説明

繊維強化熱可塑性樹脂組成物およびそれから得られる成形体

【課題】高温成形が可能であり、高温域での機械的物性が改良された繊維強化熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形体の提供。
【解決手段】パラヒドロキシ安息香酸単位[A]、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位[B]、テレフタル酸単位[C]、パラジヒドロキシフェニル単位(ビスフェノール単位等も含む)[D]、パラアミノフェノール単位[E]の反復構成単位からなる部分が90モル%以上であり、[A]:[B]:[C]:[D]:[E]=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20のモル比を有する芳香族ポリエステルアミドで構成され、150℃雰囲気下で、強度が16cN/dtex以上かつ弾性率が710cN/dtex以上である溶融異方性ポリエステルアミド繊維を、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.1〜50質量部含有してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物およびこれからなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温での成形が可能であり、かつ高温域での機械的物性が改良された成形体を与える溶融異方性ポリエステルアミド繊維を含有する繊維強化熱可塑性樹脂組成物および該繊維強化熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる射出成型体の機械的物性、耐熱性や耐久性を向上させるためにガラス繊維、炭素繊維やタルクなどの無機フィラーを含有させた成形材料が数多く提案されている。従来、力学物性の向上には、一般的にガラス繊維や炭素繊維等の無機フィラーを樹脂中に好適量添加分散させて物性向上を図るのが一般的であるが、添加された繊維は射出成形時に成形機中で粉砕され、成形後の繊維長は1mmよりも短くなるため、本来繊維が有する補強性能を十分活用することができていなかった。またこのような成形機中での繊維の損傷も考慮に入れる必要があるため、熱可塑性樹脂への繊維の添加量は、繊維補強性の確保の目的から樹脂100質量部に対して20〜40質量部添加するのが一般的であった。
【0003】
一方、上記したガラス繊維、炭素繊維、タルクなどの無機フィラーを含有させた成形材料の欠点である耐衝撃性、特に低温における耐衝撃性を改善するために補強繊維を有機繊維とする提案が数多くなされており、中でも、所定長にカットされた有機繊維を樹脂原材料とともにミキサーで加熱攪拌して混練したり、ロール、押出機、ニーダーなどで溶融混練したりして有機繊維を熱可塑性樹脂中に含有させ、ペレット化する方法や、溶融させた熱可塑性樹脂を連続した強化繊維束に被覆した後ストランド状とし、得られたストランド状物を切断することで有機繊維が配合されたペレット状の成形材料を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1〜6参照)。しかしながらこれらの方法で得られた有機繊維含有ペレット状熱可塑性樹脂を用いて目的とする成形物を成形する場合、再度射出成形機などにより加熱溶融状態で成形を行う必要があるため、樹脂補強目的で使用される有機繊維が成形時に熱による形状損傷や機械的物性の低下を生じさせないように、マトリックスとなる成形樹脂の融点を、樹脂の熱変形温度や補強繊維の融点に応じて、かなり低温に設定しなければならず、その結果得られる成形品の機械的物性は不十分であった。またこのような溶融成形を行うことにより、有機繊維がガラス繊維や炭素繊維の場合と同様に、繊維損傷などの補強性低下となる悪影響を回避することは困難であった。
【0004】
そのような状況を改善する目的で、特許文献7では、引張強度15cN/dtex以上、引張初期弾性率400cN/dtex以上を有する溶融異方性ポリアリレート繊維を、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.1〜50質量部含有してなる繊維強化熱可塑性樹脂が提案されている。しかしながら特許文献7では、用いられる熱可塑性樹脂として樹脂融点が300℃以下のものであれば使用可能であるとの記載があるように、同文献における繊維は、300℃以上の成形温度ではその耐熱性が十分でなく、そのため混練中に繊維が損傷するため、適用が困難なものであった。また、所謂エンジニアリングプラスチック樹脂の融点は高くとも350℃程度であるが、その樹脂を繊維補強するためには繊維の融点は370℃以上が必要であり、これまでそのような溶融異方性ポリマ−からなる繊維は存在しなかった。更には、このような樹脂は高温下で使用される場合が多いが、高温下での繊維強度が低く、このことも該繊維の高融点樹脂補強材への展開を阻む要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−146945号公報
【特許文献2】特開平3−290453号公報
【特許文献3】特開平4−202545号公報
【特許文献4】特開平6−306216号公報
【特許文献5】特公平6−025288号公報
【特許文献6】特開2001−049012号公報
