説明

繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物

【課題】 高い耐熱性及び機械的強度を有するとともに、耐衝撃性に優れる硬化物を得ることのできる繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、脂環式エポキシ化合物(A)と、下記式(1)
【化1】


[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]で表されるモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)と、(i)硬化剤(C)及び硬化促進剤(D)、又は(ii)硬化触媒(E)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化複合材料を製造する上で有用な繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物と、該熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂とからなる複合材料であり、自動車部品、土木建築用品、風力発電のブレード、スポーツ用品、航空機、船舶、ロボット、ケーブル材料等の分野で広く利用されている。強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等が用いられる。マトリックス樹脂としては、強化繊維への含浸が容易な熱硬化性樹脂が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂等が用いられるが、なかでも優れた耐熱性、弾性率、耐薬品性を有し、かつ硬化収縮が小さいエポキシ樹脂が最もよく用いられる。
【0003】
国際公開第01/092368号パンフレットには、脂環式エポキシ樹脂とポリアミンと潜在性酸触媒とを含む繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物が開示されている。この樹脂組成物によれば、従来の芳香族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物と比較して、ポットライフが延長されるとともに、低粘度化を実現できるという利点がある。しかし、従来のエポキシ樹脂組成物と比べて、硬化物のガラス転移点が低下し、耐熱性に劣るという問題があった。また、硬化物の機械的強度についても必ずしも充分満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第01/092368号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い耐熱性及び機械的強度を有し、しかも耐衝撃性に優れる硬化物を得ることのできる繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物、及び該熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定構造を有するエポキシ化合物とモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物と、硬化剤及び硬化促進剤、又は硬化触媒とを含むエポキシ樹脂組成物を硬化させると、高い耐熱性、曲げ強度及び弾性率を有する硬化物が得られること、及び前記エポキシ樹脂組成物を炭素繊維等の強化繊維とともに硬化すると、耐熱性及び機械的強度に優れ、しかも耐衝撃性にも優れる繊維強化複合材料(繊維強化複合樹脂)が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、脂環式エポキシ化合物(A)と、下記式(1)
【化1】

[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]
で表されるモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)と、(i)硬化剤(C)及び硬化促進剤(D)、又は(ii)硬化触媒(E)とを含む繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0008】
前記脂環式エポキシ化合物(A)として、(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物、及び(ii)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を使用できる。
【0009】
前記硬化剤としてはアミン硬化剤又は酸無水物硬化剤が好ましい。
【0010】
本発明は、また、前記の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物と強化繊維とから形成された繊維強化複合材料を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物によれば、高い耐熱性、曲げ強度及び弾性率を有する硬化物を得ることができる。従って、この熱硬化性エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを用いることにより、高い耐熱性及び機械的強度を有するとともに、耐衝撃性にも優れる繊維強化複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、脂環式エポキシ化合物(A)と、式(1)で表されるモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)と、(i)硬化剤(C)及び硬化促進剤(D)、又は(ii)硬化触媒(E)とを含む。この熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、脂環式エポキシ化合物とともにモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物を含むので、脂環式エポキシ化合物のみを含む樹脂組成物と比較して、硬化物のガラス転移温度が高くなり、耐熱性が上昇する。また、硬化物の曲げ強度が高くなり、機械的強度が向上する。さらに、硬化物の曲げ弾性率が高くなり、耐衝撃性が向上する。また、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物と繊維とから形成される繊維強化複合材料は、脂環式エポキシ化合物のみを含む樹脂組成物と繊維から得られる繊維強化複合材料と比べて、耐衝撃性が著しく向上する。モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物の配合により、このような特性が発揮されるのは、該化合物が剛直な構造を有するとともに、炭素繊維等の繊維への密着性が向上するためと推測される。
【0013】
[脂環式エポキシ化合物(A)]
脂環式エポキシ化合物(A)としては、分子内に1又は2以上(好ましくは2以上)のエポキシ基を有するとともに、分子内に脂肪族環式基を有する化合物であれば特に限定されない。好ましい脂環式エポキシ化合物(A)には、(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物、及び(ii)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物が含まれる。
【0014】
(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(脂環エポキシ基)を有する化合物としては、公知乃至慣用のものの中から任意に選択して使用することができる。中でも、脂環エポキシ基としては、シクロヘキセンオキシド基が好ましい。
