説明

耐火物用組成物及び耐火物

【課題】有害ガスの発生を抑制して環境汚染等を防ぐことができ、しかも耐食性や耐スポーリング性に優れた耐火物を得る。
【解決手段】耐火骨材にバインダーを配合した耐火物用組成物に関する。そしてバインダーとして、でんぷん類と砂糖類が5:95〜90:10の質量比率で併用して含有されていると共に、でんぷん類や砂糖類を高分子化させるカルボン酸が含有されているものを用いる。でんぷん類や砂糖類は加熱により分解されても有害なガスを多量に放出するようなことがない。そしてでんぷん類と砂糖類をバインダーとして併用することによって、耐食性と耐スポーリング性の両方に優れた耐火物を得ることができるものであり、またでんぷん類や砂糖類をカルボン酸で高分子化させることによって、耐火物の強度を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉、混銑車、転炉、取鍋、溶融還元炉等の溶融金属容器の内張りや、高炉出銑口充填材、連続鋳造設備に具備されるノズル、浸漬ノズル、ロングノズル、スライディングノズル、ストッパー等、その他非鉄金属用溶解炉るつぼなどに好適に使用される耐火物用の組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記の用途に使用される耐火物を作製するために用いられる組成物は、耐火骨材にバインダー成分を配合し、これをシンプソンミル、メランジャ、アイリッヒ、スピードマラー、ワールミックスなどの混練装置で混練することによって調製されるのが一般的である。そしてこの組成物をオイルプレス、フリクションプレス、真空プレス、静水圧プレスなどでプレス成形した後に加熱して、乾燥硬化あるいは焼成することによって、耐火物を得ることができる。
【0003】
このような耐火物用組成物において、バインダー成分としては、従来からフェノール樹脂が広く用いられている。しかし、バインダー成分としてフェノール樹脂を含有する耐火物組成物を用いて耐火物を製造するにあたっては、耐火物組成物を成形した成形物を200℃程度の温度で加熱してフェノール樹脂を硬化させる必要があるが、この加熱硬化時にフェノール樹脂やその硬化剤のヘキサメチレンテトラミンからフェノール、アンモニア、ホルムアルデヒドなどの有害なガスが発生するという問題がある。また得られた耐火物を焼成する際にも、硬化したフェノール樹脂が分解して、フェノール、ベンゼン、トルエン、キシレノール等の有害ガスが発生し、臭気や大気汚染を引き起こすという問題が生じる。
【0004】
このため、バインダーとしてフェノール樹脂を用いない配合の耐火物組成物が従来から求められており、例えばバインダーとしてでんぷん類等を用いることが提案されている(例えば特許文献1,2等参照)。
【0005】
でんぷん類は、分解されても炭酸ガスと水を放出する程度であり、有害なガスを多量に放出するようなことがなく、作業環境や大気を汚染するようなことを防ぐことができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−221370号公報
【特許文献2】特開平10−212155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにバインダーとしてでんぷん類を用いることによって、耐火物を製造する際や焼成する際に有害ガスが発生することを防ぐことができる。しかし、でんぷん類をバインダーとして製造した耐火物は、スラグ等に対する耐食性や、熱衝撃に対する耐スポーリング性が十分ではないという問題を有するものであった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、有害ガスの発生を抑制して環境汚染等を防ぐことができ、しかも耐食性や耐スポーリング性に優れた耐火物を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、耐火骨材にバインダーを配合した耐火物用組成物において、バインダーとして、でんぷん類と砂糖類が5:95〜90:10の質量比率で併用して含有されていると共に、でんぷん類や砂糖類を高分子化させるカルボン酸が含有されているものを用いることを特徴とするものである。
【0010】
バインダーとして用いるでんぷん類や砂糖類は、加熱により分解されても、炭酸ガスと水を放出する程度で、有害なガスを多量に放出するようなことがないものであり、作業環境や大気を汚染するようなことなく、耐火物を製造し、また焼成することができるものである。そしてこのようにでんぷん類と砂糖類を併用することによって、耐食性と耐スポーリング性の両方に優れた耐火物を製造することができるものであり、またでんぷん類や砂糖類をカルボン酸で高分子化させることによって、バインダーとして用いるでんぷん類や砂糖類による耐火骨材の結合強度を高めて耐火物の強度を向上することができ、耐火物の耐食性や耐スポーリング性をより高めることができるものである。
【0011】
また本発明において、でんぷん類として、未加工でんぷん、焙焼デキストリン、酸化でんぷん、酸処理でんぷん、アルファ化でんぷんから選ばれるものを用いることができる。
【0012】
でんぷん類はこれらに限られるものではないが、これらのものは粘着性が高く、バインダーとして特に好ましく用いることができるものである。
【0013】
