説明

肥満治療剤並びに肥満の治療及び予防方法

【課題】強力な効能を有し、薬剤の副作用を低減した肥満治療剤の提供。
【解決手段】選択的β3アドレナリン受容体作動薬であり肥満症にも有効な6-[2-(R)-[(2-(R)-(3-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル)アミノ]プロピル]-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-2-(R)-カルボン酸又はその薬理学的に許容される塩と以下の薬剤からなる群から選択される少なくとも1種とを組み合せた肥満治療剤。 (1)アシル-エストロゲン (2)オピオイド・アンタゴニスト (3)モノアミン再取り込み阻害剤 (4)リパーゼ阻害剤 (5)レプチン (6)CNTF(毛様体神経栄養因子) (7)CNTF誘導体 (8)トピラメート (9)インスリン (10)インスリン分泌促進剤 (11)ビグアナイド (12)αグルコシダーゼ阻害剤 (13)インスリン抵抗性改善剤 (14)HMG-CoA還元酵素阻害剤 (15)陰イオン交換樹脂 (16)クロフィブラート系薬剤 及び (17)ニコチン酸系薬剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的β3アドレナリン受容体作動薬である6-[2-(R)-[(2-(R)-(3-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル)アミノ]プロピル]-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-2-(R)-カルボン酸又はその薬理学的に許容される塩と抗肥満薬、血糖低下剤又は脂質代謝改善剤とを組み合わせてなる肥満治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、脂肪細胞が過剰に蓄積した状態と定義される。また肥満症は肥満に起因ないし関連する健康障害を合併(高血圧、耐糖能異常、糖尿病、高脂血症等)するか、臨床的にその合併が予測される場合であって、医学的に減量を必要とする病態である。
【0003】
肥満者が急速に増加している米国では、年間約30万人が肥満に関係した病気で死亡していると言われている。また国内でも、食生活の欧米化に伴い、脂肪摂取量が増加しており、肥満者の増大を招いている。
【0004】
肥満の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法、外科療法があるが、通常は食事療法と運動療法が主体である。
【0005】
薬物療法としては、我が国では重症の肥満(BMI≧35または、肥満度≧70%)の時にマジンドールが使用されている。マジンドールはモノアミン再取り込み阻害剤で、抗肥満薬(食欲抑制剤)として用いられている。この群に属する薬剤としては、欧米では、シブトラミン、ミルナシプラン、デュロキセチン、ベンラファキシンが挙げられる。
【0006】
また、抗鬱剤である選択的セロトニン取り込み阻害剤のフルオキセチン、セルトラリン、パロキセチンなども抗肥満薬として有用とされている。
【0007】
また、リパーゼ阻害剤であるオルリスタットも抗肥満薬として使われ始めたが、若干の副作用が報告されている。
【0008】
しかしながら、現在、肥満治療のための単独療法に使われている食欲抑制薬の効能は限られており、有意な副作用が懸念されているところである。
【0009】
一方、交感神経系に関与しているβアドレナリン受容体は、β1、β2及びβ3の3つのサブタイプが存在し、特定の臓器にいずれかのサブタイプが分布しており、生理的な機能を担っていることが知られている。例えば、β1アドレナリン受容体は主として心臓に存在し、本受容体の刺激により心拍数の増加及び心収縮力の増加を生じる。また、β2アドレナリン受容体は気管(支)、血管及び子宮に存在し、本受容体の刺激により気管(支)及び血管の拡張、子宮収縮の抑制を生じる。
【0010】
一方、β3アドレナリン受容体は、脂肪細胞、腸管に存在し、本受容体の刺激により脂肪細胞では脂肪分解促進を、腸管では腸管運動の抑制を生じる。従って、β3アドレナリン受容体の機能低下は体脂肪の蓄積を引き起こすので、肥満症との関連性やインスリン非依存性糖尿病の発症との関係が示唆されている。このようなことから、β3アドレナリン受容体作動薬は、脂肪を標的として代謝率を高めるので、抗肥満用剤や抗糖尿病用剤として期待され、種々の化合物が開発されている。このような薬剤は熱産生を行う褐色細胞の膜上にあるβ3アドレナリン受容体を刺激し、熱産生を増加させ、エネルギー消費を増やすことによって体重の減量を可能とするものであるので、中枢性の食欲抑制剤で懸念される中枢性副作用は少ないものと考えられる。
【0011】
従って、より有効で強力な効能を有し、薬剤の副作用をより低減した肥満の予防又は治療剤を提供する一環として、β3アドレナリン受容体作動薬と食欲抑制薬との組み合わせ療法(特許文献1)や、肥満並びにその合併症にまで広げた治療方法として、β3アドレナリン受容体作動薬と血糖低下剤や脂質代謝改善剤との組み合わせ療法が考えられている(特許文献2, 特許文献3、特許文献4)。
【0012】
β3アドレナリン受容体作動薬6-[2-(R)-[(2-(R)-(3-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル)アミノ]プロピル]-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-2-(R)-カルボン酸は、β3アドレナリン受容体に対して選択的活性化に優れ、有効性(efficacy)と効力(potency)の高い化合物であり、糖尿病、高血糖症又は肥満症に有効であると開示されている(特許文献5)。しかしながら、より有効で、安全性の高い肥満の予防又は治療剤として、他の抗肥満剤との組み合わせ療法、あるいは血糖低下剤や脂質代謝改善剤との組み合わせ療法を提供することについては知られていなかった。
