説明

総合栄養組成物

【課題】高齢者、入院患者のように、食事によって十分な栄養摂取ができない人に対して、それのみで必要とされる栄養を全て供給できる改善された総合栄養組成物を提供すること。
【解決手段】窒素源、ミネラル、ビタミンを含み、場合により糖質、脂肪を含有し、窒素源中のグルタミンが11.0質量%以上で、ロイシンが7.0質量%以上、バリンが4.0質量%以上、イソロイシンが3.0質量%、アルギニンが3.0質量%以上で、かつ(i)(a)ロイシン含量が10.0質量%以上、(b)バリン含量が6.5質量%以上、(c)イソロイシン含量が5.5質量%以上のいずれか1つ以上の条件を満たすこと及び/又は(ii)アルギニン含量が7.0質量%以上の条件を満たす総合栄養組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な栄養組成物、より詳しくは高齢者、入院患者などで褥瘡のリスクがあり栄養補給を必要とする人に対して、これら対象者に対してこれまでにない総合栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療の発達により人の寿命は急速に伸びている。この一方で、高齢入院患者、高齢の在宅療養者で栄養状態の悪化が懸念されている。「平成7年10年の『高齢者の栄養管理サービスに関する研究』(主任研究者:松田朗ほか99年厚生省報告)では、栄養指標である血清アルブミン値が3.5g/dL以下の低栄養のものは、高齢入院患者の約4割、在宅訪間患者の約3割で観察された。食事摂取量の低下などから適切なたんぱく質やエネルギーの供給不足が、重篤な低栄養状態を招き、この結果、免疫低下による感染症、筋力の低下、寝たきりの状態がおこり、最終的に在院目数の延長、医療費の増大の原因につながっている。寝たきりの場合には褥瘡を発症することが多いが、褥瘡発生に関する因子として、エネルギー不足、たんぱく量摂取不足、体たんぱく合成の障害、脂肪摂取不良、亜鉛など微量元素の欠乏などが原因としてあげられている(非特許文献1)。また、高齢者の擬瘡発生に関与する特徴的な因子として、血管障害など複数の合併症、食欲不振、低栄養からの免疫能低下があるといわれている(非特許文献1)。
【0003】
褥瘡に有効な栄養組成物として、総合栄養組成物が知られている。この組成物は蛋白質を高め、銅亜鉛比率を特定し、ナトリウムを添加した、蛋白質、糖質、脂肪、ミネラル、ビタミンを配合した総合的な栄養組成物である(特許文献1)。しかし、この公開の発明は、その技術的範囲の窒素源には動物性蛋白質と植物性蛋白質を開示しているが、褥瘡に対するアミノ酸の組成にまで言及したものではない。褥瘡や創傷に対するアミノ酸組成に関しては、必須アミノ酸と一部の非必須のアミノ酸の組成の範囲が開示されている(特許文献2)。しかしこれらは、単に遊離のアミノ酸の組成濃度を規定するだけで、実際臨床現場で多くの患者に補給される総合栄養組成物の窒素源中アミノ酸比率、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルの組成を総合的に検討したものではない。
褥瘡は、上述したように根底に栄養素の補給の不足やバランスを欠く不適切な栄養組成物の補給がある。特に高齢者や高度な低栄養の患者では胃の容量も大きくなく、摂取できる食物量が限られる。したがって、摂取量当たりのカロリーが高く、しかも各栄養成分をバランスよく含み、かつビタミン、ミネラルなどの成分が高濃度に入っている経腸栄養組成物は重要である。このため、経腸栄養組成物100 mLで100 kcal摂取できるものが市販されており、その需要は今後も増大すると予測される。
【0004】
しかし、現状においては、褥瘡の改善に必要である、栄養指標の血清アルブミン値を改善し、血中の銅、亜鉛、ナトリウム等の濃度を適性に保つ最適な効果のある総合栄養組成物は未だ知られていない。また、精製された純度の高い窒素源(アミノ酸やたんぱく質)、脂質を多く配合し、それらの生体内でのエネルギー産生を円滑にするためのビタミン類を適正に含ませ、これに窒素源中アミノ酸の組成を総合的な観点で、必要成分を適切に配合した総合栄養組成物はこれまで供給されていない。特に、窒素源であるたんぱく質を多く含む栄養組成物に対してナトリウム含量を増やすことは、これまでたんぱく質沈殿(塩析)が生じることから限界があった。しかし、高齢者の場合には低ナトリウム血症を起こす場合があるので、高エネルギー総合栄養組成物において、たんぱく質含量と同時にナトリウム含量を高めることは極めて重要である。さらに、高栄養という観点からは、カロリー密度が高い、たとえば100 mLで150 kcal以上で褥瘡に優れた効果を有する総合的な栄養組成物は存在しない。
