説明

美肌剤

【課題】肌の保湿、美肌、肌荒れ防止、しわ防止、弾力性低下等の美容効果を有する美肌剤、及び該美肌剤を含有する化粧品、飲食品、飼料、医薬等の美肌製品を提供することを課題とする。
【解決手段】ホエイタンパク質加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする美肌剤。特にホエイタンパク質加水分解物が分子量分布10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa、APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8、遊離アミノ酸含量は20%以下、及び、抗原性はβ−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下の特徴を有するホエイタンパク質加水分解物を用いることにより、低アレルゲン性で、苦味の少ない美肌剤とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の美肌効果に優れ、肌の保湿、美肌、肌荒れ防止、しわ防止、弾力性低下等の美容効果に有効で、且つ苦みが少なく、安定性及び安全性に優れた美肌剤に関する。本発明は、さらに該美肌剤を含有する美肌用化粧品、美肌用飲食品、美肌用栄養組成物、美肌用飼料又は美肌用医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、生体と外界との接点であり、水分の体外喪失を防ぎ、また外界からの微生物やアレルゲン等の生体障害物質の侵入を阻止する皮膚バリア機能を有している。角質層においてセラミドを中心とした角質細胞間脂質や皮脂等がこれらの機能を担っている。角質層が正常な機能を果たし健康な状態を維持するためには、10〜20%の水分を含むことが必要とされ、皮膚バリア機能によって角質層に水分が保持され、皮膚の柔軟性や弾力性を保っている。角質層の水分が減少すると柔軟性が失われて硬くなり、ひび割れ等の発生の原因になる。皮紋が消失あるいは不鮮明な状態にある、いわゆる肌荒れした皮膚では、角質層の水分量は有意に低下する。肌荒れした皮膚は見栄えが悪いという美容だけの問題ではなく、皮膚疾患を惹起する準備段階であり、病態的意義を有する。また、肌荒れ状態を改善することにより、かさかさした皮膚表面がすべすべした滑らかな状態になることで、微細なしわの改善につながる。皮膚バリア機能の低下した角質層では、皮膚からの水分の消失が健康な状態に比べて激しいことが知られており、皮膚の水分蒸散量(Transepidermal Water Loss:TEWL)の増加が認められる。このTEWLは、角質層のバリア機能や保湿機能と密接に関連しており、皮膚バリア機能の指標とされている。したがって、皮膚の水分量を増加させることや、TEWLを低下させること、または、TEWLの増加を抑制することで、皮膚を健康な状態、すなわち、美肌状態にすることができる。
【0003】
また、近年、皮膚のメカニズムに関する研究が進められ、皮膚の乾燥感や肌荒れの原因としてマクロ的には、加齢による新陳代謝の減衰によるもののほかに、太陽光(紫外線)、乾燥、酸化等の作用が複雑に関与していることが確認されている。これらの因子による作用によって、真皮の最も主要なマトリックス成分であるコラーゲン繊維が顕著に減少していることが明らかとなっている。コラーゲン繊維によって保たれていた皮膚のハリや弾力性といった張力保持機構が紫外線等の作用によって破壊されると、皮膚はシワやたるみを増した状態になる。また、コラーゲンはその分子中に水分を保持することができ、それにより、皮膚をしっとりとした状態に保つことにも役立っているから、外的因子により、コラーゲンが破壊されると、肌が乾燥して、荒れた状態になる。したがって、真皮層の主要な成分の一つであるコラーゲンの生合成を促進させることにより、皮膚のシワやたるみを防止でき、皮膚を健康な状態、すなわち、美肌状態にすることができる。また、動物、特に、ペットでは、アレルギー等の影響で皮膚状態が悪化することが近年問題となっており、皮膚を保湿し、保護をすることで改善され、健康な皮膚状態とすることができる。
【0004】
乳タンパク質の加水分解物は、牛乳や乳製品における食物アレルギーを防止するために様々な商品に用いられている。特に、牛乳のホエイタンパク質は、母乳のタンパク質と異なり、アレルゲンになると考えられており、これを防止するためにホエイタンパク質を酵素で加水分解することが知られ、特許文献1や特許文献2、特許文献3が知られている。また、ホエイタンパク質加水分解物には、アトピー性皮膚炎の進行を抑制すること(非特許文献1)や、帝王切開による傷の治癒を改善すること(非特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−002319
【特許文献2】特開平2−138991
【特許文献3】特開平4−112753
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Allergology International. 2006; 55: 185-189