【特許文献1】WO98/18481パンフレット(特表2002-516605号)
【特許文献2】WO01/054728パンフレット
【特許文献3】WO02/032897パンフレット(特表2004-511555号)
【特許文献4】WO03/089418パンフレット(特表2005-526834号)
【特許文献5】WO96/035685パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、現在入手可能な単独及び組み合わせ療法による抗肥満薬には効能に限界が有るとともに、副作用が懸念されていることから、より有効で強力な効能を有し、薬剤の副作用をより低減した肥満の予防又は治療剤を提供するため、β3アドレナリン受容体作動薬とその他の抗肥満薬等の組み合わせ療法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、下記式(1)で示される6-[2-(R)-[(2-(R)-(3-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル)アミノ]プロピル]-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾオキシン-2-(R)-カルボン酸(CAS REGISTRY No.:220475-76-3、以下「化合物(1)」と略す)又はその薬理学的に許容される塩と他の抗肥満薬並びに血糖低下剤や脂質代謝改善剤との組み合わせ療法及びそれらの組み合わせ薬剤が肥満の予防又は治療に有効であることを見出し、本発明を完成したものである。
【0015】
【化1】

【0016】
即ち、本発明は
1)6-[2-(R)-[(2-(R)-(3-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル)アミノ]プロピル]-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-2-(R)-カルボン酸又はその薬理学的に許容される塩と以下の薬剤からなる群から選択される少なくとも1種とを組み合わせてなることを特徴とする肥満治療剤。
(1)アシル-エストロゲン
(2)オピオイド・アンタゴニスト
(3)モノアミン再取り込み阻害剤
(4)リパーゼ阻害剤
(5)レプチン
(6)CNTF(毛様体神経栄養因子)
(7)CNTF誘導体
(8)トピラメート
(9)インスリン
(10)インスリン分泌促進剤
(11)ビグアナイド
(12)αグルコシダーゼ阻害剤
(13)インスリン抵抗性改善剤
(14)HMG-CoA還元酵素阻害剤
(15)陰イオン交換樹脂
(16)クロフィブラート系薬剤 及び
(17)ニコチン酸系薬剤、
に関するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、選択的なβアドレナリン受容体作動薬である化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩と抗肥満薬、血糖低下剤及び脂質代謝改善剤から選択される1種以上との組み合わせ療法並びにそれらの組み合わせ薬剤であり、肥満の予防又は治療に有効で、かつ副作用を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
化合物(1)は上記特許文献5に開示された化合物であり、特開平11-140079号公報及びWO00/006562パンフレットに開示された方法により製造することができる。
【0019】
化合物(1)の薬理学的に許容される塩とは、酸付加塩として、塩酸塩、臭化水素塩、硫酸塩、硝酸塩、燐酸塩などの無機酸塩又は酢酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、メシル酸塩などの有機酸塩があげられる。また塩基付加塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、ストロンチウム塩又はセシウム塩が挙げられる。
【0020】
化合物(1)はラットの脂肪細胞において脂肪分解を誘発し(ラットβ作動活性)、さらにヒトβ受容体を有する神経芽細胞においてcAMP産生を上昇させる(ヒトβ作動活性)。またII型糖尿病モデル動物においても抗高血糖作用を有することが知られており、糖尿病、高血糖症並びに肥満症の予防または治療剤として有用である(特許文献5)。
【0021】
本願発明の化合物(1)と組み合わせに用いられる薬剤は、公知の抗肥満薬、血糖低下剤又は脂質代謝改善剤であり、下記の(1)〜(17)が挙げられる。
(1)アシル-エストロゲン(例えば、オレイル-エストロゲンなど)
(2)オピオイド・アンタゴニスト(ナルメフェンなど)
(3)モノアミン再取り込み阻害剤(シプトラミン又はマジンドールなど)
(4)リパーゼ阻害剤(オルリスタットなど)
(5)レプチン
(6)CNTF(毛様体神経栄養因子)
(7)CNTF誘導体(例えば、アキソカインなど)
(8)トピラメート
(9)インスリン
(10)インスリン分泌促進剤(例えば、グリベンクラミド、グリピジド、グリクラジド、グリメピリド、トラザミド、トルブタミド、アセトヘキサミド、クロルプロパミド、グリクロピラミド、レパグリニド、ナテグリニド又はミチグリニドなど)
(11)ビグアナイド(例えば、メトフォルミン、フェンフォルミン又はブフォルミンなど)
(12)αグルコシダーゼ阻害剤(例えば、アカルボース、ボグリボース、ミグリトール又はエミグリタートなど)
