035】
図11は、図10を参照して説明したタイムスケジュールでの薬剤の効果の評価に続けて、さらにHPLを投与するHPL再投与およびこのHPL再投与に続けてHPLを洗浄するHPL再洗浄をした場合の薬剤の効果の評価を最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(e)〜(g)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。図11における時点(d)は図10における時点(d)と同じ時点である。図11においても、拍動の波形は縦軸に信号強度を採り、横軸に時間をとったものであり、拍動分布は縦軸に頻度を採り、横軸に拍動周期をとったものである。細胞に対してパイプ81から培養液を供給しながらパイプ82から排出して培養液を壁7の領域内に還流させ、且つ、パイプ81に接続されたパイプ83を通して、抗精神病薬ハロペリドール(HPL)を培養液に添加して薬剤の効果を評価する実験の結果を示すものである。
【0036】
図11に示す時点(e)〜(g)は、それぞれ、(e)はHPLの再投与1分後、(f)はHPLの再投与5分後であり、(g)はHPLの再投与を7分間継続した後、HPLにさらされた細胞を再度洗浄したHPLの再洗浄6分後である。
【0037】
図11の時点(e)、(f)と図10の時点(b)、(c)を対比して見ると、HPLの再投与による薬剤が細胞に及ぼす影響は、HPLの最初の投与による薬剤が細胞に及ぼす影響よりはるかに大きなものであることが分かる。すなわち、図11の時点(e)、(f)では、図10の時点(b)、(c)に矢印で示す拍動の信号波形の変形と比較してはるかに大きい信号波形の変形が生じている。一方、図11の時点(g)に示すHPLの再洗浄6分後の拍動の信号波形、拍動周期と図10の時点(a)に示すコントロール状態の拍動の信号波形、拍動周期とは類似したものとなっている。
【0038】
図12(A),(B)はHPL投与・洗浄過程、HPL再投与・再洗浄過程での心筋細胞の拍動ゆらぎ変化を統括的に説明する図であり、図12(A)はコントロール、HPL投与および洗浄過程、これに続くHPL再投与・再洗浄過程の時間の経過に応じた拍動周期の揺らぎを示し、下向きの三角で示すのがそれぞれの過程の最終状態における値である。図12(B)は横軸には拍動周期をとり、縦軸に拍動周期の揺らぎをとったときのコントロール、HPL投与および洗浄過程、これに続くHPL再投与・再洗浄過程の最終状態における値を示す図である。
【0039】
図12(A)から分かるように、HPL投与の時間経過とともにHPLの効果が高まり、拍動状態が不安定になる。すなわち、拍動周期の揺らぎが増大する。次いで、HPL投与を停止して、培養液のみを還流させて、細胞のHPLを洗浄しても、しばらくは拍動周期の揺らぎが増大した状態が続き、洗浄を継続することにより、拍動周期の揺らぎは低下する。すなわち、培地交換により徐々に拍動状態が回復する傾向を示す。次いで、HPLの再投与によりHPLの効果が非常に強く表れ、拍動周期の揺らぎが大きく増大する。次いで、HPL再投与を停止して、培養液のみを還流させて、細胞のHPLを再洗浄すると拍動周期の揺らぎは大きく改善され、再洗浄を継続することにより、拍動周期の揺らぎはコントロールと同程度まで低下する。すなわち、培地交換による拍動状態の回復は再洗浄では大きな効果を示す。
【0040】
図12(B)から分かるように、しかしながら、9細胞を格子状に配置した細胞群により薬剤が細胞に及ぼす影響を評価した場合には、図9(B)に示した4細胞を格子状に配置した細胞群による評価結果と比較して、洗浄、再洗浄の結果、コントロール状態とほぼ同じ状態まで戻る。すなわち、コントロール、HPL洗浄、HPL再洗浄の過程の最終状態における拍動周期および拍動周期の揺らぎが狭い範囲に収まり、HPL投与およびHPL再投与の過程の最終状態における拍動周期および拍動周期の揺らぎが狭い範囲に収まる。これは、図8(B)に示されるコントロール、HPL投与およびHPL洗浄のそれぞれの過程の最終状態がHPL洗浄によってもHPL投与により受けた影響は低減されるが、太い矢印で示すように、元の状態には戻らないのとは大きく異なることである。
【0041】
図13(A)、(B)および(C)は、上述した心筋細胞の集団化効果に着目して、図5で説明した細胞応答計測装置100を用いて、心筋細胞の拍動リズム解析への応用の一例を説明する図である。すなわち、数個から成る小細胞集団でも安定性獲得が獲得できることに着目して、電気計測による拍動波形解析および薬剤に対するイオンチャネルレベルの応答の計測により、QT延長症候群の評価が可能となり、分子レベルの理解・薬剤スクリーニングへの応用が可能となる。
【0042】
