説明

繊維強化プラスチック成形体の製造装置

【課題】樹脂含浸繊維の損傷を極力少なくしつつ、樹脂含浸繊維の巻き付け時の滑りを抑制するFRP成形体の製造装置を提供する。
【解決手段】樹脂含浸繊維を回転体に複数層巻き付ける巻付部と、回転体の2層目以降の被巻付面のうち、樹脂含浸繊維が巻き付けられる直前の部位に気体を吐出する吐出部とを備える繊維強化プラスチック成形体の製造装置を提供する。吐出部は、回転体への樹脂含浸繊維の巻付状況に応じて、吐出する気体の温度、吐出量または吐出圧を調整するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック成形体の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池システム等に用いられる高圧ガスを貯蔵するタンクの開発が進んでいる。特に、車載用の燃料電池システムにおいては、強度の確保や軽量化等の観点から繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics;以下、「FRP」という)タンクが有力視されている。
【0003】
FRPタンク等のFRP成形体は、例えば、フィラメント・ワインディング法(以下、「FW法」という)を用いて製造される。FW法においては、熱硬化性樹脂を含浸させた樹脂含浸繊維を回転体の周囲に数層から数十層巻きつけたのち加熱して樹脂を熱硬化させる。これにより、FRP成形体を形成する。
【0004】
FW法においては、巻き付けの際の樹脂含浸繊維の滑り(樹脂含浸繊維が回転体の適切な位置に巻付けられず所定位置から滑ることで、以下「繊維滑り」ともいう。)が問題となる。例えば、特許文献1では、回転部材の表面に樹脂含浸繊維を巻き付けるFW装置において、繊維を回転部材の表面に巻付けた上で、さらに押圧手段にて巻き付けた繊維を回転部材に押圧する技術が提案されている。
【特許文献1】特開2007−260976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、樹脂含浸繊維を巻き付けた後の横すべりには対応はできても、樹脂含浸繊維を巻き付ける段階で発生する滑りには対応できない。また、押圧手段が樹脂含浸繊維に接触することで、繊維にダメージを与えることもある。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、樹脂含浸繊維の損傷を極力少なくしつつ、樹脂含浸繊維の巻き付け時の滑りを抑制するFRP成形体の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、樹脂含浸繊維を回転体に複数層巻き付ける巻付部と、前記回転体の2層目以降の被巻付面のうち、前記樹脂含浸繊維が巻付けられる直前の部位に気体を吐出する吐出部と、を備える繊維強化プラスチック成形体の製造装置を構成する。
【0008】
この構成によれば、2層目以降の被巻付面は、先に巻きつけた樹脂含浸繊維の樹脂で表面が覆われることになるが、吐出部から吐出した気体の圧力によって、この表面樹脂を取り除くことができるので、次に巻き付ける樹脂含浸繊維が表面樹脂によって滑ることを防止することができる。しかも、気体を吐出することで表面樹脂を取り除くので、樹脂含浸繊維へのダメージを最小限に抑えることができる。
【0009】
尚、本発明において、繊維とは、繊維一本を意味するだけではなく、複数の繊維を撚ってなる繊維束や、さらに複数の繊維束を撚ってなる繊維束をも含む。
【0010】
また、上記構成において、前記吐出部は、前記回転体への前記樹脂含浸繊維の巻付状況に応じて、前記吐出する気体の温度、吐出量または吐出圧を調整するようにしてもよい。
【0011】
上記構成により、回転体への樹脂含浸繊維の巻付状況に応じて必要な分だけ表面樹脂を除去することができる。
【0012】
繊維に樹脂を含浸させて前記巻付部に樹脂含浸繊維を供給する繊維供給部をさらに備え、
【0013】
また、上記構成において、前記回転体への前記樹脂含浸繊維の巻付状況に応じて、前記繊維供給部において前記樹脂の温度を調整するようにしてもよい。
【0014】
