説明

繊維強化難燃性樹脂組成物、その製造方法、及びこれを用いた成形品

【課題】バイオマス由来樹脂をベースにしながら、高い機械的強度と優れた難燃性の両方の特性を併せ持つ、繊維強化難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、下記(A)〜(C)を含有することを特徴とする、繊維強化難燃性樹脂組成物を提供する。
(A) 熱可塑性ポリエステル樹脂
(B) 難燃剤
(C) 融点が上記(A)の融点より高く、さらに上記(A)の分解開始温度よりも低い熱可塑性ポリエステル繊維
但し、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、原料の少なくとも一部として、バイオマス材料由来の脂肪族ポリエステル樹脂が用いられており、また、前記(B)難燃剤は、有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物、及びこれらの金属塩の、少なくともいずれかを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境保全性を考慮したバイオマス由来樹脂をベースとしながら、高い機械的物性と優れた難燃性の両方の特性を併せ持つ、繊維強化難燃性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、レーザープリンター等の電子写真技術、印刷技術、インクジェット技術を用いた画像出力機器に使用される部品、具体的には、定着ローラー等の発熱機構を内部に有する製品、及びその外装部品についても高い難燃性を有していることが要求されている。
【0003】
樹脂用として汎用されている三種類の難燃剤について下記に説明する。
第1は、臭素系難燃剤に代表されるハロゲン系化合物である。
これは、燃焼した炎に対し、ハロゲン系化合物が酸化反応負触媒として機能することにより燃焼速度を低下させるものである。
第2は、リン酸系化合物、またはシリコーン系化合物よりなる難燃剤である。
これは、燃焼中に樹脂の表面にシリコーン系難燃剤をブリードさせたり、リン酸系難燃剤を樹脂内で脱水反応を起こさせたりすることにより、表面にチャー(炭化物)を生成させて断熱皮膜が形成されることにより燃焼を停止させるものである。
第3は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの無機系難燃剤である。
これは、樹脂の燃焼によってこれらの化合物が分解するときの吸熱反応や、生成した水の持つ蒸発潜熱等により、樹脂全体を冷却させ、燃焼を停止させるものである。
【0004】
しかしながら、上記第1〜第3の難燃剤は、有効な機能を発揮させるための添加量が多く、具体的には、樹脂100重量部に対して10〜30重量部、多いものでは50重量部程度も必要とする場合もある。
また、樹脂の衝撃強度等の機械的物性を向上させるために、繊維を添加する技術が知られている。例えばガラス繊維やセラミック繊維、セルロース繊維等による繊維強化手法が挙げられる。
しかしながら、繊維含有樹脂に充分な難燃性を付加させるためには、繊維自体が難燃性であることが必要となるので、結局のところ、難燃剤の添加量が多くなってしまっていた。
【0005】
一方において、近年の地球温暖化問題に代表される環境保全への意識の高まりから、化石資源の使用量を削減するための技術開発が盛んに行われている。例えば、プラスチック原料としてバイオマス材料を適用する技術が開発されている。
バイオマス材料を原料としたプラスチックとしては、ポリ乳酸が知られているが、このようなバイオマス由来樹脂は、一般的に機械的物性が低く、また易燃性であるため、機械的物性と難燃性とが要求される技術分野への展開が非常に困難であった。このような問題に鑑みて、石油由来樹脂とのアロイ、繊維強化、結晶化等の手法を取り入られる技術についての開発もなされている。
しかしながら、結晶化させる方策によると物性値の向上効果が少なく、石油由来樹脂とのアロイや繊維強化をさせる方策によると、バイオマス材料使用による環境保全効果が低下してしまうという問題がある。
また、バイオマス材料に関しての難燃性を向上させるためには、多量の難燃剤、例えば水和金属化合物、金属酸化物等の無機系難燃剤、臭素系に代表されるハロゲン系難燃剤、赤燐、燐酸エステル等の燐系難燃剤、その他シリコーン系難燃剤等を添加しなければならず、一層バイオマス度が低下してしまうという問題がある。
更には実用材料として利用する観点から、機械的物性も高めなければならず、例えば石油由来樹脂とバイオマス由来樹脂をアロイした場合には、より一層環境保全効果が低下する。
【0006】
ところで、バイオマス由来樹脂として代表的なポリ乳酸樹脂に対して繊維強化を図った組成物材料に関しては、例えば、ケナフ繊維強化樹脂組成物に関する技術提案がなされている(例えば、下記特許文献1参照。)。この技術においては、ケナフ繊維の難燃性を向上させるために、表面処理として通常の木材や紙類の難燃化処方を用いている。しかし、組成物全体の難燃効果については、未だ不十分である。
【0007】
また、難燃性樹脂組成物、及びこれを用いた成形品についての技術提案もなされている(例えば、下記特許文献2参照。)。これにおいては、バイオマス由来樹脂単独では実用上充分な白色性外観と機械的強度を達成できないため、ポリカーボネートをアロイし、これらの特性の向上を図っている。
しかしながら、ポリカーボネートをアロイした樹脂組成物において、実用上充分な難燃性を得るためには、リン系難燃剤を15重量%以上程度添加することが必要とされており、バイオマス由来樹脂による環境保全効果が充分に得られなくなってしまっている。
【0008】
バイオマス由来樹脂とポリカーボネートを主原料とした組成物については、その他の技術提案もある(例えば、下記特許文献3参照。)。この技術においては、実用材料として充分な衝撃強度や、白色の外観は、バイオマス由来樹脂を単独で用いた場合には達成できないため、ポリカーボネートをアロイしている。
