説明

耐高アルカリ性調理器具用部材及び該部材を有する耐高アルカリ性調理器具

【課題】形成された塗膜の密着性が高く、撥水性、耐摩耗性、耐傷つき性等を有し、しかも耐高アルカリ性である耐高アルカリ性調理器具用部材及び該部材を有する調理器具を提供する。
【解決手段】基材表面に、第1塗膜層、第2塗膜層及び第3塗膜層からなる塗膜を備えており、
1)第1塗膜層が、無機微粒子を20〜60重量%含有し、フッ素樹脂を固形分として10〜50重量%含有し、且つ、第1塗膜層中に含まれる無機微粒子及びフッ素樹脂の合計量が30〜100重量%であり、
2)第2塗膜層が無機微粒子を10〜50重量%含有し、フッ素樹脂を固形分として20〜60重量%含有し、且つ、第2塗膜層中に含まれる無機微粒子及びフッ素樹脂の合計量が30〜100重量%であり、
3)第3塗膜層が固形分としてテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を80重量%以上含有する
耐高アルカリ性調理器具用部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐高アルカリ性調理器具用部材及び該部材を有する耐高アルカリ性調理器具に関する。
【背景技術】
【0002】
調理器具には、調理器具を構成する基材と塗膜との密着性、撥水性、耐摩耗性、耐傷つき性等に加え、洗浄が容易であることが要求される。
【0003】
すなわち、ガスコンロ、ガスオーブン、電気オーブン、電子レンジ等の調理器具を用いて調理を行う場合、調理の際に発生する油蒸気乃至油煙、煮こぼれ汁、調理材料等が、熱等により凝固物となって、コンロ天板、コンロ汁受け皿、オーブン皿、電子レンジ調理皿等を汚染するという問題がある。
【0004】
そこで、凝固物の除去(すなわち、調理器具の清掃)を容易にするために、調理器具用部材の表面にフッ素樹脂含有塗料を塗布する方法が提案されている。例えば、ガスコンロの天板として、1コートまたは2コートタイプのフッ素樹脂塗料を塗布したものが市販されている。
【0005】
また、特許文献1には、プライマー層、ミッドコート層及びトップコート層がそれぞれフルオロポリマーを含有するノンスティックコーティングが開示されている。
【0006】
さらに、調理器具に関する技術とは異なるが、フッ素樹脂塗料を3層積層する技術もある(特許文献2)。
【0007】
上記凝固物を除去するには、高アルカリ性の洗剤が特に有効である。特に、食器洗浄器により洗浄する際には、高温下で高アルカリ性の洗剤を用いることが求められている。
【0008】
しかしながら、上記フッ素樹脂塗料の多くは、アルカリ性に弱いという欠点がある。すなわち、上記フッ素樹脂塗料が塗布された調理器具に対して、高アルカリ性の洗剤を用いて洗浄する場合、調理器具表面の塗膜が剥離・破損するおそれがある。特に、高温下で高アルカリ性の洗剤を用いる場合、塗膜の剥離・破損がより顕著になる傾向がある。
【特許文献1】特表2004−533941
【特許文献2】特開2004−74646
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、形成された塗膜の密着性が高く、撥水性、耐摩耗性、耐傷つき性等を有し、しかも耐高アルカリ性である調理器具用部材及び該部材を有する調理器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術の問題点に鑑みて、鋭意研究を進めた結果、特定の塗膜層を有する部材が上記目的を達成できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の耐高アルカリ性調理器具用部材及び耐高アルカリ性調理器具に関する。
1. 基材表面に、第1塗膜層、第2塗膜層及び第3塗膜層からなる塗膜を備えており、
1)第1塗膜層が、無機微粒子を20〜60重量%含有し、フッ素樹脂を固形分として10〜50重量%含有し、且つ、第1塗膜層中に含まれる無機微粒子及びフッ素樹脂の合計量が30〜100重量%であり、
2)第2塗膜層が無機微粒子を10〜50重量%含有し、フッ素樹脂を固形分として20〜60重量%含有し、且つ、第2塗膜層中に含まれる無機微粒子及びフッ素樹脂の合計量が30〜100重量%であり、
3)第3塗膜層が固形分としてテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を80重量%以上含有する
耐高アルカリ性調理器具用部材。
