説明

能動型振動騒音制御装置

【課題】通常状態とは異なる車両姿勢を維持する場合であっても、能動型振動騒音制御装置を動作させると共に、振動騒音と打消音の誤差を素早く収束させることが可能な能動型振動騒音制御装置を提供する。
【解決手段】いわゆる適応制御を用いるANC装置12のフィルタ係数更新手段84は、車両状態量の変化速度が第1閾値を上回ると、その時点での前記車両状態量である第1車両状態量を保持すると共に、フィルタ係数の更新を停止し、その後、前記車両状態量の変化速度が前記第1閾値を下回ると、その時点での車両状態量である第2車両状態量と前記第1車両状態量との差を算出し、前記差が第2閾値を上回るとき、前記フィルタ係数の更新量を通常時より大きくして前記フィルタ係数の更新を再開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、路面入力に基づく振動騒音を打消音により打ち消す能動型振動騒音制御装置に関し、より詳細には、いわゆる適応制御を用いて前記振動騒音の打消しを行う能動型振動騒音制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内の振動騒音に関連して音響を制御する装置として、能動型騒音制御装置(Active Noise Control Apparatus)(以下「ANC装置」と称する。)が知られている。一般的なANC装置では、振動騒音に対する逆位相の打消音を車室内のスピーカから出力することにより、前記振動騒音を低減する。また、振動騒音と打消音の誤差は、乗員の耳位置近傍に配置されたマイクロフォンにより残留騒音として検出され、その後の打消音の決定に用いられる。ANC装置には、例えば、エンジンの作動(振動)に応じて車室内に生ずる騒音(エンジンこもり音)を低減するものや、車両走行中における車輪と路面との接触によって車室内に生ずる騒音(ロードノイズ)を低減するものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献2では、急加速時又は急ブレーキ時等の車体(1)の姿勢変化にともなう伝達関数(G)の変化に着目した処理が行われる(段落[0048]、[0067])。具体的には、車体加速度センサ(21)の検出値に基づく車体加速度変化量が所定の閾値を上回り、且つ車体加速度の変化速度が所定の閾値を上回る場合、マイクロプロセッサ(16)の適応動作を停止する(段落[0072]、図9)。その後、車体加速度の変化量が所定の閾値を下回る場合、適応動作を再開する(段落[0074]、図9)。また、特許文献2では、適応動作の停止中、伝達関数(G)の変化に応じて適応デジタルフィルタ(13)のフィルタ係数を畳み込む(図12、段落[0075]〜[0093])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−361721号公報
【特許文献2】特開平05−158487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献2では、車体加速度センサ(21)の検出値に基づく車体加速度変化量が所定の閾値を上回り、且つ車体加速度の変化速度が所定の閾値を上回る場合、適応動作を停止し、その後、車体加速度の変化量が所定の閾値を下回る場合、適応動作を再開する。換言すると、特許文献2では、車体加速度の変化量が大きい場合のみ、伝達関数が変化するとの前提に立った技術が開示されているように見受けられる。
【0006】
しかしながら、車体加速度の変化量が小さい場合でも車体姿勢が変化し、伝達関数が通常時と異なる場合が存在する。例えば、比較的長いカーブ路を走行する場合や比較的長い下り坂を緩やかにブレーキングしながら走行する場合である。これらの場合、車体加速度の変化量が小さくなるため、特許文献2では、適応動作が再開されることとなる。この場合、伝達関数が通常時と異なるため、十分な消音性能が発揮されないおそれがある。
【0007】
この発明は、このような問題を考慮してなされたものであり、比較的長いカーブ路を走行する場合や比較的長い下り坂をブレーキングしながら走行する場合など、通常状態とは異なる車両姿勢を維持する場合であっても、能動型振動騒音制御装置を動作させると共に、振動騒音と打消音の誤差を素早く収束させることが可能な能動型振動騒音制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る能動型振動騒音制御装置は、路面入力に基づく振動又は騒音を検出し、当該振動又は騒音を示す参照信号を出力する参照信号出力手段と、消音対象位置において前記騒音を打ち消す打消音を示す制御信号を、前記参照信号に基づいて出力する適応フィルタと、前記制御信号に基づいて前記打消音を出力する打消音出力手段と、前記振動騒音と前記打消音との差を検出し、当該差を示す誤差信号を出力する誤差信号出力手段と、前記打消音出力手段から前記誤差信号出力手段までの伝達特性に基づいて前記参照信号を補正して補正参照信号を出力する補正手段と、前記誤差信号と前記補正参照信号とに基づいて前記誤差信号が最小となるように前記適応フィルタのフィルタ係数を逐次更新するフィルタ係数更新手段とを備えるものであって、さらに、前記参照信号出力手段から前記誤差信号出力手段までの伝達特性の変化に影響を及ぼす車両状態量を検出する車両状態量検出手段と、前記車両状態量の変化速度を算出する車両状態量変化速度算出手段とを備え、前記フィルタ係数更新手段は、前記車両状態量の変化速度が第1閾値を上回ると、その時点での前記車両状態量である第1車両状態量を保持すると共に、前記フィルタ係数の更新を停止し、その後、前記車両状態量の変化速度が前記第1閾値を下回ると、その時点での車両状態量である第2車両状態量と前記第1車両状態量との差を算出し、前記差が第2閾値を上回るとき、前記フィルタ係数の更新量を通常時より大きくして前記フィルタ係数の更新を再開することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、比較的長いカーブ路を走行する場合や比較的長い下り坂をブレーキングしながら走行する場合など、通常状態とは異なる車両姿勢を維持する場合であっても、能動型振動騒音制御装置を動作させることが可能となり、さらに、その場合、振動騒音と打消音の誤差を素早く収束させることが可能となる。
【0010】
すなわち、この発明によれば、参照信号出力手段から誤差信号出力手段までの伝達特性の変化に影響を及ぼす車両状態量の変化速度が第1閾値を上回ると、その時点での車両状態量である第1車両状態量を保持すると共に、フィルタ係数の更新を停止する。その後、車両状態量の変化速度が第1閾値を下回った時点での車両状態量である第2車両状態量と前記第1車両状態量との差が第2閾値を上回るとき、フィルタ係数の更新量を通常時より大きくしてフィルタ係数の更新を再開する。従って、車両状態量の変化速度が第1閾値を上回ったことによりフィルタ係数の更新を停止した後、車両状態量の変化速度が第1閾値を下回ったとき(すなわち、変化速度が、フィルタ係数の更新停止直前の状態まで戻ったとき)、第2車両状態量と第1車両状態量との差(すなわち、更新停止直前と更新再開直後の車両状態量の差)を比較する。そして、更新停止直前と更新再開直後の車両状態量の差が大きいときは、フィルタ係数の更新量を通常時より大きくすることで、更新停止直前の車両状態量まで素早く戻すことが可能となる。
【0011】
従って、比較的長いカーブ路を走行する場合や緩やかなブレーキングを継続する場合など、通常状態とは異なる車両姿勢を維持する場合であっても、能動型振動騒音制御装置を動作させ、振動騒音の制御を素早く追従させることが可能となる。
【0012】
前記車両状態量は、例えば、車体のロール量、ピッチ量及びヨー量(ヨーレート)の少なくとも1つとすることができる。
【0013】
前記参照信号出力手段は、サスペンションに設けられた加速度センサであり、前記車両状態量は転舵量又は制動量であってもよい。
【0014】
