説明

結晶性含フッ素アクリル酸エステル重合体、その製法、および撥水撥油剤

【課題】環境に優しい炭素数3〜7のパーフルオロアルキル基を側鎖に有する、撥水撥油性に優れた含フッ素重合体の提供。
【解決手段】80%以上の高いシンジオタクチシチィーを有する結晶性の含フッ素重合体、ならびにアニオン重合開始剤を用いる該重合体の製造方法。該重合体は、優れた撥水撥油性を有することから、紙、繊維、プラスチック等用の撥水撥油剤として広範な利用が期待し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキル基を側鎖に有する新規な立体構造を有する含フッ素重合体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般にパーフルオロアルキル基等のフルオロアルキル基を側鎖に有する含フッ素重合体は、含有するフッ素原子に由来する撥水撥油性などの性質を示し、表面改質剤やコーティング剤として広く用いられている。その中でも、含フッ素アクリレート重合体は、優れた撥水撥油性に加えて、塗膜の光沢や硬度等にも優れている。含フッ素アクリレート単量体の側鎖のフルオロアルキル基の炭素数は通常8以上のものが用いられている。
【0003】
しかしながら、最近になってテロメリゼーションによって得られる炭素数8のフルオロアルキル基を含有する化合物が、分解または代謝により perfluoro-octanoic acid(以下、「PFOA」と略す)を生成する可能性があると公表している(EPA OPPT FACT SHEET April 14, 2003(http://www.epa.-gov/opptintr/pfoa/pfoafacts.pdf))。また、EPA(米国環境保護庁)は、PFOAに対して科学的調査を強化することを発表している(EPAレポート"PRELIMINARY RISK ASSESSMENT OF THE DEVELOP-MENTAL TOXICITY ASSOCIATED WITH EXPOSURE TO PERFLUOROOCTANOIC ACID AND ITS SALTS" (http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoara.pdf) 参照)。このようにEPAは、PFOAの生体内蓄積性を問題としている。
【0004】
一方、炭素数が8より短い短鎖のパーフルオロアルキル、特に炭素数7以下のものはこの生体内蓄積性が低いと言われている。そこで、環境負荷を下げるために、短鎖のパーフルオロアルキル基を側鎖に有する含フッ素アクリレート重合体が求められている。しかしながら、短鎖のパーフルオロアルキル基で構成された含フッ素アクリレート重合体は、パーフルオロアルキル基のフッ素数の減少に伴って、結晶化度が低下し、結晶融点(Tm)を示さなくなり、充分な撥水撥油性が得られないという問題がある。
【0005】
炭素数7以下の含フッ素アクリレート重合体の撥水撥油性等の独特の性質をより高度に発現させるためには、側鎖フルオロアルキル基の配向をよくするべく、主鎖もしくは側鎖の立体構造を精密に制御する必要がある。その際、得られる撥水撥油性は、炭素数8以上のパーフルオロ側鎖を有する含フッ素アクリレート重合体程度の性能を維持することが求められる。
【0006】
安田らは、希土類金属錯体触媒を用いて、パーフルオロアルキル基を側鎖に有する含フッ素(メタ)アクリレートを重合して、主鎖の立体規則性を高めた含フッ素重合体を得ている(特開平11−255829号公報)。炭素数7以下のパーフルオロアルキル側鎖を含有する(メタ)アクリレートの場合、得られる重合体のシンジオタクチシチィーは、高々73%に過ぎず(同公報の実施例8(側鎖の炭素数が4のパーフルオロアルキル基)及び実施例10(側鎖の炭素数が1のパーフルオロアルキル基))、しかも得られる重合体のTmや撥水撥油性を裏付ける性能データは何ら開示されていない。そのため、パーフルオロアルキル側鎖の炭素数とシンジオタクチシチィーとTmと撥水撥油性との間の相関関係については、明細書中に仮説的記載はあるものの、事実上、何らの開示も示唆もない。
【0007】
一方、岡らは、アニオン重合開始剤を用い、過剰量のアルキルアルミニウムの存在下にパーフルオロアルキル基を側鎖に有する含フッ素メタアクリレートを重合して、高いシンジオタクチシチィーを有する含フッ素重合体を得ている(特開2000−026539号公報)。この中で、パーフルオロアルキル側鎖の炭素数が2の含フッ素重合体が88%という高い立体規則性をもち、且つ、低いシンジオタクチシチィーを有する含フッ素重合体に比べ、Tg(ガラス転移点)が高くなることを示している(同、実施例1)。しかしながら、撥水撥油性を裏付ける性能データは何ら開示されていない。フッ素原子数がより多く高い撥水撥油性の期待される炭素数8の含フッ素パーフルオロアルキル側鎖の場合には、シンジオタクチシチィーは低下するものの依然として高い値(83%)を示している(同、実施例2)。一方、この重合体の結晶融点(Tm)は高いものの、この重合体についての撥水撥油性を裏付ける性能データは開示されていない。即ち、パーフルオロアルキル側鎖の炭素数とシンジオタクチシチーとの相関関係は一義的に定まるものではないことを示唆していると同時に、パーフルオロアルキル側鎖の炭素数、シンジオタクチシチィー、結晶融点(Tm)、および撥水撥油性との間の相関関係については依然として不明であり、事実上、何らの開示も示唆もない。
【0008】
この様に、環境に優しい炭素数7以下のパーフルオロアルキ基を有する含フッ素重合体において、フッ素数の減少に伴う撥水撥油性の低下をできるだけ抑制し、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体同等の撥水撥油性を維持し得る重合体は未だ開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−255829号公報