2. 第1塗膜層及び第2塗膜層中のフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体及びテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体から選ばれる少なくとも1種である上記項1に記載の耐高アルカリ性調理器具用部材。
3. 第1塗膜層及び第2塗膜層中の無機微粒子が、アルミナ微粒子、シリカ微粒子、チタニア微粒子及び炭化ケイ素微粒子から選ばれる少なくとも1種である上記項1又は2に記載の耐高アルカリ性調理器具用部材。
4. 第1塗膜及び第2塗膜中の無機微粒子の平均粒子径が、10μm以下である上記項1〜3のいずれかに記載の耐高アルカリ性調理器具用部材。
5. コンロ天板、コンロ汁受け皿、オーブン皿、グリル皿、焼き網、直火用鉄板、ジンギスカン鍋、炊飯釜、電気ポット内釜、給茶器用給水タンク、ホットプレート用プレート、フライパン用鍋、電子レンジ調理皿、グリル鍋、オーブントースター用調理皿、オーブントースター用調理網、又は食器洗浄槽として用いる上記項1〜4のいずれかに記載の耐高アルカリ性調理器具用部材。
6. 上記項1〜5のいずれかに記載の耐高アルカリ性調理器具用部材を有する高耐アルカリ性調理器具。
7. ガスコンロ、電気コンロ、ガスオーブンレンジ、電気オーブンレンジ、電子レンジ、炊飯器、バーベキューコンロ、ホットプレート、フライパン、グリル鍋、焼き肉器、オーブントースター、電気ポット、自動給茶器、又は食器洗浄器である上記項6に記載の高耐アルカリ性調理器具。
【0012】
耐高アルカリ性調理器具用部材
本発明の調理器具用部材は、基材表面に、第1塗膜層、第2塗膜層及び第3塗膜層からなる塗膜を備えている。第1塗膜層は、無機微粒子を20〜60重量%含有し、フッ素樹脂を固形分として10〜50重量%含有し、且つ、第1塗膜層中に含まれる無機微粒子及びフッ素樹脂の合計量が30〜100重量%である。第2塗膜層は、無機微粒子を10〜50重量%含有し、フッ素樹脂を固形分として20〜60重量%含有し、且つ、第2塗膜層中に含まれる無機微粒子及びフッ素樹脂の合計量が30〜100重量%である。第3塗膜層は、固形分としてテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を80重量%以上含有する。
【0013】
即ち、本発明の調理器具用部材は、基材表面に、第1塗膜層、第2塗膜層及び第3塗膜層が順に形成されてなる部材であって、無機微粒子及びフッ素樹脂を含有する第1塗膜層、無機微粒子及びフッ素樹脂を含有する第2塗膜層、及びフッ素樹脂を含有する第3塗膜層の三層構造塗膜(以下、単に「塗膜」ということがある)が基材表面に形成された機能傾斜性部材である。
【0014】
具体的に、第1塗膜層及び第2塗膜層に含まれる無機微粒子は、塗膜の強度を向上させることができる。また、塗膜の耐熱性を向上させることができる。すなわち、無機微粒子を含有することにより、加熱及び冷却を繰り返すことによる塗膜の変形を抑制することができる。
【0015】
第1塗膜層に含まれるフッ素樹脂は、第1塗膜層と第2塗膜層との密着性を向上させることができる。第2塗膜層に含まれるフッ素樹脂は、第2塗膜層と第3塗膜層との密着性を向上させることができる。
【0016】
フッ素樹脂は第1塗膜層から第3塗膜層にかけて含有量を上げてゆくのが良い。これにより、非粘着性に優れた部材を好適に得ることができる。
【0017】
また、基材に対する塗膜の密着性及び塗膜の硬度を向上させるために、第1塗膜層中の無機微粒子の含有量を第2塗膜層より多くするのが良い。
【0018】
第1塗膜層、第2塗膜層及び第3塗膜層からなる塗膜の厚さは、基材の材質、形状等により異なるが、通常80〜300μm程度であればよい。
【0019】
基材としては、特に限定されないが、合金鋼、炭素鋼、鋳鉄、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
【0020】
基材の形状、大きさ等は、目的とする調理器具の形状等に応じて適宜調整すればよい。
【0021】
第1塗膜層
第1塗膜層は、無機微粒子を20〜60重量%、好ましくは25〜55重量%含有し、フッ素樹脂を固形分として10〜50重量%、好ましくは15〜45重量%含有する。
【0022】
第1塗膜層中に含まれる無機微粒子及びフッ素樹脂の合計量は、30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%である。
【0023】