これら褥瘡の栄養療法に用いる最適な総合栄養組成物が現在ないため、臨床現場においては未だ一般病院では7%程度の患者が、また癌末期の終末ケアにはさらに多くの患者が褥瘡に苦しんでいるのが現状であり、適切な総合栄養組成物の発見が切望されている(非特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】WO2006/033349号
【特許文献2】特開平11−130669号公報
【非特許文献1】臨床栄養:103巻、4号、424−431頁、2003年
【非特許文献2】褥瘡会誌、8(1):92〜99、2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高齢者、入院患者のように、食事によって十分な栄養摂取ができない人に対して、それのみで必要とされる栄養を全て供給できる改善された総合栄養組成物を提供することを目的とする。
本発明は、又、褥瘡やこれに類する創傷の治癒を促進し、あるいは予防することができる総合栄養組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の総合栄養組成物は、窒素源、ミネラル、ビタミンを含み、好ましくは、さらに、糖質、脂肪を含有し、場合により以下の特徴を総合的に組み合わせることによって所期の目的を達成するものである。
(1) 窒素源中のグルタミンが11.0質量%以上、ロイシンが7.0質量%以上、バリンが4.0質量%以上、イソロイシンが3.0質量%、アルギニンが3.0質量%以上で、かつ(i)(a)ロイシン含量が10.0質量%以上、(b)バリン含量が6.5質量%以上、(c)イソロイシン含量が5.5質量%以上のいずれか1つ以上の条件を満たすこと及び/又は(ii)アルギニン含量が7.0質量%以上の条件を満たす総合栄養組成物である。このような組成を採用することにより、褥瘡治癒が促進することが明らかとなった。
(2) 組成物100kcalあたり、銅含量をO.15mg以下とし、亜鉛と銅の質量比を7〜25、好ましくは10〜20、特に好ましくは15〜18とすることである。この場合、亜鉛含量を1.5mg以上とし、銅含量を0.075〜0.15mgとすることがさらに好ましい。これは、銅の含有量が高いと亜鉛の吸収が阻害されるという知見に基づいて導かれる特徴点である。
【0008】
(3) 組成物100kcalあたり、ビタミンB1を少なくとも0.2mgおよびビタミンB2を少なくとも0.25mg含むことである。これは、糖質からのエネルギー産生に必要なビタミンB1、脂質からのエネルギー産生に必要なビタミンB2を高濃度に入れることによって、エネルギー産生を効率よく出来ることを応用し、褥瘡の組織の修復に不可欠なエネルギーを効率よく供給し体たんぱく合成を促進する。
(4) エネルギーの補給源には脂質も用いるが、通常の植物油脂である長鎖脂肪酸油に加え、生体エネルギーとして高いエネルギー産生能を有する中鎖脂肪油を特定割合で配合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の総合栄養組成物は、褥瘡の予防、改善、これに類する創傷たとえば、外科手術後の傷、熱傷、放射線による傷の予防、改善や、血中のアルブミン値の改善、血中亜鉛含量の増加、末梢リンパ球数の増加、消化管上皮組織の機能の上昇などの顕著な効果を奏する。特に、褥瘡の原因の根本にある、低栄養状態の回復に顕著な効果を示し、さらに褥瘡部位の肉芽の合成を促し、露出した組織を速やかに覆ように皮膚形成を促進するとの優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の総合栄養組成物は、窒素源、ミネラル、ビタミンを含み、場合により糖質、脂肪を含有する。
