説明

繊維強化プラスチックの製造方法及び繊維強化プラスチック成形用中子

【課題】外観が良好な中空形状の繊維強化プラスチックを製造することができる繊維強化プラスチックの製造方法及び繊維強化プラスチック成形用中子を提供することにある。
【解決手段】FRP成形品を製造する際には、連続した第1溝部9及び第2溝部10を表面に有する中子1を準備し、中子1に強化繊維を巻き付けることでプリフォームを形成する。その後、プリフォームで被覆された中子1を成形型内に配置し、成形型内に樹脂を注入することで樹脂を加圧状態でプリフォームに含浸させる。そして、プリフォームに含浸された樹脂を硬化させ、樹脂の硬化が終了した後に中子1を取り除く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部を有する繊維強化プラスチックの製造方法及びその製造方法で使用する中子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、繊維強化プラスチック(以下、繊維強化プラスチックをFRPと記載する。)製成形体の製造方法として、成形型に形成された所定形状のキャビティに繊維基材を配置し、成形型内に樹脂を圧入することで、繊維基材に樹脂を流動・含浸させるレジン・トランスファー・モールディング法(RTM法)が知られている。そして、RTM法の一例として、フィルムシートからなる中子を用いて、中空形状のFRPを成形するFRPの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載されたFRPの製造方法においては、上型及び下型からなる成形型に形成されたキャビィティに、中空状(筒状)に形成されたプリフォーム(予備成形体)を配置するとともにプリフォームの内部に袋状のフィルムシートを配置する。そして、フィルムシート内に空気を供給し、空気圧によってフィルムシートを膨張させた状態で成形型に形成された注入口から樹脂を注入する。樹脂注入後、樹脂を硬化させ、樹脂硬化後は内部にフィルムシートを有したFRPを成形型から取り出し、フィルムシートをFRPから剥がすことで中空形状のFRPを製造する。
【0003】
また、その他にRTM法の一例として、樹脂をキャビティ内に均一に供給して、繊維基材全体に均一に含浸させる繊維強化樹脂製部材の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に記載の繊維強化樹脂製部材の製造方法では、内面の一部又は全部に樹脂用流路溝が形成された成形部材用キャビティ内に強化繊維からなる成形部材用基材及び中子用基材の少なくともいずれか一方を配置する。そして、金型の注入口から樹脂用流路溝を経由させて成形部材用基材及び中子用基材の少なくともいずれか一方の全体に樹脂を加圧含浸させる。
【特許文献1】特開2004−58650号公報
【特許文献2】特開2006−150614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、注入された樹脂が繊維基材から受ける樹脂流動抵抗は繊維基材の部位によって異なり、例えば、強化繊維が適正に巻き付けられていない部位では樹脂が流動し難い。したがって、特許文献1に記載されたFRPの製造方法では、型内の樹脂の流動しやすい部分、すなわち流動抵抗が低い部分ばかりに樹脂が供給されることがあった。そして、このような事態が生じると、樹脂が流れ込み難い部位では十分に樹脂を含浸させることができず、成形品の一部に未含浸部分やピットができてしまうという問題があった。
【0005】
また、特許文献2に記載の繊維強化樹脂製部材の製造方法では、成形型の内面に形成された樹脂用流路溝は成形部材用基材及び中子用基材のうち少なくともいずれか一方の外表面に面する。したがって、樹脂を成形部材用基材及び中子用基材のうち少なくともいずれか一方に含浸させる際には、成形部材用基材及び中子用基材のうち少なくともいずれか一方の外表面に向けて樹脂が供給されるため、少なくともFRP製部材の片面には樹脂用流路溝の跡が残り、外観が悪かった。また、特許文献2に記載の繊維強化樹脂製部材の製造方法では、板状のFRP製部材を製造する点について開示するのみであり、中空形状のFRP製部材を製造する方法については記載されていない。
