説明

線間止水方法、ワイヤハーネスおよび線間止水装置

【課題】芯線間の小さい隙間にも止水材を容易にかつ確実に浸透できる線間止水方法、ワイヤハーネスおよび線間止水装置を提供すること。
【解決手段】ワイヤハーネス10を構成する被覆電線11の露出させた芯線14に止水材Sを浸透させる線間止水方法であって、互いに突き合わされる一対の下金型21および上金型22の間にワイヤハーネス10の一部を挟み、下金型21および上金型22の間に形成される加圧空間23内に芯線14の露出部分15を配置させて密封する密封ステップと、加圧空間23内に止水材Sを充填する充填ステップと、加圧空間23内を加圧する加圧ステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスの被覆電線の芯線間の止水を行なうのに用いる線間止水方法、ワイヤハーネスおよび線間止水装置に関する(尚、本発明の説明における『止水』は、水の浸入を阻止することに限らず、水、油、アルコール、等を含む液体全般に有効に作用することを意味するが、ここでは一般的に名称として広く用いられている『止水』を用いて説明する)。
【背景技術】
【0002】
線間止水方法として、露出させた芯線を止水材に浸して充填する方法があるが(例えば、特許文献1参照)、特に、芯線へ良好に止水材を浸透させる方法として、止水材の供給中または供給後にエア(即ち、空気)を吸引して減圧することで止水材を絶縁被覆の内側に浸透させるようにしたものが知られている(例えば、特許文献2〜5参照)。
【0003】
図9に示すように、上記特許文献1に開示された線間止水方法に用いられる被覆電線(アース電線)51は、その芯線(導体)53の周囲に絶縁被覆(被覆材)54を有し、その端末部の一方に端子(アース接続端子)52が圧着される(即ち、加締められる)。
【0004】
被覆電線51への端子52の圧着は、端子52の一対のバレル55を開き、絶縁被覆54が除去されて芯線53が露出されている被覆電線51の端末部を端子52のバレル55間の面上にセットし、そしてバレル55を加締めて閉じ、これにより芯線53および絶縁被覆54を端子52に圧着固定する。
【0005】
このような端子52付の被覆電線51の芯線53間の止水を行なうのに用いられる線間止水方法では、被覆電線51の端末部の他方から絶縁被覆54の内側のエア(空気)を吸引する減圧工程を実行したまま、被覆電線51の端末部の一方に対し矢印方向60に流動性のある止水材を供給し、止水材を絶縁被覆54の内側に浸透させるようにしている。
【0006】
上記線間止水方法では、エア吸引して減圧する真空減圧方式を採用しているので、最大でも大気圧(1kgf/cm)以上の圧力差を得ることはできない。そのため、被覆電線の細径化や軽量化等に伴う芯線間の隙間の減少により、止水材を浸透させるのに限界があった。
【0007】
また、芯線間に浸透させる止水材の体積低減を図りにくい。
【0008】
また、複数の被覆電線の芯線が集合して接続された該複数の被覆電線の端末部の一方や中間ジョイント部においては、複数の端末部の他方から複数の絶縁被覆の内側のエアを吸引するために大きな設備を必要とすることから、広い作業スペースを必要とするだけでなく、多大な設備投資を伴う。
【0009】
また、被覆電線51が大径の場合や被覆電線51を複数本結束した場合は、止水材の使用量が多くなるため、止水材を追加供給しなければならず、また、止水材によって芯線53の端末部を完全に覆うことができず、被覆電線51の芯線53に止水材が行き渡らない箇所が生じて止水効果が不十分となってしまう。
【0010】
また、芯線53の端末部に滴下した止水材が垂れ落ちることがあり、垂れ落ちた止水材を除去する煩雑な作業を行なわなければならなかった。
【0011】
また、端子52の接点としてボルト締めされるボルト締め付け板に止水材が付着した場合、端子52における導通不良が生じる恐れがある。
【0012】
【特許文献1】特開平11−234883号公報
【特許文献2】特開2004−355851号公報
【特許文献3】特開2006−202697号公報
【特許文献4】特開2006−221880号公報
【特許文献5】特開2006−228709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記問題を解決できる線間止水方法、ワイヤハーネスおよび線間止水装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するため、本発明に係る線間止水方法は、下記(1)〜(5)を特徴としている。
