説明

経路作成装置

【課題】演算時間と信頼性の双方を考慮して適切な走行経路を作成すること。
【解決手段】経路作成装置1は、開始点から目標点までの車両の走行経路を作成する装置である。この経路作成装置1は、空間上の経路を全探索することにより走行経路を作成する第1作成部17aと、空間上から確率的に抽出された点に基づいて設定されたノードを順次接続することで走行経路を作成する第2作成部17bと、車両の状況又は該車両の周辺の状況を検出する手段(障害物検出装置11や白線検出装置12など)と、検出された状況に基づいて第1作成部17a及び第2作成部17bのいずれか一方を走行経路を作成するための手段として選択する選択部17cと、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行経路を作成する経路作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の走行経路を作成(計画)する技術が知られている。例えば下記特許文献1には、最短経路問題を解くためのアルゴリズムであるダイクストラ法を用いて、リスクが最小となる走行経路を算出する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−154967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の装置のように最短経路問題の解法を用いれば、存在する全ての経路が評価されるので、所望の経路(例えばリスクが最小となる経路)を確実に求めることができる。しかしその反面、この解法は演算の負荷及び時間の増大を招き、結果として走行経路の作成時間が長くなってしまう可能性がある。
【0005】
そこで本発明は、演算時間と信頼性の双方を考慮して適切な走行経路を作成することが可能な経路作成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の経路作成装置は、開始点から目標点までの車両の走行経路を作成する経路作成装置であって、空間上の経路を全探索することにより走行経路を作成する第1作成手段と、空間上から確率的に抽出された点に基づいて設定されたノードを順次接続することで走行経路を作成する第2作成手段と、車両の状況又は該車両の周辺の状況を検出する検出手段と、検出手段により検出された状況に基づいて第1作成手段及び第2作成手段のいずれか一方を走行経路を作成するための手段として選択する選択手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このような発明によれば、いわゆる全探索手法及び確率的探索手法のいずれか一方が車両又はその周辺の状況に基づいて選択され、選択された手法により走行経路が作成される。全探索手法はすべての経路を探索することで所望の経路を作成する手法であり、これにより信頼性の高い経路を得ることができる。一方、確率的探索手法は確率的に(ランダムに)抽出されたノード(中継点)を繋ぐことで最終的な経路を作成する手法であり、演算の負荷及び時間を抑制できる。これら二つの手法を車両又はその周辺の状況に応じて選ぶことで、演算時間と信頼性の双方を考慮して適切な走行経路を作成できる。
【0008】
本発明の経路作成装置では、検出手段が車両の周辺環境を検出し、選択手段が、検出手段により検出された周辺環境に基づいて車両が走行可能な領域を算出し、算出された領域の面積が所定の閾値より小さければ第1作成手段を選択し、そうでなければ第2作成手段を選択してもよい。
【0009】
この場合、検出された車両の周辺環境に基づいて走行可能領域が算出され、その領域が相対的に狭い場合には全探索手法が採用され、その領域が相対的に広い場合には確率的探索手法が採用される。したがって、より正確な運転が要求される場面において信頼性の高い走行経路を作成することができ、それ以外の場面では走行経路の作成時間を抑制できる。
【0010】
本発明の経路作成装置では、検出手段が車両の運転状況を検出し、選択手段が、検出手段により検出された運転状況に基づいて、作成しようとする走行経路の精度を決定し、決定された精度が所定の閾値より高ければ第1作成手段を選択し、そうでなければ第2作成手段を選択してもよい。
【0011】
この場合、検出された車両の運転状況に基づいて走行経路の精度が決定され、その精度が所定の閾値より高い場合には全探索手法が採用され、そうでない場合には確率的探索手法が採用される。したがって、走行経路に求められる精度に応じて走行経路の作成方法を選択することができる。