無機微粒子としては、例えば、アルミナ微粒子、シリカ微粒子、チタニア微粒子、炭化ケイ素微粒子、ジルコニア微粒子、硫化タンタル微粒子、ゼオライト微粒子等が挙げられる。これらの無機微粒子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、無機微粒子として、アルミナ微粒子、シリカ微粒子、チタニア微粒子及び炭化ケイ素微粒子から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0024】
無機微粒子の平均粒子径は、塗膜層の厚さ等を考慮して定めれば良いが、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、0.5〜1μmがさらに好ましい。なお、塗膜層中において無機微粒子を均一に分散させるために、第1塗膜層は、平均粒子径が30μm以上の粗大粒子を含まないことが望ましい。
【0025】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリビニリデンフルオライト(PVDF)、エチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、フッ化ポリプロピレン(FLPP)などが挙げられる。これらのフッ素樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、フッ素樹脂として、PTFE、PFA及びFEPから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0026】
第1塗膜層は、さらに、バインダー成分として、ポリアミドイミド、ポリフェニルスルフィド、ポリエーテルスルホン等を含有することが好ましい。これらバインダー成分は1種又は2種以上で含有していてもよい。これらバインダー成分を含有することにより、第1塗膜層中の無機微粒子及びフッ素樹脂を基材に好適に定着させることができる。
【0027】
第1塗膜層は、従来より塗料に用いられる添加剤をさらに含有していてもよい。
【0028】
第1塗膜層を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。例えば、上記無機微粒子、フッ素樹脂等を溶媒に分散させることにより塗料を調製し、その塗料を公知の方法により基材に塗布する方法が挙げられる。以下、この方法を代表例として具体的に説明する。
【0029】
溶媒としては、例えばn−メチルピロリドン、ジアセトンアルコール、メタノール、エタノール、アセトン、THF等が挙げられる。この中でも特にn−メチルピロリドン及びジアセトンアルコールが好ましい。これら溶媒は、1種又は2種以上で用いることができる。
【0030】
塗布方法としては、スプレー法、刷毛塗り法、浸漬法等が挙げられる。この中でも特に、スプレー法が好ましい。これら塗布方法は1種又は2種以上を併用してもよい。
【0031】
塗料を塗布後、必要に応じて、加熱処理を行ってもよい。加熱処理により、塗料中の溶媒を十分に揮発させることができ、安定した塗膜を形成させることができる。
【0032】
加熱温度は、特に限定されないが、100〜400℃が好ましく、300〜400℃がより好ましい。加熱時間は、加熱温度等に応じて適宜設定すればよいが、15〜90分間が好ましく、20〜50分間がより好ましい。
【0033】
第1塗膜層の厚みは、基材の材質、形状等に応じて適宜設定すればよいが、10〜200μm程度が好ましく、10〜100μm程度がより好ましい。
【0034】
なお、加熱処理に先立って塗布後の塗料を自然乾燥させてもよい。
【0035】
第2塗膜層
第2塗膜層は、無機微粒子を10〜50重量%、好ましくは15〜45重量%含有し、フッ素樹脂を固形分として20〜60重量%、好ましくは25〜55重量%含有する。
第2塗膜層中に含まれる無機微粒子及びフッ素樹脂の合計量は、30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%である。
【0036】
無機微粒子及びフッ素樹脂については、上記と同様である。また、第2塗膜層は、上記第1塗膜層と同様、バインダー成分を含有することが好ましく、従来より塗料に用いられる添加剤をさらに含有していてもよい。
【0037】
第2塗膜層は、第1塗膜層上に形成される。第2塗膜層を形成する方法としては、特に限定されず、例えば、上記第1塗膜層の形成方法として例示した塗膜形成方法が挙げられる。すなわち、上記無機微粒子、フッ素樹脂等を溶媒に分散させることにより塗料を調製し、その塗料を公知の方法により第1塗膜層上に塗布した後、必要に応じて加熱処理を行えばよい。