【特許文献7】特開2007−161907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高温で成形可能で、かつ耐熱性が高く、高温下において高い強度をおよび弾性率を有する成形体を与える繊維強化熱可塑性樹脂組成物及び該組成物から得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記目的を達成すべく、高温下において高い耐久性を有する繊維について鋭意検討を行った結果、溶融異方性ポリエステルアミドポリマーから得られる紡糸原糸を、紡糸原子を構成するポリマ−の融点に対する特定の温度領域で特定時間、加熱処理を行うことにより、常温のみならず、高温下においても機械的物性に優れる溶融異方性のポリエステルアミド繊維が得られること、この溶融異方性のポリエステルアミド繊維を補強繊維とする繊維強化熱可塑性樹脂組成物は高温で成形可能であること、および、得られた成形物は、高温下で耐久性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の第1構成は、下記[A]、[B]、[C]、[D]、[E]の反復構成単位からなる部分が90モル%以上であり、[A]:[B]:[C]:[D]:[E]=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20のモル比を有する芳香族ポリエステルアミドで構成された溶融異方性ポリエステルアミド繊維からなる繊維強化熱可塑性樹脂であって、
150℃雰囲気下の強度(T150)が17cN/dtex以上であり、かつ
150℃雰囲気下の弾性率(E150)が710cN/dtex以上である溶融異方性
ポリエステルアミド繊維を含有する繊維強化熱可塑性樹脂である。
【0009】
【化1】

【0010】
前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維において、その融点ピーク温度は370℃以上であってもよい。また、本発明において用いられる溶融異方性ポリエステルアミド繊維は、低温下においても優れた機械的強度を示してもよく、例えば、−70℃雰囲気下で、強度が16cN/dtex以上かつ弾性率が700cN/dtex以上であってもよい。
【0011】
さらに前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維では、動的粘弾性測定により得られるガラス転移点(Tg)が81℃以上であってもよい。
【0012】
また、前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維では、25℃雰囲気下で動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’25)と、150℃雰囲気下で動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’150)との比が、E’150/E’25=0.50以上であってもよい。
【0013】
本発明において用いられる溶融異方性ポリエステルアミド繊維は、高温下での強度および弾性率の低下を有効に防止することができ、例えば、150℃雰囲気下の強度(T150)と、25℃雰囲気下の強度(T25)との比が、T150/T25=0.70以上であってもよく、また150℃雰囲気下の弾性率(E150)と、25℃雰囲気下の弾性率(E25)との比が、E150/E25=0.85以上であってもよい。
【0014】
さらに、前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維では、広角X線回折測定により得られる2θ=29°に現れる回折ピーク強度の半価幅より算出した結晶サイズが7nm〜11nm程度であってもよい。
【0015】
また、本発明の第2の構成は、前記の溶融異方性のポリエステルアミド繊維を含有する繊維強化熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体である。特に、この成形体は、前記の溶融異方性のポリエステルアミド繊維を用いることにより、300〜350℃の高温成形により得ることが出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明において用いられる溶融異方性ポリエステルアミド繊維は、加熱溶融成形時の損傷を受けにくいものであるため、熱可塑性樹脂の補強用繊維として有効である。また、この溶融異方性ポリエステルアミド繊維で補強された繊維強化熱可塑性樹脂成形体は、機械的性能や耐熱性能、リサイクル性能に優れたものとなるばかりか、高温下においても優れた機械的性能を得ることができる。
【0017】
さらに、本発明において用いられる溶融異方性ポリエステルアミド繊維は、高融点であるため、300℃〜350℃の高温での成形が可能であり、かつ、高温における機械的物性の優れた成形体を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において用いられる溶融異方性ポリエステルアミド繊維(または、芳香族ポリエステルアミド繊維)は、下記に記載する芳香族ポリエステルアミドを溶融紡糸することにより得られる。
【0019】
(芳香族ポリエステルアミド)
芳香族ポリエステルアミドは、下記式に示す[A]、[B]、[C]、[D]、[E]
の反復構成単位からなる部分が90モル%以上であり、[A]:[B]:[C]:[D]
:[E]=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20のモル比、好ましくは、
[A]:[B]:[C]:[D]:[E]のモル比が100:3〜10:15〜60:1
0〜45:5〜15のモル比を有する。
【0020】
【化2】

【0021】
なお、ここで、[A]:[B]:[C]:[D]:[E]=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20とは、反復構成単位[A]に対する、それ以外の構成単位[B]〜[E]までの比を表している。
【0022】
特に、紡糸性、強度、弾性率、耐疲労性、耐切創性、非吸水性等の観点から、化1に示
す反復構成単位の中で構成単位[A]が40〜80モル%、また構成単位[D]がn=2
である芳香族ポリエステルアミドが好ましい。
【0023】
