説明

結晶化ガラスの製造方法

【課題】0℃から50℃において平均線膨張係数が極めて小さく、かつΔL/L曲線の傾きの変化が極めて小さい結晶化ガラスの製造方法を提供すること。
【解決手段】LiO、Al及びSiOの各成分を含有するガラスを熱処理し、結晶相にβ−石英及び/又はβ−石英固溶体を含む結晶化ガラスとする結晶化ガラスの製造方法であって、前記熱処理における少なくとも一つの保温工程Nは、
温度(℃)をx軸、時間(h)をy軸として表したグラフにおいて、下記AからDの4点の座標を結んだ領域内であることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラスの製造方法。
A:(Tg+50,0.1)
B:(Tg+50,400)
C:(Tg+80,400)
D:(Tg+95,0.1)
但しTgは前記結晶化ガラスの原ガラスのガラス転移点(℃)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極低膨張特性を有する結晶化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−石英及び/又はβ−石英固溶体を含む結晶化ガラスは低い平均線膨張係数を有し、極端紫外線を光源とする極端紫外線露光技術(EUVL)を利用した次世代半導体製造装置などのミラー基板材やフォトマスク基板材としての使用が検討されている。
【0003】
EUVLの反射光学系では、ミラー面の投影像が基板材の熱膨張などによって変形すると、最終的な露光品質が劣化してしまうため、ミラーやフォトマスクの基板材料にはppb/℃レベルの熱膨張係数が極めて小さな材料を使用する必要がある。
例えばEUVLのフォトマスク基板の規格であるSEMI P37−1102には、クラスDで19℃から25℃における平均線膨張係数が0±30ppb/℃、クラスAで19℃から25℃における平均線膨張係数が0±5ppb/℃と定められている。
【0004】
ここで、T1℃からT2℃における平均線膨張係数αとは次の式によって得られる。
α=(LT2−LT1)/{L×(T2−T1)}
L:室温における試料の長さ(本発明においては室温を25℃と定義する。)
T1:T1の時の試料の長さ
T2:T2の時の試料の長さ
また、ある温度における膨張傾向を把握する為にCTE−温度曲線や、ΔL/L曲線を描くことが良く行われる。
CTE−温度曲線とは上記の式において、T1とT2の温度範囲を充分に狭くした時の、ある温度Tにおける平均線膨張係数をy軸に、温度をx軸としてプロットした時に得られる曲線を言う。
ΔL/L曲線とは室温における試料の長さをLとし、温度Tの時の試料の長さをLとする時、(L−L)/Lの値(ΔL/L)をy軸に、温度をx軸としてプロットした時に得られる曲線を言う。
また、dCTE/dT−温度曲線とは、CTE−温度曲線を温度で微分した曲線であり、膨張特性の温度依存性を示す。
【0005】
次世代半導体製造装置などのミラー基板材やフォトマスク基板材として結晶化ガラスを使用するためには、平均線膨張係数がゼロ付近であることに加え、膨張傾向の変化が少ないこと、すなわちΔL/L曲線の傾きの変化が少ないことが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特許文献1には0℃〜50℃において、平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7・℃−1以内であり、ΔL/Lの最大値−最小値が10×10−7以内である結晶化ガラスが開示されている。
しかし、特許文献1のΔL/L曲線は20℃から30℃の領域では山なりとなっており、ΔL/L曲線の傾きの変化が大きく、使用温度領域での膨張傾向が変化するため、次世代半導体製造装置などのミラー基板材やフォトマスク基板材への適用は必ずしも好ましくない。
【特許文献1】特開2005−89272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、0℃から50℃において平均線膨張係数が極めて小さく、かつΔL/L曲線の傾きの変化が極めて小さい結晶化ガラスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、結晶相にβ−石英及び/又はβ−石英固溶体を含む結晶化ガラスの製造方法において、原ガラスの熱処理の温度、時間を特定の範囲とすることにより、0℃から50℃において平均線膨張係数が極めて小さく、かつΔL/L曲線の傾きの変化が極めて小さい結晶化ガラスを得ることができる製造方法を見いだしこの発明を完成したものであり、その具体的な構成は以下の通りである。
【0009】
(構成1)
LiO、Al及びSiOの各成分を含有するガラスを熱処理し、結晶相にβ−石英及び/又はβ−石英固溶体を含む結晶化ガラスとする結晶化ガラスの製造方法であって、前記熱処理における少なくとも一つの保温工程Nは、