【非特許文献2】British Journal of Nutrition 2010; Aug 9: 1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた皮膚の保湿・保護作用や肌荒れ防止・改善、しわ防止、弾力性低下等の美容効果を示す美肌剤を提供することを課題とする。また、本発明は、優れた皮膚の保湿・保護作用や肌荒れ防止・改善、しわ防止、弾力性低下等の美容効果を示す美肌剤を配合した美肌用化粧品、美肌用飲食品、美肌用栄養組成物、美肌用飼料又は美肌用医薬品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を進めたところ、ホエイタンパク質加水分解物が美肌効果を有することを見出した。
すなわち本発明は、以下の様態を含むものである。
(1)ホエイタンパク質加水分解物を有効成分とする美肌剤。
(2)前記ホエイタンパク質加水分解物の分解率が25%以上であることを特徴とする(1)記載の美肌剤。
(3)前記ホエイタンパク質加水分解物が、以下の特徴を有するものである(1)乃至(2)記載の美肌剤。
(A)分子量分布は10kDa以下、メインピーク200Da〜3kDaである。
(B)APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8である。
(C)遊離アミノ酸含量が20%以下である。
(D)抗原性がβ−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下である。
(4)前記ホエイタンパク質加水分解物が、ホエイタンパク質をpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて熱変性させながら酵素分解し、加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする(1)乃至(3)に記載の美肌剤。
(5)前記ホエイタンパク質加水分解物が、ホエイタンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエイタンパク質を熱変性させながら酵素分解し、加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする(1)乃至(3)に記載の美肌剤。
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載の美肌剤を含むことを特徴とする美肌用化粧品、美肌用飲食品、美肌用栄養組成物、美肌用飼料又は美肌用医薬品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の美肌剤は、皮膚における保湿作用やコラーゲン産生作用が顕著であり、該美肌剤は、皮膚の保湿・保護作用や肌荒れ防止・改善、しわ防止、弾力性低下等の予防及び治療に有用である。また、本発明の美肌剤は、ホエイタンパク質を原料としているため、簡便且つ経済的に容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の美肌剤の有効成分であるホエイタンパク質加水分解物は、例えば特許文献3に記載の方法によって得ることができる。この方法では、ホエイタンパク質をpH6〜10、50〜70℃とし、これに耐熱性のタンパク質加水分解酵素を加えて熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させることによって得られる。なお、上記酵素分解を行う前に、ホエイタンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを冷却することなく直ちに上記条件で酵素分解すると収率を一層高めることができる。また、上記のように調製したホエイタンパク質加水分解物を、分画分子量1kDa〜20kDa、好ましくは、2〜10kDaの限外濾過(UF)膜及び/又は分画分子量100Da〜500Da、好ましくは150Da〜300Daの精密濾過(MF)膜から選ばれる方法で濃縮することにより、さらに苦味を軽減し、透明性を向上させることもできる。
【0011】
本発明におけるホエイタンパク質は、ウシやヤギ、ヒツジ、ヒト等の哺乳類の乳から調製したホエイ、その凝集物、粉末、あるいは精製タンパク質をいい、これを酵素反応させる時は水溶液の状態で使用する。
【0012】
特許文献3に記載の方法によってホエイタンパク質加水分解物を調製する場合、前述の溶液をpH6〜10に調整するが、通常ホエイタンパク質はこの範囲のpHになっているので格別pHの調整を行う必要はないが、必要な場合は、塩酸、クエン酸及び乳酸等の酸溶液あるいは苛性ソーダ、水酸化カルシウム及び燐酸ソーダ等のアルカリ溶液を用いてpH6〜10とする。加熱は50〜70℃で行うが、耐熱性のタンパク質加水分解酵素は、この温度で添加するよりも、むしろ加熱前から加え酵素分解を行った方が収率の面から好ましい。また、一般的なプロテアーゼの至適温度は40℃以下であるが、耐熱性のタンパク質加水分解酵素の至適温度は45℃以上であり、耐熱性のタンパク質加水分解酵素としては、従来このような至適温度を有する耐熱性のタンパク質加水分解酵素として知られているものであれば特に制限なく使用できる。このような耐熱性のタンパク質加水分解酵素としては、パパイン、プロテアーゼS(商品名)、プロレザー(商品名)、サモアーゼ(商品名)、アルカラーゼ(商品名)、プロチンA(商品名)等を例示することができる。耐熱性のタンパク質加水分解酵素は、80℃で30分加熱して残存活性が約10%あるいはそれ以上になるものが望ましい。また、単独よりも複数の酵素を併用する方が効果的である。反応は、30分〜10時間程度行うことが好ましい。