【0006】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、外観が良好な中空形状の繊維強化プラスチックを製造することができる繊維強化プラスチックの製造方法及び繊維強化プラスチック成形用中子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、連続した樹脂用流路を表面に有する中子を準備し、前記中子に繊維又はシート状の繊維製品を巻き付けた後、前記繊維又は前記繊維製品が巻き付けられた前記中子を成形型内に配置し、前記成形型内に樹脂を注入し前記樹脂を加圧状態で前記繊維又は前記繊維製品に含浸させて、前記樹脂を硬化させた後に前記中子を取り除くことを要旨とする。
【0008】
なお、「硬化」とは、製品の形状を維持できる程度に樹脂の硬化が進んだ状態を意味し、樹脂の完全硬化に限らず、半硬化状態も含む。
この発明では、樹脂用流路を形成することで成形型内において樹脂が流動し易くなるため、樹脂を含浸させる際に樹脂が樹脂用流路を流通して繊維又は繊維製品における樹脂流動抵抗が高い部分にまで供給される。したがって、樹脂を繊維又は繊維製品全体に均一に含浸させることができ、FRP成形品に未含浸部分やピットが発生することを抑制することができる。
【0009】
また、樹脂用流路は中子の表面に形成されているため、樹脂用流路はFRP成形品の内面と対応しており樹脂用流路の跡が少なくともFRP成形品の外面に残ることはない。したがって、FRP成形品の外観が樹脂用流路の跡によって損なわれることはなく、FRP成形品の外観を良好に保つことができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記中子は、表面に連続した溝を有し前記樹脂を含浸させた後に崩壊可能な中子本体と、前記中子本体を被覆して前記溝に沿うように圧着されることで前記中子の表面に前記樹脂用流路が形成される袋部材とから構成され、前記樹脂の注入圧力が所定圧力に達してから前記袋部材への流体の供給と前記樹脂の硬化とを行い、前記樹脂を硬化させた後に前記中子本体を崩壊させることで前記中子を取り除くことを要旨とする。
【0011】
ここで、「樹脂の注入圧力が所定圧力に達して」とは、樹脂が注入されて繊維又は繊維製品のほぼ全体に樹脂が含浸された状態に達したことを意味し、以下では、同じ意味で「樹脂の注入圧力が所定圧力に達して」という記載を用いる。
【0012】
この発明では、樹脂の注入圧力が所定圧力に達してから、流体を供給して袋部材を膨張させた状態で樹脂を硬化させる。したがって、繊維又は繊維製品の内面に樹脂用流路の跡が極力残らないようにすることができ、よりFRP成形品の見栄えを良くすることができる。
【0013】
また、中子本体が崩壊可能に構成されているため、中空部を有する、複雑な形状のFRP成形品を成形する場合であっても、中子本体を崩壊させることで中子自体を収縮させて容易にFRP成形品から取り除くことができる。したがって、未含浸部分やピットが少なく、かつ外観が良好で、中空部を有した複雑な形状のFRP成形品を製造することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記中子は、表面に連続した溝を有する非崩壊性の中子本体と、前記中子本体を被覆して前記溝に沿うように圧着されることで前記中子の表面に前記樹脂用流路が形成される袋部材とから構成され、前記樹脂の注入圧力が所定圧力に達してから前記袋部材への流体の供給と前記樹脂の硬化とを行い、前記樹脂を硬化させた後に前記中子を取り除くことを要旨とする。
【0015】
この発明では、樹脂の注入圧力が所定圧力に達してから、流体を供給して袋部材を膨張させた状態で樹脂を硬化させる。したがって、繊維又は繊維製品の内面に樹脂用流路の跡が極力残らないようにすることができ、よりFRP成形品の見栄えを良くすることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、記中子は、前記樹脂の含浸終了後に崩壊可能に単一部材で構成され、前記樹脂の硬化が終了した後に前記中子を崩壊させることで前記中子を取り除くことを要旨とする。
【0017】
