説明

組合せ軸受装置

【課題】ラジアル軸受とスラスト軸受とが一体となって構成されている組合せ軸受装置であって、スラスト軸受の温度上昇を抑制して焼損を防止でき、火力プラントにも適用可能な信頼性の高い組合せ軸受装置を提供する。
【解決手段】回転軸1を支持するラジアル軸受部2と、ラジアル軸受の軸方向側面に設けられたスラスト軸受部3とを備える組合せ軸受装置100において、ラジアル軸受の摺動面7の軸方向端部かつ少なくとも下半部に設けられた周方向に延伸する油逃がし溝14内に、周方向に第1の堰15および第2の堰16を設け、ラジアル軸受下半部2b側の第1の堰と第2の堰との間に、油逃がし溝14とラジアル軸受外部とに連通する排油溝17を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体を支持する軸受装置に係り、特にラジアル軸受とスラスト軸受が一体となって構成されている組合せ軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械の回転体を支承する軸受装置として、ラジアル軸受の軸方向端部にスラスト軸受を設けて一体で構成した組合せ軸受装置がある。一般的に、そのような組合せ軸受装置では、ラジアル軸受で用いた潤滑油をスラスト軸受に潤滑油として供給している。
【0003】
例えば特許文献1には、ラジアル軸受の軸方向端部にスラスト軸受を設け、ラジアル軸受の摺動面に開口する油入口溝を介して潤滑油をラジアル軸受摺動面に供給するとともに、摺動面上を軸方向に送油してスラスト軸受に供給する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−35519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蒸気タービン等の火力プラントに用いられる軸受装置は、高周速,高荷重の条件下で使用されるため、軸受の潤滑油温度が高温になりやすい。そのため、従来の組合せ軸受装置を火力プラントに用いた場合、ラジアル軸受の潤滑油が高温となり、高温となったラジアル軸受の潤滑油をスラスト軸受に給油すると、スラスト軸受の軸受温度が高温となり、軸受焼損の可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ラジアル軸受とスラスト軸受とが一体となって構成されている組合せ軸受装置であって、スラスト軸受の温度上昇を抑制して焼損を防止でき、火力プラントにも適用可能な信頼性の高い組合せ軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、回転体を支持するラジアル軸受と、ラジアル軸受の軸方向側面に設けられたスラスト軸受とを備える組合せ軸受装置において、ラジアル軸受下半部の摺動面の軸方向端部に軸受周方向に延伸する溝を設け、溝内に、軸受周方向に第1および第2の堰を設け、ラジアル軸受下半部の第1の堰と第2の堰との間に、溝とラジアル軸受外部とに連通する排油溝を設けた。
【0008】
また、第1の堰は、ラジアル軸受下半部の軸受最下部位置より回転体の回転方向上流側に設け、第2の堰は、ラジアル軸受下半部の潤滑油最小膜厚さ位置より回転体の回転方向下流側に設けた。
【発明の効果】
【0009】
ラジアル軸受に供給された潤滑油は、前記ラジアル軸受内周のラジアル軸受摺動面を潤滑したのち、油膜に発生した圧力により前記ラジアル軸受両端面に排出される。このとき潤滑油は剪断力により温度上昇し、給油温度より高温になる。上下2分割された軸受は合わせ目より潤滑油を供給し、荷重方向は前記合わせ目と直角方向とするのが一般的である。潤滑油は前記合わせ目位置から荷重方向に向かって温度上昇し最少膜厚位置(荷重方向より回転方向に30゜〜40゜位置)で最大となる。
【0010】
しかしながら、本発明によれば、荷重方向位置の高温の潤滑油を、その他の比較的温度の低い潤滑油から隔離して前記排油溝で外部に排出し、その他の比較的温度の低い潤滑油を前記スラスト軸受に供給することにより、ラジアル軸受とスラスト軸受とが一体となって構成されている組合せ軸受装置であって、スラスト軸受の温度上昇を抑制して焼損を防止でき、火力プラントにも適用可能な信頼性の高い組合せ軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施例に係る軸受装置の縦部分断面図である。