【0013】
最後に、反応液を加熱して酵素を失活させる。酵素の失活は、反応液を100℃以上で10秒間以上加熱することにより行うことができる。そして反応液を遠心分離して上清を回収し、上清を乾燥して粉末製品とする。なお、遠心分離した時に生ずる沈殿物は上清に比べ低アレルゲン化の程度が小さいので、これを除去した方が好ましいが、勿論反応液をそのまま乾燥して使用しても差し支えない。得られたホエイタンパク質加水分解物のAPL(平均ペプチド鎖長)は、TNBS(2, 4, 6-トリニトロベンゼンスルホン酸)法等の方法によって測定することができる。また、ホエイタンパク質加水分解物の分子量分布は、高速サイズ排除クロマトグラフィー(HPSEC)等の方法で測定することができ、その遊離アミノ酸含量は、75%エタノール等で遊離アミノ酸を抽出して、アミノ酸分析装置等で測定することができる。さらに、ホエイタンパク質加水分解物の分解率は、遊離のアミノ基を修飾して測定するオルトフタルアルデヒド(OPA)法等で測定することができる。
【0014】
本発明のホエイタンパク質加水分解物は、そのまま美肌剤として使用してもよいが、必要に応じて、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して用いることも出来る。また、さらに限外濾過 (UF)膜や精密濾過 (MF)膜処理により得られたホエイタンパク質加水分解物についても、そのまま美肌剤として使用することも可能であり、そのまま乾燥しても使用できる。また、常法に従い、製剤化して用いることもできる。さらに、これらを製剤化した後に、これを栄養剤やヨーグルト、乳飲料、ウエハース等の飲食品、栄養組成物、飼料及び医薬品に配合することも可能である。
【0015】
本発明の美肌用飲食品、美肌用栄養組成物、美肌用飼料及び美肌用医薬品とは、このホエイタンパク質加水分解物のみを含む場合の他に、安定剤や糖類、脂質、フレーバー、ビタミン、ミネラル、フラボノイド、ポリフェノール等、他の飲食品、飼料及び医薬に通常含まれる原材料等を含有することができる。また、ホエイタンパク質加水分解物に加えて、他の美容効果を示す成分、例えば、皮膚の保湿性を向上させるスフィンゴミエリンやグルコシドセラミド、リン脂質等、ならびに、皮膚のコラーゲン産生を促進するコラーゲンやビタミンC、鉄等とともに使用することも可能である。また、そのような美肌用飲食品、美肌用栄養組成物、美肌用飼料又は美肌用医薬品を原材料として、他の飲食品等に通常含まれる原材料等を配合して調製することも可能である。
【0016】
美肌用飲食品、美肌用栄養組成物、美肌用飼料及び美肌用医薬品におけるホエイタンパク質加水分解物の配合量は、特に制限はないが、成人一人一日あたりホエイタンパク質加水分解物を2mg以上経口的に摂取させるためには、飲食品、飼料及び医薬の形態にもよるが、全質量に対して一般に0.001〜10%(重量/重量)、好ましくは0.1〜5%(重量/重量)含有していることが好ましい。
また、美肌用化粧品としては、乳液、クリーム、ローション、パック等通常の化粧品形態に用いることができる。これらの化粧品は常法により製造し、ホエイタンパク質加水分解物はその製造過程で適宜配合すればよい。そのような化粧品を原材料として、化粧品を製造することも可能である。化粧品におけるホエイタンパク質加水分解物の配合量は、特に制限はないが、成人一人一日あたりホエイタンパク質加水分解物を2mg以上塗布させるために、全質量に対して一般に0.001〜30%(重量/重量)、好ましくは0.1〜10%(重量/重量)含有していることが好ましい。
【0017】
本発明の美肌剤は、上記の有効成分に適当な助剤を添加して任意の形態に製剤化して、
経口又は非経口投与が可能な美肌組成物とすることができる。製剤化に際して、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の希釈剤又は賦形剤を用いることができる。また、医薬製剤としては、各種形態が選択でき、例えばカプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、坐剤、注射剤、軟膏剤等が挙げられる。賦形剤としては、例えばショ糖、乳糖、デンプン、結晶性セルロース、マンニット、軽質無水珪酸、アルミン酸マグネシウム、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、カルボキシルメチルセルロースカルシウム等の1種又は2種以上を組み合わせて加えることができる。
【0018】
以下に実施例、比較例及び試験例を示し、本発明について詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
