説明

繊維強化複合材料成形用マンドレル

【課題】複合材料製非真直部材の成形を行うに際して、賦形工程を容易にできるとともに、賦形中に繊維の皺や不都合な折れ曲がりが生じにくく、寸法の安定性、変形容易性に優れるマンドレルを提供する。
【解決手段】長手方向の中間部にすくなくとも一つの表層が低弾性材料からなる変形部と高弾性材料からなる非変形部を有する繊維強化複合材料成形用マンドレルであって、25℃〜200℃の温度範囲内の特定温度以上に昇温することで変形部の形状変化によりマンドレル形状変化を引き起こし、形状変化後は5℃〜200℃の温度範囲内で温度を変化させてもその形状を維持することを特徴とする、繊維強化複合材料成形用マンドレル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料の成形用マンドレルに関し、特に繊維強化複合材料製非真直部材を製造する際に好適なマンドレルに関する。本発明において、繊維強化複合材料成形用マンドレルとは繊維積層体製造工程(以下、賦形という)の賦形中または、繊維強化プラスチックの成形中にその形状を維持させる型をいう。
【背景技術】
【0002】
複合材料製構造材料の成形における、中でも、輸送機器などの構造部材の成形においては、あらかじめ樹脂を含浸させた強化繊維基材(以下、プリプレグと記す)を型に積層配置しフィルムで包んで、加圧、加温を行うオートクレーブで成形を行う方法が一般的であるが、近年では低コスト化の一手法として、ドライの強化繊維基材を型に積層配置した後、フィルムで包んで真空状態にし大気圧を利用して樹脂を注入する真空補助レジントランスファーモールディング成形法(以下、VaRTM成形法と記す)などのリキッドレジンモールディング成形法が注目されている。
【0003】
いずれの成形法においてもプリプレグやドライの強化繊維基材を積層配置する場合、常温で行うことが一般的である。
【0004】
プリプレグでは予め樹脂を含んでおり強化繊維が拘束されているため、賦形の自由度が低く、特に両端面の投影面が重ならないような部材(以下、非真直部材と記す)を成形する際は、型の形状が複雑なため、プリプレグが追従し難く積層が困難である。
【0005】
またドライの強化繊維基材に関しても、基材間で抵抗を受けるため、繊維の折れ曲がりが生じやすいと言う問題があった。
【0006】
特許文献1には、非真直型に形状記憶させ、真直形状に変形させた形状記憶合金製マンドレルにプリプレグを積層し、記憶形状発現温度へ加温し、マンドレルが記憶していた元の形状にもどる性質を利用してマンドレルを非真直形状に変形させ、オートクレーブ成形を行う方法が開示されている。しかしながら、成形のたびにマンドレル全体を真直形状に変形させる必要があり、マンドレルの剛性が高いため真直形状への変形の容易性に問題がある。
【0007】
特許文献2には、プリプレグを エラストマー系の材料で所要形状に形成したマンドレルに積層させて、オートクレーブ成形する方法が開示されているが、マンドレルに積層させてからフィルムで包み、真空圧により、常温でマンドレルを変形させた場合、マンドレル表面のすべりにくさからプリプレグがマンドレル形状に追従しづらく、また、プリプレグ自身も常温では軟化していないため、皺や不都合な折れ曲がりが生じやすい。また成形中のマンドレルの剛性が低く容易に変形しやすいため、寸法が安定せず、寸法精度に問題がある。
【0008】
特許文献3には、複合材料に関する外板と桁構造材の一体成形において、曲面を有する外板成形型にプリプレグを置き、エラストマー系の材料でできたパットにプリプレグを積層して、曲面を有する外板に配置し、桁構造材の上部を所要の形状をした金属製冶具を用いて固定した後、オートクレーブ成形する方法が開示されている。この方法は冶具を用いて上部を拘束するため高さ方向において寸法は安定するが、側面は剛性の低いエラストマー系マンドレルのみで拘束しているため、寸法が安定しない場合があり、幅方向における寸法精度に問題がある。また、桁材の断面方向の曲面形状を成形するにおいては、長手方向に一様にマンドレル断面が変形するため好的であるが、長手方向の変形においては特許文献2と同様に常温でのプリプレグのマンドレル形状に対する追従しづさから皺や不都合な折れ曲がりが生じやすい。
【特許文献1】特開昭59−118829号公報
【特許文献2】特開昭55−041210号公報