本発明において用いられる芳香族ポリエステルアミド繊維(以下、単にポリエステルアミド繊維と称することがある。)の特性が損なわれない程度に、他の芳香族、脂環族、脂肪族のジオ−ル、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ジアミン、ヒドロキシアミン等を含んでいてもよい。具体的には、イソフタル酸、ナフチレンジカルボン酸、ジオキシナフタレン、べンゼンジアミン等が挙げられる。しかしながら、これらのモノマ−が10モル%を越えると芳香族ポリエステルアミド繊維の特性が損なわれる虞がある。
【0024】
なお本発明にいう溶融異方性とは、溶融相において光学的異方性を示すことである。例
えば試料をホットステ−ジにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を観察する
ことにより認定できる。
【0025】
溶融異方性ポリマ−は分解開始温度(Td)と融点(Tm)の温度差が40℃以上であ
ることが好ましい。溶融紡糸は紡糸機を融点以上に加温して行うのだが、設定温度に対し
てある程度の幅をもって温度が変化するため、設定温度よりも高温になることがある。も
し溶融異方性ポリマ−の分解開始温度(Td)と融点(Tm)の温度差が40℃未満であ
れば、ポリマ−が配管を滞留中、温度が融点を越えて分解温度に達し、ポリマ−に分解が
生じ、紡糸ノズル付近でビス即ち断糸が発生する。
【0026】
ビスが生じない場合でも、繊維中に分解ガスと考えられる気泡が発生し、力学的性能が
低下する。ここで述べる分解開始温度(Td)とはTG曲線(熱重量曲線)における減量
開始温度であり、ここで述べるTmとは、示差走査熱量(DSC:例えばmettler社製、TA3000)で観察される主吸熱ピ−クのピ−クトップ温度であり、以下、融
点ピーク温度と称する場合がある(JIS K 7121)。
【0027】
(芳香族ポリエステルアミド繊維の製造方法)
次に本発明において用いられる芳香族ポリエステルアミド繊維(以下、単にポリエステルアミド繊維と称することがある。)の製造方法について以下説明する。該繊維は、常法によりポリマ−を溶融紡糸して得られるが、該芳香族ポリエステルアミドの融点よりさらに10℃以上高い紡糸温度(かつ溶融液晶を形成している温度範囲内)で、剪断速度10sec−1以上、紡糸ドラフト20以上の条件で紡糸するのが好ましい。かかる剪断速度および紡糸ドラフトで紡糸することにより、分子の配向化が進行し優れた強度等の性能を得ることができる。剪断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔当たりのポリマ−と吐出量をQ(cm/sec)とするときr=4Q/πrで計算される。ノズル横断面が円でない場合には、横断面積と同値の面積を有する円の半径をrとする。
繊維化を行う際、単繊維繊度は0.1〜50dtexであることが好ましく、更には1〜20dtexであることが好ましい。単繊維繊度が0.1dtex未満である場合、熱可塑性樹脂との加熱混合攪拌中に繊維形態が損傷を受けて繊維が切断する場合がみられ、樹脂補強性に問題が発生する恐れがある。また単繊維繊度が50dtexを超えると、樹脂との接着性が不足して樹脂補強性が低下する。
【0028】
本発明において用いられる繊維を得るためには、強度、弾性率、耐熱性或いは樹脂との接着性を向上させるために、紡糸原糸を熱処理及び/あるいは延伸熱処理する必要がある。熱処理は、不活性雰囲気のみで行っても良いし、途中から活性雰囲気化で熱処理を行なっても良い。
【0029】
なお、不活性雰囲気下とは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中あるいは減圧下を意味し
、酸素等の活性ガスが0.1体積%以下であることをいう。また活性雰囲気下とは、酸素
等の活性ガスを1%以上含んでいる雰囲気を言い、好ましくは10%以上の酸素含有気体
であり、コスト的には空気を用いることが好ましい。水分が存在すると加水分解反応も併
行して進行するので、露点が−20℃以下,好ましくは−40℃以下の乾燥気体を使用す
る。
【0030】
好ましい熱処理の温度条件は、溶融紡糸前のポリマ−の融点Tmに対して、Tm−35℃からTm−2℃の温度範囲であり、このような温度条件で加熱することにより高温下において高い強度をおよび弾性率を実現できる高強力高弾性率ポリエステルアミド繊維を得ることができる。また、加熱処理は、一定の温度で行っても良いし、加熱により漸進的に上昇する繊維の融点にあわせて、順次昇温してもよい。
【0031】
また、熱処理条件は、単繊維繊度(dtex)あたりに加熱された、(融点との温度差
:℃)と(加熱時間:時間)との積によって表わすことも可能であり、この場合、
50≦(融点との温度差)×(加熱時間)/(単繊維繊度)≦100
程度の熱処理により、150℃雰囲気下の強度(T150)が17cN/dtex以上であり、かつ150℃雰囲気下の弾性率(E150)が710cN/dtex以上である高強度高弾性率ポリエステルアミド繊維を得ることが可能となる。
【0032】
熱の供給は、気体等の媒体によって行う場合、加熱板、赤外ヒ−タ−等による輻射を利
用する方法、熱ロ−ラ−、プレ−ト等に接触させて行う方法、高周波等を利用した内部加
熱方法等があり、目的により、緊張下あるいは無緊張下で行われる。熱処理は、フィラメント糸を、カセ状、またはチーズ状にして、またはトウ状にしてバッチ式で行うか、あるいは、フィラメントをロ−ラ−上を走行させながら、連続式で行うことができる。また、繊維をカットファイバーにして、金網等にのせて熱処理を行っても良い。
【0033】
さらに、本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、必要に応じて酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カ−ボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤を含んでいても良い。また、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリオレフィン、ポリカ−ボネ−ト、ポリアリレ−ト、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエ−テルエステルケトン、フッソ樹脂等の熱可塑性ポリマ−を含有していても良い。
