説明

耐高温腐食性皮膜の形成方法

耐熱材料の「必要な部位」に「目的形状」の皮膜を「低コスト」と「高生産性」で形成するプロセスの開発が望まれている。 皮膜形成用の微粉末と通電加熱できる被処理部材とを収容した容器を雰囲気を制御できる処理室内に載置し、微粉末を浮遊させるとともに被処理部材を通電加熱し、加熱により生じる微粉末の蒸気を被処理部材表面から拡散させることにより拡散皮膜を形成させ、かつ浮遊した微粉末を該表面に付着させることにより拡散皮膜層上に微粉末皮膜を形成させることを特徴とする耐高温腐食性皮膜の形成方法。被処理部材をマスキングし、非マスキング部分にのみ皮膜を形成する。被処理部材の一部分を皮膜が形成されない温度に冷却することによって該一部分に皮膜を形成しないようにすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、被処理部材の表面に拡散皮膜と微粉末の皮膜の2層皮膜からなる耐高温腐食性皮膜を形成する方法に関し、さらに、被処理部材の任意の部分に耐高温腐食性皮膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
高温で稼働する耐熱材料は、通常、Cr、Al、SiO等の保護スケールを形成・維持することによって、高温腐食環境から保護されている。しかし、これらのスケールは耐熱材料の機械的特性を劣化させるため、保護スケールを形成するに充分な量のCr、Al、Siを添加することはできない。
したがって、現在、Cr、Al、Siを高濃度に含有する皮膜が、種々の方法によって耐熱材料表面に形成されている。例えば、ガスタービン、ジェットエンジン等に使用されているNi基超合金には、パックセメンテーション、CVD等の方法によりAl又はCrの拡散皮膜を、また、溶射、EBPVD等の方法によってMCrAlY皮膜を形成している。
これらの各種の成膜方法の中で、溶射は大面積に対して低コストで成膜できるが、比較的単純な形状の部材に限定される。スパッタ、PVDは精密な皮膜形成が可能であるが、サイズ、生産性に限界があり、高コストとなる。
さらに、これらの方法では、スルーホール、隙間等への成膜は困難である。皮膜構成元素をガス体として供給するCVD法、パックセメンテーション法では、複雑形状の部材への皮膜形成、及びスルーホール、隙間等への成膜も可能である。しかし、雰囲気制御のため、部材のサイズに制限があり、生産性に劣り、高コストである。また、通常、部材の全面に皮膜が形成され、特定部位への選択的な皮膜形成は困難である。
上記の特徴と欠点を解決した成膜法として、めっき法が挙げられる。めっき法は、通常、水溶液から電気化学的に析出するもので、原理的には、電解液が侵入できる部位への成膜が可能である。また、めっき法において、非水溶液、溶融塩を使用すると、Al、Mg等の卑金属の成膜も可能である。また、被処理部材表面にマスキングを行うことによって、特定の部位に選択的に成膜が可能である。
しかし、膜を構成する元素の組合せと組成制御に制限があり、かつ、皮膜の密着性を確保するため、通常、高温で熱処理が施される。
高温で使用される部材では、部材全体が高温に曝されるのではなく、例えば、熱電対の鞘では、先端は高温の燃焼ガスに曝されるが、大部分は低温域にある。また、部材全体に成膜すると、取付け部、連結部等では、これらの皮膜を除去する後工程も必要になる。通常、これらの特定の部位は低温に維持されている。
したがって、部材全面に成膜する必要がなく、むしろ、高温・腐食環境に曝される特定の部位に選択的に皮膜を形成することが望まれている。
耐高温腐食性に優れた皮膜を、複雑形状の特定の部位に成膜する場合に、現行の成膜法には次のような得失がある。溶射法、PVD法、スパッター法は、特定部位への皮膜の形成はマスキングによって可能である。しかし、スルーホール、隙間等の部位には成膜する事ができない。CVD法、パックセメンテーション法は、スルーホール、隙間等への成膜が可能である。しかし、特定部位への皮膜形成には制限がある。めっきは、スルーホール、隙間等への皮膜形成が可能で、マスキングによって特定部位への皮膜形成も可能である。しかし、基材と皮膜の密着性を確保するために、通常、後熱処理が施される。さらに、皮膜構成元素の種類とその組成制御に制限がある。
したがって、耐熱材料の「必要な部位」に「目的形状」の皮膜を「低コスト」と「高生産性」で形成するプロセスの開発が望まれている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
本発明は、耐高温腐食性に優れた皮膜を被処理部材、特に、耐熱材料の表面に創製することができるドライプロセスを提供する。本発明の方法は、振動による粉体の浮遊現象及び通電加熱を応用したことを特徴とする。皮膜の構成元素には特に制限はなく、化合物を含む複合皮膜の形成も可能である。
すなわち、本発明は、(1)皮膜形成用の微粉末と通電加熱できる被処理部材とを収容した容器を雰囲気を制御できる処理室内に載置し、微粉末を浮遊させるとともに被処理部材を通電加熱し、加熱により生じる微粉末の蒸気を被処理部材表面から拡散させることにより拡散皮膜を形成させ、かつ浮遊した微粉末を該表面に付着させることにより拡散皮膜層上に微粉末皮膜を形成させることを特徴とする耐高温腐食性皮膜の形成方法である。