(1) ワイヤハーネスを構成する被覆電線の露出させた芯線に止水材を浸透させる線間止水方法であって、
互いに突き合わされる一対の型の間に前記ワイヤハーネスの一部を挟み、前記型の間に形成される加圧空間内に前記芯線の露出部分を配置させて密封する密封ステップと、
前記加圧空間内に止水材を充填する充填ステップと、
前記加圧空間内を加圧する加圧ステップと、
を含むこと。
(2) 上記(1)の線間止水方法であって、
前記加圧ステップ後に、前記加圧空間内の余剰の止水材を排出させる排出ステップを行なうこと。
(3) 上記(1)または(2)の線間止水方法であって、
前記被覆電線の前記芯線の露出部分に、予め端子を圧着しておくこと。
(4) 上記(3)の線間止水方法であって、
前記端子を前記加圧空間内に配置するとともに、前記端子における前記芯線の露出部分との圧着部分以外を気密にすること。
(5) 上記(4)の線間止水方法であって、
前記端子における前記芯線の露出部分との圧着部分以外にシール材を密着させて気密にすること。
【0015】
上記(1)の線間止水方法によれば、互いに突き合わされる一対の型の間にワイヤハーネスの一部を挟み、型の間に形成される加圧空間内に芯線の露出部分を配置させて密封し、この加圧空間内に止水材を充填し、更に、加圧空間内を加圧するので、加圧空間内に充填した止水材によって芯線の露出部分の周囲を覆い、この止水材を加圧して芯線に確実に強制的に浸透させることができる。
これにより、被覆電線が大径の場合や被覆電線を複数本結束した場合であっても、止水材を追加供給することなく、芯線に止水材が行き渡らない箇所が生じるような不具合なく、十分に止水材を浸透させて、良好な止水効果を得ることができる。
また、芯線の端末部に供給した止水材が垂れ落ちることがないので、垂れ落ちた止水材を除去する煩雑な作業を不要とすることができる。
また、加圧して強制的に芯線に止水材を浸透させるので、大掛かりな設備でなくても良好に止水材を浸透させることができ、設備費の削減を図ることができる。また、特に、高粘度の止水材を加圧によって確実に芯線間に浸透させることができ、これにより、止水材が完全に硬化する前であっても次工程に移行することができ、生産性の向上を図ることができる。
上記(2)の線間止水方法によれば、加圧空間内を加圧して止水材を芯線に浸透させた後に、加圧空間内の余剰の止水材を排出させるので、芯線へ止水材を浸透させた後に、余剰な止水材を拭き取って除去するような煩雑な作業を不要とすることができ、止水作業の効率化を図ることができるとともに、省資源化を図ることができる。
上記(3)の線間止水方法によれば、被覆電線の芯線間に、端子を圧着させた芯線の露出部分から止水材を確実に浸透させることができ、良好な止水効果が得られたワイヤハーネスとすることができる。
上記(4)の線間止水方法によれば、端子を加圧空間内に配置するとともに、端子における芯線の露出部分との圧着部分以外を気密にするので、端子の接点としてボルト締めされるボルト締め付け板等への止水材の付着を防止することができ、端子における良好な導通状態を維持させつつ止水性能を付与することができる。
上記(5)の線間止水方法によれば、端子における芯線の露出部分との圧着部分以外にシール材を密着させて気密するので、端子の接点としてボルト締めされるボルト締め付け板等への止水材の付着を容易にかつ確実に防止することができる。
【0016】
前述した目的を達成するため、本発明に係るワイヤハーネスは、下記(6)を特徴としている。
(6) 上記(1)〜(5)の線間止水方法によって端子が圧着された芯線の露出部分が止水材によって止水されたこと。
【0017】
上記(6)のワイヤハーネスによれば、端部における芯線の露出部分が止水材によって確実に止水された品質および安全性の高いワイヤハーネスとすることができる。
【0018】
前述した目的を達成するため、本発明に係る線間止水装置は、下記(7)〜(10)を特徴としている。
(7) ワイヤハーネスを構成する被覆電線の露出させた芯線に止水材を浸透させる線間止水装置であって、
互いに突き合わされることにより、前記ワイヤハーネスの前記芯線の露出部分を配設可能な加圧空間が形成される一対の型と、