【0015】
(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物としては、特に、透明性、耐熱性の点で下記式(I)で表される脂環式エポキシ樹脂が好ましい。
【化2】

【0016】
式(I)中、Xは単結合又は連結基(1以上の原子を有する2価の基)を示す。上記連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、及びこれらが複数個連結した基等が挙げられる。
【0017】
式(I)中のXが単結合である脂環式エポキシ樹脂としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化3】

【0018】
このような脂環式エポキシ樹脂として、例えば、商品名「セロキサイド8000」(ダイセル化学工業(株)製)などの市販品を用いることもできる。
【0019】
前記2価の炭化水素基としては、炭素数が1〜18(好ましくは1〜6)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、2価の脂環式炭化水素基等が挙げられる。炭素数が1〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン基等が挙げられる。2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2−シクロペンチレン、1,3−シクロペンチレン、シクロペンチリデン、1,2−シクロヘキシレン、1,3−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキシレン、シクロヘキシリデン基等の2価のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)などが挙げられる。
【0020】
連結基Xとしては、酸素原子を含有する連結基が好ましく、具体的には、−CO−,−O−CO−O−,−COO−,−O−,−CONH−;これらの基が複数個連結した基;これらの基の1又は2以上と2価の炭化水素基の1又は2以上とが連結した基などが挙げられる。2価の炭化水素基としては前記の基が挙げられる。
【0021】
式(I)で表される脂環式エポキシ化合物の代表的な例としては、下記式(I−1)〜(I−8)で表される化合物などが挙げられる。例えば、商品名「セロキサイド2021P」、「セロキサイド2081」(以上、ダイセル化学工業(株)製)等の市販品を使用することもできる。なお、下記式(I−1)〜(I−8)中、l、mは、1〜30の整数を表す。Rは炭素数1〜8のアルキレン基であり、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、s−ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が挙げられる。これらの中でも、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン基等の炭素数1〜3の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が好ましい。
【0022】
【化4】

【0023】
(ii)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物としては、例えば下記式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0024】
【化5】

式(II)中、R’はp価のアルコールからp個の−OHを除した基;p、nは自然数を表す。p価のアルコール[R’−(OH)p]としては、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノール等の多価アルコールなど(炭素数1〜15のアルコール等)が挙げられる。pは1〜6が好ましく、nは1〜30が好ましい。pが2以上の場合、それぞれの( )内(丸括弧内)の基におけるnは同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記化合物としては、具体的には、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、商品名「EHPE 3150」(ダイセル化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0025】
これらの脂環式エポキシ化合物(A)は単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。脂環式エポキシ化合物(A)としては、上記式(I−1)で表される3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、商品名「セロキサイド2021P」が特に好ましい。
【0026】
脂環式エポキシ化合物(A)の使用量(含有量)は、特に限定されないが、脂環式エポキシ化合物(A)とモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)との総量(100重量%)に対して、50〜95重量%が好ましく、より好ましくは60〜94重量%、さらに好ましくは70〜93重量%である。脂環式エポキシ化合物(A)の使用量が50重量%未満では、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)の溶解性が十分でなく、室温に置くと析出しやすくなる場合がある。一方、脂環式エポキシ化合物(A)の使用量が95重量%を超えると、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)の添加効果が小さくなり、硬化物の耐熱性が低下する傾向となり、また、硬化物にクラックが入りやすくなる場合がある。
【0027】
[モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)]
本発明で用いられるモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)は、下記の一般式(1)で表すことができる。
【0028】
【化6】

但し式中、R1及びR2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0029】
炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。これらの中でも、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基等の炭素数1〜3の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。特に、R1及びR2が水素原子であることが好ましい。
【0030】
モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)の代表的なものとしては、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート、1−アリル−3,5−(2−メチルエポキシプロピル)イソシアヌレート、1−(2−メチルプロペニル)−3,5−ジグリシジルイソシアヌレート、1−(2−メチルプロペニル)−3,5−(2−メチルエポキシプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0031】
モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)は、上記脂環式エポキシ化合物(A)に溶解する範囲で任意に混合でき、脂環式エポキシ化合物(A)とモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)の割合は特に限定されないが、脂環式エポキシ化合物(A):モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)が50:50〜95:5(重量比)であることが好ましい。この範囲外では、溶解性が得られにくくなる。
【0032】
モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)は、アルコールや酸無水物など、エポキシ基と反応する化合物を加えて、あらかじめ変性して用いても良い。
【0033】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において、脂環式エポキシ化合物(A)とモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)の総含有量は、通常、全体の30〜99.9重量%である。
【0034】
[他のエポキシ化合物]
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、前記脂環式エポキシ化合物(A)、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)以外のエポキシ化合物を含んでいてもよい。このようなエポキシ化合物として、例えば、エポキシ化ポリブタジエン樹脂、芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂肪族多価アルコールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0035】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において、前記脂環式エポキシ化合物(A)とモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)の総量は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物(エポキシ基を有する化合物)の総量に対して、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは80〜100重量%、特に好ましくは90〜100重量%である。
【0036】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において用いるエポキシ化合物は、調合時及び繊維強化複合材料を製造する際の作業性を向上させる観点から、0〜50℃の何れかの温度[例えば、室温(25℃)]で液状であることが好ましい。ただし、単体としては固形のエポキシ化合物であっても、各成分を配合した後の硬化性エポキシ樹脂組成物の粘度(25℃)として、例えば150000mPa・s以下になるものであれば使用可能である。エポキシ化合物(使用する全てのエポキシ化合物の混合物)の粘度(25℃)は、例えば、150000mPa・s以下、好ましくは100000mPa・s以下、さらに好ましくは80000mPa・s以下である。この粘度が大きすぎると、作業性等が低下しやすくなる。
【0037】
[硬化剤(C)]
硬化剤(C)は、エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)を硬化させる働きを有する。本発明における硬化剤(C)としては、エポキシ樹脂用硬化剤として公知乃至慣用のものを使用することができる。硬化剤(C)として、例えば、1)アミン硬化剤、2)酸無水物硬化剤、3)カチオン硬化剤、4)フェノール硬化剤、5)ベンゾオキサジン樹脂硬化剤などが挙げられる。これらの中でも、アミン硬化剤、酸無水物硬化剤が特に好ましい。
【0038】
硬化剤(C)の配合量は、その種類によっても異なるが、一般に、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物の総量100重量部に対して、1〜200重量部、好ましくは5〜150重量部である。特に、硬化剤(C)は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物におけるエポキシ基1当量当たり、エポキシ基に対して反応性を有する官能基が0.5〜1.5当量となるような割合で使用することが好ましい。硬化剤(C)の使用量が少なすぎると、硬化が不十分となり、硬化物の強靱性が低下する傾向となる。一方、硬化剤(C)の使用量が多すぎると、硬化物が着色して色相が悪化する場合がある。
【0039】
[アミン硬化剤]
アミン硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂用硬化剤として知られているものの中から任意に選択して使用することができる。アミン硬化剤として、ポリアミンを好適に使用できる。ポリアミンとしては、常温で液状のものが好ましい。常温で固体のポリアミンを使用する場合は、常温で液状のポリアミンに溶解させ、常温で液状の混合物として使用することが好ましい。アミン硬化剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0040】
ポリアミンの具体例として、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3−ペンタンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミンなどの鎖状脂肪族ポリアミン;N−アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、4,4′−メチレンビスシクロヘキシル、4,4′−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンなどの環状脂肪族ポリアミン(脂環式ポリアミン);ポリエーテルポリアミン;m−キシリレンジアミン、4,4′−メチレンジアニリン、4,4′−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−イソプロピルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−クロロアニリン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−イソプロピル−6−メチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−ブロモ6−エチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(N−メチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(N−エチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(N−sec−ブチルアニリン)、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−シクロヘキシリデンジアニリン、4,4′−(9−フルオレニリデン)ジアニリン、4,4′−(9−フルオレニリデン)ビス(N−メチルアニリン)、4,4′−ジアミノベンズアニリド、4,4′−オキシジアニリン、2,4−ビス(4−アミノフェニルメチル)アニリン、4−メチル−m−フェニレンジアミン、2−メチル−m−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、2−クロロ−p−フェニレンジアミン、2,4,6−トリメチル−m−フェニレンジアミン、ジエチルトルエンジアミン(2,4−ジエチル−6−メチル−m−フェニレンジアミンと4,6−ジエチル−2−メチル−m−フェニレンジアミンの混合物など)、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン[6−メチル−2,4−ビス(メチルチオ)−m−フェニレンジアミンと2−メチル−4,6−ビス(メチルチオ)−m−フェニレンジアミンの混合物等]、4,6−ジメチル−m−フェニレンジアミン、トリメチレンビス(4−アミノベンゾエート)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、α,α−ビス(4−アミノフェイル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(m−アミノフェニル)ベンゼン等の芳香族ポリアミンなどが挙げられる。
