説明

脱ユビキチン化酵素ファミリーメンバーのモジュレーション

本発明は、脱ユビキチン化酵素ファミリーのメンバーをモジュレートすることによる症状の医学的治療、およびまた、かかる治療ならびに円柱腫症の治療、そしてさらに一般的に、転写因子NF-κBの活性化に関連する他の症状、例えば炎症のモジュレーションにも有用でありうる物質を同定する試験に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱ユビキチン酵素ファミリーのメンバーをモジュレートすることによる症状の治療、およびまたかかる治療に有用でありうる物質を同定する試験にも関する。
【0002】
一態様においては、本発明は一般的に、HIF-αのモジュレーターを同定する試験方法であって、その試験がVDU1と結合するおよび/またはVDU1の活性をモジュレートする物質を同定することに関わることを特徴とする上記試験方法に関する。本発明はまた、医学的治療の方法において、特に、HIFの活性をモジュレートすることにより改善することができる症状の治療において利用するVDU1のモジュレーターにも関する。
【0003】
他の態様においては、本発明は、円柱腫症(cylindromatosis)の治療およびさらに一般的には転写因子NF-κBの活性化に関連する他の症状、例えば炎症のモジュレーションに関する。
【背景技術】
【0004】
HIF
転写因子HIF(低酸素誘導因子)系は、低酸素に対する応答の重要なレギュレーターであり、広範囲の生物における酸素ホメオスタシスにおいて中心的位置を占める。血管新生、赤血球新生、エネルギー代謝、炎症、血管運動機能、およびアポトーシス/増殖応答において極めて重要な役割をもつ多数の転写標的が同定されている。HIF系は正常な発生にとって必須であり、虚血症/低酸素症に対する病態生理学的応答に重要な役割を果たしている。HIFはまた、癌においても重要であり、癌との関わりにおいてHIFは通常、上方調節されて腫瘍増殖および血管新生に大きな影響を与える。
【0005】
HIF DNA結合複合体はαおよびβサブユニットのヘテロダイマーから成る。酸素による調節は、酸素化された細胞内でプロテアソームにより速やかに破壊されるαサブユニットを介して行われる。このプロセスはvon Hippel-Lindau腫瘍サプレッサー(pVHL)によるHIF-αサブユニットのターゲティングを伴うものであり、ここでpVHLはユビキチンリガーゼの認識成分として作用し、HIF-αサブユニット内の特異的配列との相互作用を介してユビキチン依存性タンパク質分解を促進する。低酸素症においてはこのプロセスが抑制され、そこでHIF-αは安定化して転写活性化が可能になる
CYLD
円柱腫(Cylindromas)は稀な良性の付属器腫瘍であり、ヒトの頭皮上に主に発生する。円柱腫はいずれの年齢においても生じるが通常は成人期初期に見られる。2種の明確な臨床形態、すなわち散発性である孤立型、および主に遺伝性の、家族性円柱腫症と呼ばれる多発型が存在する。病変は薄赤〜赤色、結節状、堅固であって、通常、痛みはなく、サイズは直径が数ミリメートルから6cmまで様々である。腫瘍はサイズおよび数が生涯に徐々に成長し;数事例では、病変が全頭皮を覆うことがあって「ターバン腫瘍」として知られる。現在、治療は、手術によって腫瘍を除去した後に、患部の再構築を行う。
【0006】
円柱腫の症状は染色体領域16q12‐13と関連付けられていて、さらに最近、Bignell, G. R.ら(Nat Genet 25, 160-5 (2000))は、円柱腫症を患う個体においてこの領域で突然変異している遺伝子CYLDを同定した。この遺伝子は腫瘍抑制遺伝子とみなされるが、その作用様式は解明されていない。
【0007】
核因子κB(NF-κB)は配列特異的転写因子であって、炎症および先天的免疫応答に関わることが知られている。NF-κBはIκBと呼ばれる抑制因子からの遊離により活性化される。NF-κBは50kDa(p50)および65kDa(p65)DNA結合サブユニットから構成されるヘテロダイマーである。NF-κBは、もし細胞が一次または二次病原性刺激に曝されれば、防御遺伝子のいわゆる「最初期」活性化に寄与する。
【0008】
NF-κBとその活性化に関わるシグナル伝達経路はまた、NF-κBが細胞増殖およびアポトーシスも調節するので、腫瘍発生にとって重要であることも見出されている。NF-κBは複数のタイプの癌細胞において構成的に活性化されることも示されてている。
【発明の開示】
【0009】
本発明者らは、VHLと相互作用する脱ユビキチン化酵素1(VDU1)の作用によりHIF-αが安定化されることを特徴とする、細胞内に存在する調節経路を同定した。
【0010】
従来、VDU1による脱ユビキチン化の標的は同定されていなかったので、生理学的役割は実証されていなかった。
【0011】
このVDU1の活性はHIF-αを制御するための新規の標的を示す。VDU1の消失はHIF-αの減少、そしてHIFが介在する応答の低下をもたらす。従って、VDU1の低下は、不適当なHIF活性に関連する疾患、またはHIF活性の低下が治療上の利益を有しうる他症状の治療に有用でありうる。
【0012】
逆に、VDU1活性の増加はHIF-αを安定化し、そしてHIF-αが介在する応答の増加をもたらしうるので、例えば新血管成長を促進するのに有益でありうる。
【0013】
HIF-α安定化をVDU1により調節することができるという知見は、ヒトまたは動物治療用の新しい薬剤を開発するための新規試験方法を提供するものである。