前記芯線の露出部分を配設した加圧空間内に止水材を充填する充填手段と、
前記加圧空間内に加圧気体を供給して加圧する加圧手段と、
を有すること。
(8) 上記(7)の線間止水装置であって、
前記加圧空間内の余剰の止水材を排出させる排出手段を更に有すること。
(9) 上記(7)または(8)の線間止水装置であって、
前記芯線の露出部分に圧着された端子の前記芯線との圧着部分以外に密着して気密するシール材を更に有すること。
(10) 上記(7)〜(9)の線間止水装置であって、
前記型のうちの一方に、前記芯線の露出部分に圧着された端子に形成された固定孔へ挿通可能な位置決めピンを設けたこと。
【0019】
上記(7)の線間止水装置によれば、互いに突き合わされる一対の型の間にワイヤハーネスの一部を挟み、型の間に形成される加圧空間内に芯線の露出部分を配置させて密封し、この加圧空間内に止水材を充填し、更に、加圧空間内を加圧することにより、加圧空間内に充填した止水材によって芯線の露出部分の周囲を覆い、この止水材を加圧して芯線に確実に強制的に浸透させることができる。
これにより、被覆電線が大径の場合や被覆電線を複数本結束した場合であっても、止水材を追加供給することなく、芯線に止水材が行き渡らない箇所が生じるような不具合なく、十分に止水材を浸透させて、良好な止水効果を得ることができる。
また、芯線の端末部に供給した止水材が垂れ落ちることがないので、垂れ落ちた止水材を除去する煩雑な作業を不要とすることができる。
また、加圧して強制的に芯線に止水材を浸透させるので、大掛かりな設備でなくても良好に止水材を浸透させることができ、設備費の削減を図ることができる。また、特に、高粘度の止水材を加圧によって確実に芯線間に浸透させることができ、これにより、止水材が完全に硬化する前であっても次工程に移行することができ、生産性の向上を図ることができる。
上記(8)の線間止水装置によれば、加圧空間内を加圧して止水材を芯線に浸透させた後に、加圧空間内の余剰の止水材を排出させることができ、これにより、芯線へ止水材を浸透させた後に、余剰な止水材を拭き取って除去するような煩雑な作業を不要とすることができ、止水作業の効率化を図ることができる。
上記(9)の線間止水装置によれば、端子における芯線の露出部分との圧着部分以外にシール材を密着させて気密することができ、これにより、端子の接点としてボルト締めされるボルト締め付け板等への止水材の付着を容易にかつ確実に防止することができ、端子における良好な導通状態を維持させつつ止水性能を付与することができる。
上記(10)の線間止水装置によれば、一方の型に、端子の固定孔へ挿通可能な位置決めピンを設けたので、端子の固定孔へ位置決めピンを挿入することにより、極めて容易にワイヤハーネスを型に位置決めして配設することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の線間止水方法によれば、互いに突き合わされる一対の型の間にワイヤハーネスの一部を挟み、型の間に形成される加圧空間内に芯線の露出部分を配置させて密封し、この加圧空間内に止水材を充填し、更に、加圧空間内を加圧するので、加圧空間内に充填した止水材によって芯線の露出部分の周囲を覆い、この止水材を加圧して芯線に確実に強制的に浸透させることができる。
これにより、被覆電線が大径の場合や被覆電線を複数本結束した場合であっても、止水材を追加供給することなく、芯線に止水材が行き渡らない箇所が生じるような不具合なく、十分に止水材を浸透させて、良好な止水効果を得ることができる。
また、芯線の端末部に供給した止水材が垂れ落ちることがないので、垂れ落ちた止水材を除去する煩雑な作業を不要とすることができる。
また、加圧して強制的に芯線に止水材を浸透させるので、大掛かりな設備でなくても良好に止水材を浸透させることができ、設備費の削減を図ることができる。また、特に、高粘度の止水材を加圧によって確実に芯線間に浸透させることができ、これにより、止水材が完全に硬化する前であっても次工程に移行することができ、生産性の向上を図ることができる。
また、本発明のワイヤハーネスによれば、端部における芯線の露出部分が止水材によって確実に止水された品質および安全性の高いワイヤハーネスとすることができる。