しかしながら、この技術においても、機械的物性については、アロイするポリカーボネートの特性に依存しているため、ポリカーボネートを25重量%以上含有させなければならず、また、充分な難燃効果を得るために、リン系難燃剤を15重量%以上添加させており、この組成物においても、バイオマス由来樹脂を使用することによる環境保全効果が充分に得られなくなってしまっている。
【0009】
その他、樹脂に繊維成分を混合させて機械的強度の向上を図る技術についての技術提案もあるが(例えば、下記特許文献4参照。)、ベースとなる樹脂が石油由来の熱可塑性樹脂であり、バイオマス由来樹脂を用いた環境保全効果を達成することについては検討がなされていない。
【0010】
また、少量の難燃剤の添加により、優れた難燃効果を達成した技術についての提案もなされている(例えば、下記特許文献5)。
これによると、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して、難燃剤の含有量を0.0002〜0.8質量部として、有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物及びこれらの金属塩の少なくともいずれかを適用した難燃性樹脂組成物についての提案がなされている。
しかし、この技術においても、やはりベースとなる樹脂として、石油由来の樹脂を適用することのみが開示されており、バイオマス由来樹脂を用いた環境保全効果を達成することについては検討もなされていない。
【0011】
【特許文献1】WO 2004/063282
【特許文献2】特開2007−056247号公報
【特許文献3】特開2006−111858号公報
【特許文献4】特開2006−181776号公報
【特許文献5】WO 2007/010786
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明においては、上述した従来技術の問題点に鑑みて、バイオマス由来樹脂をベースとして用い、環境保全性に優れ、かつ実用上充分な機械的強度と難燃性をも具備する繊維強化難燃性樹脂組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明においては、少なくとも、下記(A)〜(C)を含有することを特徴とする、繊維強化難燃性樹脂組成物を提供する。
(A) 熱可塑性ポリエステル樹脂
(B) 難燃剤
(C) 融点が上記(A)の融点より高く、さらに上記(A)の分解開始温度よりも低い熱可塑性ポリエステル繊維
但し、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、原料の少なくとも一部として、バイオマス材料由来の脂肪族ポリエステル樹脂が用いられており、前記(B)難燃剤は、有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物、及びこれらの金属塩の、少なくともいずれかを含有する。
【0014】
請求項2の発明においては、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸樹脂または微生物産生樹脂(ポリヒドロキシアルカン酸)より選ばれる、少なくともいずれか一種を含有していることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化難燃性樹脂組成物を提供する。
【0015】
請求項3の発明においては、前記(B)難燃剤は、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維とからなる重量を100重量部としたとき、 0.001重量部〜1重量部含有されているものとしたことを特徴とする請求項1又は2の繊維強化難燃性樹脂組成物を提供する。
【0016】
請求項4の発明においては、前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維の融点が、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の融点よりも、40℃〜160℃高いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の繊維強化難燃性樹脂組成物を提供する。
【0017】
請求項5の発明においては、前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維の繊維長が、5μm〜10mmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の繊維強化難燃性樹脂組成物を提供する。
【0018】
請求項6の発明においては、少なくとも、(A) 熱可塑性ポリエステル樹脂、(B) 難燃剤、及び(C) 融点が上記(A)の融点より高く、さらに上記(A)の分解開始温度よりも低い熱可塑性ポリエステル繊維を含有する繊維強化難燃性樹脂組成物の製造方法を提供する。
これにおいては、前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維100重量部に、前記(B)の難燃剤を0.001重量部〜1重量部、含有させる工程と、その後、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂を組み合わせて、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維との合計量を100重量部としたときに、前記(B)難燃剤が0.001重量部〜1重量部となるように調整する工程とを有するものとする。
但し、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、原料の少なくとも一部として、バイオマス材料を含む脂肪族ポリエステル樹脂が用いられており、前記(B)難燃剤は、有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物、及びこれらの金属塩の、少なくともいずれかを含有するものとする。
