説明

結晶配向セラミックスの製造方法

【課題】緻密性に優れ、高配向な結晶配向セラミックスの製造方法を提供すること。
【解決手段】準備工程、混合工程、成形工程、及び焼成工程を行うことにより、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、その結晶粒の特定の結晶面Aが配向する結晶配向セラミックスを製造する方法である。準備工程においては、異方形状の第1配向粒子からなる第1異方形状粉末2と、その1/3以下の粒径を有する微細粉末3として、焼成温度よりも高い融点の第1微細粉末31と焼成温度よりも低い融点の第2微細粉末32とを準備する。混合工程においては、微細粉末3と第1異方形状粉末2とを混合する。成形工程においては、原料混合物を成形して成形体を作製する。焼成工程においては、成形体を加熱し、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなる結晶配向セラミックスを作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各結晶粒の特定の結晶面が配向してなる結晶配向セラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスからなる多結晶体は、例えば、温度、熱、ガス、及びイオン等の各種センサ、或いはコンデンサ、抵抗体、及び集積回路用基板等の電子回路部品、或いは光学的又は磁気的記録素子等に利用されている。特に、圧電効果を有するセラミックス(以下、圧電セラミックスという)からなる多結晶体は、高性能で、形状の自由度が大きく、材料設計が比較的容易なため、広くエレクトロニクスやメカトロニクスの分野で応用されている。
【0003】
圧電セラミックスは、強誘電体セラミックスに電界を印加し、強誘電体の分域の方向を一定の方向にそろえる、いわゆる分極処理を施したものである。圧電セラミックスにおいて、分極処理により自発分極を一定方向にそろえるためには、自発分極の方向が三次元的に取りうる等方性ペロブスカイト型の結晶構造が有利である。そのため、実用化されている圧電セラミックスの大部分は、等方性ペロブスカイト型強誘電体セラミックスである。
【0004】
等方性ペロブスカイト型強誘電体セラミックスとしては、例えば、Pb(Zr・Ti)O3(以下、これを「PZT」という。)、PZTに鉛系複合ペロブスカイトが第三成分として添加されたPZT3成分系、BaTiO3、Bi0.5Na0.5TiO3(以下、これを「BNT」という。)等が知られている。
【0005】
これらの中で、PZTに代表される鉛系の圧電セラミックスは、他の圧電セラミックスに比較して高い圧電特性を有しており、現在実用化されている圧電セラミックスの大部分を占めている。しかしながら、蒸気圧の高い酸化鉛(PbO)を含んでいるために、環境に対する負荷が大きいという問題がある。そのため、低鉛あるいは無鉛でPZTと同等の圧電特性を有する圧電セラミックスが求められている。
【0006】
一方、BaTiOセラミックスは、鉛を含まない圧電材料の中では比較的高い圧電特性を有しており、ソナーなどに利用されている。また、BaTiO3と他の非鉛系ペロブスカイト化合物(例えば、BNTなど)との固溶体の中にも、比較的高い圧電特性を示すものがある。しかしながら、これらの無鉛圧電セラミックスは、PZTに比して、圧電特性が低いという問題があった。
【0007】
このような問題を解決するために、従来から様々な圧電セラミックスが提案されてきた。
例えば、非鉛系の中でも相対的に高い圧電特性を示す等方性ペロブスカイト型ニオブ酸カリウムナトリウムや、その固溶体からなる圧電セラミックスがある(特許文献1〜6参照)。
しかし、これらの無鉛圧電セラミックスは、PZT系の圧電セラミックスに比べてまだ充分な圧電特性を発揮できないという問題があった。
【0008】
このような背景の中、形状異方性を有し、自発分極が1つの平面内に優先配向するセラミック結晶粒を含む圧電セラミックスを有する圧電素子が開示されている(特許文献7参照)。
一般に、等方性ペロブスカイト型化合物の圧電特性などは、結晶軸の方向によって異なることが知られている。そのために、圧電特性などの高い結晶軸を一定の方向に配向させることができれば、圧電特性の異方性を最大限に活用することができ、圧電セラミックスの高性能化が期待できる。
等方性ペロブスカイト型化合物からなる各結晶粒の特定の結晶面が配向した結晶配向セラミックスは、図5〜図8に示すごとく、例えば次のようにして作製することができる。
即ち、まず、図5に示すごとく、所定の組成を有する異方形状の板状粉末91を反応性テンプレートとして準備する。また、焼成時にこの板状粉末91と反応して等方性ペロブスカイト型化合物を生成する原料粉末92を準備する。次いで、この板状粉末91及び原料粉末92に、溶媒、バインダー、可塑剤、及び分散材等を加えて混合し、スラリー94を作製する。このスラリー94においては、溶媒、バインダー、可塑剤、及び分散材等からなる分散媒93中に板状粉末91及び原料粉末92が分散されている。
次に、図6に示すごとく、スラリー94を例えばシート状に成形して成形体95を作製する。このとき、同図に示すごとく、成形時に加わるせん断応力により、異方形状の板状粉末91を成形体95内で一定の方向に整列させることができる。
次いで、成形体95を加熱して焼結させる。このとき、図7に示すごとく、焼結中の成形体96内では、上記板状粉末91が反応性テンプレートとなって周囲の上記原料粉末92と反応して上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成しながら板状粉末91が成長する。さらに、焼結を進行させると、図8に示すごとく、板状粉末91が原料粉末92と反応しながらさらに成長し、特定の結晶面が配向した結晶粒子(配向粒子)97からなる結晶配向セラミックス9を得ることができる。
【0009】
しかしながら、上記のごとく、板状粉末と原料粉末とを焼結させて多結晶体からなるセラミックスからなる多結晶体(結晶配向セラミックス)を作製する場合においては、結晶配向セラミックスを充分に緻密化させることができず、その結果、結晶配向セラミックスの配向度を充分に高めることができないという問題があった。
即ち、一般に、セラミックスの焼結においては、原料に用いられる粉末粒子の粒径が小さいほど比表面積が大きくなり、焼結しやすくなる。また、原料粉末の粒径の均一性が高いほど、焼結性が向上し、緻密化し易い傾向がある。図9に示すごとく、粒径の異なる板状粉末91と原料粉末92とを焼結させると、両者の間で焼結速度が異なるため、組織の不均質化が起こる。すなわち、上記結晶配向セラミクスの製造方法においては、上記板状粉末91を反応性テンプレートとし、これを上記原料粉末92と反応させることによって、上記板状粉末91を成長させているため、成長した板状粉末91の周囲には空隙(ボイド)99が形成されやすい。周囲にボイド99が形成されてしまうと、その板状粉末91は、原料粉末92と反応することができなくなる。その結果、多数の原料粉末92が反応できずに焼結後に残存してしまう(図8参照)。そのため、結晶配向セラミックスを充分に緻密化させることができず、配向度を充分に高めることができなくなるという問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開2000−313664号公報
【特許文献2】特開2003−300776号公報
【特許文献3】特開2003−306479号公報
【特許文献4】特開2003−327472号公報
【特許文献5】特開2003−342069号公報
【特許文献6】特開2003−342071号公報
【特許文献7】特開2004−7406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、緻密性に優れ、高配向な結晶配向セラミックスの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一般式(1):ABO3(Aサイトは、K+Na又はLi+Na+Kを主成分とし、Bサイトは、Nb、Nb+Ta、Nb+Sb、又はNb+Ta+Sbを主成分とし、Oは酸素)で表される等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する結晶粒の特定の結晶面Aが配向する結晶配向セラミックスの製造方法であって、
ペロブスカイト型化合物よりなり、上記特定の結晶面Aと格子整合性を有する結晶面が配向して配向面を形成している異方形状の第1配向粒子からなる第1異方形状粉末と、該第1異方形状粉末の1/3以下の粒径を有し、上記第1異方形状粉末と共に焼結させることにより上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成する微細粉末とを準備する準備工程と、
該微細粉末と上記第1異方形状粉末とを混合して原料混合物を作製する混合工程と、
上記第1異方形状粉末の上記配向面が略同一の方向に配向するように、上記原料混合物を成形して成形体を作製する成形工程と、
上記成形体を加熱し、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末とを焼結させて、上記等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなる上記結晶配向セラミックスを作製する焼成工程とを有しており、
上記微細粉末としては、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物のAサイトのK源となる物質を含有し、かつ融点が上記焼成工程における焼成温度よりも高い第1微細粉末と、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物のAサイトのK源となる物質を含有し、かつ融点が上記焼成工程における焼成温度よりも低い第2微細粉末とを用い、
上記混合工程においては、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物におけるAサイト元素のKのうちの1at%〜15at%が上記第2微細粉末から供給されるように、上記第1異方形状粉末と上記第1微細粉末と上記第2微細粉末との混合を行うことを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法にある(請求項1)。
【0013】
本発明の製造方法においては、上記準備工程と、上記混合工程と、上記成形工程と、上記焼成工程とを行うことにより、上記結晶配向セラミックスを作製する。
上記準備工程においては、異方形状の上記第1配向粒子からなる上記第1異方形状粉末と、上記微細粉末とを準備する。上記第1配向粒子は、ペロブスカイト型化合物よりなり、上記特定の結晶面Aと格子整合性を有する結晶面が配向して配向面を形成している。上記微細粉末は、上記第1異方形状粉末の1/3以下の粒径を有し、上記第1異方形状粉末と共に焼結させることにより上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成する。また、本発明においては、上記微細粉末として、融点が上記焼成工程における焼成温度よりも高い第1微細粉末と、融点が上記焼成工程における焼成温度よりも低い第2微細粉末とを用いる。上記第1微細粉末及び上記第2微細粉末は、いずれもが上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物のAサイトのK源となる物質を含有する。