上記構成により、繊維に含浸させる樹脂の温度を調整することで、被巻き付け面を構成する表面樹脂の粘度を調整できるので、吐出部による表面樹脂の除去量を間接的に制御することができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂含浸繊維の損傷を極力少なくしつつ、樹脂含浸繊維の巻き付け時の滑りを効果的に抑制するFRP成形体の製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るFRP成形体の製造装置について説明する。尚、各図面において、同一の部品には同一の符号を付している。
1.FRP成形体の製造装置
2.繊維滑り防止処理
3.変形例
【0017】
1.FRP成形体の製造装置
はじめに、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係るFRP成形体の製造装置1について説明する。ここで、図1は、FRP成形体の製造装置を示す模式図である。製造装置1は、フィラメント・ワインディング(FW)法により回転部材の周囲に繊維強化プラスチック(FRP)層を形成する装置であり、繊維束供給部10と、張力測定器20と、樹脂含浸部30と、繊維束ガイド(アイロ)40と、回転体50と、気体吐出部60と、制御部70とを備えている。
【0018】
繊維束供給部10には、繊維束f1〜f3が巻き付けられた複数(図1においては3つ)のボビン11a〜11cが備えられている。繊維束f1〜f3としては、本実施形態においては、カーボン繊維を用いる。繊維束供給部10は、繊維束f1〜f3の張力を調整して張力測定器20に送り出す。
【0019】
張力測定器20は、繊維束f1〜f3の張力を測定し、その測定結果を制御部70に出力する。
【0020】
樹脂含浸部30は、未硬化の状態(液体又はゲル状)の熱硬化性の樹脂が貯留された樹脂槽31と、繊維束f1〜f3を樹脂槽31の所定の位置に案内するローラ32〜34とを備えており、繊維束f1〜f3に樹脂槽31内の樹脂を含浸させる。熱硬化性の樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。尚樹脂槽31内の温度は制御部70からの指令により適宜設定可能となっている。
【0021】
繊維束ガイド40は、樹脂を含浸した繊維束f1〜f3を1つに束ねることにより繊維束Fを形成し、これを回転体50に案内する。繊維束ガイド40は、回転体50の長手方向及びそれに垂直な方向に往復可能であり、且つ、回転体50に対する角度を変更できるように回転可能な状態で設置されている
【0022】
回転体50は、円筒状の胴体部と、該胴体部の両端部に設けられたドーム状の口金部(肩部)とから構成されており、金属や、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の硬質樹脂によって形成されている。本実施の形態においては、回転体50は、高圧ガスタンク用のライナであり、例えば、内部に燃料ガスとしての圧縮天然ガスや水素ガス等を貯蔵し、燃料電池車の燃料電池システムの一部を構成する。
【0023】
回転体50は、その軸心を中心に回転可能となるように、支持部52を介して回転駆動部53に取り付けられている。回転駆動部53は可変速モータを有しており、このモータによって回転体50を回転駆動する。回転体50には、繊維束Fが所定のパターンで巻き付けられ、複数層からなる樹脂含浸繊維層51が形成される。繊維束Fの巻き方(パターン)については特に限定されず、例えば、フープ巻きやヘリカル巻きや、それらを組み合わせた巻き方であってもよい。加圧ポンプ54は、樹脂含浸繊維層51の形成中に回転体50が凹むのを防ぐために、回転体50の内部を加圧する。
【0024】
気体吐出部60は、ノズル61から回転体50の被巻き付け面に向けて気体を吐出するように構成されている。ノズル61には、連結部62を介して、気体供給部63から気体が供給されるようになっている。連結部62は、制御部70からの指令により、伸縮、回転等の移動が可能であり、これによりノズル61を回転体50の長手方向及び垂直方向の所望の位置に移動させる。ノズル61から吐出する気体には、例えば、空気や不活性ガスが用いられる。このとき、例えば、気体供給部63内にコンプレッサを設け外部の空気を圧縮して気体供給部63に取り込むようにしてもよいし、また気体供給部63内部に圧縮した不活性ガスを予め収容しておくようにしてもよい。ノズル61から吐出する気体は、制御部70からの指令により、その吐出温度、吐出圧力、吐出温度がそれぞれ調整可能となっている。尚、吐出温度は、樹脂の粘度を低下させるのに十分に高い温度であって、かつ熱硬化性樹脂の硬化温度未満において適宜決定される。