【0012】
本発明の経路作成装置では、検出手段が車両周辺の障害物の位置を検出し、選択手段が、検出手段により検出された障害物の位置に基づいて車両と該障害物との近接度を算出し、算出された近接度が所定の閾値以上であれば第1作成手段を選択し、そうでなければ第2作成手段を選択してもよい。
【0013】
この場合、検出された障害物の位置に基づいて車両と障害物との近接度、すなわち障害物への接近の度合いが算出される。そして、相対的に障害物に近い場合には全探索手法が採用され、そうでない場合には確率的探索手法が採用される。したがって、より正確な運転が要求される障害物付近において信頼性の高い走行経路を作成することができ、それ以外の場面では走行経路の作成時間を抑制できる。
【0014】
本発明の経路作成装置では、検出手段が車両の現在位置を検出し、選択手段が、検出手段により検出された現在位置に基づいて、車両から一定の範囲内における走行経路を作成するために第1作成手段を選択し、当該範囲を超えた領域における走行経路を作成するために第2作成手段を選択してもよい。
【0015】
この場合、車両の近傍では全探索手法により走行経路が作成されるので、比較的すぐに運転することになる、現地点から所定の地点までの間の走行経路の信頼性を高く維持することができる。一方、車両から比較的遠い領域では確率的探索手法により走行経路が作成されるので、高い信頼性が直ぐには求められない領域での経路作成時間を抑制できる。
【0016】
本発明の経路作成装置は、開始点から目標点までの車両の走行経路を作成する経路作成装置であって、空間上の経路を全探索することにより走行経路を作成する第1作成手段と、空間上から確率的に抽出された点に基づいて設定されたノードを順次接続することで走行経路を作成する第2作成手段と、走行経路の作成時間を計測する計測手段と、作成時間が所定の閾値以下の場合には走行経路を作成するための手段として第1作成手段を選択し、作成時間が該閾値を超えた場合には走行経路を作成するための手段として第2作成手段を選択する選択手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
このような発明によれば、最初は全探索手法により走行経路が作成され、その作成時間(処理時間)が所定の閾値を超えると、今度は確率的探索手法により走行経路が作成される。このように、全探索手法を用いる時間を制限することで、走行経路の作成時間が増大するのを抑制できる。
【0018】
本発明の経路装置では、第1作成手段が、空間上の経路のうちリスクが最小となる走行経路を作成してもよい。
【0019】
この場合、最も安全に走行できると期待される経路を全探索手法により得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
このような経路作成装置によれば、車両又はその周辺の状況に基づいて全探索手法及び確率的探索手法のどちらかが選択され、選択された手法に基づいて走行経路が作成されるので、演算時間と信頼性の双方を考慮して適切な走行経路を作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各実施形態に係る経路作成装置の構成を示す図である。
【図2】第2実施形態に係る経路作成の概念を示す図である。
【図3】第3実施形態に係る経路作成の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る経路作成装置1の機能及び構成を説明する。経路作成装置1は車両の走行経路を作成する装置であり、図1に示すように障害物検出装置11、白線検出装置12、道路検出装置13、走行状況検出装置14、周辺環境データベース15、制御切替スイッチ16、及び経路作成ECU17を備えている。経路作成装置1は、表示装置3、警報装置4、及び運転支援装置5を制御する運転支援ECU2と接続されている。
【0024】
障害物検出装置11はミリ波レーダやレーザレーダ等を含んで構成され、車両周辺に存在する障害物(建物やガードレール、歩行者等のような、車両の走行を妨げるもの)の位置を検出する装置である。障害物検出装置11は所定の間隔で検出処理を実行し、検出結果を随時、障害物情報として経路作成ECU17に出力する。
【0025】
白線検出装置12はカメラや画像処理装置等を含んで構成され、道路上に付された白線(車線)の位置を検出する装置である。白線検出装置12は所定の間隔で検出処理を実行し、検出結果を随時、白線情報として経路作成ECU17に出力する。