図13(A)は心臓の拍動波形(心電図)の例を示す図であり、左側に正常な心電図波形を右側にQT延長症候群を発症している心電図波形を示す。QT延長症候群は致死性不整脈誘導あるいは抗不整脈薬により誘導することができるから、薬剤スクリーニングにおいてQT延長症候群の評価ができることが重要である。図13(B)は培養した心筋細胞の電気計測による拍動波形の計測例を示す図であり、左側に細胞外電位記録法による正常な波形を、右側にQT延長症候群の波形を示す。図13(A)と図13(B)とを対比して分かるように、培養心筋細胞の電気計測では、(1)波形の翻訳が心電図と相似、(2)Na+、K+、Ca2+チャネルの働き計測可能、(3)再分極の波形がT波様の形状を示す、メリットがあり、QT延長の評価が可能である。図13(C)は、図5に示す構成の細胞応答計測装置100により9個の培養心筋細胞の電気計測による拍動波形の取得(左側)と、パイプ83経由で付与した抗不整脈薬により誘導した薬剤スクリーニングによるQT延長検出結果(右側)を示す図である。
【0043】
図14(A)および(B)は、上述した心筋細胞の集団化効果を利用した計測における注意点の一つを説明する図である。図14(A)は、図5で説明した細胞応答計測装置100の壁7の内部に8×8(=64)細胞の配置が可能となるように構成して、その内の1列の8個の細胞を用いて、チャンネルCH1からCH8への心筋細胞の拍動の伝播を計測した結果を示す電圧のピーク波形図である。図14(B)は、均等に配列された微小電極上に8個の細胞が載置された列の各微小電極間の伝播時間を解析した結果を示す図である。図14(A)および(B)から分かるように、細胞間での伝播時間には大きなばらつきがある。したがって、計測にあたっては、心筋細胞の集団化効果を利用した安定化とともに、集団内の1細胞に着目した計測とすることが重要となる。
【0044】
さらに、図面による説明は省略するが、細胞が受ける薬剤の効果を評価するに際しては、細胞に刺激を与えない方式の連続還流系の付加が重要であるが、本発明の実施例では、薬剤は培養液の還流系の中に注入されてから細胞に作用することになり、細胞に対する刺激は低減されたものとできる。
【0045】
図15は、図5で説明した細胞応答計測装置100を用いて、20細胞からなる細胞群の心筋細胞の拍動リズムを光学的に解析する応用の一例を説明する図である。図15では、右肩に番号1から20を付して示すように、20細胞を配列して、1/30カメラによる拍動画像解析を行った。20細胞の輝度の平均変化量を測定し、最初の点を0として表示したものである。
【0046】
図16は、図5で説明した細胞応答計測装置100と対極となる細胞応答計測装置200の実施例を示す斜視図である。すなわち、図5で説明した細胞応答計測装置100は壁7で囲われた領域内に複数個の細胞が所定の関係を保持できるように配置され、これらのすべての細胞に共通の培養液が供給されるものとした。これに対して、図16では図1で説明した細胞応答計測装置100を単位とする計測装置1001,1002,1003,---,1009を共通の恒温層200に収納したものとした。もちろん、図16でも、図5で説明した細胞応答計測装置100を単位とする計測装置1001,1002,1003,---,1009を共通の恒温層200に収納するものとしてもよい。この実施例では、共通の恒温層200によって与えられる同一の環境の下で、それぞれの細胞応答計測装置100にここに設定される条件化での細胞の反応を容易に評価できる。なお、図16に示す実施例は、図が煩雑となるので、個々の構成要素の参照符号は省略した。
【0047】
図1、図5で説明した細胞応答計測装置100は共通の培養液の下での一つの細胞の振る舞い、あるいは、細胞集団での細胞の振る舞い、細胞集団内での個々の細胞の振る舞いを評価するのに適した実施例と言うことができるのに対して、図16説明した細胞応答計測装置は、共通の環境の下での一つの細胞の振る舞い、あるいは、細胞集団での細胞の振る舞い、細胞集団内での個々の細胞の振る舞いを評価するのに適した実施例と言うことができる。
【0048】
図17(A)〜(D)は、図1で説明した透明基板1、微小電極2、微小電極2の引き出し線2’の具体例を説明する図である。図17(A)は平面図を示す顕微鏡写真、図17(B)は微小電極の部分を拡大して示す顕微鏡写真(左側)、説明図(右側)、図17(C)は、図17(B)に示す顕微鏡写真のa−a位置で矢印方向に見た断面図、図17(D)は微小電極の部分の実体顕微鏡像である。
【0049】
図17(A)〜(D)は、心筋細胞が組むネットワークを図7(C)に示す細胞の配置パターンを直線状とした場合の評価を一度に多数の心筋細胞グループに対して実施できるように工夫されたものである。すなわち、8個の微小電極2を直線状に縦方向に配列したパターンを4本、8個の微小電極2を直線状に横方向に配列したパターンを4本構成し、それぞれの微小電極2に接続されている引き出し線2’を基板周辺に引き出している構造である。この実施例では、8本のパターンのそれぞれに異なった細胞グループを対応させて評価すれば、一度に8グループの細胞の評価ができる。