温度(℃)をx軸、時間(h)をy軸として表したグラフにおいて、下記AからDの4点の座標を結んだ領域内であることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラスの製造方法。
A:(Tg+50,0.1)
B:(Tg+50,400)
C:(Tg+80,400)
D:(Tg+95,0.1)
但しTgは前記結晶化ガラスの原ガラスのガラス転移点(℃)である。
(構成2)
前記熱処理は核形成工程と核成長工程を有し、前記核形成工程の保温温度がガラス転移点Tgに対して+10〜+50℃、前記核形成工程の保温時間が20〜100時間であることを特徴とする構成1に記載の結晶化ガラスの製造方法。
(構成3)
前記保温工程Nは核成長工程に含まれ、前記核形成工程の保温温度よりも高い保温温度である構成1または2に記載の結晶化ガラスの製造方法。
(構成4)
β−石英及び/又はβ−石英固溶体を含む結晶化ガラスを
200℃から150℃へ降温する工程を少なくとも含み、
前記工程における降温の速度を0.0005℃/min〜0.1℃/minの範囲とすることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
(構成5)
前記LiO、Al及びSiOの各成分を含有するガラスの組成は酸化物基準の質量%で、
SiO47〜65%、
1〜13%、
Al17〜29%、
LiO 1〜8%、
MgO 0.5〜5%、
ZnO 0.5〜5.5%、
TiO1〜7%、
ZrO1〜7%
の範囲の各成分を含有することを特徴とする構成1から4のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
(構成6)
前記LiO、Al及びSiOの各成分を含有するガラスの組成は酸化物基準の質量%で、
NaO 0〜4%、及び/又は
O 0〜4%、及び/又は
CaO 0〜7%、及び/又は
BaO 0〜7%、及び/又は
SrO 0〜4%、及び/又は
As0〜2%、及び/又は
Sb0〜2%、
の範囲の各成分を含有することを特徴とする構成1から5のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
(構成7)
前記LiO、Al及びSiOの各成分を含有するガラスの組成は、質量百分率で、
SiO+Al+P=65.0〜93.0%であり、
とSiOの質量百分率の比、
とAlの質量百分率の比がそれぞれ、
/SiO=0.02〜0.200、
/Al=0.059〜0.448、
であることを特徴とする構成5または6に記載の結晶化ガラスの製造方法。
(構成8)
0℃〜50℃の温度範囲における平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7・℃−1である事を特徴とする、構成1から7のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
(構成9)
0℃〜50℃の温度範囲におけるΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が10×10−7以下である構成1から8のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
(構成10)
20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が−1.0ppb・℃−2から+1.0ppb・℃−2の範囲であることを特徴とする構成1から9のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
(構成11)
前記200℃から150℃へ降温処理する工程によって、当該工程を行う前の結晶化ガラスの0℃〜50℃の温度範囲における平均線膨張係数を減少させることを特徴とする構成1から10のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば結晶化ガラスの熱膨張特性を精密に制御することが可能であり、例えば20ppb・℃−1レベルの平均線膨張係数を調整する結晶化ガラスの製造方法を提供することができる。
より具体的には本発明により、0℃から50℃において平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7・℃−1、より好ましい態様においては、0.0±0.1×10−7・℃−1
ΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が0℃から50℃において10×10−7以下、より好ましい態様においては、8×10−7以下、最も好ましい態様においては、2×10−7以下、
かつ20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が−1.0ppb・℃−2から+1.0ppb・℃−2の範囲内、より好ましい態様においては、−0.7ppb・℃−2から+0.7ppb・℃−2の範囲内であり、最も好ましい態様においては−0.5ppb・℃−2から+0.5ppb・℃−2の範囲内である結晶化ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例のΔL/L−温度グラフである。