この発明では、中子が崩壊可能に構成されているため、中空部を有する、複雑な形状のFRP成形品を成形する場合であっても、樹脂が硬化した後に中子を崩壊させることで、FRP成形品から中子を取り除くことができる。したがって、未含浸部分やピットが少なく、見栄えのよい複雑な形状のFRP成形品を成形することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記樹脂用流路は前記中子の外周と直交して真っ直ぐに延びる第1流路と、前記第1流路と連続するとともに、前記第1流路から分岐した複数本の第2流路とから構成されていることを要旨とする。
【0019】
この発明では、樹脂を含浸させる際に、第1流路に樹脂を供給すれば、第1流路を通じて第2流路にも樹脂を供給することができる。したがって、中子に巻き付けられた繊維又は繊維製品全体に樹脂を均一に供給することができる。また、第1流路が中子の外周と直交して真っ直ぐに延びるため、曲折して延びる流路に比べて目的位置までの距離が短くなり、樹脂を速やかに目的部位に供給することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記樹脂を含浸させる際に、前記成形型内の温度を前記樹脂の粘度が500cps以下となる温度に保持することを要旨とする。
【0021】
通常、RTM法を実施する場合には樹脂の粘度が300cps以下でないと、樹脂は成形型内で流動し難いため、樹脂を繊維又は繊維製品に十分含浸させることができない。
しかし、この発明では、中子に樹脂用流路が形成されているため、樹脂の粘度が300cpsより大きく500cps以下となるような成形型の温度であっても、樹脂を成形型内で流動させて、樹脂を繊維又は繊維製品に含浸させることができる。
【0022】
請求項7に記載の発明は、RTM法によって中空形状の繊維強化プラスチックを成形する際に用いられ、表面に樹脂が流通可能で中子の全長に亘って連続する溝が形成されていることを要旨とする。
【0023】
なお、「中子の全長に亘って連続する溝」とは、中子の一端から他端まで完全に延びる長さの溝に限らず、中子の全長の9割以上の長さに形成された溝を意味する。
RTM法によってFRP成形品を成形する際に、この発明の中子を使用することで、未含浸部分やピットの少ないFRP成形品を製造することができる。また、FRP成形品の外面に樹脂用流路の跡が残ることはないため、外観の良好なFRP成形品を製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、外観が良好な中空形状の繊維強化プラスチックを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図3に従って説明する。
まず、中空形状のFRP成形品を製造する際に使用する中子1について説明する。図1(a)に示すように、中子1は円錐台状に形成されている。図1(b)に示すように、中子1は、金属からなるとともにFRP成形品の中空部と対応する形状に形成された中子本体2と、伸縮可能な袋部材としてのフィルムバッグ3とから構成されている。
【0026】
中子本体2は樹脂含浸時の温度及び樹脂を硬化させる時の温度より高い融点を有する金属、例えば、Sn(42重量%)・Bi(58重量%)の合金を材料として金型成形されている。中子本体2にはその表面に中子1の周方向と直交する方向に沿って延びる溝と枝状に延びる溝と中子本体2の端部に形成されている溝とから構成された溝部4が連続して延びるように形成されている。中子本体2全体を被覆し溝部4と対応する部位が凹んでいるフィルムバッグ3は、ナイロン製であるとともに耐熱性を有している。
【0027】
図1(a)に示すように、中子1には、その両側に小径端部5と大径端部6とが設けられ、溝部4(図1(b)参照)に沿ってフィルムバッグ3が圧着されることで小径端部5を構成する端面7には樹脂が流入可能な凹状の樹脂流入部8が形成されている。また、中子1の表面には樹脂流入部8と連続するとともに中子1の周方向と直交する方向に沿って延びるように第1流路としての第1溝部9が形成されている。第1溝部9はフィルムバッグ3が溝部4(図1(b)参照)に沿って圧着されることで形成されるとともに、中子1の全長に亘るように中子1の小径端部5から樹脂流入部8から最も離れた部位である中子1の大径端部6に至るまで延びる。そして、第1溝部9から枝状に延びるとともに第1溝部9と連続する第2流路としての第2溝部10が中子1の表面に複数本設けられている。第2溝部10は、第1溝部9から複数回分岐して構成されている。また、第2溝部10はフィルムバッグ3が圧着されることで形成されるとともに、第1溝部9と連通している。