【0034】
(ポリエステルアミド繊維の強度)
上記した製造方法で得られる本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、150℃雰囲気下の強度(T150)が17cN/dtex以上(例えば、17.5〜40cN/dtex程度)である必要がある。一般に高強力有機繊維は、室温下での強度は高いものの、高温下ではその強度は低下するため、繊維補強樹脂やその成形体を高温環境で使用することができない。一方、本発明において用いられる繊維は、150℃雰囲気下でも17cN/dtex以上の強度を有することから、適切な樹脂を選定すれば150℃以上の雰囲気でも補強性の高い成形体を得ることが可能となるのである。好ましくは18cN/dtex以上(例えば、18.5〜38cN/dtex程度)であってもよい。
【0035】
また前記ポリエステルアミド繊維は、室温下(例えば25℃)の強度(T25)が、18cN/dtex以上(例えば、18.5〜45cN/dtex程度)、好ましくは20cN/dtex以上(例えば、20.5〜40cN/dtex程度)を示してもよい。当然、成形体の使用環境は室温下の場合も想定されるため、該領域でも補強性の高い成形体を供することができれば好ましい。
【0036】
また前記ポリエステルアミド繊維は、高温下と低温下での強度の変化が少ないため、例えば、150℃雰囲気下の強度(T150)と、25℃雰囲気下の強度(T25)との比が、T150/T25=0.70以上(例えば、0.71〜1.0程度)、好ましくは0.73以上(例えば、0.74〜0.95程度)であってもよい。
【0037】
さらに、前記ポリエステルアミド繊維は、低温下(例えば−70℃)で、強度16cN/dtex以上(例えば、16〜40cN/dtex程度)、好ましくは18cN/dtex以上(例えば、18〜38cN/dtex程度)であってもよい。当然、成形体の使用環境は低温下の場合も想定されるため、該領域でも補強性の高い成形体を供することができれば好ましい。
【0038】
さらにまた、前記ポリエステルアミド繊維は、例えば、150℃雰囲気下の強度(T150)と、−70℃雰囲気下の強度(T−70)との比が、T150/T−70=0.63以上(例えば、0.64〜1.0程度)、好ましくは0.65以上(例えば、0.66〜0.95程度)であってもよい。
【0039】
(ポリエステルアミド繊維の弾性率)
また、上記した製造方法で得られる本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、150℃雰囲気下の弾性率(E150)が710cN/dtex以上(例えば、720〜1500cN/dtex程度)である必要がある。一般に高強力有機繊維は、室温下での弾性率は高いものの、高温下ではその強度は低下するため、繊維補強樹脂やその成形体を高温環境(例えば自動車のエンジンルーム等)で使用することができない。一方、本発明において用いられる繊維は、150℃雰囲気下でも710cN/dtex以上の弾性率を有することから、適切な樹脂を選定すれば150℃以上の雰囲気でも補強性の高い成形体を供することが可能となるのである。好ましくは730cN/dtex以上(例えば、740〜1400cN/dtex程度)であってもよい。
【0040】
また前記ポリエステルアミド繊維は、室温下(例えば25℃)の弾性率(E25)が、750cN/dtex以上(例えば、755〜1500cN/dtex程度)、好ましくは760cN/dtex以上(例えば、765〜1300cN/dtex程度)であってもよい。当然、成形体の使用環境は室温下の場合も想定されるため、該領域でも補強性の高い成形体を供することができれば好ましい。
【0041】
また前記ポリエステルアミド繊維は、高温下と低温下での弾性率の変化も少ないため、例えば、150℃雰囲気下の弾性率(E150)と、25℃雰囲気下の弾性率(E25)との比が、E150/E25=0.85以上(例えば、0.86〜1.0程度)、好ましくは0.87以上(例えば、0.88〜0.98程度)であってもよい。
【0042】
さらに前記ポリエステルアミド繊維は、低温下(例えば−70℃)の弾性率(E−70)が、700cN/dtex以上(例えば、705〜1400cN/dtex程度)、好ましくは710cN/dtex以上(例えば、715〜1300cN/dtex程度)であってもよい。当然、成形体の使用環境は低温下の場合も想定されるため、該領域でも補強性の高い成形体を供することができれば好ましい。
【0043】
さらにまた、前記ポリエステルアミド繊維は、例えば、150℃雰囲気下の弾性率(E150)と、−70℃雰囲気下の弾性率(E−70)との比が、E150/E−70=0.61以上(例えば、0.62〜1.0程度)、好ましくは0.63以上(例えば、0.64〜0.95程度)であってもよい。
【0044】
(ポリエステルアミド繊維の融点)
本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、耐熱性が高く、その融点ピーク温度は、370℃以上(例えば、375〜450℃程度)、好ましくは380℃以上(例えば、385〜440℃程度)であってもよい。なお、融点ピーク温度の測定方法については、以下の実施例に詳細に記載されている。
【0045】
(ポリエステルアミド繊維の動的粘弾性)