【0041】
このうち、耐熱性に優れ、且つ弾性率の高い硬化物を得るという点からは、ポリアミンとして、芳香族ポリアミンを用いるのが好ましい。また、低粘度で、しかも高い耐熱性を有する硬化物を得るという点からは、ポリアミンとして、環状脂肪族ポリアミンを用いるのが好ましい。特に好ましいポリアミンは、例えば、ジエチルトルエンジアミン(2,4−ジエチル−6−メチル−m−フェニレンジアミンと4,6−ジエチル−2−メチル−m−フェニレンジアミンの混合物など)、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン[6−メチル−2,4−ビス(メチルチオ)−m−フェニレンジアミンと2−メチル−4,6−ビス(メチルチオ)−m−フェニレンジアミンの混合物等]、4,4′−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4′−メチレンビス(2−イソプロピル−6−メチルアニリン)である。
【0042】
また、本発明においては、アミン硬化剤として、商品名「jERキュアW」(三菱化学(株)製)等の市販品を用いることができる。
【0043】
アミン硬化剤の配合量は、その種類によっても異なるが、一般に、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物の総量100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、さらに好ましくは10〜70重量部である。特に、アミン硬化剤は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物におけるエポキシ基1当量当たり、0.5〜1.5のアミン当量となるような割合で使用することが好ましい。
【0044】
[酸無水物硬化剤]
酸無水物硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂用硬化剤として知られているものの中から任意に選択して使用することができる。酸無水物硬化剤としては、中でも、25℃で液状の酸無水物が好ましく、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸などを挙げることができる。また、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物などの常温(約25℃)で固体状の酸無水物は、常温(約25℃)で液状の酸無水物に溶解させて液状の混合物とすることで、酸無水物硬化剤として使用することができる。
【0045】
また、本発明においては、酸無水物硬化剤として、商品名「リカシッド MH−700」(新日本理化(株)製)、商品名「HN−5500」(日立化成工業(株)製)等の市販品を使用することもできる。
【0046】
酸無水物硬化剤の配合量は、特に限定されないが、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物の総量100重量部に対して、50〜200重量部が好ましく、より好ましくは80〜145重量部(特に、100〜145重量部)である。特に、酸無水物硬化剤は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物におけるエポキシ基1当量当たり、0.5〜1.5当量となる割合で使用することが好ましい。
【0047】
[硬化促進剤(D)]
硬化促進剤(D)は、エポキシ化合物が硬化剤により硬化する際に、硬化速度を促進する機能を有する化合物である。硬化促進剤(D)としては、硬化剤(C)の種類に応じて適宜選択して使用することができる。硬化促進剤(D)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
硬化促進剤(D)の配合量は、その種類によっても異なるが、通常、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物の総量100重量部に対して、例えば、0.05〜20重量部、好ましくは0.1〜16重量部、さらに好ましくは0.2〜10重量部である。硬化促進剤(D)の配合量が少なすぎると、硬化促進効果が不十分となる場合がある。一方、硬化促進剤(D)の配合量が多すぎると、硬化物が着色して色相が悪化する場合がある。
【0049】
硬化剤(C)としてアミン硬化剤を用いる場合、硬化促進剤(D)としては、アミン硬化剤を用いてエポキシ化合物を硬化させる際の硬化速度を促進させるために一般に使用される硬化促進剤であれば特に制限はなく、例えば、第三級アミン、第三級アミン塩、イミダゾール類、有機リン系化合物、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級アルソニウム塩、第三級スルホニウム塩、第三級セレノニウム塩、第二級ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩等のオニウム塩、強酸エステル、ルイス酸と塩基の錯体、有機金属塩等を用いることができる。なお、強酸のオニウム塩、強酸エステル、ルイス酸と塩基の錯体等は潜在性酸触媒とも称される。
【0050】
第三級アミンとしては、例えば、ラウリルジメチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリン、(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)などが挙げられる。
【0051】
第三級アミン塩としては、例えば、前記第三級アミンのカルボン酸塩、スルホン酸塩、無機酸塩などが挙げられる。カルボン酸塩としては、オクチル酸塩等の炭素数1〜30(特に、炭素数1〜10)のカルボン酸の塩(特に、脂肪酸の塩)などが挙げられる。スルホン酸塩としては、p−トルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩などが挙げられる。第三級アミン塩の代表的な例として、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)の塩(例えば、p−トルエンスルホン酸塩、オクチル酸塩)などが挙げられる。
【0052】
イミダゾール類としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0053】
有機リン系化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニルなどが挙げられる。
【0054】
