説明

繊維強化プラスチック部材

【課題】部材内での層間剥離などの欠陥が発生しない、強度や弾性率などの機械特性に優れ、軽量で平滑な表面を有する繊維強化プラスチック部材を提供する。
【解決手段】次の構成要素[A]、[B]、[C]、[D]を含み、構成要素[A]の少なくとも片面に構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]がこの順に配設されていることを特徴とする繊維強化プラスチック部材。
構成要素[A]:繊維強化プラスチック
構成要素[B]:引張弾性率が0.1MPa〜500MPaである層
構成要素[C]:接着層
構成要素[D]:引張弾性率が1000〜30000MPaである熱可塑性樹脂層または熱硬化性樹脂層

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軽量であり、強度や弾性率などの機械特性に優れ、なおかつ、平滑な表面を有する繊維強化プラスチック部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、およびボロン繊維などの強化繊維と、マトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックは、軽量であり、強度や弾性率などの機械特性に優れるため、航空宇宙用途、スポーツ用品用途および自動車用途などに広く用いられている。
【0003】
なかでも、繊維強化プラスチック部材を用いることにより、軽量化でき、この結果、燃費向上、ひいては排出COを削減できることから、繊維強化プラスチック部材を自動車用途に用いようとする動きが高まってきている。
【0004】
繊維強化プラスチック部材を自動車用途、なかでもフード、ルーフ、トランクリッド、ドアなどの外板に用いようとする場合、軽量性や強度や弾性率などの機械的特性が優れるといった機能面だけでなく、意匠面においても、写像が鮮明に映し出されるような、平滑な表面を有することが求められる。
【0005】
ところが、従来の繊維強化プラスチック部材には、平滑な表面が得られにくいという問題があった。具体的には、繊維強化プラスチック部材の表面に、織物、編み物などの織り柄・編み柄を反映した凹凸が生じる現象であり、この凹凸は「プリントスルー」と呼ばれる。これは、繊維強化プラスチック部材においては、成形中にマトリックス樹脂が硬化収縮、および成形温度から室温にまで冷却する際に熱収縮が生じるが、強化繊維の織物、編み物などの凹凸を有する強化繊維基材を用いる場合、織物、編み物などの凹部におけるマトリックス樹脂の表層厚みは、他の部分におけるマトリックス樹脂の表層厚みよりも大きくなり、このとき、厚み方向のマトリックス樹脂の収縮量は、厚み方向の収縮率と樹脂の表層厚みに比例することから、マトリックス樹脂の表層厚みの大きな織物、編み物などの凹部における厚み方向の収縮率が他の部分における厚み方向の収縮量より大きくなる結果、繊維強化プラスチック部材の表面に凹凸が生じるものである。
【0006】
かかる問題に対し、従来より、繊維強化プラスチック、熱硬化性樹脂組成フィルム、熱可塑性樹脂フィルムのいずれかである高弾性率の層と、エラストマーを含む低弾性率層の2層からなる表層を高弾性率層が最表層となるように繊維強化プラスチックに配設することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
ところが、前述の従来法では、表面の凹凸を軽減する効果はあるものの、高弾性率層に用いるマトリックス樹脂、熱硬化性樹脂フィルム、熱可塑性樹脂フィルムと低弾性率層に用いるエラストマーとの接着力が十分とは言えず、部材内での層間剥離が発生するという問題があった。また、部材内での接着力を実用に堪えるものとすると、繊維強化プラスチックに用いるマトリックス樹脂、熱硬化性樹脂組成フィルム、熱可塑性樹脂フィルム、エラストマーの選択可能な組み合わせが非常に限られていた。このため、相互接着力の高い高弾性率層と低弾性率層の組み合わせでも、高弾性率層の弾性率が低い、もしくは、低弾性率層の弾性率が高いため、表面凹凸を軽減するために表層を厚くする必要があり、重量増加につながるという問題があった。
【特許文献1】特開2006−51813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、部材内での層間剥離などの欠陥が発生しない、強度や弾性率などの機械特性に優れ、軽量で平滑な表面を有する繊維強化プラスチック部材を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はかかる課題を解決するため、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の繊維強化プラスチック部材は、
(1)次の構成要素[A]、[B]、[C]、[D]を含み、構成要素[A]の少なくとも片面に構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]がこの順に配設されていることを特徴とする繊維強化プラスチック部材。
構成要素[A]:繊維強化プラスチック
構成要素[B]:引張弾性率が0.1MPa〜500MPaである層
構成要素[C]:接着層
構成要素[D]:引張弾性率が1000〜30000MPaである熱可塑性樹脂層または熱硬化性樹脂層
(2)23℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さが1MPa以上であり、かつ、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1MPa以上であることを特徴とする前記(1)に記載の繊維強化プラスチック部材。
【0010】
(3)80℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さが1MPa以上であり、かつ、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1MPa以上であることを特徴とする前記(1)または(2)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【0011】
(4)構成要素[C]が、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂の少なくとも1つから選ばれるホットメルト接着剤からなることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【0012】
(5)構成要素[C]のホットメルト接着剤が反応型ホットメルト接着剤であることを特徴とする前記(4)に記載の繊維強化プラスチック部材。
【0013】
(6)構成要素[C]のホットメルト接着剤の融点が80℃以上であることを特徴とする前記(4)または(5)に記載の繊維強化プラスチック部材。
【0014】
(7)構成要素[C]の厚みが5〜200μmであることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【0015】
(8)構成要素[A]に含まれる強化繊維が織物または編み物であることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【0016】
(9)構成要素[A]が炭素繊維を含むことを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【0017】
(10)構成要素[B]がエラストマーを含むことを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【0018】
(11)構成要素[D]の厚みが100〜700μmであることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【0019】
