説明

脱りんスラグの流出防止方法

【課題】転炉型脱りん炉を用いて脱りんを行うに際して、脱りん効率を低下させることなくスラグのフォーミングを確実に抑制することができるようにする。
【解決手段】転炉型脱りん炉の溶銑2に対して脱りん処理を行って出湯するに際し、スラグのフォーミングを抑制すべく球換算直径が20〜50mmとなる酸化鉄源が、0.05×Wslag≦W≦0.2×Wslag(W:酸化鉄源、Wslag:スラグ量)を満たすように、吹錬終了時に投入し、溶銑2を出湯する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱りん処理に用いた脱りんスラグの流出を防止する脱りんスラグの流出防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、転炉型の容器を用いて溶銑の脱りん処理後や溶鋼の脱炭処理後は、溶銑や溶鋼を出湯する。溶銑や溶鋼の出湯の際、脱りん処理や脱炭処理の際に生成したスラグが流出することがあるため、出湯の際に出来る限りスラグの流出を防止する様々な技術が開発されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1では、転炉内で酸素吹錬して溶銑を脱炭精錬する際に、酸素吹錬中に転炉内にMn鉱石を添加してMn鉱石を転炉内で還元すると共に、酸素吹錬の末期又は酸素吹錬終了後に、転炉内スラグのT.Fe濃度及びMnO濃度に応じ、スラグ中のT.Fe濃度とMnO濃度との合計値が20mass%以下の場合には、Wc×100 ≧ 0.5×Ws×[T.Fe(mass%)+MnO(mass%)−10]を満たす範囲内でCaO又はCaCO3 を主成分とする精錬剤を転炉内に添加し、一方、スラグ中のT.Fe濃度とMnO濃度との合計値が20mass%を越える場合には、Wc×100 ≧ 0.2×Ws×[T.Fe(mass%)+MnO(mass%)+ 5]を満たす範囲内でCaO又はCaCO3 を主成分とする精錬剤を転炉内に添加し、添加した精錬剤によって転炉内のスラグを固化させ、出鋼時のスラグの転炉からの流出を抑制している。
【0003】
特許文献2では、溶鋼上のスラグにプラスチックを添加してプラスチックをスラグの有する熱によって分解させ、プラスチック分解時の吸熱反応を利用してスラグを冷却し、スラグを固化させる或いはスラグの流出が妨げられるようにスラグの粘性を高めるてスラグの流出防止を行っている。
さて、特許文献1や特許文献2のようにスラグの流出を防止するという技術ではないが、鉄鉱石を添加することによって、スラグのフォーミングを防止(抑制)するものとして特許文献3に示すものがある。
【0004】
特許文献3では、溶銑を処理容器内で脱珪処理を行った後、上記処理容器から脱珪溶銑を脱珪スラグと共に受銑鍋に流入するに際し、FeOまたはFe23含有粒状物質からなるスラグフォーミング抑制剤を受銑鍋へ添加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−107409号公報
【特許文献2】特開2006−241535号公報
【特許文献3】特開2000−290714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜特許文献2では、脱炭処理後に溶鋼を出湯(出鋼)するに際し、スラグを固化したり、スラグの粘性を高めることによってスラグの流出を防止する技術である。
脱りん処理を行った場合のスラグと、脱炭処理を行った場合のスラグとはスラグの体積等が異なり、特許文献1や特許文献2の技術を脱りん処理後のスラグに用いたとしても、スラグの流出を十分に防止することができないのが実情である。
一方で、特許文献3には、スラグのフォーミングを防止する技術が開示されているものの、受銑鍋での技術であり転炉への適用は難しく、スラグのフォーミングを防止することによって出湯の際のスラグの流出を防止するという考えも全く開示されていません。
【0007】