【0014】
一態様においては、本発明の試験は一般的に、試験物質がHIF-αの安定性および/またはユビキチン化の状態をVDU1のモジュレーションを経由してモジュレートすることができるかどうかを確認することに関する。
【0015】
この試験は、
推定モジュレーターとVDU1ポリペプチドを接触させること;
推定モジュレーターがVDU1と結合するおよび/またはVDU1の活性をモジュレートするかどうかを確認すること;
HIF-αとVDU1を含んでなる試験系において、推定モジュレーターのHIF-α安定性および/またはHIF-αのユビキチン化状態に与える効果を確認すること
により実施することができる。
【0016】
従って、一態様においては、本発明は、
VDU1ポリペプチドを推定モジュレーターと接触させるステップ;
VDU1ポリペプチドと推定モジュレーターの間の結合を確認するステップ;
推定モジュレーターをVDU1およびHIF-αを含んでなる試験系と接触させるステップ;ならびに
推定モジュレーターの、HIF-αの安定性および/またはユビキチン化の状態に与える効果を確認するステップ
を含んでなる試験方法を提供する。
【0017】
VDU1とHIF-αの両方がVHLのβドメインと結合すること、およびVHLがこれらの両方のタンパク質をユビキチン化のためにターゲティングすることは公知である(Liら、2002)。VDU1がHIF-αを安定化するという本発明の知見を照らし合わせると、VDU1のVHLとの結合はVDU1をHIF-αの物理的近位に運ぶことができるので、VDU1とHIF-αの間の相互作用を促進すると考えられる。
【0018】
また、VHLと結合するVDU1の能力をブロックする薬剤は、HIF-αがVDU1により安定化される程度を低下しうるおよび/またはHIF-αのユビキチン化の状態を変えうるので、細胞内のHIFの活性を低下させると考えられる。
【0019】
従って、本発明の他の態様においては、
VHLポリペプチド、VDU1ポリペプチドおよび推定モジュレーターを接触させるステップ;
推定モジュレーターがVHLとVDU1ポリペプチドの間の相互作用をモジュレートするかどうかを確認するステップ;
推定モジュレーターをVDU1、VHLおよびHIF-αを含んでなる試験系と接触させるステップ;
推定モジュレーターの、HIF-αの安定性および/またはユビキチン化の状態に与える効果を確認するステップ
を含んでなる試験方法が提供される。
【0020】
この態様において、関係のあるVDU1の活性はそのVHLと結合する能力である。
【0021】
本発明のさらなる態様においては、
推定モジュレーターをVDU1およびユビキチン化されたVDU1基質と接触させるステップ;
推定モジュレーターがVDU1による基質の安定性および/またはユビキチン化の状態をモジュレートする能力を確認するステップ;
推定モジュレーターをVDU1およびHIF-αを含んでなる試験系と接触させるステップ;ならびに
推定モジュレーターのHIF-αの安定性および/またはユビキチン化の状態に与える効果を確認するステップ
を含んでなる試験方法が提供される。
【0022】
この態様において、関係のあるVDU1の活性は、基質を脱ユビキチン化しかつ安定化する能力である。
【0023】
試験物質がVDU1のモジュレーションを経由してHIF-αの安定性および/またはユビキチン化の状態をモジュレートすることができるかどうかを確認することはまた、本発明のさらなる態様において、
推定モジュレーターを、VDU1およびユビキチン化されたHIF-αを含んでなる試験系と接触させること;
推定モジュレーターの、VDU1によるHIF-αの安定性および/またはユビキチン化の状態をモジュレートする能力を確認することにより、
行うこともできる。
【0024】
上記試験において、試験系は場合によっては、特に試験がインヒビターに対する試験であるときは、VHLを含んでもよい。
【0025】
VDU1の特異的モジュレーターは従来、治療方法として有用であることが示されてなかった。従って、本発明はまた、医学的治療の方法に使用するためのVDU1のモジュレーターも提供し、そして他の態様においては、VDU1のモジュレーターおよび製薬上許容される賦形剤を含んでなる組成物も提供する。
【0026】
さらなる態様においては、本発明は、HIFのモジュレーションが治療上重要な症状を治療する医薬品を製造するための、VDU1のモジュレーターの使用を提供する。
【0027】
なおさらなる態様においては、本発明は、HIFのモジュレーションが治療上重要な疾患を治療する方法であって、個体にVDU1の活性をモジュレートする薬剤の有効量を投与することを含んでなる上記方法を提供する。
【0028】
本発明者らはまた、CYLDの作用をNF-κBの抑制と直接結び付ける、細胞内に存在する調節経路を同定した。CYLDの消失は従って、NF-κB活性の増加をもたらし、順に、抗アポトーシス遺伝子機能の増加を引き起こす。これは、皮膚細胞内のプロアポトーシス遺伝子と抗アポトーシス遺伝子の調節のバランスを破壊して、円柱腫症に付随する良性腫瘍の増殖をもたらしうる。
【0029】
従って、他の態様においては、本発明は、個体に有効な量のNF-κBインヒビターを投与することにより円柱腫症を患う個体を治療する方法を提供する。
【0030】
さらなる態様においては、本発明は、円柱腫症の治療用の医薬品を製造するためのNF-κBインヒビターの使用を提供する。あるいは、本発明は、円柱腫症を治療する方法に使用するためのNF-κBインヒビターを提供する。
