説明

総ころニードル軸受

【課題】荷重に対する負荷容量を十分に大きくすることができ、かつ、軸受の駆動により生じる軸受損傷の発生を抑制し、長寿命化した総ころニードル軸受を得ることを目的とする。
【解決手段】外輪12、針状ころ13、及び外周面に軸受軌道面を設けた部材15を含む部材から構成される総ころニードル軸受11において、針状ころ13のうち少なくとも1本は、両端面を開放した円筒状とした中空針状ころであり、この中空針状ころの内部にグリースを含有する樹脂潤滑剤を注入したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、総ころニードル軸受、詳しくは、総ころニードル軸受に用いられる針状ころに関する。
【背景技術】
【0002】
保持器を有さない総ころニードル軸受は、ころの本数を最大限軸受内部に配置する構造であり、荷重に対する負荷容量の大きい場合に用いられる。このような総ころニードル軸受の例として、特許文献1や特許文献2に記載のカムフォロア等があげられる。
【0003】
上記の特許文献1に記載のカムフォロアは、針状ころのまわりに、グリース含有の固形樹脂潤滑剤が充填されている。また、特許文献2に記載のカムフォロアは、各針状ころ間に潤滑剤含有ポリマーからなるセパレーターを介在させている。
【0004】
【特許文献1】実開平6−32809号公報([0005]段落)
【特許文献2】特開2000−145791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、保持器を有さない総ころニードル軸受は、針状ころ同士が接触し得る構造であるため、グリースを保持するための軸受内部の空間容積が、保持器付き軸受に比べて小さい。また、軸受の駆動で軸受内部から外部へ排出されてしまったグリースは、再び軸受内部に戻りにくいため、軸受の潤滑に寄与する働きは少ない。さらに、軸受の駆動に伴って、軸受内部の空間内に残存するグリースの劣化が進行していくと、針状ころと軌道輪が金属接触を生じやすくなり、軸受損傷の原因となりやすい。
【0006】
上記の特許文献1に記載のカムフォロアは、グリースとしてグリース含有の固形樹脂潤滑剤を用いる。このため、軸受の駆動で軸受内部から外部へ排出されるグリースは減少する。しかし、保持器付き軸受の場合はころ間のすきまが大きく固形潤滑剤を内部に形成できるが、総ころニードル軸受においてはころ間のすきまが狭いため固形樹脂潤滑剤が分断されて、形成することが困難である。
【0007】
また、上記の特許文献2に記載のカムフォロアは、滑剤含有ポリマーからなるセパレーターを配するため、針状ころ間の距離が大きくなる。このため、配される針状ころの本数が減少し、荷重に対する負荷容量を十分に大きくできないおそれがある。
【0008】
そこで、この発明は、荷重に対する負荷容量を十分に大きくすることができ、かつ、軸受の駆動により生じる軸受損傷の発生を抑制し、長寿命化した総ころニードル軸受を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明にかかる総ころニードル軸受は、針状ころのうち少なくとも1本は、両端面を開放した円筒状とした中空針状ころであり、その内部にグリースを含有する樹脂潤滑剤を注入したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、針状ころのうち少なくとも1本を中空針状ころとし、その内部にグリースを含有する樹脂潤滑剤を注入するので、軸受内部のグリース量をより増大させることができる。そして、この中空針状ころから、樹脂潤滑剤中のグリースを補給することが可能となる。このため、より長くグリース供給が可能となり、軸受の寿命をより長く保つことができる。さらに、セパレーターを配しないため、より多くの針状ころを配することができるので、得られる軸受の荷重に対する負荷容量を十分に大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明について、図1〜図3を用いて説明する。
この発明にかかる総ころニードル軸受11は、外輪12、針状ころ13、側板14、及び外周面に軸受軌道面を設けた部材(以下、「内輪系部材」と称する。)15を含む部材から構成される軸受である。上記の内輪系部材15としては、内輪や、カムフォロアで使用されるスタッド等があげられる。
【0012】
上記針状ころ13は、保持器を用いることなく、外輪11と内輪系部材15との間に可能な限りの本数が配される。また、外輪11と内輪系部材15との間には、外輪11と針状ころ13との接触、及び針状ころ13と内輪系部材15との接触を防止するため、グリースを充填する。
【0013】
上記の外輪11と内輪系部材15との間に配される針状ころ13の少なくとも1本として、図2(a)(b)等に示すように、両端面を開放し、円筒状とした中空針状ころを用いるのが好ましい。そして、この中空針状ころの内部には、グリースを含有する樹脂潤滑剤が注入される。この中空針状ころを用い、その内部にグリースを含有する樹脂潤滑剤を注入するので、軸受内部のグリース充填量を増加させることができ、また、この中空針状ころから、樹脂潤滑剤中のグリースを補給することが可能となる。これにより、より長くグリース供給が可能となり、軸受の寿命をより長く保つことができる。
【0014】
上記中空針状ころは、内部が空洞で肉薄のため、荷重を十分に受けられない。このため、あまり多くの中空針状ころを用いるのは好ましくない。この中空針状ころの本数は、少なくとも1本用いることは、上記の効果を発揮させるために必要であるが、軸受寿命をより長く保つ点、及び荷重に対する負荷容量を十分に大きくする点の両方を両立させる観点から、複数本、特に2〜3本用いるのが好ましい。
【0015】