【図2】図1のAA断面図である。
【図3】図2のBB断面図である。
【図4】図1のCDEFで囲まれた領域の軸受軸方向中央位置の縦部分断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る軸受装置のスラスト軸受部の正面図である。
【図6】図1のGG断面図である。
【図7】周方向の油量分布説明図である。
【図8】周方向の潤滑油温度分布説明図である。
【図9】周方向の最小膜位置説明図である。
【図10】本発明の第2の実施例に係る軸受装置の縦部分断面図である。
【図11】図10のA′A′断面図である。
【図12】本発明の第3の実施例に係る軸受装置の縦部分断面図である。
【図13】図12のA″A″断面図である。
【図14】図13のB″B″縦断面図である。
【図15】図12のC″C″断面図である。
【図16】一般的な軸受構造の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。なお、各図面を通し、同等の構成要素には同一の符号を付してある。
【実施例1】
【0013】
本発明の第1の実施例について説明する。図1は、本発明の第1の実施例に係る軸受装置の縦部分断面図である。図2は、図1のAA断面図である。図3は、図2のBB断面図である。図4は、図1のCDEFで囲まれた領域の軸受軸方向中央位置の縦部分断面図である。図5は、本発明の第1の実施例に係る軸受装置のスラスト軸受部の正面図である。
図6は、図1のGG断面図である。
【0014】
本実施例の軸受装置100を図1に示す。図1において、実線HCを境界線として左下部分はラジアル軸受部2の部分断面を表し、右上部分はスラスト軸受部3を表している。
本実施例の軸受装置100は、回転軸1に垂直な荷重を支えるラジアル軸受部2と、ラジアル軸受部2の軸方向両側面に設けられ、回転軸1の軸方向の移動を支えるスラスト軸受部3とを備えた組合せ軸受である。
【0015】
最初にラジアル軸受部2の構造について説明する。ラジアル軸受部2は、上下方向に2分割され、ラジアル軸受上半部2aとラジアル軸受下半部2bとで構成された楕円軸受である。なお、ラジアル軸受部2は、回転軸1の荷重方向が、ラジアル軸受上半部2aとラジアル軸受過半部2bとの合わせ目24a,bに対して直角方向となるように構成されている。
【0016】
図2に図示したように、ラジアル軸受部2の外周面4は球面となっており、外周面4の軸受半径方向外周側にラジアル軸受部2を支承する球面座5が配置されている。ラジアル軸受部2の外周面4には、潤滑油が通油する給油溝6が軸受周方向全周、または部分的に設けられている。一方、ラジアル軸受部2の内周面は、回転軸1(破線にて図示)を油膜(図示せず)を介して支承する摺動面7となっており、摺動面7の表面には、ホワイトメタル等の摺動材8がライニングされている。
【0017】
ラジアル軸受上半部2aとラジアル軸受下半部2bとの合わせ目24a,24b近傍の摺動面7には潤滑油導入溝12が設けられている。この潤滑油導入溝12から軸受周方向上方に向かって延伸する冷却用の上射溝13が、ラジアル軸受上半部2aの摺動面7に2列設けられている。潤滑油導入溝12から摺動面7に供給された潤滑油の一部は、前記上射溝13に沿って、ラジアル軸受上半部2aに流入し、ラジアル軸受部2を冷却する。
【0018】
摺動面7の軸方向両端部には、軸受周方向に油逃がし溝14が設けられている。図3に、図2のBB断面図、即ち、軸受軸方向から見た油逃がし溝14の断面図を示す。本実施例では、図3に示したように、ラジアル軸受下半部2bの油逃がし溝14内に、軸受周方向に第1の堰15と、第2の堰16とを設けている。また、ラジアル軸受下半部2bには、油逃がし溝14の第1の堰15と第2の堰16との間に開口し、半径方向に向かって延伸し、ラジアル軸受下半部2bの外部に連通する排油溝17が設けられている。
【0019】
次に、図4に示すように、球面座5には、球面座5の外部と給油溝6とに連通する給油孔9が設けられている。給油孔9は、外部から給油溝6に潤滑油を導入するためのものである。
【0020】