【0025】
制御部70は、製造装置1の運転を制御するプログラム及びユーザからの指令が入力される入力部を備えている。制御部70は、このプログラム及び/またはユーザからの指令に従って、例えば、繊維束供給部10の供給、張力測定器20の張力測定、樹脂含浸部30の槽内温度、繊維束ガイド40の位置、回転体50の回転スピード、気体吐出部60の吐出量等、製造装置1全体を制御するようになっている。
【0026】
2.繊維滑り防止処理
次に、上記FRP成形体の製造装置1を用いた繊維滑り防止処理について、図2、図3を用いて詳細に説明する。ここで、図2は、本発明の実施の形態に係る繊維滑り防止処理を説明する模式図、図3(A)、(B)は、繊維滑り防止処理前後の領域AのX−X断面を模式的に示す図である。
【0027】
図2に示すように、製造装置1による繊維束Fの巻き付け運転が開始されると、制御部70の指令に基づき、回転体50が所定の方向Rに回転されるとともに、繊維束ガイド40が回転体50に対して長手方向及び/または垂直方向(図2においては、長手方向L)に移動される。これにより、樹脂含浸部30にて樹脂が含浸された繊維束Fが回転体50に巻き付けられ、樹脂含浸繊維層51が形成される。
【0028】
繊維束Fの回転体50への巻き付けが2層目以降になると、制御部70は、繊維束Fの回転体50への巻き付け状況を検知し、繊維滑り防止処理が必要か否かを判断する。ここで、本実施の形態において、巻き付け状況とは、繊維滑りが生じやすい状況を示し、例えば、ヘリカル巻き等の繊維滑りを生じやすい巻き付け方法を使用する状況、構造的に滑りを生じやすい位置に巻き付けを行う状況、巻きつけ回数や張力が大きいため既に巻いた繊維束Fからの樹脂が滲み出しやすくなっている状況等である。このような状況において、制御部70は、繊維滑りが生じやすいと判断した場合に、繊維滑り防止処理を行う。具体的には、気体吐出部60(図2には図示せず)を繊維束ガイド40の移動方向前方に移動させる。そして、気体吐出部60は、制御部70からの指令に基づき、回転体50の被巻き付け面のうち繊維束Fが巻きつけられる直前の部位(図2の点線で囲んだ領域Aの所定部分)に、気体を吐出する(以下、単に「気体吐出」ともいう)。尚、吐出する気体の吐出条件(吐出温度、吐出圧力、吐出量等)は、上記巻きつけ状況に応じて制御部70により適宜調整される。この気体吐出の前後の様子を図3に示す。
【0029】
図3(A)に示すように、気体吐出前は、回転体50上に巻きつけられた繊維束Fが、樹脂含繊維層51を形成するとともに、被巻き付け面を構成する樹脂含浸繊維層51の表面が、表面樹脂510により覆われている。この表面樹脂510は、例えば、既に巻きつけられた繊維束Fから、巻き付け張力等により樹脂が滲み出すことにより形成される。
【0030】
図3(B)に示すように、気体吐出後は、吐出された気体により表面樹脂510の一部が除去され、表面樹脂が存在しない樹脂除去部511が形成される。より詳細には、吐出された気体により、表面樹脂510の被吐出面が温められ粘度が低下することにより樹脂の流動性が増す。そして、吐出された気体の吐出圧によって、この流動性の増した樹脂が押しのけられたり吹き飛ばされたりすることにより、表面樹脂510の被吐出面が除去される。
【0031】
続いて、制御部70は、樹脂除去部510上に繊維束ガイド40を移動させ、繊維束Fを回転体50に巻きつけていく。
【0032】
以上により、繊維滑りを抑制することができる。すなわち、従来の方法であれば、図3(A)の状態で繊維束Fを巻きつけていたため、表面樹脂510により繊維束Fが滑ってしまっていたが、本実施の形態においては、図3(B)に示すように、予め樹脂除去部511を形成し、この樹脂除去部511に繊維束Fを巻きつけるようにしているため、表面樹脂510に起因する繊維滑りを抑制することができる。しかも、気体を吐出することで樹脂含浸繊維層51に接触せずに表面樹脂510を取り除くので、樹脂含浸繊維層51へのダメージを最小限に抑えることができる。
【0033】
また、制御部70は、繊維束Fの回転体50への巻き付け状況を検知し、繊維滑り防止処理が必要か否かを判断し、また巻き付け状況に応じて気体の吐出条件(吐出温度、吐出圧力、吐出量等)を調整するので、必要な状況で必要な分だけ表面樹脂510を除去することができる。