比較的長いカーブ路を走行する場合、直線道路を走行する場合と比べてロール量やヨー量が変化することに伴い、伝達特性も変化する。しかし、カーブ路を走行し続けている間は転舵速度は小さいままである。この発明によれば、直線道路からカーブ路に移行する際、車両状態量としての転舵量の変化速度(転舵速度)が大きくなり第1閾値を上回ると、フィルタ係数の更新を停止し、転舵速度が小さくなり第1閾値を下回ったとき、フィルタ係数の更新を再開する。当該更新の再開の際、カーブ路に入る際の転舵量とカーブ路を走行中の転舵量に開きがあれば、フィルタ係数の更新量を大きくしてフィルタ係数の更新を再開することが可能となる。従って、カーブ路を走行することにより伝達特性が変化している分を、更新量を大きくすることで補償することが可能となる。このため、比較的長いカーブ路を走行する場合であっても、振動騒音と打消音の誤差を素早く収束させることができ、ある程度の消音効果を得ることが可能となるため、能動型振動騒音制御装置を動作させることが可能となる。
【0015】
同様に、比較的長い下り坂を走行する場合、勾配のない道路を走行する場合と比べてピッチ量が変化することに伴い、伝達特性も変化する。しかし、下り坂を走行し続けている間は制動量の変化速度は小さいままである。この発明によれば、勾配のない道路から下り坂に移行する際、車両状態量としての制動量の変化速度が大きくなり第1閾値を上回ると、フィルタ係数の更新を停止し、制動量の変化速度が小さくなり第1閾値を下回ったとき、フィルタ係数の更新を再開する。当該更新の再開の際、下り坂に入る際の制動量と下り坂を走行中の制動量に開きがあれば、フィルタ係数の更新量を大きくしてフィルタ係数の更新を再開することが可能となる。従って、下り坂を走行することにより伝達特性が変化している分を、更新量を大きくすることで補償することが可能となる。このため、比較的長い下り坂を走行する場合であっても、振動騒音と打消音の誤差を素早く収束させることができ、ある程度の消音効果を得ることが可能となるため、能動型振動騒音制御装置を動作させることが可能となる。
【0016】
前記フィルタ係数更新手段は、ステップサイズパラメータを通常時よりも大きくすることで、前記フィルタ係数の更新量を通常時よりも大きくしてもよい。上記構成よれば、係数の1つとしてのステップサイズパラメータを変更すればよいため、例えば、誤差信号又は補正参照信号のゲインを変更する方法に比べて演算処理を少なくすることが可能となる。このため、上記構成により、フィルタ係数の更新量の変更を比較的簡易に行うことが可能となる。
【0017】
前記フィルタ係数更新手段は、前記フィルタ係数の更新を再開してから、所定時間、前記フィルタ係数の更新量を通常時よりも大きくしてもよい。フィルタ係数の更新量を通常時よりも大きくすると、オーバーシュートが発生する場合もあり得る。そこで、フィルタ係数の更新量を通常時よりも大きくする時間を区切ることにより、振動騒音と打消音の誤差の収束を早める期間と、誤差の収束の精度を高めるそれ以後の期間とを分けることで消音性能を向上することが可能となる。
【0018】
前記フィルタ係数更新手段は、前記フィルタ係数の更新を再開してから前記フィルタ係数の変化速度が第3閾値を上回る間、前記フィルタ係数の更新量を通常時よりも大きくしてもよい。フィルタ係数の更新量は誤差信号に応じて大きくなることから、振動騒音と打消音との誤差が大きい場合、フィルタ係数の変化速度が第3閾値を上回るようにすることで、フィルタ係数の更新量を大きくし、振動騒音と打消音との誤差を素早く収束することが可能となる。一方、振動騒音と打消音との誤差が小さい場合、フィルタ係数の変化速度が第3閾値を下回るようにすることで、フィルタ係数の更新量を通常時の値とし、オーバーシュートを防ぐことが可能となる。これにより、振動騒音と打消音との誤差の収束精度を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、比較的長いカーブ路を走行する場合や比較的長い下り坂をブレーキングしながら走行する場合など、通常状態とは異なる車両姿勢を維持する場合であっても、能動型振動騒音制御装置を動作させることが可能となり、さらに、その場合、振動騒音と打消音の誤差を素早く収束させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の第1実施形態に係る能動型騒音制御装置を搭載した車両の概略的な構成図である。
【図2】第1実施形態において車輪への路面入力が乗員耳位置まで伝達する経路の一例を示す図である。
【図3】第1実施形態の加速度センサユニットとその周辺の概略構成図である。
【図4】第1実施形態の前記能動型騒音制御装置の機能ブロック図である。
【図5】第1実施形態の前記能動型騒音制御装置における制御信号生成部の機能ブロック図である。
【図6】第1実施形態において打消音を生成するフローチャートである。
【図7】第1実施形態のステップサイズパラメータ選択部における処理のフローチャートである。
【図8】この発明の第2実施形態に係る能動型騒音制御装置を搭載した車両の概略的な構成図である。
【図9】第2実施形態の加速度センサユニットとその周辺の概略構成図である。
【図10】第2実施形態の前記能動型騒音制御装置の機能ブロック図である。
【図11】第2実施形態の前記能動型騒音制御装置における制御信号生成部の機能ブロック図である。
【図12】第2実施形態において車輪への路面入力が乗員耳位置まで伝達する経路の一例を示す図である。
【図13】第2実施形態のステップサイズパラメータ選択部における処理のフローチャートである。
【図14】第1実施形態の前記能動型騒音制御装置の変形例における制御信号生成部の機能ブロック図である。
【図15】前記変形例のステップサイズパラメータ選択部における処理のフローチャートである。
【図16】図15のフローチャートの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[A.第1実施形態]
1.全体及び各部の構成
(1)全体構成
図1は、この発明の第1実施形態に係る能動型騒音制御装置12(以下「ANC装置12」と称する。)を搭載した車両10の概略的な構成を示す図である。車両10は、ガソリン車や電気自動車(燃料電池車を含む。)等の車両とすることができる。
【0022】
車両10は、ANC装置12に加え、複数のサスペンション14と、サスペンション14に設けられた複数の加速度センサユニット16と、ブレーキ機構18と、スピーカ20と、マイクロフォン22とを有する。
【0023】
ANC装置12は、加速度センサユニット16からの加速度信号Sx、Sy、Szと、ブレーキ機構18からの操作量θbと、マイクロフォン22からの誤差信号eとに基づいて第2合成制御信号Scc2を生成する。第2合成制御信号Scc2は、図示しない増幅器で増幅された後、スピーカ20に出力される。スピーカ20は、第2合成制御信号Scc2に対応する打消音CSを出力する。
【0024】
車両10の車室内に発生する振動騒音は、図示しないエンジンの振動に伴って生じる振動騒音(エンジンこもり音NZe)と、車両10の走行中に車輪24と路面Rとが接触し、車輪24が振動することに伴って生じる振動騒音(ロードノイズNZr)とを複合した振動騒音(複合騒音NZc)である。本実施形態のANC装置12によれば、複合騒音NZcのうちロードノイズNZrの成分を打消音CSが打ち消し、消音効果を得ることができる。なお、車輪24への路面入力が乗員耳位置まで伝達する経路は、例えば、図2のようなものである。
【0025】
また、ANC装置12には、ロードノイズNZrの消音機能に加え、エンジンこもり音NZeの消音機能を持たせることもできる。すなわち、ANC装置12に従前のエンジンこもり音用の構成(例えば、特許文献1)を併せ持たせることも可能である。
【0026】