【特許文献2】特開2000−026539号公報
【非特許文献1】EPA OPPT FACT SHEET April 14, 2003(http://www.epa.gov/-opptintr/pfoa/pfoafacts.pdf)
【非特許文献2】EPAレポート"PRELIMINARY RISK ASSESSMENT OF THE DEVELOPMENTAL TOXICITY ASSOCIATED WITH EXPOSURE TO PERFLUORO-OCTANOIC ACID AND ITS SALTS" (http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoara.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高いシンジオタクチシチーを有し、撥水撥油性に優れた炭素数7以下のパーフルオロアルキル基を側鎖に有する含フッ素重合体の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明が提供する重合体は、
一般式(1)
CH2=C(-X)-COO-Y-Rf (1)
(式中、Xは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表し、Yは、二価の、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基もしくは環状脂肪族炭化水素基を表し、Rfは、炭素数3〜7の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを含んでなる単量体から誘導される含フッ素重合体であって、その繰返し単位の主鎖の立体規則性が80%以上のシンジオタクチシチィーを有する結晶性の含フッ素重合体であり、優れた撥水撥油性を示す。
【0012】
本発明は、アニオン重合開始剤含有触媒を用いる上記含フッ素重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明が提供する含フッ素重合体は、環境に優しい炭素数3〜7のパーフルオロアルキル基を側鎖に有し、高いシンジオタクチシチィーを有する結晶性の含フッ素重合体であって、優れた撥水撥油性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明が提供する含フッ素重合体は、一般式(1)
CH2=C(-X)-COO-Y-Rf (1)
(式中、X、Y及びRfは上記と同義である。)で表される含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを含んでなる単量体から誘導される重合体であって、その繰返し単位の主鎖の立体規則性は80%以上、例えば、80%〜99.9%、あるいは85%〜95%、または90%〜99%という高いシンジオタクチシチィーを有し得る。
【0015】
Rfで表わされるパーフルオロアルキ基の炭素数は3〜7であってよい。ここで、工業的製造し易さからRfの炭素数は偶数が好ましい点から、Rfの炭素数は4または6が好ましい。また、Rf基を有する含フッ素重合体の撥水撥油性に対して、理論による裏付けの有無は問わずに、経験的に言って、Rfの炭素数が多いほど良好な撥水撥油性が期待される点を勘案すれば、炭素数6のRfがより好ましい。
本発明の含フッ素重合体が高いシンジオタクチシチィーを有することは、Rf炭素数が8以下に低下することに伴う撥水撥油性の低下を補償する意味で重要な特徴点である。シンジオタクチシチィーと含フッ素重合体のガラス転移点(Tg)および結晶融点(Tm)との関係は種々の因子に依存して一義的には定まらないが、同一の炭素数のRf基を有する含フッ素重合体同士で比較すれば、シンジオタクチシチィーが高いほど、TgおよびTmが高くなり得る。例えば、Tgが測定温度より十分に高い場合、含フッ素重合体の側鎖Rf基が被測定表面に整列してRf基の運動性が束縛され、その結果、動的接触角測定において後退接触角が高い値を呈し、撥水撥油性が向上し得ることが、理論的裏付けはともかく、可能性として期待し得る。事実、本発明の含フッ素重合体が良好な撥水撥油性を示すことは、後述する実施例に開示されるとおりである。その原因は、高いシンジオタクチシチィーに由来するものと推察される。
【0016】
一般式(1)におけるXは水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表し、好ましくは、水素原子、メチル基、フッ素原子、または塩素原子であってよい。
本発明の一般式(1)におけるYは、二価の、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基もしくは環状脂肪族炭化水素基を表わす。炭素数1〜10の二価の脂肪族炭化水素基を例示すれば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、2−メチルエチレン基、スチリル基、へキシレン基、オクチレン基などの鎖状または分岐状のアルキレン基が挙げられる。炭素数6〜10の二価の芳香族炭化水素基としては、1,4−フェニレン基、1,4−ビスメチレンフェニレン基、1,4−ビスエチレンフェニレン基などが挙げられる。炭素数6〜10の環状脂肪族炭化水素基としては、1,4−シクロへキシレン基、1,4−ビスメチレンシクロへキシレン基、1,4−ビスエチレンシクロへキシレン基などが挙げられる。
【0017】
本発明の一般式(1)は、好ましくは、一般式(2)
CH2=C(-X)-COO-(CH2)m-(CF2)n-F (2)