【0019】
請求項7の発明においては、前記請求項1乃至5のいずれか一項に記載の繊維強化難燃性樹脂組成物を用いて成形した繊維強化難燃性樹脂組成物成形品であって、前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維と、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂との重量比が、5:95〜50:50の範囲とし、射出成形法により加工して得られたものであることを特徴とする繊維強化難燃性樹脂組成物成形品を提供する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1、2の発明によれば、環境保全性に優れ、かつ実用上充分な機械的強度と難燃性をも具備する繊維強化難燃性樹脂組成物が得られた。
請求項3の発明によれば、難燃剤の構成材料を特定したことにより、前記効果に加え、少量の難燃剤添加により高い難燃効果が確実に得られた。
請求項4の発明によれば、成形加工時においては、構成成分中の繊維が溶融せず、形状が維持され、強度が保持された。
請求項5の発明によれば、繊維長の数値範囲を特定したことにより、高い機械的物性と難燃性を両立が確実に図られた。
請求項6の発明によれば、(C)に(B)を予め混合させた繊維を用いるようにしたことにより、予め混合させなかった場合に比較して、より確実に、最終的に得られる樹脂組成物の難燃化が実現できた。これにより、樹脂組成物中の難燃剤含有量を低く抑えることができ、成形性にも優れ、高い機械的物性と難燃性の両方の特性に優れ樹脂組成物が得られた。
請求項7の発明によれば、前記(C)と前記(A)の構成比率を、重量比で、5:95〜50:50の範囲にあるものとしたことにより、高い機械的物性と難燃性を両立させた繊維強化難燃性樹脂組成物成形品を、射出成形により得ることができた。
なお、前記(C)繊維の重量比が、前記範囲よりも少ないと、実用上充分な機械的物性が得られないことが確かめられており、一方、50重量部よりも多くなるとバイオマス由来樹脂による環境保全効果への寄与が少なくなりすぎるという問題を生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の繊維強化難燃性樹脂組成物は、図1の模式的概略図に示すように、下記(A)〜(C)を含有するものである。
(A) 熱可塑性ポリエステル樹脂
(B) 難燃剤
(C) 融点が上記(A)の融点より高く、さらに上記(A)の分解開始温度よりも低い熱可塑性ポリエステル繊維
但し、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、原料の少なくとも一部として、バイオマス材料由来の脂肪族ポリエステル樹脂が適用されている。
また、前記(B)難燃剤は、有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物、及びこれらの金属塩の、少なくともいずれかを含有する。
以下、前記(A)〜(C)について詳細に説明する。
【0022】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、少なくとも原料の一部として、バイオマス材料由来の脂肪族ポリエステル樹脂であれば、特に制限されるものではないが、例えば、ポリ乳酸が好適なものとして挙げられる。または、ポリ乳酸樹脂の他、微生物産生樹脂であるポリヒドロキシアルカン酸類、例えば、P(3HB)、P(3HB-co-3HV)、P(3HB-co-3HA)、P(3HB-co-3HHx)より選ばれる1種類、または2種類以上の混合物であってもよい。
【0023】
(B)難燃剤は、有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物、及びこれらの金属塩の、少なくともいずれかを含有するものであれば、特に制限されるものではない。
有機スルホン酸化合物であれば、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸が挙げられる。
【0024】
脂肪族スルホン酸は、一般式:R−SO3Hで表されるものとし、Rは炭素鎖で構成されている化合物を示す。Rは直鎖構造、分岐鎖を有する構造、環状構造、ヒドロキシ基を含む構造のいずれであってもよい。
具体的には、カンファースルホン酸を含むモノテルペン類のスルホン酸、およびそのナトリウム塩、もしくはカリウム塩が好適に用いられるが、他のメタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、オクタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸も適用できる。
【0025】
芳香族スルホン酸は、ベンゼン環を含むスルホン酸である。
具体的に、ドデシルベンゼンスルホン酸以外のアルキルベンゼンスルホン酸、およびそのナトリウム塩、もしくはカリウム塩が適用できる。また、クロロベンゼンスルホン酸、ジクロロベンゼンスルホン酸、トリクロロベンゼンスルホン酸、アミノベンゼンスルホン酸、ジアミノベンゼンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、ジニトロベンゼンスルホン酸、ヒドラジノベンゼンスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、ラウリルベンゼンスルホン酸、ホルミルベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸も適用できる。
【0026】
有機カルボン酸化合物としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸のいずれも適用できる。
脂肪族カルボン酸は、一般式:R−COOHで表わされるものとし、Rは炭素鎖で構成されている化合物を示す。例えば、炭素鎖が単結合のみの飽和脂肪酸、炭素鎖に二重結合または三重結合が含まれる不飽和脂肪酸、およびそのナトリウム塩、もしくはカリウム塩が挙げられる。