また、本発明の線間止水装置によれば、互いに突き合わされる一対の型の間にワイヤハーネスの一部を挟み、型の間に形成される加圧空間内に芯線の露出部分を配置させて密封し、この加圧空間内に止水材を充填し、更に、加圧空間内を加圧することにより、加圧空間内に充填した止水材によって芯線の露出部分の周囲を覆い、この止水材を加圧して芯線に確実に強制的に浸透させることができる。
これにより、被覆電線が大径の場合や被覆電線を複数本結束した場合であっても、止水材を追加供給することなく、芯線に止水材が行き渡らない箇所が生じるような不具合なく、十分に止水材を浸透させて、良好な止水効果を得ることができる。
また、芯線の端末部に供給した止水材が垂れ落ちることがないので、垂れ落ちた止水材を除去する煩雑な作業を不要とすることができる。
また、加圧して強制的に芯線に止水材を浸透させるので、大掛かりな設備でなくても良好に止水材を浸透させることができ、設備費の削減を図ることができる。また、特に、高粘度の止水材を加圧によって確実に芯線間に浸透させることができ、これにより、止水材が完全に硬化する前であっても次工程に移行することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0021】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
ここでは、複数の芯線および当該芯線の束の周囲に沿って形成された絶縁被覆を有する一つの被覆電線と、該被覆電線の一端部で露出された芯線の束の露出部分に圧着された端子と、を備えたワイヤハーネスを例に挙げて、その芯線の束の露出部分から絶縁被覆内に亘って芯線の間に止水材を強制的に浸透させる本発明の線間止水方法、ワイヤハーネスおよび線間止水装置を説明する。
【0024】
本発明に係る線間止水方法、ワイヤハーネスおよび線間止水装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は本発明の実施形態に係る線間止水方法によって止水が施される被覆電線の平面図、図2は線間止水装置の概略構成を示す斜視図、図3は下金型と上金型とを閉じた状態における図2のIII−III矢視断面図、そして図4は下金型と上金型とを閉じた状態における図2のIV−IV矢視断面図である。
【0026】
図1に示すように、ワイヤハーネス10は、被覆電線11と、この被覆電線11に装着された端子12とから構成されており、絶縁被覆13によって覆われた被覆電線11の芯線14の露出部分15に端子12が圧着されている。
【0027】
図2〜図4に示すように、線間止水装置20は、上下に突き合わされる下金型(型)21と、上金型(型)22とを備えたもので、下金型21に対して上金型22が上下移動される。
【0028】
下金型21および上金型22には、互いに気密的に突き合わされる当接面21a,22aに、凹部21b,22bが形成されており、下金型21および上金型22の当接面21a,22aを突き合わせることにより、凹部21b,22bからなる加圧空間23が形成される。
【0029】
尚、下金型21および上金型22の当接面21a,22aは、その平面の寸法精度を高めることにより、良好な気密性を得ることができるが、これら当接面21a,22aの少なくとも片側には、シート状のシール材を貼り付けて気密性を確保しても良いし、あるいは、ひも状のパッキンを用いて気密性を確保しても良い。
【0030】
そして、この加圧空間23には、ワイヤハーネス10の端子12が圧着された一端が収容可能とされている。
【0031】
また、下金型21には、その凹部21bに、上方へ突出する位置決めピン24が形成されており、ワイヤハーネス10の端子12のボルト締め付け板12aに形成されたボルト挿通孔(固定孔)12bを位置決めピン24に挿通させることにより、ワイヤハーネス10の端子12が圧着された一端が、加圧空間23の所定位置に位置決めされて配設される。
【0032】
また、上金型22には、その凹部22b内における一部に、例えば、発泡シリコンゴム等からなる気密シール材(シール材)25が設けられており、加圧空間23内に配置されるワイヤハーネス10の端子12のボルト締め付け板12aに密着可能とされている。
【0033】
また、下金型21および上金型22の当接面21a,22aには、凹部21b,22bと外縁とに繋がる断面円弧状の溝部21c,22cが形成されており、下金型21および上金型22の当接面21a,22aを突き合わせることにより、溝部21c,22cからなり加圧空間23と外部とに連通する保持孔26が形成される。