【特許文献3】特開平03−272829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の課題は、複合材料製非真直部材の成形を行うに際して、賦形工程を容易にできるとともに、賦形中に繊維の皺や不都合な折れ曲がりが生じにくく、寸法の安定性、変形容易性に優れるマンドレルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)長手方向の中間部に、表層が低弾性材料からなる変形部と、高弾性材料からなる非変形部を有する繊維強化複合材料成形用マンドレルであって、25℃〜200℃の温度範囲内の特定温度以上に昇温することで変形部の形状変化によりマンドレル形状変化を引き起こし、形状変化後は温度を変化させてもその形状を維持することを特徴とする、繊維強化複合材料成形用マンドレル。
(2)変形部の内部に少なくとも1片の形状記憶合金を有し、かつ、変形部を挟む少なくとも2箇所の高弾性材料部材のそれぞれ一カ所以上に形状記憶合金が固定されており、形状記憶合金の記憶形状発現温度で形状変化を引き起こす(1)に記載の繊維強化複合材料成形用マンドレル。
(3)形状記憶合金としてワイヤー状または薄板状のものを用いることを特徴とする、(1)〜(2)のいずれかに記載の繊維強化複合材料成形用マンドレル。
(4)変形部を挟む二つの高弾性材料部材どうしを投影面上の一カ所においてヒンジで接続することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維強化複合材料成形用マンドレル。
(5)ヒンジ部を避けて形状記憶合金を配置することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維強化複合材料成形用マンドレル。
(6)変形部と非変形部が機械的に接合していることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維強化複合材料成形用マンドレル。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載のマンドレルを用いた繊維強化複合材料の成形方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る形状記憶合金製ワイヤーを用いた強化繊維基材賦形用または繊維強化複合材料成形用マンドレルによれば、複合材料製非真直型部材の成形を行うに際して、賦形工程を容易にできるとともに、賦形中に繊維の皺や不都合な折れ曲がりが生じにくくできるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら、説明する。
図1は本発明の一実施態様に係わるマンドレルの変形部と該変形部を挟む非変形部の一部を示している(以下、形状記憶合金挿入部と記す)。図1において1は高弾性材料を示しており、2つの高弾性材料の中間部分では2の低弾性材料が少なくとも表層に配置されている。さらに2つの高弾性材料には全体に孔が貫通しておりあらかじめ引張ひずみを与えた形状記憶合金3が通っている。形状記憶合金の端部は固定部4で固定されている。図2は図1の低弾性材料を配置していない状態の形状記憶合金挿入部を示しており、2つの高弾性材料1はヒンジ部5で接続されている。
【0013】
本発明において、マンドレルの形状変形とは、マンドレル両端面の投影面どうしの位置がずれるような変形を言う。また変形部とは、マンドレルにおいてマンドレルの形状変化を起こさせる変形をする部分を言い、非変形部とはそれ自体は変形しないせず、変形部の変形に追従する部分を言う。
【0014】
マンドレルの長手方向の中間部にある変形部の表層は低弾性材料で構成される必要がある。また、本発明において、低弾性材料とは形状記憶合金の形状回復効果によって、マンドレルの形状に影響を及ぼす程度の変形を生じる材料をいい、また高弾性材料は形状記憶合金の形状回復効果によりマンドレルの形状に影響を及ぼす変形を生じない材料をいう。かかる観点から、非変形部に用いられる高弾性材料1は、成形温度下において成形品の寸法精度の観点から、弾性率が60GPa〜300GPaであることが好ましく、上限に関しては特に制限しないが、現在、入手できるものを考慮して300GPaとした。また、低弾性材料2としては、高弾性材料より弾性率が低いことが必要であることから弾性率0.1GPa〜60GPaが好ましい。さらには形状記憶合金の回復応力で容易に変形する必要があることから0.1GPa〜40GPaであることが好ましい。