本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、高温下でも低温下でも優れた貯蔵弾性率(または動的弾性率)を示すため、25℃雰囲気下において、動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’25)と、150℃雰囲気下において、動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’150)との比が、E’150/E’25=0.50以上(例えば、0.51〜1.0)であり、好ましくは0.52以上(例えば、0.53〜0.90程度)であってもよい。このような貯蔵弾性率を有するポリエステルアミド繊維は、室温(例えば25℃雰囲気下)及び高温下(例えば150℃雰囲気下)での物性変化を低減することができる。
【0046】
また、本発明において用いられるポリエステルアミド繊維では、動的粘弾性測定により得られるガラス転移点(Tg)が81℃以上(例えば、81〜118℃程度)であってもよく、好ましくは83℃以上(例えば、84〜110℃程度)であってもよい。このようなガラス転移点を有するポリエステルアミド繊維は、室温の場合とほぼ同じ物性を示すことができる。なお、本発明における貯蔵弾性率およびガラス転移点の測定方法については、以下の実施例に詳細に記載されている。
【0047】
(ポリエステルアミド繊維の結晶サイズ)
本発明において用いられるポリエステルアミド繊維では、高温下で高い強力および弾性率を発現する観点から、高融点の結晶構造を分子構造の中に有さなければならない。その結晶に関しては、広角X線回折測定により得られる2θ=29°に現れる回折ピーク強度の半価幅より、その結晶サイズを算出することができ、例えば、そのような結晶サイズとしては、7nm〜11nm程度であってもよく、好ましくは8nm〜10nm程度であってもよい。なお、具体的な測定方法については、以下の実施例に詳細に記載されている。
【0048】
(ポリエステルアミド繊維強化熱可塑性樹脂組成物)
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、上記の溶融異方性ポリエステルアミド繊維を
熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部含有させることにより得られる。
【0049】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、特に限定はなく、公知の熱可塑性樹脂を使用することができる。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等のポリスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリ1,4−シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)樹脂等のポリエステル系樹脂;6−ナイロン樹脂、6,6−ナイロン樹脂、PA9T等のポリアミド(PA)樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、フッ素(F)樹脂;液晶ポリエステル樹脂等の液晶ポリマ−樹脂;ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系又はフッ素系等の熱可塑性エラストマー;又はこれらの共重合体樹脂や変性樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは組み合わせて用いてもよい。
【0050】
前述のように特許文献7では補強材としてのポリアリレート繊維の耐熱性の点から、使用される樹脂はポリオレフィン樹脂が好ましい樹脂として記載されているが、本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、高温時の性能が顕著に改善されているので、上記の熱可塑性樹脂の中でも、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂などの高融点樹脂との複合化が可能であり、このため、高温時の性能の優れた成形体を得ることができる。従来これらの高融点樹脂の補強剤としては、ガラス繊維等の無機繊維が用いられていたが、前述のようにガラス繊維は成形機中での損傷が激しく、また、ガラス繊維では耐衝撃性が不十分であったが、本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、成形機中での損傷は少なく、ガラス繊維では達成できない補強効果を与えることができる。
【0051】
熱可塑性樹脂への繊維の添加量としては、熱可塑性樹脂100質量部中へ当該繊維を0.1〜50質量部含有させることが必要であり、1〜30質量部含有させるのが好ましい。0.1質量部よりも少ないと、繊維の補強効果が得られない。一方、繊維の含有量が50質量部よりも多いと、熱可塑性樹脂中における繊維の分散性が悪化し、十分な補強効果が得られない。
【0052】
本発明において、ポリエステルアミド繊維は、熱可塑性樹脂と混合される前に、繊維束状で、ポリウレタン系、アクリル系の樹脂エマルジョン、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、クロロフェノール・レゾルシン・ホルマリン縮合物、シランカップリング剤、界面活性剤等の表面処理剤により処理されるのが、熱可塑性樹脂との密着性の向上や、成形体中にボイドの混入を避ける点で好ましい。かかる表面処理剤のポリエステルアミド繊維への固形分付着量は、繊維100質量部に対して0.01〜30質量%の範囲であることが望ましい。上記の処理を行った繊維束は、2〜15mm程度の長さに切断されて樹脂と配合されて押出成形機等によりストランドとされ、適当な長さに切断されてペレットとなる。
【0053】
また、本発明において、ポリエステルアミド繊維の繊維束の周囲に、熱可塑性樹脂を溶融押出して、ポリエステルアミド繊維の周囲を熱可塑性樹脂(A)が被覆した、すなわち、繊維と熱可塑性樹脂(A)とが密着した複合体ストランドを形成させてもよい。この場合、ポリエステルアミド繊維に直接、熱可塑性樹脂が被覆されてもよく、繊維を予め上記の処理剤で処理してその上に熱可塑性樹脂が被覆してもよい。このストランドは、成形体の主成分となる熱可塑性樹脂(B)と混合されて成形体となるが、熱可塑性樹脂(A)と(B)とは同じでも異なっていてもよい。