(12)表面粗さが0.8μm以下であることを特徴とする請求項(1)〜(11)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック。
【0020】
(13)構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]の厚みの合計が200μm〜1000μmであることを特徴とする前記(1)〜(12)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【発明の効果】
【0021】
本発明の繊維強化プラスチック部材は、軽量であり、強度や弾性率などの機械的特性に優れ、部材内での層間剥離などの強度的欠陥を持たず、なおかつ、平滑な表面を有するため、自動車などの外板材として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、軽量であり、強度や弾性率などの機械的特性に優れ、部材内での層間剥離などの強度的欠陥を持たず、なおかつ、平滑な表面を有する繊維強化プラスチック部材を得るために、次の構成要素[A]、[B]、[C]、[D]を含み、構成要素[A]の少なくとも片面に構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]がこの順に配設されていることを特徴とする。
構成要素[A]:繊維強化プラスチック
構成要素[B]:引張弾性率が0.1MPa〜500MPaである層
構成要素[C]:接着層
構成要素[D]:引張弾性率が1000〜30000MPaである熱可塑性樹脂層または熱硬化性樹脂層。
【0023】
また、構成要素[A]の表面に構成要素[B]と構成要素[D]を配設した繊維強化プラスチック部材では、構成要素[B]が収縮により生じる応力を緩和するため、構成要素[D]の厚みをそれほど取らなくとも、平滑な表面が得られる。しかしながら、構成要素[B]と構成要素[D]の接着力が低く、部材内での層間剥離が発生するという問題があった。
【0024】
本発明者らは、構成要素[B]と構成要素[D]の間に、接着層を設けることを着想した。そして、接着層として特に特定の性質を持つホットメルト接着剤を用いることにより、構成要素[B]と構成要素[D]として選択できる組み合わせを増やし、かつ、構成要素[B]と構成要素[D]の接着性を向上させ、部材内での層間剥離を抑制できることを見出した。
【0025】
本発明の構成要素[A]は、繊維強化プラスチックであり、これは強化繊維とマトリックス樹脂とからなる。
【0026】
構成要素[A]として用いる強化繊維の具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維およびボロン繊維などが挙げられる。なかでも、軽量でありながら、高強度、高弾性率であるという優れた特性を有するため、炭素繊維が好ましく用いられる。
【0027】
構成要素[A]として用いる強化繊維としては、短繊維および長繊維のいずれも用いることができる。機械特性を重視する場合には、軽量でありながら、高強度、高弾性率であるという優れた特性を有する繊維強化プラスチックが得られることから、10cm以上の長さの強化繊維を用いることが好ましい。成形性を重視する場合には、10cm以下の長さの強化繊維を用いることが好ましい。
【0028】
構成要素[A]として用いる強化繊維の配列構造の具体例としては、単一方向、2方向およびランダム方向などが挙げられる。また、強化繊維の形態の具体例としては、マット、織物および編み物などが挙げられる。なかでも、軽量でありながら、高強度、高弾性率であるという優れた特性を有する繊維強化プラスチック部材が得られることから、単一方向の配列構造のものを用いることが好ましい。また、取り扱い性に優れることから、織物、編み物の形態のものを用いることが好ましい。
【0029】
構成要素[A]として用いるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いることができる。ただし、耐熱性、機械特性とのバランスが優れることから、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
構成要素[A]が熱硬化性樹脂の場合の具体例としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂などが挙げられる。なかでも、耐熱性、機械特性とのバランスが特に優れ、硬化収縮が小さいという特徴を有することから、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0031】
構成要素[A]が熱可塑性樹脂の場合の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンおよびポリエーテルケトンなどが挙げられる。
【0032】
本発明の構成要素[B]は、引張弾性率が0.1〜500MPaである低弾性率層からなるものであり、好ましくは0.1〜100MPa、より好ましくは0.1〜50MPaのものである。引張弾性率が500MPa以下であることにより、収縮により生じる応力を緩和する効果が高くなり、ひいては、表面凹凸の低減効果が高くなる。ここで、引張弾性率は小さいほど表面凹凸の低減効果が高くなるため好ましい。ただし、0.1MPaより小さいと[B]層が容易に変形するため、[C]層が剥離しやすくなり好ましくない。
【0033】
なお、ここでの引張弾性率は、ASTM D 638−02に準拠して測定する。ただし、測定温度は23℃とし、測定スピードは10mm/minとする。また、引張弾性率は歪み−応力曲線における歪みが0.1%から0.3%の間での傾きから求める。
【0034】
引張弾性率測定用のサンプルは次のようにして得ることができる。構成要素[B]の材質が分かっている場合は、同じ材質のものを入手してサンプルとすることができる。また、繊維強化プラスチック部材の各層を引き剥がして、構成要素[B]を取り出してサンプルとすることができる。
【0035】
また、引張弾性率が測定困難なサンプルの場合、硬度で代用することもできる。この場合、JIS K 6253に準拠して測定した、ショアA硬度が、1〜100の範囲内であることが好ましく、1〜80の範囲内であればより好ましく、1〜50の範囲内であればさらに好ましい。
【0036】
構成要素[B]の厚みは、10〜500μmであることが好ましく、10〜400μmであればより好ましく、10〜300μmであればさらに好ましい。10μm以上であることで、収縮により生じる応力に対するエラストマーの伸び率が小さくなるため、収縮により生じる応力の低減効果が高くなる。500μmより大きいと、表面層の重量が増加し、ひいては繊維強化プラスチック部材の重量が増加し、軽量であるという繊維強化プラスチック部材の特徴が損なわれてしまう場合がある。
【0037】
構成要素[B]の厚みは次の方法で測定する。まず、繊維強化プラスチック部材を長さ5cm、幅2cmのサイズにダイヤモンドカッターを用いてカットし、長さ方向の切断面を顕微鏡で50倍に拡大し、異なる5箇所の写真を撮影する。顕微鏡としては、光学顕微鏡または同等機能を有する装置(例えば電子顕微鏡など)を用いる。次に、撮影した5枚の写真のそれぞれについて、厚みが最小となる箇所での構成要素[B]の厚みを測定し、平均値を算出する。
【0038】
構成要素[B]としては、適度に低弾性率であることから、エラストマーを用いることが好ましい。このエラストマーとしては、常温(例えば25℃)でゴム弾性を示す高分子材料であることが好ましい。
【0039】