【0050】
この実施例を実現するには、まず、基板1の上面に、微小電極2および引き出し線2’を形成するためのITO膜41を全面に形成する。その後、図17(B)右側に示すように、微小電極2および引き出し線2’を一体とした導電パターンとして周辺のITO膜を微小電極2(たとえば、4μmφ)および引き出し線2’(たとえば、幅4μm)を一体とした導電パターンに沿った周辺部の狭い幅(たとえば1μm)をエッチングしたエッチング部42,43により除去する。この結果、全ての微小電極2および引き出し線2’を一体とした導電パターンがITO膜41から切り離されるとともに、残りのITO膜41は全体が接続された導電体として基板1に残る。次いで、ITO膜41からエッチングにより切り出された微小電極2および引き出し線2’を一体とした導電パターンを含む全面にポリイミドによる絶縁膜47を形成する。これにより、図17(C)に示すように、エッチングにより除去された微小電極2および引き出し線2’を一体とした導電パターンに沿った周辺のエッチング部42,43をポリイミドによる絶縁膜47で埋めるとともに全面をポリイミドによる絶縁膜47で覆う。次いで、図17(C)、(D)に示すように、微小電極2に対応する位置のポリイミドによる絶縁膜47を除去して微小電極2の上にPt/Pt−blackよりなる細胞載置膜46を形成する。微小電極2と細胞載置膜46とは電気的に接続されているのは当然である。
【0051】
この実施例では微小電極2および引き出し線2’を一体としたパターン以外の部分の全面のITO膜はグランド層として利用することができる。したがって、隣接した微小電極2および引き出し線2’相互の間で信号の干渉が起こることはない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に関する細胞応答計測装置に関する産業上の利用の形態についてみると、研究者あるいは製薬会社等の細胞応答計測装置を利用する立場と、細胞応答計測装置のためのチップを供給するメーカの立場での利用があり得る。利用する立場から言えば、細胞応答計測装置の細胞収納部となる空間に心筋細胞を収納した細胞応答計測装置のためのチップを供給されるのが簡便である。しかし、チップの状態では、培養液が入れられた状態でも、細胞収納部となる空間に収納された心筋細胞は長時間生存し得ないので、チップを供給するメーカは、使用期限を短期間に限った形でのチップの供給とするか、あるいは、図1に示す基板部分の要素からなるチップの供給とがあり得る。チップの供給の場合は、細胞応答計測装置の細胞収納部となる空間への心筋細胞の収納および全体の組み立てはユーザに任せることになる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例に係る細胞応答計測装置の構造の1例を模式的に示した斜視図である。
【図2】図1に示す細胞応答計測装置を光学観察装置のステージに載せて縦方向の中心位置において奥行方向に見た断面図である。
【図3】(A)は細胞電位の計測に関するノイズ信号の評価の例を示す図、(B)は、微小電極と比較電極の距離をパラメータとして、横軸に比較電極のリングの径のサイズ、縦軸に微小電極の引き出し線と比較電極のリードとの間に検出できる電圧信号の信号/ノイズ比(S/N)を採ったときの特性図、(C)は、比較電極のリングの径のサイズをパラメータとして、横軸に、微小電極と比較電極の距離、縦軸に微小電極の引き出し線と比較電極のリードとの間に検出できる電圧信号の信号/ノイズ比(S/N)を採ったときの特性図、である。
【図4】(A)は、の細胞保持区画の細胞収納部となる空間に一つの心筋細胞を収納して心筋細胞の拍動を計測した測定結果を模式的に示す図、(B)は細胞保持区画の細胞収納部となる空間の周辺部にいくつかの心筋細胞を入れ、この心筋細胞と周辺部の心筋細胞が突起を伸ばし接触してギャップジャンクションを形成して、お互いの細胞とインタラクションしている状態で心筋細胞の拍動を計測した測定結果を模式的に示す図、である。
【図5】図1および図2で説明した細胞応答計測装置100を用いて、心筋細胞100の拍動時の電位を計測するときの他の一つの使い方の例を示す図である。
【図6】(A)は、心筋細胞100が孤立している状態での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。図6(B)は、心筋細胞100の周辺に一つの細胞が配置された2細胞状態での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。図6(C)は心筋細胞100の周辺に9細胞が分散配置された9細胞状態での心筋細胞100の拍動時の電位を示す図である。