【0026】
道路検出装置13はレーザレーダ等を含んで構成され、道路の形状を検出する装置である。道路検出装置13は所定の間隔で検出処理を実行し、検出結果を随時、道路形状情報として経路作成ECU17に出力する。
【0027】
走行状況検出装置14は車輪速センサやヨーレートセンサ、操舵角センサ等を含んで構成され、速度や操舵角といった車両の運転状況を検出する装置である。走行状況検出装置14は所定の間隔で検出処理を実行し、検出結果を随時、運転情報として経路作成ECU17に出力する。
【0028】
周辺環境データベース15はカーナビゲーションシステムの一部を構成し、車両周辺の地図情報を記憶する装置である。周辺環境データベース15は経路作成ECU17からのアクセスを受け付け、要求された地図情報を経路作成ECU17に出力する。
【0029】
制御切替スイッチ16は、運転支援の方法を切り替えるための入力装置である。運転者はこのスイッチ16を操作して、運転者に対して警報を発することだけを行う警報のみモードと、警報に代えて又はそれとともにブレーキやステアリングを制御する介入モードのどちらかを選択できる。制御切替スイッチ16は、切替操作が行われると選択されたモードを制御モード情報として経路作成ECU17及び運転支援ECU2に出力する。
【0030】
以上説明した各検出装置、データベース及びスイッチは、走行経路の作成方法を選択するための情報である、車両あるいはその周辺の状況を検出する手段であるといえる。
【0031】
経路作成ECU17は、開始点から目標点までの車両の走行経路(目標経路)を作成する電子制御ユニット(ECU)である。この経路作成ECU17は機能的構成要素として第1作成部(第1作成手段)17a、第2作成部(第2作成手段)17b、及び選択部(選択手段)を備えている。これらの構成要素は、後述する全探索手法及び確率的探索手法のアルゴリズムを含む所定のプログラムがECUに読み込まれて実行されることで実現される。
【0032】
第1作成部17aは、開始点と目標点とを結ぶすべての経路のうちリスクが最も低いものを全探索手法により抽出し、抽出された経路を走行経路として作成する手段である。なお、リスクとは、車両の通常の走行が何らかの要因(例えば道路状況、混雑状況、歩行者の分布、天候など)で妨げられる可能性を示す指標である。本実施形態では、開始点は車両の現在位置と一致してもよいし、異なっていてもよい。全探索手法とは、すべての経路を探索することで所望の経路を作成する手法であり、毎回必ず最適解を求めることができるので信頼性が高い。ただし、全探索手法を計算する負荷及び時間は増大しがちである。全探索手法としては例えばダイクストラ法やAアルゴリズムなどが挙げられるが、第1作成部17aにより用いられる手法はこれらに限定されない。
【0033】
第1作成部17aは選択部17cから入力された指示信号から開始点及び目標点の位置情報を抽出し、これらの位置情報と、任意の検出手段から取得した情報(例えば地図情報や障害物情報など)とに基づいて経路作成処理を開始する。そして第1作成部17aは、作成した走行経路を示す経路情報を運転支援ECU2に出力する。
【0034】
第2作成部17bは、開始点と目標点とを結ぶ経路を確率的探索手法により作成する手段である。確率的探索手法とは、空間上から確率的に(ランダムに)抽出された点に基づいて設定されたノードを順次接続することで経路を作成する手法であり、演算の負荷及び時間を抑制できる。ただし、この手法は確率を用いるので探索結果が毎回異なってしまい、全探索手法よりも信頼性が低くなってしまう。確率的探索手法としては例えばRRT(Rapidly-exploring Random Tree)や確率的関係モデル(Probabilistic Relational Model:PRM)などが挙げられるが、第2作成部17bにより用いられる手法はこれらに限定されない。
【0035】
第2作成部17bは選択部17cから入力された指示信号から開始点及び目標点の位置情報を抽出し、これらの位置情報と、任意の検出手段から取得した情報(例えば地図情報や障害物情報など)とに基づいて経路作成処理を開始する。そして第2作成部17bは、作成した走行経路を示す経路情報を運転支援ECU2に出力する。
【0036】