(13)インスリン抵抗性改善剤(例えば、トログリタゾン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、ネトグリタゾン、ファルグリタザール、レグリタザール又はKRP-297[CAS REGISTRY No.213251-19-8]など)
(14)HMG-CoA還元酵素阻害剤(例えば、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトロバスタチン、セリバスタチン、ニスバスタチン又はロバスタチンカルシウムなど)
(15)陰イオン交換樹脂(例えば、コレスチラミン又はコレスチミドなど)
(16)クロフィブラート系薬剤(例えば、クロフィブラート、シンフィブラート、クリノフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラート、シプロフィブラート又はゲムフィブロジルなど)
(17)ニコチン酸系薬剤(例えば、ニコチン酸、ニコモール、ニセリトール又はニコチン酸トコフェロールなど)
【0022】
これらの組み合わせに用いられる薬剤は当業者に周知の方法で製造されるか、あるいは市販されているので、容易に入手できる。これらの組み合わせに用いられる薬剤は単独で用いても良く併用してもよい。
【0023】
本発明の選択的なβ3アドレナリン受容体作動薬である化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩と抗肥満薬、血糖低下剤及び脂質代謝改善剤からなる群から選択された少なくとも一種とを組み合わせてなる薬剤は、これらの有効成分を配合剤あるいは単剤として同時に、あるいは別々に、生理学的に許容し得る担体、賦形剤、結合剤、希釈剤等と混合し、顆粒剤、粉剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、座薬、懸濁剤、溶液剤などとして、経口または非経口的に投与することができる。有効成分を別々に製剤化した場合には、それぞれを服用時に混合して投与するか、又は同時に、あるいは時間差をおいて継続的に同一患者に投与することができる。
【0024】
このような組み合わせのための薬剤は、通常一般に用いられている公知の方法によって製造することができる。
【0025】
本発明における薬剤の有効成分の投与量は、個々の薬剤の投与量に準じて設定することができるが、投与対象、その年齢や体重、症状、投与時間、使用剤形、投与方法、薬剤との組み合わせ方に適宜変化し得る。
【0026】
通常これらの薬剤には、化合物(1)を0.001mgから100mg或いは製剤全体中0.001w/w%以上、好ましくは0.01w/w%から80w/w%で含有させ、さらに他の有効成分を含有することもできる。
【0027】
本発明の薬剤の投与方法は、経口投与あるいは非経口投与(例えば静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、腹腔内投与または直腸内投与など)が挙げられる。投与方法並びに投与量は、疾患、症状、年齢、体重などにより異なるが、通常成人1日あたり0.002mgから300mgを投与する。
【0028】
(実施例)
本発明内容を以下の実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
(製剤例)
錠剤(1錠)
化合物(1) 1mg
マジンドール 0.5mg
乳糖 適量
カルボキシメチルセルロース 15mg
ヒドロキシプロピルセルロース 5mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
合計 100mg
各成分を均一に混合し、直打用粉末とする。これをロータリー式打錠機で直径6mm、重
量100mgの錠剤に成型できる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、選択的なβ3アドレナリン受容体作動薬である化合物(1)又はその薬理学的に許容される塩と抗肥満薬、血糖低下剤及び脂質代謝改善剤からなる群から選択される少なくとも1種とを組み合わせた療法及びそれらの組み合わせた薬剤は肥満の予防又は治療に有効で、かつ副作用を低減させることができるので、臨床上有用な治療薬となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6-[2-(R)-[(2-(R)-(3-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル)アミノ]プロピル]-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-2-(R)-カルボン酸又はその薬理学的に許容される塩と以下の薬剤からなる群から選択される少なくとも1種とを組み合わせてなることを特徴とする肥満治療剤。
(1)アシル-エストロゲン
(2)オピオイド・アンタゴニスト
(3)モノアミン再取り込み阻害剤
(4)リパーゼ阻害剤
(5)レプチン
(6)CNTF(毛様体神経栄養因子)
(7)CNTF誘導体
(8)トピラメート
(9)インスリン
(10)インスリン分泌促進剤
(11)ビグアナイド
(12)αグルコシダーゼ阻害剤
(13)インスリン抵抗性改善剤
(14)HMG-CoA還元酵素阻害剤
(15)陰イオン交換樹脂
(16)クロフィブラート系薬剤 及び
(17)ニコチン酸系薬剤

【公開番号】特開2008−7502(P2008−7502A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140763(P2007−140763)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】