さらに、図1では図示していないが、加速度センサユニット16は4つ設けられており(図4参照)、各加速度センサユニット16は、4つの車輪24(左前輪、右前輪、左後輪、右後輪)に対応して設けられている。さらに、図1、図4及び図5では、スピーカ20及びマイクロフォン22をそれぞれ1つずつしか示していないが、発明の理解の容易化のためであり、ANC装置12の用途に応じて複数のスピーカ20及びマイクロフォン22を用いることもできる。その場合、その他の構成要素の数も適宜変更される。
【0027】
(2)サスペンション14及び加速度センサユニット16
図3に示すように、各加速度センサユニット16は、サスペンション14の中でも、車輪24のホイール32に連結されたナックル30に設けられている。サスペンション14は、ナックル30に加え、連結部材38a、38bを介してナックル30及びボディ36に連結されたアッパーアーム34と、連結部材44a、44bを介してナックル30及びサブフレーム42に連結されたロアアーム40と、ダンパスプリング48を介してボディ36に連結され、連結部材50を介してロアアーム40に連結されたダンパ46とを有する。ボディ36とサブフレーム42は連結部材52を介して連結されている。また、ナックル30の内部には、図示しないエンジンから延びるドライブシャフト(図示せず)が回転自在に挿入されている。
【0028】
図4に示すように、各加速度センサユニット16は、振動加速度Axを検出する加速度センサ60xと、振動加速度Ayを検出する加速度センサ60yと、振動加速度Azを検出する加速度センサ60zとを有する。加速度センサ60xに検出される振動加速度Axは、車両10の前後方向(図1中、X方向)におけるナックル30の振動加速度[mm/s/s]を示す。加速度センサ60yに検出される振動加速度Ayは、車両10の左右方向(図3のY方向)におけるナックル30の振動加速度[mm/s/s]を示す。加速度センサ60zに検出される振動加速度Azは、車両10の上下方向(図1中、Z方向)におけるナックル30の振動加速度[mm/s/s]を示す。
【0029】
各加速度センサユニット16は、各ナックル30で検出した振動加速度Ax、Ay、Azを示す加速度信号Sx、Sy、SzをANC装置12に出力する。ANC装置12では、アナログ/デジタル(A/D)変換した加速度信号Sx、Sy、Szを参照信号として打消音CSを生成する。以下では、加速度信号Sx、Sy、Szを参照信号Sbともいう。
【0030】
(3)ブレーキ機構18
ブレーキ機構18は、ブレーキペダル26と、操作量センサ28と、ブレーキパッド29とを有する(図1及び図3参照)。操作量センサ28は、ブレーキペダル26の操作量θb[度]を検出し、図示しないブレーキ制御部及びANC装置12に送信する。前記ブレーキ制御部は、図示しないブレーキアクチュエータ等を操作量θbに応じて動作させ、ブレーキパッド29から車輪24に制動力を付与する。
【0031】
(4)ANC装置12
(a)全体構成
ANC装置12は、スピーカ20からの打消音CSの出力を制御するものであり、マイクロコンピュータ56、メモリ58(図1)等を備える。マイクロコンピュータ56は、打消音CSを決定する機能(打消音決定機能)等の機能をソフトウェア処理により実行可能である。
【0032】
図4は、ANC装置12の機能ブロック図である。図4に示すように、ANC装置12は、加速度センサ60x、60y、60z毎に設けられた制御信号生成部62と、加速度センサユニット16毎に設けられた第1加算器64と、第2加算器66を有する。制御信号生成部62、第1加算器64及び第2加算器66は、マイクロコンピュータ56及びメモリ58により構成される。
【0033】
なお、本実施形態において、加速度センサ60x、60y、60zから出力される加速度信号Sx、Sy、Szはアナログ信号であり、ANC装置12におけるアナログ/デジタル変換器(図示せず)によりアナログ/デジタル(A/D)変換された後に制御信号生成部62に入力される。加えて、第2加算器66から出力されるデジタル信号としての第2合成制御信号Scc2は、ANC装置12におけるデジタル/アナログ変換器(図示せず)によりデジタル/アナログ(D/A)変換された後にスピーカ20に入力される。
【0034】
また、説明の便宜のため、加速度センサユニット16毎の制御信号生成部62及び第1加算器64を制御信号生成ユニット68と呼ぶ。図4では、一番上の制御信号生成ユニット68のみ内部を示し、その他の制御信号生成ユニット68は内部を省略して示している。
【0035】
(b)制御信号生成部62
図5は、制御信号生成部62の1つの機能ブロック図である。図5に示す制御信号生成部62は、加速度センサ60xに対応するものであるが、加速度センサ60y、60zに対応する制御信号生成部62も同様の構成を備える。
【0036】
図5に示すように、制御信号生成部62は、適応フィルタ処理部70と、操作量変化速度算出部72(以下「Δθb算出部72」とも称する。)と、ステップサイズパラメータ選択部74(以下「μ選択部74」とも称する。)とを有する。
【0037】
適応フィルタ処理部70は、図示しないアナログ/デジタル変換器でA/D変換された加速度信号Sx、Sy、Sz(参照信号Sb)に基づいて適応フィルタ制御を行うものであり、適応フィルタ80と、参照信号補正部82と、フィルタ係数更新部84とを有する。
【0038】
適応フィルタ80は、例えば、FIR(Finite impulse response:有限インパルス応答)型又は適応ノッチ型のフィルタであり、参照信号Sbに対してフィルタ係数Wを用いた適応フィルタ処理を行って、ロードノイズNZrを低減するための打消音CSの波形を示す制御信号Scrを出力する。
【0039】
参照信号補正部82は、参照信号Sbに対して伝達関数処理を行うことで補正参照信号Srを生成する。補正参照信号Srは、フィルタ係数更新部84においてフィルタ係数Wを演算する際に用いられる。また、伝達関数処理は、スピーカ20からマイクロフォン22への打消音CSの伝達関数Ce(フィルタ係数)に基づき参照信号Sbを補正する処理である。この伝達関数処理で用いられる伝達関数Ceは、スピーカ20からマイクロフォン22への打消音CSの実際の伝達関数Cの測定値又は予測値である。
【0040】
フィルタ係数更新部84は、フィルタ係数Wを逐次演算・更新するものであり、乗算器90と、フィルタ係数算出部92とを有する。フィルタ係数更新部84は、適応アルゴリズム演算{例えば、最小二乗法(LMS)アルゴリズム演算}を用いてフィルタ係数Wを演算する。すなわち、参照信号補正部82からの補正参照信号Srとマイクロフォン22からの誤差信号eに基づいて、誤差信号eの二乗eをゼロとするようにフィルタ係数Wを演算する。
【0041】
なお、本実施形態では、フィルタ係数更新部84が演算するフィルタ係数Wの更新量は、ステップサイズパラメータμによっても制御される(詳細は後述する。)。
【0042】
Δθb算出部72は、操作量センサ28からの操作量θbの単位時間当たりの変化量(以下「変化速度Δθb」と称する。)[度/sec]を算出し、μ選択部74に出力する。
【0043】
μ選択部74は、フィルタ係数更新部84で用いるステップサイズパラメータμを、操作量センサ28からの操作量θbとΔθb算出部72からの変化速度Δθbとに基づいて選択する(詳細は後述する。)。
【0044】
(c)第1加算器64
各第1加算器64は、各制御信号生成部62から出力された制御信号Scrを合成し、第1合成制御信号Scc1を生成する。
【0045】
(d)第2加算器66
第2加算器66は、各制御信号生成ユニット68の第1加算器64から出力された第1合成制御信号Scc1を合成し、第2合成制御信号Scc2を生成する。第2合成制御信号Scc2は、図示しないD/A変換器でD/A変換された後、スピーカ20に入力される。
【0046】
(5)スピーカ20
スピーカ20は、ANC装置12(マイクロコンピュータ56)からの第2合成制御信号Scc2に対応する打消音CSを出力する。これにより、ロードノイズNZrの消音効果が得られる。
【0047】
(6)マイクロフォン22
マイクロフォン22は、ロードノイズNZrと打消音CSとの誤差を残留騒音として検出し、この残留騒音を示す誤差信号eをANC装置12(マイクロコンピュータ56)に出力する。