ホエイタンパク質10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエイタンパク質及びプロレザー(天野エンザイム社製)150U/g・ホエイタンパク質を加え、pH8に調整し、55℃において6時間ホエイタンパク質を変性させながら酵素分解を行った。反応液を100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させ、遠心分離して上清を回収し、これを乾燥してホエイタンパク質加水分解物(実施例品1)を得た。得られたホエイタンパク質加水分解物の分子量分布は10kDa以下、メインピークは1.3kDa、APLは7.2、すべての構成成分に対する遊離アミノ酸含量は18.9%であった。また、Inhibition ELISA法によってβ−ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ1/10,000以下で、分解率は28%、収率(酵素反応液を遠心分離し、仕込み量の乾燥重量に対する上清の乾燥重量の比率(%))は80.3%、苦味度は2であった。このようにして得られたホエイタンパク質加水分解物は、そのまま本発明の美肌剤として使用可能である。
【実施例2】
【0020】
ホエイタンパク質10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエイタンパク質及びプロレザー(天野エンザイム社製)150U/g・ホエイタンパク質を加え、pH8、50℃で3時間酵素分解を行った。これを55℃に昇温させ、この温度で3時間維持し、タンパク質を変性させるとともに、タンパク質の酵素分解を行い、100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させた。この反応液を分画分子量10kDaのUF膜(STC社製)及び分画分子量300DaのMF膜(STC社製)で処理を行い、濃縮液画分を回収し、これを乾燥してホエイタンパク質加水分解物(実施例品2)を得た。得られたホエイタンパク質加水分解物の分子量分布は10kDa以下、メインピークは500Da、APLは3.0、すべての構成成分に対する遊離アミノ酸含量は15.2%であった。また、Inhibition ELISA法によってβ−ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ1/10,000以下で、分解率は32%、収率65.4%、苦味度は2であった。このようにして得られたホエイタンパク質加水分解物は、そのまま本発明の美肌剤として使用可能である。
【実施例3】
【0021】
ホエイタンパク質120gを精製水1,800mlに溶解し、1Mカセイソーダ溶液でpHを7.0に調整した。次いで、60℃で10分間加熱して殺菌し、45℃に保持してアマノA(天野エンザイム社製)20gを添加し、2時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、ホエイタンパク質加水分解物(実施例品3)を得た。得られたホエイタンパク質加水分解物の分解率は18%、収率は80.6%であった。このようにして得られたホエイタンパク質加水分解物は、そのまま本発明の美肌剤として使用可能である。
【実施例4】
【0022】
ホエイタンパク質120gを精製水1,800mlに溶解し、1Mカセイソーダ溶液でpHを7.0に調整した。次いで、60℃で10分間加熱して殺菌し、45℃に保持してアマノA(天野エンザイム社製)20gを添加し、8時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、ホエイタンパク質加水分解物(実施例品4)を得た。得られたホエイタンパク質加水分解物の分解率は25%、収率は80.6%であった。このようにして得られたホエイタンパク質加水分解物は、そのまま本発明の美肌剤として使用可能である。
【0023】
[比較例1]
カゼイン200gを精製水2,000mlに懸濁し、1Mカセイソーダ溶液でpHを8.0に調整して完全に溶解した。次いで、80℃で10分間加熱して殺菌し、50℃に保持してパンクレアチンF(天野エンザイム社製)20g及びアマノA(天野エンザイム社製)20gを添加し、10時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、カゼイン加水分解物(比較例品1)を得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率は27%、収率は77.8%であった。
【0024】
[比較例2]
カゼイン200gを精製水2,000mlに懸濁し、1Mカセイソーダ溶液でpHを8.0に調整して完全に溶解した。次いで、80℃で10分間加熱して殺菌し、40℃に保持してパンクレアチンF(天野エンザイム社製)15gを添加し、5時間反応させた。80℃で10分間加熱して酵素を失活させ、凍結乾燥し、カゼイン加水分解物(比較例品2)を得た。得られたカゼイン加水分解物の分解率は20%、収率は79.1%であった。
【0025】
[試験例1]
(動物実験)
