説明

結露を防ぐ壁構造

【課題】木造建築物の壁構造は屋外と屋内の温度差と蒸気分圧差によって水蒸気が透過するとき、壁内の温度分布によって夏型結露や冬型結露を生じ、構造体の腐朽、カビによる健康被害などが発生し、夏は透過水蒸気によって蒸し暑く、エアコンの除湿運転に対する負荷が増し、冬は加湿した水蒸気が壁体を透過して屋外に逃げて行き、室内が過乾燥となり、不健康で住みずらくて不経済であった。
【解決手段】壁内温度分布から、夏と冬の壁内の露点位置を特定し、その中間に防湿層7を設け、防湿層を境に両側に2層の断熱層8を設け、室内側の断熱層を湿気の吸放湿素材とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物等の壁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来建築物の壁構造は、図2に示すような断熱材5の屋内側に防湿層7を設けたものや、図3に示す建築躯体の外側に発泡プラスチック系断熱材10を貼ったものや、図4に示す図3の発泡プラスチック系断熱材10の屋内側に防湿層7を設けたものや、図5に示す図4の発泡プラスチック系断熱材10及び防湿層7の内側に付加断熱11をほどこしたものや、図6に示す、セルロースファイバーや羊毛を湿気の吸放湿をする断熱材12として使用したものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、これらの技術による従来建築物の壁構造は、断熱材5の屋内側に防湿層7を設けることで、室内側からの湿流を想定される断熱材5内部の露点位置よりも内側でくいとめる冬型結露だけに対応したもの図2
【0004】
発泡プラスチック系断熱材10の透湿量を無視し、断熱材10内部の気泡中に結露水を蓄積していく可能性を残しているもの図3
【0005】
発泡系断熱材10の透湿量を認識し、断熱材10の内側に防湿層7を設けて冬型結露だけに対応したもの図4
【0006】
図4の外張り断熱及び防湿層7の屋内側に付加断熱11をほどこしたもので、夏型結露及び冬型結露が共に発生する構造図5
【0007】
図6は、断熱材12の断熱力が断熱材の乾燥状態で変化することを無視し、湿気の吸放湿を期待する構造であるが、湿気の吸放湿素材の内部が露点以下であれば内部結露を生じる物理現象に対応できていない。
【0008】
また、水蒸気の流れは、絶対湿度の差による蒸気分圧差によって生じ、水蒸気量の多いところから少ない方へ流れるため、冬季においては、過乾燥になりやすい室内の湿度よりも外気の湿度は低くなり、湿流は室内から壁内へ、そして壁内よりも乾燥いている屋外へと壁内結露を生じながら流れ出て行くことで更に室内が過乾燥になる。夏季においては、室内を冷房及び除湿中には、外気の絶対湿度は室内の絶対湿度よりも常時多く、冷房温度によっては壁内に結露を生じる可能性がある。結露しない場合でも湿流は蒸気分圧差により内向きに生じ、透過水蒸気が室内湿度を上げて冷房負荷を増やすことになる。
【0009】
この発明は、上記の問題を解消するものであり、冬季と夏季に於ける、湿流の逆転による2種類の結露現象をなくし、壁体の吸放湿を、実用性のある性能で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一発明は、壁内の温度分布から、夏型結露と冬型結露の露点位置を湿り空気線図図7において特定し、両露点の中間に防湿層7を設け、断熱層を、防湿層7を境に2層に分けたことを特徴とする壁構造である。
【0011】
第二発明は、防湿層7の室内側の断熱層に湿気の吸放湿素材8を用いることで、夏季における吸湿と冬季における放湿を持たせることを特徴とする。
【0012】
第三発明は、上記壁構造の防湿層7によって湿気の吸放湿素材8である室内側断熱層が含む湿気を冬は屋外に逃がさず、夏は屋外からの湿気の浸入を防ぐことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第一発明によれば、物理的に露点に到達しない位置に防湿層7を設けることによって、夏は屋外から、冬は室内からの透過水蒸気が壁体内で結露しない構造となり、木材や室内を快適な環境に維持することができる。
【0014】
第二発明によれば、室内において、冬季に室内の水蒸気を屋外に逃がさず、夏季に屋外からの水蒸気の侵入を防ぎ、室内側断層8が湿気の吸放湿をすることで、冬季の室内空気が過乾燥になることを防ぎ、夏季においては室内空気が多湿になることを防ぐ。よって室内が適湿な状態になり快適性が向上する。
【0015】
副産物的に、硬度の異なる素材を用いた多層構造になるので音の透過損失が大きくなり、外部からの音をさえぎる外壁の遮音性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