【図2】本発明の実施例のΔL/L−温度グラフである。
【図3】本発明の実施例のdCTE/dT−温度グラフである。
【図4】本発明の実施例のdCTE/dT−温度グラフである。
【符号の説明】
【0012】
1:実施例1
2:実施例2
3:実施例3
4:実施例4
5:実施例5
6:実施例6
7:実施例7
8:実施例8
9:比較例1
10:比較例2
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にかかる製造方法は大きくガラスを製造する工程、ガラスを熱処理する工程の2工程に分けられる。ガラスを製造する工程は結晶を析出させる前の原ガラスを製造する工程である。ガラスの組成については後述する。ガラスの溶融方法、成型方法は公知の方法に従って製造すれば良い。ガラスを成形後にはアニールを施して室温まで冷却しても良いし、室温まで冷却する前にガラスを熱処理する工程を施してもよい。
【0014】
ガラスを熱処理する工程はガラス相中に結晶を析出させる為に行われ、少なくとも昇温工程と保温工程と降温工程を有する。昇温工程、保温工程、降温工程、はそれぞれ1つの工程であっても良いし、複数の工程であっても良い。
例えばガラスを熱処理する工程は、昇温工程、保温工程、降温工程の3つの工程であって良いし、第1の昇温工程、第1の保温工程、第2の昇温工程、第2の保温工程、第1の降温工程という5段階であって良い。第1の保温工程は核形成の為の核形成工程であり、第2の保温工程は核成長の為の核成長工程であることが好ましい。また、核形成工程の温度より核成長工程の温度の方が高いことが好ましい。
【0015】
本発明は前記熱処理における少なくとも一つの保温工程Nは、温度(℃)をx軸、時間(h)をy軸として表したグラフにおいて、下記AからDの4点の座標を結んだ領域内の温度および時間で熱処理するものである。AからDの4点の座標は、A:(Tg+50,0.1)、B:(Tg+50,400)、C:(Tg+80,400)、D:(Tg+95,0.1)であり、但しTgは前記結晶化ガラスの原ガラスのガラス転移点(℃)である。
保温工程Nをこの範囲で熱処理することにより、所望の平均線膨張係数を有し、且つΔL/L−温度曲線およびdCTE/dT−温度曲線を平坦にすることが出来る。すなわち、0℃から50℃において平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7・℃−1、ΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が0℃から50℃において10×10−7以下、かつ20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が−1.0ppb・℃−2から+1.0ppb/・℃−2の範囲内である結晶化ガラスを得ることができる。さらに、析出結晶の粒径分布も均一になりやすく、得られた結晶化ガラスの表面研磨特性が向上しやすくなる。
より平均線膨張係数を零に近づけ、且つΔL/L−温度曲線およびdCTE/dT−温度曲線を平坦にする為にはAからDの4点の座標はA点が(Tg+55,10)であることがより好ましく、(Tg+60,30)であることが最も好ましく、B点が(Tg+55,250)であることがより好ましく、(Tg+60,150)であることが最も好ましく、C点が(Tg+75,250)であることがより好ましく、(Tg+75,150)であることが最も好ましく、D点が(Tg+85,10)であることがより好ましく、(Tg+80,30)であることが最も好ましい。
さらに所望の平均線膨張係数を有し、且つΔL/L−温度曲線およびdCTE/dT−温度曲線が平坦である結晶化ガラスを得やすくする為に前記保温工程Nは核成長工程であることが好ましい。
【0016】
保温工程が核形成工程および核成長工程2つの工程である場合、前記核形成工程の保温温度がガラス転移点Tgに対して+10℃〜+50℃、前記核形成工程の保温時間が20時間〜100時間であると結晶核がガラスマトリクス内に均一に生成しやすい為に好ましい。この効果を得やすくする為には前記核形成工程の保温温度の下限がTg+15℃であることがより好ましく、Tg+20℃であることが最も好ましく、保温温度の上限がTg+45℃であることがより好ましく、Tg+40℃であることが最も好ましい。同様に前記核形成工程の保温時間の下限が25時間であることがより好ましく、30時間であることが最も好ましく、保温時間の上限が80時間であることがより好ましく、70時間であることが最も好ましい。
【0017】
