説明

組成物、成形物および硬化塗膜の製造方法

【課題】 150度以上の超撥水性と無色透明性を兼ね備え、しかも表面硬度に優れる硬化塗膜の形成が可能な組成物、およびそのような特性を有する成形物、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 1分子中に2個以下のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物および/または重合性不飽和二重結合を含まない樹脂を、組成物(塗膜形成成分)100質量部中に35質量部以下の割合で含有する、全光線透過率が90%以上、ヘイズ値が1%以下、および水に対する接触角が150度以上の硬化物を形成しうる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無色透明で、かつ優れた表面硬度と超撥水性を有する硬化物を形成しうる組成物、およびその硬化物からなる硬化塗膜を基材表面に有する成形物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、または環状ポリオレフィン樹脂等の樹脂は、透明性に優れることから、カバー、レンズ、樹脂ガラス等の成形物やそれらを保護するフィルム等の材料として広く汎用されている。しかしながら、これらの樹脂は、撥水性や表面硬度が十分ではない。例えば、成形物やそれを保護するフィルム等の表面に撥水性を付与する場合、透明性および/または表面硬度が低下する傾向にあった。
【0003】
そこで、固体の表面を撥水化する方法としては、ポリシロキサン等のシリコーン系化合物や分子内にフッ素を部分的に含有した化合物を固体表面に直接塗布する方法や、前述したシリコーン系化合物やフッ素系界面活性剤等を含んだ樹脂を固体表面に塗布することによって表面を撥水化する技術が広く知られている。
また、近年においては、硬化塗膜の表面自由エネルギーを低下させる成分の他に、硬化塗膜中に無機微粒子を含有させ、硬化塗膜表面に微細な凹凸を形成する手法(例えば特許文献1を参照)、有機微粒子を含む塗料を用いる方法(例えば特許文献2を参照)、さらに、微細な凹凸を表面に付与する手法としてプラズマ等の処理によって固体の表面に微小な凹凸突起を形成した後、表面自由エネルギーが低い化合物を固体の表面に結合させることにより撥水化する方法等が知られている(例えば、特許文献3および特許文献4を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−273617号公報
【特許文献2】特開平8−3479号公報
【特許文献3】特開平4−288349号公報
【特許文献4】特開2001−131318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単にシリコーン系化合物やフッ素系化合物を含有させた塗料の硬化塗膜は、水との接触角が110度以下であり、撥水性の向上が望まれている。
また、無機微粒子や有機微粒子を含む塗料を用いる方法(特許文献1、2)や撥水化プラズマ処理に用いる方法(特許文献3、4)では、水との接触角と透明性が改善されたものの、得られる硬化塗膜のヘイズ値が高い傾向にあり、無色透明な硬化塗膜が得られないといった課題がある。
特に特許文献4には、透明で150度以上の超撥水性の表面を有する透明性を成形物が開示されている。しかしながら、この特許文献4における透明性とは、ヘイズが6.7〜22%程度のものを意味しており、本発明が目的とする無色透明な表面を有する成形物が得られないという課題があった。
【0006】
このように、透明性に優れ、かつ撥水性と表面硬度を兼ね備える硬化塗膜の形成が可能な組成物、およびそのような特性を有する成形物およびその製造方法は未だ見出されておらず、所望されている。
本発明の課題は、150度以上の超撥水性と無色透明性を兼ね備え、しかも表面硬度に優れる硬化塗膜の形成が可能な組成物、およびそのような特性を有する成形物、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、1分子中に2個以下のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物および/または重合性不飽和二重結合を含まない樹脂を組成物(塗膜形成成分)100質量部中に35質量部以下の割合で含有する、全光線透過率が90%以上、ヘイズ値が1%以下、および水に対する接触角が150度以上の硬化物を形成しうる組成物;基材上に前述した組成物の硬化物層を形成する工程1、該硬化物層表面をプラズマエッチング処理により加工する工程2、および工程2の加工をした硬化物層表面にフルオロアルキルシラン化合物を化学的に結合させる工程3を有する硬化塗膜の製造方法にある。

【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物は、無色透明で超撥水性に優れる硬化塗膜の形成を可能とするものであることから、防汚性、着水防止性、着雪防止性、または着氷防止性等が必要とされる建築・建材用、家電部品用、自動車部品用等の部材等に対して好適に実用可能なものである。
また、そのような特性を有する本発明の成形物は、機能性付与製品として様々な分野で所望されており、産業上の利用度は大である。