【0048】
2.各部の処理
(1)打消音CSの生成
次に、第1実施形態における打消音CSの生成の流れについて説明する。図6は、打消音CSを生成するフローチャートである。ステップS1において、各加速度センサユニット16の加速度センサ60x、60y、60zは、X軸方向の振動加速度Ax、Y軸方向の振動加速度Ay及びZ軸方向の振動加速度Azを検出し、振動加速度Ax、Ay、Azを示す加速度信号Sx、Sy、Sz(参照信号Sb)を生成する。
【0049】
ステップS2において、適応フィルタ処理部70は、図示しないA/D変換器によりA/D変換された加速度信号Sx、Sy、Sz(参照信号Sb)と、マイクロフォン22からの誤差信号eとに基づき、適応フィルタ処理を実施することにより制御信号Scrを生成する。
【0050】
ステップS3において、第1加算器64は、各制御信号生成部62の適応フィルタ処理部70から出力された制御信号Scrを合成して、第1合成制御信号Scc1を生成する。
【0051】
ANC装置12は、上記ステップS1〜S3を、4つの加速度センサユニット16それぞれに対応して行う。
【0052】
ステップS4において、第2加算器66は、各第1加算器64から出力された第1合成制御信号Scc1を合成して第2合成制御信号Scc2を生成する。
【0053】
ステップS5において、スピーカ20は、第2合成制御信号Scc2に基づく打消音CSを出力する。なお、第2加算器66からスピーカ20に入力される際、第2合成制御信号Scc2は、図示しないD/A変換器によりD/A変換され且つ図示しない増幅器により振幅調整される。
【0054】
ステップS6において、マイクロフォン22は、ロードノイズNZrを含む複合騒音NZcと打消音CSとの差を残留騒音として検出し、この残留騒音に対応する誤差信号eを出力する。この誤差信号eは、ANC装置12のその後の適応フィルタ処理で用いられる。
【0055】
ANC装置12では、以上のステップS1〜S6を演算周期毎に繰り返す。
【0056】
(2)フィルタ係数更新部84における処理
次に、フィルタ係数更新部84(図5)における処理について説明する。上述の通り、フィルタ係数更新部84は、適応フィルタ80で用いるフィルタ係数Wを逐次演算・更新する。フィルタ係数更新部84は、適応アルゴリズム演算{例えば、最小二乗法(LMS)アルゴリズム演算}を用いてフィルタ係数Wを演算する。すなわち、参照信号補正部82からの補正参照信号Srとマイクロフォン22からの誤差信号eに基づいて、誤差信号eの二乗eをゼロとするようにフィルタ係数Wを演算する。
【0057】
具体的には、以下の式(1)を用いる。
【0058】
W(n+1)=W(n)−μ(n)・e(n)・Sr(n) (1)
【0059】
上記式(1)において、「n」は更新前(今回)を示し、「n+1」は更新後(次回)を示し、「W(n+1)」は次回のフィルタ係数Wを示し、「W(n)」は今回のフィルタ係数Wを示し、「μ(n)」は今回のステップサイズパラメータを示し、「e(n)」は今回の誤差信号eを示し、「Sr(n)」は今回の補正参照信号Srを示す。
【0060】
図5では、上記式(1)のうち誤差信号e(n)と補正参照信号Sr(n)との乗算を乗算器90において行うものとして示されている。また、(a)誤差信号e(n)と補正参照信号Sr(n)の積とステップサイズパラメータμ(n)との乗算、及び(b)フィルタ係数W(n)と積μ(n)・e(n)・Sr(n)との減算をフィルタ係数算出部92において行うものとして示されている。但し、上述の通り、フィルタ係数更新部84の処理はソフトウェアにより行われるため、必ずしも上記順番で演算を行う必要はない。
【0061】
また、本実施形態で用いるステップサイズパラメータμ(n)は可変であり、後述する方法でμ選択部74により設定される。
【0062】
(3)μ選択部74における処理
次に、μ選択部74における処理について説明する。図7には、μ選択部74における処理のフローチャートが示されている。
【0063】
ステップS11において、μ選択部74は、操作量センサ28から操作量θb(n)を、Δθb算出部72から変化速度Δθb(n)を取得する。ステップS12において、μ選択部74は、変化速度Δθb(n)の絶対値が操作量変化速度閾値TH_Δθb(以下「閾値TH_Δθb」と称する。)未満であるか否かを判定する。閾値TH_Δθbは、ブレーキペダル26が原位置(θb=0)にある状態から踏み込まれることで車両10の姿勢(ピッチ量)が変化したことを検出するための正の値である。本実施形態では、閾値TH_Δθbは、ブレーキペダル26が踏み込まれれば、変化速度Δθbが閾値TH_Δθbを超える程度の低い値に設定される。また、変化速度Δθbの絶対値と閾値TH_Δθbとを比較するため、ブレーキペダル26が踏み込まれる場合のみならず、ブレーキペダル26を戻す場合も変化速度Δθbの絶対値が閾値TH_Δθbを上回ることとなる。
【0064】
変化速度Δθb(n)の絶対値が閾値TH_Δθbを下回る場合(S12:YES)は、例えば、ブレーキペダル26が全く若しくはほとんど踏み込まれていない場合又はブレーキペダル26が踏み込まれた状態で静止状態にある場合(例えば、信号待ちのため停止している場合)である。この場合、ステップS13において、μ選択部74は、図示しない再開時カウンタのカウント値CNTがゼロより大きいか否かを判定する。再開時カウンタは、フィルタ係数Wの更新を再開した後、後述する再開時ステップサイズパラメータμ2を選択可能な期間を設定するため減算カウンタであり、後述するステップS16においてリセットされて最大値に設定される。減算カウンタの代わりに、加算カウンタとすることもできる。カウント値CNTがゼロの場合、再開時ステップサイズパラメータμ2を選択できないが、ゼロ以外の場合、再開時ステップサイズパラメータμ2を選択可能である。
【0065】
カウント値CNTがゼロである場合(S13:NO)、ステップS14において、μ選択部74は、通常時に用いるステップサイズパラメータμの値(以下「通常時ステップサイズパラメータμ1」と称する。)を、今回のステップサイズパラメータμ(n)として選択する。通常時ステップサイズパラメータμ1は、ステップサイズパラメータμのデフォルト値であり、例えば、0.003である。ステップS14により今回の演算周期を終了し、ステップS11に戻り、次の演算周期となる。
【0066】
ステップS12に戻り、変化速度Δθb(n)の絶対値が閾値TH_Δθb未満でない場合(S12:NO)、ステップS15において、μ選択部74は、今回の操作量θb(n)を停止前操作量θb1として記憶する。
【0067】
ステップS16において、μ選択部74は、前記再開判定カウンタのカウント値CNTをリセットして最大値とする。ステップS17において、μ選択部74は、今回のステップサイズパラメータμ(n)としてゼロを選択する。これにより、上記式(1)の右辺第2項「−μ(n)・e(n)・Sr(n)」はゼロとなりフィルタ係数Wの更新量がなくなるため、適応フィルタWの更新は実質的に停止する。ステップS17により今回の演算周期を終了し、ステップS11に戻り、次の演算周期となる。
【0068】
ステップS13に戻り、カウント値CNTがゼロより大きい場合(S13:YES)、ステップS18において、μ選択部74は再開判定カウンタのカウント値CNTを減算する。
【0069】
ステップS19において、μ選択部74は、今回の操作量θb(n)と、前回以前の演算周期のステップS15で設定した停止前操作量θb1との差の絶対値が、ステップサイズパラメータ選択閾値TH_μ(以下「閾値TH_μ」と称する。)を上回るか否かを判定する。閾値TH_μは、ステップサイズパラメータμを選択するための閾値である。具体的には、今回の操作量θb(n)と停止前操作量θb1との差が大きい場合、今回の操作量θb(n)は、フィルタ係数Wの更新を停止した際の操作量θbとの差が大きいこととなる。このような場合としては、例えば、比較的長い下り坂をブレーキングしながら走行する場合が考えられる。比較的長い下り坂をブレーキングしながら走行する場合、勾配のない道路を走行する場合と比べてピッチ量が変化することに伴い、伝達特性Cも変化する。しかし、下り坂を走行し続けている間は操作量θbの変化速度Δθb(すなわち、制動量の変化速度)は小さいままである。