(式中、Xは上記と同義であり、mは1〜10のいずれかの整数であり、nは3〜7のいずれかの整数である。)で表される含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを含んでなる単量体であってよい。一般式(2)の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを含んでなる単量体の具体例としては、
CH2=CH-COO-CH2-(CF2)3F、
CH2=CH-COO-CH2-(CF2)4F、
CH2=CH-COO-CH2-(CF2)6F、
CH2=CH-COO-CH2-(CF2)7F、
CH2=CH-COO-(CH2)2-(CF2)3F、
CH2=CH-COO-(CH2)2-(CF2)4F、
CH2=CH-COO-(CH2)2-(CF2)6F、
CH2=CH-COO-(CH2)2-(CF2)7F、
CH2=C(CH3)-COO-CH2-(CF2)3F、
CH2=C(CH3)-COO-CH2-(CF2)4F、
CH2=C(CH3)-COO-CH2-(CF2)6F、
CH2=C(CH3)-COO-CH2-(CF2)7F、
CH2=C(CH3)-COO-(CH2)2-(CF2)4F、
CH2=C(CH3)-COO-(CH2)2-(CF2)6F、
CH2=C(CH3)-COO-(CH2)2-(CF2)7F、
CH2=C(F)-COO-CH2-(CF2)3F、
CH2=C(F)-COO-CH2-(CF2)4F、
CH2=C(F)-COO-CH2-(CF2)6F、
CH2=C(F)-COO-CH2-(CF2)7F、
CH2=C(F)-COO-(CH2)2-(CF2)3F、
CH2=C(F)-COO-(CH2)2-(CF2)4F、
CH2=C(F)-COO-(CH2)2-(CF2)6F、
CH2=C(F)-COO-(CH2)2-(CF2)7F
などが挙げられる。これらの中で、好ましくは、
CH2=CH-COO-CH2-(CF2)6F、
CH2=CH-COO-(CH2)2-(CF2)6F、
CH2=C(CH3)-COO-(CH2)2-(CF2)6F、
CH2=C(CH3)-COO-(CH2)2-(CF2)6F、
CH2=C(F)-COO-CH2-(CF2)6F
CH2=C(Cl)-COO-CH2-(CF2)6F
などが用いられる。
【0018】
本発明の含フッ素重合体は、前記一般式(1)または(2)の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルに加えて、一般式(3)
CH2=C(-R)-COO-R (3)
(式中、Rは水素原子、メチル基、Rは炭素数1〜30の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基もしくは環状脂肪族炭化水素基を表す。)で表される非フッ素(メタ)アクリル酸エステル単量体をさらに含んでなる単量体から誘導される含フッ素重合体であってもよい。一般式(3)で表される非フッ素(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸t−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニルメチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸メンチル、(メタ)アクリル酸オクタヒドロインデニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアダマンチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2−エチルフェニル、(メタ)アクリル酸インデニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどが挙げられる。
一般式(3)で表わされる非フッ素(メタ)アクリル酸エステル単量体の単量体全体に占める割合は含フッ素重合体の撥水撥油性を損なわない範囲であることが好ましく、例えば、60モル%を超えない範囲、好ましくは30モル%以下、より好ましくは15モル%以下であってよい。
【0019】
本発明の含フッ素重合体の分子量分布は、2.5以下であってよく、具体的には、2.0以下、好ましくは、1.5以下、例えば、1.3以下の分子量分布を有してよい。
【0020】
本発明の含フッ素重合体の結晶化度はシンジオタクチシチィーの増加に応じて高まることが期待し得る。撥水撥油性との関連については一義的に定まるとは云えないが、結晶性の増加に応じて撥水撥油性も向上し得る。
【0021】
本発明は、アニオン重合開始剤含有触媒の使用による含フッ素重合体の製造方法を提供する。アニオン重合開始剤としては、有機リチウム化合物、有機カリウム化合物およびグリニヤール試薬からなる群から選択された少なくとも1種の第一有機金属化合物を用いることができる。これらの内、好ましくは、有機リチウム化合物であってよい。
【0022】
本発明の触媒は、第一有機金属化合物に加えて、周期律表12族および13族に属する金属から選ばれた少なくとも1種の金属の第二有機金属化合物を含んでよい。第二有機金属化合物がとしては、有機ボロン化合物、有機アルミニウム化合物および有機亜鉛化合物から選ばれた少なくとも1つの有機金属化合物が挙げられるが、好ましくは、第二有機金属化合物は有機アルミニウム化合物であってよい。
【0023】
本発明において、第一有機金属化合物単独を触媒に用いてシンジオタクチシチィーが高いポリマーを得ることもできるが、第一有機金属化合物と第二有機金属化合物を組合せた触媒を用いることによって、より高いシンジオタクチシチィーを持った含フッ素重合体を得ることができる。
【0024】