さらに本発明の製造方法は、簡便な工程であるため、生産性よく、かつ省エネルギーで環境負荷の低減を可能とするものであり、産業上の利用度は大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本発明でいう水との接触角とは、得られた成形品を20℃の恒温室に1時間放置した後、硬化被膜表面の水に対する接触角を20℃にて接触角測定器(協和界面科学(株)製)を用いて測定して得られる値を意味する。
また、本発明でいうヘイズ値とは、得られた成形品について、ヘーズメーター((株)村上色彩技術研究所製、商品名:HM−150)を用い、JIS−K−7105に準じて測定して得られるヘイズ値を意味する。
【0010】
本発明の組成物は、1分子中に2個以下のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物および/または重合性不飽和二重結合を含まない樹脂(以下成分(A)という)を組成物(塗膜形成成分)100質量部中に35質量部以下の割合で含有し、かつ全光線透過率が90%以上、ヘイズ値が1%以下、および水に対する接触角が150度以上の硬化物を形成しうる組成物である。
【0011】
なお、ここでいう1分子中に2個以下のラジカルとは、特に限定されない。また、本発明でいう「全光線透過率が90%以上、ヘイズ値が1%以下、および水に対する接触角が150度以上の硬化物」とは、すなわち無色透明で、表面硬度に優れ、しかも超撥水性に優れる硬化物を意味する。
全光線透過率が90%より低い場合には、硬化物は不透明であるか、または透明であるものの着色する傾向にある。また、ヘイズ値が1%を超える場合には、透明度が低下し、濁り度が上がる傾向にある。さらに、水に対する接触角が150度よりも低い場合には、防汚性、着水防止性、着雪防止性、および着氷防止性等の特性が十分に発現しない傾向にある。
本発明の組成物は、特におよび水に対する接触角が150度以上の硬化物であることを特徴とし、これにより、極めて優れた防汚性、着水防止性、着雪防止性、および着氷防止性等の特性を十分に発現させることができる実用可能なものである。
【0012】
本発明の組成物には、成分(A)が含有されている。
【0013】
成分(A)のうち、1分子中に2個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物の具体例としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ブテン−1,4−ジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス−(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−(メタ)アクリロキシ(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、ビス−(2−メタアクリロイルオキシエチル)フタレート、
イソホロンジイソシアネートと2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、ジシクロメタンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、ジシクロメタンジイソシアネートとポリ(繰返し単位:6〜15)テトラメチレングリコールとのウレタン化反応物に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート等のウレタンジ(メタ)アクリレート、
ビスフェノールA型ジエポキシと(メタ)アクリル酸とを反応させたエポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシジ(メタ)アクリレート、
ポリエチレングリコールとコハク酸および(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート等のポリエステル(メタ)アクリレート
等の2官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0014】
また成分(A)のうち、1分子中に1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物の具体例としては、例えばウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の重合性不飽和二重結合を有する単官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
その具体例としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0015】
また、成分(A)のうち、本発明で用いる重合性不飽和二重結合を含まない樹脂の具体例としては、例えばビニル系単量体またはそれら混合物をラジカル重合開始剤の存在下に溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法等の公知の方法で得られる共重合ポリマー等が挙げられる。
本発明の組成物において、成分(A)の含有量は、組成物(塗膜形成成分)100質量部中に35質量部以下である。この範囲内であれば、表面硬度に優れる硬化塗膜を得ることができるが、その含有量が35質量部を超える組成物は、ヘイズが高くなる傾向にある。
その他、本発明の組成物には、本発明の特性が損なわれない範囲で、所望する特性が発現できるよう、その他の共重合可能な化合物を適宜選択して用いることができる。