ここで、窒素源(たんぱく質、アミノ酸、ペプチド)は、組成物100kcalあたり、好ましくは4.0g以上、より好ましくは5.0g以上含有させるのがよい。窒素源としては、酸カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、乳性たん白質などやこれらの加水分解物を例とする乳たんぱく質などの動物性たんぱく質や大豆たんぱく質、小麦たんぱく質などやこれらの加水分解物を例とする植物性たんぱく質の如何なるものも利用できる。特に栄養低下の原疾患である脳血管障害のある人またはこのリスク因子の高脂血症の人当には、栄養素バランスの1つとして動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の比率を考え摂取することが動脈硬化防止や血中脂肪低下のために重要である。このことから、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質を混合使用し、その比率を4:1から1:4とすることが望ましい。窒素源は、栄養学的にはアミノ酸のバランスが重要である。窒素源としてグルタミンあるいはグルタミンペプチドと遊離のロイシン、バリン、イソロイシン、アルギニンや大豆たんぱく質あるいは、その加水分解物を含むことが望ましい。さらに、組成物窒素源中の総グルタミンが少なくとも11.0質量%であることが望ましい。さらに好ましくは13.0質量%以上である。他方、配合可能な窒素源として一部を例示すると、褥瘡に有用であるヌクレオプロテイン及び/又はDNA又はRNAの酵素分解物又は加水分解物、該分解生成物から分離したデオキシオリゴヌクレオチド、デオキシモノヌクレオチド、オリゴペプタイド、オリゴヌクレオチド、モノヌクレオチドを配合してもよい。
【0011】
特に、使用するたんぱく質を構成するアミノ酸の量を求め、これに遊離アミノ酸を添加して、本発明の栄養組成物を調製するのが好ましい。窒素源中のグルタミンが11.0質量%以上で、ロイシンが7.6質量%以上、バリンが4.6質量%以上、イソロイシンが3.8質量%、アルギニンが3.4質量%以上であるのがさらに好ましく、かつ(i)(a)ロイシン含量が11.0質量%以上、(b)バリン含量が7.5質量%以上、(c)イソロイシン含量が6.0質量%以上のいずれか1つ以上の条件を満たすこと及び/又は(ii)アルギニン含量が8.0質量%以上の条件を満たすのがさらに好ましい。
又、グルタミン含量の上限が35.0質量%、ロイシン含量の上限が50.0質量%、バリン含量の上限が35.0質量%、イソロイシン含量の上限が30.0質量%、アルギニン含量上限が60.0質量%であるのが好ましい。さらにロイシン、バリン、イソロイシンの総量は少なくとも16.6質量%がよく、望ましくは19.4〜70.0質量%がよい。また、ロイシン、バリン、イソロイシンおよびアルギニンの総量は、24.0質量%以上であって85.0質量%以下が褥瘡に対する効果とアミノ酸栄養バランスを確保する上で大変好ましい。
【0012】
ミネラルの必要量は、日本人の食事摂取基準を基本に定めることを原則とする。しかし、高齢者では摂取量が低下して低ナトリウム血症が問題となり、これら電解質の異常も褥瘡組織の修復を遅らせることから、本発明の総合栄養組成物ではナトリウムを強化するのが好ましい。ナトリウム源は、人が摂取または給与されるものであればよくその種類は問われないが、塩析によってたんぱく質を沈殿させないために、クエン酸ナトリウム、燐酸ナトリウムを主たるナトリウム源として用いる。本発明においては、ナトリウム含量が100kcalあたり160mg以上で有効性が示されるが、特に、100kcalあたり185〜385mgで著しい効果を有する。
生体の多くの酵素の機能、構造に大きく係る亜鉛は、栄養状態が悪い人では低下する。亜鉛の補給は血中の亜鉛濃度を上昇させ、特に褥瘡など創傷をもつ患者あるいはこのリスクのある者に有用である日さらに亜鉛の吸収は2価イオンである銅と競合することから、銅と亜鉛の配合割合と銅の含有量を、亜鉛の吸収に有利なように配合するのが好ましい。本発明の総合栄養組成物においては、100 kcalあたり亜鉛を少なくとも1.5mg含有するのが好ましく、より好ましくは1.5〜3.0mg、銅をO.075〜0.15 mg含有するのが好ましく、亜鉛と銅の質量比を7/1〜25/1、好ましくは10/1〜20/1、特に好ましくは13/1〜18/1とすることにより、擦瘡柱との創傷治癒を促進させる効果が得られる。
【0013】
さらに好ましくは、組成物100kcalあたり、亜鉛を1.8〜3.Omg、銅をO.09〜0.12mg、ナトリウムを185〜385mg含有する。