選択部17cは、検出された車両又はその周辺の状況に基づいて第1作成部17a及び第2作成部17bのどちらかを選択し、選択した作成部に走行経路の作成を指示する手段である。すなわち、選択部17cは走行経路の作成方法を選択し、選択した方法に対応する作成部を起動する手段である。ここでは、リスクマップ生成領域の広さに基づく手法、及び算出する走行経路の精度に基づく手法の二つを説明する。
【0037】
まず、走行経路の作成方法をリスクマップ生成領域の広さに基づいて選択する手法について説明する。リスクマップ生成領域とは車両が走行可能な領域のことをいう。したがって、例えば、車両が単路を走行中であるときなどは、車両が交差点や駐車場に位置しているときなどよりも一般にリスクマップ生成領域が小さいといえる。選択部17cは、例えば入力された障害物情報、白線情報、道路形状情報、及び周辺環境データベース15から読み出した地図情報のうちの少なくとも一つに基づいて、車両が現在走行している道路を含むリスクマップ生成領域を算出する。続いて選択部17cはリスクマップ生成領域の面積を算出し、その面積と予め記憶している所定の閾値とを比較する。そして、領域の面積がその閾値よりも小さければ全探索手法を使うと決定し、そうでなければ確率的探索手法を使うと決定する。
【0038】
全探索手法を使うと決定した場合には、選択部17cは開始点及び目標点の位置情報を含む指示情報を生成し、その指示情報を第1作成部17aに出力する。一方、確率的探索手法を使うと決定した場合には、選択部17cは同じように生成した指示情報を第2作成部17bに出力する。
【0039】
なお、面積の閾値の設定方法は任意であるが、例えば単路の場合は全探索手法が選択され、交差点や駐車場の場合には確率的探索手法が選択されるように閾値を設定することが考えられる。
【0040】
次に、算出する走行経路の精度に基づいて当該経路の作成方法を決定する手法を説明する。走行経路に求める精度の決定方法は任意であるが、例えば選択部17cは走行場面に応じて精度を決めてもよい。この場合選択部17cは、入力された障害物情報、白線情報、道路形状情報、運転情報、及び周辺環境データベース15から読み出した地図情報のうちの少なくとも一つに基づいて走行場面を推定する。走行場面としては、例えばレーン維持、路外逸脱回避、障害物回避、駐車などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。そして選択部17cは推定した走行場面に基づいて、算出する走行経路の精度を決定する。例えば、選択部17cは障害物回避や駐車の場面では精度を高くすると決定し、レーン維持や路外逸脱回避の場面では精度を低くすると決定するが、精度の決定方法は任意である。
【0041】
また、選択部17cは運転者が設定した制御モードに応じて精度を決めてもよい。すなわち選択部17cは、入力された制御モード情報が介入モードを示す場合には精度を高くすると決定し、当該情報が警報のみモードを示す場合には精度を低くすると決定する。
【0042】
更に、選択部17cは車両と障害物との近接度に応じて精度を決めてもよい。すなわち選択部17cは、入力された障害物情報、道路形状情報、及び周辺環境データベース15から読み出した地図情報のうちの少なくとも一つに基づいて障害物の位置を算出する。続いて選択部17cは車両と障害物との近接度、すなわち車両から障害物までの距離又は衝突予測時間(Time to Collision:TTC)を算出する。
【0043】
続いて選択部17cは、予め記憶している近接度(距離又は衝突予測時間)の閾値と算出結果とを比較する。そして選択部17cは、算出した距離又は衝突予測時間が対応する閾値よりも小さければ精度を高くすると決定し、そうでなければ精度を低くすると決定する。すなわち選択部17cは、車両と障害物との近接度が一定のレベル以上であれば、走行経路に求める精度を高くすると決定する。
【0044】
このように走行経路に求める精度を決めた後に、選択部17cはその精度に応じて走行経路の作成方法を決定する。具体的には選択部17cは、精度を高くすると決定した場合には全探索手法を選択し、上記指示情報を第1作成部17aに出力する。一方、精度を低くすると決定した場合には、選択部17cは確率的探索手法を選択し、上記指示情報を第2作成部17bに出力する。
【0045】
選択部17cは、上記のいずれかの方法により経路作成方法を選択し、その選択に基づいて指示情報を第1作成部17a及び第2作成部17bのいずれか一方に出力する。これを受けて作成部17a,17bのどちらか一方が経路作成処理を実行する。作成手法を選択する処理は、走行経路を作成する処理の冒頭で一回だけ実行される。なお、走行経路作成処理自体は繰り返し(例えば周期的に)実行され得る。