前記降温工程において、好ましくは最後の降温工程において降温速度を調整することにより、所望の温度範囲における平均線膨張係数をより厳密に調整することが可能となる。 より具体的には前記降温工程は、核形成工程終了後にβ−石英及び/又はβ−石英固溶体を含む結晶化ガラスを200℃から150℃へ降温する工程を少なくとも含み、この時の降温の速度を0.0005℃/min〜0.1℃/minの範囲とすることにより、0℃から50℃の温度範囲におけるCTE−温度曲線の傾きを維持したまま、平均線膨張係数を微小低下させ、その結果平均線膨張係数を精密に制御することが可能となる。この効果をより得やすくする為には前記降温の速度の下限を0.001℃/minとすることがより好ましく、0.003℃/minとすることが最も好ましい。同様にこの効果をより得やすくする為には前記降温の速度の上限を0・07℃/minとすることがより好ましく、0.05℃/minとすることが最も好ましい。
前記降温速度での熱処理は、核形成工程終了後の最初の降温工程内であることが好ましいが、核形成終了後に一度室温まで降温し、一定時間保管後に再度昇温工程を施した後の降温工程であって良い。
【0018】
第1の昇温工程および第2の昇温工程における昇温速度は特に制限されないが、原ガラス内の温度分布を均一にするため0.003℃/min〜0.5℃/minの範囲が好ましい。
【0019】
本発明において熱処理の温度は熱処理炉の温度を意味しており、より具体的には炉の扉のある面を正面とするとき、対向する2面の側壁について、各々側壁の中心であって、側壁より50mm以上内側の位置で白金、ロジウム−白金熱電対により測定される温度であることが好ましい。
【0020】
本発明の結晶化ガラスの原ガラスの好ましい組成について説明する。なお、各組成成分について述べるとき、特に記載が無い場合は、各成分の含有量は酸化物基準の質量%で示す。ここで、「酸化物基準」とは、本発明の結晶化ガラスの構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定して、ガラス中に含有される各成分の組成を表記する方法であり、この生成酸化物の質量の総和を100質量%として、結晶化ガラス中に含有される各成分の量を表記する。
なお、原ガラスを熱処理して結晶を析出させる過程において、原ガラス構成成分の揮発は殆ど無い為、原ガラスの組成は結晶化ガラスの組成と等しい。
【0021】
SiO成分は、原ガラスの熱処理により、結晶相として析出するβ−石英及び/又はβ−石英固溶体を生成する成分であり、その量が47%以上であると、原ガラスの熱膨張係数が小さくなり、所望の熱膨張係数を有する結晶化ガラスが得やすくなる。また、65%以下であると原ガラスの溶融・成形性が容易であり、均質性が向上する。前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は51%が好ましく、53%がより好ましい。また、成分量の上限は60%が好ましく、58%がより好ましい。
【0022】
Al成分は、その量が17%以上29%以下であると原ガラスの溶融が容易となり、そのため、得られる結晶化ガラスの均質性が向上し、更に結晶化ガラスの化学的耐久性も良好なものとなる。また、29%以下であると原ガラスの耐失透性が向上し、耐失透性の低下が原因となって結晶化段階で結晶化ガラスの組織が粗大化することがなくなり、機械的強度が向上する。
前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は20%が好ましく、22%がより好ましい。また、成分量の上限は27%が好ましく、26%がより好ましい。
【0023】
LiO成分はβ−石英固溶体の構成要素となる成分であり、結晶化ガラスの低膨張特性向上や高温時のたわみ量を低減させ、更に原ガラスの溶融性、清澄性を著しく向上させる成分である。LiO成分の量が1%以上であると前記効果が飛躍的に向上し、また、原ガラスの溶融性が向上することにより均質性が向上し、さらに目的とする結晶相の析出が飛躍的に向上する。また8%以下であると低膨張特性が飛躍的に向上し、極低膨張特性を容易に得ることができ、原ガラスの耐失透性がより向上し、耐失透性の低下に起因する結晶化段階後の結晶化ガラス中の析出結晶の粗大化を抑制し、機械的強度が向上する。前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は2%がより好ましく、3%が最も好ましい。また、成分量の上限は6%がより好ましく、5%が最も好ましい。
【0024】
成分は、原ガラスの溶融・清澄性を向上させる効果と、熱処理結晶化後の熱膨張を所望の値に安定化させる効果を有する。本願の結晶化ガラスにおいてはP成分の量が1%以上であると前記の効果が飛躍的に向上し、また13%以下であると、原ガラスの耐失透性が良く、耐失透性の低下が原因となって結晶化段階で結晶化ガラスの組織が粗大化することがなくなり、機械的強度が向上する。前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は4%がより好ましく、6%が最も好ましい。また、成分量の上限は10%がより好ましく、9%が最も好ましい。