また本発明において、でんぷん類と砂糖類の合計量100質量部に対して、カルボン酸を0.01〜10質量部含有させることができる。
【0014】
でんぷん類と砂糖類に対するカルボン酸の配合量はこの範囲に限られるものではないが、この範囲に設定することによって、でんぷん類や砂糖類の高分子化反応をより効果的に進行させることができるものである。
【0015】
また本発明において、でんぷん類や砂糖類として一部がカルボン酸によって高分子化反応しているものを用いることができる。
【0016】
でんぷん類や砂糖類の一部を予め高分子化反応させておくことによって、耐火物の強度を向上する効果を高く得ることができるものである。
【0017】
また本発明において、でんぷん類や砂糖類として、フェノール類と反応させたものを用いることができる。
【0018】
でんぷん類や砂糖類としてこのようにフェノール類と反応させたものを用いることによって、強度の高い耐火物を得ることができると共に、耐火物の耐食性を向上することができるものである。
【0019】
また本発明において、バインダー中に、フェノール樹脂を含有することができる。
【0020】
バインダーの一部としてこのようにフェノール樹脂を用いることによって、強度の高い耐火物を得ることができると共に、耐火物の耐食性を向上することができるものである。
【0021】
また本発明において、耐火骨材として炭素質材料を配合することができる。
【0022】
炭素質材料は溶融スラグ等との濡れ性が悪いので、耐火物の耐食性を高めることができるものである。
【0023】
そして本発明に係る耐火物は、上記の耐火物用組成物を成形して、熱処理することによって得ることができるものであり、上記のように、バインダーとしてでんぷん類と砂糖類を併用しているために、耐食性と耐スポーリング性の両方に優れると共に、またでんぷん類や砂糖類はカルボン酸の作用で高分子化するために強度が向上し、耐食性や耐スポーリング性がより向上するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、バインダーとしてでんぷん類や砂糖類を用いるので、有害なガスを多量に放出するようなことなく、耐火物を製造することができるものである。そして、でんぷん類と砂糖類を併用することによって、耐食性と耐スポーリング性の両方に優れた耐火物を製造することができるものであり、またでんぷん類や砂糖類をカルボン酸で高分子化させることによって、でんぷん類や砂糖類のバインダーとしての強度を高めて耐火物の強度を向上することができるものであり、耐火物の耐食性や耐スポーリング性をより高めることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
本発明において耐火骨材としては、耐火レンガの原料として一般に使用されている各種のものを用いることができるものであり、粗粒から微粉まで任意の耐火原料を粒度配合して使用することができる。例えば、電融アルミナ、電融マグネシア等の電融品、焼結マグネシア等の焼結品、天然マグネシア、ボーキサイト、アンダリュサイト、ジルコン、シリマナイト等の天然原料の他、仮焼アルミナ、シリカフラワー等の超微粉原料などを使用することができる。耐火骨材の粒径は特に制限されるものではないが、0.001〜10mmの範囲内であることが好ましい。
【0027】
また耐食性を向上させるために、溶融スラグとの濡れ性が悪い炭素質材料の粉末を耐火骨材の一部として配合することができる。この炭素質材料としては天然黒鉛、人造黒鉛、ピッチ、コークス、カーボンブラック、キッシュ黒鉛、メソフェースカーボン、木炭など任意の炭素質のものを用いることができるが、できるだけ高純度のものを用いるのが好ましい。耐火骨材としてはさらに、Al,Mg,Ca,Siやこれらの合金の一種あるいは二種以上を配合して用いることもできる。また炭素質材料の酸化防止剤などとして各種の炭化物、硼化物、窒化物、例えばSiC,BC,BN,Si等を配合することもできる。
【0028】
上記の耐火骨材にバインダーを配合して混合・混練することによって、耐火物用組成物を得るものができるものであるが、本発明は、このバインダー成分としてでんぷん類と砂糖類を用い、さらにでんぷん類と砂糖類を高分子化させるカルボン酸を配合してバインダーとして使用するようにしたものである。
【0029】
本発明においてでんぷん類とは、分子式が(C10の多糖類であり、多数のα−グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子をいう。
【0030】
このようなでんぷん類としては、未加工でんぷん及び加工でんぷんが挙げられる。具体的には馬鈴薯でんぷん、コーンスターチ、ハイアミロース、甘藷でんぷん、タピオカでんぷん、小麦でんぷん、サゴでんぷん、米でんぷん、アマランサスでんぷんなどの未加工でんぷん、及びこれらを加工した加工でんぷんとして、焙焼デキストリン、酸処理でんぷん、酸化でんぷん、ジアルデヒド化でんぷん、エステル化でんぷん(酢酸でんぷん、リン酸でんぷん、コハク酸でんぷん、オクテニルコハク酸でんぷん、マレイン酸でんぷん、高級脂肪酸エステル化でんぷんなど)、エーテル化でんぷん(カルボキシメチルでんぷん、ヒドロキシアルキルでんぷん、カチオンでんぷん、シアノエチルでんぷん、メチロール化でんぷんなど)、架橋でんぷん(リン酸架橋でんぷん、グリセロール架橋でんぷん、ホルマリン架橋でんぷんなど)、クラフト化でんぷん(ポリアクリル酸グラフトでんぷん、共デキストリンなど)、アルファ化でんぷん、酵素変性デキストリン(マルトデキストリン、環状デキストリン、アミロースなど)、及び湿熱処理でんぷんなどが挙げられる。