エラストマーの具体例としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、アクリルゴム、ポリエーテルウレタンゴム、ポリエステルウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。なかでも、エラストマーとしては、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴムから選ばれる少なくとも1種類を用いると、0℃付近から100℃付近の比較的広い温度範囲で安定して使用できることから、好ましい。
【0040】
エラストマーは、ガラス転移温度が0℃以下であることが好ましく、−10℃以下であればより好ましく、−20℃以下であればさらに好ましい。ガラス転移温度が0℃より高いと、繊維強化プラスチック部材の使用中に雰囲気温度が0℃以下になると、エラストマーがガラス状態になり、脆くなってしまう場合がある。また、エラストマーのガラス転移温度は−50℃以上であることが好ましい。エラストマーのガラス転移温度が−50℃より低いと、繊維強化プラスチック部材の使用中に雰囲気温度が高温(例えば80℃)になると、エラストマーの機械物性が低下し、外力によってエラストマーが破断する場合がある。
【0041】
なお、ここでのエラストマーのガラス転移温度は、粘弾性測定装置を用い、SACMA SRM 18R−94に準拠して測定する。ただし、測定はRectangular Torsionモードで行い、測定振動数は1Hzとし、昇温速度は5℃/minとする。得られた温度−貯蔵弾性率曲線において、ガラス領域での接線と、ガラス領域からゴム領域への転移領域での接線との交点を求め、この交点の温度をガラス転移温度とする。
【0042】
構成要素[B]として融点を有するエラストマーを用いる場合、エラストマーの融点が80℃以上であることが好ましく、100℃以上であればより好ましく、120℃以上であればさらに好ましい。融点が80℃より低いと、繊維強化プラスチック部材の使用中に雰囲気温度が80℃以上になると、エラストマーが融解してしまう場合がある。また、エラストマーの融点は200℃以下であることが好ましい。エラストマーの融点が200℃より高いと、エラストマーのガラス転移温度が高くなり、前述の望ましい範囲から外れる場合がある。なお、ここでのエラストマーの融点は、DSC(Differntial Scanning Calorimetry)により求める。昇温速度10℃/minで測定し、得られたDSC曲線における融解ピークのピーク点での温度を融点とする。
【0043】
構成要素[B]の形態の具体例としては、エラストマーなどの低弾性率の材料の粒子を平面状に並べたものが挙げられる。また、エラストマーなどの低弾性率の材料の繊維を、単一方向、2方向およびランダム方向などの配列構造、また、マット、織物および編み物などの形態にしたものが挙げられる。また、エラストマーなどの低弾性率の材料のシートが挙げられる。シートを用いる場合、成形時のマトリックス樹脂の流動性を高めるために、穴をあける、スリットを入れるなどして用いることができる。ここで、「低弾性率の材料の粒子」、「低弾性率の材料の繊維」、「低弾性率の材料のシート」とは、低弾性率の材料を主成分とする、粒子、繊維、シートであり、内部に高弾性率の成分を含有していても、配合物全体として、低弾性率性を有しているものをいうものとする。また、マトリックス樹脂との接着性を高めるために、表面に微細な凹凸をつけるなどして用いることができる。
【0044】
構成要素[C]は、接着層からなるものであり、23℃での構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さが1MPa以上であり、かつ、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1MPa以上である接着層からなるものであることが好ましい。構成要素[B]と構成要素[C]、または、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1MPaより低い場合、外力により部材内での層間剥離が発生する場合がある。23℃での、構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さと構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さは高いほど好ましいが、それぞれ10MPaより大きくなると、接着層より先にエラストマーが破断する場合があり、それ以上の部材内での層間剥離防止効果の向上は見込めない。そのため、23℃での、構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さと構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さは10MPa以下が好ましい。
【0045】
なお、ここでの引張接着強さは、繊維強化プラスチック部材における構成要素[D]の表面と試験円筒の表面にサンディング処理を行ったのち十分に洗浄し、“セメダインスーパーX”(登録商標)NO.8008(セメダイン(株)製)を用いて繊維強化プラスチック部材における構成要素[D]と試験円筒を接着した後、“Elcometer 106 Pull Off Adhesion Tester”(elcometer社製)を用い、JIS K 5600−5−7に従って測定する。この際、測定は任意の5点で行い、平均を算出して結果とする。この際、測定温度は23℃とし、測定スピードは1MPa/minとした。試験により、構成要素間のはがれ又は破れが発生したときのはがれ箇所と引張接着強さを記録し、その時点での引張接着強さをはがれの生じた層間の接着強さとし、その他の層間での接着強さは前述の引張接着強さ以上とする。ここで用いる、構成要素[D]と試験円筒を接着する接着剤は、試験中にはがれ又は破れが発生しないものであれば良く、上記に示した接着剤に限定されるものではない。
【0046】
また、構成要素[C]は、80℃での構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さが1MPa以上であり、かつ、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1MPa以上である接着層からなるものであることがより好ましい。80℃での構成要素[B]と構成要素[C]、または、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1MPaより低い場合、部材温度が80℃を超えたときに、外力により部材内での層間剥離が発生する場合がある。80℃での、構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さと構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さは高いほど好ましいが、それぞれ10MPaより大きくなると、接着層より先にエラストマーが破断する場合があり、それ以上の部材内での層間剥離防止効果の向上は見込めない。そのため、80℃での、構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さと構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さは10MPa以下が好ましい。
【0047】
構成要素[C]の接着層は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマーと接着性の良いホットメルト接着剤からなるものであることが好ましい。特に、融点が高いポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂からなるホットメルト接着剤が、高温での接着力が高いため好ましい。なお、ここでのホットメルト接着剤としては、熱可塑性樹脂成分の固体を、加熱融解させた状態で被着材に塗布または押圧したのち、冷却することにより硬化させ接着するものなどを用いることができる。