【0031】
他の態様においては、CYLDの作用がNF-κB活性を抑制するという知見は、NF-κBの活性に関連する疾患の治療のための新しい標的を提供する。従って、本発明は、個体におけるかかる疾患を治療する方法であって、CYLDの発現を増加する薬剤の有効量をその個体に投与することによる上記方法を提供する。他の態様においては、本発明は、NF-κBの活性に関連する疾患の治療用医薬品を製造するためのCYLDの発現を増加する薬剤の使用を提供する。あるいは、本発明は、NF-κBの活性に関連する疾患を治療する方法に使用するためのCYLDの発現を増加する薬剤を提供する。
【0032】
さらなる態様においては、CYLDによりNF-κB活性を調節することができるという知見は、ヒトまたは動物の治療用の新しい薬剤を開発するための新規の試験方法を提供する。従って、本発明は、
CYLD活性が抑制されているかまたは消失している細胞培養を提供するステップ;
その培養を試験すべき薬剤と接触させるステップ;および
薬剤のNF-κBの活性に与える効果を確認するステップ
を含んでなる試験方法を提供する。
【0033】
本発明のこれらのまたは他の態様を、本明細書において以下にさらに説明する。
【0034】
本発明の詳細な説明
HIF
ヒトVDU1のアミノ酸配列は、Liら(2002)により提供され、かつまたGenbank参照番号AF383172によっても提供されている。少なくとも2種の推定サブタイプが公知である。I型は942個のアミノ酸から成り、II型は911個のアミノ酸から成り、予想される分子量はそれぞれ107および103kDaである。本出願において、VDU1は任意の好適な哺乳動物のVDU1、好ましくはヒトのVDU1であって、対立遺伝子、公知の配列のホモログおよびオルソログを含むと理解されうる。野生型配列が好ましいが、用語VDU1はまた、HIF-αを脱ユビキチン化する能力を持つことを条件として、変異体も含むと理解されうる。好ましくは、変異体はまたVHLと結合する能力も持つ。
【0035】
一般的に、変異体は、野生型哺乳動物のVDU1、好ましくはヒトのVDU1に対して、望ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%またはさらに98%の程度のアミノ酸同一性を有することが好ましい。
【0036】
VHLもクローニングもされていて、ヒトVHLの配列はGenbank受託番号AF010238およびL15409として入手可能である。
【0037】
多数のHIF-αサブユニットタンパク質がクローニングされている。これらには、その配列がGenbank受託番号U22431として入手しうるHIF-1α;Genbank受託番号U81984として入手しうるHIF-2α、およびGenbank受託番号AC007193およびAC079154として入手しうるHIF-3αが含まれる。これらは全てヒトのHIF-αサブユニットタンパク質である。
【0038】
本出願において、VHLおよびHIF-αは任意の好適な哺乳動物VHLまたはHIF-αであると理解され、対立遺伝子、既知配列のホモログおよびオルソログを含みうる。HIF-αは好ましくはHIF-1αである。
【0039】
野生型タンパク質が好ましいが、これらの試験方法においてHIF-αおよびVHLの意味はまた、野生型タンパク質の関係する機能を持つ変異体および断片の意味も含む。本明細書で考察する試験方法において、好適なVHL変異体は、HIF-αおよびVDU1と結合する能力を持つ変異体である。さらに好ましくは、これらはまた、ユビキチン化のためにHIF-αをターゲティングする能力も保持する。好適なHIF-α変異体は、好ましくは、ユビキチンを用いて標識され、かつVDU1による脱ユビキチン化に対して認識される能力を保持する。さらに好ましくは、これらはまた、VHLと結合する能力も保持する。いくつかの実施形態において、これらは、応答エレメントと結合するおよび/または応答エレメントを活性化する能力を保持する。
【0040】
一般的に、変異体は、野生型哺乳動物のHIF-αまたはVDU1、好ましくはヒトのHIF-αまたはVDU1に対して、望ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%またはさらに98%の程度のアミノ酸同一性を有することが好ましい。
【0041】
配列同一性は、アルゴリズム「BLAST 2 SEQUENCES」を利用しかつデフォルトのパラメーターを用いて評価することができる。
【0042】
試験方法
本発明の試験方法は、この態様において、HIF活性が有害であるかまたは有益でありうる症状を治療するのに有用なVDU1活性のモジュレーターを提供する。これらの症状を、さらに詳細に以下に考察する。
【0043】
本発明のいくつかの態様において、本試験方法は、推定モジュレーターがVDU1ポリペプチドと結合するかどうか、またはVDU1とVHLポリペプチドの間の相互作用に影響を与えるかどうかを評価する第1段階に関わる。
【0044】
これらの試験方法の第1段階に関して、用語「VHLポリペプチド」または「VDU1ポリペプチド」には先に定義したVDU1およびVHLの意味だけでなく、これらのタンパク質の断片も含まれることは理解されよう。一般的に断片が用いられる場合、そのサイズは少なくとも40個、好ましくは少なくとも50、60、70、80または100個のアミノ酸であろう。試験がVDU1とVHLの間の結合の評価に関わる場合、それらの断片は、試験化合物の非存在時にお互いに結合する能力を保持することを条件として、任意のサイズの断片を利用することができる。