又、栄養補給が必要な人の炎症状態に応じて、抗酸化作用をもつ微量元素であるセレンを100 kcalあたり4.5〜18μg程度本品に添加することは有用である。また、その他の抗酸化作用および抗炎症作用を有する物質を配合してもよい。この一部を例示すると、イソフラボンおよびこの配糖体、ぶどう種子や緑茶等に含まれるポリフェノール類、クルクミンなどであり、これにより特定されるものではない。
【0014】
ビタミンは、エネルギー産生、たんぱく質代謝、皮膚や粘膜の生理機能保持などの多くの生体活動に必須の補酵素として重要である。しかし、低栄養状態の人に対して配合されるべき量の検討はこれまで十分に配合されていない。本発明の総合栄養組成物においては、100kcalあたりビタミンB1を少なくとも0.2mg、ビタミンB2を少なくとも0.25mg、ビタミンB6を少なくとも0.3mg、ビオチンを少なくとも1.Oμg配合するのが好ましい。さらに最も効果的な配合は、糖質、脂肪の体内での燃焼を助長し、創傷部のたんぱく合成を高めるために、1OO kcal出あたりビタミンB1がO.4〜2.O mg、B2がO.25〜2.0 mg、ビタミンB6が0.5〜2.0 mg、ビオチンが1.O〜10μgである。さらに、その他のビタミンの添加が栄養状態の改善、維持、低栄養状態の予防、褥瘡の治療あるいは予防、貧血の治療あるいは予防のために有効である。本発明の総合栄養組成物では、抗炎症作用、抗酸化作用、褥瘡防止作用のあるビタミンB12、葉酸、β−カロチン、ビタミンCなどを配合することが推奨される。具体的には、本発明の総合栄養組成物100kcalあたり。例えばビタミンB12を0.20〜0.7μg、葉酸を20〜80μg、β−カロチンを1OO〜450μg、ビタミンCを10〜70mg配合する。これらすべての配合ビタミンは人が摂取できるものであればいずれの原材料でもよくとくに由来等が特定されるものではない。
【0015】
糖質としては、デキストリン、オリゴ糖、蔗糖、グルコース、果糖などを単独でもしくは組み合わせて用いるのが好ましい。本発明の総合栄養組成物は、糖質を0〜35.0質量%含有するのが好ましい。
本発明の総合栄養組成物に用いる脂肪は、人が摂取できる脂肪源であればよく、動物性および植物性の吸収可能な脂肪が使用できる。特に、高率のエネルギー供給が必須の場合、グルコースに匹敵する腸管からの吸収速度を有し、エネルギー産生率が大きい中鎖脂肪酸油、中鎖脂肪酸油や中鎖脂肪酸をその構造の中に含む脂肪が推奨される。また、抗炎症作用を有するエイコサペンタエン酸やαリノレン酸などのω3系脂肪酸を含むことも、炎症を持った患者や炎症予防が必要な患者など、これらの脂肪が必須な人には積極的な給与が必要である。本発明の総合栄養組成物では、とくに中鎖脂肪酸油を総脂肪の35質量%以上含み、かつ脂肪中ω3系脂肪酸:ω6系脂肪酸が1:10から1:1とすることが好ましい。さらに、中鎖脂肪酸油が脂肪中40〜65質量%でかつ脂肪中ω3系脂肪酸:ω6系脂肪酸が1:4から1:1であることが望ましい。中鎖脂肪酸は炭素数6〜12の脂肪酸であり、消化吸収が早くエネルギー効率がよく、ω3系脂肪酸は抗炎症作用を有することから褥瘡やこれに類する創傷を有する高齢者や入院患者の治療食として適している。
本発明の総合栄養組成物は、脂肪を0〜55.0質量%含有するのが好ましい。
【0016】
上記の成分のほかに、必須アミノ酸であるスレオニン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンを必要に応じて添加する。また、ミネラルとしては、先に特記したナトリウム、亜鉛、銅のほかに、カルシウム、鉄、リン、マグネシウム、カリウム、ヨウ素、マンガン、セレン、クロム、モリブデンなどを必要に応じて添加する。
カロリー密度(kcal/ml)に関しては、患者の状態に応じて最適なものが選ばれ、0.5 kcal/mlから始まり1.5kcal/ml以上でもよい。胃の容積が小さな高齢者では、高栄養という観点から1.5kcal/ml以上が好ましい。
本発明の総合栄養組成物は、経口摂取が不十分な患者に対しては、投与チューブを用いて直接腸や胃に給与することができる。特に胃に直接投与する場合には、胃食道に栄養組成物が逆流し肺炎など重篤な症状の原因となる。この場合、本発明の栄養組成物に増粘剤などを加えて組成物の粘度を自由に調整できる。この場合好ましくは、1,000 mPa・s以上で7,000 mPa・s以下がよい。
【0017】