第一および第二有機金属の有機基の嵩高さとシンジオタクチシチィーとは一定の相関関係が認められる。即ち、重合体成長末端における重合体アニオン部位と触媒の対カチオンが極近傍に存在し、触媒の対カチオンには含フッ素及び/または非フッ素(メタ)アクリレート単量体のカルボニル基が配位しつつ重合体アニオン末端へと挿入することによって重合体鎖が成長する機構を想定した場合、重合体末端の立体構造と相まって触媒の嵩高い有機基が、挿入される単量体のRf側鎖の立体配座を規制してシンジオタクチシチィーを高めるものと推定される。この際、触媒の有機基の嵩高さが高すぎると、ポリマーアニオン末端および単量体の配位が阻害されて、重合反応自体の進行が妨げられる。従って、有機基の嵩高さは、ポリマーの立体規則性と重合速度との兼ね合いの中から最適な有機基が選定され得る。本発明の触媒は、第一有機金属のみをアニオン開始剤として用いる場合であっても、あるいは第二有機金属をさらに含む場合であっても、それぞれに応じた有機基の最適な設計をすることが可能であり得る。
【0025】
本発明で用いる触媒を以下に例示する。アニオン重合開始剤としての第一有機金属化合物の例としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属を対カチオンとする公知のアニオン性開始剤を用いることができる。例えば、n-PrLi、i-PrLi、n-BuLi、sec-BuLi、t-BuLi、あるいは、t-AmLiのようなアルキルリチウム化合物、(CH3)2C(Li)COOCH3、(CH3)2C(Li)COOC2H5、(CH3)2C(Li)COO(CH2)2CH3、(CH3)2C(Li)COOCH(CH3)2 (以下、Li-i-PrIBと表す)、(CH3)2C(Li)COOC(CH3)3のようなα−リチオイソ酪酸エステル化合物、t−BuOLi、t−BuOKのような金属アルコキシド、n-Pr-MgBr、i-Pr-MgBr、n-Bu-MgBr、sec-Bu-MgBr、t-Bu-MgBr、t-Am-MgBrのようなグリニャール化合物等が挙げられる。これらの内、好ましくは、i-PrLi、Li-i-PrIB、sec-BuLi、t-BuLi、t-AmLi、i-Pr-MgBr、sec-Bu-MgBr、t-Bu-MgBrおよびt-Am-MgBrが用いられてよく、特に好ましくは、t-BuLiおよびLi-i-PrIBを用いることができる。
【0026】
本発明で用いる第二有機金属化合物としては、公知の周期律表12族および13族に属する金属を含む有機金属化合物を挙げることができる。例えば、(Et)3B、(n-Pr)3B、(i-Pr)3B、(n-Bu)3B、(sec-Bu)3B、(t-Bu)3B、(n-Am)3B、(sec-Am)3B、(t-Am)3Bのような有機ボロン化合物、(Me)3Al、(Et)3Al、(n-Pr)3Al、(i-Pr)3Al、(n-Bu)3Al、(sec-Bu)3Al、(t-Bu)3Al、(n-Am)3Al、(sec-Am)3Al、(t-Am)3Al、MeAl(ODBP)2(あるいは、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)メチルアルミニウム)、EtAl(ODBP)2(あるいは、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)エチルアルミニウム)のような有機アルミニウム化合物、(Et)2Zn、(n-Pr)2Zn、(i-Pr)2Zn、(n-Bu)2Zn、(sec-Bu)2Zn、(t-Bu)2Zn、(n-Am)2Zn、(sec-Am)2Zn、(t-Am)2Znのような有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0027】
第二有機金属化合物の有機基の嵩高さがシンジオタクチシチィーに及ぼす影響は、第一有機金属化合物の有機基の嵩高さとのバランスとして発現するものと推定される。即ち、第一有機金属化合物の有機基が嵩高い場合には、第二有機金属化合物の有機基の嵩高さは余り高くない方がよく、第一有機金属化合物の有機基が余り嵩高くない場合には、第二有機金属化合物の有機基は嵩高い方がシンジオタクチシチィーは高くなると推定される。また、重合速度への影響をも勘案して、本発明における好ましい組合せを適宜選択することができる。例えば、Li-i-PrIBと(n-Bu)3Alからなる触媒、並びにt-BuLiと(n-Bu)3Alからなる触媒が好ましい組合せとして例示し得る。
【0028】
本発明の重合反応が所謂アニオンリビング重合に属することを勘案すれば、本発明で使用する触媒量は得られる重合体の分子量を一義的に左右する。即ち、理想的なリビング重合であれば、1当量の重合開始剤分子(第一有機金属化合物)から1本の重合体鎖が生長するため、重合開始剤量(または触媒当量)と原料単量体量(モル数)から、得られる分子量の大きさは一義的に定まる。本発明の実施に当たっては、連鎖移動反応等の副反応のために、理想的なリビング重合状態からは外れることがあり得るから、得られる分子量は必ずしも上記の様に一義的に定まるものではないが、大略、触媒量は得られる重合体の分子量とは反比例的になる。従って、所望の含フッ素重合体の分子量に応じて、用いる重合開始剤の量は適宜選択することができる。
【0029】
重合法は一括仕込み法でも分割仕込み法でも連続仕込み法でもよく、特に2種以上の単量体を共重合する場合、いずれか1種以上の単量体を分割または連続して仕込み、重合することにより、均質な組成のブロック共重合体が得られる点で好ましい。
【0030】
本発明の含フッ素重合体の分子量は、数平均分子量(Mn)で2,000〜1,000,000、好ましくは10,000〜500,000、さらに好ましくは、15,000〜300,000である。数平均分子量は、H−NMR測定により、開始末端由来のシグナル強度と、ポリマー主鎖または側鎖に由来のシグナル強度から、重合体中の単量体単位と末端基の比率を計算して求めた。
