説明

耐熱性ポリアミドイミド系樹脂及びそれを用いたシームレス管状体、塗膜、塗膜板、耐熱性塗料

【課題】伸び率に優れた塗膜及びシームレス管状体を形成しうる耐熱性ポリアミドイミド系樹脂及びそれを用いたシームレス管状体、塗膜、塗膜板及び耐熱性塗料を提供する。
【解決手段】(a)酸無水物基及びカルボキシル基を有する3価以上のポリカルボン酸無水物、(b)式(I)で示される4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)イミドジカルボン酸及び(c)芳香族ポリイソシアネートを塩基性極性溶媒中で反応させて得られる耐熱性ポリアミドイミド系樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド共重合体である耐熱性ポリアミドイミド系樹脂に関する。
また、それを用いた電気/電子機器、電子複写機など各種精密機器において回転運動伝達の目的で用いるのに適したシームレス管状体、塗膜、塗膜板、耐熱性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
電気/電子機器、電子複写機など各種精密機器内の回転運動の伝達を目的とするシームレス管状体に用いられるポリイミド樹脂として、例えば、ピロメリット酸二無水物と4,4′‐ジアミノジフェニルエ-テルより得られるポリイミド樹脂、3,3′-4,4´-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物とp-フェニレンシアミンより得られるポリイミド樹脂が挙げられ、特に、優れた機械特性(引裂強度・弾性率・伸び率)を有していることから主流として適用されている。しかしながら、近年、コストダウンのニーズが一層高まりつつあり、低コスト、同じイミド系樹脂である面からポリアミドイミド樹脂が着目されてきている。
【0003】
一般にポリアミドイミド樹脂は、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性に優れているため、各種エナメル線用ワニス塗料の塗膜成分として、また、各種基板に保護塗膜を形成するために、特に耐熱保護塗膜を形成するために広く用いられてきた。従来のポリアミドイミド樹脂としては、例えば、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネートと無水トリメリット酸との反応により得られるポリアミドイミド樹脂(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭44-019274号公報
【特許文献2】特公昭45-027611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のポリアミドイミド樹脂は、ポリイミド樹脂と比較して、特に上記シームレス管状体の寿命に大きく影響を及ぼす塗膜の伸び率が著しく劣っているため、適用が困難であり、実用化には至っていない。
【0006】
本発明は、上記の鑑み、伸び率に優れた塗膜及びシームレス管状体を形成しうる耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を提供するものである。また、本発明は、この耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を用いて成形されるシームレス管状体、塗膜、塗膜板及び耐熱性塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次のものに関する。
本発明は、[1](a)酸無水物基及びカルボキシル基を有する3価以上のポリカルボン酸無水物、(b)式(I)で示される4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)イミドジカルボン酸及び(c)芳香族ポリイソシアネ-トを塩基性極性溶媒中で反応させて得られる耐熱性ポリアミドイミド系樹脂に関する。
【0008】
【化1】

また、本発明は、[2]前記(a)成分及び前記(b)成分の配合量が、当量比で(b)成分/(a)成分=0.01/0.99〜0.60/0.40である上記[1]に記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂に関する。
また、本発明は、[3](c)芳香族ポリイソシアネートと、(a)ポリカルボン酸無水物及び(b)式(I)で示される4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)イミドジカルボン酸とのイソシアネート基とカルボキシル基との配合量が、当量比で全イソシアネート基/全カルボキシル基=0.8〜1.4で、数平均分子量が10000〜50000である上記[1]又は[2]に記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂に関する。
また、本発明は、[4]耐熱性ポリアミドイミド系樹脂により形成された塗膜の伸び率が、90%以上、引張強度が、100MPa以上(25℃)である上記[1]ないし[3]のいずれかに記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂に関する。
【0009】
また、本発明は、[5]上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を用いて成形されたシームレス管状体に関する。
また、本発明は、[6]上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を塗布及び加熱して成形された塗膜に関する。
また、本発明は、[7]上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を表面に塗布及び加熱して成形された塗膜を有する塗膜板に関する。
また、本発明は、[8]上記[1]ないし[4]のいずれかに記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂及び有機溶媒を含有する耐熱性塗料に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂によれば、引張強度及び伸び率(破断伸度)に優れた塗膜の作製が可能となり、電気/電子機器、電子複写機などの精密機器内の回転運動伝達用のシームレス管状体にとどまらず、塗膜、塗膜板、耐熱性塗料など各種耐熱コーティング塗膜の高機能化が可能となり、信頼性向上に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における耐熱性ポリアミドイミド系樹脂の製造に用いられるポリカルボン酸成分(a)は、1分子中に、[イソシアネート基と反応してイミド結合を形成する酸無水物基]及び/又は「イソシアネ-ト基と反応してアミド結合を形成するカルボキシル基]を合計で2個以上有する化合物、又は、その混合物であり、酸無水物を必須成分とするものであればよく、特に制限はない。酸無水物基及びカルボキシル基を有する3価以上のポリカルボン酸無水物としては、例えば一般式(II)及び(III)で示す芳香族トリカルボン酸無水物を挙げることができる。
耐熱性、コスト面等を考慮すれば、トリメリット酸無水物が特に好ましい。
【0012】
【化2】