また、ラジアル軸受下半部2bの合わせ目24には、前記潤滑油導入溝12に連通する油留め溝11が設けられている。また、ラジアル軸受下半部2bの内部には、油留め溝11と給油溝6とに連通し、給油溝6内を流れる潤滑油を油留め溝11に導くラジアル軸受供給孔10が設けられている。
【0021】
次に、スラスト軸受部3の構造について説明する。図5に軸受軸方向から見たスラスト軸受部3を示す。スラスト軸受部3は、上下方向に2分割され、スラスト軸受上半部3aと、スラスト軸受下半部3bとで構成されている。スラスト軸受上半部3aおよびスラスト軸受下半部3bは、それぞれラジアル軸受部2の軸方向側面に取付けられ、ボルト(図示せず)により固定されている。なお、本実施例では、スラスト軸受として10セグメントからなるテーパランド軸受の例を示す。
【0022】
各セグメントは、スラスト給油溝18と、スラスト給油溝18に接し、回転ランナ21に対して回転軸1の回転方向(矢示方向)に油膜が薄くなるテーパ部19と、回転ランナ21に平行な油膜を形成するランド部20とを備えている。また、各セグメントの内周側には、スラスト円周溝22が設けられ、スラスト給油溝18と連通している。このスラスト円周溝22内には、軸方向に穿ったスラスト軸受給油孔23が周方向に4箇所設けられている。
【0023】
図6に図1のGG断面を示す。前記スラスト軸受給油孔23は、スラスト軸受のセグメント内部を軸受軸方向に向かって延伸しており、ラジアル軸受部2の内部に穿ったラジアル軸受側給油孔25に接続している。ラジアル軸受側給油孔25は、ラジアル軸受部2の内部を給油溝6に向かって延伸しており、給油溝6に接続している。本実施例では、テーパランド軸受を示したが、ティルティングパッド軸受でも同様である。
【0024】
次に、本実施例における潤滑油の流れについて説明する。外部給油装置(図示せず)より供給される潤滑油は、球面座5に設けられた給油孔9を通り、ラジアル軸受部2の外周面4に設けられた給油溝6に流入する。給油溝6に流入した潤滑油は、ラジアル軸受供給孔10を通って、油留め溝11に流入し、潤滑油導入溝12より摺動面7上へ流入する。
摺動面7へ流入した潤滑油は、回転軸1の回転に伴って上射溝13へ流入し、回転軸1や軸受側を冷却したのち、ラジアル軸受下半部2bに流入する。
【0025】
ラジアル軸受下半部2bの摺動面7を潤滑した潤滑油は、くさび膜作用による油膜圧力により、ラジアル軸受部2の軸受軸方向両端部へ流れ、軸方向両端面よりスラスト軸受部3へ流出する。また、本実施例のように、楕円軸受では、ラジアル軸受上半部2aにも油膜圧力が発生するため、ラジアル軸受上半部2aの軸方向端面からも潤滑油が流出する。
【0026】
図7は、ラジアル軸受部2の軸方向端部より流出する潤滑油量の軸受周方向各位置での割合の1例を示したものである。横軸は、軸受の周方向位置を表したものであり、軸受中心を通る水平面(合わせ目24)を0°および180°位置、荷重方向である軸受最下部を90°、軸受最上部を270°位置とし、水平面から回転軸1の回転方向に沿って角度が増加するように採っている。縦軸は、流出する潤滑油の油量を流出量全体における割合(%)で表している。
【0027】
図7からわかるように、潤滑油の大半(約70%)は、ラジアル軸受下半部2bの回転方向上流側合わせ目24aの近傍(0〜60°位置)から流出している。また、潤滑油の約15%は、ラジアル軸受上半部2a側(180°〜360°位置)から流出している。
【0028】
図8は、ラジアル軸受下半部2bにおける周方向各位置での潤滑油の温度分布の1例を示したものである。横軸は、図7と同様である。縦軸は、給油温度からの温度上昇値である。図8から分かるように、ラジアル軸受下半部2bの回転方向上流側の合わせ目24aから回転方向側に行くに従い、潤滑油温度は上昇する。回転方向上流側合わせ目24aの近傍である50°位置では、給油温度に対し約2℃程度の温度上昇でしかないが、荷重方向である軸受最下部位置(90°位置)より回転方向に30°〜50°行った潤滑油最小膜厚付近(120°〜140°位置)では40℃以上上昇し、最大温度となる。
【0029】
図7及び8から、軸受最下部位置(90°位置)近傍の潤滑油は、流出量自体は少ないが、高温となっていることが分かる。この軸受最下部位置近傍の潤滑油がスラスト軸受部3に流入すると、スラスト軸受部3への給油温度が高くなってしまい、スラスト軸受部3の温度上昇を招いてしまう。
