説明

緑色植物の熱変色防止の方法及び熱変色しないレトルト食品。

【課題】健康上好ましくない着色剤や保存剤を一切使用しないで、安全に緑色野菜などの緑色を保持できる、レトルト食品及び飲料食品を提供すること。
【解決手段】銅製容器を使用して、微量の有機酸と亜鉛イオンを入れた水溶液をつくり、その中に緑色植物を入れて、60℃以上で加熱処理をすると緑色の熱変色防止が可能となる。この熱変色防止の方法で処理された緑色植物に酸化防止剤を添加すると、121℃以上の加熱殺菌をしても熱変色を起こさない、緑色を保持したレトルト食品及び飲料食品ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色植物の加熱による緑色の退色を防止する方法及び熱変色による緑色の退色を防止した食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から葉緑素を含む野菜及び海草類の緑色の退色防止又は、退色した緑色を復元する方法などが既に多く提案されている。しかしながら、実際には野菜類や飲料品の加熱による退色防止は着色剤を使用する方法以外は未だ実用化されていないのが現状である。
例えば、ペットボトル入りの緑茶は加熱殺菌処理時に退色して茶色に変色するので、緑茶本来の緑色をしたペットボトル入りの飲料茶はない。また、121℃で加熱殺菌されるレトルト食品は緑色野菜が加熱により退色するため、着色剤を使用しないで緑色を保持しているレトルト食品は見当たらない。
【0003】
このため、緑色の劣化又は退色の対処方法として、銅クロロフィルや銅クロロフィリンアルカリ金属塩並びに還元剤を含む水溶液に緑色野菜や海草を浸漬して緑色に着色する方法(特許文献1)や金属イオンを含有する酵母液に接触させて、植物の緑色を復元し、或いは緑色に保持する方法(特許文献2)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、食品添加物の着色剤である銅クロロフィルを使用しており、一部の食品にかぎり使用できるものである。
【0005】
一方、特許文献2に掲載の方法は、金属イオン含有酵母を利用するので、酵母臭が食品に付着したり、酵母体内の金属イオンが少ないこと等から、褐変した植物の緑色を復元する方法としては有効のようであるが、加熱処理による緑色の退色防止は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−217732号公報
【特許文献2】特開2004−67546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2で記載のごとく、着色剤を使用したり、健康上好ましくない量の銅を添加することなく、緑色野菜を使用したレトルト食品の緑色を保持すること及び緑色を保持した飲料品を提供できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、健康上好ましくない量の銅を添加することなく、微量の有機酸を含む水溶液を銅製の容器に入れて所要時間加熱することにより、健康に問題のない程度の銅イオンを溶出させて、その中で緑色植物と亜鉛イオンを混合し、60℃以上の温度で加熱処理をすることにより、緑色植物の退色を効果的に防止できることを見出した。
【0009】
即ち、本発明の請求項1の方法は、微量の有機酸を含む水溶液を銅製の容器に入れて所要時間加熱し、その後、緑色植物と亜鉛イオンを銅製容器の水溶液に混合し、60℃以上で加熱処理することにより緑色植物の熱変色の防止ができる。
【0010】
請求項2は、上記請求項1の方法で処理することにより、熱変色しない緑色を保有したレトルト食品ができる。
【0011】
また、請求項3は、緑色植物の熱変色防止方法において、加熱処理と同時に、若しくは加熱処理後に、酸化防止剤を緑色植物に添加することにより、加熱殺菌処理時の熱による酸化を抑制して、緑色植物の熱変色防止ができ、熱変色しないレトルト食品を作ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