【0048】
また、構成要素[C]は、高い接着力を得られることから、反応性ホットメルト接着剤であることが特に好ましい。なお、ここでの反応型ホットメルト接着剤としては、熱、紫外線、水分などによって架橋反応を起こすことにより接着力が向上するホットメルト接着剤などを用いることができる。
【0049】
ホットメルト接着剤の融点は80℃以上であることが好ましく、120℃であることがより好ましい。ホットメルト接着剤の融点が80℃以上であることにより、高温(例えば80℃)での引張接着強さが高くなる。また、ホットメルト接着剤の融点は、200℃以下であることが好ましい。200℃より高い場合、ホットメルト接着剤の接着温度が高くなり、作業性が悪くなる場合がある。なお、ここでのホットメルト接着剤の融点は、DSC(Differntial Scanning Calorimetry)により求める。昇温速度10℃/minで測定し、得られたDSC曲線における融解ピークのピーク点での温度を融点とする。
【0050】
構成要素[C]の接着層の厚みは、5〜200μmであることが好ましく、10〜100μmであることがさらに好ましい。5μm以上であることにより、構成要素[B]と構成要素[C]、および、構成要素[C]と構成要素[D]のはく離接着強度が向上する。200μmより厚いと重量が増加し繊維強化プラスチックの特徴である軽量性が損なわれてしまう場合がある。
【0051】
構成要素[C]の厚みは、構成要素[B]の厚みを測定したものと同じ試験片を用い、同様の方法で測定する。
【0052】
構成要素[D]は、引張弾性率が1000〜30000MPaである熱可塑性樹脂層または熱硬化性樹脂層であることが、表面の凹凸を防止する上で重要である、また、引張弾性率は5000〜30000MPaのものであればより好ましい。1000MPaより小さいと、構成要素[D]の剛性が不十分であり、収縮により生じる応力により凹凸が生じるか、あるいは、収縮により生じる応力により凹部が生じないようにするために、構成要素[D]が十分な厚みを有するものであることが重要である。しかしながら、[D]層の厚みを十分に取ることは、表面層の重量増加、ひいては繊維強化プラスチック部材の重量増加を意味し、軽量であるという繊維強化プラスチック部材の特徴が損なわれてしまう。30000MPaより大きいと、仕上げ工程において、構成要素[D]をサンディングなどの処理をする際に、作業性が悪くなる。
【0053】
なお、ここでの引張弾性率は、ASTM D 638−02に準拠して測定する。ただし、測定温度は23℃とし、測定スピードは1mm/minとする。また、歪み−応力曲線における歪みが0.1%から0.3%の間での傾きから引張弾性率を求める。引張弾性率測定用のサンプルは次のようにして得ることができる。構成要素[D]の材質が分かっている場合は、同じ材質のものを入手してサンプルとすることができる。また、繊維強化プラスチック部材の各層を引き剥がして、構成要素[D]を取り出してサンプルとすることができる。
【0054】
構成要素[D]層の厚みは、100〜700μmであることが好ましく、100〜400μmであればより好ましく、200〜400μmであればさらに好ましい。100μmより小さいと、剛性が不十分となり、収縮により生じる応力により凹部が生じる場合がある。700μmより大きいと、表面層の重量が増加し、ひいては繊維強化プラスチック部材の重量が増加し、軽量であるという繊維強化プラスチック部材の特徴が損なわれてしまう場合がある。
【0055】
構成要素[D]の厚みは、構成要素[B]の厚みを測定したものと同じ試験片を用い、
同様の方法で測定する。
【0056】
構成要素[D]としては、熱硬化性樹脂の硬化物、熱可塑性樹脂のいずれも用いることができる。熱硬化性樹脂の具体例としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂などが挙げられ、熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンおよびポリエーテルケトンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
これらの中でも、耐熱性、機械特性とのバランスが優れることから、熱硬化性樹脂の硬化物を用いることが好ましく、なかでも、耐熱性、機械特性とのバランスが特に優れ、硬化収縮が小さいという特徴を有することから、エポキシ樹脂を用いることが、さらに好ましい。
【0058】
また、これらの中でも、樹脂硬化の時間が不要なため、短時間での成形に対応しやすいことから、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。なかでも、耐熱性、機械特性とのバランスが特に優れることからポリエチレンテレフタレートを用いることが、さらに好ましい。
【0059】
構成要素[D]は、弾性率を高めることができることから、無機フィラーを含むことが好ましい。無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、ウォラスナイトなどが好適に使用できるが、なかでも、軽量であることから、中空構造を有する無機フィラーを使用することが好ましい。
【0060】
構成要素[D]が無機フィラーを含む場合、構成要素[D]のフィラー含有率は、20〜80重量%であることが好ましく、さらには30〜70重量%であることが好ましい。20重量%よりも小さいと、無機フィラーの偏在が起こり、効果にムラが生じる。80%重量よりも大きいと、構成要素[D]の重量が過度に大きくなり、繊維強化プラスチック部材の重量が増加し、軽量であるという繊維強化プラスチックの特徴が損なわれてしまう場合がある。
【0061】
本発明の繊維強化プラスチック部材の表面粗さは0.8μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることがさらに好ましい。表面粗さが0.8μm以下であることで、繊維強化プラスチック部材の写像鮮明性が良くなり、外観が向上する。ここで、表面粗さは、表面研磨、パテ塗装、プライマー塗装、塗料塗装のいずれも行っていない繊維強化プラスチック部材での値をさす。なお、表面粗さは次の方法で測定する。サンプルには、構成要素[B]の厚みを測定したものと同じサイズの試験片を用いる。構成要素[B]の厚みを測定したサンプルが表面研磨、パテ塗装、プライマー塗装、塗料塗装のいずれも行っていないものであれば、表面粗さの測定に供しても良い。まず、サンプルの任意の5ヶ所で、(株)小坂研究所製のサーフコーダーSE3400、または、同等機能を有する接触式の表面粗さ計を用い、図1に示すような表面凹凸のプロファイルを得る。この際、測定距離は10mm、測定速度は2mm/秒とする。測定結果に異方性がある場合は、各測定箇所で、方向を変えながら測定を行い、もっとも凹凸が大きくなる方向の表面凹凸のプロファイルを得るものとする。表面凹凸のプロファイルは、凹凸の高さが十分に認識できるように5000〜20000倍に拡大して出力する。次に、図1に示すように、凹凸の隣り合う凹部を結ぶ線と凸部頂点から垂直に下ろした線の交点と、凸部頂点までの高さを、各プロファイルにつき3ヶ所、合計15カ所計測し、平均値を算出し、表面粗さとする。各プロファイルにつき3ヶ所未満しか計測できない場合は、合計15ヶ所計測できるように、測定回数を増やす。
【0062】