また、本発明は、(2)被処理部材及び/又は粒子を収容した容器を振動させることにより微粉末を浮遊させることを特徴とする上記(1)の耐高温腐食性皮膜の形成方法である。
また、本発明は、(3)微粉末は、(I)Al、Cr、Si等の保護的酸化物スケールを形成する元素、(II)拡散バリヤー特性に優れたRe、W、Mo等の耐火金属元素、(III)酸化物スケールの密着性を改善する希士類元素、又は(IV)皮膜の機械的特性に寄与する白金族元素、の群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記の(1)又は(2)の耐高温腐食性皮膜の形成方法である。
また、本発明は、(4)被処理部材をマスキングし、非マスキング部分にのみ皮膜を形成することを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかの耐高温腐食性皮膜の形成方法である。
また、本発明は、(5)被処理部材の一部分を皮膜が形成されない温度に冷却することによって該一部分に皮膜を形成しないようにすることを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかの耐高温腐食性皮膜の形成方法である。
また、本発明は、被処理部材が抵抗発熱体であることを特徴とする上記(1)ないし(5)のいずれかの耐高温腐食性皮膜の形成方法である。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の方法において線材にマスキングする状態を示す概念図である。第2図は、本発明の方法においてマスキングした線材を加熱して拡散処理及び微粉末の付着処理をする状態を示す概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の方法で対象とする通電加熱できる被処理部材として有用な材料は、主として、Ni、Fe、Coその他の耐熱金属、耐熱合金材料、Pt、Ir、Rh等の白金族元素、導電性セラミックス等の耐熱材料である。
本発明の方法を実施するには、まず、目的の形状に成形した被処理部材を用意する。第1図は、被処理部材として線材1を用いた例を示している。被処理部材である線材1に、通電のためのターミナル2、2を接続する。表面の一部に皮膜を形成する場合には皮膜を形成する部分を露出させ、それ以外の部位を耐熱性セラミックスセメント3、3等でマスキングする。マスキング手段としては、耐熱性セラミックスセメントで被覆する方法、セラミックスパイプを被せる方法、セラミックス布で覆う方法等の方法があり、被覆法は特に限定されない。マスキングに代えて皮膜の形成を望まない部位を皮膜が形成される温度より低い温度となるように冷却するようにしてもよい。
通電のための電極を、皮膜を形成する部位の直近に設置することによって、皮膜形成の部位のみを加熱することも可能である。
続いて、第2図に示すように、皮膜形成用の微粉末4を坩堝等の容器5内に入れ、被処理部材の線材1を微粉末4の中に埋め込み、振動機構(図示せず)を備えた台6に載せる。微粉末4の平均粒径は、0.1〜5μmの範囲が望ましい。この台6を真空チャンバー等の雰囲気を制御できる処理室7内に設置し、処理室7内を排気する。真空度は10−3Paオーダーが好ましい。雰囲気は、高純度不活性ガス雰囲気でも良い。
不活性ガス雰囲気では、皮膜形成用の微粉末の蒸発を促進する物質、例えば、NHClを添加しても良い。処理室7内が所定の真空度に達したら、被処理部材の線材1に通電し、加熱する。通電加熱時に、被処理部材及び/又は微粉末を収容した容器を振動させて微粉末を該容器内で浮遊状態にさせる。
通電により被処理部材の露出部が高温に熱せられ、その熱により、微粉末が加熱されて、蒸気となって揮散する。この蒸気が被処理部材の表面に衝突することによって、被処理部材と微粉末成分との合金化が生じ、微粉末成分は被処理部材の内部に拡散して、拡散皮膜層が形成される。
また、浮遊状態の微粉末の一部は被処理部材の露出部に付着し、微粉末層が形成れる。この表面に付着した微粉末成分の粒子層は耐高温腐食性皮膜として機能する。しかし、振動を与えない場合は、微粉末成分の蒸発による拡散皮膜層が形成されるだけであり、微粉末が付着した耐高温腐食性皮膜が形成されない。
雰囲気を制御することにより、雰囲気ガスと微粉末成分との反応による化合物微粒子皮膜を生成させて付着させることもできる。
皮膜形成の材料は、保護的酸化物スケールを形成する元素(Al、Cr、Si等)、拡散バリヤー特性に優れた耐火金属元素(Re、W、Ta、Mo、Nb)、酸化物スケールの密着性を改善する希士類元素(Y、La、Ce等)、皮膜の機械的特性に寄与する白金族元素(Pt、Rh、Ir、Ru)、無機化合物(Al、SiC)、金属間化合物(NiAl)等からなる。Al、Cr、Siは高蒸気圧を有する金属を代表し、その合金も使用できる。Re、Mo、Wは、高い昇華圧の酸化物を形成する元素の例として使用できる。
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明の皮膜形成方法を詳細に述べる。
【実施例1】