【0025】
本発明の結晶化ガラスはSiO成分、Al成分、P成分の合計量(SiO+Al+P)を65.0〜93.0%とすることにより、低膨張特性を著しく向上させ、極低膨張特性を得ることができる。より容易に前記効果を得るには、SiO+Al+Pの含有量の下限は75%がより好ましく、80%が最も好ましい。また、SiO+Al+Pの含有量の上限は91%がより好ましく、89%が最も好ましい。
【0026】
本発明の結晶化ガラスはSiO成分に対するP成分の比の値(P/SiO)を0.02〜0.20とすることにより、低膨張特性を著しく向上させ、極低膨張特性を得ることができる。より容易に前記効果を得るには、P/SiOの下限は0.08がより好ましく、0.12が最も好ましい。P/SiOの上限は0.16がより好ましく、0.14が最も好ましい。
【0027】
本発明の結晶化ガラスはAl成分に対するP成分の比の値(P/Al)を0.059〜0.448とすることにより、低膨張特性を著しく向上させ、極低膨張特性を得ることができる。より容易に前記効果を得るには、P/Alの下限は0.150がより好ましく、0.250が最も好ましい。P/Alの上限は0.400がより好ましく0.350が最も好ましい。
【0028】
MgO成分は、β−石英固溶体の構成要素となる成分であり、結晶化ガラスの低膨張特性向上や高温時のたわみ量を低減させ、更に原ガラスの溶融性、清澄性を著しく向上させる成分である。MgO成分の量が0.1%以上であると前記効果が飛躍的に向上し、また5%以下であると低膨張特性が飛躍的に向上し、極低膨張特性を得ることができる。前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は0.4%がより好ましく、0.6%が最も好ましい。また、成分量の上限は3%がより好ましく、2%が最も好ましい。
【0029】
ZnO成分は、β−石英固溶体の構成要素となる成分であり、結晶化ガラスの低膨張特性向上や高温時のたわみ量を低減させ、更に原ガラスの溶融性、清澄性を著しく向上させる成分である。ZnO成分の量が0.1%以上であると前記効果が飛躍的に向上し、また5.5%以下であると低膨張特性が飛躍的に向上し、極低膨張特性を容易に得ることができ、原ガラスの耐失透性がより向上し、耐失透性の低下に起因する結晶化段階後の結晶化ガラス中の析出結晶の粗大化を抑制し、機械的強度が向上する。前記効果をより容易に得るには、成分量の下限は0.2%がより好ましく、0.3%が最も好ましい、また、成分量の上限は4%がより好ましく、3%が最も好ましい。
【0030】
CaO、BaOの2成分は、基本的にガラス中に析出した結晶以外のガラスマトリックスとして残存するものであり、極低膨張特性および溶融性改善の効果に対して、結晶相とガラスマトリックス相の微調整成分として任意に添加しうる。
【0031】
CaO成分は熔融性の改善とともに、原ガラスの耐失透性の向上、耐失透性の低下に起因する結晶化段階後の結晶化ガラス中における析出結晶の粗大化抑制および機械的強度の向上が期待できる。しかしながら、7%を超えると原ガラスの膨張係数が大きくなり、所望の結晶化ガラスが得難くなるため、成分量の上限は5%がより好ましく、3%が最も好ましい。
【0032】
BaO成分は熔融性の改善とともに、原ガラスの耐失透性の向上、耐失透性の低下に起因する結晶化段階後の結晶化ガラス中における析出結晶の粗大化抑制および機械的強度の向上が期待できる。しかしながら、7%を超えると原ガラスの膨張係数が大きくなり、所望の結晶化ガラスが得難くなるため、成分量の上限は5%がより好ましく、3%が最も好ましい。
【0033】
TiOおよびZrO成分は、いずれも結晶核形成剤として用いられる。これらの量がそれぞれTiO1%、ZrO1%以上であると目的とする結晶相の析出が可能となる。またそれぞれ7%以下であると不熔物の発生が無くなって原ガラスの溶融性が良好となり均質性が向上する。前記効果をより容易に得るには、TiOの成分量の下限は1.3%がより好ましく、1.5%が最も好ましい。ZrOの成分量の下限は1.3%がより好ましく、1.3%が最も好ましい。また、TiOの成分量の上限は、5%がより好ましく、3%が最も好ましい。ZrOの成分量の上限は5%がより好ましく、3%が最も好ましい。
【0034】
As成分やSb成分は、均質な製品を得るためガラス溶融の際の清澄剤として添加し得る。その効果を得るには各々の成分量が2%以下の範囲が良い。
【0035】
上記As成分やSb成分は、環境や人体への影響を考慮してその使用が控えられる傾向にあり、As成分やSb成分に代えて、Ce成分やSn成分を用いることも可能である。この場合、清澄剤としての効果を得る為には各々の成分量が2%以下の範囲が良い。
【0036】