【図7】(A)〜(C)は、心拍の間隔の揺らぎ(CV%)について心筋細胞がネットワークを組む細胞の配置パターンに関してネットワークを組む心筋細胞の数との関係を評価した実験結果を示す図である。
【図8】心筋細胞が受ける薬剤の効果を評価するためのタイムスケジュールを最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(a)〜(e)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。
【図9】(A)、(B)はHPL投与・洗浄過程での心筋細胞の拍動ゆらぎ変化を統括的に説明する図である。
【図10】図5に示す構成で9細胞を格子状に配置して図8で説明したと同様の薬剤の効果の評価をするためのタイムスケジュールを最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(a)〜(d)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。
【図11】図10を参照して説明したタイムスケジュールでの薬剤の効果の評価に続けて、さらにHPLを投与するHPL再投与およびこのHPL再投与に続けてHPLを洗浄するHPL再洗浄をした場合の薬剤の効果の評価を最上段に示し、タイムスケジュールに示す時点(e)〜(g)における心筋細胞の拍動の波形(左側)と拍動分布(右側)を下段に示す図である。
【図12】(A),(B)はHPL投与・洗浄過程、HPL再投与・再洗浄過程での心筋細胞の拍動ゆらぎ変化を統括的に説明する図である。
【図13】(A)、(B)および(C)は、心筋細胞の集団化効果に着目して、図5で説明した細胞応答計測装置100を用いて、心筋細胞の拍動リズム解析への応用の一例を説明する図である。
【図14】(A)および(B)は、心筋細胞の集団化効果を利用した計測における注意点の一つを説明する図である。
【図15】図5で説明した細胞応答計測装置100を用いて、20細胞からなる細胞群の心筋細胞の拍動リズムを光学的に解析する応用の一例を説明する図である。
【図16】図5で説明した細胞応答計測装置100と対極となる細胞応答計測装置200の実施例を示す斜視図である。
【図17】(A)〜(D)は、図1で説明した透明基板1、微小電極2、微小電極2の引き出し線2’を含む多電極基板の具体例を説明する図である。
【符号の説明】
【0054】
1…基板、2…微小電極、2’…微小電極2の引き出し線、31,32,33及び34…アガロースゲルによる壁、41,42,43及び44…空間部、5…白金リングによる比較電極、51…比較電極5を保持するリード部、6…位置調整装置、7…周辺を取り巻く壁、61…Z軸方向の駆動装置、62…Y軸方向の駆動装置、63…X軸方向の駆動装置、Dx,DyおよびDz…駆動信号、81,82,83…パイプ、9…パソコン、Ms…パソコンの操作信号、100,102,103---,109…心筋細胞、20…X−Y駆動装置、21…光学観察装置のステージ、22…光源、23…バンドパスフィルタ、24…シャッター、25…コンデンサレンズ、26…対物レンズ、27…駆動装置、31…光源、32,36,39…バンドパスフィルタ、33…シャッター、34,35…ダイクロイックミラー、37,40…カメラ、41…ITO膜、42,43…エッチング部、46…細胞載置膜、47…ポリイミドによる絶縁膜、200…恒温層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板、
該透明基板上に配置した微小電極、
該微小電極上に1細胞が位置するように前記微小電極周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段、
前記細胞に作用する薬剤を培養液に加える手段、
前記微小電極の上方に位置した環状の比較電極、
前記微小電極に接続された引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線とを用いて細胞電位を計測し記録する手段、および
前記透明基板上に配置した1細胞の状態を光学的に計測する手段、
を有することを特徴とする細胞応答計測装置。
【請求項2】
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段に前記細胞に作用する薬剤を添加する手段が付加された請求項1記載の細胞応答計測装置。
【請求項3】
前記微小電極と前記比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項1記載の細胞応答計測装置。
【請求項4】
前記細胞非接着性の壁が前記微小電極周囲で複数に区分されたものである請求項1記載の細胞応答計測装置。
【請求項5】
透明基板、
該透明基板上に配置した複数の微小電極、