したがって、特許文献3の技術を用いて脱りん処理後のスラグの流出を防止することができないのが実情である。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、脱りん処理後の溶銑を出湯するに際して、脱りん処理にて生成したスラグの流出を防止する脱りんスラグの流出防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、溶銑を転炉型脱りん炉にて脱りん処理を行った後に、脱りん処理後の溶銑を出湯するに際し、スラグのフォーミングを抑制すべく球換算直径が20〜50mmとなる酸化鉄源を、式(1)を満たすように吹錬終了時に投入し、溶銑を出湯する点にある。
【0009】
【数1】

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脱りん処理後の溶銑を出湯するに際して、脱りん処理にて生成したスラグの流出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】転炉型脱りん炉の全体側面図である。
【図2】吹錬中のスラグのフォーミングと、溶銑の出銑(出湯)時の関係図である。
【図3】吹錬後のスラグのフォーミングと、溶銑の出銑(出湯)時の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、転炉型脱りん炉の全体側面図を示している。この発明は、図1に示すような転炉型脱りん炉を用いて溶銑の脱りん処理を行った後に、脱りん処理後の溶銑を出湯するに際して、脱りん処理の際に生成されたスラグ(脱りんスラグ)の流出を防止するものである。
以下、脱りんスラグの流出防止方法を説明する。
図1に示すように、溶銑の脱りん処理を行う転炉型脱りん炉1は、上吹き機能を有するものであり、溶銑2の脱りん処理を行うことができるものである。なお、転炉型脱りん炉1は図1に示すものに限定されない。
【0013】
転炉型脱りん炉1は、上方に向かって開口する炉口3を備えている。転炉型脱りん炉1には、当該転炉型脱りん炉1に装入された溶銑2に対して酸素を吹き込む上吹ランス4が炉口3から挿入自在に設けられている。また、転炉型脱りん炉1には、当該転炉型脱りん炉1内の溶銑2を攪拌するためのガス(例えば、窒素ガス)を吹き込むための吹き込みランス(耐火物ランス)9が炉口3から挿入自在に設けられている。転炉型脱りん炉1には、副原料等を投入するシュート5が配備されている。転炉型脱りん炉1の炉壁には炉体の傾動により溶銑2を出湯できるように出湯口6が形成されている。
【0014】
転炉型脱りん炉1を用いて脱りん処理を行うには、高炉から出銑した溶銑2を転炉型脱りん炉1に装入し、CaO源である生石灰などの脱りん剤をシュート5を介して溶銑2に投入してスラグを滓化させると共に、酸素を供給する。溶銑2への酸素の供給は、上吹きランス4による気体酸素の吹き込みと、固体酸素源として投入する酸化鉄により行う。また、脱りん処理では、耐火物ランス9から窒素を吹き込んで溶銑2を攪拌しながら処理を行う。なお、溶銑2の攪拌方法については、炉底の羽口からアルゴン、窒素、一酸化炭素等のガスを吹き込んで溶銑2を攪拌しながら処理を行う方法もある。
【0015】
脱りん処理(吹錬)が終了後には、転炉型脱りん炉1を傾けて脱りん処理後の溶銑2を出銑する。出銑する際には、台車(搬送手段)7に乗せた取鍋8によって溶銑2を受銑する。
さて、上述したように、溶銑2の脱りん処理を行っている際には、脱りん反応を進行させるために供給した酸素によって、スラグ内に生成した酸化鉄と溶銑2中の炭素(C)とが、スラグSと溶銑2との界面付近にて反応して一酸化炭素(CO)が発生する[(FeO)+C→CO+Fe]。この一酸化炭素のガス気泡がスラグ内で膨張するため、フォーミングが発生することになる。
【0016】
ここで、スラグSのフォーミングを抑制するために、炭材系の物質を投入して、スラグ内の酸化鉄の濃度を低減する方法が考えられるが、スラグ内の酸化鉄の濃度を低下させてしまうと脱りん反応が促進されなくなる。即ち、脱りん反応は、一般的に、3(CaO)+5(FeO)+2P→(3CaO・P25)+5Feであるため、酸化鉄の濃度が低減してしまうと脱りん反応が促進しなくなる。
よって、脱りん反応を阻害することなく、スラグSのフォーミングを抑制するためには、スラグSの酸化鉄の濃度を低下させずに、スラグ内に生成した微細なCOガスの気泡を収縮することが良い。
【0017】