【0070】
そこで、今回の操作量θb(n)と停止前操作量θb1との差の絶対値が閾値TH_μを上回る場合(S19:YES)、ステップS20において、μ選択部74は、フィルタ係数Wの更新の再開時に用いるステップサイズパラメータμの値(以下「再開時ステップサイズパラメータμ2」と称する。)を、今回のステップサイズパラメータμ(n)として選択する。再開時ステップサイズパラメータμ2は、通常時ステップサイズパラメータμ1よりも大きい値(例えば、0.01)である。ステップS17でステップサイズパラメータμ(n)をゼロにした直後の演算周期のステップS20においてステップサイズパラメータμ(n)に再開時ステップサイズパラメータμ2を設定した場合、フィルタ係数Wの更新が再開される。
【0071】
このように、通常時ステップサイズパラメータμ1よりも大きい再開時ステップサイズパラメータμ2を用いることにより、ロードノイズNZrと打消音CSとの誤差を素早く収束させること(誤差信号eの値を素早くゼロに近づけること)が可能となる。ステップサイズパラメータμを大きくすることにより、オーバーシュート(ゼロ近傍でのばらつき)が大きくなるおそれもある。しかし、更新再開時は誤差が大きいため、オーバーシュートの可能性が低い状態で、収束を早めることができる。また、伝達関数Cが変化している場合、当初の消音性能を保つことは困難であるが、ある程度の消音効果を得ることは可能となる。換言すると、ANC装置12を停止させるよりは消音効果を発揮することが可能となる。
【0072】
一方、今回の操作量θb(n)と停止前操作量θb1との差の絶対値が閾値TH_μを上回らない場合(S19:NO)、フィルタ係数Wの更新停止直前と直後の操作量θbの差は小さい。このため、フィルタ係数Wの更新停止直前と直後において、車両10の姿勢及びこれに伴う実際の伝達関数Cはほとんど変わらないものと考えられる。そこで、ステップS21において、μ選択部74は、通常時ステップサイズパラメータμ1を、今回のステップサイズパラメータμ(n)として選択する。ステップS17でステップサイズパラメータμ(n)をゼロにした直後の演算周期のステップS21においてステップサイズパラメータμ(n)に通常時ステップサイズパラメータμ1を設定した場合、フィルタ係数Wの更新が再開される。
【0073】
このように、カウント値CNTがゼロでなくても今回の操作量θb(n)と停止前操作量θb1との差の絶対値が小さければ、通常時ステップサイズパラメータμ1を用いることにより、更新開始直後であっても通常時と同様の消音性能を発揮することが可能となる。ステップS20又はステップS21により今回の演算周期を終了し、ステップS11に戻り、次の演算周期となる。
【0074】
3.第1実施形態における効果
以上のように、第1実施形態によれば、比較的長い下り坂をブレーキングしながら走行する場合など、通常状態とは異なる車両10の姿勢を維持する場合であっても、ANC装置12を動作させることが可能となり、さらに、その場合、ロードノイズNZrと打消音CSの誤差を素早く収束させることが可能となる。
【0075】
すなわち、第1実施形態によれば、伝達特性Cの変化に影響を及ぼす操作量θbの変化速度Δθbが変化速度閾値TH_Δθb(第1閾値)を上回ると、その時点での操作量θb(n)を停止前操作量θb1(第1車両状態量)として保持すると共に、フィルタ係数Wの更新を停止する。その後、変化速度Δθbが閾値TH_Δθbを下回った時点での操作量θbと停止前操作量θb1との差がステップサイズパラメータ選択閾値TH_μ(第2閾値)を上回るとき、再開時ステップサイズパラメータμ2を用いてフィルタ係数Wの更新量を通常時より大きくしてフィルタ係数Wの更新を再開する。従って、変化速度Δθbが閾値TH_Δθを上回ったことによりフィルタ係数Wの更新を停止した後、変化速度Δθbが閾値TH_Δθbを下回ったとき(すなわち、変化速度Δθbが、フィルタ係数Wの更新停止直前の状態まで戻ったとき)、今回の操作量θb(n)と停止前操作量θb1との差(すなわち、更新停止直前と更新再開直後の操作量θbの差)を比較する。そして、更新停止直前と更新再開直後の操作量θbの差が大きいときは、フィルタ係数Wの更新量を通常時より大きくすることで、更新停止直前の操作量θb(停止前操作量θb1)まで素早く戻すことが可能となる。
【0076】
従って、緩やかなブレーキングを継続する場合など、通常状態とは異なる車両姿勢を維持する場合であっても、ANC装置12を動作させ、ロードノイズNZrの制御を素早く追従させることが可能となる。
【0077】
また、比較的長い下り坂を走行する場合、勾配のない道路を走行する場合と比べてピッチ量が変化することに伴い、伝達特性Cも変化する。しかし、下り坂を走行し続けている間は変化速度Δθb(制動量の変化速度)は小さいままである。第1実施形態によれば、勾配のない道路から下り坂に移行する際、変化速度Δθbが大きくなり閾値TH_Δθbを上回ると、フィルタ係数Wの更新を停止し、変化速度Δθbが小さくなり閾値TH_Δθbを下回ったとき、フィルタ係数Wの更新を再開する。当該更新の再開の際、下り坂に入る際の操作量θb(制動量)と下り坂を走行中の操作量θb(制動量)に開きがあれば、フィルタ係数Wの更新量を大きくしてフィルタ係数Wの更新を再開することが可能となる。従って、下り坂を走行することにより伝達特性Cが変化している分を、更新量を大きくすることで補償することが可能となる。このため、比較的長い下り坂を走行する場合であっても、ロードノイズNZrと打消音CSの誤差を素早く収束させることができ、ある程度の消音効果を得ることが可能となるため、ANC装置12を動作させることが可能となる。
【0078】
第1実施形態において、フィルタ係数更新部84は、ステップサイズパラメータμを通常時よりも大きくすることで、フィルタ係数Wの更新量を通常時よりも大きくする。これにより、フィルタ係数Wの更新式{式(1)}の係数の1つとしてのステップサイズパラメータμ(n)を変更すればよいため、例えば、誤差信号e(n)又は補正参照信号Sr(n)のゲインを変更する方法に比べて演算処理を少なくすることが可能となる。このため、上記構成により、フィルタ係数Wの更新量の変更を比較的簡易に行うことが可能となる。
【0079】
第1実施形態において、フィルタ係数更新部84は、フィルタ係数Wの更新を再開してから、カウント値CNTがゼロになるまで、フィルタ係数Wの更新量を通常時よりも大きくことを可能とする。フィルタ係数Wの更新量を通常時よりも大きくすると、オーバーシュートが発生する可能性が高くなる。そこで、フィルタ係数Wの更新量を通常時よりも大きくする時間を区切ることにより、ロードノイズNZrと打消音CSの誤差の収束を早める期間と、誤差の収束の精度を高めるそれ以後の期間とを分けることで消音性能を向上することが可能となる。
【0080】
[B.第2実施形態]
1.全体及び各部の構成(第1実施形態との相違)
図8は、この発明の第2実施形態に係る能動型騒音制御装置12a(以下「ANC装置12a」と称する。)を搭載した車両10Aの概略的な構成を示す図である。図9は、車両10Aに設けられた加速度センサユニット16とその周辺の概略構成図である。図10は、ANC装置12aの機能ブロック図である。以下では、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照番号を付してその説明を省略する。
【0081】
車両10Aは、ANC装置12a、複数のサスペンション14、複数の加速度センサユニット16、スピーカ20及びマイクロフォン22に加え、ステアリング100の舵角θs[度]を検出する舵角センサ102を有する。舵角θsは、ステアリング100の操舵量を示す。