該複数の微小電極上のそれぞれに1細胞が位置するように前記微小電極のそれぞれの周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記複数の微小電極上の細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段、
前記細胞に作用する薬剤を培養液に加える手段、
前記複数の微小電極の上方に位置した環状の比較電極、
前記複数の微小電極に接続された複数の引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線とを用いて複数の細胞電位を計測し記録する手段、
X−Y方向に駆動されるとともに前記透明基板を載置するステージ、および
前記ステージ上に載置された前記透明基板上の細胞の状態を光学的に計測する手段、
を有することを特徴とする細胞応答計測装置。
【請求項6】
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段に前記細胞に作用する薬剤を添加する手段が付加された請求項5記載の細胞応答計測装置。
【請求項7】
前記複数の微小電極と前記比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項5記載の細胞応答計測装置。
【請求項8】
前記複数の細胞非接着性の壁が前記複数の微小電極周囲でそれぞれ複数に区分されたものである請求項5記載の細胞応答計測装置。
【請求項9】
透明基板上に配置した微小電極、
該微小電極上に1細胞が位置するように前記微小電極周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段、
前記細胞に作用する薬剤を培養液に加える手段、
前記微小電極の上方に位置した環状の比較電極、
を備える細胞応答計測要素、
前記細胞応答計測要素を複数個備える共通の透明基板、
前記複数個の細胞応答計測要素を格納する上下の壁が透明の恒温槽、
前記複数個の細胞応答計測要素のそれぞれの微小電極に接続された引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線とを用いてそれぞれの細胞電位を計測し記録する手段、および
前記共通の透明基板上に配置した前記細胞応答計測要素の1細胞の状態を光学的に計測する手段、
を有することを特徴とする細胞応答計測装置。
【請求項10】
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段に前記細胞に作用する薬剤を添加する手段が付加された請求項9記載の細胞応答計測装置。
【請求項11】
前記微小電極と前記比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項9記載の細胞応答計測装置。
【請求項12】
前記細胞非接着性の壁が前記微小電極周囲で複数に区分されたものである請求項9記載の細胞応答計測装置。
【請求項13】
透明基板、
該透明基板上に配置した微小電極、
該微小電極上に1細胞が位置するように電極周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記微小電極の上方に位置した環状の比較電極、および
前記微小電極に接続された引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線、
を有することを特徴とする細胞応答計測チップ。
【請求項14】
前記微小電極と比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項13記載の細胞応答計測チップ。
【請求項15】
前記細胞非接着性の壁が前記電極周囲で複数に区分されたものである請求項13記載の細胞応答計測チップ。
【請求項16】
透明基板、
該透明基板上に配置した複数の微小電極、
該複数の微小電極上のそれぞれに1細胞が位置するように前記微小電極のそれぞれの周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記複数の微小電極上の細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記複数の微小電極の上方に位置した環状の比較電極、および
前記複数の微小電極に接続された複数の引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線、
を有することを特徴とする細胞応答計測チップ。
【請求項17】
前記複数の微小電極と前記比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項16記載の細胞応答計測チップ。
【請求項18】
前記細胞非接着性の壁が前記微小電極周囲で複数に区分されたものである請求項16記載の細胞応答計測チップ。