また、Rは直鎖構造のみならず、分岐鎖を持つ分岐脂肪酸、環状構造を持つ環状脂肪酸、ヒドロキシ基を含むヒドロキシル脂肪酸等であってもよい。
【0027】
芳香族カルボン酸は、ベンゼン環を含むカルボン酸である。本発明においては、例えば、安息香酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、イソプロピル安息香酸、フタル酸、メチルイソフタル酸、フェニル酢酸、フェニルプロパン酸、フェニルアクリル酸、サリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシメチル安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、メトキシ安息香酸、ジメトキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシメトキシ安息香酸、ヒドロキシジフェニル酢酸、ヒドロキシフェニルプロパン酸等の芳香族カルボン酸、およびそのナトリウム塩、もしくはカリウム塩を適用できる。
【0028】
(B)難燃剤の添加量については、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維とからなる重量を100重量部としたとき、0.001重量部〜1重量部の範囲とすることにより、高い難燃効果が発揮されるとともに、優れた成形加工性が確保できることが確かめられた。
【0029】
次に、構成要素(C)について説明する。
上記(C)は、 融点が上記(A)の融点より高く、さらに上記(A)の分解開始温度よりも低い熱可塑性ポリエステル繊維である。具体的には、(C)熱可塑性ポリエステル繊維の融点が前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の融点よりも40℃〜160℃高いものとする。
この温度条件を満足する熱可塑性ポリエステル樹脂と、熱可塑性ポリエステル繊維との組み合わせであれば、特に制限はないが、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ1,4シクロヘキサンジメタクリレート、ポリエチレン2,6ナフタレート、ポリグリコール酸等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(C)熱可塑性ポリエステル繊維の繊維長は5μm〜10mmであることが好ましい。これにより、樹脂組成物の機械的物性の向上効果が確実に得られるとともに、優れた成形加工性が確保できることが確かめられた。
【0031】
本発明の繊維強化難燃性樹脂組成物については、従来公知の各種添加剤を適宜用いることができる。例えば、相溶化剤、可塑化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、加水分解抑制剤等の各種添加剤を適宜選定して配合することができる。
可塑剤としては、一般にポリマーの可塑剤として用いられる公知のものを用いることができる。例えばポリエステル可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤およびエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
相溶化剤は、構成要素(A)と、構成要素(C)の相溶化剤として機能するものであれば特に制限はなく、従来公知のものを適用できる。例えば、無機充填剤、グリシジル化合物または酸無水物をグラフトまたは共重合した高分子化合物、及び有機金属化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせてもよい。
加水分解抑制剤としては、従来公知のものを適用できる。例えば、日清紡績(株)製カルボジライト(可塑性ポリカルボジイミド樹脂)が挙げられる。
【0032】
本発明の繊維強化難燃性樹脂組成物は、下記のようにして製造できる。
構成要素(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維を混合し、ペレットとしておき、構成要素(B)難燃剤を、ドライブレンドすることにより作製できる。
また、他の方法としては、先ず(C)熱可塑性ポリエステル繊維に、前記(B)の難燃剤を所定量、例えば(C)100重量部に(B)0.001重量部〜1重量部の割合で予め含有させ、次に、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂を組み合わせるようにしてもよい。このとき、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維との合計量を100重量部としたときに、前記(B)難燃剤が0.001重量部〜1重量部となるように調整することが望ましい。
【0033】
上述した本発明の繊維強化難燃性樹脂組成物を用いて成形品の加工を行う場合には、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の融点TmA以上で、かつ(C)熱可塑性ポリエステル繊維の融点Tmc以下の温度により行う。
具体例を示すと、(A)としてポリ乳酸(融点TmA=180℃)を用い、(C)としてポリエチレンテレフタレート(融点Tmc=265℃)を用いる場合、180℃〜265℃の範囲内で加熱加工を行う。
【0034】
〔実施例、比較例〕
(実施例1)
<熱可塑性ポリエステル樹脂繊維の作製>
(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維を使用する。ポリエチレンテレフタレートのペレットを棚式の熱風乾燥機で50℃、12時間の乾燥処理を施した。
前記ポリエチレンテレフタレートペレット100重量部に対し、(B)難燃剤を0.1重量部の割合でドライブレンドした。これを高温溶融紡糸装置を用いてφ200μmmポリエチレンテレフタレートフィラメントに延伸紡糸した後、繊維長5mm程度にカッターにて切断した。