本発明の繊維強化プラスチック部材は、構成要素[A]、[B]、[C]、[D]以外の構成要素を含んでいても構わない。また、構成要素[A]、[B]、[C]、[D]以外の構成要素は、構成要素[A]の外側、構成要素[A]と構成要素[B]との間、構成要素[B]と構成要素[C]との間、構成要素[C]と構成要素[D]との間、構成要素[D]の外側のいずれに配設されても構わない。また、構成要素[A]、[B]、[C]、[D]以外の構成要素は、複数であっても構わない。構成要素[A]、[B]、[C]、[D]以外の構成要素の具体例として、構成要素[A]と構成要素[B]の間に接着層が、構成要素[D]の表面に塗膜が存在しても良い。
【0063】
本発明において、構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]の厚みの合計は200μm〜1000μmであることが好ましい。200μmより小さいと、表面平滑性が損なわれる場合がある。1000μmより大きいと、表面層の重量が増加し、ひいては繊維強化プラスチック部材の重量が増加し、軽量であるという繊維強化プラスチック部材の特徴が損なわれてしまう場合がある。
【0064】
次に、本発明の繊維強化プラスチック部材の製造法について説明する。
【0065】
本発明の繊維強化プラスチック部材の製造には、従来知られている繊維強化プラスチック部材のいずれの製造法をも用いることができる。
【0066】
本発明の繊維強化プラスチック部材の製造法としては、プリプレグを用いる方法、シート・モールド・コンパウンド(SMC)を用いる方法、型内に配置した強化繊維基材に、液状の熱硬化性樹脂組成物を含浸させた後、加熱して硬化させることを特徴とするレジン・トランスファー・モールディング(RTM)法、プルトルージョン法などが挙げられる。なかでも、複雑形状を有する繊維強化プラスチック部材を容易に製造することができることから、RTM法を用いることが好ましい。
【0067】
RTM法を用いる場合、例えば、次のような手順で製造することができる。まず、型内の意匠面側に熱硬化性樹脂フィルムを配置し、次に、構成要素[C]、構成要素[B]、構成要素[A]の強化繊維基材である強化繊維の織物および/または編み物を配置する。型を閉じ、液状の熱硬化性樹脂組成物を強化繊維の織物および/または編み物に含浸させた後、硬化させ、繊維強化プラスチック部材を製造する。このとき、熱硬化性樹脂フィルムが硬化して構成要素[D]になり、織物および/または編み物に含浸させた液状の熱硬化性樹脂組成物が硬化して構成要素[A]になる。また、硬化時の加熱によって構成要素[C]は構成要素[D]および構成要素[B]と接着する。熱硬化性樹脂フィルムは、液状の熱硬化性樹脂組成物の硬化に先立ち硬化させても良いし、液状の熱硬化性樹脂組成物の硬化と同時に硬化させて良い。また、熱硬化性樹脂フィルムの代わりに、熱可塑性樹脂フィルムを用いても良い。この場合、予め所望の形状に賦形した熱可塑性樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0068】
上記の強化繊維基材を用いる場合、構成要素[A]の強化繊維基材、構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]が独立していても良く、構成要素の一部、すなわち、構成要素[A]、構成要素[B]、または、構成要素[B]、構成要素[C]、または、構成要素[C]、構成要素[D]が予め一体化されていても良く、構成要素[A]、構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]全てが一体化されていても良い。
【0069】
本発明の繊維強化プラスチック部材は、軽量であり、強度や弾性率などの機械特性が優れ、なおかつ、平滑な表面を有しており、単車や自動車の外板、空力部材などとして好ましく利用することができる。具体例としては、フロントエプロン、フード、ルーフ、ハードトップ(オープンカーの脱着式ルーフ)、ピラー、トランクリッド、ドア、フェンダー、サイドミラーカバーなどの自動車外板、フロントエアダム、リアスポイラー、サイドエアダム、エンジンアンダーカバーなどの空力部材などが挙げられる。
【0070】
また、本発明の繊維強化プラスチック部材は、上述した以外の用途でも好ましく利用することができる。具体例としては、インストルメントパネルなどの自動車内装材などが挙げられる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【0072】
実施例、比較例の主要データは表1および表2にまとめた。
【0073】
実施例および比較例で用いた材料は以下の通りである。
【0074】
1.炭素繊維織物
本発明の構成要素[A]に用いる強化繊維基材として、炭素繊維織物である“トレカ”(登録商標)CO6343B(東レ(株)製、T300−3K使用、平織り)を用いた。
【0075】
2.マトリックス樹脂組成物
本発明の構成要素[A]に用いるマトリックス樹脂として、“JER”(登録商標)828(ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)100wt%に、“キュアゾール”(登録商標)2E4MZ(品番、四国化成工業(株)製、2−エチル−4−メチルイミダゾール)3wt%を配合した、液状のエポキシ樹脂組成物を用いた。
【0076】
3.エラストマー
本発明の構成要素[B]として、以下の2つを用いた。
(1)NBRシートA
中高ニトリルグレードであるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)シート(クレハエラストマー(株)製、引張弾性率:3MPa)、厚み100μm。
(2)NBRシートB
中高ニトリルグレードであるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)シート(クレハエラストマー(株)製、引張弾性率:3MPa)、厚み200μm。
【0077】
4.ホットメルトフィルム
本発明の構成要素[C]として、以下の5つを用いた。
(1)ポリエステルホットメルトフィルム
“エルファン”(登録商標)PH−413(日本マタイ(株)製、融点140℃)、厚み50μm。
(2)ポリアミドホットメルトフィルム
“エルファン”(登録商標)NT−140(日本マタイ(株)製、融点140℃)、厚み80μm。
(3)ポリウレタンホットメルトフィルムA
“エルファン”(登録商標)UH−203(日本マタイ(株)製、融点100℃)、厚み50μm。
(4)ポリウレタンホットメルトフィルムB
HM30(パナック(株)製、反応型ポリウレタンホットメルトフィルム、融点50℃)、厚み30μm。
【0078】
5.樹脂フィルム
本発明の構成要素[D]として、以下の3つを用いた。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム
“ルミラー”(登録商標)H10(東レ(株)製、引張弾性率4000MPa)、厚み500μm。
(2)ポリメチルメタクリレート(PMMA)フィルム
“テクノロイ”(登録商標)S001(住友化学(株)製、引張弾性率1300MPa)、厚み500μm。
(3)ポリカーボネート(PC)フィルムA
“ユーピロン”(登録商標)FE−2000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、引張弾性率2300MPa)、厚み500μm。
(4)ポリカーボネート(PC)フィルムB
“ユーピロン”(登録商標)FE−2000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、引張弾性率2300MPa)、厚み300μm。
【0079】
次に、実施例および比較例における測定法を以下に示す。
【0080】
1.構成要素[B]の引張弾性率
引張弾性率は、“インストロン”(登録商標)5565(インストロン社製)を用い、ASTM D 638−02に準拠して測定した。ただし、測定温度は23℃とし、測定スピードは10mm/minとした。また、歪み−応力曲線における歪みが0.1%から0.3%の間での傾きから引張弾性率を求めた。