【0028】
次に、FRP成形品の製造方法について説明する。
FRP成形品を製造する場合、強化繊維を巻き付けるための中子1を製作する。中子1を製作するには、まず、第1溝部9及び第2溝部10の形状と対応する形状の溝部4を表面に有する中子本体2を金型成形する。次に、中子本体2を包み込むことができるような大きさのフィルムバッグ3を準備し、準備したフィルムバッグ3によって中子本体2を被覆する。その後、フィルムバッグ3の口部を図示しない真空ポンプに接続してフィルムバッグ3内を真空引きすることで中子本体2の溝部4にフィルムバッグ3を圧着させ、中子1の表面に樹脂流入部8、第1溝部9及び第2溝部10を形成する。そのうえで、フィルムバッグ3の口部に成形型11に設けられた図示しない空気供給通路と接続可能な図示しない接続具を挿し込み、フィルムバッグ3の口部を図示しない封止手段としてのひもによって縛って封止することで中子1の製作が完了する。
【0029】
次に、製作した中子1をフィラメントワインディング(以下、フィラメントワインディングを適宜Fwと記載する。)装置に装着し、Fw装置によって中子1に樹脂が含浸されていない強化繊維を巻き付けて中子1を被覆する。本実施形態では、Fw装置で強化繊維を巻き付ける際に用いられるマンドレルの代わりに中子1を対象にして強化繊維を巻き付ける。強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等が使用される。
【0030】
強化繊維を巻き付けた後、RTM法を用いて樹脂の含浸及び硬化を行うため、まず、型入れを行う。型入れでは、図2に示すように、中子1に強化繊維が巻き付けられることで作成されたプリフォームPを中子1と共に成形型11のキャビティ12内に配置する。そして、プリフォームPと中子1とをキャビティ12内に配置する時、図示しない接続具の一部は成形型11の外部に配置し、外部に配置された図示しない接続具の一部は図示しないエアコンプレッサに接続する。
【0031】
そして、プリフォームPと中子1とがキャビティ12内に配置されると、中子1に形成されている樹脂流入部8は注入孔13と接続され、この状態で樹脂注入装置14と注入孔13とを接続する注入管15に設けられた三方弁16によって、樹脂注入装置14と注入孔13との間を遮断する。次に、減圧ポンプ17と排出孔18とを接続する吸引管19に設けられた三方弁20によって、減圧ポンプ17と排出孔18とを連通した状態で減圧ポンプ17を駆動することで、排出孔18を介してキャビティ12内を真空に近い状態にまで減圧する。続いて、キャビティ12内が減圧された状態で、樹脂注入装置14と注入孔13とを連通するとともに樹脂注入装置14から射出された樹脂を注入孔13からキャビティ12内に注入する。樹脂が注入されている間、成形型11内の温度は少なくとも樹脂がプリフォームP内を流動できる粘度(例えば、300cpsより大きく500cps以下の粘度)となるような温度に保持されている。注入する樹脂としては、例えば不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が使用され、使用する樹脂には硬化剤が添加されている。
【0032】
注入孔13からキャビティ12内に樹脂が注入されると、注入された樹脂は樹脂流入部8に流れ込み、樹脂流入部8から第1溝部9及び第2溝部10を流通することで樹脂はプリフォームPの隅々にまで供給される。すなわち、注入孔13から注入された樹脂は第1溝部9及び第2溝部10を経由してプリフォームP全体に均一に供給されるため、樹脂が流動し難いプリフォームPの部位(例えば、注入孔13の開口から最も離れた部位である大径端部6と対応する部位)にまで樹脂を含浸させることができる。
【0033】