【0031】
また、でんぷんを酸または酵素で加水分解すると、その分解条件により異なる組成の各種中間生成物の混合物が得られるが、これらの分解物は共通の性質として、水に溶け、程度は異なるが甘みを持つので、総称してでんぷん糖というが、このでんぷん糖も本発明においてでんぷん類の一つとして使用することができる。でんぷん糖としては、水飴、ブドウ糖、異性化液糖、果糖、オリゴ糖等が挙げられ、上記の焙焼デキストリン、酵素変性デキストリンなどと同様に用いることができる。さらにでんぷん糖を水素添加して得られる糖アルコールとして、ソルビトール、還元麦芽糖水飴、還元でんぷん糖化物などを用いることもできる。
【0032】
でんぷん類は、上記に列挙したものから一種を選択して単独で用いる他、任意の複数種を選択して組み合わせて用いることもできるが、本発明は上記したでんぷん類のなかでも、未加工でんぷん、焙焼デキストリン、酸化でんぷん、酸処理でんぷん、アルファ化でんぷんを用いるのが好ましい。これらは上記のでんぷん類のなかでも粘着性が特に高いものであり、耐火骨材を結合させるバインダーとして適しているものである。
【0033】
また本発明において砂糖類とは、主成分を一般にスクロース(ショ糖)とし、サトウダイコン、サトウキビ、サトウカエデ、サトウヤシなどから製造されるものをいう。
【0034】
砂糖類は製法により、黒砂糖、白下糖、赤砂糖(カソナード)、和三盆などの含蜜糖と、粗糖、精製糖などの分蜜糖に大別され、精製糖はさらに粗目糖(ザラメ糖)、車糖、加工糖、液糖などに別けられる。粗目糖には白粗糖、中粗糖、グラニュー糖などがあり、結晶が大きく、糖度が99%以上であって、転化糖や灰分がきわめて少ない。車糖には上白糖、中白糖、三温糖などがあり、粗目糖より結晶が小さく、糖度が94〜96%程度である。加工糖は精製糖を特殊用途用にさらに加工したものであり、粉砂糖、角砂糖、氷砂糖などがある。本発明はこれらのいずれも使用することができるものであり、一種を単独で使用する他、複数種を混合して使用することもできる。
【0035】
耐火骨材に対するでんぷん類及び砂糖類の配合量は、耐火骨材100質量部に対して、でんぷん類と砂糖類の合計量が1〜10質量部の範囲になるように設定するのが好ましい。でんぷん類と砂糖類の配合量が1質量部未満であると、バインダーであるでんぷん類と砂糖類による耐火骨材の結合強度を十分に得ることができないものであり、特に耐火物組成物を成形した後、乾燥する前の素地強度が不十分になって耐火物に亀裂等が生じるおそれがある。逆にでんぷん類と砂糖類の配合量が10質量部を超えて多いと、耐火物組成物から作製した耐火物を焼成した後の気孔率が高くなり、耐食性が低下するおそれがある。
【0036】
またでんぷん類と砂糖類の配合比率は、質量割合で5:95〜90:10の範囲に設定されるものであり、20:80〜60:40の範囲が特に好ましい。後述のように、でんぷん類は主として耐火物の耐食性を向上させることに寄与し、砂糖類は主として耐火物の耐スポーリング性を向上することに寄与している。従って、でんぷん類が上記の範囲より少なく、砂糖類が上記の範囲より多いと、耐火物の耐食性に問題が生じるおそれがあり、砂糖類が上記の範囲より少なく、でんぷん類が上記の範囲より多いと、耐スポーリング性に問題が生じるおそれがある。
【0037】
また、でんぷん類や砂糖類を高分子化させるカルボン酸としては、一価のカルボン酸や、二価以上の多価カルボン酸を用いることができる。例えば、一価のカルボン酸として、安息香酸、サリチル酸、アントラニル酸などを挙げることができ、また多価のカルボン酸として、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、イソフタル酸、イタコン酸、ブタンテトラジカルボン酸、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸などを挙げることができる。一価のカルボン酸は主として反応促進剤(硬化促進剤、硬化触媒)として作用して、多価カルボン酸は主として架橋剤(硬化剤)として作用して、でんぷん類や砂糖類を重合反応させることができるものである。でんぷん類や砂糖類をカルボン酸の作用で重合させることによって高分子化することができ、場合によっては硬化させることができるものである。これらのカルボン酸は、一種を単独で用いる他、複数種を混合して用いることもできる。
【0038】
カルボン酸の配合量は、でんぷん類や砂糖類の種類などによって異なるものであり、特に限定されるものではないが、でんぷん類と砂糖類の合計100質量部に対して、カルボン酸0.01〜10質量部となる範囲に設定するのが一般的に好ましく、0.1〜10質量部の範囲が特に好ましい。カルボン酸の配合量が少な過ぎると、でんぷん類や砂糖類を十分な分子量に高分子化反応させるのが難しい。またカルボン酸を10質量部を超えて多く配合しても、でんぷん類や砂糖類を高分子化させる効果は向上しないので、経済的に不利になるおそれがある。
【0039】