【0046】
図1に戻って、運転支援ECU2は、経路情報に基づいて運転者又は運転を支援する制御を実行するECUである。運転支援ECUは入力された経路情報に基づいて表示装置3や警報装置4、運転支援装置5を制御する。
【0047】
ここで、表示装置3はメータやヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)等を含んで構成され、テキストや画像で構成される情報を提供する装置である。また、警報装置4はスピーカを含んで構成され、音声案内や警報音を発する装置である。運転支援装置5はブレーキ・アクチュエータや電動パワーステアリング(EPS)アクチュエータを含んで構成され、減速や操舵を自動的に行うことで運転を補助する装置である。
【0048】
運転支援ECU2は入力された制御モード信号が警報のみモードを示す場合には運転支援装置5を作動させず、介入モードを示す信号が入力された場合にのみ運転支援装置5を制御する。運転支援ECU2における経路情報の利用方法は任意である。例えば運転支援ECU2は、経路情報で示される走行経路を表示装置3に表示してもよい。また運転支援ECU2は、経路情報で示される走行経路と実際の走行経路とのずれが所定値以上になった場合に警報装置4から警報を発したり運転支援装置5を作動させたりしてもよい。
【0049】
以上説明したように本実施形態によれば、全探索手法及び確率的探索手法のいずれか一方が車両又はその周辺の状況に基づいて選択され、選択された手法により走行経路が作成される。これら二つの手法は上述したような長所短所を持っているが、車両又はその周辺の状況に応じて各手法の長所が生きるように探索手法を選ぶことで、演算時間と信頼性の双方を考慮して適切な走行経路を作成できる。
【0050】
例えば一手法によれば、検出された車両の周辺環境に基づいて走行可能領域(リスクマップ生成領域)が算出され、その領域が相対的に狭い場合には全探索手法によりリスクが最小の走行経路が作成され、その領域が相対的に広い場合には確率的探索手法により比較的短時間に走行経路が作成される。したがって、より正確な運転が要求される場面において信頼性の高い走行経路を作成することができ、それ以外の場面では走行経路の作成時間を抑制できる。
【0051】
また別の手法によれば、検出された車両の運転状況に基づいて走行経路の精度が決定され、その精度が所定の閾値より高い場合には全探索手法が採用され、そうでない場合には確率的探索手法が採用される。したがって、走行経路に求められる精度に応じて走行経路の作成方法を選択することができる。例えば、より正確な運転が求められる領域ではリスクが最小となる経路を全探索手法により作成することができる。
【0052】
更に別の手法によれば、検出された障害物の位置に基づいて車両と障害物との近接度、すなわち障害物への接近の度合いが算出される。そして、相対的に障害物に近い場合には全探索手法が採用され、そうでない場合には確率的探索手法が採用される。したがって、より正確な運転が要求される障害物付近においてリスクが最小の走行経路を作成することができ、それ以外の場面では走行経路の作成時間を抑制できる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る経路作成装置1の機能及び構成を説明する。第1実施形態と異なる点は経路作成ECU17の機能なのでこの点について特に説明し、他の部分については説明を省略する。また、装置のハードウェア構成や機能ブロックは第1実施形態と同様なので、当該実施形態と同一の符号を用いて説明する。
【0054】
本実施形態において経路作成装置1は、車両が位置する開始点から一定の範囲内では第1作成部17a(全探索手法)により走行経路を作成し、当該範囲を超えて目標点に至るまでの走行経路は第2作成部17b(確率的探索手法)により作成する。以下では、第1作成部17aにより走行経路が作成される範囲を全探索範囲といい、第2作成部17bにより走行経路が作成される範囲を確率的探索範囲という。
【0055】
このような作成方法の概念を図2を用いて説明する。車両Vの位置(開始点)から目標点Gまでの走行経路Rは、全探索範囲A1において作成された走行経路R1と、確率的探索範囲A2において作成された走行経路R2とを繋げたものである。図2における点Mは走行経路R1の終点且つ走行経路R2の始点である。
【0056】