【0054】
樹脂を繊維表面に付与する方法としては、多数本のポリエステルアミド繊維束を走行させた状態で、その繊維束を包囲するように溶融した熱可塑性樹脂を押出し、その周囲に樹脂を通す円筒状の通路を有している芯鞘タイプの紡糸ノズルを用い、芯部にポリエステルアミド繊維を通過させ、鞘部より熱可塑性樹脂を加圧下で前記ポリエステルアミド繊維束の外周に接触させ、繊維を熱可塑性樹脂で被覆させる方法が好ましく用いられる。また、紡糸ノズルから吐出された樹脂と多数本のポリエステルアミド繊維を貼り合せた後に樹脂を溶融させ束ねることにより繊維を樹脂で被覆する方法も実施可能であり、特に限定されるものではない。
【0055】
ポリエステルアミド繊維束が熱可塑性樹脂で被覆された複合体と熱可塑性樹脂とをチップブレンド等の方法により混合した後、溶融押出機で押出ししたり、射出成形したりする等の方法によりストランドを作成した後、裁断して熱可塑性樹脂中にポリエステルアミド繊維のショートカット糸が含有したペレットが得られる。裁断方法としてはロータリー方式のカッティングマシーンやギロチン方式のカッティングマシーン等を用いて裁断する方法が挙げられるが、特に限定されるものではない。
上記例示した裁断方法により得られるペレットの長さは、後に溶融押出機で押出ししたり、射出成形したりする等の方法により成形体を製造する際の混練性、補強繊維の分散性の面から2〜15mmであることが好ましく、3〜10mmの長さであることがより好ましい。更に、得られるペレットを熱風乾燥機等で乾燥し、ペレット中の水分率を低くすることが溶融押出機で押出しする際や、射出成形する際により好ましい。
【0056】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の補強繊維、エラストマーなどの耐衝撃性向上剤、無機充填剤、添加剤などを含有してもよい。
これらの例としては、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振材、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、発泡剤などが挙げられる。
【0057】
(ポリエステルアミド繊維強化熱可塑性樹脂成形体)
上記したような方法にて得られたペレットを溶融押出成形や射出成形等の成形方法で成形することで成形体を得る。このようにして得られる成形体は、機械的性能や耐熱性能、リサイクル性能に優れたものとなるばかりか、高温下においても優れた機械的性能を得ることができる。本発明の成形体は、本発明の繊維強化樹脂組成物を公知の方法で成形したものであれば特に限定されない。
【0058】
本発明において用いられるポリエステルアミド繊維は、高温時の性能が優れているので、熱可塑性樹脂と配合されて、300℃〜350℃の高い成形温度でも成形可能であり、しかも、ポリエステルアミド繊維の性能が損なわれない(後述の実施例3〜5を参照)。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定される
ものではない。
【0060】
[融点ピーク温度]
DSC装置(metrler社製TA3000)にサンプルを10〜20mgとり、ア
ルミ製パンへ封入した後、キャリヤ−ガスとしてNを100cc/分流し、昇温速度20℃/分で測定し、吸熱ピ−クの位置の示す温度を測定する。
【0061】
[強度および弾性率]
JIS L 1013に準じ、試長20cm、初荷重0.1g/d、引張速度10cm
/minの条件で破断強伸度及び弾性率(初期引張抵抗度)を求め、5点以上の平均値を
採用した。
【0062】
[結晶サイズ]
広角X線回折測定装置として、ブルカー社製、「D8 Discover with GADDS」を用いて、カメラ距離10cm、露光時間:600秒、電流110mA、電
圧:45kV、コリメータ径0.3mmにより繊維の赤道方向における広角X線回折図を
得た。次いで、2θが29°に現れる回折ピーク強度の半価幅より次式を用いて、結晶サ
イズ(C)を算出した。
【0063】
【数1】

【0064】
ここで、Bは回折ピーク強度の半価幅、θは回折角、λはX線の波長(1.54178
オングストローム)を表わす。
【0065】
[動的粘弾性による貯蔵弾性率、損失弾性率およびガラス転移点]
レオロジー社製「DVEレオスペクトラー」を使用して、昇温速度10℃/分、周波数
10Hz、自動静荷重方式にて測定を行ない、貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E”)
との比からtanδ=E”/E’を算出した。次いで、各温度について、横軸を温度とし
、縦軸をtanδとする温度(℃)−tanδ曲線を作図し、tanδの変曲点(ピーク
温度)をガラス転移点とした。また、25℃雰囲気下の貯蔵弾性率(E’25)と150℃雰囲気下の貯蔵弾性率(E’150)との比をE’150/E’25として算出した。
【0066】
[FRP成形品の曲げ強度及び曲げ弾性率 N/mm2]
株式会社島津製作所製オートグラフAG/Rを用い、JIS K7171試験法に準拠して測定した。この積層体の曲げ試験を25℃下及び150℃下で実施し、25℃下の曲げ強度に対する、150℃下の曲げ強度の保持率を、50%以上を○、30〜50%を△、30%未満を×として表記した。同様に、25℃下の曲げ弾性率に対する、150℃下の曲げ弾性率の保持率を、50%以上を○、30〜50%を△、30%未満を×として表記した。
【0067】
<実施例1>
(1)溶融異方性ポリステルアミド繊維の製造