【0014】
また、上記混合工程においては、上記微細粉末(上記第1微細粉末及び上記第2微細粉末)と上記第1異方形状粉末とを混合して原料混合物を作製する。このとき、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物におけるAサイト元素のKのうちの1at%〜15at%が上記第2微細粉末から供給されるように、上記第1異方形状粉末と上記第1微細粉末と上記第2微細粉末との混合を行う。
そして、上記成形工程においては、上記第1異方形状粉末の上記配向面が略同一の方向に配向するように、上記原料混合物を成形する。即ち、例えば異方形状の第1配向粒子からなる上記第1異方形状粉末に対して一方向から力が作用するように、上記原料混合物を成形することにより、上記第1異方形状粉末に作用する剪断応力等によって上記第1異方形状粉末を上記成形体中で配向させることができる。上記第1異方形状粉末を構成する上記第1配向粒子は、その特定の結晶面(配向面)が配向しているため、異方形状の上記第1異方形状粉末を一定の方向に配向させることにより、上記第1配向粒子の上記配向面を略同一方向に配向させることができる。
【0015】
また、上記焼成工程においては、上記成形体を加熱し、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末とを焼結させる。このように、上記第1異方形状粉末が配向する上記成形体を焼結させると、上記異方形状粉末の配向方位を継承した等方性ペロブスカイト型化合物からなる結晶粒を生成させることができる。その結果、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する結晶粒の特定の結晶面Aが配向する上記結晶配向セラミックスを製造することができる。
また、上記第1配向粒子の上記配向面は、製造しようとする上記多結晶体を構成する上記結晶粒の上記特定の結晶面Aとの間に格子整合性を有している。そのため、上記焼成工程においては、上記第1異方形状粉末がテンプレート又は反応性テンプレートとして機能し、上記第1配向粒子の上記配向面が、焼結後に生成する上記等方性ペロブスカイト型化合物の上記特定の結晶面Aとして承継される。それ故、上記のごとく、特定の結晶面Aが一方向に配向した状態で、等方性ペロブスカイト型化合物を生成することができる。また、上記焼成工程においては、上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成すると共に、焼結させて上記多結晶体を製造することができる。このようにして、上記結晶配向セラミックスを得ることができる。
【0016】
また、本発明においては、上記微細粉末として、融点が上記焼成工程における焼成温度よりも高い上記第1微細粉末と、融点が上記焼成工程における焼成温度よりも低い上記第2微細粉末とを用いている。
そのため、上記焼成工程において、上記第2微細粉末は、焼結時に液相を形成することができる。それ故、微細粉末と第1異方形状粉末との焼結性の差によって、上記焼成工程において上記第1異方形状粉末の周囲にボイドが形成されたとしても、融点の低い上記第2微細粉末(液相形成物質)が液化し、その毛管凝縮力によってボイドを小さくすることができる。そのため、焼結時に、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末との間に空隙が生じてそれぞれの材料が孤立してしまうことを抑制し、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末とを充分に焼結反応させることができ、最終的に得られる上記結晶配向セラミックス中に上記微細粉末が残存することを抑制することができる。その結果、緻密性に優れ、非常に配向度の高い結晶配向セラミックスを得ることができる。
【0017】
また、上記第2微細粒子(液相形成物質)は、上記第1微細粒子と同様に、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物のAサイトのK源となる物質を含有し、さらに上記第2微細粒子は、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物におけるAサイト元素のKのうちの1at%〜15at%が上記第2微細粉末から供給されるように配合されている。
そのため、上記結晶配向セラミックスの緻密性及び配向度を向上させることができると共に、目的組成の上記等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする上記結晶配向セラミックスを容易に得ることができる。1at%未満の場合には、焼結時に発生する液相の量が少なすぎて、上記結晶配向セラミックスの緻密性及び配向度を充分に向上させることができなくなるおそれがある。一方、15at%を超える場合には、上記焼成工程において、焼結中に液相が多量に発生し、液相化した上記第2微細粉末の揮発量が多くなるおそれがある。その結果、原料配合時の目的組成に対する焼成後に得られる結晶配向セラミックス組成のずれが大きくなり、所望の組成の結晶配向セラミックスを得ることが困難になるおそれがある。より好ましくは3at%〜15at%がよく、さらに好ましくは3at%〜10at%、さらにより好ましくは5at%〜10at%がよい。
【0018】
以上のように、本発明によれば、緻密性に優れ、高配向な結晶配向セラミックスの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本発明においては、上記準備工程と、上記混合工程と、上記成形工程と、上記焼成工程とを行うことにより、上記結晶配向セラミックスを製造する。
上記結晶配向セラミックスは、上記一般式(1):ABO3で表される等方性ペロブスカイト化合物を主相とする多結晶体からなる。
ここで、「等方性」とは、擬立方基本格子でペロブスカイト型構造ABO3を表現したとき、軸長a、b、cの相対比が0.8〜1.2であり、軸角α、β、γが80〜100°の範囲にあることを示す。
【0020】
また、上記一般式(1)において、Aサイトは、K+Na又はLi+Na+Kを主成分とする。また、Bサイトは、Nb、Nb+Ta、Nb+Sb、又はNb+Ta+Sbを主成分とする。Oは酸素である。即ち、上記多結晶体を構成する等方性ペロブスカイト型化合物は、例えばニオブ酸カリウムナトリウム(K1-yNay)NbO3、又はニオブ酸カリウムナトリウムを基本組成とし、そのAサイト元素(K、Na)の一部が所定量のLiで置換された化合物、あるいはBサイト元素(Nb)の一部が所定量のTa及び/若しくはSbで置換された化合物、あるいはAサイト元素(K、Na)の一部が所定量のLiで置換されると共にBサイト元素(Nb)の一部が所定量のTa及び/若しくはSbで置換された化合物からなる。
上記一般式(1)において、Aサイト及び/又はBサイトには、上述の主成分元素以外にも後述の添加元素を副成分として含有させることもできる。
【0021】
上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物は、一般式(3):{Lix(K1-yNay1-x}(Nb1-z-wTazSbw)O3(但し、0≦x≦0.2、0.3≦y≦0.7、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0)で表されることが好ましい(請求項12)。
この場合には、圧電特性や誘電特性等が優れた上記結晶配向セラミックスを製造することができる。
上記一般式(3)において、「x+z+w>0」は、置換元素として、Li、Ta及びSbの内の少なくとも1つが含まれていればよいことを示す。
【0022】
また、一般式(3)において、「y」は、等方性ペロブスカイト型化合物に含まれるKとNaの比を表す。上記等方性ペロブスカイト型化合物は、Aサイト元素として、K及びNaを含有し、上記一般式(3)におけるyの範囲は、0.3≦y≦0.7である。
そのため、上記結晶配向セラミックスは、優れた圧電d31定数及び電気機械結合係数Kpを示すことができる。より好ましくは0.35≦y≦0.65がよく、さらに好ましくは0.42≦y≦0.60がよい。
【0023】
「x」は、Aサイト元素であるK及び/又はNaを置換するLiの置換量を表す。K及び/又はNaの一部をLiで置換すると、圧電特性等の向上、キュリー温度の上昇、及び/又は緻密化の促進という効果が得られる。
上記一般式(3)におけるxの範囲は、0<x≦0.2であることが好ましい。
この場合には、上記一般式(3)で表される化合物において、Liが必須成分となるので、上記結晶配向セラミックスは、その作製時の焼成を一層容易に行うことができると共に、圧電特性がより向上し、キュリー温度(Tc)を一層高くすることができる。これは、Liを上記のxの範囲内において必須成分とすることにより、焼成温度が低下すると共に、Liが焼成助剤としての役割を果たし、空孔の少ない焼成を可能にするからである。
xの値が0.2を越えると、圧電特性(圧電d31定数、電気機械結合係数kp、圧電g31定数等)が低下するおそれがある。
【0024】
また、上記一般式(3)におけるxの値は、x=0とすることができる。
この場合には、上記一般式(3)は、(K1-yNay)(Nb1-z-wTazSbw)O3で表される。そしてこの場合には、上記結晶配向セラミックスを作製する際に、その原料中に例えばLiCO3のように、最も軽量なLiを含有してなる化合物を含まないので、原料を混合し上記結晶配向セラミックスを作製するときに原料粉の偏析による特性のばらつきを小さくすることができる。また、この場合には、高い比誘電率と比較的大きな圧電g定数を実現できる。上記一般式(3)において、xの値は、0≦x≦0.15がより好ましく、0≦x≦0.10がさらに好ましい。
【0025】
「z」は、Bサイト元素であるNbを置換するTaの置換量を表す。Nbの一部をTaで置換すると、圧電特性等の向上という効果が得られる。上記一般式(3)において、zの値が0.4を越えると、得られる結晶配向セラミックスのキュリー温度が低下し、家電や自動車用の圧電材料としての利用が困難になるおそれがある。
上記一般式(3)におけるzの範囲は、0<z≦0.4であることが好ましい。
この場合には、上記一般式(3)で表される化合物において、Taが必須成分となる。そのため、この場合には、焼結温度が低下すると共に、Taが焼結助剤の役割を果たし、上記結晶配向セラミックス中の空孔を少なくすることができる。
【0026】
上記一般式(3)におけるzの値は、z=0とすることができる。
この場合には、上記一般式(3)は、{Lix(K1-yNay1-x}(Nb1-wSbw)O3で表される。そして、この場合には、上記一般式(3)で表される化合物はTaを含まない。そのためこの場合には、上記一般式(3)で表される化合物は、その作製時に高価なTa成分を使用することない。よって上記結晶配向セラミックスの製造コストを低減させることができる。
上記一般式(3)において、zの値は、0≦z≦0.35がより好ましく、0≦z≦0.30がさらに好ましい。
【0027】
さらに、「w」は、Bサイト元素であるNbを置換するSbの置換量を表す。Nbの一部をSbで置換すると、圧電特性等の向上という効果が得られる。wの値が0.2を越えると、結晶配向セラミックスの圧電特性、及び/又はキュリー温度が低下するので好ましくない。
また、上記一般式(3)におけるwの値は、0<w≦0.2であることが好ましい。