尚、上記成分の他に特性の微調整等を目的として、本発明の結晶化ガラスの特性を損なわない範囲で、SrO、B、F、La、Bi、WO、Y、Gd、SnO成分を1種または2種以上の合計量で2%以下、他にもCoO、NiO、MnO、Fe、Cr等の着色成分を1種または2種以上の合計量で2%以下まで、それぞれ添加し得る。しかし、本発明の結晶化ガラスを高い光線透過率が求められる用途に用いる場合には、前記着色成分は含まない事が好ましい。
【0037】
本発明の結晶化ガラスにおいては、負の平均線膨張係数を有する主結晶相を析出させ、正の平均線膨張係数を有するガラスマトリックス相と相まって、全体として極低膨張特性を実現している。このためには正の平均線膨張係数を有する結晶相、すなわち、二珪酸リチウム、珪酸リチウム、α−石英、α−クリストバライト、α−トリジマイト、Zn−ペタライトをはじめとするペタライト、ウォラストナイト、フォルステライト、ディオプサイト、ネフェリン、クリノエンスタタイト、アノーサイト、セルシアン、ゲーレナイト、フェルスパー、ウィレマイト、ムライト、コランダム、ランキナイト、ラルナイトおよびこれらの固溶体等を含まないことが好ましく、これらに加えて、良好な機械的強度を維持するためには、Hf−タングステン酸塩やZr−タングステン酸塩をはじめとするタングステン酸塩、チタン酸マグネシウムやチタン酸バリウムやチタン酸マンガンをはじめとするチタン酸塩、ムライト、3ケイ酸2バリウム、Al・5SiOおよびこれらの固溶体等も含まないことが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0039】
酸化物基準の質量%で表1及び表2に記載の組成となるように原料として酸化物、炭酸塩あるいは硝酸塩等の原料を混合し、これを通常の溶解装置を用いて約1450〜1550℃ の温度で溶解し攪拌均質化した後、成形、冷却しガラス成形体(原ガラス)を得た。
【0040】
得られたガラス成形体を、表1及び表2に記載の条件で熱処理し、結晶化ガラスを作製した。具体的には室温から第1の昇温速度(0.3℃/min)で核形成保温温度まで昇温後に保温、第2の昇温速度(0.004℃/min)で核成長保温温度まで昇温後に保温、その後第1の降温速度で室温まで降温した。第1の降温工程では核成長保温温度から200℃までは0.1℃/minで降温し、200℃から150℃までは表1に記載の降温速度で降温し、150℃から室温までは熱処理炉の電源を切り、熱処理炉の扉を閉めたまま、約200時間放冷した。得られた結晶化ガラスはβ−石英およびβ−石英固溶体が析出しており、この時の平均結晶粒径、結晶粒径分布、結晶化度、原ガラスのTg、0℃から50℃における平均線膨張係数α、0℃から50℃の温度範囲内でのΔL/L−温度曲線の最大値−最小値を表1及び表2に示す。
なお、平均結晶粒径、結晶粒径分布はTEMにより得られた画像から無作為に選んだ30個の結晶の最大幅を測定して算出した。平均結晶粒径はこれらの個数基準の平均値であり、結晶粒径分布は標準偏差である。また、結晶化度は以下の通り算出した。予め原ガラス粉末と目的とする析出結晶粉末(例えばβ−ユークリプタイト)を任意比で混合し、さらに標準試料となるSiOを加えた混合粉末数種のXRD測定によって、析出結晶粉末量(wt%)をx軸に、結晶積分強度/標準試料積分強度をy軸にプロットした検量線を作成した。次に本発明の結晶化ガラスおよび標準試料の混合粉末のXRD測定を行い、求められた結晶積分強度/標準試料積分強度から検量線を用いて結晶化度を算出した。
【0041】
平均線膨張係数はフィゾー干渉式精密膨張率測定装置を用いて測定した。測定試料の形状は直径6mm、長さ約80mmの円柱状である。測定方法として、この試料の両端に光学平面板を接触させ、He−Neレーザーによる干渉縞が観察できるようにし、温度コントロール可能な炉に入れる。次に測定試料の温度を変化させ、干渉縞の変化を観察することによって、温度による測定試料長さの変化量を測定する。本発明においては、0℃から50℃の温度範囲において0.5℃・min−1で昇温あるいは降温させ、5秒毎に測定試料長さの変化量をプロットし、さらに5次の近似曲線を描いたうえで、0℃から50℃における平均線膨張係数および0℃から50℃の温度範囲内でのΔL/Lの最大値−最小値を算出した。なお、平均線膨張係数およびΔL/L−温度曲線の最大値−最小値はいずれも昇温時と降温時の平均値である。
【0042】
また、図1および図2は本発明の実施例のΔL/L−温度グラフであり、図3および図4は本発明の実施例のdCTE/dT−温度グラフである。
これによればいずれの実施例も所望の平均線膨張係数α、ΔL/L−温度曲線およびdCTE/dT−温度曲線が得られており、特に実施例1及び3においては極めて平均線膨張係数が零に近いことが分かる。また実施例1及び3においては200℃から150℃までの降温速度を調整することにより、平均線膨張係数の微調整が可能であることも示している。