褥瘡およびこれに類する創傷に関連した炎症および浮腫の重症度を軽減させるために抗サイトカイン剤もしくは抗炎症剤、免疫調整剤またはその機能性誘導体、および製薬上許容される担体を併用することも可能である。一部を例示すると、インターフェロン、イロプラスト、シカプロスト、コルチゾール、プレドニゾロン、デキサメサゾン、シクロスポリン、FK−506、メトキシサレン、サリドマイド、スルファサラジン、アザチオプリン、メトトレキセート、リポキシゲナーゼ阻害剤、ロイコトリエン拮抗剤、抗TNF抗体、インターロイキンなどである。
本発明の総合栄養組成物には、経口摂取を容易にするために、適当な香料、アスパルテームなどのノンカロリー甘味料を加えることが可能である。さらに、排便促進のための難消化性食物繊維などの成分、場合によっては経口投与される医薬品なども、本発明の総合栄養組成物の機能を妨げない範囲で必要に応じて添加することができる。
本発明の総合栄養組成物は、褥瘡あるいは創傷を持つ栄養状態が低下した人に提供されるが、例えば、たんぱく質・エネルギー低栄養状態、低アルブミン血症、低ナトリウム血症、亜鉛欠乏状態、貧血、ヘモグロビン値およびヘマットクリット値の低下、免疫能力低下などに苦しむ人には特に有効である。したがって、これまで有効な組組成物がなかったこれらの人々には本発明の総合栄養組成物は大きな貢献をするものである。
次に実施例に基づいて本発明を説明する。
【実施例】
【0018】
〔実施例1〕
総合栄養組成物の調製(組成物1)
褥瘡に対する最適栄養効果を熟考し、栄養素組成〔表1〕を調製した。これを具現化するための原料配合表を〔表2〕に示す。原料配合表に従い配合し、高圧乳化機の圧力を500〜1,000 kg/cm2として複数回乳化工程を実施することによって、液状総合栄養組成物を調製した。すなわち、原材料と水とを高圧乳化機を用いて高圧乳化を繰り返し良好な乳化液を調製した。動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の質量比率を1.7:1.0とした。また、グルタミンペプチドと、大豆たんぱく質あるいはこの加水分解物の質量比率は1.5:1.0であり、さらに脂肪酸組成においてω3系脂肪酸:ω6系脂肪酸の質量比率は1:3となるよう配合した。アミノ酸組成は、総窒素源が、グルタミン15.0質量%、ロイシン13.8質量%、バリン7.1質量%、イソロイシン6.9質量%、アルギニン3.5質量%であった。これを通常の充填機を用いてアルミ製袋に充填し、レトルト殺菌機に入れ、通常の条件で滅菌を実施した。この液は1年後においても全成分は安定であり、粘度は9mPa・s(25℃)であった。また、この調整液に増粘剤を添加し、とろみ調整栄養組成物(1,000〜7,000 mPa・s)あるいはゼリーを製造することができた。この栄養組成物のカロリー密度は、1.0 kcal/mlであった。
【0019】

【0020】

【0021】
〔実施例2〕
総合栄養組成物の調製(組成物2)
実施例1と同様に〔表3〕に示される栄養素組成を調製した。これを具現化するため原料配合表を〔表4〕に示す。実施例1と同様に、原材料および乳化剤の配合量を組み合わせ、さらに高圧乳化機の圧力を500〜1,000kg/cm2として複数回乳化工程を実施し、液状総合栄養組成物を調製した。すなわち、原材料と水とを高圧乳化機を用いて高圧乳化を繰り返し良好な乳化液を調製した。動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の質量比率は1.7:1.0であった。また、グルタミンペプチドと、大豆たんぱく質加水分解物の質量比率は1.5:1であり、さらに脂肪酸組成においてω3系脂肪酸/ω6系脂肪酸の質量比率は1:1とした。アミノ酸組成は、総窒素源が、グルタミン15.0質量%、ロイシン7.6質量%、バリン4.9質量%、イソロイシン4.2質量%アルギニン14.5質量%であった。これを通常の充填機を用いてアルミ製袋に充填し、レトルト殺菌機に入れ、通常の条件で滅菌を実施した。この液は1年後においても全成分は安定であり、粘度は6mPa・s(25℃)であった。また、この調整液に増粘剤を添加し、とろみ調整栄養組成物(1,000〜7,000 mPa・s)あるいはゼリーを製造することができた。この栄養組成物のカロリー密度は、1.0 kcal/mlであった。
【0022】

【0023】

【0024】