前述のようにして、予め(C)繊維に(B)難燃剤を添加した繊維状の難燃剤添加熱可塑性ポリエステルを、(C1)とした。
なお、前記ポリエチレンテレフタレートとしては、三井化学株式会社製の三井PETJ120を使用し、前記難燃剤としては、関東化学株式会社製のカンファースルホン酸を使用した。
【0035】
<繊維強化樹脂組成物の作製>
構成要素(A)熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリ乳酸を用いた。
この構成要素(A)ポリ乳酸と、前述において作製した難燃剤添加熱可塑性ポリエステル繊維(C1)を、棚式の熱風乾燥機により50℃で12時間の乾燥処理を施した。
その後、構成要素(A)ポリ乳酸と、(C1)難燃剤添加熱可塑性ポリエステル繊維とを混合する。このとき、これらの混合体中における、構成要素(A)ポリ乳酸:構成要素(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維が、重量比で、95:5となるように混合する。これを単軸混練押出機を用いて180℃の温度で溶融混練し、3mm角程度の成形用ペレットを作製した。
なお、ポリ乳酸樹脂には、三井化学株式会社製のレイシアH−100Jを使用した。
【0036】
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
上述のようにして作製した繊維強化樹脂組成物のペレットを、棚式の熱風乾燥機を用いて50℃で12時間乾燥処理を施した。
その後、前記ペレットに対し、構成要素(B)難燃剤を、構成要素(A)100重量部に対して0.1重量部の割合でドライブレンドした。
その後、型締力50トンの電動式射出成形機を使用して金型温度40℃、シリンダー温度180℃、射出速度20mm/sec、射出圧力100MPa、冷却時間60secの設定で、UL94垂直燃焼試験用の短冊試験片を作製した。この短冊試験片は、幅13mm、長さ125mm、厚さ1.6mmである。
なお、(B)難燃剤としては、関東化学株式会社製のカンファースルホン酸を使用した。
【0037】
<UL94垂直燃焼試験>
上述のようにして作製した試験片を、50℃で72時間のエージングした後、湿度20%のデシケータ内で3時間冷却した。
試験片を5本で1セットとし、UL94規格に準拠した垂直燃焼試験を行った。
試験方法について説明する。
各試験片の上端部をクランプし、垂直状態で保持し、各試験片の下端部から300±10mm下方に脱脂綿(0.8g以下、50mm角)を置き、後述する燃焼試験によって溶融物が脱脂綿上に落下することを確認する。
各試験片の下端部からバーナーで接炎(1回目)を10±1秒間行い、その後、約300mm/秒の速度でバーナーを試験片から離す。燃焼が消えたら直ちにバーナーをサンプルの下端部に戻し、接炎(2回目)を10±1秒間行った。
5本1セットの試験片について、合計10回の接炎を行い、各試験片の燃焼時間を記録した。
ここで、「燃焼時間」とは、離炎後の燃焼継続時間を意味する。
1回目の燃焼時間をt1、2回目の燃焼時間をt2、2回目の燃焼後火種継続時間をt3とした。
ここで、「2回目の燃焼後火種継続時間」とは、試験片において炎は消えているが、試験片に赤く火種が残った状態が続く時間を言うものとする。
【0038】
<UL94垂直燃焼試験の判定方法>
上述したUL94垂直燃焼試験による判定を下記の方法により行った。
(1)各試験片の、測定された離炎後の燃焼継続がt1、t2であり、これらが10秒以下ならV-0、30秒以下ならV-1もしくはV-2と判定した。
V-1、V-2判定上区別する境界については、下記(5)記載の評価による、燃焼時の滴下物でコットン着火するかどうかが基準となる。コットン着火した場合はV-2になり、着火が無い場合には、V-1となる。
(2)5本の試験片全ての燃焼継続時間(t1+t2)が、50秒以下ならばV-0、250秒以下ならばV-1もしくはV-2と判定した。
(3)2回目接炎後の燃焼継続時間と火種継続時間の合計(t2+t3)が、30秒以下ならばV-0、60秒以下ならばV-1もしくはV-2と判定した。
(4)クランプまで燃える燃焼がないことを確認できれば、合格とした。
(5)燃焼物や落下物による脱脂綿の発火について評価した。発火無しならばV-0もしくはV-1と判定し、発火ありならV-2と判定した。
ここで、発火が無い場合のV-0とV-1の境界は、上記(2)、(3)の燃焼継続時間(t1+t2)と(t2+t3)の測定結果が基準となる。t1+t2が50秒以下ならばV-0となり、50秒より大きく250秒以下ならばV-1となる。
また、t2+t3が30秒以下ならばV-0となり、30秒より大きく60秒以下ならばV-1となる。
上記(1)〜(5)のそれぞれについて、V-0、V-1、V-2の条件を全て満たすものが実用上合格レベルにあるものと評価した。
【0039】
<アイゾット衝撃試験用試験片の作製>
上述のようにして作製した、繊維強化樹脂組成物のペレットを、棚式の熱風乾燥機を使用して50℃で12時間乾燥処理を施した。
その後、前記ペレットに対し、構成要素(B)難燃剤を、構成要素(A)100重量部に対して0.1重量部の割合でドライブレンドした。
その後、型締力50トンの電動式射出成形機を使用して、金型温度40℃、シリンダー温度180℃、射出速度20mm/s、射出圧力100MPa、冷却時間60secの設定条件で、アイゾット衝撃試験用試験片を作製した。
試験片のサイズは、長さ64mm、幅12.7mm、厚さ12.7mmで、A切欠きを入れた2号A試験片であるものとした。
なお、(B)難燃剤としては、関東化学株式会社製のカンファースルホン酸を使用した。
【0040】
<アイゾット衝撃試験>
JIS K 7110に準拠したアイゾット衝撃試験を行った。
【0041】
(実施例2)
前述のようにして作製した(C1)難燃剤添加熱可塑性ポリエステル繊維を、構成要素(A)ポリ乳酸と混合する。