でんぷん類や砂糖類をバインダーとして耐火骨材に配合するにあたっては、でんぷん類や砂糖類を溶剤に溶解乃至分散させた状態で耐火骨材と混合するのが好ましい。この場合、でんぷん類や砂糖類を予め溶剤に溶解乃至分散させて液状にしておいて、これを耐火骨材に配合して混合するようにしてもよく、でんぷん類や砂糖類を耐火骨材に添加した後に溶剤を加えることによって、でんぷん類や砂糖類が溶剤に溶解乃至分散した状態で混合されるようにしてもよい。カルボン酸は、予め水に溶解させた状態で配合するのが、反応促進剤や架橋剤としての効果を高く発揮させることができるので好ましい。
【0040】
でんぷん類や砂糖類の溶剤としては、でんぷん類や砂糖類を溶解乃至分散させることができるものであれば何でも良い。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、フルフリルアルコール、フルフラール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、n−デカノール、第二ウンデシルアルコール、第二テトラデシルアルコール、第二ヘプタデシルアルコール、ブチレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタジオール、ジプロピレングリコール、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。これらの溶剤は、一種を単独で用いる他、複数種を混合した混合溶剤として用いることもできる。混合溶剤を用いる場合、沸点の異なる溶剤を組み合わせて使用するのが好ましい。
【0041】
上記のように、耐火骨材に、でんぷん類及び砂糖類やカルボン酸を含有するバインダーを配合し、これをシンプソンミル、メランジャ、アイリッヒ、スピードマラー、ワールミックスなどの混練装置で混合・混練することによって、含有される溶剤で湿潤状態となった耐火物組成物を調製することができるものである。また耐火骨材とバインダーとの接着性を高めるために、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤を添加して使用することもできる。
【0042】
そしてこのように調製した耐火物組成物をオイルプレス、フリクションプレス、真空プレス、静水圧プレスなどでプレス成形して成形物を作製し、この成形物を加熱して、乾燥・硬化することによって、あるいはさらに焼成することによって、耐火物を得ることができるものである。
【0043】
耐火物は、でんぷん類及び砂糖類をバインダーとして耐火骨材を結合することによって形成されるものであり、耐火物組成物を成形した成形物を加熱処理するにあたって、バインダーであるでんぷん類や砂糖類は、加熱分解されても炭酸ガスと水を生成する程度であり、また焼成されて炭化される際にも炭酸ガスと水を生成する程度であり、バインダーとしてフェノール樹脂などを用いる場合のような、有害なガスを多量に発生することがない。従って、作業環境や大気を汚染するようなことなく、耐火物を製造することができるものである。
【0044】
ここで、でんぷん類は焼成されて炭化する際に、比較的緻密なカーボン結合を形成し、また砂糖類は焼成されて炭化する際に、比較的粗なカーボン結合を形成する。このため、バインダーとしてでんぷん類を単独で使用すると、カーボン結合が緻密であるため耐火物の弾性率が高くなり、高温の溶融金属が作用する際の熱衝撃の作用を受けやすく、耐スポーリング性が低くなる。また、バインダーとして砂糖類を単独で使用すると、カーボン結合が粗であるため、溶融スラグ等が耐火物の耐火骨材の粒界に浸透し易くなり、溶損速度が大きくなって耐食性が低くなる。
【0045】
これに対して、バインダーとしてでんぷん類と砂糖類を併用することによって、でんぷん類の緻密なカーボン結合を砂糖類の粗なカーボン結合で補って、耐火物の弾性率が高くなることを抑制し、熱衝撃に対する耐スポーリング性を向上することができるものであり、また同時に、砂糖類の粗なカーボン結合をでんぷん類の緻密なカーボン結合で補って、耐火物への溶融スラグの浸透を抑制して、耐食性を向上することができるものである。このように本発明にあっては、バインダーとしてでんぷん類と砂糖類を併用することによって、耐食性と耐スポーリング性のいずれにも優れた耐火物を得ることができるものである。
【0046】
また、バインダーには、でんぷん類や砂糖類を高分子化させるカルボン酸が含有されているので、耐火物組成物を成形した成形物を加熱処理する際に、カルボン酸の作用ででんぷん類や砂糖類は重合反応して高分子化する。このため、でんぷん類や砂糖類のバインダーとしての強度が高くなって、耐火骨材の結合強度が高くなり、耐火物の強度が向上するものであって、耐食性や耐スポーリング性をより高めることができるものである。
【0047】
ここで、耐火物組成物に配合するでんぷん類や砂糖類の一部に、予めカルボン酸で重合反応させて高分子化させたでんぷん類や砂糖類を用いることもできる。このようにカルボン酸で高分子化させたでんぷん類や砂糖類を用いることによって、でんぷん類や砂糖類による耐火骨材の結合強度を高めることができ、耐火物の強度が向上し、耐食性や耐スポーリング性をより高めることができるものである。予めカルボン酸で高分子化させたでんぷん類や砂糖類は、耐火物組成物に配合するでんぷん類や砂糖類のうち、5〜95質量%の範囲に設定するのが望ましい。
【0048】