【0045】
VDU1/VHL相互作用を評価するのに用いる好ましいVHL断片は、少なくとも部分的に、213個アミノ酸のヒトVHLタンパク質の断片63〜156内に位置するβドメインまたは他の変異体の等価のドメインに基づく断片を含む。好ましい実施形態において、かかるドメインは、ヒトVHLの64〜156断片に対して少なくとも70%、好ましくは80%, 90%, 95%またはさらに98%の程度の配列同一性を有するであろう。この領域の断片およびその変異体を用いることができる。これらの断片は長さが15〜80個のアミノ酸、長さが例えば20〜80個、例えば30〜60個のアミノ酸であってもよい。望ましくは、これらの断片はβドメインの野生型配列を保持する。
【0046】
断片は、上記変異体中に、ヒトVHLまたはその同等物の領域63〜83を含みうる。
【0047】
利用しうる1つの断片は、N末端残基の53個まで、例えば1〜n個(ここで、nは2〜53の整数である)が欠失され、残りのタンパク質は野生型である断片である。
【0048】
断片は、当技術分野で公知のいずれの好適な方法で作製しかつ使用してもよい。断片を作製する好適な方法は、限定されるものでないが、コードDNAからの組換え体発現を含む。かかる断片は、コードDNAを入手し、発現すべき部分の両側の制限酵素認識部位を同定し、そして上記部分をDNAから切除することである。次いで、その部分を、標準の市販の発現系において、好適なプロモーターと機能しうる形で連結させることができる。他の組換え手法は、DNAの関係部分を、好適なPCRプライマーを用いて増幅することである。小さい断片(ほぼ20または30個までのアミノ酸)はまた、当技術分野で周知のペプチド合成法を用いて作製することもできる。
【0049】
試験方法が、VHLポリペプチド、VDU1ポリペプチドおよび推定モジュレーターを接触させ、そして推定モジュレーターがVDU1とVHLポリペプチドの相互作用をモジュレートするかどうかを測定するステップを含む場合(すなわち、上記の本発明の第2の態様では)、用語「VDU1ポリペプチド」および「VHLポリペプチド」はまた、それらがVDU1またはVHLとそれぞれ結合する能力を保持することを条件として、上記以外のVHLまたはVDU1の変異体も意味することを意図するのも理解されるであろう。
【0050】
VHLポリペプチド、VDU1ポリペプチドおよび推定モジュレーター化合物を接触させるステップは、VHLポリペプチドとVDU1ポリペプチドがモジュレーターの非存在のもとで複合体を生成する能力がある条件のもとで実施することができる。
【0051】
代わりの実施形態においては、上記ステップを、モジュレーターの非存在のもとで結合が起こらない条件で実施することができる。この実施形態は、結合を亢進するかまたは増強する薬剤を探すために望ましいであろう。
【0052】
推定モジュレーターの、VHLとVDU1の結合に与える効果を測定するのは、モジュレーターの存在および非存在のもとで行うことができる。変化、すなわち、推定モジュレーターの非存在と比較した場合の、存在のもとでの結合の増加または減少は、推定モジュレーターがその相互作用をモジュレートすることができるのを示すものでありうる。
【0053】
一般的に、複合体生成の結合またはモジュレーションを測定する方法は、本発明の一部分ではなく、当業者は当技術分野で公知の任意の方法を利用することができる。
【0054】
小分子のポリペプチドとの結合を同定するために、標準試験フォーマットを用いることができる。例えば、ポリペプチドを支持体上に固定してもよく、既知量の小分子または検出可能なように標識した小分子をタンパク質に加えてもよい。その相互作用は、例えば、以下にタンパク質-タンパク質相互作用に対するin vitro試験に関して記載したように測定することができる。
【0055】
当技術分野で広く用いられている2種のタンパク質の相互作用を研究するための1つの試験様式は、ツーハイブリッド試験である。この試験を本発明で利用するように適合させることができる。ツーハイブリッド試験は2種のタンパク質の宿主細胞中の発現を含んでなり、1つのタンパク質はDNA結合ドメイン(DBD)を含む融合タンパク質、例えば酵母GAL4結合ドメインであり、そして他のタンパク質は活性化ドメイン、例えばGAL4もしくはVP16由来の活性化ドメインを含む融合タンパク質である。かかる場合、宿主細胞(再び、細菌、酵母、昆虫または哺乳動物、特に酵母または哺乳動物)は、プロモーターを伴いかつそのDBDに適合しうるDNA結合エレメントを含むレポーター遺伝子構築物を持っているであろう。レポーター遺伝子は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびβ-ガラクトシダーゼなどのレポーター遺伝子であってもよく、特にルシフェラーゼが好ましい。
【0056】
ツーハイブリッド試験は、FieldsおよびSong, 1989, Nature 340; 245-246が開示した試験に従うことができる。かかる試験では、酵母GAL4転写因子のDNA結合ドメイン(DBD)および転写活性化ドメイン(TAD)を、それらの相互作用を研究しようとする第1および第2分子にそれぞれ融合させる。機能性GAL4転写因子は、問題の2分子が相互作用するときにのみ回復する。従って、分子の相互作用は、レポーター遺伝子の転写を活性化することができるGAL4 DNA結合部位と機能しうる形で連結されたレポーター遺伝子の使用により測定することができる。