(但し、一般式(II)、(III)中、Rは、水素、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基を示し、Yは−CH−、−CO−、−SO−、又は−O−を示す。)
また、(a)成分のポリカルボン酸成分としては、これらの他に必要に応じて、テトラカルボン酸二無水物、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等を併用することができる。
テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンドヒドロトリメリテ-ト、2,2-ビス(2、5-ジカルボキシフェニル)プロパンニ無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン酸二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホンニ無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6-ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-スルホニルジフタル酸二無水物、m-ターフェニル-3,3',4,4'-テトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシルフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ-[2,2,2]-オクト-7-エン-2:3:5:6-テトラカルボン酸二無水物等が例示される。
脂肪族ジカルボン酸として、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸として、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸等が挙げられ、これらは併用することができる。また、これらポリカルボン酸成分の誘導体も使用することができる。
これらの酸や酸無水物の使用量は、全酸成分の50当量%以下とすることが好ましい。
【0013】
本発明において使用する(b)成分として、前記式(I)で示されるジカルボン酸成分である4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)イミドジカルボン酸は、下記の式(IV)で示される4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリンと前記ポリカルボン酸成分と無溶剤あるいは有機溶剤中で反応させることにより得られる。
【0014】
【化3】

【0015】
一般式(II)、(III)で表されるカルボン酸成分と、式(IV)で表される4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン成分の配合割合は当量比で酸無水物基(酸基)/アミン基=1.01以上になるようにすることが好ましく、1.5〜2.5となるようにすることがより好ましく、1.9〜2.1になるようにすることが更に好ましい。
【0016】
反応は、無溶媒あるいは有機溶媒の存在下で容易に行うことができる。反応温度は、60〜100℃とすることが好ましく、反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件などにより適宜選択することができる。
使用できる有機溶媒としては、例えば、ケトン系溶媒(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン等)、エーテル系溶媒(ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等)、セロソルブ系溶媒(ブチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、メチルセロソルブアセテート等)、芳香族炭化水素系溶媒(トルエン、キシレン、p−シメン等)、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0017】
本発明における(c)成分の芳香族ポリイソシアネ-ト化合物としては、特に制限はなく、下記一般式(V)で表されるものを使用できる。
【0018】
【化4】