【0038】
なお、上記第1塗膜層を形成させるための塗料を塗布した後、加熱処理を行うことなく、続けて、後記第2塗膜層を形成させるための塗料を塗布して、加熱処理を行ってもよい。
【0039】
また、加熱処理に先立って塗布後の塗料を自然乾燥させてもよい。
【0040】
第2塗膜層の厚みは、基材の材質、形状等に応じて適宜設定すればよいが、10〜200μm程度が好ましく、20〜100μm程度がより好ましい。
【0041】
第3塗膜層
第3塗膜層は、固形分としてテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を80重量%以上、好ましくは90〜100重量%含有する。
【0042】
第3塗膜層は、従来より塗料に用いられる添加剤をさらに含有していてもよい。
第3塗膜層は、第2塗膜層上に形成される。第3塗膜層を形成する方法としては、特に限定されず、例えば、上記第1塗膜層の形成方法として例示した塗膜形成方法が挙げられる。すなわち、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等を溶媒に分散させることにより塗料を調製し、その塗料を公知の方法により第2塗膜層 上に塗布した後、必要に応じて加熱処理を行えばよい。
なお、上記第2塗膜層を形成させるための塗料を塗布した後、加熱処理を行うことなく、続けて、後記第3塗膜層を形成させるための塗料を塗布して、加熱処理を行ってもよい。
【0043】
また、加熱処理に先立って塗布後の塗料を自然乾燥させてもよい。
【0044】
第3塗膜層の厚みは、基材の材質、形状等に応じて適宜設定すればよいが、10〜200μm程度が好ましく、20〜100μm程度がより好ましい。
【0045】
本発明の調理器具用部材は、高耐アルカリ性であるため、調理の際に発生する油蒸気乃至油煙、煮こぼれ汁等の凝固物を高アルカリ性の洗剤を用いて洗浄することができる。
【0046】
本発明の部材は、コンロ天板、コンロ汁受け皿、オーブン皿、グリル皿、焼き網、直火用鉄板、ジンギスカン鍋、炊飯釜、電気ポット内釜、給茶器用給水タンク、ホットプレート用プレート、フライパン用鍋、電子レンジ調理皿、グリル鍋、オーブントースター用調理皿、オーブントースター用調理網、又は食器洗浄槽として用いることができる。
【0047】
なお、高アルカリ性の洗剤を高温下(例えば90℃以上)で用いる場合、より高い洗浄力を発揮する反面、従来品に対しては表面の塗膜を剥離・破損させるおそれがある。本発明の部材は、高温下で高アルカリ性の洗剤を用いて洗浄する場合においても、表面の塗膜が、剥離・破損するおそれがほとんどない。従って、本発明の部材は、食器洗浄槽として好適に使用できる。
【0048】
調理器具
本発明の調理器具は、上記調理器具用部材を有することを特徴とする。本発明の調理器具としては、ガスコンロ、電気コンロ、ガスオーブンレンジ、電気オーブンレンジ、電子レンジ、炊飯器、バーベキューコンロ、ホットプレート、フライパン、グリル鍋、焼き肉器、オーブントースター、電気ポット、自動給茶器、又は食器洗浄器が挙げられる。
【0049】
特に、本発明の調理器具用部材が、高温下で高アルカリ性という過酷な条件下においても、優れた耐高アルカリ性を発揮するため、本発明の調理器具は、食器洗浄器として特に有効である。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を80重量%以上含有する塗膜層を最表面に有することにより、耐高アルカリ性に優れた調理器具用部材を提供することができる。従って、本発明の部材に付着した油蒸気乃至油煙、煮こぼれ汁等の凝固物を高アルカリ性の洗剤を用いて洗浄することができ、しかも、洗浄後の部材は、初期の優れた特性を維持する。つまり、高アルカリ性の洗剤によって、部材表面の塗膜が剥離・破損するおそれがほとんどない。
【0051】
特に、本発明の部材に対しては、高温下、高アルカリ性の洗剤を用いて洗浄した場合であっても、初期の優れた特性を好適に維持できる。そのため、本発明の部材は、食器洗浄機の食器洗浄槽として好適に使用できる。
【0052】
本発明の部材は、フッ素樹脂の固有の性質と無機微粒子の固有の性質とを兼ね備えた特殊な塗膜を有する。
【0053】
より具体的には、本発明の部材は、塗膜がフッ素樹脂を含有することにより、高度の潤滑性、耐摩耗性、防汚性、耐焦げ付き性等を有し、さらに特に優れた耐久性、耐熱性、耐薬品性、撥油性、撥水性等を有する。また、本発明の部材は、塗膜が高硬度、高強度等の特性を付与できる無機微粒子を含有することにより、耐久性、耐摩耗性、耐傷つき性等に優れる。