この場合には、上記一般式(3)で表される化合物において、Sbが必須成分となる。そのため、この場合には、焼結温度が低下し、焼結性を向上させることができると共に、誘電損失tanδの安定性を向上させることができる。
【0028】
また、上記一般式(3)におけるwの値は、w=0とすることができる。この場合には、上記一般式(3)は、{Lix(K1-yNay1-x}(Nb1-zTaz)O3で表される。そして、この場合には、上記一般式(3)で表される化合物は、Sbを含まず、比較的高いキュリー温度を示すことができる。上記一般式(3)において、wの値は、0≦w≦0.15であることがより好ましく、0≦w≦0.10であることがさらに好ましい。
【0029】
なお、上記結晶配向セラミックスは、上記一般式(3)で表される等方性ペロブスカイト型化合物のみからなることが望ましいが、等方性ペロブスカイト型の結晶構造を維持でき、かつ、焼結特性、圧電特性等の諸特性に悪影響を及ぼさないものである限り、他の元素又は他の相が含まれていても良い。
【0030】
また、上記結晶配向セラミックスにおいては、該結晶配向セラミックスの多結晶体を構成する結晶粒の特定の結晶面Aが配向する。
「特定の結晶面Aが配向する」とは、例えば上記一般式(1)で表される化合物等の等方性ペロブスカイト型化合物の特定の結晶面Aが互いに平行になるように、各結晶粒が配列していること(以下、このような状態を「面配向」という。)、又は、特定の結晶面Aが多結晶体を貫通する1つの軸に対して平行になるように、各結晶粒が配列していること(以下、このような状態を「軸配向」という。)の双方を意味する。
【0031】
配向している結晶面Aの種類としては、例えば上記一般式(1)で表される化合物等の等方性ペロブスカイト型化合物の自発分極の方向、結晶配向セラミックスの用途、要求特性等に応じて選択することができる。即ち、上記結晶面Aは、擬立方{100}面、擬立方{110}面、擬立方{111}面等を目的に合わせて選択することができる。
【0032】
「擬立方{HKL}」とは、一般に等方性ペロブスカイト型化合物は、正方晶、斜方晶、三方晶等、立方晶からわずかにゆがんだ構造をとるが、その歪みはわずかであるので、立方晶とみなしてミラー指数表示することを意味する。
また、特定の結晶面Aが面配向している場合において、面配向の程度は、次の数1の式で表されるロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度F(HKL)で表すことができる。
【0033】
【数1】

【0034】
数1の式において、ΣI(hkl)は、結晶配向セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(hkl)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向の圧電セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、Σ’I(HKL)は、結晶配向セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和であり、Σ’I0(HKL)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向の圧電セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和である。
【0035】
したがって、多結晶体を構成する各結晶粒が無配向である場合には、平均配向度F(HKL)は0%となる。また、多結晶体を構成するすべての結晶粒の(HKL)面が測定面に対して平行に配向している場合には、平均配向度F(HKL)は100%となる。
【0036】
上記結晶配向セラミックスにおいて、配向している結晶粒の割合が多くなるほど、高い特性が得られる。
また、配向させる特定の結晶面は、分極軸に垂直な面が好ましい。また、上記ペロブスカイト型化合物の結晶系が正方晶の場合において、配向させる特定の結晶面Aは擬立方{100}面が好ましい。
【0037】
特定の結晶面Aを軸配向させる場合には、その配向の程度は、面配向と同様の配向度(数1の式)では定義できない。しかしながら、配向軸に垂直な面に対してX線回折を行った場合の(HKL)回折に関するロットゲーリング法による平均配向度(以下、これを「軸配向度」という。)を用いて、軸配向の程度を表すことができる。また、特定の結晶面Aがほぼ完全に軸配向している多結晶体の軸配向度は、特定の結晶面がほぼ完全に面配向Aしている多結晶体について測定された軸配向度と同程度になる。
【0038】
上記結晶配向セラミックスは、上記等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなるので、非鉛系の圧電セラミックスの中でも高い圧電特性等を示すことができる。また、上記結晶配向セラミックスは、多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面が一方向に配向しているので、同一組成を有する無配向焼結体に比して、高い圧電特性等を示すことができる。
【0039】
次に、本発明の製造方法における各工程(準備工程、混合工程、成形工程、及び焼成工程)について説明する。
まず、上記準備工程は、第1異方形状粉末と微細粉末とを準備する工程である。
上記第1異方形状粉末は、ペロブスカイト型化合物よりなる第1配向粒子からなる。また、第1配向粒子は、異方形状を有し、作製しようとする上記多結晶体を構成する上記結晶粒の特定の結晶面Aと格子整合性を有する結晶面が配向して配向面を形成している。
【0040】
上記格子整合性は、格子整合率で表すことができる。
格子整合性を説明するにあたり、例えば上記第1配向粒子が金属酸化物である場合について説明する。即ち、上記第1配向粒子における上記配向面の二次元結晶格子において、例えば酸素原子からなる格子点又は金属原子からなる格子点と、上記多結晶体において配向する上記特定の結晶面Aの二次元結晶格子における酸素原子からなる格子点又は金属原子からなる格子点とが、相似関係を有する場合に、両者には格子整合性が存在する。
格子整合率は、上記第1配向粒子における上記配向面と、上記多結晶体において配向する上記特定の結晶面Aの相似位置における格子寸法との差の絶対値を上記第1配向粒子における上記配向面の格子寸法で除することにより得られる値を百分率で表すものである。
【0041】
格子寸法とは、一つの結晶面の二次元結晶格子における格子点間の距離のことであり、X線回折や電子線回折等により結晶構造を解析することにより測定することができる。一般に、格子整合率が小さくなるほど、上記第1配向粒子は、上記結晶面Aとの格子整合性が高くなり、良好なテンプレートとして機能することができる。
より高配向度の結晶配向セラミックスを得るためには、上記第1配向粒子の格子整合率は、20%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下がよく、さらにより好ましくは5%以下がよい。
【0042】
また、「異方形状」とは、幅方向又は厚さ方向の寸法に比して、長手方向の寸法が大きいことをいう。具体的には、板状、柱状、鱗片状、針状等の形状が好適な例として挙げられる。また、上記配向面を構成する結晶面の種類は、種々の結晶面の中から目的に応じて選択することができる。
【0043】
上記第1配向粒子としては、成形工程の際に一定の方向に配向させることが容易な形状を有しているものを用いることが好ましい。そのため、上記第1配向粒子としては、平均アスペクト比が3以上であることが好ましい。平均アスペクト比が3未満の場合には、後述の成形工程において、上記第1異方形状粉末を一方向に配向させることが困難になる。より高い配向度の上記結晶配向セラミックスを得るためには、上記第1配向粒子のアスペクト比は5以上であることがより好ましい。なお、平均アスペクト比は、上記第1配向粒子の最大寸法/最小寸法の平均値である。
【0044】
また、上記第1配向粒子の平均アスペクト比が大きくなるほど、成形工程において上記第1配向粒子を配向させることがより容易になる傾向がある。しかし、平均アスペクト比が過大になると、上記混合工程において、上記第1配向粒子が破壊されてしまうおそれがある。その結果、成形工程において、上記第1配向粒子が配向した成形体が得られなくなるおそれがある。したがって、上記配向粒子の平均アスペクト比は、100以下であることが好ましい。より好ましくは50以下、さらには30以下が良い。
【0045】
また、上記第1配向粒子はペロブスカイト型化合物からなる。
具体的には、上記第1配向粒子としては、例えば上記一般式(1)又は上記一般式(3)で表される化合物等のように目的の等方性ペロブスカイト型化合物と同一組成を有するもの等を用いることができる。
また、上記第1配向粒子は、必ずしも上記一般式(1)又は上記一般式(3)で表される化合物等のように目的の等方性ペロブスカイト型化合物と同一組成を有するものである必要はなく、後述の微細粉末と焼結することにより、目的とする上記一般式(1)又は上記一般式(3)で表される等方性ペロブスカイト型化合物を主成分として生成するものであればよい。したがって、上記第1配向粒子としては、作製しようとする等方性ペロブスカイト型化合物に含まれる陽イオン元素のうちいずれか1種以上の元素を含む化合物あるいは固溶体等から選ぶことができる。
【0046】
上述のような条件を満たす第1配向粒子としては、例えば等方性ペロブスカイト型化合物の一種であるNaNbO3(以下、これを「NN」という。)、(K1-yNay)NbO3(0<y<1)、又はこれらに所定量のLi、Ta及び/又はSbが置換・固溶したものであって、次の一般式(4)で表される化合物からなるもの等を用いることができる。
{Lix(K1-yNay)1-x}(Nb1-z-wTazSbw)O3 ・・・(4)
(但し、x、y、z、wがそれぞれ0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦w≦1)
【0047】
上記一般式(4)で表される化合物は、当然に上記一般式(3)で表される等方性ペロブスカイト型化合物と良好な格子整合性を有している。そのため、上記一般式(4)で表され、かつ上記多結晶体における上記結晶面Aと格子整合性を有する面を上記配向面とする上記第1配向粒子からなる第1異方形状粉末(以下、これを特に「異方形状粉末A」という)は、上記結晶配向セラミックスを製造するための反応性テンプレートとして機能する。また、上記異方形状粉末Aは、実質的に上記一般式(3)で表される等方性ペロブスカイト型化合物に含まれる陽イオン元素から構成されているので、不純物元素の極めて少ない結晶配向セラミックスを製造することができる。これらのなかでも擬立方{100}面を配向面とする上記一般式(4)で表される化合物からなる板状の粒子が、上記第1配向粒子として好適である。また、擬立方{100}面を配向面とするNNからなる板状の粒子は、特に好適である。
【0048】
また、上記第1異方形状粉末としては、例えば層状ペロブスカイト型化合物からなり、かつ表面エネルギーの小さい結晶面が上記一般式(3)で表される化合物からなる多結晶体における上記結晶面Aと格子整合性を有しているものを用いることができる。層状ペロブスカイト型化合物は、結晶格子の異方性が大きいので、層状ペロブスカイト型化合物からなり、表面エネルギーの小さい結晶面を配向面とする異方形状粉末(以下、これを特に「異方形状粉末B」という。)を比較的容易に合成することができる。