〔実施例3〕総合栄養組成物の調製(組成物3)
実施例1と同様に〔表5〕に示される栄養素組成を調製した。これを具現化するための液状物の原料配合量を〔表6〕に示す。実施例1と同様に、ナトリウム原材料と窒素源原料、乳化剤およびその他の原材料を組み合わせ、さらに乳化機の圧力を50 〜200 kg/cm2として1回乳化を実施し、総合栄養組成物を調製した。アミノ酸組成は、総窒素源がグルタミン11.0質量%、ロイシン11.0質量%、バリン4.6質量%、イソロイシン3.8質量%アルギニン4.6質量%であった。
これを通常の充填機を用いてアルミ製袋に充填し、レトルト殺菌機に入れ、通常の条件で滅菌を実施した。この液は1年後においても全成分は安定であり、粘度は4,500 mPa・s(25℃)であった。また、この調製液は実施例1および実施例2と同様に適度な量の増粘剤を添加してさらに粘度をつけ、とろみ調整栄養組成物あるいはゼリーを製造することが可能であった。この栄養組成物のカロリー密度は、2.0 kcal/mlであった。
【0025】

【0026】

【0027】
[有効性試験]
褥瘡モデル動物の発明研究
これまで、濃厚流動食や栄養素の創傷治癒への効果確認には、皮膚を切除する切創モデルが主に用いられ、褥瘡モデルを用いた評価はみられない。一方、褥瘡発生および治癒のメカニズムや治療薬の研究には、褥瘡モデル動物を用いた検討がいくつか報告されている(応用薬理、37(4)、313−27、1989)(臨床医薬、6(3)、627−39、1990)。しかし、それらのモデルは皮膚に圧を加えヒトの褥瘡に類する創傷を発生させるだけのモデルであり、現実の褥瘡患者の低栄養を伴った状態を反映したモデルはこれまで報告されていない。現状において今なお褥瘡患者に最適な栄養療法が確立していないことから、有効な栄養素や栄養組成物を評価する系の立ち上げは急務である。そこで、栄養素および栄養組成の褥瘡に対する評価に用いることを目的とし、褥瘡患者の栄養状態を加味した新規褥瘡モデル動物の確立を検討した。
【0028】
SD系雄性ラットを用い加圧条件を検討した。皮膚への加圧条件は7〜25 mmの直径を有する円柱のステンレスシリンダーで、0.2〜1.6 kgf/cm2で1時間×1日〜5時間×5日間加圧する条件を変化させ、これらの条件下で褥瘡が発症することを確認した。次に、低栄養状態にある動物の作成検討を行った。0質量%カゼインAIN−93Gベース資料では21日間の給餌により血中アルブミン値が低下し、低栄養状態を誘発したが、最終加圧翌日の褥瘡の大きさは健常動物への圧負荷時よりも非常に小さかった。また、5質量%カゼイン飼料は低栄養状態を誘発しなかった。そこで、1質量%および3質量%カゼイン食を用いたところ、低栄養状態を誘発する条件を見出した。より安定した褥瘡の発生は、1質量%カゼイン飼料となった。さらに、臨床において褥瘡発生促進因子である尿や汗による皮膚湿潤環境を再現するため、蒸留水で湿らせた脱脂綿を加圧部周囲に置きラット背部をラップで包み込んだ。このことで皮膚に適度の湿り気と温度を与えることによりさらに安定した創傷面積の確保が可能となり、実験系の発明が完成した。
このモデル系はこれらアミノ酸栄養を含め、栄養素の褥瘡に対する有効性を検証するのに非常に有益である。
【0029】
褥瘡モデル動物における発明組成物の褥瘡治癒促進効果の試験
SD系雄性ラットを、カゼイン1%AIN−93Gベース飼料で28日間飼育し、低栄養状態とした。28日間の低カゼイン食を給餌後、剃毛したラット背部に、ペントバルビタール麻酔下に、加圧は、ラットをヒーターマットで保温し、加圧部位の下にステンレス板を敷き、ラット右側から直径15mmのステンレス製の円柱用いて0.8 kgf/ cm2の圧力で一日3時間加圧した。また、臨床における尿や汗による湿潤環境を再現するため、蒸留水で湿らせた脱脂綿を加圧部周囲に置きラット背部をラップで包み込んだ。これを4日間にわたり繰り返すことで、全例のラットに均一に約76mm2の面積を持つ褥瘡が発症し、これを褥瘡モデル動物とした。これら作製した褥瘡ラットを褥瘡面積が各群で均一となるように3群にわけ、実施例1で調製した栄養組成物、実施例2で調製した栄養組成物、WO 2006/033349号で開示の栄養組成物Aをそれぞれの群に10日間、一日60kcalの割合で摂取させた。各栄養組成物の給与の間毎日、褥瘡の面積を画像解析装置にて読み取り、面積を算出し、各栄養組成物給与前、給与後3、10日目の血中アルブミンおよび血中総たんぱく質を測定してこれを栄養指標とした。