選択部17cは、例えば周辺環境データベース15から読み出した地図情報に基づいて車両の現在位置を算出してこの位置を開始点とするとともに、カーナビゲーションシステム等から目標点の位置情報を取得する。続いて選択部17cはこれら開始点及び目標点の位置情報に基づいて全探索範囲を決定する。例えば、選択部17cは開始点から所定の距離X(m)を全探索範囲としてもよいし、開始点から目標点までの距離のうちの所定の割合P(%)の部分を全探索範囲としてもよい。ここで、そのような閾値X,Pは固定でもよいし、車速が高いほどXあるいはPを大きくするなどのように、車両の走行状況に応じて変えてもよい。続いて選択部17cは、開始点及び目標点の位置情報と、全探索範囲を示す閾値(例えば上記XあるいはP)とを含む指示信号を生成して第1作成部17aに出力する。
【0057】
第1作成部17aは選択部17cから入力された指示信号から位置情報及び全探索範囲を示す閾値を抽出し、これらの情報に基づいて、全探索範囲における走行経路R1を作成する。この経路R1は全探索範囲においてリスクが最小となる経路である。そして第1作成部17aは、走行経路R1を示す経路情報及び目標点の位置情報を第2作成部17bに出力するとともに、走行経路R1を作成したことを示す完了信号を選択部17cに出力する。
【0058】
選択部17cは、第1作成部17aから完了信号が入力されると、確率的探索範囲における走行経路を作成させるための指示信号を第2作成部17bに出力する。
【0059】
第2作成部17bは、選択部17cから指示信号が入力されると、第1作成部17aから入力された経路情報及び目標点の位置情報に基づいて、確率的探索範囲における走行経路R2を作成する。なお走行経路R2は、走行経路R1の終点(図2における点M)と目標点とを結ぶ経路である。続いて第2作成部17bは、走行経路R1及びR2を繋げることで開始点から目標点までの走行経路Rを作成し、その走行経路Rを示す経路情報を運転支援ECU2に出力する。
【0060】
以上説明したように本実施形態によれば、車両の近傍では全探索手法により走行経路が作成されるので、比較的すぐに運転することになる、現地点から所定の地点までの間ではリスクが最小となる経路が作成される。つまり、車両の近傍における経路の信頼性を高く維持できる。これにより、例えばリスクマップ生成領域の面積が相対的に広い場合でも、車両の近傍ではリスク最小の経路を得ることができる。一方、車両から比較的遠い領域では確率的探索手法により走行経路が作成されるので、高い信頼性が直ぐには求められない領域での経路作成時間を抑制できる。
【0061】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る経路作成装置1の機能及び構成を説明する。第1実施形態と異なる点は経路作成ECU17の機能なのでこの点について特に説明し、他の部分については説明を省略する。また、装置のハードウェア構成や機能ブロックは第1実施形態と同様なので、当該実施形態と同一の符号を用いて説明する。
【0062】
本実施形態において経路作成装置1は、予め定められた制限時間Tmax(秒)以内で走行経路を作成する。経路作成装置1は、最初のTa秒間(ただしTa<Tmax)は第1作成部17a(全探索手法)により走行経路を作成し、Ta秒経過後は第2作成部17b(確率的探索手法)により作成する。以下では上記時間Taを全探索時間ともいう。
【0063】
選択部17cは、上記時間Ta,Tmaxを予め内部に記憶するとともに、第1作成部17a及び第2作成部17bにおける処理時間Tを計測するためのタイマを備えている。選択部17cは所定の処理タイミングになると開始点及び目標点の位置情報を含む指示信号を生成して第1作成部17aに出力し、処理時間の計測を開始する。なお本実施形態では、開始点は車両の現在位置と一致してもよいし、異なっていてもよい。T=Taになっても第1作成部17aでの処理が終了しない場合には、選択部17cは経路作成処理の主体を第1作成部17aから第2作成部17bに切り替える。その後、T=Tmaxになっても第2作成部17bでの処理が終了しない場合には、選択部17cは経路作成処理をその時点で打ち切る。
【0064】
第1作成部17aは選択部17cから入力された指示信号から抽出した位置情報に基づいて、開始点から始まる走行経路を全探索手法により作成する。もし全探索時間Ta以内に目標点までの走行経路を作成できた場合には、第1作成部17aはその走行経路を示す経路情報を運転支援ECU2に出力する。この場合には、選択部17cにおける第1作成部17aから第2作成部17bへの切替処理は実行されない。一方、T=Taとなった時点で作成したリスク最小の経路R1´の終点が目標点と一致しない場合には、第1作成部17aの作成処理は選択部17cにより打ち切られる。この場合、第1作成部17aはその経路R1´を示す経路情報と目標点の位置情報とを第2作成部17bに出力する。