耐火物組成物を成形した成形物を加熱処理するにあたって、その条件は特に限定されるものではないが、成形物のバインダーを乾燥・硬化させる加熱処理は、130〜350℃、8〜48時間程度の条件に設定するのが好ましい。また成形物を乾燥・硬化させて得た耐火物をさらに焼成してバインダーを炭化させる場合には、900〜1400℃、24〜120時間程度の条件で加熱処理を行なうのが好ましい。この焼成は、耐火物を実炉等で使用する際に、高温の溶融金属の作用で行なわれるようにしてもよい。
【0049】
また、本発明においてでんぷん類や砂糖類として、でんぷん類や砂糖類をフェノール類と反応させたものを用いることができる。でんぷん類や砂糖類をフェノール類と酸性触媒の存在下で加熱すると反応し、樹脂化する。でんぷん類は酸により加水分解され、最終的にはその構造単位であるグルコースにまで分解される。また砂糖類は酸により分解され、グルコースやフラクトールを生成する。そしてこの分解物や中間分解物の分子中のアルデヒド基やカルボニル基とフェノール類とが反応し、でんぷん類や砂糖類とフェノール類との反応物を得ることができる。耐火物組成物にバインダーとして配合するでんぷん類や砂糖類の総てにフェノール類との反応物を用いるようにしてもよいが、でんぷん類や砂糖類の一部としてでんぷん類や砂糖類とフェノール類との反応物を用いるようにするのが好ましい。でんぷん類や砂糖類の一部としてでんぷん類や砂糖類とフェノール類との反応物を用いる場合、その割合は特に限定されるものではないが、1〜50質量%の範囲であることが望ましい。
【0050】
ここでフェノール類とは、フェノール及びフェノールの誘導体を意味するものであり、例えばフェノールの他にm−クレゾール、3,5−キシレノールなどの3官能性のもの、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの4官能性のもの、o−クレゾール、p−クレゾール、p−ter−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4又は2,6−キシレノールなどの2官能性のo−又はp−置換のフェノール類を挙げることができ、さらに塩素又は臭素で置換されたハロゲン化フェノールなども用いることができる。勿論、これらから一種を選択して用いる他、複数種のものを混合して用いることもできる。
【0051】
このようにでんぷん類や砂糖類をフェノール類と反応させたものを用いることによって、耐火骨材の結合強度を高めることができるものであり、耐火物の強度が向上し、特に耐食性をより高めることができるものである。
【0052】
また本発明において、バインダーとして、でんぷん類や砂糖類の他に、フェノール樹脂を配合することもできる。フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類を反応触媒の存在下で反応させることによって、調製することができる。
【0053】
ここで、フェノール類としては上記したものを用いることができる。またアルデヒド類としては、水溶液の形態であるホルマリンが最適であるが、パラホルムアルデヒドやアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、トリオキサン、テトラオキサンのような形態のものを用いることもでき、その他、ホルムアルデヒドの一部を2−フルアルデヒドやフルフリルアルコールに置き換えて使用することも可能である。フェノール類とアルデヒド類の配合比率は、モル比で1:0.5〜1:3.5の範囲になるように設定するのが好ましい。
【0054】
また反応触媒としては、ノボラック型フェノール樹脂を調製する場合は、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、あるいはシュウ酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸などの有機酸、さらに酢酸亜鉛などを用いることができる。レゾール型フェノール樹脂を調製する場合は、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物を用いることができ、さらにジメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジエチレントリアミン、ジシアンジアミドなどの脂肪族の第一級、第二級、第三級アミン、N,N−ジメチルベンジルアミンなどの芳香環を有する脂肪族アミン、アニリン、1,5−ナフタレンジアミンなどの芳香族アミン、アンモニア、ヘキサメチレンテトラミンなどや、その他二価金属のナフテン酸や二価金属の水酸化物を用いることもできる。
【0055】
フェノール樹脂はノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂のいずれでもよく、それぞれ単独で使用する他に、両者を任意の割合で混合して使用してもよい。さらにシリコン変性、ゴム変性、硼素変性などの各種変性フェノール樹脂を使用することもできるが、保存安定性の面や、耐火骨材が酸性(例えばケイ石)か塩基性(例えばマグネシア)かを問わず使用可能な面を考慮すると、ノボラック型フェノール樹脂が最も好ましい。
【0056】