【0034】
そして、この保持孔26には、加圧空間23に一端を収容させたワイヤハーネス10の被覆電線11が配設可能とされている。
【0035】
この保持孔26を形成する溝部21c,22cは、加圧空間23側の縁部にて、その円弧が小さくされており、これにより、保持孔26には、加圧空間23側が小径部26a,27aとされ、保持孔26に配設された被覆電線11の端子12近傍部分における絶縁被覆13と気密状態に密着するようになっている。尚、小径部26a,27aそれぞれの内周面にシート状のシール材を貼り付けて小径部26a,27aと絶縁被覆13との間に良好な気密性を確保しても良いし、あるいは、ひも状のパッキンを用いて良好な気密性を確保しても良い。
【0036】
上記の線間止水装置10を構成する上金型22には、加圧空間23に連通する空気給排路(加圧手段)31が形成されており、この空気給排路31には、例えば一般的な工場に通常設けられているエア(空気)噴射供給装置からなる図示しない空気送出装置(加圧手段)および排出弁が設けられた空気供給管32が接続されている。
【0037】
そして、空気送出装置から空気供給管32を介して空気給排路31へ、予め定められた圧力の加圧気体である空気が送り込まれることにより、加圧空間23内と加圧空間23外とに大きな圧力差が生じ、また、排出弁の開放により、加圧された加圧空間23内が減圧されるようになっている。
【0038】
また、上金型22には、加圧空間23内におけるワイヤハーネス10の芯線14の露出部分15の上部に、加圧空間23に連通する止水材供給路35が形成されており、この止水材供給路35は、開閉弁36によって開閉可能とされている。そして、この止水材供給路35には、止水材充填装置(充填手段)37が取り付けられるようになっている。
【0039】
止水材充填装置37は、止水材供給路35へ所定量の止水材S(液状または固体状から液状にした止水材)を供給する。
【0040】
そして、止水材供給路35の開閉弁36が開かれた状態にて、止水材充填装置37によって止水材供給路35へ止水材Sが供給されると、止水材Sが加圧空間23内におけるワイヤハーネス10の芯線14の露出部分15の周囲に充填される。
【0041】
また、下金型21には、加圧空間23内におけるワイヤハーネス10の芯線14の露出部分15の下部に、加圧空間23と外部とに連通する止水材排出路(排出手段)41が形成されており、この止水材排出路41は、開閉弁42によって開閉可能とされている。この止水材排出路41には、排出管43が接続されており、開閉弁42が開かれることにより、加圧空間32内に充填された止水材Sが止水材排出路41を介して排出管43へ排出される。
【0042】
尚、下金型21は、当接面21aに、上金型22へ向かって突出するピン45を有し、下金型21に対して上金型22を近接させることにより、上金型22に形成された図示しない穴部にピン45が挿入され、下金型21と上金型22とが互いに位置決めされた状態に重ね合わされる。突出するピン45は、例えば4本にする等、必要に応じて設ければ良い。
【0043】
次に、ワイヤハーネス70に止水処理を施す場合について説明する。
【0044】
図5(a)〜図5(e)はワイヤハーネスへの止水処理の工程を示すそれぞれ斜視図、そして図6は芯線の露出部分における止水材の浸透状態を示す断面図である。
【0045】
まず、図5(a)に示すように、端子12が既に接続されている被覆電線11の一端部を、その端子12のボルト締め付け板12aのボルト挿通孔12bに下金型21の位置決めピン24を挿入させながら、ワイヤハーネス10の一端部を下金型21の凹部21bに配設し、また、被覆電線11を、下金型21の溝部21cに配置させる。
【0046】
次いで、図5(b)に示すように、上金型22を下降させることにより、下金型21のピン45を上金型22の穴部に挿入させつつ下金型21に上金型22を重ね合わせ、上金型22を、エア或いは油圧等によって作動するプレスによって下金型21へ加圧する。
【0047】
このようにすると、下金型21および上金型22の当接面21a,22aが気密的に突き合わされ、凹部21b,22bからなる加圧空間23が形成されるとともに、溝部21c,22cからなる保持孔26が形成される。
【0048】
