説明

繊維強化ブロー成形体及びその製造方法

【課題】長繊維材料で強化した繊維強化ブロー成形体の横方向の曲げ強度及び耐衝撃強度を向上させて、このブロー成形体の縦割れしやすい性質を改善する。
【解決手段】長繊維材料と短繊維材料の両方を強化材として含む繊維強化ブロー成形体。ブロー成形体は、直径2μm以上100μm以下、長さ2mm以上30mm以下の長繊維材料を、プラスチック材料に対して1質量%以上30質量%以下の割合で含み、さらに直径2μm以上100μm以下、長さ2mm未満の短繊維材料を含む。長繊維材料は、ブロー成形体の縦方向(パリソンの押出方向)に配向している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料を含むプラスチック製のパリソンをブロー成形して得られる繊維強化ブロー成形体及びその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、直径2〜100μm、長さ1〜30mmの長繊維材料を1〜30質量%の割合で含有するプラスチック材料を、ダイスから押し出して長繊維材料が縦方向(押出方向)に配向したパリソンを形成し、該パリソンの両端を金型で挟持してブロー成形し、前記長繊維材料が縦方向に配向した繊維強化ブロー成形体を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−209657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようにして製造した繊維強化ブロー成形体は縦方向の剛性が向上し(特許文献1参照)、また縦方向の強度についても大きく向上する。しかし、横方向の剛性は、繊維強化していないブロー成形体に比べてほとんど変化せず(特許文献1参照)、横方向の強度及び耐衝撃強度については逆に低下して、縦割れが起こりやすくなるという問題がある。
そこで、本発明は、長繊維で強化した繊維強化ブロー成形体の横方向の強度及び耐衝撃強度を向上させて、このブロー成形体の縦割れが生じやすい性質を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、プラスチック材料に対して直径2μm以上100μm以下、長さ2mm以上30mm以下の長繊維材料を1質量%以上30質量%以下の割合で含有し、前記長繊維材料が縦方向に配向した繊維強化ブロー成形体において、さらに直径2μm以上100μm以下、長さ2mm未満の短繊維材料を含有することを特徴とする。短繊維材料の含有量は、前記長繊維材料との合計で3質量%以上50質量%以下であることが望ましい。
【0006】
上記繊維強化ブロー成形体は、直径2μm以上100μm以下、長さ2mm以上30mm以下の長繊維材料を1質量%以上30質量%以下の割合で含有し、さらに直径2μm以上100μm以下、長さ2mm未満の短繊維材料を前記長繊維材料との合計で3質量%以上50質量%以下含有するプラスチック材料を、ダイスから押し出して前記長繊維材料が縦方向に配向したパリソンを形成し、その両端を金型で挟持してブロー成形することで製造することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特許文献1に記載された繊維強化ブロー成形体と同様に縦方向の剛性及び強度が優れると同時に、前記繊維強化ブロー成形体では不十分であった横方向の強度及び耐衝撃強度が改善される。これにより、縦割れが生じにくく、軽量化が可能な繊維強化ブロー成形体を得ることができる。本発明は、例えば、竹又は金属代替パイプ、バンパーレインフォースメント、プロペラ、オール、パドル等、縦方向に剛性、強度が必要で中空が有利な製品に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る繊維強化ブロー成形体は、従来の繊維強化ブロー成形体(特許文献1参照)を改良したもので、直径2μm以上100μm以下、長さ2mm以上30mm以下の長繊維材料を、プラスチック材料に対して1質量%以上30質量%以下の割合で含み、さらに、直径2μm以上100μm以下、長さ2mm未満の短繊維材料を含む。
【0009】
本発明に係る繊維強化ブロー成形体において、ベースとなるプラスチック材料は、ブロー成形に用いられるものから適宜選択され、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ABS、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイドを挙げることができる。ただし、これらに限定されない。