p−アセトキシ安息香酸[A]60モル、6−アセトキシ−2−ナフトエ酸[B]4モル、テレフタル酸[C]18モル、4−4’−ビスフェノ−ル[D]14モル、およびp−アミノフェノ−ル[E]4モルから溶融異方性芳香族ポリエステルアミドを得た。このポリマ−の融点は340℃であった。該ポリマ−を、ノズル径0.1mmφ、ホ−ル数600個の口金より、紡糸温度360℃、紡糸速度1000m/min,剪断速度55200sec−1、ドラフト30で溶融紡糸し、1670dtex/600fのフィラメントを得た。この紡糸原糸を310℃で8時間熱処理した。
【0068】
(2)溶融異方性ポリエステルアミド繊維の強度及び弾性率
得られた熱処理糸の性能は、25℃下における強度は27.2cN/dtex、弾性率は814cN/dtexであり、また150℃下における強度は21.2cN/dtex、弾性率は767cN/dtexであった。
150℃雰囲気下の強度(T150)と、25℃雰囲気下の強度(T25)との比(T150/T25)は、0.779であり、150℃雰囲気下の弾性率(E150)と、25℃雰囲気下の弾性率(E25)との比(E150/E25)は、0.942であった。
【0069】
(3)溶融異方性ポリエステルアミド繊維の融点ピーク温度、ガラス転移点、貯蔵弾性率および結晶サイズ
得られた熱処理糸の融点ピーク温度は378℃、ガラス転移点(Tg)は87℃、25℃雰囲気下で動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’25)と、150℃雰囲気下で動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’150)との比(E’150/E’25)は0.57および結晶サイズは9nmであった。
【0070】
(4)繊維束カット糸の製造
次に得られた繊維糸条の集束加工を行うため、ポリウレタン樹脂ポリマ−のエマルジョン水溶液として第一工業製薬株式会社製、スーパーフレックス300(商品名)の固形分濃度を30質量%水溶液としたものを調製した。そして上記(1)で製造したポリエステルアミド繊維糸条をクリール台に設置して糸条を引き出した後に前記エマルジョン水溶液中へ導いて含浸後、マングル設備で余分な付着液を絞り、200℃の熱風乾燥設備中で乾燥させた。ポリエステルアミド繊維100質量部に対してポリウレタン樹脂ポリマ−の付着量は15質量部であった。次いでこの糸条をカッター刃にて長さ3mm長に切断して繊維束状カット糸を作った。
【0071】
(5)繊維強化熱可塑性樹脂成形体テストピースの作製
上記で得た繊維集束カット糸を、それぞれ除湿された105℃の乾燥器中で5時間以上乾燥を行い、そして繊維補強用の熱可塑性樹脂として、宇部興産株式会社製6−ナイロン樹脂(グレード名:1015BK)100質量部に対して、繊維の添加量を20質量部として、310℃に設定した二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX30)へ投入して溶融混合撹拌し、ダイス穴から吐出させて25℃である水浴に導いてストランドを冷却させた。その後、ストランドカッターにて切断して長さ3mmのポリエステルアミド繊維含有樹脂ペレットを得た。引き続きこのペレットを、射出成型機(東芝機械株式会社製EC75N−II)を使用し、設定樹脂温度310℃、金型温度80℃にてJIS規定の物性測定用試験片を作製して物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
<実施例2>
(1)樹脂組成物の製造
実施例1(1)と同じ方法にて作製したポリエステルアミド繊維を、105℃の乾燥器中で5時間以上乾燥を行い、その後、実施例1(3)と同じ6−ナイロン樹脂を用いて、ポリエステルアミド繊維の通過するノズルの内径0.95mm、前記樹脂の押出されるノズルの内径1.20mmのノズルにて紡糸ヘッド温度310℃、ナイロン樹脂の吐出量12g/min、巻取速度15m/minの条件にて、ポリエステルアミド繊維束の外周にナイロン樹脂が被覆してなる樹脂組成物を得た。その後カットし、長さ12mmのペレットを得た。
【0073】
(2)樹脂組成物の評価
上記(1)で得られた樹脂組成物を切断し、断面を日立製作所社製電子顕微鏡「S510」で倍率100倍にて観察したところ、ナイロン樹脂がポリエステルアミド繊維束を取囲んだ構造が形成されており、樹脂は繊維束の外周の連続繊維に接着されていた。さらに被覆されたナイロン樹脂を剥がして内部のポリエステルアミド繊維束を観察したところ、内部のポリエステルアミド繊維に損傷は見られず、したがって上記(1)の工程でポリエステルアミド繊維に損傷は生じていなかった。得られた樹脂組成物は柔軟であった。
【0074】
(3)成形体テストピースの作成
さらに上記(1)で得られた樹脂組成物と、実施例1(3)と同じ6−ナイロン樹脂とを、ポリエステルアミド繊維の含有率が20質量%となるようにチップブレンドして、実施例1(3)と同様の射出成形機を用いて物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
<実施例3>
実施例1(5)において、熱可塑性樹脂としてPPS(ポリプラスチックス株式会社製フォートロン0220A9)を用い、二軸押出機の設定温度、及び射出成形機の設定樹脂温度をそれぞれ320℃、320℃とする以外は、実施例1と同様にして試験を実施した。結果を表1に示す。
【0076】
<実施例4>
実施例1(5)において、熱可塑性樹脂としてPA9T(株式会社クラレ製ジェネスタN1000A)を用い、二軸押出機の設定温度、及び射出成形機の設定樹脂温度をそれぞれ320℃、320℃とする以外は、実施例1と同様にして試験を実施した。結果を表1に示す。
【0077】
<実施例5>
実施例1(5)において、熱可塑性樹脂としてLCP(ポリプラスチックス株式会社製ベクトラE130i)を用い、二軸押出機の設定温度、及び射出成形機の設定樹脂温度をそれぞれ350℃、350℃とする以外は、実施例1と同様にして試験を実施した。結果を表1に示す。
【0078】
<比較例1>