実施例品1、3、4のホエイタンパク質加水分解物及び比較例品1、2のカゼイン加水分解物を使用して、皮膚の保湿について評価した。実験には13週齢のヘアレスマウス(Hos:HR-1)を使用した。生理食塩水を投与する群(A群)、実施例品1のホエイタンパク質加水分解物をマウス体重1kgあたり2mg投与する群(B群)、実施例品1のホエイタンパク質加水分解物をマウス体重1kgあたり5mg投与する群(C群)、実施例品1のホエイタンパク質加水分解物をマウス体重1kgあたり10mg投与する群(D群)、実施例品3のホエイタンパク質加水分解物をマウス体重1kgあたり10mg投与する群(E群)、実施例品4のホエイタンパク質加水分解物をマウス体重1kgあたり10mg投与する群(F群)、比較例品1のカゼイン加水分解物をマウス体重1kgあたり10mg投与する群(G群)、比較例品2のカゼイン加水分解物をマウス体重1kgあたり10mg投与する群(H群)の8試験群(各群8匹ずつ)にわけた。それぞれを毎日1回ゾンデで経口投与して3週間飼育した。実施例品1、3、4及び比較例品1、2は、それぞれ生理食塩水に懸濁して、それぞれB〜H群に経口投与した。試験開始時と試験終了時に、マウス尾尻部分の皮膚の水分量および水分蒸散量を測定し、試験開始時のそれぞれの値を100としたときの試験終了時の値(増加率)を算出した。皮膚の水分量および水分蒸散量は、それぞれCourage+Khazaka社製の水分量測定装置(Corneometer)および水分蒸散量測定装置(Tewameter)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
この結果、3週間投与後の皮膚水分量は、A群では減少したが、B群では約1.25倍に、C群およびD群では約1.5倍にまで増加した。また、E群およびF群では、3週間投与後の皮膚水分量が約1.2倍にまで増加した。一方、比較例品1、2のカゼイン加水分解物では、水分量の増加率ならびに水分蒸散量の増加率ともに試験開始時と変わらなかった。この結果から、本発明のホエイタンパク質加水分解物には皮膚の保湿効果があることがわかった。また、この皮膚の保湿効果は、ホエイタンパク質加水分解物をラット体重1kg当たり最低2mg投与した場合に認められることが明らかとなった。
【0028】
[試験例2]
(動物実験)
実施例品2のホエイタンパク質加水分解物及び比較例品1、2のカゼイン加水分解物を使用してコラーゲン産生促進作用を調べた。7週齢のWistar系雄ラットを、生理食塩水を投与する群(A群)、実施例品2のホエイタンパク質加水分解物をラット体重1kg当たり2mg投与する群(B群)、実施例品2のホエイタンパク質加水分解物をラット体重1kg当たり5mg投与する群(C群)、実施例品2のホエイタンパク質加水分解物をラット体重1kg当たり10mg投与する群(D群)、比較例品1のカゼイン加水分解物をラット体重1kg当たり10mg投与する群(E群)、比較例品2のカゼイン加水分解物をラット体重1kg当たり10mg投与する群(F群)の6試験群(各群6匹ずつ)に分け、それぞれを毎日1回ゾンデで投与して10週間飼育した。実施例品2及び比較例品1、2は、それぞれ生理食塩水に懸濁して、それぞれB〜F群に経口投与した。皮膚のコラーゲン量については、ラットの真皮をNimniらの方法(Arch. Biochem. Biophys., 292頁, 1967年 参照)に準じて処理した後、可溶性画分に含まれるヒドロキシプロリン量を測定した。ヒドロキシプロリンはコラーゲンのみに含まれる特殊なアミノ酸で、コラーゲンを構成する全アミノ酸の約10%を占めることからコラーゲン量の推定ができる(浅野隆司ら,Bio Industory,12頁, 2001年 参照)。その結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
この結果、10週間後の可溶性画分中ヒドロキシプロリン量は、A群に比べ、B群、C群、D群で有意に高い値を示した。一方、A群に比べ、E群ならびにF群では、10週間後の可溶性画分中ヒドロキシプロリン量に差は認められなかった。このことから、本発明のホエイタンパク質加水分解物には皮膚コラーゲン産生促進作用があることが明らかとなった。また、この皮膚コラーゲン産生促進作用は、ホエイタンパク質加水分解物をラット体重1kg当たり最低2mg投与した場合に認められることが明らかとなった。
【実施例5】
【0031】
(美肌用化粧品(ローション)の調製)
表3に示す配合で原材料を混合し、ローションタイプの美肌用化粧品(実施例品5)を調製した。
【0032】
【表3】



【実施例6】
【0033】
(美肌用化粧品(クリーム)の調製)
表4に示す配合で原材料を混合し、クリームタイプの美肌用化粧品(実施例品6)を調製した。
【0034】
【表4】

【0035】
[試験例3]
実施例品5及び実施例品6を用いて、実使用テストを行った。比較品としては、ホエイタンパク質加水分解物を除いた以外は実施例品5及び実施例品6と同じ配合のものを用いた。顔面のたるみや小ジワが認められる乾燥肌を有する成人女子20人を、それぞれ10人ずつ無作為に2群(A、B群)に、また、手に肌荒れが認められる成人女子20人を、それぞれ10人ずつ無作為に2群(C、D群)に分け、A群の顔面には実施例品5を2g、B群の顔面には比較品のローションを2g、C群の手指には実施例品6を2g、D群の手指には比較品のクリームを2g、それぞれ1日2回通常の使用状態と同様に10日間塗布した。結果を表5に示す。
【0036】
【表5】

【0037】
表5の結果より、実施例品5は、比較品のローションに比べて、乾燥感の改善、肌荒れ等の改善が顕著であり、美肌効果を有することが確認された。また、実施例品6についても、比較品のクリームに比べて、乾燥感の改善、肌荒れに改善が認められ、肌荒れ等の自然増悪抑制効果を有することが明らかとなった。
【実施例7】