ここで、樹脂注入装置14は、樹脂を含浸させる際に、樹脂を一定流量で、なおかつ、徐々に樹脂の注入圧力を上げて最終的に予め決められた注入圧力(例えば、0.5MPa)まで上昇させて送り出し、予め決められた注入圧力に到達したらそのまま注入圧力を維持する。樹脂の注入圧力が予め決められた注入圧力に到達すると樹脂はプリフォームP全体にほぼ含浸された状態となり、その後、注入圧力を維持することで、樹脂が硬化収縮した際に生じる不足分を補充する。なお、注入圧力とは樹脂注入装置14から送り出される樹脂の圧力を意味し、圧力計21の検出圧力に相当する。そして、注入圧力を維持した状態で、成形型11内に設けられた図示しない加熱手段(例えば、ヒータ)によって樹脂の加熱を開始するとともに図示しない空気供給手段(例えば、エアコンプレッサ)に装備されている図示しないバルブを開放して、樹脂の加熱と並行してフィルムバッグ3内に空気を供給することでフィルムバッグ3内の加圧を行う。フィルムバッグ3内に空気が供給されると、図3に示すように、フィルムバッグ3は膨張することでプリフォームPの内面はフィルムバッグ3によって押圧され、その状態のまま樹脂の硬化は進行し、樹脂の硬化が完了するとFRP成形品が製造される。なお、「樹脂の硬化が完了する」とは、FRP成形品の形状を維持できる程度に樹脂の硬化が進んだ状態を意味し、樹脂が完全硬化した状態に限らず、半硬化の状態も含む。FRP成形品が製造された後、図示しない加熱手段による樹脂の加熱を終了するとともにフィルムバッグ3内への空気の供給を終了する。また、FRP成形品が製造されると、樹脂注入装置14及び減圧ポンプ17の運転を停止して、三方弁16,20を大気開放して樹脂の注入を終了する。
【0034】
次に、成形型11を開き、フィルムバッグ3に設けられた図示しない接続具と図示しないエアコンプレッサとの接続を解除し、成形型11内から中子1とFRP成形品を取り出す。その後、FRP成形品及び中子1を図示しない炉の中に縦置きに配置し、中子本体2を構成する金属の融点を上回るまで炉内の温度を上昇させる。なお、中子1を炉の中に配置する時、中子1を構成するフィルムバッグ3はその口部が開かれ、なおかつ、下方を向いた状態にされる。そして、炉内の温度が中子本体2を構成する金属の融点を上回ると、中子本体2を構成する金属は溶融してフィルムバッグ3の口部から流れ出し、フィルムバッグ3内から取り除かれる。その後、炉内から中子本体2が除去されたFRP成形品を取り出し、FRP成形品からフィルムバッグ3を取り除くことでFRP成形品が完成する。
【0035】
なお、図1(a),(b)及び図2は、中子1、プリフォームP、の構成を模式的に示したものであり、図示の都合上、それぞれの部分の幅、長さ、厚さ等の寸法の比は図1(a),(b)と図2とでは異なっている。
【0036】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)中子1は、連続した樹脂用流路としての第1溝部9と第2溝部10とを有しており、キャビティ12内に樹脂を注入し樹脂をプリフォームPに含浸させる。したがって、樹脂の流動抵抗が高いプリフォームPの部位(大径端部6と対応する部位)にまで樹脂を含浸させることができるため、製造するFRP成形品に未含浸部分やピットが発生することを抑制することができる。
【0037】
(2)樹脂用流路としての第1溝部9及び第2溝部10は中子1の表面に形成されている。したがって、成形されたFRP成形品の外面に第1溝部9及び第2溝部10の跡が残ることはないため、FRP成形品の外観を良好に保つことができる。
【0038】
(3)中子1には樹脂流路としての第1溝部9及び第2溝部10が設けられているため、低い注入圧力でプリフォームPの全体に樹脂を供給することができる。したがって、耐圧性が低い製造設備を用いてFRP成形品をRTM法によって製造することができる。
【0039】
(4)中子1は樹脂の硬化終了後に溶融して崩壊する金属製の中子本体2を備えている。したがって、中空部を有するFRP成形品を成形する場合に、樹脂を硬化させた後、中子本体2を溶融させてFRP成形品から取り除くことができる。
【0040】