熱可塑性樹脂として、宇部興産株式会社製6−ナイロン樹脂(1015BK)単独を除湿された105℃の乾燥機中で5時間以上乾燥を行い、310℃に設定した二軸押出機(TEX30 日本製鋼(株)製)へ投入して溶融混合撹拌し、ダイス穴から吐出させて25℃である水浴に導いてストランドを冷却させた。その後、ストランドカッターにて切断して長さ3mmの樹脂ペレットを得た。引き続きこのペレットを射出成型機(東芝機械EC75N−II)を使用し、設定樹脂温度310℃、金型温度80℃にてJIS規定の物性測定用試験片を作製して物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
<比較例2>
実施例1(1)におけるポリエステルアミド繊維の替わりに、市販のポリアリレート繊維((株)クラレ製ベクトランHT)を用いる以外、実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示す。
【0080】
<比較例3>
実施例1(1)におけるポリエステルアミド繊維の替わりに、市販のアラミド繊維(東レデュポン(株)製ケブラー49)を用いる以外、実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、公知の方法等を適用して成形加工することにより、種々の成形体とすることができる。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体は、補強材料として、耐熱性、耐摩耗性、耐衝撃性が求められる産業上の様々な分野で利用可能である。具体例としては以下のものが挙げられる。
(1)プレート、軸受、ギヤー、カム、パイプ、棒材、ブッシュ、座金、ガイド、プーリー、フェーシング、インシュレーター、ロッド、ベアリング保持器、シール類、パッキン類、グランドパッキン等の機械部品
(2)コネクタ、プラグ、アーム、ソケット、キャップ、ロータ、モータ部品等の電気電子部品
(3)スピーカコーン、筐体、軸受、ロッド、ガイド等のAV・OA機器部品
(4)建具や建材用のストッパー、ガイド、戸車、アングル等の建築用部材
(5)ヘルメット、プラモデル部品、タイヤ用の中子材料、釣具用リール部品等
【0083】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、高温成形が可能であることから、従来の有機繊維を用いて成形することのできなかった様々な成形体を与えることが可能であるので、
さらなる産業上の利用可能性がある。
【0084】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[A]、[B]、[C]、[D]、[E]の反復構成単位からなる部分が90モル%以上であり、[A]:[B]:[C]:[D]:[E]=100:1〜20:5〜100:2〜80:2〜20のモル比を有する芳香族ポリエステルアミドで構成された溶融異方性ポリエステルアミド繊維であって、150℃雰囲気下の強度(T150)が17cN/dtex以上であり、かつ150℃雰囲気下の弾性率(E150)が710cN/dtex以上である溶融異方性
ポリエステルアミド繊維を、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.1〜50質量部含有してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
請求項1において、前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維が、融点ピーク温度が370℃以上の溶融異方性ポリエステルアミド繊維である繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2において、前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維が、動的粘弾性測定により得られるガラス転移点(Tg)が81℃以上の溶融異方性ポリエステルアミド繊維である繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維が、25℃雰囲気下で動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’25)と、150℃雰囲気下で動的粘弾性から測定した貯蔵弾性率(E’150)との比(E’150/E’25)が0.50以上の溶融異方性ポリエステルアミド繊維である繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維が、150℃雰囲気下の強度(T150)と、25℃雰囲気下の強度(T25)との比(T150/T25)が0.70以上であるとともに、150℃雰囲気下の弾性率(E150)と、25℃雰囲気下の弾性率(E25)との比(E150/E25)が0.85以上の溶融異方性ポリエステルアミド繊維である繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、前記溶融異方性ポリエステルアミド繊維が、広角X線回折測定により得られる2θ=29°に現れる回折ピーク強度の半価幅より算出した結晶サイズが7nm〜11nmの溶融異方性ポリエステルアミド繊維である繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物から得られた繊維強化熱可塑性樹脂成形体。
【請求項8】
請求項1記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を300〜350℃の成形温度で成形して
得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形体。

【公開番号】特開2010−195990(P2010−195990A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44795(P2009−44795)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】