このようにでんぷん類や砂糖類の他に、バインダーとしてフェノール樹脂を配合することによって、フェノール樹脂で耐火骨材の結合強度を高めることができるものであり、耐火物の強度が向上し、特に耐食性をより高めることができるものである。フェノール樹脂の配合量は、バインダー成分中の50質量%以下であること、つまりでんぷん類と砂糖類の合計量よりも少ない配合量に設定するのが好ましい。フェノール樹脂の配合量をでんぷん類及び砂糖類よりも少なくすることによって、フェノール樹脂が分解して発生する有害なガスを少なくすることができ、フェノール樹脂による環境汚染を防ぐことができるものである。フェノール樹脂を配合することによる効果を有効に得るには、フェノール樹脂の配合量はでんぷん類と砂糖類の合計量に対して1質量%以上であることが望ましく、5質量%以上がより好ましい。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0058】
(実施例1〜13、比較例1〜3)
耐火骨材として、マグネシアクリンカーと鱗状黒鉛と金属Alを用いた。ここで、マグネシアクリンカーとしては純度が98%で、粒度が、5〜1mm(5mmの篩を通過し1mmの篩を通過しないもの)、1〜0.1mm(1mmの篩を通過し0.1mmの篩を通過しないもの)、0.1mm以下(0.1mmの篩を通過するもの)のものを、表1の質量比率で混合して用いた。また鱗状黒鉛としては純度が98%で、平均粒径が0.2mmのものを、金属Alとしては純度が99.8質量%で、平均粒径が0.05mmのものを、表1の配合量で用いた。尚、平均粒径はレーザー回折・散乱法で測定した数値である。
【0059】
またバインダーとしては、でんぷん類として焙焼デキストリン(日澱化學(株)製「ブリティッシュガムNo69」)、未加工でんぷん(日本コーンスターチ(株)製コーンスターチ)、酸化でんぷん(日澱化學(株)製「スターチTK」)、酸処理でんぷん(日澱化學(株)製「NSP−K1」)、アルファ化でんぷん(日澱化學(株)製「アミコールC」)を、砂糖類として上白糖(三井製糖(株)製)を、表1の配合量で用いた。
【0060】
さらに、カルボン酸として、シュウ酸、安息香酸、アントラニル酸を、表1の配合量で用いた。
【0061】
そして上記の耐火骨材、バインダーを表1の配合量でミキサーに入れ、またカルボン酸と水を表1の配合量でミキサーに投入し、混練することによって耐火物組成物を得た。耐火物組成物中のバインダーのでんぷん類と砂糖類の質量比率を表1に示す。
【0062】
次に、この耐火物組成物を147MPa(1.5t/cm)の圧力で加圧成形することによって、230mm×114mm×65mmの成形物を作製した。そしてこの成形物を250℃、10時間の条件で加熱処理することによって、試験用の耐火物を得た。
【0063】
(実施例14)
反応容器に焙焼デキストリン(日澱化學(株)製「ブリティッシュガムNo69」)400質量部、上白糖(三井製糖(株)製)600質量部、水250質量部及びエチレングリコール250質量部を仕込み、約60分を要して90℃まで昇温させ、そのまま90分間保つことによって、焙焼デキストリン・砂糖溶解液を得た。この焙焼デキストリン・砂糖溶解液の25℃における粘度は5.0Pa・sであった。
【0064】
そしてこの焙焼デキストリン・砂糖溶解液を、焙焼デキストリンと砂糖の配合量が表1のようになるように用い、耐火骨材、カルボン酸とともにミキサーに入れて混練することによって、耐火物組成物を得た。後は上記と同様にして、この耐火物組成物を147MPaの圧力で加圧成形し、さらにこの成形物を250℃、10時間の条件で加熱処理することによって試験用の耐火物を得た。
【0065】
上記のようにして得た試験用の耐火物をコークス粉末で覆った状態で鉄製容器に入れ、これを600℃の加熱炉内で20時間加熱することによって、試験用耐火物を600℃で熱処理した。そして、このように熱処理した試験用耐火物について、耐食性と耐スポーリング性を評価した。
【0066】
耐食性の評価は、回転侵食炉内に耐火物を内張りし、取鍋スラグを用いて1700℃で5時間浸食させる回転侵食法で溶損寸法を測定することによって行なった。そして比較例1の溶損速度を100とした指数(溶損指数)で耐食性を評価した。溶損指数は数値が小さい程、耐食性が良好であることを示す。
【0067】
耐スポーリング性の評価は、試験用耐火物についてJIS K6910に準拠して曲げ強さ(S)と弾性率(E)を測定し、曲げ強さ(S)/弾性率(E)を求めた。曲げ強さは3点曲げで測定し、弾性率は応力−ひずみ曲線の傾きから求めた。そして比較例2のS/Eを100とした指数(S/E指数)で耐スポーリング性を評価した。S/E指数は数値が大きいほど耐スポーリング性が良好であることを示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1はマグネシア−カーボン系の耐火物組成物に関するものである。そして表1にみられるように、実施例1〜14のものは、溶損指数が100未満であって耐食性が良好であると共に、S/E指数が100を超えるものであって耐スポーリング性が良好であった。一方、バインダーとしてでんぷん類を用いず砂糖類のみの比較例1は耐食性が各実施例より劣るものであり、またバインダーとして砂糖類を用いずでんぷん類のみの比較例2は耐スポーリング性が各実施例より劣るものであった。さらにカルボン酸を配合しない比較例3では、耐食性が不十分であると共に耐スポーリング性が低いものであった。
【0070】
(実施例15〜18)