結露を防ぐ最良の壁構造を構成ためには、防湿層7のあるべき最も適した位置を決定しなければならない。その方法として、建築する地方毎の夏の最高気温と冬の最低気温のデータを収集し、壁内温度分布と実在絶対湿度より防湿層の合理的位置を特定する。
【0017】
例として、夏の最高気温36℃、室内温度25℃、相対湿度60%、冬の最低気温0℃、室内温度20℃、相対湿度50%の場合、湿り空気線図図7より夏の露点温度27℃、冬の露点温度9.3℃となる。壁内温度分布図図8より結露境界域線を特定し、結露範囲外の中心線が防湿層7の最も適した理想の位置となる。
【実施例1】
【0018】
この発明の一実施形態を、図1に示す。
本案件の壁構造は、木造であり、外側から外壁材1、外部通気層2、透湿防風防水紙3、構造用面材(構造用合板等)4、断熱材(グラスウール16kg等)5、構造用合板6、防湿層(0.2mm以上の厚さを持つ再生品ではないポリエチレン製又は塩化ビニール製)7、湿気の吸放湿性能を有する断熱材等(セルロースファイバー、木繊維版、羊毛、木材などの内部調湿断熱層、内部調湿断熱層部分の木製骨組み、内部透湿紙、プラスターボード等)8で構成される。
【0019】
この実施形態によれば、防湿層7のあるべき位置を特定、設置し、2重の断熱構造としたことで、壁内に、夏型結露も冬型結露も発生しにくく、壁内結露を起因とする土台や柱の腐り、カビの発生を防ぎ、建築物の耐久性の向上と、利用者の健康維持に貢献できる。
【0020】
さらに夏においてはエアコンの除湿にかかる消費電力を削減し、冬の暖房においては、過乾燥を防ぎ、断熱材の保湿効果による室内相対湿度の維持が、室内空気のエントロピーを上昇させて暖房設定温度を下げても体感温度が下がらない効果がある。よって省エネルギー及びCO2排出量の削減にも貢献できる。
【実施例2】
【0021】
本案件の構造は、屋根又は天井、床にも利用でき、構造の一番内側にある内部仕上材8を湿気の吸放湿素材で構成すれば、どんなものを用いても、効果を損なわない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、省エネルギー住宅の他、病院や高齢者用施設、温暖地における茶葉倉庫などの構造技術に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の結露を防ぐ壁構造の断面図
【図2】充填断熱材の屋内側に防湿層を設けた壁構造の断面図
【図3】建築躯体の外側に発泡プラスチック系断熱材を貼った壁構造の断面図
【図4】図3の発泡プラスチック系断熱材の屋内側に防湿層を設けた壁構造の断面図
【図5】図4の外張り断熱及び防湿層の内側に付加断熱をほどこした壁構造の断面図
【図6】湿気の吸放湿をする断熱材として使用した壁構造の断面図
【図7】湿り空気線図
【図8】壁内温度分布図
【符号の説明】
【0024】
1 外壁材
2 外部通気層
3 透湿防風防水紙
4 構造用面材(構造用合板等)
5 断熱材(グラスウール16kg等)
6 構造用合板
7 防湿層(0.2mm以上の厚さを持つ再生品ではないポリエチレン製又は塩化ビニール製)
8 湿気の吸放湿性能を有する断熱材等(セルロースファイバー、木繊維版、羊毛、木材などの内部調湿断熱層、内部調湿断熱層部分の木製骨組み、内部透湿紙、プラスターボード等)
9 内部仕上材
10 断熱材(発泡プラスチック系断熱材)
11 付加断熱材(グラスウール等)
12 湿気の吸放湿性能を有する断熱材(セルロースファイバー、羊毛等)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の壁体内の結露を、防湿層によって隔てられた2種類の断熱層の厚さを替える事で防湿層の屋内側に発生する冬型結露も、防湿層の屋外側に発生する夏型結露も防ぐ性能を備えた壁構造。
【請求項2】
前記壁構造で、防湿層の屋内側に位置する断熱材に湿気の吸放湿性を備えたものを使用することで、屋内空気を調湿することを特徴とする請求項1記載の壁構造。
【請求項3】
前記壁構造で、調湿断熱材が吸湿した水蒸気を、屋外が屋内よりも乾燥していても、調湿断熱材の屋外側に防湿層を備えることで、外に逃がさないことを特徴とする請求項1記載の壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−45325(P2008−45325A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221411(P2006−221411)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【出願人】(304036167)有限会社 オカトミ (3)
【Fターム(参考)】