【0016】
そのような化合物としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の重合性不飽和結合を有する(メタ)アクリレート等、分子中に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(以下、成分(B)という)が挙げられる。
【0017】
成分(B)の具体例としては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、ビス(2−(メタ)アクリロキシエチル)−ヒドロキシエチル−イソシアヌレ−ト、トリス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレ−ト、ウレタン(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを反応させたウレタントリ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルエタンとコハク酸および(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルプロパンとコハク酸、エチレングリコ−ル、および(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは、1種単独で、または2種以上を併用して用いることができる。
【0018】
また、さらに硬化塗膜表面にプラズマエッチング処理を行う場合、その表面に凹凸が形成されやすく、かつ無色透明性を維持する硬化塗膜が得ることができる傾向にある。
【0019】
本発明の組成物には、必要に応じて微粒子(以下、成分(C)という)を添加させてもよい。
本発明の組成物中に成分(C)を添加すれば、成形物表面に超撥水性をさらに向上させることができ、また硬化塗膜に表面硬度や耐候性を付与することができる。
なお、ここでいう成分(C)とは、厳密な意味で粒状と言われるものは勿論のこと、例えば、鱗片状、繊維状、不定形状、多面体状などの各種の任意形状であっても、その形状が微細な故に微粒子と言い得るものをも包含する意味である。
本発明で用いる成分(C)の形態は特に限定されず、例えば粉体として存在する形態、あるいは、水、アルコール、有機溶媒などにコロイド粒子として分散している状態(分散液)等の微粒子等が挙げられる。本発明においては、硬化塗膜の耐久性の観点から、成形物表面に露出した微粒子が凝集することなく分散していることが好ましい。その中でも、成分(C)は、硬化塗膜表面から露出させて、微小な突起を成形物表面に形成しやすいことから、微細形状であることがより好ましい。
【0020】
成分(C)の種類は、特に限定されるものではなく、有機化合物であっても無機化合物であってもよい。具体例としては、例えば二酸化ケイ素(SiO2)、ガラス繊維等のケイ素酸化物微粒子や、二酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化鉄(FeO、Fe23、Fe34)、酸化アンチモン(Sb23)、酸化セリウム(CeO2)、酸化錫(SnO2)等の金属酸化物微粒子が挙げられる。
これらは、一種単独で、または二種以上を併用して用いることができる。
これらの中でも、特に得られる硬化物が透明性に優れ、かつ表面硬度、耐摩耗性、耐候性および耐擦傷性を付与できることから、ケイ素酸化物微粒子や金属酸化物微粒子が好ましい。
さらに、それらの中でも、得られる硬化物の透明性に優れることから、二酸化ケイ素(SiO2)の微粒子が特に好ましい。
【0021】
本発明に用いる成分(C)の大きさは特に限定されないが、その中でも一次平均粒子径が10〜100nmの範囲であることが好ましく、20〜60nmであることがより好ましい。
この一次平均粒子径が100nmを超えると得られる硬化物の透明性が低下する傾向にあり、10nm未満の場合には超撥水性が十分に発現しない傾向にある。
【0022】
なお、本発明で用いる成分(C)は、組成物中での分散保持性や塗膜形成成分との相溶性を高め、透明性を向上させる観点から、必要に応じて該表面を(メタ)アクリロイルアルコキシシラン等のシラン化合物等で予め表面処理されたものを用いることが好ましい。
【0023】
これらシラン化合物の中でも、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のシラン化合物等が好ましい例として挙げられる。
【0024】
また、本発明の組成物において、成分(C)の含有量は特に限定されないが、塗膜の硬化工程後のプラズマ処理工程によって硬化塗膜表面に微小な凹凸を形成できることから、組成物(塗膜形成成分)100質量部中に1〜60質量%の範囲で含有させることが好ましい。
【0025】
本発明の組成物は、活性エネルギー線および/または熱により硬化させることが可能であるが、短時間・省エネルギーの観点から、電子線や紫外線等の活性エネルギー線により硬化させることが好ましい。その中でも、汎用性が高いことから、紫外線を用いる場合ことが好ましい。
【0026】
また、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、硬化促進の観点から光重合開始剤を含有させることが好ましい。