【0049】
上記異方形状粉末Bの材料として好適な層状ペロブスカイト型化合物の第1の例としては、例えば次の一般式(5)で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物がある。
(Bi22)2+(Bi0.5Mem-1.5Nbm3m+1)2- ・・・(5)
(但し、mは2以上の整数、MeはLi、K及びNaから選ばれる1種以上)
【0050】
上記一般式(5)で表される化合物は{001}面の表面エネルギーが他の結晶面の表面エネルギーより小さい。そのため、上記一般式(5)で表される化合物を用いることにより、{001}面を配向面とする上記異方形状粉末Bを容易に合成できる。ここで、{001}面は、上記一般式(5)で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の(Bi22)2+層に平行な面である。しかも、上記一般式(5)で表される化合物の{001}面は、一般式(3)で表される等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面との間に極めて良好な格子整合性がある。
【0051】
そのため、上記一般式(5)で表される化合物からなり、かつ{001}面を配向面とする異方形状粉末Bは、擬立方{100}面を配向面とする結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレート、即ち上記第1異方形状粉末として好適である。また、上記一般式(5)で表される化合物を用いるときに、後述の微細粉末の組成を最適化することによって、Aサイト元素として実質的にBiを含まないように調整することができる。このような異方形状粉末Bを用いても、上記一般式(3)で表される等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする結晶配向セラミックスを製造することができる。
【0052】
また、上記異方形状粉末Bの材料として好適な層状ペロブスカイト型化合物の第2の例としては、例えばSr2Nb27がある。Sr2Nb27の{010}面は、その表面エネルギーが他の結晶面の表面エネルギーより小さく、しかも、上記一般式(3)で表される等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{110}面との間に極めて良好な格子整合性がある。そのため、Sr2Nb27からなり、かつ{010}面を配向面とする第1異方形状粉末は、{110}面を配向面とする結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレートとして好適である。
【0053】
異方形状粉末Bの材料として好適な層状ペロブスカイト型化合物の第3の例としては、例えばNa1.5Bi2.5Nb312、Na2.5Bi2.5Nb415、Bi3TiNbO9、Bi3TiTaO9、K0.5Bi2.5Nb29、CaBi2Nb29、SrBi2Nb29、BaBi2Nb29、BaBi3Ti2NbO12、CaBi2Ta29、SrBi2Ta29、BaBi2Ta29、Na0.5Bi2.5Ta29、Bi7Ti4NbO21、Bi5Nb315等がある。これらの化合物の{001}面は、上記一般式(3)で表される等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と良好な格子整合性を有している。そのため、これらの化合物からなり、かつ{001}面を配向面とする第1異方形状粉末は、擬立方{100}面を配向面とする結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレートとして好適である。
【0054】
異方形状粉末Bの材料として好適な層状ペロブスカイト型化合物の第4の例としては、例えばCa2Nb27、Sr2Ta27等がある。これらの化合物の{010}面は、上記一般式(3)で表される等方性ペロブスカイト型化合物の擬立方{110}面と良好な格子整合性を有している。そのため、これらの化合物からなり、かつ{010}面を配向面とする第1異方形状粉末は、擬立方{110}面を配向面とする結晶配向セラミックスを作製するための反応性テンプレートとして好適である。
【0055】
次に、上記第1異方形状粉末の製造方法について説明する。
所定の組成、平均粒径及び/又はアスペクト比を備えた層状ペロブスカイト型化合物からなる第1異方形状粉末(即ち、上記異方形状粉末B)は、その成分元素を含む酸化物、炭酸塩、硝酸塩等を原料(以下、これを「異方形状粉末生成原料」という。)とし、この異方形状粉末生成原料を液体又は加熱により液体となる物質と共に加熱することにより容易に製造することができる。
【0056】
上記異方形状粉末生成原料を原子の拡散が容易な液相中で加熱すると、表面エネルギーの小さい面(例えば上記一般式(5)で表される化合物の場合は{001}面)が優先的に発達した異方形状粉末Bを容易に合成することができる。この場合、異方形状粉末Bの平均アスペクト比及び平均粒径は、合成条件を適宜選択することにより、制御することができる。
【0057】
異方形状粉末Bの製造方法としては、例えば上記異方形状粉末生成原料に適当なフラックス(例えば、NaCl、KCl、NaClとKClとの混合物、BaCl2、KF等)
を加えて所定の温度で加熱する方法(フラックス法)や、作製しようとする異方形状粉末Bと同一組成を有する不定形粉末をアルカリ水溶液と共にオートクレーブ中で加熱する方法(水熱合成法)等が好適な例としてあげられる。
【0058】
一方、上記一般式(4)で表される化合物は、結晶格子の異方性が極めて小さいので、一般式(4)で表される化合物からなり、かつ特定の結晶面を配向面とする上記第1異方形状粉末(即ち、上記異方形状粉末A)を直接合成するのは困難である。しかしながら、上記異方形状粉末Aは、上述の異方形状粉末Bを反応性テンプレートとして用いて、これと所定の条件を満たす後述の反応原料Bとを、フラックス中で加熱することにより製造することができる。
【0059】
なお、異方形状粉末Bを反応性テンプレートとして用いて異方形状粉末Aを合成する場合には、反応条件を最適化すれば、結晶構造の変化のみが起こり、粉末形状の変化はほとんど生じない。
【0060】
成形時に一方向に配向させることが容易な異方形状粉末Aを容易に合成するためには、その合成に使用する異方形状粉末Bもまた、成形時に一方向に配向させることが容易な形状を有していることが好ましい。
すなわち、上記異方形状粉末Bを反応性テンプレートとして用いて、異方形状粉末Aを合成する場合においても、異方形状粉末Aの平均アスペクト比は、少なくとも3以上が好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上がよい。また、後工程における粉砕を抑制するためには、平均アスペクト比は、100以下であることが好ましい。
【0061】
上記の「反応原料B」とは、上記異方形状粉末Bと反応して、少なくとも上記一般式(4)で表される化合物からなる異方形状粉末Aを生成するものをいう。この場合、反応原料Bは、上記異方形状粉末Bとの反応によって、上記一般式(4)で表される化合物のみを生成するものであってもよく、また、上記一般式(4)で表される化合物と余剰成分の双方を生成するものであってもよい。ここで、「余剰成分」とは、目的とする上記一般式(4)で表される化合物以外の物質をいう。また、異方形状粉末Bと反応原料Bによって余剰成分が生成する場合、余剰成分は、熱的又は化学的に除去することが容易なものからなることが好ましい。
【0062】
上記反応原料Bの形態としては、例えば酸化物粉末、複合酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等の塩、アルコキシド等を用いることができる。また、反応原料Bの組成は、作製しようとする上記一般式(4)で表される化合物の組成、及び上記異方形状粉末Bの組成によって決定することができる。
【0063】
例えば、上記一般式(5)で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の1種であるBi2.5Na0.5Nb29(以下、これを「BINN2」という。)からなる異方形状粉末Bを用いて、上記一般式(4)で表される化合物の一種であるNaNbO3(NN)からなる異方形状粉末Aを合成する場合、上記反応原料Bとしては、Naを含む化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等)を用いることができる。
【0064】
このような組成を有する異方形状粉末B及び反応原料Bに対して、適当なフラックス(例えば、NaCl、KCl、NaClとKClとの混合物、BaCl2、KF等)を1重量%〜500重量%加えて、共晶点・融点に加熱すると、NNとBi23とを主成分とする余剰成分が生成する。Bi23は、融点が低く、酸にも弱いので、得られた反応物から湯洗等によりフラックスを取り除いた後、これを高温で加熱するか、あるいは、酸洗浄を行えば、{100}面を配向面とするNNからなる上記異方形状粉末Aを得ることができる。
【0065】
また、例えば、BINN2からなる上記異方形状粉末Bを用いて、上記一般式(4)で表される化合物の一種である(K0.5Na0.5)NbO3(以下、これを「KNN」という。)からなる異方形状粉末Aを合成する場合には、上記反応原料Bとして、Naを含む化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等)及びKを含む化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等)、又はNa及びKの双方を含む化合物を用いればよい。
【0066】
このような組成を有する異方形状粉末B及び反応原料Bに対して、適当なフラックスを1重量%〜500重量%加えて、共晶点・融点に加熱すると、KNNとBi23とを主成分とする余剰成分が生成するので、得られた反応物からフラックス及びBi23を除去すれば、{100}面を配向面とするKNNからなる異方形状粉末Aを得ることができる。
【0067】
上記異方形状粉末Bと上記反応原料Bとの反応によって、上記一般式(4)で表される化合物のみを生成させる場合も同様であり、所定の組成を有する異方形状粉末Bと所定の組成を有する反応原料Bとを適当なフラックス中で加熱すればよい。これにより、フラックス中において、目的とする組成を有する上記一般式(4)で表される化合物を生成することができる。また、得られた反応物からフラックスを取り除けば、上記一般式(4)からなり、かつ特定の結晶面を配向面とする異方形状粉末Aを得ることができる。
【0068】
上記一般式(4)で表される化合物は、結晶格子の異方性が小さいので、異方形状粉末Aを直接合成することは困難である。また、任意の結晶面を配向面とする異方形状粉末Aを直接合成することも困難である。
【0069】
これに対し、層状ペロブスカイト型化合物は、結晶格子の異方性が大きいので、異方形状粉末を直接合成することが容易にできる。また、層状ペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末の配向面は、上記一般式(4)で表される化合物の特定の結晶面との間に格子整合性を有しているものが多い。さらに、上記一般式(4)で表される化合物は、層状ペロブスカイト型化合物に比べて熱力学的に安定である。
【0070】