【0010】
また、本発明で使用される繊維材料(長繊維材料、短繊維材料とも)は、通常、繊維強化プラスチックの製造に用いられている種類を適宜選択できる。そのような繊維材料には、ガラス繊維、カーボン繊維のほか、化学繊維ではアラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリアリレート繊維等、植物繊維ではジュート、サイザル、綿等がある。特定の繊維材料に限定されないが、特に好ましいのはガラス繊維である。
【0011】
長繊維材料及び短繊維材料の直径2μm以上100μm以下は、繊維強化プラスチックに一般的に用いされるサイズであり、入手もしやすいことから選ばれる。好ましくは5μm以上15μm以下である。なお、各繊維の直径は、ガラス繊維が10μm程度、カーボン繊維が5μm程度、化学繊維が3〜20μm程度、綿が15μm以下、サイザルが20〜50μm程度が一般的である。
長繊維材料の長さはパリソンにおいて縦方向に均一に配向させるとの観点で選ばれる。長繊維材料の長さが2mm以上であれば長繊維材料がパリソン内で縦方向に配向しやすく、30mmを越えると混練による均一分散が行いにくくなる。従って、長繊維材料の長さは2mm以上30mm以下、好ましくは3mm超、さらに好ましくは5mm以上15mm以下である。
【0012】
一方、短繊維材料の長さは、逆にパリソン内でなるべく配向させない(配向性を持たせない)との観点で、長さ2.0mm未満、好ましくは1.0mm以下に規制される。長さの下限値は特に限定的なものではないが、製造しやすさの観点で0.05mm以上、好ましくは0.1mm以上が選択される。
長繊維材料及び短繊維材料の含有量は、繊維強化に寄与し、かつプラスチック材料内に均一に分散させるとの観点で、長繊維材料については、特許文献1と同じく、プラスチック材料に対して1質量%以上30質量%以下の範囲、好ましくは5質量%以上15質量%以下の範囲で選択すればよい。短繊維材料については、成形性及び製品特性の観点から、好ましくは長繊維材料との合計でプラスチック材料に対して3質量%以上50質量%以下とする。好ましい合計含有量は7質量%以上25質量%以下であり、短繊維材料個別では好ましくは2質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上8質量%以下の範囲で選択される。
【0013】
パリソンの成形に際し、長繊維材料及び短繊維材料を含むプラスチック材料を、ダイス先端に圧力のかかる急圧縮ダイスにより高圧注出すると、長繊維材料は十分にプラスチック材料の中で配向される。この圧力は50〜150kgf/cm程度でよい。なお、長繊維材料の配向性を高めるには、ダイスから押し出したパリソン下部を適当な器具で挟んで引っ張り、約1.1〜1.3倍に引き延ばすことが望ましい。しかしながら、パリソンの自重で伸ばしても、配向は良好である。一方、短繊維材料は、このときも縦方向に配向していないものが多く、半分程度はランダムに向いている。
【0014】
このようなパリソンの両端を金型で挟持してブロー成形すると、パリソンは縦方向にはほとんど伸びないが横方向に膨張し、このとき前記短繊維材料の一部は膨張の程度に応じて横方向に配向し、横方向の強度及び耐衝撃強度が、長繊維材料のみで強化したものに比べて向上し、繊維強化ブロー成形体に縦割れが生じにくくなる。
【0015】
本発明の製造方法において、長繊維材料を含有する繊維強化ブロー成形体のリサイクル品(例えば本発明に係る繊維強化ブロー成形体のバリ等の廃棄部分や不良品を回収したもの)を粉砕し、前記リサイクル品中の長繊維材料を分断することで、短繊維材料を含むリサイクル材料を製造し、これをパリソンの原料の一部として使用することもできる。
例えば回転刃と固定刃を有する粉砕機において、スクリーン(フィルター)の穴径を適宜の大きさとし、長繊維材料を含有するリサイクル品を粉砕すると、リサイクル品に含まれる長繊維材料も分断され、スクリーンの穴から押し出される粉砕粒においては、元の長繊維材料は穴径よりかなり短く(平均して穴径の1/4以下)切り刻まれている。この粉砕粒を押出機のホッパーにパリソンの原料の一部として投入すると、押出機のスクリューで混練される間に、粉砕粒中の繊維材料は破損してさらに短くなる。以上のプロセスにより元の長繊維材料を短繊維材料に変えることができる。なお、新たに投入する3mmを越える程度の長繊維材料は、理由は明確ではないが、スクリューによる混練の間に破損しにくい。