第四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミドなどが挙げられる。また、第四級アンモニウム塩としては、カウンターイオンとして、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホネートイオン(p−トルエンスルホネートイオン、ベンゼンスルホネートイオン、4−クロロベンゼンスルホネートイオン、ドデシルベンゼンスルホネートイオン、メタンスルホネートイオン、トリフルオロメタンスルホネートイオン等)、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等を有する第四級アンモニウム塩を用いることもできる。
【0055】
第四級ホスホニウム塩としては、例えば、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩、テトラブチルホスホニウムラウリン酸塩、テトラブチルホスホニウムミリスチン酸塩、テトラブチルホスホニウムパルミチン酸塩、テトラブチルホスホニウムカチオンとビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸及び/又はメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸のアニオンとの塩、テトラブチルホスホニウムカチオンと1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸のアニオンとの塩などが挙げられる。また、第四級ホスホニウム塩としては、カウンターイオンとして、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホネートイオン(p−トルエンスルホネートイオン、ベンゼンスルホネートイオン、4−クロロベンゼンスルホネートイオン、ドデシルベンゼンスルホネートイオン、メタンスルホネートイオン、トリフルオロメタンスルホネートイオン等)、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等を有する第四級ホスホニウム塩を用いることもできる。
【0056】
第四級アルソニウム塩、第三級スルホニウム塩、第三級セレノニウム塩、第二級ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩としては、それぞれ、カウンターイオンとして、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホネートイオン(p−トルエンスルホネートイオン、ベンゼンスルホネートイオン、4−クロロベンゼンスルホネートイオン、ドデシルベンゼンスルホネートイオン、メタンスルホネートイオン、トリフルオロメタンスルホネートイオン等)、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等を有する第四級アルソニウム塩、第三級スルホニウム塩、第三級セレノニウム塩、第二級ヨードニウム塩又はジアゾニウム塩が挙げられる。
【0057】
強酸エステルとしては、例えば、硫酸エステル、スルホン酸エステル、りん酸エステル、ホスフィン酸エステル、ホスホン酸エステルなどが挙げられる。
【0058】
ルイス酸と塩基の錯体としては、例えば、高温で解離してルイス酸を生成するものが挙げられる。ルイス酸としては、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素等のハロゲン化ホウ素、五フッ化りん、五フッ化アンチモンなどが好ましい。また、塩基としては、有機アミンが好ましい。ルイス酸と塩基の錯体の代表的な例として、三フッ化ホウ素・アニリン錯体、三フッ化ホウ素・p−クロロアニリン錯体、三フッ化ホウ素・エチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・イソプロピルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ベンジルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジメチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ジブチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素・ジベンジルアミン錯体、三塩化ホウ素・ジメチルオクチルアミン錯体等が挙げられる。
【0059】
有機金属塩としては、例えば、オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛、ジラウリン酸ジブチルスズ、アルミニウムアセチルアセトン錯体などが挙げられる。
【0060】
これらの硬化促進剤の中でも、カウンターイオンとして、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、スルホネートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等を有する、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級アルソニウム塩、第三級スルホニウム塩、第三級セレノニウム塩、第二級ヨードニウム塩又はジアゾニウム塩;強酸エステル;ルイス酸と塩基の錯体などの潜在性酸触媒が好ましく、特に、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三塩化ホウ素・ジメチルオクチルアミン錯体などのルイス酸と塩基との錯体が好ましい。
【0061】
硬化剤(C)としてアミン硬化剤を用いる場合、硬化促進剤(D)の配合量は、アミン硬化剤の種類によっても異なるが、通常、アミン硬化剤100重量部に対して、0.1〜60重量部、好ましくは1〜50重量部、さらに好ましくは5〜40重量部である。また、この場合の硬化促進剤(D)の配合量は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物の総量100重量部に対して、例えば、0.2〜20重量部、好ましくは1〜16重量部、さらに好ましくは2〜10重量部である。
【0062】
硬化剤(C)として酸無水物硬化剤を用いる場合、硬化促進剤(D)としては、酸無水物硬化剤を用いてエポキシ化合物を硬化させる際の硬化速度を促進させるために一般に使用される硬化促進剤であれば特に制限はなく、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)、及びその塩(例えば、フェノール塩、オクチル酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ギ酸塩、テトラフェニルボレート塩);1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)、及びその塩(例えば、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、4級アンモニウム塩、ヨードニウム塩);ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンなどの3級アミン;2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール;リン酸エステル、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラ(p−トリル)ボレートなどのホスホニウム化合物;オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛などの有機金属塩;金属キレートなどが挙げられる。