【0057】
従って、ツーハイブリッド試験を潜在的モジュレーター化合物の存在のもとで実施することができ、モジュレーターの効果は、モジュレーターの非存在のもとでの転写レベルと比較したレポーター遺伝子構築物の転写レベルの変化に反映されうる。
【0058】
ツーハイブリッド試験を行うことができる宿主細胞には、哺乳動物、昆虫および酵母細胞が含まれる。
【0059】
VHLとVDU1の相互作用はまた、例えば微量熱量計を用いて直接試験することもできる。
【0060】
他の試験フォーマットは、VDU1タンパク質とVHLタンパク質のうちの1つを検出可能な標識を用いて標識し、これらのタンパク質をお互いと接触させる前もしくは後のいずれかに、任意に固体支持体上に固定しておいた他のタンパク質と接触させることにより、VDU1とVHLの間の相互作用を直接測定する。好適な検出可能な標識には、遺伝子組換えにより産生されるタンパク質中に組み込むことができる35S-メチオニン、およびタグ、例えばHAタグ、GSTもしくはヒスチジンが含まれる。遺伝子組換えで産生されたタンパク質はまた、抗体を用いて標識することができるエピトープを含有する融合タンパク質として発現させてもよい。あるいはVDU1/VHLに対する抗体を、慣用的技法を用いて得ることができる。
【0061】
場合によっては固体支持体上に固定されるタンパク質は、固体支持体に結合されるタンパク質に対する抗体を用いてまたは公知の他の技術を介して固定してもよい。
【0062】
あるいは、タンパク質の相互作用を、1つのタンパク質の免疫沈降と続いての他のタンパク質の免疫学的検出、例えば、検出可能な標識したタンパク質のウェスタンブロットまたは電気泳動により測定してもよい。
【0063】
さらなる代わりのモードにおいては、VDU1とVHLのうちの1つを蛍光ドナー部分を用いて標識し、他の1つをドナーからの発光を低下することができるアクセプターを用いて標識してもよい。このモードにより、本発明による試験を蛍光共鳴エネルギートランスファー(FRET)により実施することが可能になる。このモードでは、VDU1とVHLが相互作用するとドナーの蛍光シグナルが変化しうる。相互作用をモジュレートする候補モジュレーター化合物の存在はドナーの不変の蛍光シグナルの量を増加または減少しうる。
【0064】
FRETは当技術分野では公知の技術であり、従って、それらをVDU1およびVHLと連結させる正確なドナーおよびアクセプター分子ならびに方法は、文献を参照することにより決定することができる。
【0065】
好適な蛍光ドナー部分は、蛍光発生エネルギーを他の蛍光発生分子もしくは化合物の一部分に移動することができるものであって、限定されるものでないが、クマリンおよび関連色素、例えばフルオレセインを含み、そして、好適なアクセプター部分は、限定されるものでないが、クマリンおよび関連蛍光体などを含む。
【0066】
他の利用しうる技術はシンチレーション近接試験(試薬および指示書はAmersham Pharmacia Biotechより入手しうる)であり、この技術では標的化合物(すなわち、本発明ではVHL、VDU1)をシグナル発生化合物を有するビーズ上に保持させる(または試験のコースにおいて結合させる)、すると上記シグナル発生化合物は標的結合分子(すなわち、本発明ではVHLもしくはVDU1のうちの他方)と結合した放射標識が放出する放射能により活性化されるときにシンチレーションを起こす。
【0067】
本発明の他の態様においては、本試験は、推定モジュレーターをVDU1およびユビキチン化されたVDU1基質と接触させ、そして推定モジュレーターがVDU1による基質のユビキチン化の安定性および/または状態をモジュレートする能力を測定する第1のステップを含んでなる。
【0068】
「ユビキチン化された基質」は、本明細書において、1個以上のユビキチン部分と複合した分子を意味し、この分子は、例えば、VDU1による脱ユビキチン化の基質である。
【0069】
上記の方法に用いることができるユビキチン化されたVDU1基質には、例えば、ユビキチン化されたGSTまたはユビキチン化されたβ-ガラクトシダーゼが含まれる。
【0070】
好ましくはこの第1ステップをin vitroで実施する。この実施形態においては、ユビキチン化された基質を、例えば[35S]メチオニンを用いて標識することができる。
【0071】
ユビキチン化された基質は、いくつかの実施形態において、活性ユビキチン化系の存在により提供されるが、他の実施形態においては、ユビキチン化された基質は、例えば、細胞からの基質の単離によりまたはin vitroユビキチン化により提供することができる。
【0072】
あるいはこの試験の第1ステップを、基質(場合によっては標識した基質)を発現する細胞、好ましくは哺乳動物培養細胞株、さらに好ましくはヒト培養細胞株において実施することができる。
【0073】
VDU1による基質の安定化をモジュレートする推定モジュレーターの能力を測定する方法を、HIF-αについて、以下に考察する。文脈に特に断りのない限り、これらの方法はまた、他のVDU1基質にも適用される。基質の安定化をモジュレートするモジュレーターの能力を測定するためのある特定の好ましいフォーマットは、この考察から明らかになるであろう。
【0074】