そこで、本発明では、スラグ内へ固体の酸化鉄源(例えば、鉄鉱石、スケール、焼結鉱等)を投入することによって、酸化鉄源の分解熱(例えば、鉄鉱石であれば−1229Mcal/ton、吸熱反応)により、脱りん処理の際に生成したスラグSを冷却し、スラグ内に生成している微細なCOガスの気泡を収縮させることで、スラグフォーミングを抑制することとしている。以降、説明の便宜上、フォーミングを抑制するために投入する酸化鉄源のことを、フォーミング抑制剤Mということがある。
ここで、吹錬中にフォーミング抑制剤Mを投入することによって、脱りん処理の際に生成されたスラグSのフォーミングを抑制することができて有用であるが、脱りん処理後の溶銑2を出湯することまでも考慮すると、さらなるスラグSのフォーミングを抑制する必要がある。
【0018】
即ち、図2に示すように、吹錬中にスラグSのフォーミングを抑制して炉口3からのスラグSの溢れが無いという状態であったとしても、溶銑2を出湯(出銑)する際には転炉型脱りん炉1を所定の角度まで傾動させるため、このときに、炉口3に近いスラグSが炉口3から流出する可能性がある。つまり、吹錬中に炉口3から溢れもなく問題が無いとされたスラグ(以下、フォーミングしたスラグのことをフォーミングスラグということがある)Sが、出湯時には炉口3から流出するケースがある。このフォーミングスラグには、脱りん処理後に生成されたりんを含有しており、このフォーミングスラグが炉口3から取鍋8に流出すると、次工程である脱炭炉へのりん汚染源となり、脱炭処理後の溶鋼中のりん濃度が規格上限値を超える可能性がある。
【0019】
そのため、図3に示すように、本発明では、吹錬終了時であって、転炉型脱りん炉1を傾動する前に、スラグSのフォーミングを抑制するための酸化鉄源(フォーミング抑制剤M)を転炉型脱りん炉1内へ投入している。
このように、フォーミング抑制剤Mを転炉型脱りん炉1に投入することによって、スラグSに対する吸熱反応が促進されて、スラグ内のCOガスの気泡を収縮させることが期待できる。しかしながら、上述したように、投入した酸化鉄と溶銑2中の炭素(C)とが反応して、再び、COガスが発生する可能性もあり得る。スラグSのフォーミングの原因となる酸化鉄と溶銑2中の炭素との反応(COガスの発生の反応)は、スラグSと溶銑2との界面付近により起こるため、本発明では、このような界面付近では、COガスの発生の反応を可及的に起こさせずに、界面よりも上側となる領域にてスラグSへの吸熱反応をさせることによって、スラグSのフォーミングを抑制するようにしている。
【0020】
つまり、本発明によれば、フォーミングを抑制するために投入する酸化鉄源(フォーミング抑制剤M)の大きさを、所定の大きさに規定することによって、スラグSへの吸熱反応のみを界面よりも上側となる領域にて引き起こすようにしている。
具体的には、球換算直径が20〜50mmのフォーミング抑制剤MをフォーミングスラグSに投入することとしている。球換算直径は、フォーミング抑制剤Mに着目し、各粒の体積を相当球に換算して、その球の直径の値としている。
球換算直径が20mm未満のフォーミング抑制剤Mは、嵩比重が1〜3g/cm3程度であり、スラグSの比重(2〜3g/cm3)に対して小さい。そのため、図3に示すように、球換算直径が20mm未満のフォーミング抑制剤MをフォーミングスラグS上に投入した場合は、フォーミングスラグS上に広がるだけであり、フォーミングスラグ内への進入は、殆どしないことから、スラグ内の全体の吸熱を行うことは難しく、十分なスラグフォーミング抑制を得ることができない。
【0021】
そのため、少なくとも、スラグS(フォーミングスラグ)に向けて投入するフォーミング抑制剤Mの球換算直径は20mm以上であることが必要である。
球換算直径が50mmよりも大きいフォーミング抑制剤Mは、嵩比重が3〜4g/cm3程度であり、スラグSの比重に対して大きいため、容易にフォーミングスラグSへ侵入する。しかし、スラグ内に進入したフォーミング抑制剤Mの溶融分解反応が進行するまでに時間がかかるため、溶融分解反応によりスラグ内のCOガスを冷却・収縮に寄与するフォーミング抑制剤Mが少なくなり、十分にフォーミング抑制を得ることができない。
【0022】
しかも、球換算直径が50mmよりも大きいフォーミング抑制剤M(酸化鉄源)は、容易にフォーミングスラグ内に浸入するものの、フォーミングスラグSと溶銑2との界面付近に到達してしまい、逆に、溶銑2の炭素と反応して大きなフォーミングを発生させてしまう場合がある。