[一般式(V)中、Xは、炭素数1〜18のアルキレン基又はフェニレン基等のアリーレン基(これはメチル基等の低級アルキル基を置換基として有していてもよい)を示す]
【0019】
上記一般式(V)で表されるジイソシアネート類としては、例えば、ジフェニルメタン-2,4'-ジイソシアネート、3,2'-又は3,3'-又は4,2'-又は4,3'-又は5,2'-又は5,3'-又は6,2'-又は6,3'-ジメチルジフェニルメタン-2,4'-ジイソシアネート、3,2'-又は3,3'-又は4,2'-又は4,3'-又は5,2'-又は5,3'-又は6,2'-又は6,3'-ジエチルジフェニルメタン-2,4'-ジイソシアネート、3,2'-又は3,3'-又は4,2'-又は4,3'-又は5,2'-又は5,3'-又は6,2'-又は6,3'-ジメトキシジフェニルメタン-2,4'-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート、ベンゾフェノン-4,4'-ジイソシアネート、ジフェニルスルホン-4,4'-ジイソシアネート、ジフェニルスルホン-4,4'-ジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート、トリレン-2,6-ジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、ナフタレン-2,6-ジイソシアネート、4,4'-{2,2-ビス(4-フェノキシフェニル)プロパン}ジイソシアネートなど従来公知の種々のジイソシアネ-ト化合物が挙げられる。これらは単独で、あるいは2種以上混合して使用してもよい。上記各ポリイソシアネート化合物中でも、塗膜の耐熱性及び機械特性の面からジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネートが、本発明に最も好適に使用される。
【0020】
また、(c)芳香族ポリイソシアネート以外に、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、水添m-キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式イソシアネート及び3官能以上のポリイソシアネートを用いても良く、経日変化を避けるために必要なブロック剤で安定化したものを使用してもよい。
【0021】
本発明における(b)成分の式(I)で表されるカルボン酸成分と(a)成分のポリカルボン酸成分の配合割合は、当量比で(b)成分/(a)成分=0.01/0.99〜0.60/0.40とすることが好ましく、0.1/0.9〜0.5/0.5とすることがより好ましく、0.2/0.8〜0.8/0.2とすることが特に好ましい。
この当量比が0.01/0.99未満では、得られる耐熱性ポリアミドイミド系樹脂の伸び率を高くすることが困難となり、0.60/0.40を超えると、塗膜の耐熱性が著しく低下してしまう。
【0022】
なお、(c)芳香族ポリイソシアネートと、(a)ポリカルボン酸無水物及び(b)式(I)で示される4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)イミドジカルボン酸とのイソシアネート基とカルボキシル基との配合量が、当量比で全イソシアネート基/全カルボキシル基=0.8〜1.4とすることが好ましく、0.9〜1.3となるようにすることがより好ましく、0.9〜1.2となるようにすることが特に好ましい。
この比が0.8未満では、ポリアミドイミド樹脂の高分子量化が困難であり、また、1.4を超えると、破断伸度が著しく低下してしまう。
【0023】
本発明の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂の合成は、塩基性極性溶媒中で行われ、極性溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルアセトアミド、N、N-ジエチルアセトアミド、N、N-ジメチルホルムアミド、N、N-ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン等が挙げられ、経済性および重合しやすさの面から、N-メチル-2-ピロリドンまたはN、N-ジメチルアセトアミドを用いることが好ましい。また、使用量に特に制限はないが、前記(a)ポリカルボン酸と(b)4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)イミドジカルボン酸、(c)芳香族ポリイソシアネートの総量100質量部に対して、100〜900質量部とするのが好ましく、125〜600質量部とすることがより好ましく、150〜400質量部とすることが特に好ましい。
【0024】
このようにして得られた耐熱性ポリアミドイミド系樹脂の数平均分子量は、10,000〜50,000であることが好ましく、15,000〜40,000であることがより好ましく、20,000〜35,000であることが特に好ましい。
数平均分子量が、10,000未満であると、塗膜としたときの塗膜の耐熱性や機械的特性等の諸特性が低下する傾向があり、50,000を超えると、塗料として適性な濃度になるよう溶媒に溶解させたときに粘度が高くなり、塗装時の作業性が劣る傾向がある。
【0025】
なお、耐熱性ポリアミドイミド系樹脂の数平均分子量は、合成時に反応液をサンプリングし、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定し、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより、所望の範囲に調整することができる。
【0026】
本発明の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂には、塗布、加熱することにより引裂強度、伸び率、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性に優れる塗膜を形成することができるため、長期耐久性を必要とする電気/電子機器、電子複写機などの各種精密機器内の回転運動の伝達目的であるシームレス管状体や、電気電子部品、機械部品などのフィルム、繊維、その他の原料として用いることができる。例えば、本発明の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を塗布、加熱することにより、伸び率(25℃)が90%以上であって、かつ、引張強度(25℃)が100MPa以上である塗膜を形成することができ、特にシームレス管状体の形成に好適に用いられる。
【0027】
塗膜を形成する場合、通常、本発明の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂の固形分として、10〜50質量%、好ましくは20〜40質量%含有する耐熱性塗料として用いられる。耐熱性塗料に使用できる有機溶媒としては、例えば、ケトン系溶媒(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン等)、エーテル系溶媒(ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等)、セロソルブ系溶媒(ブチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、メチルセロソルブアセテート等)、芳香族炭化水素系溶媒(トルエン、キシレン、p−シメン等)、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホンなどが挙げられる。
【0028】
塗膜を形成する基材としては、例えば、ガラス板等の板状基材が挙げられる。例えば、市販のガラス板等の板状の表面に、本発明の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を上記の耐熱性塗料などとして塗布し、加熱することにより、引張強度、破断伸度、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性に優れる塗膜を表面に有する塗膜板を得ることができる。シームレス管状体を形成する場合には、本発明の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂又はその溶液をステンレススチール製円筒金型に注入し、円筒内面または円筒外面に樹脂膜を形成させるため150〜300℃の熱風で30〜120分間乾燥させた後、脱型することによりシームレス管状体を得ることができる。この時、耐熱性ポリアミドイミド系樹脂に、更にカーボンなどの導電性フィラー等の充填材を混練して用いても良い。
【0029】
塗膜を形成する際の加熱は、通常、150〜300℃で、30〜120分間行なわれ、この加熱により、耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を硬化させる。塗膜の厚みは、塗膜の用途によって異なり、特に制限はないが、通常、20〜120μm、好ましくは50〜80μmである。