このとき、これらの混合体中における、構成要素(A)ポリ乳酸:構成要素(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維が、重量比で、90:10となるように混合し、繊維強化樹脂組成物を作製し、前記実施例1と同様にして、垂直燃焼試験片を作製し、UL94垂直燃焼試験を行った。また、アイゾット衝撃試験用試験片を作製し、アイゾット衝撃試験を行った。
【0042】
(実施例3)
前述のようにして作製した(C1)難燃剤添加熱可塑性ポリエステル繊維を、構成要素(A)ポリ乳酸と混合する。
このとき、これらの混合体中における、構成要素(A)ポリ乳酸:構成要素(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維が、重量比で、70:30となるように混合し、繊維強化樹脂組成物を作製し、前記実施例1と同様にして、垂直燃焼試験片を作製し、UL94垂直燃焼試験を行った。また、アイゾット衝撃試験用試験片を作製し、アイゾット衝撃試験を行った。
【0043】
(実施例4)
前述のようにして作製した(C1)難燃剤添加熱可塑性ポリエステル繊維を、構成要素(A)ポリ乳酸と混合する。
このとき、これらの混合体中における、構成要素(A)ポリ乳酸:構成要素(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維が、重量比で、50:50となるように混合し、繊維強化樹脂組成物を作製し、前記実施例1と同様にして、垂直燃焼試験片を作製し、UL94垂直燃焼試験を行った。また、アイゾット衝撃試験用試験片を作製し、アイゾット衝撃試験を行った。
【0044】
(実施例5)
<熱可塑性ポリエステル樹脂繊維の作製>
(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維を使用する。ポリエチレンテレフタレートのペレットを棚式の熱風乾燥機で50℃、12時間の乾燥処理を施した後、高温溶融紡糸装置を用いてφ200μmmポリエチレンテレフタレートフィラメントに延伸紡糸する。その後、繊維長5mm程度にカッターにて切断した。
なお、ポリエチレンテレフタレートには三井化学株式会社製の三井PETJ120を使用した。
【0045】
<繊維強化樹脂組成物の作製>
構成要素(A)熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリ乳酸を用いた。
この構成要素(A)ポリ乳酸と、前記(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維を、棚式の熱風乾燥機により50℃で12時間の乾燥処理を施した。
その後、構成要素(A)ポリ乳酸と、(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維とを混合する。
これらの混合体中における、構成要素(A)ポリ乳酸:構成要素(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維が、重量比で、90:10となるように混合する。これを単軸混練押出機を用いて180℃の温度で溶融混練し、3mm角程度の成形用ペレットを作製した。
なお、ポリ乳酸樹脂には、三井化学株式会社製のレイシアH−100Jを使用した。
【0046】
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
上述のようにして作製した繊維強化樹脂組成物のペレットを、棚式の熱風乾燥機を用いて50℃で12時間乾燥処理を施した。
その後、前記ペレットに対し、構成要素(B)難燃剤を、構成要素(A)+構成要素(C)100重量部に対して0.1重量部の割合でドライブレンドした。
その後、型締力50トンの電動式射出成形機を使用して金型温度40℃、シリンダー温度180℃、射出速度20mm/sec、射出圧力100MPa、冷却時間60secの設定で、UL94垂直燃焼試験用の短冊試験片を作製した。この短冊試験片は、幅13mm、長さ125mm、厚さ1.6mmである。
なお、(B)難燃剤としては、関東化学株式会社製のカンファースルホン酸を使用した。
【0047】
<アイゾット衝撃試験用試験片の作製>
上述のようにして作製した、繊維強化樹脂組成物のペレットを、棚式の熱風乾燥機を使用して50℃で12時間乾燥処理を施した。
その後、前記ペレットに対し、構成要素(B)難燃剤を、構成要素(A)+構成要素(C)100重量部に対して0.1重量部の割合でドライブレンドした。
その後、型締力50トンの電動式射出成形機を使用して、金型温度40℃、シリンダー温度180℃、射出速度20mm/s、射出圧力100MPa、冷却時間60secの設定条件で、アイゾット衝撃試験用試験片を作製した。
試験片のサイズは、長さ64mm、幅12.7mm、厚さ12.7mmで、A切欠きを入れた2号A試験片であるものとした。
なお、(B)難燃剤としては、関東化学株式会社製のカンファースルホン酸を使用した。
【0048】
前述のようにして作製した垂直燃焼試験片、及びアイゾット衝撃試験用試験片に対して、それぞれ、UL94垂直燃焼試験、アイゾット衝撃試験を、実施例1と同様に行った。
【0049】
(実施例6)
構成要素(A)と構成要素(C)との重量比を70:30で混合し、繊維強化樹脂組成物を作製した。その他の条件は、前記実施例5と同様とし、垂直燃焼試験片、アイゾット衝撃試験用試験片を作製し、それぞれ、UL94垂直燃焼試験、アイゾット衝撃試験を行った。
【0050】
(実施例7)
前記実施例1で得た(C1)の繊維長に関して変更し、繊維長が10mmになるように切断した。この難燃剤添加熱可塑性ポリエステル繊維を、(C2)とする。
前述のようにして作製した (C2)難燃剤添加熱可塑性ポリエステル繊維を、構成要素(A)ポリ乳酸と混合する。
このとき、これらの混合体中における、構成要素(A)ポリ乳酸:構成要素(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維が、重量比で、70:30となるように混合し、繊維強化樹脂組成物を作製し、前記実施例1と同様にして、垂直燃焼試験片を作製し、UL94垂直燃焼試験を行った。また、アイゾット衝撃試験用試験片を作製し、アイゾット衝撃試験を行った。