【0030】
そこで本実施例では、ラジアル軸受下半部2bの油逃がし溝14内に、周方向に第1の堰15と、第2の堰16とを設けた。
【0031】
より具体的には、第1の堰15は、ラジアル軸受下半部2bの軸受最下部位置(90°位置)より回転方向上流側位置(0°〜90°未満)に設け、第2の堰16は、ラジアル軸受下半部2bであって、潤滑油の最小膜位置(120°〜140°位置)より回転方向下流側に設ける。
【0032】
また、本実施例では、第1の堰15と第2の堰16との間に、半径方向に延伸し、油逃がし溝14とラジアル軸受下半部2bの外部とに連通する排油溝17を設ける。
【0033】
上記構成によれば、ラジアル軸受部2の軸方向端部から流出する潤滑油は油逃がし溝14に流入するが、そのうちラジアル軸受下半部2bの最下部位置近傍から流出する高温の潤滑油は、前記第1の堰15と第2の堰16とによってその他の潤滑油と分けられて油逃がし溝14に流入する。そして、堰によってその他の潤滑油と隔離された高温の潤滑油は、第1の堰15と第2の堰16との間に設けられた排油溝17を通って、スラスト軸受部3に流入することなく、ラジアル軸受部2の外部に直接排出される。また、堰を設けることによって、その他の部分の比較的低温の潤滑油は、排油溝17から外部に流出することなく、スラスト軸受部3に供給される。
【0034】
なお、スラスト軸受部3へ供給する潤滑油量のうち、排油溝17より排出したため不足した分は、給油溝6より、ラジアル軸受側給油孔25,スラスト軸受給油孔23を介してスラスト円周溝22へ供給することで補える。
【0035】
また、一般的に、スラスト軸受はラジアル軸受に比べ直径が大きく必要油量が多くなる。そのため、不足した分は給油溝6よりラジアル軸受側給油孔25,スラスト軸受給油孔23を介して前記スラスト円周溝22へ給油する。
【0036】
本実施例の構成によれば、ラジアル軸受部2で高温となった潤滑油を隔離しつつ、必要最小限の油量でかつ比較的低温の潤滑油を前記スラスト軸受部3に供給できるため、スラスト軸受部3の温度上昇を抑制でき、軸受焼損の心配がない信頼性の高い組合せ軸受を提供できる。
【0037】
なお、第1の堰15と、第2の堰16の設置位置は、望ましくは、第1の堰15を40°位置に、第2の堰を140°位置とすれば、ラジアル軸受部2に給油された潤滑油のうち約70%相当で比較的低温の潤滑油を前記スラスト軸受部3へ給油できる。
【0038】
また、ラジアル軸受部2における潤滑油の温度上昇があまり高くない場合には、前記第1の堰15を70°位置に、前記第2の堰16を140゜位置に設置すれば、ラジアル軸受部2へ給油される潤滑油の約80%をスラスト軸受部3へ供給できる。
【0039】
ところで、従来より、火力プラントの軸受は高周速,高荷重で運転されるため、ラジアル軸受の排油温度が高温となり、ラジアル軸受の排油をスラスト軸受に給油するとスラスト軸受の軸受温度が高温となり軸受焼損の恐れがある。従って、図16に示したように、ラジアル軸受とスラスト軸受とは別々に配置する必要があった。そのため、火力プラント等の多スパン軸は8〜12個の軸受で支持され、各々の軸受に冷却された潤滑油を供給する必要がある。
【0040】
また、火力プラントでは、ラジアル軸受は、自励振動を防止する目的から楕円軸受が一般的に用いられている。一方、スラスト軸受はテーパランド軸受かティルティングパッド軸受が採用されている。これらの軸受においては1つの軸受に対し400〜500l/min程度の油量が供給されるため、全体としては5000〜6000l/minもの油量が必要となる。
【0041】
従って、従来の火力プラントでは、高周速,高荷重で運転されるため軸受は、ラジアル軸受とスラスト軸受とに別々に設置され、それぞれに潤滑油を供給するために必要油量が増加するとともに設置スペースも増大していた。
【0042】
しかしながら、本実施例の組合せ軸受け装置であれば、ラジアル軸受部2で高温となった潤滑油を隔離しつつ、必要最小限の油量でかつ比較的低温の潤滑油を前記スラスト軸受部3に供給できるため、スラスト軸受の温度上昇を抑制でき、軸受焼損の心配がない信頼性の高い軸受装置として火力プラントにも適用できる。