【0031】
第一有機金属化合物と第二有機金属化合物を触媒として用いる場合の、第二有機金属化合物の使用モル比は、アニオン重合開始剤(第一有機金属化合物)1モルに対して2モル以上、好ましくは3〜10モルのモル比としてよい。具体例を挙げるならば、例えばLi-iPrIBが1モルに対して(n-Bu)3Alが2モル以上、好ましくは3〜5モルであってよい。
【0032】
重合反応は、単量体および得られる重合体が溶解し、かつ低い重合反応温度においても凍結しない溶媒が好ましく、例えば、含フッ素溶媒単独またはこれと非フッ素系溶媒との混合溶媒を用いてよい。含フッ素溶媒を含んでいないと重合反応が進まないかまたは目的とするシンジオタクチシチィーが得られないことがある。好ましい含フッ素溶媒としては、例えば、CFC-316(C4Cl4F6)、CFC-519(C6Cl5F9)、HFC−134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン)、HCFC-225(C3HCl2F5)等の含フッ素脂肪族類化合物、パーフルオロベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(m−XHF)等の含フッ素芳香族類化合物、パーフルオロブチルメチルエーテル、パーフルオロブチルエチルエーテル等の含フッ素エーテル類化合物が挙げられる。含フッ素溶媒に混合される非フッ素溶媒としては、トルエン、キシレンの芳香族類化合物、ジエチルエーテル、ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等の炭化水素系エーテル類化合物、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等の含塩素脂肪族類化合物が挙げられる。シンジオタクチシチィーを挙げる観点からは、m−XHF単独溶媒、またはm−XHFと、トルエンまたは塩化メチレンとの混合溶媒が好ましい。
【0033】
重合反応温度は通常、0℃以下、例えば、−80℃〜−30℃、より好ましくは、−80℃〜−35℃の範囲で、溶媒が凍結しない温度であってよい。
【0034】
本発明のアニオン重合機構は、所謂、立体特異的リビングアニオン重合と言える。リビングアニオン重合とは、開始剤アニオンに単量体が挿入を繰り返して生じたポリマー末端アニオンが、重合反応中に単量体や溶媒への連鎖移動を実質的にすることなく“活きた(リビング)”状態にあり、重合停止剤の添加によって初めてポリマーアニオンが“死ぬ”重合機構を云う。この機構が完全に働けば、得られるポリマーの分子量分布は理論上、1である。実際には幾つかの連鎖移動が副生し、本発明で得られるポリマーの分子量分布は、前述の通り2.5以下であってよく、具体的には、2.0以下、好ましくは、1.5以下、例えば、1.3以下の分子量分布を有してよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下において、部または%は、特記しない限り、重量部または重量%を表わす。
【0036】
含フッ素重合体の分析および撥水撥油性の測定は以下のようにして行った。
【0037】
「数平均分子量」
含フッ素重合体の数平均分子量(Mn)の測定は、500MHzのH−NMR(Varian Unity INOVA500)にて、C/C=95/5の混合溶媒(内部標準のテトラメチルシラン含有)中で、70℃で行った。重合開始剤のi−Pr基のメチン基の4.2ppm付近、またはt−Bu基のメチル基由来の0.9ppm付近のシグナル強度、ならびに主鎖CH2基由来の1.7〜2.6ppm付近のシグナル強度、または側鎖に存在するエステルCH基に由来する2.7〜2.9ppm付近のシグナル強度から、重合体中の単量体単位と末端基の比率を計算して求めた。
【0038】
「分子量分布」
含フッ素重合体の分子量分布は、HCFC225と1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ−2-プロパノールを90対10で混合したものを溶媒とし、カラムとしてTOSOH TSKguardcolumn HXL−L(6.0mmI.D.×4cm)、TOSOH TSKgel G4000HXL(7.8mmI.D.×30cm)、TOSOH TSKgel G3000HXL(7.8mmI.D.×30cm)、TOSOH TSKgel G2000HXL(7.8mmI.D.×30cm)を直列に配管したものを用いて、30℃でGPC分析により測定した。数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定し、Mw/Mnの比から分子量分布を算出した。クロマトグラムは、標準PMMA(ポリメチルメタアクリレート)のサンプルを用いて較正した。
【0039】
「立体規則性」
ポリメタアクリレートの立体規則性の分析法は、Nishioka (J. Polym. Sci., 45, 232 (1960)、およびBovey (J. Polym. Sci., 44, 173 (1960) によって確立されているので、含フッ素重合体の立体規則性は、その方法に従った。即ち、H−NMRにおいて、1ppm付近に現れるα−メチル基のプロトンに基づく3本の吸収を利用し、低磁場から順にアイソ、ヘテロ、シンジオとして三連子タクチシチィー分率を求めた(mm:アイソタクチックトリアド、mr:ヘテロタクチックトリアド、rr:シンジオタクチックトリアド)。
【0040】
「熱的特性」
含フッ素重合体のガラス転移温度(Tg)および結晶融点(Tm)は、熱分析計DSC(SEIKO-RDC220)にて、−50〜150℃の温度範囲で昇温スピード10℃/分で測定した。
【0041】
「静的接触角」