【0081】
2.構成要素[D]の引張弾性率
引張弾性率は、“インストロン”(登録商標)5565(インストロン社製)を用い、ASTM D 638−02に準拠して測定した。ただし、測定温度は23℃とし、測定スピードは10mm/minとした。また、歪み−応力曲線における歪みが0.1%から0.3%の間での傾きから引張弾性率を求めた。
【0082】
3.23℃での引張接着強さ
繊維強化プラスチック部材における構成要素[D]の表面と試験円筒の表面にサンディング処理を行ったのち十分に洗浄し、“セメダインスーパーX”(登録商標)NO.8008(セメダイン(株)製)を用いて繊維強化プラスチック部材における構成要素[D]と試験円筒を接着した後、“Elcometer 106 Pull Off Adhesion Tester”(elcometer社製)を用い、JIS K 5600−5−7に従って測定した。この際、測定は任意の5点で行い、平均を算出して結果とした。この際、測定温度は23℃とし、測定スピードは1MPa/minとした。試験により、構成要素間のはがれ又は破れが発生したときのはがれ箇所と引張接着強さを記録し、その時点での引張接着強さをはがれの生じた層間の接着強さとし、その他の層間での接着強さは前述の引張接着強さ以上とした。
【0083】
4.80℃での引張接着強さ
測定温度を80℃とした他は、上記「3.23℃での引張接着強さ」と同様にして試験を行った。
【0084】
5.構成要素[C]の融点
融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetery)によって求めた。測定にはPyris1 DSC(パーキンエルマー社製)を用いた。この際、昇温速度10℃/minで測定し、得られたDSC曲線における融解ピークのピーク点での温度を融点とした。
【0085】
6.構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]の厚み
繊維強化プラスチック部材を長さ5cm、幅2cmのサイズにダイヤモンドカッターを用いてカットし、長さ方向の切断面を光学顕微鏡で50倍に拡大し、異なる5箇所の写真を撮影した。次に、撮影した5枚の写真のそれぞれについて、構成要素[B]の厚みが最小となる箇所での構成要素[B]の厚みを測定し、平均値を算出した。同じ5枚の写真を用いて、構成要素[C]、構成要素[D]についても、構成要素[B]と同様に測定し、平均値を算出した。
【0086】
7.繊維強化プラスチック部材の表面粗さ
上記「6.構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]の厚み」で使用した繊維強化プラスチック部材表面での任意の5点を、サーフコーダーSE3400((株)小坂研究所製、接触式表面粗さ計)を用いて測定し、表面凹凸のプロファイルを得た。この際、測定距離は10mm、測定速度は2mm/minとした。また、表面凹凸のプロファイルは、凹凸の高さが十分に認識できるように5000〜20000倍に拡大して出力した。次に、凹凸の隣り合う凹部を結ぶ線と凸部頂点から垂直に下ろした線の交点と、凸部頂点までの高さRを、各プロファイルにつき3箇所、合計15箇所測定し、平均値を算出して表面粗さとした。
【0087】
(実施例1)
本実施例では構成要素[A]として炭素繊維織物とエポキシ樹脂からなる繊維強化プラスチック、構成要素[B]としてNBRシートA、構成要素[C]としてポリエステルホットメルトフィルム、構成要素[D]としてPETフィルムを用いた。
【0088】
まず、NBRシートA、ポリエステルホットメルトフィルム、PETフィルムをそれぞれ縦300mm、横210mmとなるようにカットした後、ツール板上に該PETフィルム、ポリエステルホットメルトフィルム、NBRシートAの順に積層し、ナイロン製フィルムを用いてバギングし、真空ポンプを用いて[大気圧−0.1MPa]に減圧した後に、140℃で20分加熱することで上記3つの構成要素を接着した。次に、ツール板上に前述の3つの構成要素が相互接着した物をPETフィルムが下になるように設置し、その上に縦300mm、横210mmとなるようにカットした炭素繊維織物6plyを積層し、その上にピールプライと樹脂配分体を積層した後にナイロン製フィルムを用いてバギングし、真空ポンプを用いて[大気圧−0.1MPa]に減圧した後に型を90℃に保持し、マトリックス樹脂組成物を注入した。マトリックス樹脂組成物の注入開始から5分後に注入を終了し、マトリックス樹脂の注入開始から40分後に脱型を開始し、繊維強化プラスチック部材を得た。
【0089】
23℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.9MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより23℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.9MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.9MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0090】
80℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.1MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより80℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.1MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.1MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0091】
繊維強化プラスチック部材の表面粗さは、0.15μmであり、表面の平滑性が非常に優れることがわかった。
【0092】
(実施例2)
構成要素[C]をポリアミドホットメルトフィルム、構成要素[D]をPMMAフィルムとした他は実施例1と全く同様として、繊維強化プラスチック部材を製造した。
【0093】
23℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.9MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより23℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.9MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.9MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0094】
80℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.1MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより80℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.1MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.1MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0095】
繊維強化プラスチック部材の表面粗さは、0.45μmであり、表面の平滑性が優れることがわかった。
【0096】
(実施例3)