【0043】
また、ラジアル軸受とスラスト軸受とを組合せたまま、火力プラントに適用できるため、軸受け数を減らして必要油量および設置スペースを低減できる。
【実施例2】
【0044】
本発明の第2の実施例について説明する。図10は、第2実施例に係る軸受装置200の縦断面図である。図11は、図10のA′A′断面図である。なお、第1の実施例と同等の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0045】
本実施例の軸受装置200が第1の実施例と異なる点は、スラスト軸受部3の内周面26の内径が、ラジアル軸受部2の第1の堰15と第2の堰の設置位置に合わせて、部分的に異なるように構成されていることである。
【0046】
図10および11に示したように、スラスト軸受部3の内周面26のうち、前記第1の堰15と前記第2の堰との間であってかつ軸受下側の内周面26aは、ラジアル軸受部2の摺動面7と略同一径となるように構成されている。一方、それ以外の部分、即ち、前記第1の堰15と前記第2の堰16との間であって、かつ軸受上側の内周面26bは、ラジアル軸受部2の油逃がし溝14の底面と略同一径となるよう構成されている。
【0047】
摺動面7に供給された潤滑油は、ラジアル軸受下半部2bを潤滑し、くさび膜作用による油膜圧力により軸方向へ流れる。このとき、ラジアル軸受下半部2bの最下部位置近傍から流出する高温の潤滑油は、前記第1の堰15と第2の堰16とによってその他の潤滑油と分けられて油逃がし溝14に流入し、前記第1の堰15と第2の堰16との間に設けられた排油溝17から軸受外部に排出される。また、潤滑油が油逃がし溝14に流入する際、スラスト軸受部3の下側内周面26aが堰となるため、潤滑油が、排油溝17に流入せずスラスト軸受部3へ流入してしまうことを防止できる。
【0048】
一方、内周部26bは、ラジアル軸受部2の油逃がし溝14の底部と略同一径となっているため、最下部位置近傍から流出する高温の潤滑油と区分けされた、その他の部分の潤滑油は、そのまま軸受軸方向に流れてスラスト軸受部3に流入しやすく、油逃がし溝14を伝って排油溝17に流出しにくくなっている。
【0049】
よって、本実施例は、実施例1と比較して、低温の潤滑油が無駄に排油溝17から流出する量をより低減することができ、不足分を補うために給油溝6より、ラジアル軸受側給油孔25,スラスト軸受給油孔23を介してスラスト円周溝22へ供給する潤滑油量を削減できる。
【0050】
よって、本実施例によれば、実施例1と同様の効果を奏するとともに、さらに実施例1と比較してより必要最小限の油量でかつ比較的低温の潤滑油をスラスト軸受部3に供給できる。
【実施例3】
【0051】
本発明の第3の実施例について図12〜図15を用いて説明する。図12は本発明の第3の実施例に係る軸受装置300の縦断面図である。図13は、図12のA″A″断面図である。図14は、図13のB″B″縦断面図であり、図15は図12のC″C″断面図である。なお、第1の実施例と同等の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0052】
本実施例の軸受装置300は、回転軸1に垂直な荷重を支えるラジアル軸受部2と、ラジアル軸受部2の軸方向両側面に設けられ、回転軸1の軸方向の移動を支えるスラスト軸受部3とを備えた組合せ軸受である。
【0053】
最初にラジアル軸受部2の構造について説明する。本実施例のラジアル軸受部2は、ティルティングパッド軸受で構成されている。図14に示したように、本実施例では、ティルティングパッド軸受は6パッドで構成されており、荷重方向にパッドが配置されるLOP(Load On Pad)の場合で説明する。
【0054】
ラジアル軸受ケース27は上下に分割されており、前記ラジアル軸受ケース27内には6枚のパッド28a,28b,28c,28d,28e,28fが配置されている。パッド28間にはそれぞれのパッドに潤滑油を給油するための給油ノズル29a,29b,29c,29d,29e,29fが設置されている。
【0055】