含フッ素重合体の撥水撥油性の評価の1つである静的接触角は以下の様にして測定した。撥水性は水滴(表面張力γi=72mN/m)の静的接触角、撥油性はn−ヘキサデカン液滴(表面張力γi=27mN/m)の静的接触角をそれぞれ測定して求めた。即ち、含フッ素重合体をHCFC−225あるいはアセトン溶媒中の1wt%溶液とし、スピンコート法(2000rpm)でガラス基板に塗布後、110℃で3分間熱処理して製膜した。次に、協和界面科学(株)製の接触角計(商品名「CA−VP」)で接触角を測定した。測定はJISR3257に準じ、温度15〜20℃、相対湿度50〜70%である。角度の大きい方が、撥水撥油性が高い。
【0042】
「動的的接触角・転落角の分析」
含フッ素重合体の撥水撥油性評価の1つである動的接触角および転落角を以下の様にして測定した。撥水性は水滴(表面張力γi=72mN/m)の動的接触角および転落角を測定し、撥油性はn−ヘキサデカン液滴(表面張力γi=27mN/m)の動的接触角および転落角をそれぞれ測定して求めた。動的接触角の指標としては、前進接触角:θa(deg)、後退接触角:θr(deg),ヒステリシス、および、転落角:α(deg)を測定して評価した。即ち、含フッ素重合体を上記と同様にHCFC−225溶媒中の1wt%溶液とし、スピンコートおよび熱処理して製膜し、上記と同様に協和界面科学(株)製の接触角計(商品名「CA−VP」)を用い、JISR3257に準じて測定した。接触角の大きい方が撥水撥油性は高く、その中でも、ヒステリシスの小さい方が、並びに転落角の小さい方が、撥水撥油性に優れている。
【0043】
開始剤合成例:α−リチオイソ酪酸エステルの合成
Lochmann L.らの文献(J. Organomet. Chem. 1973, 50, 9.)に従い合成を行った。ジイソプロピルアミン2.80mL(20ミリモル)にn-ブチルリチウムを20ミリモル含むヘキサン溶液を乾燥窒素下0℃で加え、1.5時間、0℃に保った。これにイソ酪酸イソプロピル25.6mL(20ミリモル)を室温で加えて、 1 時間保った後、減圧濃縮をおこなった。ヘプタンで再結晶を行い、対応するリチウムエノレート(Li-i-PrIB)の白色結晶を2.3g(収率85%)得た。
【0044】
実施例1
トリブチルアルミニウム[(n−Bu)Al]119mg(0.6ミリモル)を含むトルエン溶液、リチウムエノレート(Li-i-PrIB)を0.2ミリモル含むベンゼン溶液、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(m−XHF)10mLをガラスアンプルに入れ、窒素下で−40℃に保った。次いで、含フッ素単量体2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタアクリレート CH2=C(CH3)-COO-(CH2)2-(CF2)6F(以下「C6-SFMA」と略す。)を4.32g(10ミリモル)添加して密封し、−40℃に24時間保って重合反応を行った。反応終了後に少量の塩酸酸性メタノールを添加して重合反応を停止し、反応液を大量のメタノール中に投入して重合体を沈殿させた。得られた沈殿を濾取、洗浄後、真空乾燥して本発明の含フッ素重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0045】
実施例2
(n−Bu)Al 357mg(1.8ミリモル)を含むトルエン溶液を用いること、m−XHF30mLを用いること、含フッ素単量体を13.0g(30ミリモル)用いること、および36時間反応させること以外は、実施例1と同じ手順を繰り返し、本発明の含フッ素重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0046】
実施例3
Li-i-PrIBに代えてt−ブチルリチウム(t−BuLi)を12.8mg(0.2ミリモル)用いること以外は、実施例1と同じ手順を繰り返し、本発明の含フッ素重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0047】
比較例1(アニオン重合による「C8-SFMA」単量体からの含フッ素重合体)
Li-i-PrIBに代えてt−BuLiを12.8mg(0.2ミリモル)用いること、(n−Bu)Alに代えてビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)エチルアルミニウムを466.7mg(1.0ミリモル)用いること、および含フッ素単量体C6−SFMAに代えて、含フッ素単量体2−(パーフルオロオクチル)エチルメタアクリレート CH2=C(CH3)-COO-(CH2)2-(CF2)8F(以下「C8-SFMA」と略す。)を5.32g(10ミリモル)を用いること以外は、実施例1と同じ手順を繰り返し、含フッ素重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0048】
比較例2(ラジカル重合による「C6-SFMA」単量体からの含フッ素重合体)
Li-i-PrIBに代えてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を32.8mg(0.2ミリモル)を用いること、および重合温度を60℃とすること以外は実施例1と同じ手順を繰り返し、含フッ素重合体を得た。得られた重合結果、および生成物の分析結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

(表中、含フッ素単量体;CH=C(CH)COO−(CH−(CF−F、n=6:C6−SFMA、n=8:C8−SFMA。 rr;シンジオタクチックトリアド。n. d.: 観測されず。)
【0050】
表1から、本発明になる含フッ素重合体は、C8-SFMA単量体との比較において、およびC6-SFMA単量体同士でもラジカル重合で得られた重合体との比較において、高いシンジオタクチシチィーを有し、且つ、明確なTgおよびTmを共に有していることから、結晶性が高いことを示している。