構成要素[C]をポリウレタンホットメルトフィルムA、構成要素[D]をPCフィルムAとした他は実施例1と全く同様として、繊維強化プラスチック部材を製造した。
【0097】
23℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.9MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより23℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.9MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.9MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0098】
80℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.1MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより80℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.1MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.1MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0099】
繊維強化プラスチック部材の表面粗さは、0.26μmであり、表面の平滑性が非常に優れることがわかった。
【0100】
(実施例4)
本実施例では構成要素[A]として炭素繊維織物とエポキシ樹脂からなる繊維強化プラスチック、構成要素[B]としてNBRシートA、構成要素[C]としてポリウレタンホットメルトフィルムB、構成要素[D]としてPETフィルムを用いた。
【0101】
まず、NBRシートA、ポリウレタンホットメルトフィルムB、PETフィルムをそれぞれ縦300mm、横210mmとなるようにカットした後、ツール板上にPETフィルム、ポリウレタンホットメルトフィルムB、NBRシートAの順に積層し、ナイロン製フィルムを用いてバギングし、真空ポンプを用いて[大気圧−0.1MPa]に減圧した後に、150℃で2時間加熱することで上記3つの構成要素を接着した。次に、ツール板上に前述の3つの構成要素が相互接着したものをPETフィルムが下になるように設置し、その上に縦300mm、横210mmとなるようにカットした炭素繊維織物6plyを積層し、その上にピールプライと樹脂配分体を積層した後にナイロン製フィルムを用いてバギングし、真空ポンプを用いて[大気圧−0.1MPa]に減圧した後に型を90℃に保持し、マトリックス樹脂組成物を注入した。マトリックス樹脂組成物の注入開始から5分後に注入を終了し、マトリックス樹脂の注入開始から40分後に脱型を開始し、繊維強化プラスチック部材を得た。
【0102】
23℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.9MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより23℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.9MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.9MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0103】
80℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ0.8MPaのとき構成要素[C]と構成要素[D]の間ではがれが発生した。これにより80℃における構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さは0.8MPaであることがわかり、不十分な値であった。
【0104】
繊維強化プラスチック部材の表面粗さは、0.15μmであり、表面の平滑性が非常に優れることがわかった。
【0105】
(実施例5)
構成要素[C]をポリウレタンホットメルトフィルムA、構成要素[D]をPCフィルムBとした他は実施例1と全く同様として、繊維強化プラスチック部材を製造した。
【0106】
23℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.9MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより23℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.9MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.9MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0107】
80℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.1MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより80℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.1MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.1MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0108】
繊維強化プラスチック部材の表面粗さは、0.65μmであり、表面の平滑性が優れることがわかった。
【0109】
(実施例6)
構成要素[B]をNBRシートB、構成要素[C]をポリウレタンホットメルトフィルムA、構成要素[D]をPCフィルムBとした他は実施例1と全く同様として、繊維強化プラスチック部材を製造した。
【0110】
23℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.9MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより23℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.9MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.9MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0111】
80℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.1MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより80℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さは1.1MPa以上、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1.1MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0112】
繊維強化プラスチック部材の表面粗さは、0.36μmであり、表面の平滑性が非常に優れることがわかった。
【0113】
(比較例1)
構成要素[B]、構成要素[C]を含まない繊維強化プラスチック部材を製造した。
【0114】