光重合開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−エチルアントラキノン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド化合物等が挙げられる。
これらは、一種単独でまたは二種以上を併用して用いることができる。
【0027】
これらの中でも、硬化促進性に優れることから、ベンゾフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、アシルフォスフィンオキサイド化合物がより好ましい。
【0028】
本発明の組成物には、必要に応じて光重合開始剤および/または熱重合を含有させてもよい。その場合、重合開始剤は、組成物(塗膜形成成分)の合計量100質量部中に0.1〜15質量部の範囲が好ましく、1〜10質量部の範囲がより好ましい。
この重合開始剤の含有量の下限値が0.1質量部未満では、組成物の硬化性が不十分となる傾向にあり、またその上限値が15質量部を超えると得られる成形物表面に対する硬化塗膜との付着性が低下する傾向にある。
【0029】
なお、本発明の組成物には、本発明が目的とする特性を損なわない範囲において、消泡剤、沈降防止剤、潤滑剤、研磨剤、防錆剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等の各種添加剤を適宜添加してもよい。
【0030】
更に、本発明の組成物には、塗布方法に応じた粘度の調整や、塗布時の塗工性の向上、またはレベリング性等の外観向上を目的として、必要に応じて有機溶剤を添加してもよい。
有機溶剤の具体例としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル等のエステル系化合物;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系化合物;トルエン、キシレン等の芳香族化合物;ペンタン、ヘキサン等の脂肪族化合物;イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系化合物;等が挙げられる。
【0031】
次に本発明の成形物について、詳細に説明する。
本発明の成形物は、基材上に前述した組成物の硬化物からなる、超撥水性および無色透明性に極めて優れる硬化塗膜を有するものである。そのため、基材が無色透明である場合には、成形物の透明性を維持しつつ、撥水性および表面硬度に優れる表面を有する成形物を得ることができる。また、成形物が有色または着色されている場合には、基材の色を損なうことなく、撥水性および表面硬度に優れる表面を有する成形物を得ることができる。
【0032】
本発明において基材の材質は、例えばポリメチルメタクリル樹脂、ポリカ−ボネ−ト樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ(ポリエステル)カ−ボネ−ト樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレ−ト樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、ポリアリルジグリコ−ルカ−ボネ−ト樹脂等の各種熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等、公知の合成樹脂が挙げられる。
また、本発明の成形物の形態は、シート状物、フィルム状物等であっても、3次元構造の成形品であってもよく、特に限定されない。
【0033】
本発明の製造方法は、下記3つの工程を有するものであり、以下これらについて詳細に説明する。
・基材上に本発明の組成物の硬化物層を形成する工程1
・該硬化物層表面を、プラズマエッチング処理により加工する工程2
・工程2の加工を行った硬化物層表面に、フルオロアルキルシラン化合物を化学的に結合させる工程3
【0034】
まず工程1では、公知の方法で前述した組成物を基材に塗布して塗膜を形成し、必要に応じてその塗膜を乾燥させた後、その塗膜を活性エネルギー線の照射および/または熱により硬化させて硬化物層を形成すればよい。
【0035】
ここで、組成物の塗布方法としては、例えばハケ塗り法、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法、フローコート法等が挙げられる。この塗布方法は、成形物の形状や組成物の粘度に応じて適宜選択すればよい。
また、塗布時の塗工性の向上、レベリング性などの外観向上のために塗装被覆組成物中に有機溶剤を含有させる場合には、基材表面に形成した塗膜を乾燥させ、塗膜中の有機溶剤を揮発させてから該塗膜を硬化させることが望ましい。
塗膜の乾燥条件は、生産性の観点から、その塗膜を、例えばIRヒーターおよび/または温風で加温し、60〜130℃、3〜20分の条件下で有機溶剤を揮発させることが好ましい。
【0036】
また、塗膜の硬化方法は、特に限定されないが、生産性よく、かつ省エネルギーで環境負荷の低減できることから、紫外線、電子線等の活性エネルギー線を用いることが好ましい。
その中でも、汎用されている高圧水銀灯を用い、照射される紫外線エネルギー量が波長340〜380nmの範囲において積算光量500〜4000mJ/cm2程度の条件で硬化させることがより好ましい。
【0037】
工程2では、得られた硬化塗膜表面をプラズマエッチング処理により加工を行う。