【請求項19】
透明基板上に配置した微小電極、
該微小電極上に1細胞が位置するように前記微小電極周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記微小電極の上方に位置した環状の比較電極、および
前記微小電極に接続された引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線、
を備える細胞応答計測要素の複数個が共通の透明基板上に形成された細胞応答計測チップ。
【請求項20】
前記複数の微小電極と前記比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項19記載の細胞応答計測チップ。
【請求項21】
前記細胞非接着性の壁が前記微小電極周囲で複数に区分されたものである請求項19記載の細胞応答計測チップ。
【請求項22】
透明基板上に配置した微小電極と該微小電極に接続された引き出し線よりなる導電パターンを複数個備えた多電極基板であって、
前記微小電極と該微小電極に接続された引き出し線なる導電パターンが前記透明基板上の全面に形成された透明電極から前記導電パターンの周辺部を狭い幅でエッチングして形成されたものであるとともに、前記導電パターンを除く透明電極部分を前記複数の導電パターンの共通のグランド層とされる多電極基板。
【請求項1】
透明基板、
該透明基板上に配置した微小電極、
該微小電極上に1細胞が位置するように前記微小電極周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段、
前記細胞に作用する薬剤を培養液に加える手段、
前記微小電極の上方に位置した環状の比較電極、
前記微小電極に接続された引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線とを用いて細胞電位を計測し記録する手段、および
前記透明基板上に配置した1細胞の状態を光学的に計測する手段、
を有することを特徴とする細胞応答計測装置。
【請求項2】
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段に前記細胞に作用する薬剤を添加する手段が付加された請求項1記載の細胞応答計測装置。
【請求項3】
前記微小電極と前記比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項1記載の細胞応答計測装置。
【請求項4】
前記細胞非接着性の壁が前記微小電極周囲で複数に区分されたものである請求項1記載の細胞応答計測装置。
【請求項5】
透明基板、
該透明基板上に配置した複数の微小電極、
該複数の微小電極上のそれぞれに1細胞が位置するように前記微小電極のそれぞれの周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記複数の微小電極上の細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段、
前記細胞に作用する薬剤を培養液に加える手段、
前記複数の微小電極の上方に位置した環状の比較電極、
前記複数の微小電極に接続された複数の引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線とを用いて複数の細胞電位を計測し記録する手段、
X−Y方向に駆動されるとともに前記透明基板を載置するステージ、および
前記ステージ上に載置された前記透明基板上の細胞の状態を光学的に計測する手段、
を有することを特徴とする細胞応答計測装置。
【請求項6】
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段に前記細胞に作用する薬剤を添加する手段が付加された請求項5記載の細胞応答計測装置。
【請求項7】
前記複数の微小電極と前記比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項5記載の細胞応答計測装置。
【請求項8】
前記複数の細胞非接着性の壁が前記複数の微小電極周囲でそれぞれ複数に区分されたものである請求項5記載の細胞応答計測装置。
【請求項9】
透明基板上に配置した微小電極、
該微小電極上に1細胞が位置するように前記微小電極周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段、
前記細胞に作用する薬剤を培養液に加える手段、
前記微小電極の上方に位置した環状の比較電極、
を備える細胞応答計測要素、
前記細胞応答計測要素を複数個備える共通の透明基板、
前記複数個の細胞応答計測要素を格納する上下の壁が透明の恒温槽、
前記複数個の細胞応答計測要素のそれぞれの微小電極に接続された引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線とを用いてそれぞれの細胞電位を計測し記録する手段、および