【0030】
次に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではなく、発明の主旨に基づいたこれら以外の多くの実施態様を含むことは言うまでもない。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
(b)成分の合成として、4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン[商品名:Bisaniline M](三井化学株式会社製)34.5g(0.1モル)及び無水トリメリット酸38.4g(0.2モル)とN-メチル-2-ピロリドン109.4gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに仕込み、この混合物を乾燥させた窒素気流中で、約1時間かけて徐々に80℃まで昇温し、80℃にて1時間保温し、(b)成分の4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)イミドジカルボン酸(0.1モル)を得た。
さらに、この反応液に(a)成分として無水トリメリット酸172.9g(0.90)及び(c)成分としてジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート254.0g(1.015モル)と塩基性極性溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン640.3gを仕込み、反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら約4時間かけて除々に昇温して140℃まで昇温した後、7時間反応させて、数平均分子量が27,300の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂の溶液を得た。
この反応に用いた(a)成分、(b)成分、(c)成分の配合割合は、当量比で次のとおりである。
(b)/(a) =0.10/0.90
(c)/{(b)+(a)}=1.015
得られた溶液をN-メチル-2-ピロリドンで希釈し、耐熱性塗料(樹脂分濃度:30質量%)を得た。
【0032】
(実施例2)
(b)成分の合成として、4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン[商品名:Bisaniline M(三井化学株式会社製)]103.4g(0.3モル)及び無水トリメリット酸115.3g(0.6モル)とN-メチル-2-ピロリドン328.1gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに仕込み、この混合物を乾燥させた窒素気流中で、約1時間かけて徐々に90℃まで昇温し、90℃にて2時間保温し、(b)成分のイミドジカルボン酸(0.3モル)を得た。
さらに、この反応液に(a)成分として無水トリメリット酸134.5g(0.7モル)及び(c)成分としてジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート256.5g(1.025モル)とN-メチル-2-ピロリドン804.2gを仕込み、反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら約2時間かけて除々に昇温して145℃まで昇温した後、9時間反応させて、数平均分子量が32,000の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂の溶液を得た。
この反応に用いた(a)成分、(b)成分、(c)成分の配合割合は、当量比で次のとおりである。
(b)/(a) =0.30/0.70
(c)/{(b)+(a)}=1.025
得られた溶液をN-メチル-2-ピロリドンで希釈し、耐熱性塗料(樹脂分濃度:25質量%)を得た。
【0033】
(実施例3)
(b)成分の合成として4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン[商品名:Bisaniline M(三井化学株式会社製)]68.9g(0.2モル)及び無水トリメリット酸76.9g(0.4モル)とN-メチル-2-ピロリドン218.7gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに仕込み、この混合物を乾燥させた窒素気流中で、約1時間かけて徐々に90℃まで昇温し、90℃にて2時間保温し、(b)成分のイミドジカルボン酸(0.2モル)を得た。
さらに、この反応液に(a)成分として無水トリメリット酸153.7g(0.8モル)及び(c)成分としてジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート202.2g(0.808モル)、さらに3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネート[商品名:TODI(日本曹達株式会社製)]53.4g(0.4モル)とN-メチル-2-ピロリドン812.2gを仕込み、反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら約2時間かけて除々に昇温して145℃まで昇温した後、13時間反応させて数平均分子量が33,100の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂の溶液を得た。
この反応に用いた(a)成分、(b)成分、(c)成分の配合割合は、当量比で次のとおりである。
(b)/(a) =0.20/0.80
(c)/{(b)+(a)}=1.21
得られた溶液をN-メチル-2-ピロリドンで希釈し、耐熱性塗料(樹脂分濃度:20質量%)を得た。
【0034】
(比較例1)
無水トリメリット酸192.1g(1.0モル)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート262.8g(1.05モル)、N−メチル−2−ピロリドン682.4gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに入れ、この混合物を乾燥させた窒素気流中で、反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら約5時間かけて徐々に昇温して140℃まで昇温した。該混合物を140℃にて8時間保温し、数平均分子量が27,000のポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。
この溶液をN-メチル-2-ピロリドンで希釈し、塗料(樹脂分濃度:31質量%)を得た。
【0035】
(比較例2)
4,4′-ジアミノジフェニルエーテル60.1g(0.3モル)及び無水トリメリット酸115.3g(0.6モル)とN-メチル-2-ピロリドン263.1gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに仕込み、この混合物を乾燥させた窒素気流中で、約1時間かけて徐々に80℃まで昇温し、80℃にて1時間保温し、イミドジカルボン酸(0.3モル)を得た。
さらに、この反応液に(a)成分として無水トリメリット酸134.5g(0.70モル)及び(c)成分としてジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート255.3g(1.02モル)とN-メチル-2-ピロリドン584.7gを仕込み、反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら約7時間かけて除々に昇温して140℃まで昇温した後、7時間反応させて数平均分子量が27,300のポリアミドイミド樹脂の溶液を得た。
得られた溶液をN-メチル-2-ピロリドンで希釈し、耐熱性塗料(樹脂分濃度:30質量%)を得た。
【0036】
(比較例3)
4,4′−ジアミノジフェニルエーテル200.24g(1.0モル)、および反応溶媒としてN−メチル-2-ピロリドン1673.4gを温度計、攪拌機、冷却管を備えたフラスコに仕込み、この混合物を乾燥させた窒素気流中、室温(25℃)で攪拌溶解し、ピロメリット酸二無水物[商標名:PMDA-M、三菱瓦斯化学工業株式会社製]酸二無水物218.12g(1.0モル)を加え、30℃以下で5時間反応させ、数平均分子量22,700のポリアミド酸の溶液(固形分濃度:20質量%)を得た。これを塗料として用いた。
【0037】
[塗膜作製条件]
上記で得られた実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた樹脂溶液をガラス板に塗布、乾燥し塗膜を得た。塗膜の作製条件を表1に示した。
【0038】
【表1】