(5)中子1は中子本体2を被覆するフィルムバッグ3を備えている。そして、樹脂の注入圧力が予め決められた注入圧力に到達するとフィルムバッグ3内への流体の供給と樹脂の硬化とを行う。したがって、製造されたFRP成形品の内面に樹脂用流路跡部が極力残らないようにすることができるため、FRP成形品の見栄えを良くすることができる。
【0041】
(6)樹脂用流路は中子1の外周と直交する方向に沿って真っ直ぐに延びる第1溝部9と、第1溝部9と連続するとともに、第1溝部9から分岐した複数本の枝状の第2溝部10とから構成されている。したがって、第1溝部9に樹脂を供給すれば、第1溝部9を通じて第2溝部10にも樹脂を供給することができるため、中子1に巻き付けられたプリフォームP全体に樹脂を均一に供給することができる。また、樹脂流入部8から大径端部6まで延びる流路が曲折した流路である場合に比べて、第1溝部9において樹脂流入部8から大径端部6に到るまでの流路距離を短くすることができるため、大径端部6と対応するプリフォームPの部位にまで樹脂を速やかに供給することができる。
【0042】
(7)通常、RTM法を実施する場合には樹脂の粘度が300cps以下でないと、樹脂はプリフォームP内で流動しないため、樹脂をプリフォームPに十分含浸させることができない。しかし、この実施形態では中子1に第1溝部9及び第2溝部10が形成されているため、少なくとも樹脂の粘度が500cps以下となるように成形型11内の温度を保持した状態で樹脂を成形型11内に注入して、プリフォームPに樹脂を含浸させることができる。
【0043】
(8)中子1の小径端部5には樹脂流入部8が形成され、第1溝部9及び第2溝部10は小径端部5から大径端部6に至るまで延びている。したがって、樹脂を含浸させる際、注入孔13から最も離れているプリフォームPの部位にまで確実に樹脂を供給することができ、FRP成形品に未含浸部分が発生することを抑制できる。
【0044】
(9)樹脂を硬化させる際、フィルムバッグ3内に供給する流体は空気である。したがって、エアコンプレッサを準備して、フィルムバッグ3の口部に設けられた図示しない接続具をエアコンプレッサと接続するだけで、フィルムバッグ3内に空気を供給する装置を構築できる。
【0045】
(10)成形型11に設けられた注入孔13が一つのみであっても、樹脂を第1溝部9及び第2溝部10に流通させることでプリフォームP全体に均一に供給することができる。
【0046】
実施の形態は、前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 樹脂を含浸させる際に設定される成形型11内の温度を変更してもよい。成形型11内の温度は樹脂がプリフォームP内で流動できるような温度に設定されていれば、例えば、成形型11内の温度を樹脂の粘度が300cps以下となるような温度に設定してもよい。
【0047】
○ 樹脂用流路としての第1溝部9の延びる方向を変更してもよい。例えば、第1溝部9を樹脂流入部8から大径端部6に向って螺旋状に延びるように構成してもよい。
○ 樹脂用流路としての第1溝部9の長さを変更してもよい。例えば、樹脂流入部8から延びる第1溝部9の長さが中子1の全長の9割となるように、第1溝部9の延びる長さを変更してもよい。
【0048】
○ 樹脂用流路としての第2溝部10の延びる方向を変更してもよい。例えば、中子1の外周を一周するように延びる第2溝部10を複数設けてもよい。
○ 第1溝部9から一回のみ分岐した第2溝部を設けてもよい。
【0049】
○ 第1溝部9及び第2溝部10において、延設方向と直交する方向の断面積は一定でもよいし、途中で変わるように構成してもよい。
○ 中子本体2の溝部4にフィルムバッグ3が沿うように圧着させることで第1溝部9及び第2溝部10を形成する時期を変更してもよい。例えば、中子1に強化繊維を巻き付けてプリフォームPを作成した後で成形型11内に配置する前に、真空ポンプによってフィルムバッグ3内を真空引きして第1溝部9及び第2溝部10を形成してもよい。また、プリフォームで被覆された中子を成形型11内に配置した後、フィルムバッグ3の口部に設けられている接続具を図示しない真空ポンプと接続してフィルムバッグ3内を真空引きすることで、中子本体2の溝部4にフィルムバッグ3が沿うように圧着させて中子1に第1溝部9及び第2溝部10を形成してもよい。
【0050】