【0082】
図11は、ANC装置12aを構成する制御信号生成部62aの1つの機能ブロック図である。図11に示す制御信号生成部62aは、加速度センサ60xに対応するものであるが、加速度センサ60y、60zに対応する制御信号生成部62aも同様の構成を備える。また、説明の便宜のため、加速度センサユニット16毎の制御信号生成部62a及び第1加算器64を制御信号生成ユニット68aと呼ぶ。
【0083】
図11に示すように、制御信号生成部62aは、第1実施形態と同様の適応フィルタ処理部70に加え、操舵速度算出部104(以下「Δθs算出部104」とも称する。)と、ステップサイズパラメータ選択部106(以下「μ選択部106」とも称する。)とを有する。
【0084】
Δθs算出部104は、舵角センサ102からの舵角θs(操舵量)の単位時間当たりの変化量(以下「操舵速度Δθs」と称する。)[度/sec]を算出し、μ選択部106に出力する。
【0085】
μ選択部106は、フィルタ係数更新部84で用いるステップサイズパラメータμを、舵角センサ102からの舵角θsとΔθs算出部104からの操舵速度Δθsとに基づいて選択する(詳細は後述する。)。
【0086】
なお、第2実施形態において、車輪24への路面入力が乗員耳位置まで伝達する経路は、例えば、図12のようなものである。
【0087】
2.各部の処理
(1)打消音CSの生成
第2実施形態における打消音CSの生成の流れは、基本的に第1実施形態と同じであり、図6のフローチャートをそのまま流用可能である。
【0088】
(2)フィルタ係数更新部84における処理
第2実施形態のフィルタ係数更新部84における処理は、ステップサイズパラメータμの選択をμ選択部106が行う点を除けば、第1実施形態と同じである。
【0089】
(3)μ選択部106における処理
次に、μ選択部106における処理について説明する。図13は、μ選択部106における処理のフローチャートである。
【0090】
ステップS31において、μ選択部106は、舵角センサ102から舵角θs(n)を、Δθs算出部104から操舵速度Δθs(n)を取得する。ステップS32において、μ選択部106は、操舵速度Δθs(n)の絶対値が操舵速度閾値TH_Δθs(以下「閾値TH_Δθs」と称する。)未満であるか否かを判定する。閾値TH_Δθsは、ステアリング100が原位置にある状態から旋回されることで車両10Aの姿勢(ロール量及びヨー量)が変化したことを検出するための正の値である。本実施形態では、閾値TH_Δθsは、ステアリング100が旋回されれば、操舵速度Δθsが閾値TH_Δθsを超える程度の低い値に設定される。また、操舵速度Δθsの絶対値と閾値TH_Δθsとを比較するため、舵角θsが初期値(θs=0)から増加又は減少する場合(例えば、カーブ路に入る場合)のみならず、舵角θsを初期値に戻す場合(カーブ路から直線路に入る場合)も操舵速度Δθsの絶対値が閾値TH_Δθsを上回ることとなる。
【0091】
操舵速度Δθs(n)の絶対値が閾値TH_Δθsを下回る場合(S32:YES)は、例えば、ステアリング100が原位置又はその近傍にある場合又はステアリング100が回された状態で静止状態にある場合(例えば、同じ曲率半径のカーブ路を走行し続けている場合)である。この場合、ステップS33に進む。ステップS33、S34は、図7のステップS13、S14と同様である。
【0092】
ステップS32において、操舵速度Δθs(n)の絶対値が閾値TH_Δθs未満でない場合(S32:NO)は、例えば、ステアリング100を旋回させている途中(例えば、直線路からカーブ路に入る場合又はカーブ路から直線路に入る場合)である。この場合、ステップS35において、μ選択部106は、今回の舵角θs(n)を停止前舵角θs1として記憶する。続くステップS36、S37は、図7のステップS16、S17と同様である。
【0093】
ステップS33に戻り、カウント値CNTがゼロより大きい場合(S33:YES)、ステップS38において、μ選択部106は再開判定カウンタのカウント値CNTを減算する。
【0094】
ステップS39において、μ選択部106は、今回の舵角θs(n)と、前回以前の演算周期のステップS35で設定した停止前舵角θs1との差の絶対値が、第2ステップサイズパラメータ選択閾値TH_μ2(以下「閾値TH_μ2」と称する。)を上回るか否かを判定する。閾値TH_μ2は、ステップサイズパラメータμを選択するための閾値である。具体的には、今回の舵角θs(n)と停止前舵角θs1との差が大きい場合、今回の舵角θs(n)は、フィルタ係数Wの更新を停止した際の舵角θsとの差が大きいこととなる。このような場合としては、例えば、比較的長いカーブ路を走行する場合が考えられる。比較的長いカーブ路を走行する場合、直線路を走行する場合と比べてロール量及びヨー量が変化することに伴い、伝達特性Cも変化する。しかし、カーブ路を走行し続けている間は操舵速度Δθs(すなわち、車体姿勢の変化速度)は小さいままである。
【0095】
そこで、今回の舵角θs(n)と停止前舵角θs1との差の絶対値が閾値TH_μ2を上回る場合(S39:YES)、ステップS40において、μ選択部106は、再開時ステップサイズパラメータμ2を、今回のステップサイズパラメータμ(n)として選択する。
【0096】
このように、通常時ステップサイズパラメータμ1よりも大きい再開時ステップサイズパラメータμ2を用いることにより、ロードノイズNZrと打消音CSとの誤差を素早く収束させること(誤差信号eの値を素早くゼロに近づけること)が可能となる。ステップサイズパラメータμを大きくすることにより、オーバーシュート(ゼロ近傍でのばらつき)が大きくなるおそれもある。しかし、更新再開時は誤差が大きいため、オーバーシュートの可能性が低い状態で、収束を早めることができる。また、伝達関数Cが変化している場合、当初の消音性能を保つことは困難であるが、ある程度の消音効果は得ることが可能となる。換言すると、ANC装置12aを停止させるよりは消音効果を発揮することが可能となる。
【0097】
一方、今回の舵角θs(n)と停止前舵角θs1との差の絶対値が閾値TH_μ2を上回らない場合(S39:NO)、フィルタ係数Wの更新停止直前と直後の舵角θsの差は小さい。このため、フィルタ係数Wの更新停止直前と直後において、車両10の姿勢及びこれに伴う実際の伝達関数Cはほとんど変わらないものと考えられる。そこで、ステップS41において、μ選択部106は、通常時ステップサイズパラメータμ1を、今回のステップサイズパラメータμ(n)として選択する。
【0098】
このように、カウント値CNTがゼロでなくても今回の舵角θs(n)と停止前舵角θs1との差の絶対値が小さければ、通常時ステップサイズパラメータμ1を用いることにより、更新開始直後であっても通常時と同様の消音性能を発揮することが可能となる。ステップS40又はステップS41により今回の演算周期を終了し、ステップS31に戻り、次の演算周期となる。
【0099】
3.第2実施形態における効果
以上のような第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果に加え、以下の効果を奏することが可能となる。
【0100】
例えば、比較的長いカーブ路を走行する場合、直線道路を走行する場合と比べてロール量やヨー量が変化することに伴い、伝達特性Cも変化する。しかし、カーブ路を走行し続けている間は操舵速度Δθsは小さいままである。第2実施形態によれば、直線道路からカーブ路に移行する際、操舵速度Δθsが大きくなり閾値TH_Δθsを上回ると、フィルタ係数Wの更新を停止し、操舵速度Δθsが小さくなり閾値TH_Δθsを下回ったとき、フィルタ係数Wの更新を再開する。当該更新の再開の際、カーブ路に入る際の舵角θsとカーブ路を走行中の舵角θsに開きがあれば、フィルタ係数Wの更新量を大きくしてフィルタ係数Wの更新を再開することが可能となる。従って、カーブ路を走行することにより伝達特性Cが変化している分を、更新量を大きくすることで補償することが可能となる。このため、比較的長いカーブ路を走行する場合であっても、ロードノイズNZrと打消音CSの誤差を素早く収束させることができ、ある程度の消音効果を得ることが可能となるため、ANC装置12aを動作させることが可能となる。