【0063】
また、本発明においては、硬化促進剤(D)として、商品名「U−CAT SA 506」、「U−CAT SA 102」、「U−CAT 5003」、「U−CAT 410」、「U−CAT 18X」、「U−CAT 12XD」(以上、サンアプロ(株)製)、商品名「TPP−K」、「TPP−MK」(以上、北興化学工業(株)製)、商品名「PX−4ET」(日本化学工業(株)製)等の市販品を使用することもできる。
【0064】
硬化剤(C)として酸無水物硬化剤を用いる場合、硬化促進剤(D)の配合量としては、特に限定されないが、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物の総量100重量部に対して、0.05〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.2〜3重量部、特に好ましくは0.25〜2.5重量部である。
【0065】
[硬化触媒(E)]
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物においては、前記硬化剤(C)と硬化促進剤(D)の組合せの代わりに、硬化触媒(E)を使用できる。硬化触媒(E)としては、加熱を施すことによりカチオン種を発生して重合を開始させるカチオン触媒を用いることができる。
【0066】
このような硬化触媒(E)としては、例えば、アリールジアゾニウム塩、アリールヨードニウム塩、アリールスルホニウム塩、アレン−イオン錯体などを挙げることができ、商品名「PP−33」、「CP−66」、「CP−77」(以上、ADEKA製)、商品名「FC−509」(スリーエム製)、商品名「UVE1014」(G.E.製)、商品名「サンエイド SI−60L」、「サンエイド SI−80L」、「サンエイド SI−100L」、「サンエイド SI−110L」(以上、三新化学工業製)、商品名「CG−24−61」(チバ・ジャパン製)等の市販品を好適に使用することができる。
【0067】
また、硬化触媒(E)として、アルミニウムやチタンなどの金属とアセト酢酸若しくはジケトン類とのキレート化合物とトリフェニルシラノール等のシラノールとの化合物、又は、アルミニウムやチタンなどの金属とアセト酢酸若しくはジケトン類とのキレート化合物とビスフェノールS等のフェノール類との化合物などを用いることもできる。
【0068】
硬化触媒(E)の使用量としては、例えば、熱硬化性エポキシ樹脂組成物中のエポキシ化合物の総量100重量部に対して、0.01〜15重量部、好ましくは0.01〜12重量部、特に好ましくは、0.05〜10重量部、最も好ましくは、0.1〜10重量部程度である。この範囲内で使用することにより、耐熱性、機械的特性、透明性に優れた硬化物を得ることができる。
【0069】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、上記の成分のほか、硬化物(繊維強化複合材料)の物性に悪影響を与えない範囲で各種の添加剤を配合することができる。そのような添加剤としては、例えば、界面活性剤、内部離型剤、着色剤、難燃剤、消泡剤、シランカップリング剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。これら各種の添加剤の配合量は熱硬化性エポキシ樹脂組成物に対して、重量基準で10%以下(特に、5%以下)であるのが好ましい。従って、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において、全エポキシ化合物と硬化剤及び硬化促進剤、又は全エポキシ化合物と硬化触媒の総量は、全体の90重量%以上であることが好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。
【0070】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化温度は、エポキシ化合物の種類によっても異なるが、例えば、20〜250℃、好ましくは40〜200℃である。
【0071】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物(例えば、110℃で2時間、且つ180℃で2時間硬化させて得られる硬化物)のガラス転移温度[粘弾性スペクトロメータ(DMS)による測定値]は、例えば、160℃以上、好ましくは185℃以上、さらに好ましくは190℃以上、特に好ましくは195℃以上である。
【0072】
また、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物(例えば、110℃で2時間、且つ180℃で2時間硬化させて得られる硬化物)の曲げ強度は、例えば、100MPa以上、好ましくは120MPa以上、さらに好ましくは125MPa以上である。さらに、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物(例えば、110℃で2時間、且つ180℃で2時間硬化させて得られる硬化物)の曲げ弾性率は、例えば、2500MPa以上、好ましくは3000MPa以上、さらに好ましくは3400MPa以上、特に好ましくは3500MPa以上である。
【0073】
繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂とからなる複合材料である。本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は前記マトリックス樹脂の原料(硬化前の前駆体)として使用される。マトリックス樹脂(熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物)の熱特性及び機械的特性は繊維強化複合材料の物性に反映される。すなわち、マトリックス樹脂のガラス転移温度が高ければ、繊維強化複合材料の耐熱性が向上する。また、マトリックス樹脂の曲げ強度が高ければ、繊維強化複合材料の曲げ強度も高くなり、マトリックス樹脂の弾性率が高ければ、繊維強化複合材料の圧縮強度や引張強度、耐衝撃性が向上する。
【0074】
[繊維強化複合材料]
本発明の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用いることにより繊維強化複合材料を製造することができる。
【0075】
繊維強化複合材料の製造方法としては、ハンドレイアップ法、プリプレグ法、RTM法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法、スプレーアップ法などの公知の方法がいずれも好ましく適用できる。好ましい製造法の一つであるRTM法とは、型内に設置した強化繊維基材に液状の熱硬化性樹脂を注入し、硬化して繊維強化複合材料を得る方法である。強化繊維基材としては、強化繊維からなる織物、ニット、マット、ブレイドなどをそのまま用いてもよく、これらの基材を積層、賦形し、結着剤やステッチなどの手段で形態を固定したプリフォームを用いてもよい。
【0076】
強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維などが挙げられる。これらのなかでも、炭素繊維、ガラス繊維が特に好ましい。繊維は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。前記炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維などを用いることができる。ガラス繊維としては、樹脂強化用に通常用いられるガラス繊維を使用できる。
【0077】