そのため、層状ペロブスカイト型化合物からなり、かつその配向面が上記一般式(4)で表される化合物の特定の結晶面と格子整合性を有する異方形状粉末Bと上記反応原料Bとを、適当なフラックス中で反応させると、上記異方形状粉末Bが反応性テンプレートとして機能することができる。その結果、上記異方形状粉末Bの配向方位を継承した、上記一般式(4)で表される化合物からなる異方形状粉末Aを容易に合成することができる。
【0071】
また、上記異方形状粉末B及び上記反応原料Bの組成を最適化すると、上記異方形状粉末Bに含まれていたAサイト元素(以下、これを「余剰Aサイト元素」という。)が余剰成分として排出されると共に、余剰Aサイト元素を含まない、上記一般式(4)で表される化合物からなる異方形状粉末Aが生成する。
【0072】
特に、上記異方形状粉末Bが上記一般式(5)に示すビスマス層状ペロブスカイト型化合物からなる場合には、Biが余剰Aサイト元素として排出され、Bi23を主成分とする余剰成分が生成する。そのため、この余剰成分を熱的又は化学的に除去すれば、実質的にBiを含まず、上記一般式(4)で表される化合物からなり、かつ特定の結晶面を配向面とする異方形状粉末Aを得ることができる。
【0073】
また、上記第1配向粒子は、一般式(2):ABO3(Aサイトは、K、Na、Liから選ばれる1種以上を主成分とし、Bサイトは、Nb、Sb、Taから選ばれる1種以上を主成分とする)で表される等方性ペロブスカイト型化合物からなることが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記第1配向粒子を用いることにより、非鉛系の中でも相対的に高い圧電特性を示す等方性ペロブスカイト型ニオブ酸カリウムナトリウム系の結晶配向セラミックスを作製できる。
【0074】
上記第1配向粒子の上記配向面は、擬立方{100}面であることが好ましい(請求項4)。
この場合には、配向軸と分極軸とが一致する正方晶域において、大電界下で発生する変位の温度依存性が改善された結晶配向セラミックスを得ることができる。
【0075】
次に、上記微細粉末は、上記第1異方形状粉末の1/3以下の粒径を有する。
上記微細粉末の粒径が上記第1異方形状粉末の粒径の1/3を超える場合には、上記成形工程において、上記第1異方形状粉末の上記配向面が略同一の方向に配向するように、上記原料混合物を成形することが困難になるおそれがある。より好ましくは、1/4以下がよく、さらには1/5以下がよい。
上記微細粉末と上記第1異方形状粉末との粒径の比較は、上記微細粉末の平均粒径と上記第1異方形状粉末の平均粒径とを比較することによって行うことができる。なお、上記第1異方形状粉末の粒径及び上記微細粉末の粒径は、いずれも最も長尺の径のことをいう。
【0076】
また、上記微細粉末としては、上記第1異方形状粉末と共に焼結させることにより該第1異方形状粉末と反応して、例えば上記一般式(1)又は上記一般式(3)で表される化合物等のように目的の等方性ペロブスカイト型化合物を生成するものを用いる。
上記微細粉末の組成は、上記第1異方形状粉末の組成、及び作製しようとする例えば一般式(3)で表される化合物等の等方性ペロブスカイト型化合物の組成に応じて決定できる。また、上記微細粉末としては、例えば酸化粉末、複合酸化物粉末、水酸化物粉末、あるいは炭酸塩、硝酸塩、主酸塩等の塩、あるいはアルコキシド等を用いることができる。
上記微細粉末は、上記第1異方形状粉末との反応によって、目的の等方性ペロブスカイト型化合物のみを生成するものであってもよく、あるいは目的の等方性ペロブスカイト型化合物と余剰成分との双方を生成するものであってもよい。上記第1異方形状粉末と上記第微細粉末との反応によって余剰成分が生成する場合には、該余剰成分は熱的又は化学的に除去することが容易なものであることが好ましい。
【0077】
また、本発明においては、上記微細粉末として、焼成工程における焼成温度よりも融点が高い第1微細粉末と、焼成工程における焼成温度よりも融点が低い第2微細粉末とを用いる。上記第1微細粉末及び上記第2微細粉末は、そのいずれもが上記一般式(1)で表される等方性ペロブスカイト型化合物のAサイトのK源となる物質を含有する。
【0078】
上記第2微細粉末は、KNbO3を主成分とすることが好ましい(請求項2)。
この場合には、例えば上記一般式(3)で表される化合物を製造する際の焼成温度において、上記第2微細粉末が充分に液相を形成することができる。
【0079】
また、上記微細粉末は、液相形成物質である上記第2微細粉末を除き、1種類の化合物をからなることが好ましい。微細粉末が2種以上の化合物から構成されると、焼結反応が不均質化しやすく、緻密化が困難になるおそれがある。
【0080】
次に、上記混合工程においては、上記微細粉末(第1微細粉末及び第2微細粉末)と上記第1異方形状粉末とを混合して原料混合物を作製する。このとき、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物におけるAサイト元素のKのうちの1at%〜15at%が上記第2微細粉末から供給されるように、上記第1異方形状粉末と上記第1微細粉末と上記第2微細粉末との混合を行う。上記一般式(1)で表される等方性ペロブスカイト型化合物として、上記一般式(3):{Lix(K1-yNay1-x}(Nb1-z-wTazSbw)O3で表される化合物を作製する場合には、Aサイトに相当する{Lix(K1-yNay1-x}サイトのKのうちの1at%〜15at%が上記第2微細粉末から供給されるように混合を行う。
【0081】
上記混合工程においては、所定の比率で配合された上記第1異方形状粉末、及び上記微細粉末(第1微細粉末及び第2微細粉末)に対して、さらにこれらの物質の反応によって得られる等方性ペロブスカイト型化合物と同一組成の化合物からなる不定形の微粉(以下、これを「化合物微粉」という。)を添加することができる。また、例えばCuO等の焼結助剤を添加することもできる。上記化合物微粉や上記焼結助剤を添加すると、焼結体の緻密化がさらに容易になるという利点がある。
【0082】
また、上記化合物微粉を配合する場合には、該化合物微粉の配合比率が過大になると、必然的に原料全体に占める上記異方形状粉末の配合比率が小さくなり、特定の結晶面の配向度が低下するおそれがある。したがって、上記化合物微粉の配合比率は、要求される焼結体密度及び配向度に応じて最適な配合比率を選択することが好ましい。
【0083】
上記一般式(1)で表される等方性ペロブスカイト型化合物を作製する場合には、上記第1異方形状粉末の配合比率は、上記第1異方形状粉末中の1つ乃至複数の成分元素により、上記一般式(1)のAサイトが占有される比率が、0.01〜70at%となるようにすることが好ましく、より好ましくは、0.1〜50at%がよい。さらに好ましくは、1〜10at%がよい。ここで、「at%」とは、原子の数の割合を100分率で示したものである。
【0084】
また、上記原料混合物に、周期律表における2〜15族に属する金属元素、半金属元素、遷移金属元素、貴金属元素、及びアルカリ土類金属元素から選ばれる1種以上の添加元素を含有させることが好ましい(請求項5)。
この場合には、上記添加元素を含有する多結晶体からなる上記結晶配向セラミックスを作製することができる。これにより、結晶配向セラミックスの圧電d31定数、電気機械結合係数Kp、圧電g31定数等の圧電特性や比誘電率や誘電損失等を向上させることができる。上記添加元素は、上記一般式(1)で表される化合物のAサイトやBサイトに対して、置換添加されていても良いが、外添加されて上記一般式(1)で表される化合物の粒内又は粒界中に存在することもできる。
【0085】
上記原料混合物に上記添加元素を含有させる具体的な方法としては、例えば次のような方法がある。
即ち、上記添加元素は、上記準備工程において、上記第1異方形状粉末を合成する際に添加することができる(請求項6)。
また、上記添加元素は、上記準備工程において、上記微細粉末を合成する際に添加することができる(請求項7)。
また、上記添加元素は、上記混合工程において、上記微細粉末及び上記第1異方形状粉末と共に添加することができる(請求項8)。
このような方法によって上記添加元素を添加することにより、上記上記添加元素を含有する上記原料混合物を簡単に得ることができる。そして、該原料混合物を成形及び焼成することにより、上記添加元素を含有する多結晶体からなる上記結晶配向セラミックスを得ることができる。
【0086】
上記添加元素としては、具体的には、例えばMg、Ca、Sr、Ba、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Mo、Hf、W、Re、Pd、Ag、Ru、Rh、Pt、Au、Ir、Os、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、及びBi等がある。
また、上記添加元素は、添加元素単体で添加されていても良いが、上記添加元素を含む酸化物や化合物として添加されていても良い。
【0087】
また、上記添加元素は、上記焼成工程後に得られる上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物1molに対して、0.0001〜0.15molとなるような割合で添加することが好ましい(請求項9)。
上記添加元素が0.0001mol未満の場合には、上記添加元素による上記圧電特性等の向上効果を充分に得られないおそれがある。一方、0.15molを超える場合には、上記結晶配向セラミックスの圧電特性や誘電特性がかえって低下するおそれがある。
【0088】
また、上記混合工程においては、上記焼成工程で上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物におけるAサイト元素又は/及びBサイト元素のいずれか1種以上の元素に対して、上記添加元素が0.01〜15at%の割合で置換添加されるように、上記添加元素の混合割合を調整することが好ましい(請求項10)。
この場合には、上記添加元素が上記等方性ペロブスカイト型化合物に置換添加された上記結晶配向セラミックスを得ることができる。かかる結晶配向セラミックスは、より一層優れた圧電d31定数や電気機械結合係数Kp等の圧電特性、及びより一層優れた比誘電率ε33T/ε0等の誘電特性を示すことができる。
上記添加元素が0.01at%未満の場合には、上記結晶配向セラミックスの圧電特性や誘電特性の向上効果が充分に得られないおそれがある。一方、15at%を超える場合には、上記結晶配向セラミックスの圧電特性や誘電特性がかえって低下するおそれがある。より好ましくは、0.01〜5at%がよく、さらに好ましくは、0.01〜2at%がよく、さらにより好ましくは、0.05〜2at%がよい。
ここで、「at%」とは、上記一般式(1)で表される化合物におけるLi、K、Na、Nb、Ta、及びSbの原子の数に対する置換された原子の数の割合を100分率で示したものである。
【0089】
上記混合工程において、上記第1異方形状粉末、上記微細粉末、並びに必要に応じて配合される化合物微粉及び焼結助剤の混合は、乾式で行ってもよく、あるいは、水、アルコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行ってもよい。さらにこのとき、必要に応じてバインダ、可塑剤、及び分散材等から選ばれる1種以上を加えることもできる。
【0090】
次に、上記成形工程について説明する。