○ 中子1の構成を変更してもよい。例えば、所定の粒径を有するビーズ23と水溶性粘結剤(例えば、カルボキシメチルセルロース)とを混合してビーズ23同士を粘結させ、図4(a)及び(b)に示すように、粘結したビーズ23をフィルムバッグ3内に充填し、その後、真空ポンプでフィルムバッグ3内を真空引きする。そして、ビーズ23同士の境界部分に形成された凹部25にフィルムバッグ3が沿うように圧着させることで中子24の表面に樹脂用流路としての溝部26が形成された中子24を構成してもよい。この中子24を用いてFRP成形品を製造する場合には、樹脂の硬化が終了した後にビーズ23に水を添加することでビーズ23をばらばらにしてフィルムバッグ3内から取り除けば、中子24を崩壊させてFRP成形品から取り除くことができる。また、フィルムバッグ3内に複数の針金を長手方向に引き揃えて詰めることで中子を構成してもよい。この場合、樹脂の硬化が終了した後にフィルムバッグ3の口部を開いてフィルムバッグ3から針金を抜き出せば、中子を崩壊させてFRP成形品から取り除くことができる。
【0051】
○ 中子に強化繊維を巻き付ける方法はFW法に限らない。例えば、ブレーディング法(組紐)で樹脂の含浸されていない強化繊維を中子1に巻き付けてもよい。
○ 袋部材としてのフィルムバッグ3内の加圧を空気以外の流体を供給することで行ってもよい。例えば、フィルムバッグ3内に気体である窒素を供給することでフィルムバッグ3内を加圧してもよいし、フィルムバッグ3内に液体である水を供給することでフィルムバッグ3内を加圧してもよい。
【0052】
○ 本発明の製造方法を用いて製造するFRP成形品の形状を変更してもよい。例えば、中空形状でかつ湾曲形状のFRP成形品を製造してもよい。この場合、中子又は中子本体が崩壊性にすることで、FRP成形品が中空形状で湾曲形状であっても、樹脂の硬化が終了した後に中子又は中子本体を崩壊させてFRP成形品から取り除くことができる。
【0053】
○ 中子本体2を非崩壊性に変更してもよい。例えば、テーパ状で、かつ一直線状のFRP成形品を製造するのであれば、樹脂を硬化させる温度以上の融点からなる金属から中子本体2を構成し、樹脂の硬化が終了した後に中子1を押圧することで大径端部6側から中子1を取り除く。
【0054】
○ 成形型11内に注入する樹脂の種類を変更してもよい。熱硬化性樹脂の代わりに、例えば、ナイロン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の熱可塑性樹脂を使用してもよい。
【0055】
○ 樹脂を加熱せずに樹脂を硬化させてもよい。例えば、含浸させる樹脂として低温で硬化できる樹脂を用い、まず、成形型11内の温度を樹脂の硬化温度よりも低い温度状態に保ちつつプリフォームPに樹脂を含浸させる。そして、樹脂を硬化させる際には成形型11の温度が常温以下となるように設定し、樹脂に対して加熱を行わずに樹脂を硬化させる低温成形を行ってもよい。
【0056】
○ 袋部材としてのフィルムバッグ3を省略して、中子を単一部材で構成してもよい。例えば、中子が単一部材となるように構成し、その中子をFRP成形品の中空部に対応する形状に金型成形すればよい。そして、中子の表面に樹脂用流路としての第1溝部及び第2溝部を設ければ、樹脂を第1溝部及び第2溝部に流通させることで、樹脂を中子1に巻き付けられているプリフォームP全体に供給することができる。そして、樹脂の硬化が終了した後に、炉内で中子1を加熱して溶融させれば中子1を取り除くことができる。
【0057】
○ 注入孔13を設ける位置を変更してもよい。例えば、プリフォームPの外面と対応する位置に注入孔13を設けてもよい。通常、プリフォームPの厚みはプリフォームPの長手方向の長さに比べて小さいため、注入孔13から注入された樹脂はプリフォームPを通過して第1溝部9及び第2溝部10にまで到達し第1溝部9及び第2溝部10を流通する。また、樹脂流入部8と対応する位置と、プリフォームPの外面と対応する位置の2箇所に注入孔13を設けてもよい。このように構成すれば、直接、プリフォームPに樹脂を含浸させるとともに、樹脂が流通する樹脂用流路としての第1溝部9及び第2溝部10を介してプリフォームPに樹脂を含浸させることができるため、製造されたFRP成形品に未含浸部分やピットが発生することを抑制できる。