銅製容器に微量の有機酸水溶液を入れて、加熱することにより、人体に影響のない程度の銅イオンを自由にコントロールして溶出させることができる。
【0013】
微量の銅イオンと亜鉛イオンを共存させて加熱することにより、緑色植物の緑色の退色を防止することができる。
【0014】
加熱調理時及び加熱殺菌時に酸化防止剤を添加することにより、熱による酸化が抑制されて、緑色植物の緑色の退色が防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)有機酸
本発明で銅製容器から銅イオンの溶出を促進させるために有機酸を使用する。
有機酸には、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、グルコン酸などがあるが、クエン酸及びクエン酸ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0016】
例えば、銅鍋に水2000ccとクエン酸1gを入れて加熱煮沸を15分すると、水溶液の銅イオン濃度は7ppmとなった。しかし、銅鍋に水2000ccのみを入れて加熱煮沸を15分した場合の銅イオン濃度は1ppm以下であり、クエン酸の添加量と加熱煮沸の時間及び温度を変化させることにより、銅イオン濃度を自由に調節することができる。
【0017】
(2)亜鉛イオン
亜鉛イオンに関しては、イオン化されていればどのようなものでもよく、例えば、グルコン酸亜鉛、亜鉛含有酵母、亜鉛含有乳酸菌などがある。特に食品には安全性の高く無味、無臭の亜鉛含有乳酸菌を使用することが好ましい。
【0018】
(3)酸化防止剤
食品添加物として食品衛生法で定められている酸化防止剤には、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトルウム、エリソルビン酸などがあるが、味覚の点からアスコルビン酸ナトルウムを使用するのが好ましい。
またアスコルビン酸ナトルウムの添加量は緑色植物に対して0.1%以下とすることが好ましい。
【0019】
(4)緑色植物
本発明が適用される緑色植物は、緑色野菜や茶葉が代表例であるが、海草や果物などの葉緑素を含んでいる食品或いは食品素材であれば対象となる。
【0020】
また本発明で使用される緑色野菜は、野菜全体であってもその1部や加工品であってもよく、また味噌漬けや塩漬けなどによって緑色を喪失し、茶色に褐変した野菜なども対象である。
【0021】
(5)熱変色の防止方法
本発明に係わる緑色植物は、葉緑素に含有されるマグネシュウムを銅と亜鉛に置換することにより、緑色の退色を防止している。
銅と亜鉛は共に人体に必要なミネラルであるが、銅は摂取量が多過ぎると健康上好ましくない。そこで本発明では、銅は添加せずに許容範囲内の銅イオンを銅製容器から溶出して利用している。
亜鉛イオンの含有量は10ppmから1000ppmが好ましく、この範囲の亜鉛量は人体に安全であり寧ろ有用である。
【0022】
葉緑素に含有されたマグネシュムを銅と亜鉛に置換するには、処理温度が高いほど置換速度が速い。しかし野菜類は高温になると風味や成分が損なわれてしまうので、処理温度は60℃から100℃以下で行うのが好ましい。
尚、有機酸及び亜鉛イオンを添加する工程は、前述の工程に限るものでなく、水と同時に投入して加熱することもできる。
【0023】
(6)熱変色しないレトルト食品
本発明による、熱変色の防止方法で処理された緑色植物は、その後の流通過程や長期保存を可能にするため、加熱殺菌を必要とする場合が多い。本発明が適用されるレトルト食品は、通常121℃以上で殺菌されるレトルト食品に限らず、80℃以上で加熱殺菌された食品も対象としている。また緑色に限らず他の色相に対しても熱変色をしないレトルト食品も含まれる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0025】
グリンピース
銅鍋に水2000ccとクエン酸1.5gを入れて15分間煮沸する。その後、亜鉛含有乳酸菌(Zn10%含有)1.5gとグリンピース100gを入れて95℃で20分加熱した。
この時の水溶液は銅イオン濃度8ppm、亜鉛イオン濃度60ppmであった。