【0015】
マンドレルは少なくとも1箇所の変形部を有することが必要であり、変形部を変形させ全体の変形を促すために、その内部に少なくとも1片の形状記憶合金を有し、かつ、変形部を挟む少なくとも2箇所にあらかじめ引張ひずみを与えた形状記憶合金3が固定されていることが好ましい。形状記憶合金の固定は形状変化時に変形しないように、固定部4において溶接で接着するのが好ましい。形状記憶合金の種類はなんら限定されるものではなく、例えば、Ti−Ni合金、Cu合金(Cu−Zn−Al合金、 Cu−Zn−Ni合金)、Fe合金を使用することができる。与える引張ひずみは回復応力の観点から1%以上が望ましく、形状記憶精度を考慮すると5%以下が好ましい。
【0016】
マンドレルが形状変化を引き起こす温度は、上記形状記憶合金3の記憶形状発現温度になる。温度としては強化繊維基材の賦形や成形の観点から40〜80℃が好ましく、50〜70℃であれば更に好ましい。形状記憶合金の記憶形状を完全に発現させるために成形温度より10℃以上低いことが好ましい。上記形状記憶合金3はワイヤー状または薄板状のものを用いることが好ましく、ワイヤー状のものでは使用後の変形の容易性からΦ3.0mm以下が好ましい。さらに、回復応力の観点から,Φ1.0mm以上のものが好ましい。また薄板状のものも使用後の変形の容易性から断面積が7.0mm以下のものが望ましく、さらに回復応力の観点から1.0mm以上のものが好ましい。また、賦形しようとする基材の厚さや、形状による変形しにくさを考慮して複数本を同時にセットして使用しても良い。
【0017】
本発明においてヒンジ部とは、長手方向に平行なある軸または面上において、二つの高弾性材料1の一部どうしを接続し、長手方向の変形のみを固定した点または領域を言う。マンドレルの形状変化精度を挙げるためには、一つの変形部につき、二つの高弾性材料体どうしを投影面上の一カ所においてヒンジ部5で接続することが好ましい。ヒンジの形状はなんら限定するものではないが、ヒンジ部の大きさとしては変形精度を考慮して断面の中心から、断面積の60%未満の面積範囲に収めるのが好ましく、ヒンジ部の中心とマンドレル断面の中心を一致させるのが好ましい。
【0018】
マンドレルの形状変化を促すためにヒンジ部5を含む線または面を避けて形状記憶合金を配置することが好ましい。ヒンジ部5を含む線または面から形状記憶合金の配置位置までの距離は特に限定しないが、形状記憶合金による変形精度を考慮すると、表面までの距離の60%以上が好ましい。
【0019】
図3は本発明の一実施態様に係わるマンドレルの側面図を示しており、図4は図3の形状変化後の状態を示している。図1の二つの形状記憶合金挿入部を互いに反対にして接合し、その両端面に非挿入部6が接合してある。非挿入部6の材質は変形部の変形部に用いられる材料は高弾性材料1と同様に成形温度環境下における成形品の寸法精度の観点から、弾性率60GPa以上のものが好ましい。
【0020】
また、形状記憶合金挿入部と非挿入部は、非挿入部を交換することでマンドレル形状を多様化できるため機械的に接合していることが好ましい。接合方式はなんら限定されるものではなく、とりはずしの容易性などから、例えばボルト接合であってもよい。
【実施例】
【0021】
高弾性材料1と形状記憶合金非挿入部6にアルミニウム(弾性率70GPa)、低弾性材料2にシリコンゴム(弾性率0.1GPa)、形状記憶合金製ワイヤー3に記憶形状発現温度が40℃〜50℃のNi−Ti合金製のものを用いて、図2に示したようなマンドレルを製作した。全体寸法は断面70mm×50mm,長さ500mmで、高弾性材料1は長さ70mm、変形部長さはそれぞれ6mmでヒンジ部断面はマンドレル断面の中心から30mm×30mmの大きさにし、その周囲表層をシリコンゴムで覆った。形状記憶合金製ワイヤーは145.7mm の長さのものを146mmに引き延ばし、マンドレル表面から5mmの位置に挿入し、端部を溶接した。高弾性材料1と形状記憶合金非挿入部6は8mm径の埋め込みボルトを用いて接合した。
【0022】