栄養組成物Aの組成を〔表7〕に、これを具現化するための液状物の原料配合量を〔表8〕に示す。
尚、栄養組成物A中のアミノ酸組成は、総窒素源がグルタミン17.3質量%、ロイシン8.7質量%、バリン5.6質量%、イソロイシン4.7質量%アルギニン4.0質量%であった。
【0030】

【0031】

【0032】
その結果、実施例1の栄養組成物および実施例2の栄養組成物の褥瘡面積は図1に示すように、投与期間を通してWO 2006/ 033349の栄養組成物Aに比較しさらに低値で推移した。特に、発明品において、創傷受傷初期の回復が早く有効性が確認された。また、投与10日目の創傷はイニシャルに対して、実施例1栄養組成では約2割、実施例2栄養組成では約3割にまで縮小し、開示栄養組成Aよりも創傷の治癒にさらに有効であることが認められた。今回の結果からさらに、本発明の栄養組成物を、褥瘡発症以前からまたは褥瘡発症直後、あるいは早期から患者に給与すると、褥瘡の発症の防止や進展を抑制することが容易に推察できた。表9および表10に示すように血液中の栄養指標においても、血中アルブミンおよび総たんぱく質の値が実施例1栄養組成物および実施例2栄養組成物において上昇し、低栄養状態からの回復がこれら発明品でより大きいことが明らかとなった。
なお、実施例3の栄養組成物においても同様に実験を行ったが、開示栄養組成物Aに対して同様な褥瘡治癒促進の優位性が認められた。
【0033】
表9 栄養指標としての血中アルブミン値

【0034】
表10 栄養指標としての血中総たんぱく値

【0035】
産業上の利用可能性
本発明の総合栄養組成物は、褥瘡およびこれに類する創傷の治癒を促進あるいはこの発症を予防することが明らかとなった。さらに、血中アルブミンが上昇することも明らかとなった。したがって、本発明の組成物、特に褥瘡あるいは創傷の治癒、予防のために、低アルブミン血症の治療あるいは予防のために用いることができる。さらに本発明の栄養組成物を、褥瘡発症以前からまたは褥瘡発症直後、あるいは早期から患者に給与すると、褥瘡の発症の防止や進展を抑制することが可能となる。これには組成物に含有のグルタミンと、ロイシンあるいはバリンあるいはイソロイシンまたはアルギニンの増強が大きく関与する。さらにいうと、本発明の組成物は高濃度のナトリウムを含有するので、低ナトリウム血症の治療あるいは予防のために有用である。また、本発明の組成物は高濃度の亜鉛を含有するので、亜鉛欠乏状態の患者の治療あるいは予防のために用いられる有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の各栄養組成物(実施例1及び2)と比較例の各栄養組成物の補給後における褥瘡面積の推移を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素源、ミネラル、ビタミンを含み、場合により糖質、脂肪を含有し、窒素源中のグルタミンが11.0質量%以上で、ロイシンが7.0質量%以上、バリンが4.0質量%以上、イソロイシンが3.0質量%、アルギニンが3.0質量%以上で、かつ(i)(a)ロイシン含量が10.0質量%以上、(b)バリン含量が6.5質量%以上、(c)イソロイシン含量が5.5質量%以上のいずれか1つ以上の条件を満たすこと及び/又は(ii)アルギニン含量が7.0質量%以上の条件を満たすことを特徴とする総合栄養組成物。
【請求項2】
該組成物中のビタミンB1含量が0.30mg以上、及びビタミンB2含量がO.25mg以上である請求項1に記載の総合栄養組成物。
【請求項3】
該組成物100kcal当り、窒素源含量が4.0g以上である請求項1又は2に記載の総合栄養組成物。
【請求項4】
該組成物100kcal当り、窒素源含量が5.Og以上である請求項1又は2に記載の総合栄養組成物。
【請求項5】
該組成物100kcal当り、亜鉛含量が1.5mg以上、銅含量がO.075mg〜O.15mgである請求項1〜4のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項6】
該組成物中の亜鉛/銅の質量比が7/1〜25/1である請求項1〜5のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項7】