耐火骨材として、マグネシアクリンカーと鱗状黒鉛と金属Alを表2の質量比率で用いた。またバインダーとして表2のように、焙焼デキストリン(日澱化學(株)製「ブリティッシュガムNo69」)、焙焼デキストリン・フェノール反応物、上白糖、砂糖・フェノール反応物、フェノール樹脂を表2の配合量で用いた。
【0071】
ここで、上記の焙焼デキストリン・フェノール反応物は、次のようにして調製したものを用いた。反応容器にフェノール940質量部、焙焼デキストリン(日澱化學(株)製「No103」)470質量部、水94質量部、p−トルエンスルホン酸28.2質量部を仕込み、約60分を要して還流させ、そのまま60分間反応させた後、水を留去し、さらに内温140℃において120分間、生成する水と未反応のフェノールを留去することによって、焙焼デキストリン・フェノール反応物を得た。次に同じ反応容器内に、この焙焼デキストリン・フェノール反応物70質量部に対して15質量部のエチレングリコールと15質量部の水を投入し、100℃で30分間混合して溶解させることによって、焙焼デキストリン・フェノール反応物溶液を得た。この焙焼デキストリン・フェノール反応物溶液の25℃における粘度は15.0Pa・sであり、この焙焼デキストリン・フェノール反応物溶液を上記の耐火物組成物の配合に用いた。
【0072】
また、上記の砂糖・フェノール反応物は、次のようにして調製したものを用いた。反応容器にフェノール940質量部、上白糖(三井製糖(株)製」)470質量部、水94質量部、p−トルエンスルホン酸28.2質量部を仕込み、約60分を要して還流させ、そのまま60分間反応させた後、水を留去し、さらに内温140℃において120分間、生成する水と未反応のフェノールを留去することによって、砂糖・フェノール反応物を得た。次に同じ反応容器内に、この砂糖・フェノール反応物70質量部に対して15質量部のエチレングリコールと15質量部の水を投入し、100℃で30分間混合して溶解させることによって、砂糖・フェノール反応物溶液を得た。この砂糖・フェノール反応物溶液の25℃における粘度は10.0Pa・sであり、この砂糖・フェノール反応物溶液を上記の耐火物組成物の配合に用いた。
【0073】
さらに、上記のフェノール樹脂は、次のようにして調製したものを用いた。反応容器にフェノール940質量部、37%ホルマリン673質量部、シュウ酸5.6質量部を仕込み、約60分を要して還流させ、そのまま180分間反応させた後、未反応のフェノールを留去した。そしてこれを粉砕して粒径100μm以下の粉末にすることによって、軟化点99℃の固形のノボラック型フェノール樹脂を得た。次に、ミキサー中にこのノボラック型フェノール樹脂100質量部と、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン15質量部を入れ、よく混合したものを、フェノール樹脂として用いた。
【0074】
そして上記の耐火骨材、バインダーを表2の配合量でミキサーに入れ、またカルボン酸としてシュウ酸と、水を表2の配合量でミキサーに投入し、混練することによって耐火物組成物を得た。後は上記と同様にして、この耐火物組成物を147MPaの圧力で加圧成形し、さらにこの成形物を250℃、10時間の条件で加熱処理することによって試験用の耐火物を得た。
【0075】
このようにして得た試験用の耐火物を上記と同様に600℃で熱処理し、熱処理した試験用耐火物について、上記と同様に耐食性と耐スポーリング性を評価した。耐食性は、実施例15の溶損速度を100とした指数(溶損指数)で評価し、耐スポーリング性は、実施例15のS/Eを100とした指数(S/E指数)で評価した。
【0076】
【表2】

【0077】
表2はマグネシア−カーボン系の耐火物組成物に関するものである。そして表2にみられるように、バインダーの一部に焙焼デキストリン・フェノール反応物、砂糖・フェノール反応物、フェノール樹脂を用いた実施例16〜18はいずれも、耐食性及び耐スポーリング性が良好なものであった。
【0078】
(実施例19〜25、比較例4〜6)
耐火骨材として、アルミナクリンカーと鱗状黒鉛と金属Alを用いた。ここで、アルミナクリンカーとしては純度が98%で、粒度が、5〜1mm、1〜0.1mm、0.1mm以下のものを、表3の質量比率で混合して用いた。また鱗状黒鉛としては純度が98%で、平均粒径が0.2mmのものを、金属Alとしては純度が99.8質量%で、平均粒径が0.05mmのものを、表3の配合量で用いた。
【0079】
またバインダーとしては、でんぷん類として焙焼デキストリン(日澱化學(株)製「ブリティッシュガムNo69」)、上記した焙焼デキストリン・フェノール反応物を、砂糖類として上白糖(三井製糖(株)製)、上記した砂糖・フェノール反応物を、さらに上記したフェノール樹脂を、表3の配合量で用いた。
【0080】
そして上記の耐火骨材、バインダーを表3の配合量でミキサーに入れ、またカルボン酸としてシュウ酸と、水を表3の配合量でミキサーに投入し、混練することによって耐火物組成物を得た。後は上記と同様にして、この耐火物組成物を147MPaの圧力で加圧成形し、さらにこの成形物を250℃、10時間の条件で加熱処理することによって試験用の耐火物を得た。
【0081】
このようにして得た試験用の耐火物を上記と同様に600℃で熱処理し、熱処理した試験用耐火物について、上記と同様に耐食性と耐スポーリング性を評価した。耐食性は、比較例4の溶損速度を100とした指数(溶損指数)で評価し、耐スポーリング性は、比較例5のS/Eを100とした指数(S/E指数)で評価した。