そのため、スラグSに向けて投入するフォーミング抑制剤M(酸化鉄源)の球換算直径は50mm以下であることが必要である。
本発明では、上述したように、球換算直径が20〜50mmの酸化鉄源をスラグSに投入することとしているが、フォーミング抑制剤M(酸化鉄源)の投入量は、式(1)を満たすように設定している。
【0023】
【数2】

【0024】
式(1)に示すWslagは、フォーミング抑制剤M(酸化鉄源)の投入量内のスラグ量である。ここで、スラグ量(Wslag)は、計測装置等によって正確に測定することが難しいため、脱りん処理中に添加したCaO原単位、溶銑2のSi濃度(質量%)、計算塩基度等から式(2)により簡易的に推定することができる。
【0025】
【数3】

【0026】
なお、スラグ量は、式(2)により求めているが、これに限定されず、他の方法により求めたものであってもよい。
フォーミング抑制剤Mの投入量が式(1)の下限値を下回る場合、スラグ量に比べてフォーミング抑制剤Mの投入量が少なく、スラグ中のCOガスの気泡を収縮するための冷却熱量が十分でない。その結果、図2に示すように、フォーミング抑制剤Mによるフォーミングの抑制効果が弱く、転炉型脱りん炉1を出湯時に傾けた際に炉口3からスラグS(フォーミングスラグ)が流出してしまうことになる。
【0027】
フォーミング抑制剤Mの投入量が式(1)の上限値を上回る場合、スラグ量に比べてフォーミング抑制剤Mの投入量は多く、スラグ中のCOガスの気泡を収縮するための冷却熱量が十分である。しかしながら、スラグSのフォーミングを抑制するために投入した酸化鉄が多過ぎるために、スラグSと溶銑2との界面付近に到達してしまい、逆に、溶銑2の炭素と反応して大きなフォーミングを発生させてしまう場合がある。
本発明によれば、溶銑2を転炉型脱りん炉にて脱りん処理を行った後に、脱りん処理後の溶銑2を出湯するに際し、吹錬終了時にスラグSのフォーミングを抑制するための球換算直径が20〜50mmとなる酸化鉄源Mを、式(1)を満たすように投入することによって、脱りん処理後(吹錬後)におけるスラグSのフォーミングを十分に抑制してから溶銑2を出湯している。これにより、溶銑2を出湯する際でのスラグの流出を十分に抑制することができる。
【0028】
表1は、転炉型脱りん炉を用いた脱りん処理から連続鋳造までの実施条件を示している。表2及び表3は、表1の実施条件に基づき、本発明の方法によりスラグのフォーミングを抑制した実施例と、本発明とは異なる方法を示した比較例とをまとめたものである。
【0029】
【表1】

【0030】
実施条件について詳しく説明する。
表1に示すように、転炉型脱りん炉は、95tonクラスの転炉ある。粉体を吹き込み可能な耐火物ランス9から溶銑2を攪拌するガスを吹き込んでいる。溶銑2表面から炉口までの高さ(フリーボード高さ)は、4.5mとした。溶銑2を受銑する取鍋(受銑鍋)は容量が95tonクラスものを用いた。溶銑2を受銑した際の受銑鍋のフリーボードは0.7mとした。
上吹きにおいては、孔数が3個の上吹きランスを用いた。転炉型脱りん炉1に装入した溶銑2において、[C]=4.5〜4.8質量%、[P]=0.110〜0.120質量%、[Si]=0.40〜0.50質量%とした。溶製鋼種において、[C]の規格上限は、0.45質量%、[P]の規格上限値は、0.020質量%とした。
【0031】
脱りん処理において、必要な酸素量は、当業者常法のスタティック制御により決定した。この酸素量は、例えば、処理前溶銑2温度、処理前Siおよび処理後目標温度に応じて決める必要な気体酸素と酸化鉄源(フォーミング抑制剤を除く)から供給される固体酸素とを合わせた量である。
CaO等副原料は、当業者常法の副原料の制御により決定した。CaO等副原料は、例えば、溶銑2の[P]と鋼種毎目標[P]との差Δ[P]をメタルからスラグSに排出す
る、即ち、脱りんするために、処理後目標温度及び上吹き酸素量に応じて決める必要なCaO等副原料の量である。
【0032】
スラグSのフォーミングの状態を調べるために、図1に示すように、フォーミング高さの検知(スラグSの高さ)は、温度測定用のセンサ10を搭載したサブランス11を用いて実施した。炉体上(転炉型脱りん炉1上)に設置したサブランス11を脱りん処理の終了直後に炉内へ降下させ、検出温度が1150℃以上になった時点のサブランス11の高さを、転炉型脱りん炉1内のスラグSのフォーミング高さとした(溶銑2の静止浴面からサブランス11の先端までの距離)。