東レ(株)性炭素繊維T800S(PAN系炭素繊維、24,000フィラメント、繊度1,030tex、引張強度5,900MPa、引張弾性率295GPa、破断伸度2.0%、破壊歪エネルギー59MJ/m)の一方向織物(目付190g/m)にPESとエポキシからなる高靭性化樹脂粒子を分散した強化繊維基材を、断面70mm×50mm,長さ500mm、各隅が径5mmにR加工した直方体マンドレルに疑似等方性配向の積層構成になるように8枚を3つの面に沿わせて積層し、スチール製平板に配置してフィルムで密閉し、真空引きした後、80℃で1時間加熱して、C型プリフォームとした。その後、2体のC型プリフォームを互いに背中合わせにし、該強化繊維基材を間に詰め、さらに該強化繊維基材を0度/+45度/90度/−45度/0度に積層した100mm×700mmの積層体を重ねて、再びフィルムで密閉して真空引きし、80℃で1時間加熱し、I型プリフォームとした。
【0023】
次に幅150mm、長さ500mm、長さ方向の中央部140mm の部分に1/100のテーパーを有するスチール製冶具に上記I型プリフォームを配置し、上記のマンドレルでI型断面の両側を挟み、フィルムで密閉して真空引きした後、60℃まで昇温し、マンドレルの変形を確認してからエポキシ樹脂を注入した。注入完了後130℃に昇温して2時間放置し硬化させた。冷却後、マンドレルを取り外し、下型冶具から、成形品を取り出した。テーパーを有するスキン板にI型断面桁構造材を繊維に皺や不都合な折れ曲がりを生じることなく追従させ、成形できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
このような繊維強化複合材料成形用マンドレルは、とくに非真直型の繊維強化複合材料製部材の成形において好適に利用できるが、本発明の活用はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施態様に係わるマンドレルの変形部と該変形部を挟む非変形部の一部を示す概略図
【図2】本発明の一実施態様に係わるマンドレルヒンジ部と該変形部を挟む非変形部の一部を示す概略図
【図3】本発明の一実施態様に係わる形状変化前のマンドレルの側面図を示す概略図
【図4】本発明の一実施態様に係わる形状変化後のマンドレルの側面図を示す概略図
【符号の説明】
【0026】
1:高弾性材料
2:低弾性材料
3:形状記憶合金ワイヤー
4:固定部
5:ヒンジ部
6:形状記憶合金非挿入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の中間部に、表層が低弾性材料からなる変形部と、高弾性材料からなる非変形部を有する繊維強化複合材料成形用マンドレルであって、25℃〜200℃の温度範囲内の特定温度以上に昇温することで変形部の形状変化によりマンドレル形状変化を引き起こし、形状変化後は温度を変化させてもその形状を維持することを特徴とする、繊維強化複合材料成形用マンドレル。
【請求項2】
変形部の内部に少なくとも1片の形状記憶合金を有し、かつ、変形部を挟む少なくとも2箇所の高弾性材料部材のそれぞれ一カ所以上に形状記憶合金が固定されており、形状記憶合金の記憶形状発現温度で形状変化を引き起こす請求項1に記載の繊維強化複合材料成形用マンドレル。
【請求項3】
形状記憶合金としてワイヤー状または薄板状のものを用いることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の繊維強化複合材料成形用マンドレル。
【請求項4】
変形部を挟む二つの高弾性材料部材どうしを投影面上の一カ所においてヒンジ部で接続することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化複合材料成形用マンドレル。
【請求項5】
ヒンジ部を避けて形状記憶合金を配置することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化複合材料成形用マンドレル。
【請求項6】
形状記憶合金挿入部と非挿入部が機械的に接合していることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化複合材料成形用マンドレル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のマンドレルを用いた繊維強化複合材料の成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−123403(P2006−123403A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315957(P2004−315957)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】