型は、剛体からなるクローズドモールドを用いてもよく、剛体の片面型と可撓性のフィルム(バッグ)を用いる方法も可能である。後者の場合、強化繊維基材は剛体片面型と可撓性フィルムの間に設置する。剛体の型材としては、例えば金属(鉄、スチール、アルミニウムなど)、FRP、木材、石膏など既存の各種のものが用いられる。可撓性のフィルムとしては、ナイロン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などのフィルムが用いられる。剛体のクローズドモールドを用いる場合は、加圧して型締めし、液状エポキシ樹脂組成物を加圧して注入することが通常行われる。このとき、注入口とは別に吸引口を設け、真空ポンプに接続して吸引することも可能である。吸引を行い、かつ、特別な加圧手段を用いず、大気圧のみで液状エポキシ樹脂を注入することも可能である。
【0078】
剛体の片面型と可撓性フィルムを用いる場合は、通常、吸引と大気圧による注入を用いる。大気圧による注入で、良好な含浸を実現するためには、米国特許第4902215号公報に示されるような、樹脂拡散媒体を用いることが有効である。また、型内には、強化繊維基材以外にフォームコア、ハニカムコア、金属部品などを設置し、これらと一体化した複合材を得ることも可能である。特にフォームコアの両面に炭素繊維基材を配置して成型して得られるサンドイッチ構造体は、軽量で大きな曲げ剛性を持つので、例えば自動車や航空機などの外板材料として有用である。さらに、強化繊維基材の設置に先立って、剛体型の表面に後述のゲルコートを塗布することも好ましく行われる。
【0079】
樹脂注入が終了した後、適切な加熱手段を用いて加熱硬化を行い、脱型する。脱型後にさらに高温で後硬化を行うことも可能である。
【0080】
繊維強化複合材料は、RTM法以外にも、前述のように、フィラメントワインディング法や、プルトルージョン法などの液状エポキシ樹脂組成物を用いる公知の繊維強化複合材料の製造法により製造することができる。
【0081】
本発明の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を用いることで、軽量、高強度で耐熱性があり、しかも耐衝撃性に優れた繊維強化複合材料(繊維強化複合樹脂)を経済的に製造することができる。
【0082】
こうして得られる繊維強化複合材料は、耐熱性、機械的強度及び耐衝撃性に優れるので、航空機の胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドアなど、宇宙機のモーターケース、主翼など、人工衛星の構体、自動車のシャシー等の自動車部品、鉄道車両の構体、自転車の構体、船舶の構体、風力発電のブレード、圧力容器、釣り竿、テニスラケット、ゴルフシャフト、ロボットアーム、ケーブルなどの構造物に好適に用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0084】
実施例1
脂環式エポキシ化合物(A)として、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物[ダイセル化学工業(株)製、商品名「EHPE3150」]40重量部、及び3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」]50重量部、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)として、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート[四国化成(株)製、商品名「MA−DGIC」]10重量部、硬化剤(C)として、ar,ar−ジエチル−ar−メチルフェニレンジアミン[三菱化学(株)製、商品名「jERキュアW」]29.8重量部、硬化促進剤(D)として、三フッ化ホウ素ピペリジン[ステラ ケミファ(株)製]5重量部を用いた。
これらを、シンキー(株)製の「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
【0085】
比較例1
脂環式エポキシ化合物(A)として、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物[ダイセル化学工業(株)製、商品名「EHPE3150」]50重量部、及び3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」]50重量部、硬化剤(C)として、ar,ar−ジエチル−ar−メチルフェニレンジアミン[三菱化学(株)製、商品名「jERキュアW」]29.8重量部、硬化促進剤(D)として、三フッ化ホウ素ピペリジン[ステラ ケミファ(株)製]5重量部を用いた。モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)は用いなかった。
これらを、シンキー(株)製の「あわとり練太郎」を用いて、室温下で20分間攪拌しながら混合することによって配合し、液状熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。
【0086】
実施例1、比較例1で得られた熱硬化性エポキシ樹脂組成物の評価は、以下のようにして行った。
【0087】
[耐熱性試験]
実施例1、比較例1で得られた熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、110℃で2時間、更に180℃で2時間の条件で熱硬化させた試験片(幅5mm、厚さ1mm)を、粘弾性スペクトロメータ(DMS)[セイコーインスツルメント(株)製]でガラス転移温度(Tg、℃)を測定して耐熱性の指標とした。
【0088】
[曲げ強度試験(曲げ弾性率、曲げ強度、曲げ歪み)]
曲げ強度試験用の試験片は、上記耐熱性試験用試験片の作製条件で得た硬化物を、4mm×10mm×80mmの大きさに加工して作製した。曲げ強度試験はJIS K6911に準拠して、曲げ速度1mm/分で行い、曲げ弾性率(MPa)、曲げ強度(MPa)、曲げ歪み(%)を測定した。
【0089】
[炭素繊維強化樹脂の落すい衝撃試験]
実施例1、比較例1で得られた熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、東レ(株)製の商品名「トレカクロス CO6343」にハンドレイアップで含浸させ、12層積層し、110℃×2時間、更に180℃×3時間の条件で、加熱炉中で硬化させ、繊維強化複合材料(炭素繊維強化樹脂)を得た。この炭素繊維強化樹脂を、長さ100mm、幅100mm、厚さ2mmの試験片に切り出し、JIS K7085の方法に準じて、落すい衝撃試験を行い、衝撃吸収エネルギー(J)を測定した。また、得られた炭素繊維強化樹脂の繊維体積含有率(Vf)を測定したところ、実施例1の熱硬化性エポキシ樹脂組成物から得られた炭素繊維強化樹脂の繊維体積含有率(Vf)は64.2%、比較例1の熱硬化性エポキシ樹脂組成物から得られた炭素繊維強化樹脂の繊維体積含有率(Vf)は63.9%であった。
【0090】
これらの結果を表1に示す。表1に示されるように、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)を用いた実施例1の熱硬化性エポキシ樹脂組成物から得られた樹脂硬化物、及び繊維強化複合材料(炭素繊維強化樹脂)は、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)を用いなかった比較例1と比較して、曲げ弾性率、曲げ強度、耐熱性、耐衝撃性が大きく向上していることが分かる。
【0091】
【表1】

【0092】
実施例2