【0082】
【表3】

【0083】
表3はアルミナ−カーボン系の耐火物組成物に関するものである。そして表3にみられるように、実施例19〜25のものは、溶損指数が100未満であって耐食性が良好であると共に、S/E指数が100を超えるものであって耐スポーリング性が良好であった。一方、バインダーとしてでんぷん類を用いず砂糖類のみの比較例4は耐食性が各実施例より劣るものであり、またバインダーとして砂糖類を用いずでんぷん類のみの比較例5は耐スポーリング性が各実施例より劣るものであった。さらにカルボン酸を配合しない比較例6では、耐スポーリング性が低いものであった。
【0084】
(実施例26〜27、比較例7〜8)
耐火骨材として、アルミナクリンカー及びマグネシアクリンカーと鱗状黒鉛と金属Alを用いた。ここで、アルミナクリンカーとしては純度が98%で、粒度が、5〜1mm、1〜0.1mm、0.1mm以下のものを、マグネシアクリンカーとしては純度が98%で、粒度が、5〜1mm、1〜0.1mm、0.1mm以下のものを、表4の質量比率で混合して用いた。また鱗状黒鉛としては純度が98%で、平均粒径が0.2mmのものを、金属Alとしては純度が99.8質量%で、平均粒径が0.05mmのものを、表4の配合量で用いた。
【0085】
またバインダーとしては、でんぷん類として焙焼デキストリン(日澱化學(株)製「ブリティッシュガムNo69」)、上記した焙焼デキストリン・フェノール反応物を、砂糖類として上白糖(三井製糖(株)製)を、表4の配合量で用いた。
【0086】
そして上記の耐火骨材、バインダーを表4の配合量でミキサーに入れ、またカルボン酸としてシュウ酸と、水を表4の配合量でミキサーに投入し、混練することによって耐火物組成物を得た。後は上記と同様にして、この耐火物組成物を147MPaの圧力で加圧成形し、さらにこの成形物を250℃、10時間の条件で加熱処理することによって試験用の耐火物を得た。
【0087】
このようにして得た試験用の耐火物を上記と同様に600℃で熱処理し、熱処理した試験用耐火物について、上記と同様に耐食性と耐スポーリング性を評価した。耐食性は、比較例7の溶損速度を100とした指数(溶損指数)で評価し、耐スポーリング性は、比較例7のS/Eを100とした指数(S/E指数)で評価した。
【0088】
【表4】

【0089】
表4はアルミナ−マグネシア−カーボン系の耐火物組成物に関するものである。そして表4にみられるように、実施例26〜27のものは、溶損指数が100未満であって耐食性が良好であると共に、S/E指数が100を超えるものであって耐スポーリング性が良好であった。一方、バインダーとしてでんぷん類を用いず砂糖類のみの比較例7は耐食性が各実施例より劣るものであった。またカルボン酸を配合しない比較例8では、耐スポーリング性が低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火骨材にバインダーを配合した耐火物用組成物において、バインダーとして、でんぷん類と砂糖類が5:95〜90:10の質量比率で併用して含有されていると共に、でんぷん類や砂糖類を高分子化させるカルボン酸が含有されているものを用いることを特徴とする耐火物用組成物。
【請求項2】
でんぷん類として、未加工でんぷん、焙焼デキストリン、酸化でんぷん、酸処理でんぷん、アルファ化でんぷんから選ばれるものを用いることを特徴とする請求項1に記載の耐火物用組成物。
【請求項3】
でんぷん類と砂糖類の合計量100質量部に対して、カルボン酸が0.01〜10質量部含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐火物用組成物。
【請求項4】
バインダー中のでんぷん類や砂糖類は、一部がカルボン酸によって高分子化反応していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐火物用組成物。
【請求項5】
でんぷん類と砂糖類の少なくとも一部として、フェノール類と反応させたものを用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の耐火物用組成物。
【請求項6】
バインダー中に、フェノール樹脂を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の耐火物用組成物。
【請求項7】
耐火骨材として、少なくとも炭素質材料が配合されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の耐火物用組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の耐火物用組成物が、成形されると共に熱処理されて成ることを特徴とする耐火物。

【公開番号】特開2012−206897(P2012−206897A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74012(P2011−74012)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(312005186)リグナイト株式会社 (7)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】