【0051】
(実施例8)
前記実施例1で得た(C1)を液体窒素に浸漬し、その後、ドライブレンダーを用いて繊維長約5μmに破砕した。この繊維を(C3)とする。
前述のようにして作製した(C3)難燃剤添加熱可塑性ポリエステル繊維を、構成要素(A)ポリ乳酸と混合する。
このとき、これらの混合体中における、構成要素(A)ポリ乳酸:構成要素(C)熱可塑性ポリエステル樹脂繊維が、重量比で、70:30となるように混合し、繊維強化樹脂組成物を作製し、前記実施例1と同様にして、垂直燃焼試験片を作製し、UL94垂直燃焼試験を行った。また、アイゾット衝撃試験用試験片を作製し、アイゾット衝撃試験を行った。
【0052】
下記表1に、実施例1〜8の繊維強化樹脂組成物の、構成、UL94垂直燃焼試験、及びアイゾット衝撃試験結果を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
前記表1に示すように、本発明の繊維強化樹脂組成物においては、いずれにおいても、アイゾット衝撃強度が2.8kJ/m2以上と高く、実用上充分な機械的強度を有しており、難燃性評価についても、UL94垂直燃焼試験においてV−2の評価が得られており、実用上充分な難燃性を有していることが確かめられた。
また、特に、予め(C)繊維に(B)難燃剤を添加しておき、その後(A)樹脂と混合させた実施例1及び2は、(C)繊維に(B)難燃剤を予め添加させず、別構成要素としたまま(A)樹脂と混合させた実施例5及び6と比較して、燃焼時間がさらに減少しており、より優れた難燃効果が得られることが確かめられた。
【0055】
(比較例1)
この例においては、繊維による樹脂強化を行わず、構成要素(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、(B)難燃剤のみを組み合わせた。
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
構成要素(A)熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリ乳酸を用い、ペレットを作製し、このペレットを、棚式の熱風乾燥機を用いて、50℃で12時間乾燥処理を施した後、ペレットに対し構成要素(B)難燃剤を、下記表2に示す配合量でドライブレンドし、4種類のサンプルを作製した(サンプル1〜4)。
<UL94垂直燃焼試験>
実施例1と同様にUL94規格に準拠した垂直燃焼試験を行った。
これによると、下記表2に示すように、(B)難燃剤を0.01〜1重量部添加したサンプル2〜4においては、V−2の評価が得られたが、(B)難燃剤を添加せずポリ乳酸のみのサンプル1は、実用的に充分な難燃性が得られなかった。
<アイゾット衝撃試験片の作製>
構成要素(A)熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリ乳酸を用い、ペレットを作製した。
このペレットを、棚式の熱風乾燥機を使用して50℃で12時間乾燥処理を施した後、このペレットに対し、(B)難燃剤を、下記表2に示す配合量でドライブレンドし、実施例1と同様にしてアイゾット衝撃試験片を作製した。
<アイゾット衝撃試験>
JIS K 7110に準じてアイゾット衝撃試験を行った。
下記表2に示すように、サンプル1〜4のいずれにおいても、アイゾット衝撃強度が1.6kJ/m2以下と低く、実用上充分な機械的強度が得られなかった。
【0056】
(比較例2)
この例においては、(B)難燃剤を添加せず、構成要素(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、構成要素(C)ポリエチレンテレフタレート繊維のみを組み合わせた。
<繊維強化樹脂組成物の作製>
構成要素(A)熱可塑性ポリエステル樹脂としてポリ乳酸を用い、このポリ乳酸と実施例1で得た(C)ポリエチレンテレフタレート繊維を、棚式の熱風乾燥機を使用して50℃で12時間乾燥処理を施した後、(A)ポリ乳酸樹脂と(C)ポリエチレンテレフタレート繊維とを、(A):(C)=90:10の重量比で混合した。これを単軸混練押出機で180℃の温度で溶融混練して、3mm角程度の成形用ペレットを作製した(サンプル5)。
前記と同様にしてUL94垂直燃焼試験用の短冊試験片を作製した。
<UL94垂直燃焼試験>
実施例1と同様にUL94規格に準拠した垂直燃焼試験を行った。
難燃剤を添加しなかったため、実用上充分な難燃効果が得られなかった。
<アイゾット衝撃試験用試験片の作製>
前記成形用ペレットを、棚式の熱風乾燥機を使用して50℃で12時間乾燥処理を施した後、前記実施例1と同様にしてアイゾット衝撃試験用試験片を作製した。
<アイゾット衝撃試験>
JIS K 7110に準じてアイゾット衝撃試験を行った。
下記表2に示すように、衝撃強度は3.3kJ/m2と高く、繊維強化により、機械的強度の向上効果が得られたことが確かめられた。
【0057】
(比較例3)
構成要素(C)に代えて、セルロース繊維(C’’)を適用した。
<繊維強化樹脂組成物の作製>
構成要素(A)熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリ乳酸を用いた。
ポリ乳酸樹脂とセルロース繊維とを90:10の重量比で混合し、単軸混練押出機で180℃の温度で溶融混練して、3mm角程度の成形用ペレットを作製した(サンプル6)。
なお、ポリ乳酸樹脂としては、三井化学株式会社製のレイシアH−100Jを使用した。
セルロース繊維としては、ダイセル化学株式会社製のセリッシュ PC110Tを粉砕、乾燥して使用した。
<UL94垂直燃焼試験片の作製>
前記ペレットを、棚式の熱風乾燥機を使用して50℃で12時間乾燥処理を施し、ペレットに対し、構成要素(B)難燃剤を構成要素(A)に対して0.1重量部の割合でドライブレンドし、前記実施例1と同様にして、UL94垂直燃焼試験用の短冊試験片を作製した。