これにより、ワイヤハーネス10は、その端子12が設けられた一端が加圧空間23の所定位置に配置され、被覆電線11の一端近傍部分が保持孔26内に配置される。また、このとき、上金型22の凹部22b内における一部に設けられた気密シール材25が、加圧空間23内に配置されたワイヤハーネス10の端子12のボルト締め付け板12aに密着するとともに、保持孔26の小径部26a,27aが被覆電線11の絶縁被覆13と気密状態に密着する。
【0049】
従って、加圧空間23は、ワイヤハーネス10の端子12が設けられた一端における芯線14の露出部分15を収容した状態にて密封される。
【0050】
次いで、図5(c)に示すように、止水材供給路35の開閉弁36を開いた状態にて、この止水材供給路35に取り付けた止水材充填装置37によって止水材Sを加圧空間23内に充填し、所定量の止水材Sの充填後に、開閉弁36を閉鎖する。
【0051】
この状態において、図5(d)に示すように、空気送出装置によって空気給排路31を介して加圧空間23内に加圧気体である空気を送り込む。
【0052】
このようにすると、加圧空間23内と加圧空間23外とに大きな圧力差が生じ、加圧空間23内に充填した止水材Sが芯線14の露出部分15から強制的に他端側へ向かって芯線14に送り込まれる。
【0053】
ここで、加圧空間23内に芯線14の露出部分15を配設し、この加圧空間23内に止水材Sを充填して芯線14の露出部分15の周囲を止水材Sで覆って加圧空間23内を加圧するので、図6に示すように、芯線14には、その露出部分15の周囲の全体から止水材Sが送り込まれ、芯線14に止水材Sが行き渡らない箇所が生じるようなことなく確実に浸透される。
【0054】
また、このとき、ワイヤハーネス10の端子12のボルト締め付け板12aには、気密シール材25が密着されているので、この端子12の締め付け板部12aへの止水材Sの付着が阻止される。
【0055】
芯線14に止水材Sが十分浸透したら、空気送出装置による加圧空間23内への加圧気体の供給を停止させ、更に、空気供給管32の排出弁を開放して加圧空間23内を減圧する。
【0056】
加圧空間23が減圧されたら、止水材排出路41の開閉弁42を開く。このようにすると、加圧空間23内の余剰の止水材Sが止水材排出路41へ送り出され、排出管43へ排出される。このとき、(A)空気供給管32からの加圧気体により加圧して余分な止水材Sを排出管43へ排出しても良い。また、(B)上述のように『空気送出装置による加圧空間23内への加圧気体の供給を停止させ、更に、空気供給管32の排出弁を開放して加圧空間23内を減圧する』前、加圧空間23を加圧している最中に、止水材排出路41の開閉弁42を開き、余分な止水材Sを排出管43へ排出しても良い。これら(A),(B)といった2通りの方法のうち一方を用いると、加圧空間23に余分な止水材Sが残らない。即ち、それら2通りの方法のうち少なくとも一方を用いると、端子12に付着した不要な止水材Sも取り除くことができる。尚、それら2通りの方法両方を用いれば不要な止水材Sを排出する上で更に良いことは言うまでもない。
【0057】
その後、図5(e)に示すように、上金型22を上昇させることにより、加圧空間23を開放し、芯線14に止水材Sを浸透させたワイヤハーネス10を加圧空間23を構成する下金型21の凹部21bから取り出す。
【0058】
このように、上記実施形態によれば、互いに突き合わされる一対の下金型21および上金型22の間にワイヤハーネス10の一部を挟み、下金型21および上金型22の間に形成される加圧空間23内に芯線14の露出部分15を配置させて密封し、この加圧空間23内に止水材Sを充填し、更に、加圧空間23内を加圧するので、加圧空間23内に充填した止水材Sによって芯線14の露出部分15の周囲を覆い、この止水材Sを加圧して芯線14に確実に強制的に浸透させることができる。
【0059】
これにより、被覆電線11が大径の場合や被覆電線11を複数本結束した場合であっても、止水材Sを追加供給することなく、芯線14に止水材Sが行き渡らない箇所が生じるような不具合なく、十分に止水材Sを浸透させて、良好な止水効果を得ることができる。
【0060】
これにより、芯線14の露出部分15が止水材Sによって確実に止水された品質および安全性の高いワイヤハーネス10を得ることができる。
【0061】