前記共通の透明基板上に配置した前記細胞応答計測要素の1細胞の状態を光学的に計測する手段、
を有することを特徴とする細胞応答計測装置。
【請求項10】
前記細胞培養液を還流する培養液還流手段に前記細胞に作用する薬剤を添加する手段が付加された請求項9記載の細胞応答計測装置。
【請求項11】
前記微小電極と前記比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項9記載の細胞応答計測装置。
【請求項12】
前記細胞非接着性の壁が前記微小電極周囲で複数に区分されたものである請求項9記載の細胞応答計測装置。
【請求項13】
透明基板、
該透明基板上に配置した微小電極、
該微小電極上に1細胞が位置するように電極周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記微小電極の上方に位置した環状の比較電極、および
前記微小電極に接続された引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線、
を有することを特徴とする細胞応答計測チップ。
【請求項14】
前記微小電極と比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項13記載の細胞応答計測チップ。
【請求項15】
前記細胞非接着性の壁が前記電極周囲で複数に区分されたものである請求項13記載の細胞応答計測チップ。
【請求項16】
透明基板、
該透明基板上に配置した複数の微小電極、
該複数の微小電極上のそれぞれに1細胞が位置するように前記微小電極のそれぞれの周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記複数の微小電極上の細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記複数の微小電極の上方に位置した環状の比較電極、および
前記複数の微小電極に接続された複数の引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線、
を有することを特徴とする細胞応答計測チップ。
【請求項17】
前記複数の微小電極と前記比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項16記載の細胞応答計測チップ。
【請求項18】
前記細胞非接着性の壁が前記微小電極周囲で複数に区分されたものである請求項16記載の細胞応答計測チップ。
【請求項19】
透明基板上に配置した微小電極、
該微小電極上に1細胞が位置するように前記微小電極周囲を覆う細胞非接着性の壁、
前記透明基板上に形成され、前記細胞の周辺に細胞培養液を満たすための壁、
前記微小電極の上方に位置した環状の比較電極、および
前記微小電極に接続された引き出し線と前記比較電極に接続された引き出し線、
を備える細胞応答計測要素の複数個が共通の透明基板上に形成された細胞応答計測チップ。
【請求項20】
前記複数の微小電極と前記比較電極間の位置関係を調整するための手段が付加された請求項19記載の細胞応答計測チップ。
【請求項21】
前記細胞非接着性の壁が前記微小電極周囲で複数に区分されたものである請求項19記載の細胞応答計測チップ。
【請求項22】
透明基板上に配置した微小電極と該微小電極に接続された引き出し線よりなる導電パターンを複数個備えた多電極基板であって、
前記微小電極と該微小電極に接続された引き出し線なる導電パターンが前記透明基板上の全面に形成された透明電極から前記導電パターンの周辺部を狭い幅でエッチングして形成されたものであるとともに、前記導電パターンを除く透明電極部分を前記複数の導電パターンの共通のグランド層とされる多電極基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−263858(P2008−263858A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111322(P2007−111322)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 モデル細胞を用いた遺伝子機能等解析技術開発(研究用モデル細胞の創製技術開発)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 モデル細胞を用いた遺伝子機能等解析技術開発(研究用モデル細胞の創製技術開発)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
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