フォーミングを抑制するための酸化鉄源(フォーミング抑制剤M)は、大きさを揃えるために篩い分けして、球換算粒径を調整した鉄鉱石を用いた。
【0033】
脱りん処理後に、溶銑2を出湯するために転炉型脱りん炉1を傾ける作業は、当業者常法通りに行った(当業者常法通りに転炉型脱りん炉1を傾動して出湯する)。また、出湯作業中において出湯口6からのスラグの流出防止は、スラグ流出防止のための当業者常法通りに実施した。
その他、転炉型脱りん炉1の吹錬制御、転炉型脱りん炉1の出鋼後の溶鋼処理(二次精錬処理)、連続鋳造についても、当業者常法通りに行った。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
各表の実施例及び比較例における評価について説明する。
スラグSのフォーミングの状態を調べるために、出湯前にスラグSの高さ(フォーミング高さ)を測定して、測定値がフォーミング無しに相当する高さである場合には、良好「○」とし、このフォーミング無しに相当する高さよりも高い場合には、不良「×」とした。
即ち、溶銑2を出湯する直前において、測定したスラグSの高さが、フォーミング無しに相当する高さである場合には、表中のフォーミング高さを0m(基準)とした。この基準値よりも、測定したスラグSの高さが大きい場合には、基準値に対する測定値の離れ量を、表中のスラグのフォーミング高さとした。なお、フォーミング無しに相当するスラグSの厚みは、式(3)により求めた。
【0037】
スラグ厚み=スラグ量÷スラグ比重(CaO−SiO2−FeO系のスラグ比重)÷(π×転炉型脱りん炉内の半径の2乗) ・・・(3)
例えば、スラグ量が2.9ton、転炉型脱りん炉内の半径が1.8m、スラグ比重が
3.0である場合、式(3)により計算上のスラグ厚みは0.1mとなる。
溶銑2の出湯作業中に炉口3からのスラグの流出があると、不良「×」とし、流出が無いと、良好「○」とした。
また、炉口3からのスラグの流出が有り、次工程である脱炭処理後において、当該脱炭処理後の[P]が規格上限値を超えた場合を、不良「×」、規格上限値未満である場合を、良好「○」とした。
【0038】
各表において、フォーミング抑制剤投入原単位の欄において、左側がフォーミング抑制剤(酸化鉄源)の投入量を示しており、右側がスラグ量に対するフォーミング抑制剤(酸化鉄源)の投入量の割合を示すものである。フォーミング抑制剤投入原単位の欄の右側において、その数値が0.05(式1の下限値)〜0.20(式1の上限値)である場合には、式(1)を満たしていることを示している。
表2の実施例1〜実施例16に示すように、フォーミング抑制剤Mの投入時期が脱りん処理における吹錬終了後であって、酸化鉄源(フォーミング抑制剤)Mの球換算直径が20〜50mmであり、さらに、酸化鉄源Mの投入量が式(1)を満たす場合、スラグのフォーミング高さを低くすることができると共に、出湯の際に炉口3からのスラグの流出も全く、次工程の脱炭処理後における[P]も規格上限値内であった(表中、スラグのフォーミング高さ、評価「○」、出湯作業中の炉口3からのスラグ流出有無、評価「○」、脱炭炉吹止、評価「○」)。
【0039】
一方で、表3の比較例17〜比較例24に示すように、フォーミング抑制剤Mの投入時期が脱りん処理における吹錬終了後ではなく、吹錬末期(吹錬期間の後半の90%や80%)に行ったために、スラグのフォーミング高さを十分に抑制することができなかった(表中、スラグのフォーミング高さ、評価「×」)。
また、比較例17〜比較例24では、出湯の際に転炉型脱りん炉1を傾けると炉口3からのスラグSの流出があり、スラグSの流出により次工程である脱炭炉へりんを含有するスラグが持ち込まれるため、次工程にて行われる脱炭処理後における[P]が規格上限値を超えるという結果になった(出湯作業中の炉口からのスラグ流出有無、評価「×」、脱炭炉吹止、評価「×」)。
【0040】