また、前記ラジアル軸受ケース27の外周面には、給油溝30が周方向に設けられている。前記給油ノズル29の内周には複数のノズル給油孔31が設けられており、前記ノズル給油孔31は前記給油ノズル29内でダクト32に連通しており、前記ダクト32は前記ラジアル軸受ケース27に設けられた給油孔33に連通している。給油孔33は前記給油溝30に連通している。
【0056】
また、図13に示したように前記パッド28の落下防止と前記ラジアル軸受ケース27内に潤滑油を保持するためのシール部材34が前記ラジアル軸受ケース27の軸方向両側面にボルト(図示せず)等により固定されている。
【0057】
図15に示したように、前記給油ノズル29のうち、最下部に配置された給油ノズル29b及び給油ノズル29cは前記ラジアル軸受ケース27と軸方向に同一の長さとなっており、図13に示したように、その他の前記給油ノズル29a,29d,29e,29fは前記パッド28より短くなっている。
【0058】
図13および15に図示したように、前記シール部材34には真下部の給油ノズル29b及び29cと周方向においてほぼ同位置に第1の堰15と第2の堰16が設けられ、前記第1の堰15と前記第2の堰16との間には、半径方向に向かって延伸し軸受ケース外部と連通する排油溝17が設けられている。
【0059】
次にスラスト軸受部3の構造について説明する。本実施例のスラスト軸受部3は、前記シール部材34の側面にボルト(図示せず)等により固定されている他は、基本的に第2の実施例のスラスト軸受部3と同じ構造である。
【0060】
本実施例では、図12に示すように第2の実施例と同様、スラスト軸受部3の内周面26の内径が、前記第1の堰15と前記第2の堰とを境にして部分的に異なるように構成されている。
【0061】
スラスト軸受の内周面26のうち、前記第1の堰15と前記第2の堰との間であってかつ下側の内周面26aは、ラジアル軸受部2の摺動面7と略同一径である。一方、それ以外の部分、即ち、前記第1の堰15と前記第2の堰との間であって、かつ上側の内周面26bはラジアル軸受部2のシール部材34の内径と略同一径となっている。
【0062】
次に本発明における潤滑油の流れについて説明する。外部給油装置(図示せず)より供給される潤滑油は球面座5に設けられた給油孔9を通り、ラジアル軸受ケース27の外周面4に設けられた前記給油溝30より前記給油孔33を通り、前記給油ノズル29内の前記ダクト32から前記ノズル給油孔31より、前記パッド28に供給される。
【0063】
ティルティングパッド軸受の場合、潤滑油は前記ラジアル軸受ケース27の内周に設けられた前記給油ノズル29から供給されるが、前記ラジアル軸受ケース27内に前記シール部材34により保持された潤滑油が前記給油ノズルから供給される潤滑油と混合された状態で前記パッドに供給されるため、前記パッド28を潤滑した油は混合されて平均排油温度とほぼ同等の温度となってしまう。
【0064】
従って、本発明においては最も負荷荷重が大きい真下のパッド28bの周方向両側に隣接する給油ノズル29b,29cは前記ラジアル軸受ケース27と軸方向に同一の長さとすることにより前記パッド26bで排出される高温の排油は前記給油ノズル29b,29cにより堰止められ、前記排油溝17からラジアル軸受部2の外部に排出される。また、前記パッド28b以外のパッド28a,28c,28d,28e,28fから排出される比較的低温の排油は第1の堰15及び第2の堰16により堰き止められ、前記排油溝17より流出することなく、スラスト軸受部3に供給される。これにより、ラジアル軸受がティルティングパッド軸受の場合においても必要最小限の油量でかつ比較的低温の潤滑油を前記スラスト軸受部3に供給できるため、スラスト軸受の温度上昇を抑制して軸受焼損の心配がない組合せ軸受を提供できる。
【符号の説明】
【0065】
1 回転軸
2 ラジアル軸受部
2a,2b ラジアル軸受上半部,下半部
3 スラスト軸受部
3a,3b スラスト軸受上半部,下半部
4 外周面
5 球面座
6 給油溝
7 摺動面
8 摺動材
9,33 給油孔
10 ラジアル軸受供給孔
11 油留め溝
12 潤滑油導入溝
13 上射溝
14 油逃がし溝
15 第1の堰
16 第2の堰
17 排油溝
18 スラスト給油溝
19 テーパ部
20 ランド部
21 回転ランナ
22 スラスト円周溝
23 スラスト軸受給油孔
24 合わせ面