【0054】
加えて、本発明の部材に形成される塗膜には、フッ素皮膜としての衝撃吸収効果及び基材保護効果があるため、金属材料に対して食器があたることによる金属粉の混入を防ぐことが可能になる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
【0056】
実施例1
まず、基材(材質SUS430、寸法50×50×1mm)に対してショットブラスト処理を行った。次いで50℃のアルカリ脱脂液(商標名「メルテックスクリーナー160」メルテックス株式会社製、濃度:50g/l)に5分間浸漬することにより脱脂処理を行った後、基材を水洗して自然乾燥させた。
【0057】
次に、下記組成の固形分を50重量%含有する第1塗膜層形成用塗料(溶媒はn−メチルピロリドンとジアセトンアルコールの2:1混合溶剤)を、加熱処理後の膜厚が20±5μmとなるようスプレー法により基材表面に塗布し、室温下(25℃)で15分間自然乾燥させた。
【0058】
<第1塗膜層形成用塗料の固形分組成>
ポリエーテルスルホン 30重量%
PTFE 20重量%
アルミナ微粒子(平均粒子径1μm)40重量%
シリカ微粒子(平均粒子径1μm) 10重量%
さらに、第1塗膜層上に下記組成の固形分を43重量%含有する第2塗膜形成用塗料(溶媒はn−メチルピロリドンとジアセトンアルコールの2:1混合溶剤)を、加熱処理後の膜厚が20±5μmとなるようスプレー法により基材表面に塗布し、120℃で10分間乾燥させた。
【0059】
<第2塗膜層形成用塗料の固形分組成>
ポリエーテルスルホン 30重量%
PTFE 40重量%
アルミナ微粒子(平均粒子径1μm)20重量%
シリカ微粒子(平均粒子径1μm) 10重量%
そして、第2塗膜層上に下記組成の固形分を45%を含む第3塗膜層形成用塗料(界面活性剤(商品名「トリトンX100」ロッシュ社製)を2%添加した水系ディスパージョン)を、各塗装材料に加熱処理後の膜厚が20±5μmとなるようスプレー法により基材表面に塗布し、120℃で10分間乾燥させた。
【0060】
<第3塗膜層形成用塗料の固形分組成>
PTFE 10重量%
PFA 90重量%
上記の通り、第1〜第3塗膜形成用塗料を基材表面に形成させた後、380℃で、30分間加熱処理を行った。
【0061】
以上の方法により本発明の部材のテストピースを作製した。
【0062】
実施例2
第3塗膜層形成用塗料の固形分組成を以下のように変更した以外は実施例1と同様の方法によりテストピースを作製した。
<第3塗膜層形成用塗料の固形分組成>
PTFE 10重量%
PFA 80重量%
FEP 10重量%
【0063】
実施例3
第3塗膜層形成用塗料の固形分組成を以下のように変更した以外は実施例1と同様の方法によりテストピースを作製した。
<第3塗膜層形成用塗料の固形分組成>
PFA 100重量%
【0064】
比較例1
第3塗膜層形成用塗料の固形分組成を以下のように変更した以外は実施例1と同様の方法によりテストピースを作製した。
<第3塗膜層形成用塗料の固形分組成>
PTFE 30重量%
PFA 70重量%
【0065】
比較例2
第3塗膜層形成用塗料の固形分組成を以下のように変更した以外は実施例1と同様の方法によりテストピースを作製した。
<第3塗膜層形成用塗料の固形分組成>
PTFE 15重量%
PFA 70重量%
FEP 15重量%
【0066】
試験例1(接触角)
実施例1〜3及び比較例1〜2にて作製されたテストピースに対する水の接触角を、FACE接触角計(「CA−A型」協和界面科学(株)製)を用いて、液滴法により確認した。
【0067】
結果を表1に示す。
【0068】
試験例2(密着力)
JIS K5400に従って、形成された塗膜の密着力を測定した。
【0069】
具体的には、実施例1〜3及び比較例1〜2にて作製されたテストピースに1cm当たり100個のごばん目を入れ、下記の各条件下で放置した後、常温(25℃)に戻し、テストピースにセロファン粘着テープを貼り付け、一気に剥離する操作を行った。
【0070】
(a)250℃で2時間放置した。
【0071】
(b)−10℃で2時間放置した。
【0072】
(c)200℃で1時間放置した後、−10℃で1時間放置する操作を10回繰り返した。
【0073】
結果を表1に示す。
【0074】
なお、表1中、“100/100”とあるのは、塗膜の剥離が全くなかったことを示し、“50/100”とあるのは、ごばん目の半数(塗膜の半分)が剥離したことを示す。