【0101】
[C.この発明の応用]
なお、この発明は、上記各実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下に示す構成を採ることができる。
【0102】
1.加速度センサユニット16
上記各実施形態では、4つの車輪24それぞれについて加速度センサユニット16を設けたが、そのうちのいずれかの車輪24にのみ加速度センサユニット16を設ける構成も可能である。また、上記各実施形態では、各加速度センサユニット16において、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3軸の方向の振動の振動加速度Ax、Ay、Azを検出したが、これに限らず、1軸もしくは2軸の方向又は4軸以上の方向の振動の加速度を検出してもよい。
【0103】
上記各実施形態では、振動加速度Ax、Ay、Azを加速度センサ60x、60y、60zにより直接検出したが、変位センサによりナックル30の変位[mm]を検出し、この変位に基づいて振動加速度Ax、Ay、Azを演算することもできる。同様に、荷重センサの検出値を用いて振動加速度Ax、Ay、Azを求めてもよい。さらに、例えば、車輪24の近傍に別のマイクロフォンを設け、当該マイクロフォンで振動騒音を検出し、当該振動騒音を示す信号を加速度信号Sx、Sy、Szの代わりに用いることもできる。
【0104】
上記各実施形態では、各加速度センサユニット16をナックル30に設けたが、ハブ等のその他の部位に設けることも可能である。
【0105】
2.車両状態量
第1実施形態では、操作量センサ28が検出した操作量θbを用いて車両10のピッチ量を検出する場合について説明したが、いわゆる回生ブレーキの作動状態に応じてピッチ量を検出する場合にも適用可能である。或いは、その他の方法(例えば、アクセルペダルの操作量、車体の前後方向及び上下の加速度、エンジンのスロットル開度)を用いてピッチ量を検出する場合にも適用することができる。この場合、アクセルペダルの操作量は操作量センサを用いて検出し、車体の前後方向及び上下の加速度は2軸以上の加速度センサ又はジャイロセンサを用いて検出し、エンジンのスロットル開度は開度センサを用いて検出することが可能である。
【0106】
第2実施形態では、舵角センサ102が検出した舵角θsを用いて車両10Aのロール量又はヨー量を検出する場合について説明したが、これに限らず、その他の方法{例えば、車体の横方向及び上下方向の加速度(ロール量の場合)、車体の前後方向及び横方向の加速度(ヨー量の場合)}を用いてロール量又はヨー量を検出する場合にも適用することができる。この場合、車体の加速度は加速度センサ又はジャイロセンサを用いて検出することが可能である。
【0107】
3.再開時ステップサイズパラメータμ2を選択可能な条件
上記各実施形態では、再開時ステップサイズパラメータμ2を選択可能な条件として再開時カウンタのカウント値CNTを用いたが、再開時ステップサイズパラメータμ2を選択可能な条件はこれに限らない。例えば、フィルタ係数Wの更新を再開してからフィルタ係数Wの単位時間当たりの変化量(以下「変化速度ΔW」と称する。)を用いて、再開時ステップサイズパラメータμ2を選択可能か否かを決定することもできる。
【0108】
図14には、第1実施形態のANC装置12の変形例としての能動型騒音制御装置12b(以下「ANC装置12b」と称する。)の制御信号生成部62bの1つの機能ブロック図である。ANC装置12bは、第1実施形態と同様、16個の制御信号生成部62bを備える(図4参照)。図14に示す制御信号生成部62bは、加速度センサ60xに対応するものであるが、加速度センサ60y、60zに対応する制御信号生成部62bも同様の構成を備える。説明の便宜のため、加速度センサユニット16毎の制御信号生成部62b及び第1加算器64を制御信号生成ユニット68bと呼ぶ。
【0109】
図14に示すように、制御信号生成部62bは、第1実施形態と同様の適応フィルタ処理部70及びΔθb算出部72に加え、フィルタ係数変化速度算出部110(以下「ΔW算出部110」と称する。)と、ステップサイズパラメータ選択部112(以下「μ選択部112」と称する。)とを有する。
【0110】
ΔW算出部110は、フィルタ係数更新部84からのフィルタ係数Wを連続的に取得することにより、フィルタ係数Wの変化速度ΔWを算出する。具体的には、ΔW算出部110は、前回の演算周期におけるフィルタ係数W(n−1)と、前々回の演算周期におけるフィルタ係数W(n−2)との差ΔW(n)を算出し、μ選択部112に出力する。
【0111】
μ選択部112は、フィルタ係数更新部84で用いるステップサイズパラメータμを、操作量センサ28からの操作量θbとΔθb算出部72からの変化速度ΔθbとΔW算出部110からの差ΔWとに基づいて選択する。
【0112】
図15には、μ選択部112における処理のフローチャートが示されている。
【0113】
ステップS51において、μ選択部112は、操作量センサ28から操作量θb(n)を、Δθb算出部72から変化速度Δθb(n)を、ΔW算出部110から変化速度ΔW(n)を取得する。ステップS52において、μ選択部112は、図7のステップS12と同様に、変化速度Δθb(n)の絶対値が操作量変化速度閾値TH_Δθb(閾値TH_Δθb)未満であるか否かを判定する。
【0114】
変化速度Δθb(n)の絶対値が閾値TH_Δθbを下回る場合(S52:YES)、ステップS53において、μ選択部112は、再開時フラグFLGがゼロであるか否かを判定する。再開時フラグFLGは、フィルタ係数Wの更新を再開した後、フィルタ係数Wの変化速度ΔWが安定したか否かを示すフラグである。フラグFLGの初期値はゼロであり、後述するステップS56において1に変更され、後述するステップS62においてゼロに戻される。
【0115】
フラグFLGがゼロである場合(S53:YES)、ステップS54において、μ選択部112は、通常時ステップサイズパラメータμ1を今回のステップサイズパラメータμ(n)として選択する。ステップS54により今回の演算周期を終了し、ステップS51に戻り、次の演算周期となる。
【0116】
ステップS52に戻り、変化速度Δθb(n)の絶対値が閾値TH_Δθb未満でない場合(S52:NO)、ステップS55において、μ選択部112は、図7のステップS15と同様に、今回の操作量θb(n)を停止前操作量θb1として記憶する。
【0117】
ステップS56において、μ選択部112は、再開時フラグFLGを1に設定する。ステップS57において、μ選択部112は、今回のステップサイズパラメータμ(n)としてゼロを選択する。これにより、適応フィルタWの更新は実質的に停止する。ステップS57により今回の演算周期を終了し、ステップS51に戻り、次の演算周期となる。
【0118】
ステップS53に戻り、再開時FLGがゼロでない場合(S53:NO)、ステップS58において、μ選択部112は、フィルタ係数Wの変化速度ΔW(n)が閾値TH_ΔWを上回るか否かを判定する。閾値TH_ΔWは、フィルタ係数Wの更新を再開した後、フィルタ係数Wの変化速度ΔWが安定したか否かを判定するための閾値である。
【0119】
変化速度ΔW(n)が閾値TH_ΔWを上回る場合(S58:YES)、変化速度ΔWが未だ安定していない。この場合、ステップS59に進む。ステップS59〜S61は、図7のステップS19〜S21と同様である。変化速度ΔW(n)が閾値TH_ΔWを上回らない場合(S58:NO)、変化速度ΔWが安定している。この場合、ステップS62において、μ選択部112は、再開時フラグFLGをゼロに戻し、続くステップS54において、通常時ステップサイズパラメータμ1を今回のステップサイズパラメータμ(n)として選択する。