【0058】
○ 中子1に巻き付ける強化繊維を連続繊維から長繊維あるいは短繊維に変更してもよい。また、中子1に強化繊維を巻き付ける代わりに、シート状の繊維製品としての繊維シートを巻き付けてもよい。繊維シートとしては、長繊維が製織された織布、不織布及び編み地が用いられ、このように構成された繊維シートを中子1に巻き付けて中子1を被覆することでプリフォームを構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(a)は本実施形態における中子の概略斜視図、(b)は本実施形態における中子の模式断面図。
【図2】本実施形態において樹脂を含浸させる工程と樹脂を硬化させる工程とを説明する概略構成図。
【図3】フィルムバッグ内に空気が供給された状態を示す拡大模式断面図。
【図4】(a)は別の実施形態における中子の概略斜視図、(b)は(a)の4b−4b線断面図。
【符号の説明】
【0060】
P…プリフォーム、1,24…中子、2…中子本体、3…フィルムバッグ、9…樹脂用流路としての第1溝部、10…樹脂用流路としての第2溝部、11…成形型、23…ビーズ、26…溝部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した樹脂用流路を表面に有する中子を準備し、前記中子に繊維又はシート状の繊維製品を巻き付けた後、前記繊維又は前記繊維製品が巻き付けられた前記中子を成形型内に配置し、前記成形型内に樹脂を注入し前記樹脂を加圧状態で前記繊維又は前記繊維製品に含浸させて、前記樹脂を硬化させた後に前記中子を取り除く繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項2】
前記中子は、表面に連続した溝を有し前記樹脂を含浸させた後に崩壊可能な中子本体と、前記中子本体を被覆して前記溝に沿うように圧着されることで前記中子の表面に前記樹脂用流路が形成される袋部材とから構成され、前記樹脂の注入圧力が所定圧力に達してから前記袋部材への流体の供給と前記樹脂の硬化とを行い、前記樹脂を硬化させた後に前記中子本体を崩壊させることで前記中子を取り除く請求項1に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
前記中子は、表面に連続した溝を有する非崩壊性の中子本体と、前記中子本体を被覆して前記溝に沿うように圧着されることで前記中子の表面に前記樹脂用流路が形成される袋部材とから構成され、前記樹脂の注入圧力が所定圧力に達してから前記袋部材への流体の供給と前記樹脂の硬化とを行い、前記樹脂を硬化させた後に前記中子を取り除く請求項1に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
前記中子は、前記樹脂の含浸終了後に崩壊可能に単一部材で構成され、前記樹脂の硬化が終了した後に前記中子を崩壊させることで前記中子を取り除く請求項1に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂用流路は前記中子の外周と直交して真っ直ぐに延びる第1流路と、前記第1流路と連続するとともに、前記第1流路から分岐した複数本の第2流路とから構成されている請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂を含浸させる際に、前記成形型内の温度を前記樹脂の粘度が500cps以下となる温度に保持する請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項7】
RTM法によって中空形状の繊維強化プラスチックを成形する際に用いられ、表面に樹脂が流通可能で中子の全長に亘って連続する溝が形成されている繊維強化プラスチック成形用中子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−213389(P2008−213389A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56714(P2007−56714)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】