<UL94垂直燃焼試験>
実施例1と同様にして、UL94規格に準拠した垂直燃焼試験を行った。
下記表2に示すように、セルロース繊維により繊維強化した場合においては、(B)難燃剤を実施例5、6と同程度に添加したとしても、実用上充分な難燃効果は得られなかった。
<アイゾット衝撃試験用試験片の作製>
前記のようにして作製したペレットを、棚式の熱風乾燥機を使用して50℃で12時間乾燥処理を施し、その後、ペレットに対し構成要素(B)難燃剤を構成要素(A)に対して0.1重量部の割合でドライブレンドした。これを用いて、実施例1と同様にしてアイゾット衝撃試験用試験片を作製した。
<アイゾット衝撃試験>
JIS K 7110に準じてアイゾット衝撃試験を行った。
下記表2に示すように、セルロース繊維により繊維強化を行った樹脂組成物成形品の衝撃強度は、3.4kJ/m2と高く、ポリ乳酸のみ(サンプル1)の場合の衝撃強度が1.6kJ/m2であるので、繊維による機械的強度の向上効果が得られたことが確かめられた。
【0058】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の繊維強化難燃性樹脂組成物の模式的概略図を示す。
【符号の説明】
【0060】
A 熱可塑性ポリエステル樹脂
B 難燃剤
C 融点が上記Aの融点より高く、さらに上記Aの分解開始温度よりも低い熱可塑性ポリエステル繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記(A)〜(C)を含有することを特徴とする、繊維強化難燃性樹脂組成物。
(A) 熱可塑性ポリエステル樹脂
(B) 難燃剤
(C) 融点が上記(A)の融点より高く、さらに上記(A)の分解開始温度よりも低い熱可塑性ポリエステル繊維
但し、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、原料の少なくとも一部として、バイオマス材料由来の脂肪族ポリエステル樹脂が用いられており、また、前記(B)難燃剤は、有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物、及びこれらの金属塩の、少なくともいずれかを含有する。
【請求項2】
前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ポリ乳酸樹脂または微生物産生樹脂(ポリヒドロキシアルカン酸)より選ばれる、少なくともいずれか一種を含むことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)難燃剤は、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維とからなる重量を100重量部としたとき、0.001重量部〜1重量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維の融点が、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の融点よりも、40℃〜160℃高いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の繊維強化難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維の繊維長が、5μm〜10mmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の繊維強化難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
少なくとも、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)難燃剤、及び(C)融点が上記(A)の融点より高く、さらに前記(A)の分解開始温度よりも低い熱可塑性ポリエステル繊維を含有する繊維強化難燃性樹脂組成物の製造方法であって、
前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維100重量部に、前記(B)難燃剤を0.001重量部〜1重量部、含有させる工程と、
その後、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と組み合わせて、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維との合計量を100重量部としたときに、前記(B)難燃剤を、0.001重量部〜1重量部含有させるものとする工程とを有することを特徴とする繊維強化難燃性樹脂組成物の製造方法。
但し、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、原料の少なくとも一部として、バイオマス材料を含む脂肪族ポリエステル樹脂が用いられており、前記(B)難燃剤は、有機スルホン酸化合物、有機カルボン酸化合物、及びこれらの金属塩の、少なくともいずれかを含有するものとする。
【請求項7】
前記請求項1乃至5のいずれか一項に記載の繊維強化難燃性樹脂組成物を用いて成形した繊維強化難燃性樹脂組成物成形品であって、
前記(C)熱可塑性ポリエステル繊維と、前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂との重量比が、5:95〜50:50の範囲とし、射出成形法により加工して得られたことを特徴とする繊維強化難燃性樹脂組成物成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−303290(P2008−303290A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151420(P2007−151420)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】