【0034】
3.変形例
以上本発明の実施形態を示したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な態様での実施が可能である。例えば以下のような変形例が可能である。
【0035】
例えば、上記実施の形態では、表面樹脂510の除去にあたり、当該樹脂の粘度を下げるために気体吐出部60から吐出する気体の温度を調整するようになっているが、これに限定されるものではない。例えば、繊維束Fの回転体50への巻き付け状況に応じて、制御部70からの指令により樹脂槽31の温度を上げることによって、表面樹脂510の粘度を間接的に下げるようにしてもよい。
【0036】
また、上記実施の形態においては、制御部70は、繊維束Fの回転体50への巻き付け状況を検知し、繊維滑り防止処理が必要か否かを判断し、また当該状況に応じて気体の吐出条件(吐出温度、吐出圧力、吐出量等)を調整しているが、これに限られるものではない。例えば、巻きつけの2層目以降は、常に繊維滑り防止処理をするようにしてもよいし、また、吐出条件も固定してもかまわない。また上記実施の形態においては、制御部70にて、繊維滑りが起きやすい状況であるか否かを検知した場合に、繊維滑り防止処理を行うようにしているが、これに限られるものではない。例えば、制御部70により、繊維束Fの回転体50への巻き付けの様子を監視し、繊維滑りが実際に生じたときに、上記繊維滑り防止処理を行うようにしてもよい。
【0037】
また、気体吐出部60は様々な構造が可能であり、例えば、繊維束ガイド40と一体化させてもよい。この場合、気体吐出の位置制御がより容易になる。
【0038】
また、上記実施の形態では、樹脂含浸部30にて樹脂を含浸させた繊維束Fを回転体50に巻きつけた場合における繊維滑り防止処理を例に挙げて説明したが、これに限られるものではない。繊維滑りが生じる程度に表面樹脂510が形成されるのであれば、予め樹脂を含浸させた繊維(プリプレグ)を繊維束Fとして用いた場合にも上記繊維防止処理を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】FRP成形体の製造装置示す模式図。
【図2】繊維滑り防止処理を説明する模式図。
【図3】(A)、(B)は、繊維滑り防止処理前後の領域AのX−X断面を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0040】
1……FRP成形体の製造装置、10……繊維束供給部、11a……ボビン、11b……ボビン、11c……ボビン、20……張力測定器、30……樹脂含浸部、31……樹脂槽、32……ローラ、33……ローラ、34……ローラ、40……繊維束ガイド、50……回転体、51……樹脂含浸繊維層、510……表面樹脂、511……樹脂除去部、52……支持部、53……回転駆動部、54……加圧ポンプ、60……気体吐出部、61……ノズル、62……連結部、63……気体供給部、70……制御部、f1…繊維束、f2…繊維束、f3…繊維束、F…繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂含浸繊維を回転体に複数層巻き付ける巻付部と、
前記回転体の2層目以降の被巻付面のうち、前記樹脂含浸繊維が巻き付けられる直前の部位に気体を吐出する吐出部と、
を備える繊維強化プラスチック成形体の製造装置。
【請求項2】
前記吐出部は、前記回転体への前記樹脂含浸繊維の巻付状況に応じて、前記吐出する気体の温度、吐出量または吐出圧を調整する請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
繊維に樹脂を含浸させて前記巻付部に樹脂含浸繊維を供給する繊維供給部をさらに備え、
前記回転体への前記樹脂含浸繊維の巻付状況に応じて、前記繊維供給部において前記樹脂の温度を調整する請求項1または請求項2に記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−226751(P2009−226751A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75273(P2008−75273)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】