【実施例】
【0016】
所定量の長繊維材料及び短繊維材料を含み又は含まないプラスチック材料を、ダイス先端に圧力のかかる急圧縮ダイスにより、圧力100kgf/cmで押し出し、長さ120cmのパリソンを成形し、該パリソン下部をプリピンチ板で挟んで引っ張り、約1.3倍に引き伸ばした後、ブロー成形金型を締めてパリソン内に空気を吹き込み、バンパーレインホースメントの形状にブロー成形した(No.1〜3)。プラスチック材料はポリエチレン、長繊維材料及び短繊維材料は直径10〜15μmのガラス繊維とし、長繊維材料の長さは2〜10mm、短繊維材料の長さは0.05〜1mmであった。長繊維材料及び短繊維材料の含有量を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
続いて、ブロー成形体(バンパーリインフォースメント)の平面部(厚さ4mm)から供試材を切り出し、下記要領で曲げ強度試験及び耐衝撃強度試験を行った。その結果を表1に合わせて示す。
(曲げ強度試験)
各ブロー成形体から長さ方向に平行(縦)及び垂直(横)方向に供試材(JIS1号試験片)を切り出し、JISK7171の規定に準じて曲げ試験を行い、縦方向及び横方向の曲げ強度を求めた。
(耐衝撃強度試験)
各ブロー成形体から長さ方向に垂直方向に供試材(JIS1号試験片)を切り出し、JISK7111の規定に準じて衝撃試験を行った。
【0019】
表1に示すように、長繊維材料のみで繊維強化したNo.2のブロー成形体は、繊維強化していないNo.1のブロー成形体に比べて、縦方向強度が大きく向上しているが、横方向強度及び耐衝撃強度がむしろ低下している。
これに対し、長繊維材料及び短繊維材料で繊維強化したNo.3(強化繊維の合計質量はNo.2と同じ)は、縦方向強度はNo.2と同等であるが、横方向強度及び耐衝撃強度がNo.2に比べて大きく向上し、No.1のブロー成形体と比べても同等又は向上している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料に対して直径2μm以上100μm以下、長さ2mm以上30mm以下の長繊維材料を1質量%以上30質量%以下の割合で含有し、前記長繊維材料が縦方向に配向した繊維強化ブロー成形体において、さらに直径2μm以上100μm以下、長さ2mm未満の短繊維材料を含有することを特徴とする縦方向の剛性の優れた繊維強化ブロー成形体。
【請求項2】
前記短繊維材料を前記長繊維材料との合計で3質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載された縦方向の剛性の優れた繊維強化ブロー成形体。
【請求項3】
前記短繊維材料を2質量%以上10質量%以下含むことを特徴とする請求項1又は2に記載された縦方向の剛性の優れた繊維強化ブロー成形体。
【請求項4】
直径2μm以上100μm以下、長さ2mm以上30mm以下の長繊維材料を1質量%以上30質量%以下の割合で含有し、さらに直径2μm以上100μm以下、長さ2mm未満の短繊維材料を前記長繊維材料との合計で3質量%以上50質量%以下含有するプラスチック材料を、ダイスから押し出して前記長繊維材料が縦方向に配向したパリソンを形成し、その両端を金型で挟持してブロー成形することを特徴とする縦方向の剛性の優れた繊維強化ブロー成形体の製造方法。
【請求項5】
長繊維材料を含有する繊維強化ブロー成形体のリサイクル品を粉砕し、前記リサイクル品中の長繊維材料を分断して短繊維材料を含むリサイクル材料を製造し、これを前記プラスチック材料の一部として使用することを特徴とする請求項4に記載された縦方向の剛性の優れた繊維強化ブロー成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−136505(P2011−136505A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298620(P2009−298620)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(390040958)みのる化成株式会社 (36)
【Fターム(参考)】