炭素繊維クロス(東レ(株)製、商品名「トレカクロス CO6343」)12層積層体に、脂環式エポキシ化合物(A)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」]90重量部、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)として、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート[四国化成(株)製、商品名「MA−DGIC」]10重量部、硬化剤(C)として、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸との混合物[新日本理化(株)製、商品名「リカシッドMH−700」]130重量部、エチレングリコール0.65重量部、及び硬化促進剤(D)として、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のオクチル酸塩[サンアプロ(株)製、商品名「SA−102」]0.65重量部を混合した液(熱硬化性エポキシ樹脂組成物)をハンドレイアップ法にて含浸させ、加熱炉にて、110℃で2時間硬化させた後、更に170℃で2時間硬化させることにより繊維強化複合材料(炭素繊維強化樹脂)を得た。得られた炭素繊維強化樹脂の繊維体積含有率(Vf)を測定したところ、60.9%であった。
【0093】
比較例2
炭素繊維クロス(東レ(株)製、商品名「トレカクロス CO6343」)12層積層体に、脂環式エポキシ化合物(A)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」]100重量部、硬化剤(C)として、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸との混合物[新日本理化(株)製、商品名「リカシッドMH−700」]130重量部、エチレングリコール0.65重量部、及び硬化促進剤(D)として、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のオクチル酸塩[サンアプロ(株)製、商品名「SA−102」]0.65重量部を混合した液(熱硬化性エポキシ樹脂組成物)をハンドレイアップ法にて含浸させ、加熱炉にて、110℃で2時間硬化させた後、更に170℃で2時間硬化させることにより繊維強化複合材料(炭素繊維強化樹脂)を得た。得られた炭素繊維強化樹脂の繊維体積含有率(Vf)を測定したところ、60.6%であった。
【0094】
実施例3
炭素繊維クロス(東レ(株)製、商品名「トレカクロス CO6343」)12層積層体に、脂環式エポキシ化合物(A)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」]90重量部、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)として、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート[四国化成(株)製、商品名「MA−DGIC」]10重量部、硬化触媒[三新化学(株)製、商品名「サンエイドSI−100L」]0.65重量部を混合した液(熱硬化性エポキシ樹脂組成物)をハンドレイアップ法にて含浸させ、加熱炉にて、65℃で2時間硬化させた後、更に180℃で2時間硬化させることにより繊維強化複合材料(炭素繊維強化樹脂)を得た。得られた炭素繊維強化樹脂の繊維体積含有率(Vf)を測定したところ、60.5%であった。
【0095】
比較例3
炭素繊維クロス(東レ(株)製、商品名「トレカクロス CO6343」)12層積層体に、脂環式エポキシ化合物(A)として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート[ダイセル化学工業(株)製、商品名「セロキサイド2021P」]100重量部、硬化触媒[三新化学(株)製、商品名「サンエイドSI−100L」]0.65重量部を混合した液(熱硬化性エポキシ樹脂組成物)をハンドレイアップ法にて含浸させ、加熱炉にて、65℃で2時間硬化させた後、更に180℃で2時間硬化させることにより繊維強化複合材料(炭素繊維強化樹脂)を得た。得られた炭素繊維強化樹脂の繊維体積含有率(Vf)を測定したところ、60.3%であった。
【0096】
実施例2、3、比較例2、3で得られた繊維強化複合材料(炭素繊維強化樹脂)の評価は、以下のようにして行った。
【0097】
[曲げ強度試験(弾性率、曲げ強度)]
実施例2、3、比較例2、3で得られた炭素繊維強化樹脂について、長さ100mm、幅100mm、厚さ2mmの試験片に切り出し、JIS K7073の方法に準じて、曲げ試験を行い、弾性率(GPa)と曲げ強度(MPa)を測定した。
【0098】
[炭素繊維強化樹脂の落すい衝撃試験]
実施例2、3、比較例2、3で得られた炭素繊維強化樹脂について、長さ100mm、幅100mm、厚さ2mmの試験片に切り出し、JIS K7085の方法に準じて、落すい衝撃試験(3点曲げ衝撃試験)を行い、衝撃吸収エネルギー(J)を測定した。
【0099】
これらの結果を表2に示す。表2に示されるように、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)を用いた実施例2、3の熱硬化性エポキシ樹脂組成物から得られた繊維強化複合材料(炭素繊維強化樹脂)は、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)を用いなかった比較例2、3と比較して、弾性率、曲げ強度、耐衝撃性が大きく向上していることが分かる。
【0100】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物を熱硬化させて得られる硬化物は、高耐熱性、高曲げ強度、高弾性率を有する。このため、炭素繊維複合材料などの繊維強化複合材料用の硬化性樹脂組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式エポキシ化合物(A)と、下記式(1)
【化1】

[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]
で表されるモノアリルジグリシジルイソシアヌレート化合物(B)と、(i)硬化剤(C)及び硬化促進剤(D)、又は(ii)硬化触媒(E)とを含む繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
脂環式エポキシ化合物(A)が、(i)脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基を有する化合物、及び(ii)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1記載の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
硬化剤がアミン硬化剤又は酸無水物硬化剤である請求項1又は2記載の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化複合材料用熱硬化性エポキシ樹脂組成物と強化繊維とから形成された繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2013−23554(P2013−23554A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158612(P2011−158612)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】