該組成物100kcal当りナトリウム含量が160 mg以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項8】
該組成物100kcal当り、亜鉛含量が1.5〜3.Omg、銅含量が0.075〜O.15mg、ナトリウム含量が165〜385mg、ビタミンB1含量が0.2〜2.Omg、ビタミンB2含量が0.25〜2.Omgである請求項1〜7のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項9】
亜鉛/銅の質量比が10/1から20/1である請求項1〜8のいずれか1項の総合栄養組成物。
【請求項10】
該組成物100kcal当り、亜鉛含量が1.8〜3.0mg、鋼含量が0.09〜0.12mg、ナトリウム含量が185〜385mgである請求項1〜9のいずれか1項に記載の総合経腸栄養組成物。
【請求項11】
該組成物100kcal当り、ビタミンB6含量が0.3〜2.0mg、ビオチン含量が1.O〜10μgである請求項1〜10のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項12】
該組成物100kc配当り、ビタミンB12含量がO.20〜O.70μg、葉酸含量が20〜80μg、β−カロチン含量が100〜450μg、ビタミンC含量が10〜70mgである請求項1〜11のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項13】
該組成物100kcal当り、セレン含量が4.5〜18μgである請求項1〜12のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項14】
動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の質量比が4:1から1:4である請求項1〜13のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項15】
窒素源としてグルタミンあるいはグルタミンペプチドと、大豆たんぱく質あるいはその加水分解物を含有する請求項1〜14のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項16】
脂肪源として中鎖脂肪酸油を少なくとも脂肪中35質量%含有し、かつ脂肪中ω3系脂肪酸:ω6系脂肪酸が質量比で1:10から1:1である請求項1〜15のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項17】
中鎖脂肪酸油が脂肪中40〜65質量%でかつ脂肪中ω3系脂肪酸:ω6系脂肪酸が質量比で1:4から1:1である請求項16に記載の総合栄養組成物。
【請求項18】
褥瘡あるいは創傷の治癒、予防に用いるための請求項1〜17のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項19】
褥瘡あるいは創傷治療期間を短縮するための請求項1〜18のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項20】
褥瘡あるいは創傷発症時の感染を防止、予防するための請求項1〜19のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項21】
血中アルブミンが低下する低栄養状態の改善、予防に用いるための請求項1〜20のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項22】
該組成物が胃あるいは腸に直接投与するための請求項1〜21のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。
【請求項23】
カロリー密度が1.5kcal/ml以上である請求項1〜22のいずれか1項に記載の総合栄養組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−102235(P2009−102235A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273468(P2007−273468)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】