【0038】
(美肌用錠剤の調製)
表6に示す配合で原材料を混合後、常法により1gに成型、打錠して本発明の美肌用錠剤を製造した。なお、この錠剤1g中には、実施例品1のホエイタンパク質加水分解物が50mg含まれていた。
【0039】
【表6】

【実施例8】
【0040】
(美肌用液状栄養組成物の調製)
実施例品2のホエイタンパク質加水分解物50gを4,950gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6,000rpmで30分間撹拌混合して実施例品2ホエイタンパク質加水分解物含量50g/5kgのホエイタンパク質加水分解物溶液を得た。このホエイタンパク質加水分解物溶液5.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン17.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機 (第1種圧力容器、TYPE: RCS-4CRTGN、日阪製作所製)で121℃、20分間殺菌して、本発明の美肌用液状栄養組成物50kgを製造した。なお、この美肌用液状栄養組成物には、100gあたり、実施例品2ホエイタンパク質加水分解物が100mg含まれていた。
【実施例9】
【0041】
(美肌用飲料の調製)
脱脂粉乳300gを409gの脱イオン水に溶解した後、実施例品1のホエイタンパク質加水分解物1gを溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX T-25;IKAジャパン社製)にて、9,500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、酸味料2g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、95℃、15秒間殺菌後、密栓し、本発明の美肌用飲料10本(100ml入り)を調製した。なお、この美肌用飲料には、100mlあたり実施例品1のホエイタンパク質加水分解物が100mg含まれていた。
【実施例10】
【0042】
(イヌ用美肌飼料の調製)
実施例品2のホエイタンパク質加水分解物2kgを98kgの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARK II 160型;特殊機化工業社製)にて、3,600rpmで40分間撹拌混合して実施例品2ホエイタンパク質加水分解物含量2g/100gのホエイタンパク質加水分解物溶液を得た。このホエイタンパク質加水分解物溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明のイヌ用美肌用飼料100kgを製造した。なお、このイヌ用美肌飼料には、100gあたり実施例品2ホエイタンパク質加水分解物が200mg含まれていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイタンパク質加水分解物を有効成分とする美肌剤。
【請求項2】
前記ホエイタンパク質加水分解物の分解率が25%以上であることを特徴とする請求項1記載の美肌剤。
【請求項3】
前記ホエイタンパク質加水分解物が、以下の特徴を有するものである請求項1乃至2に記載の美肌剤。
(A)分子量が10kDa以下、メインピークが200Da〜3kDaである。
(B)APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8である。
(C)遊離アミノ酸含量が20%以下である。
(D)抗原性がβ−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下である。
【請求項4】
前記ホエイタンパク質加水分解物が、ホエイタンパク質をpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて熱変性させながら酵素分解し、加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする請求項1乃至3に記載の美肌剤。
【請求項5】
前記ホエイタンパク質加水分解物が、ホエイタンパク質をpH6〜10、20〜55℃においてタンパク質加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク質加水分解酵素を用いて未分解のホエイタンパク質を熱変性させながら酵素分解し、加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする請求項1乃至3に記載の美肌剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の美肌剤を含むことを特徴とする美肌用化粧品、美肌用飲食品、美肌用栄養組成物、美肌用飼料又は美肌用医薬品。

【公開番号】特開2012−188384(P2012−188384A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53276(P2011−53276)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(711002926)雪印メグミルク株式会社 (65)
【Fターム(参考)】