また、いずれの実施例も20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が0±1.0ppb・℃−2の範囲内であり、特に実施例1から4は20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が0±0.2ppb・℃−2の範囲内となっており、室温領域におけるCTEの温度依存性が非常に小さいことが分かる。



























【0043】
【表1】



















【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiO、Al及びSiOの各成分を含有するガラスを熱処理し、結晶相にβ−石英及び/又はβ−石英固溶体を含む結晶化ガラスとする結晶化ガラスの製造方法であって、前記熱処理における少なくとも一つの保温工程Nは、
温度(℃)をx軸、時間(h)をy軸として表したグラフにおいて、下記AからDの4点の座標を結んだ領域内であることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラスの製造方法。
A:(Tg+50,0.1)
B:(Tg+50,400)
C:(Tg+80,400)
D:(Tg+95,0.1)
但しTgは前記結晶化ガラスの原ガラスのガラス転移点(℃)である。
【請求項2】
前記熱処理は核形成工程と核成長工程を有し、前記核形成工程の保温温度がガラス転移点Tgに対して+10〜+50℃、前記核形成工程の保温時間が20〜100時間であることを特徴とする請求項1に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記保温工程Nは核成長工程に含まれ、前記核形成工程の保温温度よりも高い保温温度である請求項1または2に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項4】
β−石英及び/又はβ−石英固溶体を含む結晶化ガラスを
200℃から150℃へ降温する工程を少なくとも含み、
前記工程における降温の速度を0.0005℃/min〜0.1℃/minの範囲とすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記LiO、Al及びSiOの各成分を含有するガラスの組成は酸化物基準の質量%で、
SiO47〜65%、
1〜13%、
Al17〜29%、
LiO 1〜8%、
MgO 0.5〜5%、
ZnO 0.5〜5.5%、
TiO1〜7%、
ZrO1〜7%
の範囲の各成分を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記LiO、Al及びSiOの各成分を含有するガラスの組成は酸化物基準の質量%で、
NaO 0〜4%、及び/又は
O 0〜4%、及び/又は
CaO 0〜7%、及び/又は
BaO 0〜7%、及び/又は
SrO 0〜4%、及び/又は
As0〜2%、及び/又は
Sb0〜2%、
の範囲の各成分を含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記LiO、Al及びSiOの各成分を含有するガラスの組成は、質量百分率で、
SiO+Al+P=65.0〜93.0%であり、
とSiOの質量百分率の比、
とAlの質量百分率の比がそれぞれ、
/SiO=0.02〜0.200、
/Al=0.059〜0.448、
であることを特徴とする請求項5または6に記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項8】
0℃〜50℃の温度範囲における平均線膨張係数が0.0±0.2×10−7・℃−1である事を特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項9】
0℃〜50℃の温度範囲におけるΔL/Lの最大値−最小値の絶対値が10×10−7以下である請求項1から8のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項10】
20℃〜30℃におけるdCTE/dT−温度曲線の値が−1.0ppb・℃−2から+1.0ppb・℃−2の範囲であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。
【請求項11】
前記200℃から150℃へ降温処理する工程によって、当該工程を行う前の結晶化ガラスの0℃〜50℃の温度範囲における平均線膨張係数を減少させることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の結晶化ガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−73936(P2011−73936A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228355(P2009−228355)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】