上記成形工程は、上記第1異方形状粉末の上記配向面が略同一の方向に配向するように、上記原料混合物を成形して成形体を作製する工程である。
上記成形工程においては、上記第1異方形状粉末が面配向するように成形してもよく、あるいは、上記第1異方形状粉末が軸配向するように成形してもよい。
【0091】
成形方法については、上記第1異方形状粉末を配向させることが可能な方法であればよい。上記第1異方形状粉末を面配向させる成形方法としては、具体的にはドクターブレード法、プレス成形法、圧延法等が好適な例としてあげられる。また、上記第1異方形状粉末を軸配向させる成形方法としては、具体的には押出成形法、遠心成形法等が好適な例として挙げられる。
【0092】
また、上記第1異方形状粉末が面配向した成形体(以下、これを「面配向成形体」という。)の厚さを増したり、配向度を上げるために、面配向成形体に対し、さらに積層圧着、プレス、圧延等の処理(以下、これを「面配向処理」という。)を行うことができる。
この場合には、上記面配向成形体に対して、いずれか1種類の面配向処理を行うこともできるが、2種以上の面配向処理を行うこともできる。また、上記面配向成形体に対して、1種類の面配向処理を繰り返し行うこともでき、また、2種以上の配向処理をそれぞれ複数回繰り返し行うこともできる。
【0093】
次に、上記焼成工程について説明する。
上記焼成工程は、上記成形体を加熱し、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末とを焼結させる工程である。上記焼成工程においては、上記成形体を加熱することにより焼結が進行し、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなる結晶配向セラミックスを作製する。このとき、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末とを反応させて、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成させることができる。また、上記焼成工程においては、上記異方形状粉末及び/又は微細粉末の組成によっては、余剰成分も同時に生成する。
【0094】
上記焼成工程における加熱温度は、反応及び/又は焼結が効率よく進行し、かつ目的とする組成を有する反応物が生成するように、使用する異方形状粉末、微細粉末、作製しようとする結晶配向セラミックスの組成等に応じて最適な温度を選択することができる。
【0095】
好ましくは、上記焼成工程においては、焼成温度1050℃〜1300℃で上記成形体を加熱することが好ましい(請求項11)。
焼成温度が1050℃未満の場合には、充分に緻密化させることが困難になるおそれがある。一方1300℃を越える場合には、原料成分の一部が揮発し、最終的に得られる結晶配向セラミックス組成が目的組成からずれてしまうおそれがある。より好ましくは、上記焼成温度は1050〜1200℃がよく、さらに好ましくは1075℃〜1150℃がよい。
【0096】
また、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末との反応によって余剰成分が生成する場合には、焼結体中に余剰成分を副相として残留させることができる。また、焼結体から余剰成分を除去することもできる。余剰成分を除去する場合には、その方法として、上述のごとく、例えば熱的に除去する方法や化学的に除去する方法等がある。
【0097】
熱的に除去する方法としては、例えば上記一般式(3)で表される化合物と余剰成分とが生成した焼結体(以下、これを「中間焼結体」という。)を所定温度で加熱し、余剰成分を揮発させる方法がある。具体的には、上記中間焼結体を減圧下もしくは酸素中において、余剰成分の揮発が生じる温度で長時間加熱する方法が好適な例として挙げられる。
【0098】
余剰成分を熱的に除去する際の加熱温度は、余剰成分の揮発が効率よく進行し、かつ副生成物の生成が抑制されるように、上記一般式(3)で表される化合物及び/又は上記余剰成分の組成に応じて、最適な温度を選択すれすることができる。
【0099】
また、余剰成分を化学的に除去する方法としては、例えば余剰成分のみを浸食させる性質を有する処理液中に中間焼結体を浸漬し、余剰成分を抽出する方法等がある。このとき、使用する処理液としては、上記一般式(3)で表される化合物及び/又は余剰成分の組成に応じて最適なものを選択することができる。例えば、余剰成分が酸化ビスマス単相である場合には、処理液としては、硝酸、塩酸等の酸を用いることができる。特に、硝酸は、酸化ビスマスを主成分とする余剰成分を化学的に抽出する処理液として好適である。
【0100】
上記第1異方形状粉末と上記微細粉末との反応、及び余剰成分の除去は、同時、逐次又は個別のいずれのタイミングで行ってもよい。例えば、成形体を減圧下又は真空下において、上記第1異方形状粉末と微細粉末との反応及び余剰成分の揮発の双方が効率よく進行する温度まで直接加熱し、反応と同時に余剰成分の除去を行うことができる。なお、上記添加元素は、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末との反応の際に、目的物質である上記一般式(3)で表される化合物に置換されたり、上記のごとく結晶粒内又は/及び粒界中に配置される。
【0101】
また、例えば大気中又は酸素中において、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末との反応が効率よく進行する温度で成形体を加熱して上記中間焼結体を生成した後、引き続き該中間焼結体を減圧下又は真空下において、余剰成分の揮発が効率よく進行する温度で加熱し、余剰成分の除去を行うこともできる。また、上記中間焼結体を生成した後、引き続き、該中間焼結体を大気中又は酸素中において、余剰成分の揮発が効率よく進行する温度で長時間加熱し、余剰成分の除去を行うこともできる。
【0102】
また、例えば上記中間焼結体を生成し、上記中間焼結体を室温まで冷却した後、該中間焼結体を処理液に浸漬して、余剰成分を化学的に除去することもできる。あるいは、上記中間焼結体を生成し、室温まで冷却した後、再度上記中間焼結体を所定の雰囲気下において所定の温度に加熱し余剰成分を熱的に除去することもできる。
【0103】
上記成形工程において得られる上記成形体がバインダなどの樹脂成分を含む場合には、上記焼成工程の前に脱脂を主目的とする熱処理を行うことができる。この場合、脱脂の温度は、少なくともバインダ等を熱分解させるのに充分な温度に設定することができる。
【0104】
また、上記成形体の脱脂を行うと、該成形体中の上記第1異方形状粉末の配向度が低下したり、あるいは、上記成形体に体積膨張が発生したりする場合がある。このような場合には、脱脂を行った後、上記熱処理工程を行う前に、上記成形体に対して、さらに静水圧(CIP)処理を行うことが好ましい。この場合には、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、上記成形体の体積膨張に起因する焼結体密度の低下を抑制することができる。
【0105】
また、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末との反応によって余剰成分が生成する場合において、余剰成分の除去を行う時には、余剰成分を除去した中間焼結体に対し、さらに、静水圧処理を施し、これを再焼成することができる。また、焼結体密度及び配向度をさらに高めるために、上記熱処理工程後の焼結体に対してさらにホットプレスを行うことができる。さらに、上記化合物微粉を添加する方法、CIP処理、及びホットプレス等の方法を組み合わせて用いることもできる。
【0106】
本発明の製造方法においては、上述のごとく、合成が容易な層状ペロブスカイト型化合物からなる上記異方形状粉末Bを反応性テンプレートに用いて、上記一般式(4)で表される化合物からなる上記異方形状粉末Aを合成し、次いで、該異方形状粉末Aを反応性テンプレートに用いて上記結晶配向セラミックスを作製することができる。この場合には、結晶格子の異方性の小さい上記一般式(3)で表される化合物であっても、任意の結晶面が配向した上記結晶配向セラミックスを容易かつ安価に製造することができる。
【0107】
しかも、上記異方形状粉末B及び反応原料Bの組成を最適化すれば、余剰Aサイト元素を含まない異方形状粉末Aであっても合成することができる。そのため、Aサイト元素の組成制御が容易になり、従来の方法においては得られない組成の上記一般式(3)で表される化合物を主相とする結晶配向セラミックスを作製することができる。
【0108】
また、上記第1異方形状粉末としては、層状ペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末Bを用いることができる。この場合には、上記焼成工程において、焼結と同時に上記一般式(3)で表される化合物を合成することができる。また、上記成形体に配向させる上記異方形状粉末B及びこれと反応させる上記反応原料の組成を最適化すれば、上記一般式(3)で表される目的の化合物を合成すると共に、上記異方形状粉末Bから余剰Aサイト元素を余剰成分として排出することができる。
【0109】
また、熱的又は化学的な除去が容易な余剰成分を生成する上記異方形状粉末Bを上記第1異方形状粉末として用いた場合には、実質的に余剰Aサイト元素を含まず、上記一般式(3)で表される化合物からなり、かつ特定の結晶面が配向した結晶配向セラミックスを得ることができる。
【実施例】
【0110】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、説明する。
本例は、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する結晶粒の特定の結晶面が配向する結晶配向セラミックスを製造する例である。
本例の製造方法においては、準備工程と、混合工程と、成形工程と、焼成工程とを行うことにより、等方性ペロブスカイト型化合物からなる結晶配向セラミックスを作製する。
準備工程においては、図1に示すごとく、ペロブスカイト型化合物よりなり、上記特定の結晶面Aと格子整合性を有する結晶面が配向して配向面を形成している異方形状の第1配向粒子からなる第1異方形状粉末2を準備する。また、第1異方形状粉末2の1/3以下の粒径を有し、第1異方形状粉末2と共に焼結させることにより上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成する微細粉末3を準備する。本例においては、微細粉末3として、目的組成の等方性ペロブスカイト型化合物のAサイトのK源となる物質を含有し、かつ融点が焼成工程における焼成温度よりも高い第1微細粉末31と、目的組成の等方性ペロブスカイト型化合物のAサイトのK源となる物質を含有し、かつ融点が焼成工程における焼成温度よりも低い第2微細粉末32とを用いる。
【0111】
混合工程においては、第1異方形状粉末2と微細粉末3とを混合して原料混合物1を作製する。この混合工程においては、目的組成の等方性ペロブスカイト型化合物におけるAサイト元素のKのうちの1at%が第2微細粉末32から供給されるように、第1異方形状粉末2と第1微細粉末31と第2微細粉末32との混合を行う。
成形工程においては、図2に示すごとく、第1異方形状粉末2の配向面が略同一の方向に配向するように、原料混合物1を成形して成形体11を作製する。