この加工を行うことにより、基材上の硬化塗膜表面の水に対する接触角を極めて高くすることができる。このプラズマエッチングの処理条件は、通常行われる表面の疎面化処理条件であればよく、所望に応じて適宜選択すればよい。
【0038】
また工程2におけるプラズマエッチング処理の雰囲気下は、アルゴン等の不活性ガスの他、酸素、四フッ化メタン等の反応性ガス等、適宜選択すればよく特に限定されない。このようにプラズマエッチングを行った硬化塗膜表面は、表面形状が凹凸に加工される。
【0039】
なおフルオロアルキルシラン化合物の具体例としては、例えば、CF3CH2CH2Si(OCH3)3、CF3CH2CH2SiCl3、CF3(CF2)3CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)3CH2CH2SiCl3、CF3(CF2)5CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)5CH2CH2SiCl3、CF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7CH2CH2SiCl3、CF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)Cl2等が挙げられる。
これらの中でも、特にフッ素原子の数が多いと撥水性が高くなる傾向にあることから、CF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7CH2CH2SiCl3、CF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)Cl2等が好ましい。
【0040】
フルオロアルキルシラン化合物は、塗膜厚や塗布条件、塗布方法等に応じて、適宜粘度調整の目的で、溶媒に希釈して用いてもよい。
このフルオロアルキルシラン化合物の希釈に用いる溶媒としては、例えばエタノール、2−プロパノール等の低級アルコール;m−キシレンヘキサフロライド等のフッ素系溶媒;等が挙げられる。また、重縮合温度を低下させるために、塩酸、酢酸などの酸を添加してもよい。フルオロアルキルシラン化合物の塗布方法は特に限定されず、従来より知られる各種の方法を用いることができる。例えば、アプリケーターやバーコーターを用いたコーティング、ロールコート、スプレーコート、ディップコート等が挙げられる。また、ケイ素酸化物微粒子および/または金属酸化物微粒子の水酸基と、フルオロアルキルシラン化合物との反応を加速させるために加熱することが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、実施例中の「部」は全て「質量部」を意味する。また、実施例中の測定や評価方法は下記の通りである。
【0042】
[評価条件]
(1)塗膜外観
得られた成形品に形成された硬化塗膜について、ヘーズメーター((株)村上色彩技術研究所製、商品名:HM−150)を用い、JIS−K−7105に準じて全光線透過率(%)とヘイズ値を測定する。得られた値を下記基準に従って評価しその結果を表1に示す。
[透明性]
○:全光線透過率90%超、かつヘイズ値が1%以下の場合
×:全光線透過率90%以下、かつヘイズ値が1%を超える場合
[外観]
【0043】
(2)水に対する接触角
得られた成形品を20℃の恒温室に1時間放置した後、硬化被膜表面の水に対する接触角を20℃にて接触角測定器(協和界面科学(株)製)を用いて測定し、得られた値表1に示す。ここで得られた水に対する接触角は、150度以上の場合に○とし、150度未満の場合に×とする。
【0044】
(3)鉛筆硬度
JIS−K−5400に準じて硬化塗膜の鉛筆硬度を測定し、その結果を表1に示す。
【0045】
<実施例1>
四ツ口フラスコに、シリカゾル(分散媒:イソ−プロパノール、SiO2 濃度:30質量%、一次平均粒子径:10〜15nm、商品名:IPA−ST、日産化学工業(株)製)2000gと、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:A−174、日本ユニカー(株)製)382gを入れ、攪拌しながら昇温させ、揮発成分の還流が始まると同時に0.001規定の塩酸水溶液139gを徐々に滴下させ、滴下終了後、還流下で加水分解を行った。
その後アルコールおよび水等の揮発成分を留出させ、トルエンを追加し共沸留出させた後、更にトルエンで完全に溶媒置換を行い、トルエンの分散系の表面被覆処理されたコロイダルシリカを得た(反応後の固形分濃度:約60質量%)。
【0046】
次に、ガラスビーカーに、得られた表面被覆処理されたコロイダルシリカを固形分換算にて25部、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレ−ト60部、1,9−ノナンジオールジアクリレート12部、更に光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン1.5部、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド1.5部を容器に計量し、よく混合攪拌を行った。その後、スプレー塗布法に好適な粘度に混合物を調整するため、n−ブタノールと酢酸ブチルを1:1で混合した混合溶剤で希釈し、固形分30質量%の塗料を調製した。