被処理材としてNi線材(φ0.5mm)を用意し、この線材を抵抗発熱体の形状に成形した。この線材の両端に通電のためのターミナルを接続し、続いて、ターミナル側の一部を耐熱性セラミックスセメントで被覆した。
続いて、微粉末の収容容器としてアルミナ坩堝を用い、この坩堝に微粉末としてCr粉末(平均粒径5μm)を入れ、Ni線材をこのCr粉末の中に埋め込み、振動機構を備えた台に載せた。この台を真空チャンバーに設置し、チャンバー内を真空度10−3Paオーダーに排気し、坩堝を振動(振幅1.0mm、振動数60回数/秒)させながら、Ni線材を通電加熱した後に自然冷却した。
処理したNi線材の断面は、Crの拡散皮膜と表面に付着したCr粒子が見られた。これより、振動を加えることにより、Cr粉末はCr蒸気及びCr浮遊粒子としてNi線材表面に供給されていることが分かる。
比較例1
坩堝を静止状態とした以外は実施例1と同じ条件でNi線材を通電加熱処理した。処理したNi線材の断面は、Crの拡散皮膜層が形成されただけであった。
【実施例2】
微粉末としてRe粉末(平均粒径5μm)を用いた以外は実施例1と同じ条件でNi線材を通電加熱処理した。処理したNi線材の断面は、Reの拡散皮膜と表面に付着したRe粒子が見られた。これより、振動を加えることにより、Re粉末は主として浮遊粒子としてNi線材表面に供給されていることが分かる。
比較例2
坩堝を静止状態とした以外は実施例2と同じ条件でNi線材を通電加熱処理した。処理したNi線材の断面は、Reの拡散皮膜は形成していなかった。これは、Reの蒸気圧が低いためであると考えられる。
【実施例3】
微粉末として混合粉末(Re粉末+10重量%ReO粉末)(それぞれの平均粒径5μm)を用いた以外は実施例1と同じ条件でNi線材を通電加熱処理した。処理したNi線材の断面は、Reの拡散皮膜と表面に付着したRe粒子が見られた。これより、振動を加えることにより、Re粒子とReO粒子がそれぞれ浮遊粒子としてNi表面に供給され、ReOの蒸気とReO粒子はいずれもNi線材表面でReに還元されていることが分かる。
比較例3
坩堝を静止状態とした以外は実施例3と同じ条件でNi線材を通電加熱処理した。処理したNi線材の断面は、Reの拡散皮膜が形成していた。すなわち、ReはReOの蒸気として移動し、Ni線材表面でReに還元され、Ni線材中に拡散したがReOの粒子層は形成されなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明の方法により、高温の燃焼ガスに曝されて稼動する耐熱材料を高温腐食環境から保護することができる。また、高温・腐食環境に曝される特定の部位に選択的に保護皮膜を形成した部材を容易に提供できる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膜形成用の微粉末と通電加熱できる被処理部材とを収容した容器を雰囲気を制御できる処理室内に載置し、微粉末を浮遊させるとともに被処理部材を通電加熱し、加熱により生じる微粉末の蒸気を被処理部材表面から拡散させることにより拡散皮膜を形成させ、かつ浮遊した微粉末を該表面に付着させることにより拡散皮膜層上に微粉末皮膜を形成させることを特徴とする耐高温腐食性皮膜の形成方法。
【請求項2】
被処理部材及び/又は粒子を収容した容器を振動させることにより微粉末を浮遊させることを特徴とする請求項1記載の耐高温腐食性皮膜の形成方法。
【請求項3】
微粉末は、(I)Al、Cr、Si等の保護的酸化物スケールを形成する元素、(II)拡散バリヤー特性に優れたRe、W、Mo等の耐火金属元素、(III)酸化物スケールの密着性を改善する希士類元素、又は(IV)皮膜の機械的特性に寄与する白金族元素、の群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項記載の耐高温腐食性皮膜の形成方法。
【請求項4】
被処理部材をマスキングし、非マスキング部分にのみ皮膜を形成することを特徴とする請求の範囲第1項ないし第3項のいずれかに記載の耐高温腐食性皮膜の形成方法。
【請求項5】
被処理部材の一部分を皮膜が形成されない温度に冷却することによって該一部分に皮膜を形成しないようにすることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第3項のいずれかに記載の耐高温腐食性皮膜の形成方法。
【請求項6】
被処理部材が抵抗発熱体であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第5項のいずれかに記載の耐高温腐食性皮膜の形成方法。

【国際公開番号】WO2004/070077
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【発行日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504910(P2005−504910)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001347
【国際出願日】平成16年2月9日(2004.2.9)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】