【0120】
図15の処理によれば、フィルタ係数更新部84は、フィルタ係数Wの更新を再開してから変化速度ΔWが閾値TH_ΔW(第3閾値)を上回る間、再開時ステップサイズパラメータμ2を用いてフィルタ係数Wの更新量を通常時よりも大きくする。フィルタ係数Wの更新量は誤差信号eに応じて大きくなることから、ロードノイズNZrと打消音CSとの誤差が大きく、変化速度ΔWが閾値TH_ΔWを上回る場合、フィルタ係数Wの更新量を大きくし、ロードノイズNZrと打消音CSとの誤差を素早く収束することが可能となる。一方、ロードノイズNZrと打消音CSとの誤差が小さく、変化速度ΔWが閾値TH_ΔWを下回る場合、通常時ステップサイズパラメータμ1を用いてフィルタ係数Wの更新量を通常時の値とし、オーバーシュートを防ぐことが可能となる。これにより、ロードノイズNZrと打消音CSの誤差の収束精度を高めることが可能となる。
【0121】
或いは、図16のように、図15の変化速度ΔWを用いた処理を図7のステップS19〜S21の代わりに行うことも可能である。図16のステップS71〜S75は、図15のステップS51〜S54、S56に対応し、ステップS76、S77は図7のステップS16、S17に対応し、ステップS78は図7のステップS13に対応し、ステップS79〜S81は図15のステップS58、S60、S61に対応する。図16の処理によれば、変化速度ΔWを通常時ステップサイズパラメータμ1又は再開時ステップサイズパラメータμ2の選択に用いるため、変化速度ΔWに応じたステップサイズパラメータμの選択が可能となる。
【0122】
第1実施形態では今回の操作量θb(n)と停止前操作量θb1との差が閾値TH_μを上回るか否かにより、ステップサイズパラメータμを選択した(図7のS19〜S21)。また、第2実施形態では今回の舵角θs(n)の停止前舵角θs1との差が閾値TH_μ2を上回るか否かにより、ステップサイズパラメータμを選択した(図13のS39〜S41)。しかし、ステップサイズパラメータμの選択方法はこれに限らない。例えば、第1実施形態では今回の操作量θb(n)が閾値TH_θb1を上回るか否かにより、ステップサイズパラメータμを選択することも可能である。閾値TH_θb1は、ブレーキ機構18による制動力が発生しているか否かを判定する閾値であり、例えば、ゼロ又はその近傍値とすることができる。これにより、車体姿勢の変化を判定可能であり、車体姿勢が変化している間は伝達関数Cが変化しているため、ステップサイズパラメータμを大きくすることで消音効果を向上させることが可能となる。
【0123】
同様に、第2実施形態では今回の舵角θs(n)が閾値TH_θs1を上回るか否かにより、ステップサイズパラメータμを選択することが可能である。閾値TH_θs1は、ステアリング100が原位置にあるか否かを判定する閾値であり、例えば、ゼロ又はその近傍値とすることができる。これにより、車両10Aがカーブ路を走行中か否かを判定可能であり、カーブ路を走行中は伝達関数Cが変化しているため、ステップサイズパラメータμを大きくすることで消音効果を向上させることが可能となる。
【0124】
上記各実施形態では、ステップサイズパラメータμの値を変化させることでフィルタ係数Wの更新量を調整したが、その他の方法であってもよい。例えば、変化速度Δθb又は操舵速度Δθsに応じて誤差信号e又は補正参照信号Srのゲインを変更することも可能である。
【0125】
上記各実施形態では、制御信号生成部62毎にΔθb算出部72及びμ選択部74を設けたが、これに限らない。例えば、ANC装置12に1つのΔθb算出部72及びμ選択部74を設け、1つのμ選択部74から各制御信号生成部62にステップサイズパラメータμを設定することもできる。
【符号の説明】
【0126】
10…車両 12…能動型騒音制御装置
14…サスペンション 20…スピーカ(打消音出力手段)
22…マイクロフォン(誤差信号出力手段)
60x、60y、60z…加速度センサ(参照信号出力手段)
80…適応フィルタ 82…参照信号補正部(補正手段)
84…フィルタ係数更新部(フィルタ係数更新手段)
CS…打消音 Scc1…第1合成制御信号
Scc2…第2合成制御信号 Scr…制御信号
Sr…補正参照信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面入力に基づく振動又は騒音を検出し、当該振動又は騒音を示す参照信号を出力する参照信号出力手段と、
消音対象位置において前記騒音を打ち消す打消音を示す制御信号を、前記参照信号に基づいて出力する適応フィルタと、
前記制御信号に基づいて前記打消音を出力する打消音出力手段と、
前記振動騒音と前記打消音との差を検出し、当該差を示す誤差信号を出力する誤差信号出力手段と、
前記打消音出力手段から前記誤差信号出力手段までの伝達特性に基づいて前記参照信号を補正して補正参照信号を出力する補正手段と、
前記誤差信号と前記補正参照信号とに基づいて前記誤差信号が最小となるように前記適応フィルタのフィルタ係数を逐次更新するフィルタ係数更新手段と
を備える能動型振動騒音制御装置であって、さらに、
前記参照信号出力手段から前記誤差信号出力手段までの伝達特性の変化に影響を及ぼす車両状態量を検出する車両状態量検出手段と、
前記車両状態量の変化速度を算出する車両状態量変化速度算出手段と
を備え、
前記フィルタ係数更新手段は、
前記車両状態量の変化速度が第1閾値を上回ると、その時点での前記車両状態量である第1車両状態量を保持すると共に、前記フィルタ係数の更新を停止し、
その後、前記車両状態量の変化速度が前記第1閾値を下回ると、その時点での車両状態量である第2車両状態量と前記第1車両状態量との差を算出し、前記差が第2閾値を上回るとき、前記フィルタ係数の更新量を通常時より大きくして前記フィルタ係数の更新を再開する
ことを特徴とする能動型振動騒音制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の能動型振動騒音制御装置において、
前記車両状態量は、車体のロール量、ピッチ量及びヨー量の少なくとも1つである
ことを特徴とする能動型振動騒音制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の能動型振動騒音制御装置において、
前記参照信号出力手段は、サスペンションに設けられた加速度センサであり、
前記車両状態量は転舵量又は制動量である
ことを特徴とする能動型振動騒音制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の能動型振動騒音制御装置において、
前記フィルタ係数更新手段は、ステップサイズパラメータを通常時よりも大きくすることで、前記フィルタ係数の更新量を通常時よりも大きくする
ことを特徴とする能動型振動騒音制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の能動型振動騒音制御装置において、
前記フィルタ係数更新手段は、前記フィルタ係数の更新を再開してから、所定時間、前記フィルタ係数の更新量を通常時よりも大きくする
ことを特徴とする能動型振動騒音制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の能動型振動騒音制御装置において、
前記フィルタ係数更新手段は、前記フィルタ係数の更新を再開してから前記フィルタ係数の変化速度が第3閾値を上回る間、前記フィルタ係数の更新量を通常時よりも大きくする
ことを特徴とする能動型振動騒音制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−131315(P2012−131315A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284294(P2010−284294)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】