得られた塗料を、スプレー塗布法で透明ポリカーボネート板(厚さ3mm)に塗膜を形成し、硬化後の膜厚が10μm、約60℃に調節した温風乾燥器中に5分間静置させ、塗膜中の溶剤を揮発除去した。
【0047】
次いで溶剤除去した塗膜表面に、空気雰囲気下でランプ強度80W/cmの高圧水銀ランプを用い、波長340〜380nmの積算光量が1500mJ/cmとなる紫外線を照射し、硬化塗膜を得た。
その後プラズマ処理の工程として、CF4ガスを使用し450Wの出力で硬化塗膜表面を10分間エッチング処理した成形物を得た。次いでフルオロアルキルシラン化合物、CF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)3(信越シリコン社製、商品名KBM−7803)を加水分解処理したアルコール溶液に浸漬後、風乾した後に80℃、30分間熱処理を行った。
【0048】
<実施例2>
実施例1で得られた表面被覆処理されたコロイダルシリカ(固形分換算)30部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート20部、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレ−ト37部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート10部、更に光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン1部、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド2部を容器に計量し、よく混合攪拌を行った。
その後、プラズマ処理の工程においてエッチング時間を5分とする以外は実施例1と同様の操作を行い、硬化塗膜を有する成形物を得た。
【0049】
<実施例3〜4、比較例1〜3>
表1に示した組成、その配合比および基材を用いる以外は、実施例1と同様な操作を行い、硬化塗膜を有する成形物を得た。
【0050】
<比較例4>
表1に示した組成、その配合比および基材を用いかつフルオロアルキルシラン化合物による処理を施さない以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜を有する成形物を得た。
【0051】
<比較例5>
表1に示した組成、その配合比および基材を用いかつプラズマ処理を施さない以外は、実施例1と同様にして硬化塗膜を有する成形物を得た。
【0052】
【表1】

【0053】
なお、表中のCSの値は、固形分換算値である。
また、表中の略号は、次の通りである。
UA:ジシクロヘキシルメタンジオール2mol、ノナブチレングリコール1molおよび2−ヒドロキシエチルアクリレート2molから合成した分子量2500のウレタンアクリレート
HDDA:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート
NDDA:1,9−ノナンジオールジアクリレート
TAIC:トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
CS:平均粒子径が20nmである、コロイダルシリカと3−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシランの縮合物
GF:一次平均粒子径が7.2μmであるガラス粒子
HCPK:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
APO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド
PC:ポリカーボネート板(厚さ3mm)
PMMA:ポリメチルメタクリレート板(厚さ3mm)
【0054】
[考察]
表1から明らかなように、実施例1〜4で得られた塗膜は150度を超える撥水性を発現しつつ、かつ優れた透明性を有し低いヘイズ値の成形物が得られた。一方、比較例では、硬化塗膜にプラズマ処理が施されない、無機微粒子を含まない、または無機微粒子のサイズが大きすぎる等の理由により、硬化塗膜の透明性および撥水性のいずれか一方の物性が劣る結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に2個以下のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物および/または重合性不飽和二重結合を含まない樹脂を、組成物(塗膜形成成分)100質量部中に35質量部以下の割合で含有する、全光線透過率が90%以上、ヘイズ値が1%以下、および水に対する接触角が150度以上の硬化物を形成しうる組成物。
【請求項2】
基材上に、請求項1記載の組成物の硬化物からなる硬化塗膜を有する成形物。
【請求項3】
基材上に請求項1記載の組成物の硬化物層を形成する工程1、該硬化物層表面をプラズマエッチング処理により加工する工程2、および工程2の加工をした硬化物層表面にフルオロアルキルシラン化合物を化学的に結合させる工程3を有する硬化塗膜の製造方法。

【公開番号】特開2006−22258(P2006−22258A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203187(P2004−203187)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】