焼成工程においては、図3及び図4に示すごとく、成形体11を加熱し、第1異方形状粉末2と微細粉末3とを焼結させて、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなる結晶配向セラミックス13を作製する。なお、本例においては、(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3からなる等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなる結晶配向セラミックスを作製する。
以下、本例の結晶配向セラミックスの製造方法につき、詳細に説明する。
【0112】
(1)第1異方形状粉末の作製
まず、以下のようにして、粉砕過程と加熱過程とを行うことにより、第1異方形状粉末として、NaNbO3からなる板状粉末を合成する。即ち、粉砕過程においては、層状ペロブスカイト型化合物よりなり、表面エネルギーの最も小さい結晶面が上記第1配向粒子の上記配向面と格子整合性を有する第2配向粒子からなる第2異方形状粉末を準備し、該第2異方形状粉末を粉砕する。熱処理過程においては、該粉砕過程後の上記第2異方形状粉末と反応することにより上記第1異方形状粉末を生成する反応原料を準備し、該反応原料と上記第2異方形状粉末とをフラックス中にて加熱することにより上記第1異方形状粉末を作製する。
【0113】
具体的には、まず、Bi2.5Na3.5Nb518という組成となるような化学量論比で、Bi23粉末、Na2CO3粉末及びNb25粉末を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料に対し、フラックスとしてNaClを50wt%添加し、1時間乾式混合した。
次に、得られた混合物を白金るつぼに入れ、850℃×1hの条件下で加熱し、フラックスを完全に溶解させた後、さらに1100℃×2hの条件下で加熱し、Bi2.5Na3.5Nb518の合成を行った。なお、昇温速度は、200℃/hrとし、降温は炉冷とした。冷却後、反応物から湯洗によりフラックスを取り除き、Bi2.5Na3.5Nb518粉末(第2異方形状粉末)を得た。得られたBi2.5Na3.5Nb518粉末は、{001}面を配向面(最大面)とする板状粉末であった。
【0114】
次に、Bi2.5Na3.5Nb518粉末をジェットミルにより粉砕した。粉砕後のBi2.5Na3.5Nb518粉末は、平均粒径が約12μmであり、アスペクト比が約10〜20程度であった。
【0115】
次いで、このBi2.5Na3.5Nb518板状粉末に対し、NaNbO3の合成に必要な量のNa2CO3粉末(反応原料)を加えて混合し、NaClをフラックスとして、白金るつぼ中において、950℃×8時間の熱処理を行った。
得られた反応物には、NaNbO3粉末に加えてBi23が含まれているので、反応物からフラックスを取り除いた後、これをHNO3(1N)中に入れ、余剰成分として生成したBi23を溶解させた。さらに、この溶液を濾過してNaNbO3粉末を分離し、80℃のイオン交換水で洗浄した。このようにして、第1異方形状粉末としてのNaNbO3からなる粉末を得た。
得られた第1異方形状粉末粉末は、擬立方{100}面を最大面(配向面)とし、平均粒径12μmであり、かつアスペクト比が約10〜20程度の板状粉末であった。
【0116】
(2)微細粉末(第1微細粉末及び第2微細粉末)の作製
まず、第2微細粉末(液相形成物質)として、KNbO3粉末を作製した。
具体的には、純度99.99%以上のK2CO3粉末及びNb25粉末をKNbO3の組成となるように秤量し、有機溶剤を媒体としてZrO2ボールで20時間の湿式混合を行った。その後、750℃で5Hr仮焼し、さらに有機溶剤を媒体としてZrO2ボールで20時間の湿式粉砕を行った。これにより、平均粒径が約0.5μmの第2微細粉末(KNbO3粉末)を得た。
【0117】
次いで、第1微細粉末を作製した。
具体的には、第1異方形状粉末と微細粉末との焼結後の目的組成である(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3から、第1異方形状粉末として用いるNaNbO35at%と液相形成物質として用いるKNbO31at%を差し引いた組成となるように、純度99.99%以上のNa2CO3粉末、K2CO3粉末、Li2CO3粉末、Nb25粉末、Ta25粉末、及びSb25粉末を秤量し、有機溶剤を媒体としてZrO2ボールで20時間の湿式混合を行った。その後、750℃で5Hr仮焼し、さらに有機溶剤を媒体としてZrO2ボールで20時間の湿式粉砕を行うことで平均粒径が約0.5μmの仮焼物粉体(第1微細粉末)を得た。この第1微細粉末の組成は、およそ(Li0.06380.389Na0.547)(Nb0.824Ta0.106Sb0.0691)O3である。
【0118】
(3)結晶配向セラミックスの作製
まず、図1に示すごとく、上記のようにして作製した第1異方形状粉末2と、第1微細粉末31と、第2微細粉末32とを、焼成後の組成が(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3となるような化学量論比で秤量した。具体的には、目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3のNa及びNbのうちの5at%が第1異方形状粉末(NaNbO3)から供給され、目的組成のK及びNbのうちの1at%が第2微細粉末(KNbO3)から供給され、残りが第1微細粉末((Li0.06380.389Na0.547)(Nb0.824Ta0.106Sb0.0691)O3)から供給されるような化学量論比で秤量を行った。秤量後、有機溶剤5を媒体にして、ZrO2ボールでの湿式混合を行うことで原料混合物のスラリー1を得た。また、スラリー1中には、添加元素としてのCuが上記目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O31molに対して0.001mol添加されるように、CuOを添加した。
その後、スラリー1に対してバインダ(PVB)及び可塑剤(フタル酸ジブチル)を、1モルの目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3に対して、それぞれ10.35gずつ加えた後、さらに混合した。
【0119】
次に、ドクターブレード装置を用いて、スラリー1を厚さ100μmのテープ状に成形した。さらに、このテープを積層、圧着及び圧延することにより、厚さ1.5mmの板状の成形体を得た。ドクターブレード装置によって成形を行うと、図2に示すごとく、第1異方形状粉末2に作用する剪断応力等によって、第1異方形状粉末2を成形体11内で略同一の方向に配向させることができる。
【0120】
次いで、得られた成形体11の脱脂を行った。脱脂は、大気中において、加熱温度:600℃、加熱時間:5時間、昇温速度:50℃/hr、冷却速度:炉冷という条件下で行った。さらに、脱脂後の板状成形体11に圧力:300MPaでCIP処理を施した。
その後、成形体11をアルミナこう鉢中のPt板上に配置して酸素中、焼成温度1120℃で5時間焼結を行った。
図3に示すごとく、第1異方形状粉末2が配向する成形体11を焼結させると、異方形状粉末2の配向方位を継承した等方性ペロブスカイト型化合物からなる異方形状結晶25を生成させることができる。その結果、図4に示すごとく、等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、その結晶粒の特定の結晶面Aが配向する結晶配向セラミックス13を得た。これを試料E1とする。
【0121】
次に、本例にて得られた結晶配向セラミックス(試料E1)の嵩密度を測定した。
嵩密度は、次のようにして測定することができる。
即ち、まず、試料E1の乾燥時の重量(乾燥重量)を測定した。また、試料E1を水に浸漬して試料E1の開気孔部に水を浸透させた後、試料E1の重量(含水重量)を測定した。次いで、含水重量と乾燥重量との差から、試料E1中に存在する開気孔の体積を算出した。また、アルキメデス法により、試料E1について、開気孔を除いた部分の体積を測定した。次いで、試料E1の乾燥重量を、試料E1の全体積(開気孔の体積と開気孔を除いた部分の体積との合計)で除することにより、試料E1の嵩密度を算出した。その結果を後述の表1に示す。
また、試料E1について、テープ面と平行な面についてのロットゲーリング法による{100}面の平均配向度F(100)を上述の数1の式を用いて算出した。その結果を後述の表1に示す。
【0122】
また、本例においては、試料E1とは第2微細粉末の量を変えてさらに4種類の結晶配向セラミックス(試料E2〜試料E4、及び試料C1)を作製した。
試料E2は、目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3のK及びNbのうちの2at%が第2微細粉末(KNbO3)から供給されるように配合を行った点を除いては、上記試料E1と同様にして作製したものである。
具体的には、試料E2は、目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3のNa及びNbのうちの5at%が第1異方形状粉末(NaNbO3)から供給され、目的組成のK及びNbのうちの2at%が第2微細粉末(KNbO3)から供給され、残りが第1微細粉末((Li0.06450.383Na0.553)(Nb0.823Ta0.108Sb0.0699)O3)から供給されるような化学量論比で秤量を行い、その他は上記試料E1と同様にして作製した。
【0123】
試料E3は、目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3のK及びNbのうちの5at%が第2微細粉末(KNbO3)から供給されるように配合を行った点を除いては、上記試料E1と同様にして作製したものである。
具体的には、試料E3は、目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3のNa及びNbのうちの5at%が第1異方形状粉末(NaNbO3)から供給され、目的組成のK及びNbのうちの5at%が第2微細粉末(KNbO3)から供給され、残りが第1微細粉末((Li0.06670.362Na0.571)(Nb0.817Ta0.111Sb0.0722)O3)から供給されるような化学量論比で秤量を行い、その他は上記試料E1と同様にして作製した。
【0124】
試料E4は、目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3のK及びNbのうちの10at%が第2微細粉末(KNbO3)から供給されるように配合を行った点を除いては、上記試料E1と同様にして作製したものである。
具体的には、試料E4は、目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3のNa及びNbのうちの5at%が第1異方形状粉末(NaNbO3)から供給され、目的組成のK及びNbのうちの10at%が第2微細粉末(KNbO3)から供給され、残りが第1微細粉末((Li0.07060.325Na0.605)(Nb0.806Ta0.118Sb0.0765)O3)から供給されるような化学量論比で秤量を行い、その他は上記試料E1と同様にして作製した。
【0125】