【0065】
第2作成部17bは、全探索時間Taが経過して選択部17cによる切替処理が実行されると、第1作成部17aから入力された経路情報及び目標点の位置情報に基づいて、経路R1´の終点から始まる走行経路R2´を作成する。もし制限時間Tmax以内に目標点までの走行経路を作成できた場合には、第1作成部17aはその走行経路(経路R1´,R2´を繋げたもの)を示す経路情報を運転支援ECU2に出力する。この場合には、選択部17cにおける打ち切り処理は実行されない。一方、T=Tmaxとなった時点で走行経路R2´の終点が目標点と一致しない場合には、第2作成部17bの作成処理は選択部17cにより打ち切られる。この場合第2作成部17bは、その時点までに作成できた途中までの走行経路(経路R1´,R2´を繋げたもの)を示す経路情報を運転支援ECU2に出力する。
【0066】
図3を用いて本実施形態に係る経路作成装置1の動作を説明する。まず第1作成部17aが、全探索時間Taが経過するまでの間(ステップS13参照)、全探索手法により走行経路を作成する(ステップS11)。この時に目標点までの走行経路を作成できた場合には(ステップS12;YES)、第1作成部17aは開始点から目標点までの走行経路を運転支援ECU2に出力し(ステップS18)、これにより経路作成装置1の処理が終了する。
【0067】
これに対して、全探索時間Taに至っても目標点までの走行経路が作成されなかった場合には(ステップS13;YES)、選択部17cによる切替処理により第1作成部17aから第2作成部17bへと経路作成処理の主体が移る。そして、第2作成部17bが、制限時間Tmaxが経過するまでの間(ステップS16参照)、全探索手法で作成された経路以降の走行経路を確率的探索手法により作成する(ステップS14)。この時に目標点までの走行経路を作成できた場合には(ステップS15;YES)、第2作成部17bは開始点から目標点までの走行経路を運転支援ECU2に出力し(ステップS18)、これにより経路作成装置1の処理が終了する。
【0068】
これに対して、制限時間Tmaxに至っても目標点までの走行経路が作成されなかった場合には(ステップS16;YES)、選択部17cによる打ち切りにより経路作成処理が終了し、第2作成部17bが開始点から途中までの走行経路を運転支援ECU2に出力する(ステップS17)。
【0069】
以上説明したように本実施形態によれば、最初は全探索手法により走行経路が作成され、その作成時間Tが閾値Taを超えると、今度は確率的探索手法により走行経路が作成される。このように、全探索手法を用いる時間を制限することで、走行経路の作成時間が増大するのを抑制できる。この場合も第2実施形態と同様に、相対的に開始点に近い領域ではリスクが最小となる経路が作成されるので、比較的すぐに運転することになる、開始点から所定の地点までの間の走行経路の信頼性を高く維持できる。一方、相対的に開始点から遠い領域は高い信頼性が直ぐには求められない部分であるので、そのような領域における経路の作成時間を抑制することは有効である。
【0070】
なお、本実施形態では制限時間Tmaxを設けたが、この時間を設定せず全探索時間Taのみにより処理時間Tを管理してもよい。その場合には、第2作成部17bにおける処理が打ち切られることはなく、目標点までの走行経路が作成されるまで確率的探索手法による処理が行われる。
【0071】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0072】
上記各実施形態の経路作成装置1の車両への搭載方法は任意である。例えば、経路作成装置1全体を車両に搭載して当該車両、すなわち自車両の移動経路を作成してもよい。また、経路作成ECU17以外の部分を車両に搭載し、経路作成ECU17に相当する機能を車外のシステムに埋め込み、当該システムと車両とを通信ネットワークで結ぶことで当該車両の移動経路を作成してもよい。
【0073】