以上考察した本発明の態様において、試験方法はまた、HIF-αおよびVDU1を含んでなる試験系をモジュレーターと接触させ、そしてHIF-α安定性に与えるおよび/またはHIF-αのユビキチン化状態に与える効果を測定するステップも含む。いくつかの実施形態においては、VHLも試験系内に存在する。
【0075】
試験系は、in vitro試験系であってもよい。一実施形態においては、試験系は標識した、例えば、[35S]メチオニンを用いて標識したHIF-αを含んでもよい。試験系はまた、VDU1、HIF-αおよび/またはVHLの供給源となりうる細胞抽出物も含んでもよい。細胞抽出物はいずれの細胞から得てもよく、好ましくは、下記の培養細胞株の1つから得る。
【0076】
脱ユビキチン化酵素の効果を試験するために、好ましくは、試験系のHIF-αは、少なくとも一過的に、1個以上のユビキチン部分と複合している。この複合は、いくつかの実施形態においては、VHLおよびユビキチン化系の他の成分、ならびに遊離したユビキチンの存在により達成することができる。他の実施形態においては、ユビキチン化されたHIF-αは、例えば、細胞、特に正常酸素細胞からのHIF-αの単離により、またはin vitroユビキチン化により提供することができる。HIF-αのin vitroユビキチン化は、VHL、Rbx1、Cul2、Elongin BおよびElongin Cの再構築された複合体を用いて達成することができる(例えば、Kamuraら 2000, PNAS vol.97, no.19: 10430-10435を参照)。
【0077】
他の実施形態においては、試験系は細胞であってもよい。本発明による試験は、HIF-αを発現するいずれの培養細胞株、好ましくはHIF-αユビキチン化系が活性を有する培養細胞株、好ましくは哺乳動物培養細胞株、さらに好ましくはヒト培養細胞株においても実施することができる。
【0078】
いくつかの実施形態においては、培養細胞株は、標識された、例えばタンパク質の単離を可能にするヒスチジンタグを用いて標識されたHIF-αのバージョンを発現することができる。
【0079】
本発明のいくつかの実施形態においては、細胞は低酸素条件下にあってもよい。これらの条件下ではHIF経路が高い活性化レベルにありうる。この条件は、例えば、モジュレーターがVDU1のインヒビターであるときに好ましく、HIF-αの安定性を低下させる。
【0080】
本発明の他の実施形態においては、細胞は正常酸素条件下にあってもよい。低酸素条件下では、HIF経路は一般的に低い活性化レベルにありうる。この条件は、例えば、モジュレーターがVDU1のアクチベーターであると好ましく、HIF-αの安定性を増加しうる。
【0081】
本発明の試験方法におけるHIF-αの安定性は、様々な方法により測定することができる。例えば、試験化合物のHIF活性に与える効果をin vitroで評価する場合、その効果は、HIF-αのユビキチン化のレベルを測定することにより、例えば、分子量の変化を測定することにより、またはHIF-αを(例えば、免疫沈降により)単離して次いでユビキチンに対する抗体を用いて免疫ブロットすることにより評価することができる。試験化合物の効果を細胞において評価する場合、細胞内のHIF-αの量を、例えば、ウェスタンブロットを用いて評価することもできる。さらに、HIF-αの活性は、そのプロモーターがHIFにより認識される標的部位を含有する(例えばVEGFまたはエリスロポエチン遺伝子由来のプロモーターである)レポーター遺伝子試験(例えば、ホタル・ルシフェラーゼ、分泌される塩基性ホスファターゼまたは緑色蛍光タンパク質)を用いて試験することができる。
【0082】
モジュレーターのHIF-αの安定性に与える効果の測定は、モジュレーターの非存在のもとでVDU1がHIF-αを安定化しうる条件下で実施することが好ましい。これは、VDU1活性のインヒビターに対する試験である場合に特に好ましい。
【0083】
代わりの方法においては、試験を、VDU1がモジュレーターの非存在のもとでHIF-αを安定化することができない条件下で実施してもよく、これは、アクチベーターに対する試験であるときに望ましいであろう。
【0084】
推定モジュレーターのHIF-αの安定性に与える効果の測定は、そのモジュレーターの存在および非存在のもとで実施することができる。推定モジュレーターの非存在と比較した場合の、存在のもとでのHIF-α安定性の変化、すなわち、増加または減少は、推定モジュレーターのHIF-α安定性をモジュレートする能力を示すものでありうる。
【0085】
以上の試験は、VDU1との結合またはVDU1の活性のモジュレーションを評価する予備ステップを含むので、従って、例えばレポーター遺伝子発現の変化がVDU1のHIF-αに対する作用の変化によること、それ故に安定性の変化を表していることは明らかであろう。しかし、安定性は直接測定することが好ましく、例えば、タンパク質の量の変化を測定することが好ましく、または以下のようにHIF-αのユビキチン化状態の変化を測定することがさらに好ましい。
【0086】
本発明の代わりの態様においては、試験方法は、
推定モジュレーターを、VDU1およびユビキチン化HIF-αを含んでなる試験系と接触させるステップ;
推定モジュレーターのVDU1によるHIF-αの安定化および/またはユビキチン化の状態をモジュレートする能力を測定するステップ
を含む。
【0087】
試験系は上記の試験系であってもよいが、ある特定の好ましい実施形態は、以下の考察から明らかであろう。
【0088】