25 ラジアル軸受側給油孔
26 スラスト軸受の内周面
27 ラジアル軸受ケース
28 パッド
29 給油ノズル
30 給油溝
31 ノズル給油孔
32 ダクト
34 シール部材
100,200,300 軸受装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体を支持するラジアル軸受と、該ラジアル軸受の軸方向端部に設けられたスラスト軸受とを備える組合せ軸受装置であって、
摺動面の軸方向端部に軸受周方向に形成された溝を有する前記ラジアル軸受下半部と、 前記ラジアル軸受下半部の前記溝内に設けられた第1の堰および第2の堰と、
前記ラジアル軸受下半部、かつ前記第1の堰と前記第2の堰との間に設けられ、前記溝と前記ラジアル軸受外部とに連通する排油溝とを備え、
前記第1の堰は、前記ラジアル軸受下半部の軸受最下部位置より前記回転体の回転方向上流側に設けられ、
前記第2の堰は、前記ラジアル軸受下半部の潤滑油最小膜厚さ位置より前記回転体の回転方向下流側に設けられていることを特徴とする組合せ軸受装置。
【請求項2】
請求項1記載の組合せ軸受装置であって、
前記スラスト軸受内周面の内径が、前記第1の堰と第2の堰とを境界にして上側と下側で異なるように構成されており、
下側の前記内周面内径は、前記ラジアル軸受部の摺動面と略同一径であり、上側の内周面内径はラジアル軸受部の前記溝の底面と略同一径となっていることを特徴とする組合せ軸受装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の組合せ軸受装置であって、
前記第1の堰は、前記軸受最下部位置から前記回転体の回転方向反対側40°以内に設けられ、前記第2の堰は、前記溝の周方向真下から前記回転体回転方向60°以内に設けられていることを特徴とする組合せ軸受装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の組合せ軸受装置であって、
前記第1の堰は、前記軸受真下部位置から前記回転体の回転方向反対側30°以内に設けられ、前記第2の堰は、前記溝の周方向真下から前記回転体回転方向60°以内に設けられていることを特徴とする組合せ軸受装置。
【請求項5】
請求項1記載の組合せ軸受装置であって、
前記潤滑油の最小膜位置は、前記軸受最下部から30°〜150°位置であることを特徴とする組合せ軸受装置。
【請求項6】
回転体を支持するティルティングパッド式のラジアル軸受と、該ラジアル軸受の軸方向端部に設けられたスラスト軸受とを備える組合せ軸受装置であって、
前記ラジアル軸受は、
ラジアル軸受ケースと、
前記ラジアル軸受ケース内周に周方向に複数設けられたパッドと、
前記パッド間に設けられ、パッドに潤滑油を給油する給油ノズルと、
前記ラジアル軸受ケースの軸方向両端に設けられ、前記ラジアル軸受ケース内に潤滑油を保持するシール部材とを備え、
前記複数の給油ノズルのうち、最も下部に配置された二つの給油ノズルは前記ラジアル軸受ケースと軸方向に同一長を有し、
前記シール部材は、前記最も下部に配置された二つの給油ノズルと軸受周方向ほぼ同位置に第1の堰と第2の堰とを有し、さらに下側の前記第1の堰と前記第2の堰との間に、半径方向に向かって延伸し軸受ケース外部と連通する排油溝を有することを特徴とする組合せ軸受装置。
【請求項7】
請求項6記載の組合せ軸受装置であって、
前記スラスト軸受の内周面の内径が、前記第1の堰と前記第2の堰とを境にして上側と下側で異なるように構成されており、
前記スラスト軸受の内周面のうち、前記第1の堰と前記第2の堰との間であってかつ下側の内周面は、前記ラジアル軸受のパッド摺動面と略同一径であり、前記第1の堰と前記第2の堰との間であって、かつ上側の内周面は前記シール部材の内径と略同一径となっていることを特徴とする組合せ軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−169355(P2011−169355A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31935(P2010−31935)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】