(*)硬化後、市販ガラス板より塗膜を剥離させ各種機械特性を測定した。
【0039】
[測定条件]
上記で得られた塗膜を表2に示す測定条件で、引張試験を行い、破断伸度(破断伸び)、引張強度を測定し、その結果を纏めて表3に示した。
【0040】
【表2】

伸び率(引張試験) :表2に記載の測定条件下にて引張試験を行い、塗膜が破断するまでの伸び率及び引張強度を測定した。
【0041】
【表3】

【0042】
表3から、実施例1〜3の式(I)で示される4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)イミドジカルボン酸を用いた耐熱性ポリアミドイミド系樹脂から得られた塗膜は、比較例1、2の従来ポリアミドイミド樹脂より得られた塗膜と比較して、伸び率が著しく優れており、また比較例3のポリイミド樹脂より得られた塗膜と比較してほぼ同等の伸び率と引張強度の特性バランスを有していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸無水物基及びカルボキシル基を有する3価以上のポリカルボン酸無水物、
(b)式(I)で示される4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)イミドジカルボン酸及び
【化1】

(c)芳香族ポリイソシアネートを塩基性極性溶媒中で反応させて得られる耐熱性ポリアミドイミド系樹脂。
【請求項2】
前記(a)成分及び前記(b)成分の配合量が、当量比で(b)成分/(a)成分=0.01/0.99〜0.60/0.40である請求項1に記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂。
【請求項3】
(c)芳香族ポリイソシアネートと、(a)ポリカルボン酸無水物及び(b)式(I)で示される4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)イミドジカルボン酸とのイソシアネート基とカルボキシル基との配合量が、当量比で全イソシアネート基/全カルボキシル基=0.8〜1.4で、数平均分子量が、10000〜50000である請求項1又は請求項2に記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂。
【請求項4】
耐熱性ポリアミドイミド系樹脂により形成された塗膜の伸び率が、90%以上、引張強度が、100MPa以上(25℃)である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を用いて成形されたシームレス管状体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を塗布及び加熱して成形された塗膜。
【請求項7】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂を表面に塗布及び加熱して成形された塗膜を有する塗膜板。
【請求項8】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐熱性ポリアミドイミド系樹脂及び有機溶媒を含有する耐熱性塗料。

【公開番号】特開2010−215785(P2010−215785A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64227(P2009−64227)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】