本試験においては、例えば、HIF-αに直接影響を与えるまたはユビキチン化経路に影響を与えるモジュレーターの能力より、VDU1によるHIF-αの安定性をモジュレートするモジュレーターの能力を測定することがむしろ必要である。これは、他の可能性を排除することにより、当業者に明らかでありうる様々な方法で本発明の開示に照らして行うことができる。
【0089】
以下の考察はまた、以上考察した他のユビキチン化されたVDU1基質の安定化をモジュレートする推定モジュレーターの能力の測定にもあてはまる。
【0090】
例えば、モジュレーターが脱ユビキチン化経路よりもユビキチン化経路に作用する可能性を排除するために、試験は、ユビキチン化経路が活性を有しない条件下で実施することができる。これは、因子(例えば基質ユビキチン化に必要であるタンパク質)の非存在のもとで試験を実施することにより達成することができる。上記因子の非存在は系からのその全ての非存在であっても、またはその機能性形態の非存在であってもよい。例えば、ユビキチン化基質がHIF-αである場合、試験を、E3ユビキチンリガーゼの一成分、例えばelongin C、elongin B、cullin-2またはrbx-1の非存在のもとで実施することができる。いくつかの実施形態においては、試験をVHLの非存在のもとで実施することができる。
【0091】
ユビキチン化活性が存在しない場合、基質をユビキチン化された形態で提供する必要があろう。これは、例えば、in vitroユビキチン化により、または細胞から基質を単離することにより行うことができる。HIF-αの場合、上記細胞は特に正常酸素条件下での細胞である。かかる試験の最も好都合なフォーマットはin vitroであろう。いくつかの実施形態においては、試験系は、例えば、関係するユビキチン化酵素活性(例えば、HIF-αユビキチン化酵素活性)を欠く細胞からの抽出物である細胞抽出物を含んでもよい。
【0092】
HIF-α安定性を試験する方法は上記のとおりであり、これらの方法はまた、推定モジュレーターの、VDU1によるHIF-α(または、該当する場合には、他のユビキチン化されたVDU1基質)の安定性をモジュレートする能力を測定するために利用することもできる。
【0093】
モジュレーターがHIF-α(または、該当する場合には、他の基質)と直接相互作用する可能性を排除するために、好ましくは、試験は、基質のユビキチン化状態を、例えば、分子量の変化を検出することによりまたはユビキチンに対する抗体を用いる免疫ブロットにより直接評価することに関わる。
【0094】
試験物質がVDU1によるHIF-α(または他の基質)の安定化をモジュレートすることができるのを確認する他の方法は対照実験を実施することであり、この対照実験は当業者が本発明の開示を照らし合わせて当業者の一般的技術と知識を用いて設計することができる。例えば、試験物質が脱ユビキチン化をモジュレートしかつ、例えばユビキチン化経路をモジュレートしないことを立証するために、当業者は、ユビキチン化系およびその基質を含んでなる(しかし機能的脱ユビキチン化経路の無い)異なる試験系を採用し、そして推定モジュレーターがこの系において基質のユビキチン化状態をモジュレートすることができるかどうかを測定することが可能であろう。同様に、その効果がHIF-αの直接モジュレーションに因るものでないことを立証するために、HIF-αとレポーター遺伝子を含んでなる試験系を採用し、そしてモジュレーターがこの試験系において何らかの効果を与えるかどうかを測定することが可能であろう。その他の対照実験は当業者に明らかであろう。
【0095】
上記の本発明のそれぞれの試験方法において使用される薬剤の量は、通常、試行錯誤により決定しうる。典型的には、薬剤化合物の約1nm〜100μm濃度、例えば0.1〜10μmを使用することができる。使用される薬剤化合物は、医薬スクリーニングプログラムにおいて使用される天然または合成化合物であってもよい。いくつかの特徴付けられたまたは特徴付けられてない化合物を含有する植物または微生物の抽出物を使用してもよい。
【0096】
治療方法と用途
以上示したように、HIFは多数の公知の転写標的を有する転写因子である。従って、HIF活性の低下または増強が治療上重要な多数の疾患がある。
【0097】
HIF活性の低下が価値を有しうる疾患は、HIF活性に、さらに好ましくはHIF1活性に関連する疾患でありうる。好ましくは、これらは、不適当な血管新生または炎症に関連がある疾患である。具体的な例には、癌(例えば、Cramerら, 2003を参照)、眼疾患、例えば黄斑変性症および糖尿病性網膜症(Witmerら, 2003)、アルツハイマー病(Vagnucciら, 2003)、アテローム性動脈硬化症(Ross JSら, 2001)、乾癬(Dredgeら, 2002)、慢性関節リウマチ(Dredgeら, 2002)、子宮内膜症(Healyら, 1998)などが含まれる。
【0098】
HIF活性の増強は、例えば、新しい血管増殖および/または低酸素症における細胞生存または細胞機能の促進が利益をもたらすとき、例えば、末梢または冠動脈疾患(Kusumantoら, 2003)においてまたは心筋虚血などにおいて有用である。さらに、血管運動制御はHIFにより調節することができるので、HIFの活性化は全身血圧を低下しうる。
【0099】
「治療」は、その発生を遅くすることを含む、疾患のいずれかの程度の軽減を意味する。治療は、代わりの治療(例えば手術)を必要とするまでの時間を延長する上で利益がありうる。治療はまた、予防、例えばアンギナの治療における冠状側副枝の促進において、例えば、虚血症を予防することを含むことも意図する。