また、芯線14の露出部分15に供給した止水材Sが垂れ落ちることがないので、垂れ落ちた止水材Sを除去する煩雑な作業を不要とすることができる。
【0062】
また、加圧空間23内を加圧して止水材Sを芯線14に浸透させた後に、加圧空間23内の余剰の止水材Sを排出させるので、芯線14へ止水材Sを浸透させた後に、余剰な止水材Sを拭き取って除去するような煩雑な作業を不要とすることができ、止水作業の効率化を図ることができるとともに、省資源化を図ることができる。
【0063】
また、端子12を加圧空間23内に配置するとともに、端子12における芯線14の露出部分15との圧着部分以外に気密シール材25を密着させて気密するので、端子12の接点としてボルト締めされるボルト締め付け板12a等への止水材Sの付着を防止することができ、端子12における良好な導通状態を維持させつつ止水性能を付与することができる。
【0064】
また、下金型21に、端子12のボルト挿通孔12bへ挿通可能な位置決めピン24を設けたので、端子12のボルト挿通孔12bへ位置決めピン24を挿入することにより、極めて容易にワイヤハーネス10を下金型21に位置決めして配設することができる。
【0065】
また、加圧して強制的に芯線に止水材Sを浸透させるので、大掛かりな設備でなくても良好に止水材Sを浸透させることができ、設備費の削減を図ることができる。また、特に、高粘度の止水材Sを加圧によって確実に芯線間に浸透させることができ、これにより、止水材Sが完全に硬化する前であっても次工程に移行することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0066】
また、端子12の絶縁被覆13とのかしめ部分近傍に、絶縁被覆13に密着して保持孔26をシールする小径部26a,27aを設けたので、加圧空間23側から芯線14内に強制的に送り込んで絶縁被覆13内にて小径部26a,27aを通過した止水材Sによって絶縁被覆13内を膨らませ、芯線14間へ止水材Sを良好に送り込んで浸透させることができる。
【0067】
さて、ここで、本発明の更なる優位性を説明するため、図7に参考例を示す。図7は線間止水装置の参考例を示す断面図、そして図8は図7に示した線間止水装置による止水処理での芯線の露出部分における止水材の浸透状態を示す断面図である。
【0068】
図7に示すように、この線間止水装置100は、芯線14の露出部分15を含む被覆電線11の一部分を収容し且つ密封する加圧室101と、加圧室101に接続され且つ、加圧室101内と加圧室101外とに圧力差が生じるように加圧室101外から加圧室101内に加圧気体を送り込む空気送出装置102と、芯線14の露出部分15の上に設けられ、この露出部分15に止水材Sを滴下するための止水材滴下装置103と、排気手段104とを備えている。
【0069】
この線間止水装置100では、被覆電線11の一端部を加圧室101内に収容して不図示の適宜な固定部材により所定位置に位置決めして固定し、この状態にて、加圧室101内を加圧しながら芯線14の露出部分15に止水材Sを滴下する。そして、芯線14への止水材Sの浸透後に、空気送出装置102による加圧室101の加圧を停止し、排気手段104によって加圧室101内を減圧し、ワイヤハーネス10を加圧室101から取り出す。
【0070】
ところで、この線間止水装置100を用いて止水処理を施す場合、芯線14の露出部分15を滴下した止水材Sによって完全に覆うことができず、このため、図8に示すように、芯線14に止水材Sが行き渡らない箇所が生じて止水効果が不十分となってしまう。
【0071】
また、芯線14の露出部分15に滴下した止水材Sが垂れ落ちることがあり、垂れ落ちて加圧室101の床面に付着した止水材Sを除去する煩雑な作業を行なわなければならない。
【0072】
また、端子12の接点としてボルト締めされるボルト締め付け板12aに止水材Sが付着してしまい、端子12における導通不良が生じる恐れもある。
【0073】
更には、加圧室101にワイヤハーネス10を固定部材によって所定位置に位置決めしてセットする煩雑な作業を要し、また、セットする場合、加圧室101の内側から外側に被覆電線11を貫通させ、更に、この貫通部分をシール材106によってシールして気密する煩雑な作業を要する。