ツール板上に縦300mm、横210mmとなるようにカットしたPCフィルム、縦300mm、横210mmとなるようにカットした炭素繊維織物6plyをこの順に積層し、その上にピールプライと樹脂配分体を積層した後にナイロン製フィルムを用いてバギングし、真空ポンプを用いて[大気圧−0.1MPa]に減圧した後に型を90℃に保持し、マトリックス樹脂組成物を注入した。マトリックス樹脂組成物の注入開始から5分後に注入を終了し、マトリックス樹脂の注入開始から40分後に脱型を開始し、繊維強化プラスチック部材を得た。
【0115】
23℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.9MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより23℃における構成要素[A]と構成要素[D]の引張接着強さは1.9MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0116】
80℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.1MPaのとき構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより80℃における構成要素[A]と構成要素[D]の引張接着強さは1.1MPa以上であることがわかり、良好な値であった。
【0117】
しかしながら、強化プラスチック部材の表面粗さは、1.00μmであり、表面の平滑性が不十分であることがわかった。
【0118】
(比較例2)
構成要素[C]を含まない繊維強化プラスチック部材を製造した。
【0119】
トルエンにより片面を膨潤させたPCフィルムの該膨潤面にNBRシートAを貼り付けて2層フィルムを作製した。
【0120】
ツール板上に縦300mm、横210mmとなるようにカットした上記2層フィルムをPCフィルムがツール面側となるように設置し、縦300mm、横210mmとなるようにカットした炭素繊維織物6plyをこの順に積層し、その上にピールプライと樹脂配分体を積層した後にナイロン製フィルムを用いてバギングし、真空ポンプを用いて[大気圧−0.1MPa]に減圧した後に型を90℃に保持し、マトリックス樹脂組成物を注入した。マトリックス樹脂組成物の注入開始から5分後に注入を終了し、マトリックス樹脂の注入開始から40分後に脱型を開始し、繊維強化プラスチック部材を得た。
【0121】
23℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ1.5MPaのとき構成要素[B]と構成要素[D]の間ではがれが発生した。これにより23℃における構成要素[B]と構成要素[D]の引張接着強さは1.5MPaであることがわかり、良好な値であった。
【0122】
80℃において繊維強化プラスチック部材の引張接着強さを測定したところ、引張接着強さ0.8MPaのとき構成要素[B]構成要素[D]と試験円筒の間ではがれが発生した。これにより80℃における構成要素[B]と構成要素[D]の引張接着強さは0.8MPaであることがわかり、不十分な値であった。
【0123】
また、強化プラスチック部材の表面粗さは、0.85μmであり、表面の平滑性が不十分であることがわかった。表面平滑性が低い原因を調査したところ、PCフィルムとNBRシートAを接着する際に使用したトルエンが、PCフィルムに残留し、剛性を低下させていることが確認された。
【0124】
(比較例3)
構成要素[C]を含まない繊維強化プラスチック部材を製造した。
【0125】
構成要素[D]をPETフィルムとした他は、比較例2と全く同様にして繊維強化プラスチック部材を作製した。
【0126】
成形された繊維強化プラスチック部材は、マトリックス樹脂の熱収縮応力により構成要素[B]と構成要素[D]が剥離し、実用に堪えないものであった。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】表面粗さを算出するときに用いる、接触式の表面粗さ計による表面凹凸のプロファイルである。
【符号の説明】
【0130】
R:凹凸の隣り合う凹部を結ぶ線と凸部頂点から垂直に下ろした線の交点と、凸部頂点までの高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構成要素[A]、[B]、[C]、[D]を含み、構成要素[A]の少なくとも片面に構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]がこの順に配設されていることを特徴とする繊維強化プラスチック部材。
構成要素[A]:繊維強化プラスチック
構成要素[B]:引張弾性率が0.1MPa〜500MPaである層
構成要素[C]:接着層
構成要素[D]:引張弾性率が1000〜30000MPaである熱可塑性樹脂層または熱硬化性樹脂層
【請求項2】
23℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さが1MPa以上であり、かつ、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項3】
80℃における構成要素[B]と構成要素[C]の引張接着強さが1MPa以上であり、かつ、構成要素[C]と構成要素[D]の引張接着強さが1MPa以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項4】
構成要素[C]が、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂の少なくとも1つから選ばれるホットメルト接着剤からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項5】
構成要素[C]のホットメルト接着剤が反応型ホットメルト接着剤であることを特徴とする請求項4に記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項6】
構成要素[C]のホットメルト接着剤の融点が80℃以上であることを特徴とする請求項4または5に記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項7】
構成要素[C]の厚みが5〜200μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項8】
構成要素[A]に含まれる強化繊維が織物または編み物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項9】
構成要素[A]が炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項10】
構成要素[B]がエラストマーを含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項11】
構成要素[D]の厚みが100〜700μmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項12】
表面粗さが0.8μm以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。
【請求項13】
構成要素[B]、構成要素[C]、構成要素[D]の厚みの合計が200μm〜1000μmであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の繊維強化プラスチック部材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−80597(P2008−80597A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261943(P2006−261943)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】