【0075】
試験例3(耐傷つき性)
JIS K5400に従ってデュポン式衝撃試験により、形成された塗膜の衝撃変形の有無を調べた。
具体的には、20℃に調整された実施例1〜3及び比較例1〜2にて作製されたテストピースに500gのおもりを500mmの高さから落下させた後の塗膜の変形した部分の損傷を確認した
【0076】
試験例4(耐摩耗性試験)
実施例1〜3及び比較例1〜2にて作製されたテストピースに対して、先端にナイロンたわしを取り付けた棒を600rpmで回転させながら、加重500gで1分間押しつけた後、傷の有無を肉眼観察により確認した。
【0077】
試験例5(耐アルカリ性試験)
実施例1〜3及び比較例1〜2にて作製されたテストピースに1cm当たり100個のごばん目を入れ、液温25℃の下記のアルカリ水溶液に96時間浸漬した。浸漬後のテストピースにセロファン粘着テープを貼り付け、一気に剥離する操作を行った。
なお、96時間浸漬する際、24時間毎にテストピースを取り出て水洗いを行い、変色及び塗膜の剥離の有無を確認した。
【0078】
<アルカリ水溶液>
食器洗浄器用洗剤フィニッシュ(エコン・ラボ・ジャパン社製)の濃度が2
g/lの水溶液。
【0079】
pH12(pH試験紙により測定)
結果を表1に示す。
【0080】
試験例6(高温下での耐アルカリ性試験)
アルカリ水溶液の液温を90℃とし、さらに、浸漬時間を192時間とした以外は試験例5と同様の方法により耐アルカリ性試験を行った。
【0081】
結果を表1に示す。
【0082】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、第1塗膜層、第2塗膜層及び第3塗膜層からなる塗膜を備えており、
1)第1塗膜層が、無機微粒子を20〜60重量%含有し、フッ素樹脂を固形分として10〜50重量%含有し、且つ、第1塗膜層中に含まれる無機微粒子及びフッ素樹脂の合計量が30〜100重量%であり、
2)第2塗膜層が無機微粒子を10〜50重量%含有し、フッ素樹脂を固形分として20〜60重量%含有し、且つ、第2塗膜層中に含まれる無機微粒子及びフッ素樹脂の合計量が30〜100重量%であり、
3)第3塗膜層が固形分としてテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を80重量%以上含有する
耐高アルカリ性調理器具用部材。
【請求項2】
第1塗膜層及び第2塗膜層中のフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体及びテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の耐高アルカリ性調理器具用部材。
【請求項3】
第1塗膜層及び第2塗膜層中の無機微粒子が、アルミナ微粒子、シリカ微粒子、チタニア微粒子及び炭化ケイ素微粒子から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の耐高アルカリ性調理器具用部材。
【請求項4】
第1塗膜及び第2塗膜中の無機微粒子の平均粒子径が、10μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の耐高アルカリ性調理器具用部材。
【請求項5】
コンロ天板、コンロ汁受け皿、オーブン皿、グリル皿、焼き網、直火用鉄板、ジンギスカン鍋、炊飯釜、電気ポット内釜、給茶器用給水タンク、ホットプレート用プレート、フライパン用鍋、電子レンジ調理皿、グリル鍋、オーブントースター用調理皿、オーブントースター用調理網、又は食器洗浄槽として用いる請求項1〜4のいずれかに記載の耐高アルカリ性調理器具用部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の耐高アルカリ性調理器具用部材を有する高耐アルカリ性調理器具。
【請求項7】
ガスコンロ、電気コンロ、ガスオーブンレンジ、電気オーブンレンジ、電子レンジ、炊飯器、バーベキューコンロ、ホットプレート、フライパン、グリル鍋、焼き肉器、オーブントースター、電気ポット、自動給茶器、又は食器洗浄器である請求項6に記載の高耐アルカリ性調理器具。

【公開番号】特開2008−64423(P2008−64423A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245450(P2006−245450)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】