【0074】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施形態に係る線間止水方法によって止水が施される被覆電線の平面図である。
【図2】線間止水装置の概略構成を示す斜視図である。
【図3】下金型と上金型とを閉じた状態における図2のIII−III矢視断面図である。
【図4】下金型と上金型とを閉じた状態における図2のIV−IV矢視断面図である。
【図5】ワイヤハーネスへの止水処理の工程を示すそれぞれ斜視図である。
【図6】芯線の露出部分における止水材の浸透状態を示す断面図である。
【図7】線間止水装置の参考例をしめす断面図である。
【図8】図7に示した線間止水装置による止水処理での芯線の露出部分における止水材の浸透状態を示す断面図である。
【図9】従来の線間止水方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0076】
10:ワイヤハーネス
11:被覆電線
12:端子
12b:ボルト挿通孔(固定孔)
14:芯線
15:露出部分
20:線間止水装置
21:下金型(型)
22:上金型(型)
23:加圧空間
24:位置決めピン
25:気密シール材(シール材)
31:空気給排路(加圧手段)
37:止水材充填装置(充填手段)
41:止水材排出路(排出手段)
S:止水材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスを構成する被覆電線の露出させた芯線に止水材を浸透させる線間止水方法であって、
互いに突き合わされる一対の型の間に前記ワイヤハーネスの一部を挟み、前記型の間に形成される加圧空間内に前記芯線の露出部分を配置させて密封する密封ステップと、
前記加圧空間内に止水材を充填する充填ステップと、
前記加圧空間内を加圧する加圧ステップと、
を含むことを特徴とする線間止水方法。
【請求項2】
前記加圧ステップ後に、前記加圧空間内の余剰の止水材を排出させる排出ステップを行なうことを特徴とする請求項1に記載した線間止水方法。
【請求項3】
前記被覆電線の前記芯線の露出部分に、予め端子を圧着しておくことを特徴とする請求項1または請求項2に記載した線間止水方法。
【請求項4】
前記端子を前記加圧空間内に配置するとともに、前記端子における前記芯線の露出部分との圧着部分以外を気密にすることを特徴とする請求項3に記載した線間止水方法。
【請求項5】
前記端子における前記芯線の露出部分との圧着部分以外にシール材を密着させて気密にすることを特徴とする請求項4に記載した線間止水方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載した線間止水方法によって端子が圧着された芯線の露出部分が止水材によって止水されたことを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項7】
ワイヤハーネスを構成する被覆電線の露出させた芯線に止水材を浸透させる線間止水装置であって、
互いに突き合わされることにより、前記ワイヤハーネスの前記芯線の露出部分を配設可能な加圧空間が形成される一対の型と、
前記芯線の露出部分を配設させた加圧空間内に止水材を充填する充填手段と、
前記加圧空間内に加圧気体を供給して加圧する加圧手段と、
を有することを特徴とする線間止水装置。
【請求項8】
前記加圧空間内の余剰の止水材を排出させる排出手段を更に有することを特徴とする請求項7に記載した線間止水装置。
【請求項9】
前記芯線の露出部分に圧着された端子の前記芯線との圧着部分以外に密着して気密するシール材を更に有することを特徴とする請求項7または請求項8に記載した線間止水装置。
【請求項10】
前記型のうちの一方に、前記芯線の露出部分に圧着された端子に形成された固定孔へ挿通可能な位置決めピンを設けたことを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれか一項に記載した線間止水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−186675(P2008−186675A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18084(P2007−18084)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】