また、試料C1は、目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3のK及びNbのうちの0.5at%が第2微細粉末(KNbO3)から供給されるように配合を行った点を除いては、上記試料E1と同様にして作製したものである。
具体的には、試料C1は、目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3のNa及びNbのうちの5at%が第1異方形状粉末(NaNbO3)から供給され、目的組成のK及びNbのうちの0.5at%が第2微細粉末(KNbO3)から供給され、残りが第1微細粉末((Li0.06350.393Na0.544)(Nb0.825Ta0.106Sb0.0688)O3)から供給されるような化学量論比で秤量を行い、その他は上記試料E1と同様にして作製した。
【0126】
さらに、本例においては、比較用として、第2微細粉末を用いずに結晶配向セラミックス(試料C2)を作製した。
試料C2は、第2微細粉末(KNbO3)を用いなかった点を除いては、上記試料E1と同様にして作製したものである。
【0127】
試料C2の作製にあたっては、まず、試料E1と同様に、第1異方形状粉末(NaNbO3粉末)を作製した。次いで、Na2CO3粉末、K2CO3粉末、Li2CO3粉末、Nb25粉末、Ta25粉末、及びSb25粉末を、焼結後の目的組成である(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3から、第1異方形状粉末として用いるNaNbO35at%を差し引いた組成となるように秤量した。次いで、上記試料E1と同様にして、湿式混合、仮焼を行い、さらに湿式粉砕を行うことにより、平均粒径が約0.5μmの第1微細粉末((Li0.06320.396Na0.541)(Nb0.826Ta0.105Sb0.0684)O3)を得た。次いで、目的組成(Li0.060.376Na0.564)(Nb0.835Ta0.10Sb0.065)O3のNa及びNbのうちの5at%が第1異方形状粉末(NaNbO3)から供給され、残りが第1微細粉末((Li0.06320.396Na0.541)(Nb0.826Ta0.105Sb0.0684)O3)から供給されるような化学量論比で秤量を行い、その他は上記試料E1と同様にして結晶配向セラミックス(試料C2)を作製した。
【0128】
上記試料E2〜上記試料E4、上記試料C1及び上記試料C2についても、上記試料E1と同様にして嵩密度及び配向度を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1には、各試料(試料E1〜試料E4、試料C1、試料C2)を作製するために用いた第2微細粉末の量を併記してある。
【0129】
【表1】

【0130】
表1より知られるごとく、試料E1〜E4は、嵩密度4.7g/cm3以上という高い緻密性を有しており、さらに84%以上という高い配向度を示した。これに対し、試料C1及び試料C2は、嵩密度4.65未満で緻密性が低く、さらに配向度についても77%以下という低い値を示した。
したがって、本例によれば、試料E1〜試料E4のように、第2微細粉末を1at%以上添加することにより、高い緻密性及び配向度を有する結晶配向セラミックスを作製できることがわかる。
【0131】
試料E1〜試料E4は、第2微細粉末を1at%以上添加して作製している。
そのため、図3に示すごとく、焼結中の成形体12内で、第2微細粉末が液相45を形成することができる。それ故、微細粉末3と第1異方形状粉末2との焼結性の差によって、焼成時に第1異方形状粉末2の周囲にボイドが形成されたとしても、液相45の毛管凝縮力によってボイドを小さくすることができる。そのため、焼結時に、上記第1異方形状粉末2と微細粉末3との間に空隙が生じてそれぞれの材料が孤立してしまうことを抑制し、第1異方形状粉末2と微細粉末3とを充分に焼結反応させることができる。その結果、最終的に得られる結晶配向セラミックス13中に微細粉末3が残存することを抑制することができる。その結果、試料E1〜試料E4のように、緻密性に優れ、非常に配向度の高い結晶配向セラミックスを得ることができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実施例1にかかる、第1異方形状粉末と微細粉末(第1微細粉末及び第2微細粉末)が分散されたスラリーの構成を示す説明図。
【図2】実施例1にかかる、第1異方形状粉末と微細粉末(第1微細粉末及び第2微細粉末)とを有す成形体であって、第1異方形状粉末が内部で一定方向に配向された状態の成形体を示す説明図。
【図3】実施例1にかかる、焼結中の成形体において液相が形成された様子を示す説明図。
【図4】実施例1にかかる、結晶配向セラミックス(試料E1)の構成を示す説明図。
【図5】板状粉末と原料粉末を混合してなる従来のスラリーの構成を示す説明図。スラリーの構成を示す説明図。
【図6】板状粉末と原料粉末とを有す成形体であって、板状粉末が内部で一定方向に配向された従来の成形体を示す説明図。
【図7】焼結中の成形体において第1異方形状粉末が成長する様子を示す説明図。
【図8】多数の原料粉末が残存した状態の従来の結晶配向セラミックスの構成を示す説明図。
【図9】焼結中の成形体において発生するボイドを示す説明図。
【符号の説明】
【0133】
1 原料混合物(スラリー)
2 第1異方形状粉末
3 微細粉末
31 第1微細粉末
32 第2微細粉末
11 成形体
12 成形体(焼結中)
13 結晶配向セラミックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):ABO3(Aサイトは、K+Na又はLi+Na+Kを主成分とし、Bサイトは、Nb、Nb+Ta、Nb+Sb、又はNb+Ta+Sbを主成分とし、Oは酸素)で表される等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する結晶粒の特定の結晶面Aが配向する結晶配向セラミックスの製造方法であって、
ペロブスカイト型化合物よりなり、上記特定の結晶面Aと格子整合性を有する結晶面が配向して配向面を形成している異方形状の第1配向粒子からなる第1異方形状粉末と、該第1異方形状粉末の1/3以下の粒径を有し、上記第1異方形状粉末と共に焼結させることにより上記等方性ペロブスカイト型化合物を生成する微細粉末とを準備する準備工程と、
該微細粉末と上記第1異方形状粉末とを混合して原料混合物を作製する混合工程と、
上記第1異方形状粉末の上記配向面が略同一の方向に配向するように、上記原料混合物を成形して成形体を作製する成形工程と、
上記成形体を加熱し、上記第1異方形状粉末と上記微細粉末とを焼結させて、上記等方性ペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなる上記結晶配向セラミックスを作製する焼成工程とを有しており、
上記微細粉末としては、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物のAサイトのK源となる物質を含有し、かつ融点が上記焼成工程における焼成温度よりも高い第1微細粉末と、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物のAサイトのK源となる物質を含有し、かつ融点が上記焼成工程における焼成温度よりも低い第2微細粉末とを用い、
上記混合工程においては、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物におけるAサイト元素のKのうちの1at%〜15at%が上記第2微細粉末から供給されるように、上記第1異方形状粉末と上記第1微細粉末と上記第2微細粉末との混合を行うことを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記第2微細粉末は、KNbO3を主成分とすることを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記第1配向粒子は、一般式(2):ABO3(Aサイトは、K、Na、Liから選ばれる1種以上を主成分とし、Bサイトは、Nb、Sb、Taから選ばれる1種以上を主成分とする)で表される等方性ペロブスカイト型化合物からなることを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記第1配向粒子の上記配向面は、擬立方{100}面であることを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記原料混合物に、周期律表における2〜15族に属する金属元素、半金属元素、遷移金属元素、貴金属元素、及びアルカリ土類金属元素から選ばれる1種以上の添加元素を含有させることを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、上記添加元素は、上記準備工程において、上記第1異方形状粉末を合成する際に添加することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、上記添加元素は、上記準備工程において、上記微細粉末を合成する際に添加することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項において、上記添加元素は、上記混合工程において、上記微細粉末及び上記第1異方形状粉末と共に添加することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか一項において、上記添加元素は、上記焼成工程後に得られる上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物1molに対して、0.0001〜0.15molとなるような割合で添加することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項10】
請求項5〜8のいずれか一項において、上記焼成工程において上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物におけるAサイト元素又は/及びBサイト元素のいずれか1種以上の元素に対して、上記添加元素が0.01〜15at%の割合で置換添加されるように、上記添加元素の混合割合を調整することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項において、上記焼成工程においては、焼成温度1050℃〜1300℃で上記成形体を加熱することを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項において、上記一般式(1)で表される上記等方性ペロブスカイト型化合物は、一般式(3):{Lix(K1-yNay1-x}(Nb1-z-wTazSbw)O3(但し、0≦x≦0.2、0.3≦y≦0.7、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、x+z+w>0)で表されることを特徴とする結晶配向セラミックスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−284281(P2007−284281A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112468(P2006−112468)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】