比較例25〜比較例28に示すように、酸化鉄源(フォーミング抑制剤)Mの球換算直径が20mm未満であり小さいため、酸化鉄源Mが十分にスラグ内に進入せずスラグSの上面側を冷却することとなり、当該酸化鉄源によってスラグSの全体にわたって吸熱することができなかった。そのため、比較例25〜比較例28では、スラグのフォーミング高さを十分に抑制することができなかった(表中、スラグのフォーミング高さ、評価「×」)。
加えて、比較例25〜比較例28では、出湯の際に転炉型脱りん炉1を傾けると炉口3からのスラグSの流出があり、スラグSの流出により次工程である脱炭炉へりんを含有するスラグが持ち込まれるため、次工程にて行われる脱炭処理後における[P]が規格上限値を超えるという結果になった(出湯作業中の炉口からのスラグ流出有無、評価「×」、脱炭炉吹止、評価「×」)。
【0041】
比較例29〜比較例32に示すように、酸化鉄源(フォーミング抑制剤)Mの球換算直径が50mmを超えていて大きいため、酸化鉄源Mがスラグ内を通ってスラグSと溶銑2との界面付近まで到達してしまい、逆に、スラグのフォーミングが発生して転炉型脱りん炉1から溶銑を出湯するために傾ける前に炉口3からスラグが溢れるという結果になった(表中、スラグのフォーミング高さ、評価「×」)。加えて、比較例29〜比較例32では、出湯の際に転炉型脱りん炉1を傾けると炉口3からのスラグの流出が発生し、スラグSの流出により次工程である脱炭炉へりんを含有するスラグが持ち込まれるため、脱炭処理後における[P]が規格上限値を超えるという結果になった(出湯作業中の炉口からのスラグ流出有無、評価「×」、脱炭炉吹止、評価「×」)。
【0042】
比較例33、比較例34、比較例37及び比較例38に示すように、酸化鉄源(フォーミング抑制剤)の投入量が式(1)の下限値を下回ったために、スラグ量に対する酸化鉄源の量が少なく、スラグSを十分に吸熱することができなかった。そのため、比較例33、比較例34、比較例37及び比較例38では、スラグのフォーミング高さを十分に抑制することができなかった(表中、スラグのフォーミング高さ、評価「×」)。加えて、これらの比較例では、出湯の際に転炉型脱りん炉1を傾けると炉口3からのスラグSの流出が発生し、スラグSの流出により次工程である脱炭炉へりんを含有するスラグが持ち込まれるため、脱炭処理後における[P]が規格上限値を超えるという結果になった(出湯作業中の炉口からのスラグ流出有無、評価「×」、脱炭炉吹止、評価「×」)。
【0043】
比較例35、比較例36、比較例39及び比較例40に示すように、酸化鉄源(フォーミング抑制剤)Mの投入量が式(1)の上限値を下回ったために、酸化鉄源Mの量が多すぎて、一部の酸化鉄源Mが溶銑2とスラグSとの界面付近まで到達してしまい、逆に、スラグのフォーミングが発生し、当該転炉型脱りん炉1を傾ける前に溢れるという結果になった(表中、スラグのフォーミング高さ、評価「×」)。加えて、これらの比較例では、出湯の際に転炉型脱りん炉1を傾けると炉口3からのスラグSの流出が発生し、スラグSの流出により次工程である脱炭炉へりんを含有するスラグが持ち込まれるため、脱炭処理後における[P]が規格上限値を超えるという結果になった(出湯作業中の炉口からのスラグ流出有無、評価「×」、脱炭炉吹止、評価「×」)。
【0044】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0045】
1 転炉型脱りん炉
2 溶銑
3 炉口
4 上吹ランス
5 シュート
6 出湯口
9 耐火物ランス
10 温度測定用のセンサ
11 サブランス
M フォーミング抑制剤(酸化鉄源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑を転炉型脱りん炉にて脱りん処理を行った後に、脱りん処理後の溶銑を出湯するに際し、
スラグのフォーミングを抑制すべく球換算直径が20〜50mmとなる酸化鉄源を、式(1)を満たすように吹錬終了時に投入し、溶銑を出湯することを特徴とする脱りんスラグの流出防止方法。
【数4】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−215970(P2010−215970A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64667(P2009−64667)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】