【0051】
実施例4
(n−Bu)Alに代えてビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)エチルアルミニウムを280mg(0.6ミリモル)用いること、含フッ素単量体C6−SFMAに代えて、含フッ素単量体2−(パーフルオロブチル)エチルメタアクリレート CH2=C(CH3)-COO-(CH2)2-(CF2)4F(以下「C4-SFMA」と略す。)を3.32g(10ミリモル)用いること、m−XHF10mLに代えて、m−XHF7mLとトルエン3mLの混合溶媒を用いること、重合温度を−60℃とすること、および48時間反応させること以外は実施例1と同じ手順を繰り返し、含フッ素重合体を3.30g(収率99%)で得た。得られた含フッ素重合体のMn(H−NMR測定値)は18500、Mw/Mn(GPC測定値)は1.08、シンジオタクチックトリアド(rr)は84%であった。
【0052】
結晶性の測定「X線回折」
実施例2および比較例2で得られた含フッ素重合体の粉末X線回折パターンを、理学電機(株)製RAD−rA型を用いて、40kV、50mAで単色CuKα線源による反射法にて測定した。得られた結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

n. d.: 観測されず。
【0054】
表2から、比較例2で得られた低いシンジオタクチシチィーを有する含フッ素重合体では、2θ=17deg付近に分子内のパーフルオロアルキル基間のパッキングに帰属される回析線のみが観測されたのに比べて、本発明の高いシンジオタクチシチィーを有する含フッ素重合体では、2θ=3deg付近と7deg付近にラメラ構造に帰属される回析線も観測され、本発明の含フッ素重合体の結晶性が高いことを示している。
【0055】
含フッ素重合体の光学特性
実施例2で得られた含フッ素重合体をm−XHFに溶解させ、10%溶液を調製した。その後、溶液をシャーレにてキャストし、200μmの膜厚のフィルムを作成し、透過率とヘイズを測定した。別途、スピンコーターにて、シリコンウェハー上に各溶液をスピンコート製膜法により、約200nm程度の膜を作製し、屈折率を測定した。
【0056】
「透過率」
分光光度計(株式会社 日立製作所製 Spectrophotometer U−4100)を用い、透過率を波長650nm、550nmおよび400nmについて測定したところ、いずれも92%であった。
「ヘイズ」
ヘイズメーター(東洋精機社製 ヘイズガードII)を用いてASTM D1003に従い測定したところ、0.44%であった。
「屈折率」
ジェイエーウーラムジャパン社製の分光エリプソメーターM-2000Dを用いて屈折率を測定したところ、1.369であった。
【0057】
実施例5
実施例2で得られた含フッ素重合体をHCFC−225溶媒中の1wt%溶液とし、スピンコート法(2000rpm)でガラス基板に塗布後、110℃で3分間熱処理して製膜した。この塗膜の静的接触角を測定した結果を表2に示す。
【0058】
比較例3
比較例1で得られた含フッ素重合体を用いて実施例4と同様にして静的接触角を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表3から、比較例1で得られたC8−SFMA単量体からの含フッ素重合体に比べて、本発明のC6−SFMA単量体からの含フッ素重合体は対水および対ヘキサデカン共に大きな接触角を示しており、撥水撥油性に優れることが判る。
【0061】
実施例6
実施例2で得られた含フッ素重合体をHCFC−225溶媒中の1wt%溶液とし、スピンコート法(2000rpm)でガラス基板に塗布後、110℃で3分間熱処理して製膜した。この塗膜の対水動的接触角を測定した結果を表4に示す。
【0062】
比較例4
比較例1で得られた含フッ素重合体を用いて実施例5と同様にして対水動的接触角を測定した。得られた結果を表4に示す。
【0063】
【表4】

ヒステリシス:前進接触角と後退接触角の差
【0064】
表4から、比較例1で得られたC8−SFMA単量体からの含フッ素重合体に比べて、本発明のC6−SFMA単量体からの含フッ素重合体は、前進接触角が減少し、その結果ヒステリシス(Δθ)が減少している。水に対するヒステリシスが小さいことは、水に対する環境応答性が小さいことを示しており、本発明のC6−SFMA単量体からの含フッ素重合体の動的撥水性が優れていることが判る。
【0065】
実施例7
実施例2で得られた含フッ素重合体をHCFC−225溶媒中の1wt%溶液とし、スピンコート法(2000rpm)でガラス基板に塗布後、110℃で3分間熱処理して製膜した。この塗膜の対ヘキサデカン動的接触角を測定した結果を表5に示す。
【0066】
比較例5
比較例2で得られた含フッ素重合体を用いて実施例6と同様にして対ヘキサデカン動的接触角を測定した。得られた結果を表5に示す。
【0067】
【表5】

ヒステリシス:前進接触角と後退接触角の差
【0068】
表5から、比較例2で得られた低いシンジオタクチシチィーを有する含フッ素重合体に比べて、本発明の高いシンジオタクチシチィーを有する含フッ素重合体は、後退接触角が増大し、その結果ヒステリシス(Δθ)が減少している。ヘキサデカンに対するヒステリシスが小さいことは、油に対する環境応答性が小さいことを示しており、本発明の含フッ素重合体の動的撥油性が優れていることが判る。
【0069】
実施例8(含フッ素アクリル酸エステル共重合体の合成)
ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)エチルアルミニウム280mg(0.6ミリモルを含むトルエン溶液、Li-i-PrIBを0.2ミリモル含むベンゼン溶液、m−XHF 10mLをガラスアンプルに入れ、窒素下で−40℃に保った。次いで、メタクリル酸メチルを1.00g(10ミリモル)添加して密封し、−40℃に1時間保った。次いで、含フッ素単量体C6-SFMAを4.32g(10ミリモル)添加して再び密封し、−40℃に24時間保って重合反応を行った。反応終了後に少量の塩酸酸性メタノールを添加して重合反応を停止し、反応液を大量のメタノール中に投入して重合体を沈殿させた。得られた沈殿を濾取、洗浄後、真空乾燥して本発明の含フッ素共重合体を得た。収量は5.19g、得られた含フッ素共重合体中のメタクリル酸メチル単位とC6-SFMA単位の組成はそれぞれ51モル%と49モル%(1H-NMR測定値)で、共重合体のMn(1H-NMR測定値)は50300、Mw/Mn (GPC測定値)は1.37、MMA単位とC6-SFMA単位のシンジオタクチックトリアド(rr)は、それぞれ82%と85%で、Tgは40℃と120℃に観測され、Tmは60℃であった。
【0070】
実施例9
実施例8で得られた含フッ素共重合体をアセトン溶媒中の1wt%溶液とし、スピンコート法(2000rpm)でガラス基板に塗布後、110℃で3分間熱処理して製膜した。この塗膜の静的接触角を測定した結果を表6に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
実施例10および11
実施例8で得られた含フッ素共重合体をアセトン溶媒中の1wt%溶液とし、スピンコート法(2000rpm)でガラス基板に塗布後、110℃で3分間熱処理して製膜した。この塗膜の対水動的接触角を測定した結果を表7に、対ヘキサデカン動的接触角を測定した結果を表8にそれぞれ示す。
【0073】
【表7】

ヒステリシス:前進接触角と後退接触角の差
【0074】
【表8】

ヒステリシス:前進接触角と後退接触角の差
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明が提供する含フッ素重合体は、環境に優しい炭素数3〜7のパーフルオロアルキル基を側鎖に有し、高いシンジオタクチシチィーを有する結晶性の含フッ素重合体であって優れた撥水撥油性を有することから、紙、繊維、プラスチック等用の撥水撥油剤として広範な利用が期待し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
CH2=C(-X)-COO-Y-Rf (1)
(式中、Xは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表し、Yは、二価の、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基もしくは環状脂肪族炭化水素基を表し、Rfは、炭素数3〜7の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを含んでなる単量体から誘導される含フッ素重合体であって、その繰返し単位の主鎖の立体規則性が80%以上のシンジオタクチシチィーを有する結晶性の含フッ素重合体。
【請求項2】
一般式(1)の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルが、一般式(2)
CH2=C(-X)-COO-(CH2)m-(CF2)n-F (2)
(式中、Xは水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表し、mは1〜10のいずれかの整数であり、nは3〜7のいずれかの整数である。)で表される含フッ素(メタ)アクリル酸エステルである、請求項1に記載された含フッ素重合体。
【請求項3】
一般式(1)または(2)の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルに加えて、一般式(3)
CH2=C(-R)-COO-R (3)
(式中、Rは水素原子、メチル基を表し、Rは炭素数1〜30の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基もしくは環状脂肪族炭化水素基を表す。)で表される非フッ素(メタ)アクリル酸エステル単量体をさらに含んでなる単量体から誘導される、請求項1または2に記載された含フッ素重合体。
【請求項4】
分子量分布が2.5以下である、請求項1〜3のいずれか1つに記載された含フッ素重合体。
【請求項5】
アニオン重合開始剤含有触媒を用いる、請求項1〜4のいずれか1つに記載された含フッ素重合体の製造方法。
【請求項6】
アニオン重合開始剤が、有機リチウム化合物、有機カリウム化合物およびグリニヤール試薬からなる群から選択された少なくとも1種の第一有機金属化合物である、請求項5に記載された製造方法。
【請求項7】
第一有機金属化合物が有機リチウム化合物である、請求項6に記載された製造方法。
【請求項8】
触媒が、第一有機金属化合物に加えて、周期律表12族および13族に属する金属から選ばれた少なくとも1種の金属の第二有機金属化合物を含んでなる、請求項5〜7のいずれか1つに記載された製造方法。
【請求項9】
第二有機金属化合物が有機ボロン化合物、有機アルミニウム化合物および有機亜鉛化合物から選ばれた少なくとも1つの有機金属化合物である、請求項8に記載された製造方法。
【請求項10】
第二有機金属化合物が有機アルミニウム化合物である、請求項8または9に記載された製造方法。

【公開番号】特開2011−225837(P2011−225837A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69312(P2011−69312)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】