その後、アスコルビン酸ナトルウムを1g添加して10分加熱した。最初の緑黄色をしていたグリンピースが奇麗な緑色になったので、銅鍋から取出し、水洗いした後、レトルトパウチに封入した。次に上記のグリンピース入りパウチを121℃で20分加熱殺菌した。殺菌後のグリンピースの緑色は殺菌前とほぼ同じで緑色を保持しており、室温で約3か月保管後も変色は見られなかった。
【0026】
比較例として、銅鍋に変えて、ステンレス鍋を使用して上記と同じ処理を行った。
この時の水溶液は銅イオン濃度0ppm、亜鉛イオン濃度60ppmであった。
グリンピースは緑黄色が黄色になり、緑色が退色していた。
【実施例2】
【0027】
ほうれん草
銅鍋に水2000ccとクエン酸1gを入れて15分煮沸する。その後、亜鉛含有乳酸菌(Zn10%含有)1gとほうれん草100gを入れて95℃で20分加熱した。
ほうれん草が奇麗な青緑色になったので、銅鍋から取出し、水洗い後、アスコルビン酸ナトルウムを1g添加してミキサーに入れてペースト状に粉砕した。そのほうれん草ペーストをレトルトパウチに封入して、121℃で20分加熱殺菌を行った。
ほうれん草ペーストの青緑色は加熱殺菌の前後共ほぼ同じで、色の変化はなかった。
【0028】
比較例として、クエン酸を使用しないで上記と同じ処理を行った。
ほうれん草は上記より少し薄い緑色になったが、加熱殺菌の前後の緑色はほぼ同じで緑色の変色は見られなかった。
【実施例3】
【0029】
抹茶
銅鍋に水2000ccとクエン酸2gと亜鉛含有乳酸菌(Zn10%含有)2gを入れて15分煮沸を行う。その後、抹茶50gを投入して95℃で30分攪拌しながら加熱を行った。水溶液は奇麗な緑色の青汁になったので、アスコルビン酸ナトルウム1gを添加してペットボトルに封入した。ペットボトルに入れた抹茶青汁は121℃で20分加熱殺菌したが、緑色の変色はなかった。
【0030】
比較例として、アスコルビン酸ナトルウムを使用しないで上記と同じ処理を行った。
加熱殺菌前には奇麗な緑色の抹茶青汁になっていたが、加熱殺菌後は緑色が茶黄色に変色していた。
【実施例4】
【0031】
塩漬け桜葉
銅鍋に水2000ccとクエン酸1gと亜鉛含有乳酸菌(Zn10%含有)1gを入れて15分煮沸を行う。その後、茶色に変色している塩漬け桜葉50gを投入して95℃で15分加熱を行った。桜葉は奇麗な青緑色になったので銅鍋から取出し、水洗い後、レトルトパウチに封入して121℃で20分加熱殺菌を行った。
桜葉は加熱殺菌前と同じ色を保持しており、加熱による退色はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明により、緑色を保持したレトルト食品を提供することが可能になる。
その利用形態は、パウチやトレーの容器に密封された製品及び缶やペットボトルに封入された飲料製品などが考えられる。またペーストや粉末の状態にして、緑色を保持したい食品に添加することにより、緑色を有した新しい加工食品を開発することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量の有機酸を含む水溶液を銅製の容器に入れて、所定時間加熱し、その後、緑色植物と亜鉛イオンを当該銅製容器の水溶液に混合し、60℃以上で加熱処理することを特徴とする緑色植物の熱変色防止の方法。
【請求項2】
微量の有機酸を含む水溶液を銅製の容器に入れて、所定時間加熱し、その後、緑色植物と亜鉛イオンを当該銅製容器の水溶液に混合し、60℃以上で加熱処理した熱変色しないレトルト食品。
【請求項3】
緑色植物の熱変色防止方法において、加熱処理と同時に、若しくは加熱処理後に酸化防止剤を緑色植物に添加することを特徴とする請求項1及び請求項2に記載の緑色植物の熱変色防止方法及び熱変色しないレトルト食品。

【公開番号】特開2011−239761(P2011−239761A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126269(P2010−126269)
【出願日】平成22年5月15日(2010.5.15)
【出願人】(597136456)有限会社コウムラテクノ (7)
【Fターム(参考)】