上記中空針状ころを複数本使用する場合、各中空針状ころの間の距離がほぼ均等になるように、それぞれの中空針状ころを配するのが好ましい。この中空針状ころが集中して配されると、その部分の荷重を十分に受けられなくなるおそれがあるからである。
【0016】
上記中空針状ころには、図2(a)に示すように、転走面の少なくとも一箇所に中空部に連通した孔16が形成されたり、又は、図2(b)に示すように、転動面の一方の端縁から他方の端縁にかけて、中空部まで達したスリット17が形成されたりしてもよい。この孔16やスリット17を設けることにより、中空針状ころ内の樹脂潤滑剤に含まれるグリースを中空針状ころの外部に染み出させることができ、軸受内のグリース供給に寄与することができるからである。
【0017】
ところで、上記中空針状ころのうち、上記孔16を含むこの孔16の周囲の部分のころ径を、他の部分のころ径より、若干小さめにすることが好ましい(図2(a)参照)。これにより、この孔16のエッジが隣り合うころと接触して不具合を起こすのを防止することができる。
【0018】
ところで、上記したように、中空針状ころは、内部が空洞で肉薄のため、荷重を十分に受けられない。このため、この中空針状ころに対して、荷重があまりかからないようにするのが好ましい。この中空針状ころに対して、荷重があまりかからないようにする方法として、上記中空針状ころのころ径を、上記の中空針状ころ以外の針状ころ(以下、「中実針状ころ」と称する。)のころ径の0.8〜0.9倍とするのが好ましい。ころ径が0.8倍未満だと、中空針状ころの滑りが顕著となり、転動面及び針状ころの表面に損傷が生じるおそれがある。一方、ころ径が0.9倍より大きいと、中実針状ころと外形寸法がほとんど同一となるため、偏荷重がかかった場合に、中空針状ころに荷重を受けてしまうおそれがある。
【0019】
上記グリースを含有する樹脂潤滑剤(以下、単に「樹脂潤滑剤」と称する。)とは、グリースを樹脂に混練した潤滑剤をいい、加熱することにより流動性を生じ、冷却することにより、固形化する潤滑剤をいう。
【0020】
上記のグリースとは、基油と増ちょう剤を混合した潤滑剤である。この基油としては、ポリα−オレフィン油等のパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、流動パラフィン、ジアルキルジフェニルエーテル油等のエーテル油、フタル酸エステル等のエステル油等を単独若しくは混合油の形で混ぜて調整した油があげられる。
【0021】
又、上記増ちょう剤としては、リチウム石鹸、カルシウム石鹸、アルミニウム石鹸、ナトリウム石鹸等の金属石鹸、ウレア、ジウレア、テトラウレア等のウレア系増ちょう剤、無機増ちょう剤等があげられる。
【0022】
なお、上記グリースの軟化点は、上記樹脂のゲル化温度より高いのが好ましい。これは、上記樹脂潤滑剤を、上記中空針状ころ内に注入したり、上記外輪11と内輪系部材15との間に充填したりするために、ゲル化して流動性を付与する必要があり、この樹脂のゲル化点より、上記グリースの軟化点を高くすることで、グリースの注入時や充填時の流出や劣化を防止することができるからである。
【0023】
上記の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂等があげられる。この中でも、平均分子量1×10〜5×10の超高分子量ポリエチレンが、より好ましい。
【0024】
上記樹脂潤滑剤中のグリースと樹脂との混合割合は、上記樹脂潤滑剤に対し、樹脂含有量が95〜1wt%が好ましく、グリースを主成分とするのが好ましい。
【0025】
なお、上記樹脂潤滑剤は、この発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、固体ワックス等の油の滲み出し抑制剤、酸化防止剤、錆止め剤、摩耗防止剤、あわ消し剤、極圧剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明にかかる総ころニードル軸受の例を示す断面図
【図2】(a)(b)中空針状ころの例を示す拡大図
【符号の説明】
【0027】
11 総ころニードル軸受
12 外輪
13 針状ころ
14 側板
15 内輪系部材
16 孔
17 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪、針状ころ、及び外周面に軸受軌道面を設けた部材を含む部材から構成される総ころニードル軸受において、
上記針状ころのうち少なくとも1本は、両端面を開放した円筒状とした中空針状ころであり、この中空針状ころの内部にグリースを含有する樹脂潤滑剤を注入したことを特徴とする総ころニードル軸受。
【請求項2】
上記中空針状ころの本数は3本であることを特徴とする請求項1に記載の総ころニードル軸受。
【請求項3】
上記中空針状ころの転走面の少なくとも一箇所に中空部に連通した孔を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の総ころニードル軸受。
【請求項4】
上記中空針状ころの転動面の一方の端縁から他方の端縁にかけて、中空部まで達したスリットを形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の総ころニードル軸受。
【請求項5】
上記中空針状ころのころ径は、上記の針状ころのころ径の0.8〜0.9倍であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の総ころニードル軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−261375(P2008−261375A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103023(P2007−103023)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】