上記各実施形態では、第1作成部17aは開始点と目標点とを結ぶすべての経路のうちリスクが最も低いものを作成したが、全探索手法により作成する走行経路の性質は限定されない。例えば、第1作成部17aは存在し得るすべての経路のうち移動距離が最も短いものを作成してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…経路作成装置、11…障害物検出装置(検出手段)、12…白線検出装置(検出手段)、13…道路検出装置(検出手段)、14…走行状況検出装置(検出手段)、15…周辺環境データベース(検出手段)、16…制御切替スイッチ(検出手段)、17…経路作成ECU、17a…第1作成部(第1作成手段)、17b…第2作成部(第2作成手段)、選択部(選択手段、計測手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開始点から目標点までの車両の走行経路を作成する経路作成装置であって、
空間上の経路を全探索することにより前記走行経路を作成する第1作成手段と、
空間上から確率的に抽出された点に基づいて設定されたノードを順次接続することで前記走行経路を作成する第2作成手段と、
前記車両の状況又は該車両の周辺の状況を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された状況に基づいて前記第1作成手段及び前記第2作成手段のいずれか一方を前記走行経路を作成するための手段として選択する選択手段と、
を備えることを特徴とする経路作成装置。
【請求項2】
前記検出手段が前記車両の周辺環境を検出し、
前記選択手段が、前記検出手段により検出された周辺環境に基づいて前記車両が走行可能な領域を算出し、算出された領域の面積が所定の閾値より小さければ前記第1作成手段を選択し、そうでなければ前記第2作成手段を選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の経路作成装置。
【請求項3】
前記検出手段が前記車両の運転状況を検出し、
前記選択手段が、前記検出手段により検出された運転状況に基づいて、作成しようとする前記走行経路の精度を決定し、決定された精度が所定の閾値より高ければ前記第1作成手段を選択し、そうでなければ前記第2作成手段を選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の経路作成装置。
【請求項4】
前記検出手段が前記車両周辺の障害物の位置を検出し、
前記選択手段が、前記検出手段により検出された障害物の位置に基づいて前記車両と該障害物との近接度を算出し、算出された近接度が所定の閾値以上であれば前記第1作成手段を選択し、そうでなければ前記第2作成手段を選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の経路作成装置。
【請求項5】
前記検出手段が前記車両の現在位置を検出し、
前記選択手段が、前記検出手段により検出された現在位置に基づいて、前記車両から一定の範囲内における前記走行経路を作成するために前記第1作成手段を選択し、当該範囲を超えた領域における前記走行経路を作成するために前記第2作成手段を選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の経路作成装置。
【請求項6】
開始点から目標点までの車両の走行経路を作成する経路作成装置であって、
空間上の経路を全探索することにより前記走行経路を作成する第1作成手段と、
空間上から確率的に抽出された点に基づいて設定されたノードを順次接続することで前記走行経路を作成する第2作成手段と、
前記走行経路の作成時間を計測する計測手段と、
前記作成時間が所定の閾値以下の場合には前記走行経路を作成するための手段として前記第1作成手段を選択し、前記作成時間が該閾値を超えた場合には前記走行経路を作成するための手段として前記第2作成手段を選択する選択手段と、
を備えることを特徴とする経路作成装置。
【請求項7】
前記第1作成手段が、前記空間上の経路のうちリスクが最小となる走行経路を作成する、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の経路作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−118609(P2011−118609A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274700(P2009−274700)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】