【0100】
本発明において、これらの疾患はVDU1のモジュレーターの投与により治療することができる。
【0101】
タンパク質(例えば、VDU1)の「モジュレーター(modulator)」は、インヒビターまたはアクチベーター、すなわち、該タンパク質の全活性を低下するまたは増強する薬剤を意味する。
【0102】
「インヒビター(inhibitor)」は、該タンパク質の全活性を低下する薬剤を意味する。この作用は、細胞中のタンパク質の全体量を低下することによる、好ましくは該タンパク質の発現を低下することによる。あるいは、その機能を遂行するタンパク質の能力を低下することにより起こる抑制であってもよい。
【0103】
同様に、「アクチベーター(activator)」は、該タンパク質の全活性を増強する薬剤を意味する。この作用は、細胞中のタンパク質の全体量を増加することによる、好ましくは該タンパク質の発現を増強することによる、またはその機能を遂行するタンパク質の能力を増加することによってもよい。
【0104】
用語「モジュレーション(modulation)」、「抑制(inhibition)」および「活性化(activation)」は以上に従って解釈されるものとする。
【0105】
好ましくは、VDU1のモジュレーターは特異的モジュレーター、すなわち、VDU1のタンパク質活性に直接影響を与えるが、HIF-αの安定性に直接影響を与えないモジュレーターである。さらに好ましくは、VDU1のモジュレーターはVDU1以外のいずれの細胞タンパク質の活性にも直接影響を与えない。特に、VDU1のモジュレーターは、VHLがVDU1同様、HIF-αを直接、分解の標的とするので、VHLでないことが好ましい(Liら, 2002)。
【0106】
いくつかの実施形態においては、モジュレーターは上記の本発明の試験方法により得ることが可能であるかまたは得ることができる。
【0107】
VDU1のインヒビターまたはアクチベーターは天然のまたは合成の化合物であってもよい。
【0108】
治療に応用するための最も好適なモジュレーターは、例えば、当技術分野で周知のコンビナトリアルライブラリー(例えば、Newton (1997) Expert Opinion Therapeutic Patents, 7(10): 1183-1194を参照)から選択される小分子であろう。候補物質は、小分子、例えばステロイド、ベンゾジアゼピンまたはオピエートクラスの小分子を含みうる。
【0109】
他のモジュレーターのクラスはポリペプチドである。インヒビターポリペプチドの一例は、VHLまたはVDU1タンパク質配列から誘導されるポリペプチドであって、これらの2種のタンパク質の間の相互作用を抑制するポリペプチドである。これらのペプチド断片は、これらのタンパク質の間の相互作用の原因となるVHLまたはVDU1の領域由来の、5〜40個のアミノ酸、例えば6〜10個のアミノ酸の断片であってもよい。
【0110】
他の可能なモジュレーターポリペプチドは抗VDU1アゴニスト抗体または抗VDU1アンタゴニスト抗体である。候補モジュレーター抗体を特徴付け、そしてVDU1活性をモジュレートする原因となる1本鎖抗体およびそのフラグメントを提供するその結合領域を決定することができる。抗体はヒト、またはヒト化抗体であってもよい。
【0111】
VDU1抗体は、それが結合することができるポリペプチドとそれが全くまたは実質的に結合アフィニティを有しない(例えば、少なくともほぼ1000倍より低い結合アフィニティしか有しない)同じ種の他のポリペプチドとを識別できるという意味で特異的である。特異的抗体は、他の分子上では存在しないまたはアクセスできない分子上のエピトープと結合する。
【0112】
好ましい本発明による抗体は、夾雑物、例えば他のポリペプチドと結合しうる抗体を含まないおよび/または血清成分を含まないという意味で、単離されている。モノクローナル抗体がいくつかの目的にとって好ましいが、ポリクローナル抗体も本発明の範囲内にある。
【0113】
抗体は、当技術分野で標準的である技術を利用して取得することができる。抗体を産生する方法は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ)を、本発明のポリペプチドを用いて免疫感作することを含む。抗体は、免疫感作した動物から当技術分野で公知の様々な技法のいずれかを利用して取得し、好ましくは、目的の抗原に対する抗体を用いてスクリーニングすることができる。例えば、ウェスタンブロット技法または免疫沈降を利用してもよい(Armitageら, Nature, 357:80-82, 1992)。
【0114】
哺乳動物をペプチドを用いて免疫感作する代わりにまたは補充として、タンパク質に特異的な抗体を、遺伝子組換えで産生した免疫グロブリン可変ドメインのライブラリーから、例えば、機能的免疫グロブリン結合ドメインをその表面上に提示するλバクテリオファージまたは糸状バクテリオファージを用いて、取得することができる(例えば、WO92/01047を参照)。
【0115】
本発明による抗体は、多数の方法で改変することができる。実際、用語「抗体」は、所要の特異性を備えた結合ドメインを有するいずれの結合物質も包含すると解釈されるべきである。従って、本発明は、合成分子を含む抗体フラグメント、抗体の誘導体、機能的同等物および相同体、ならびにその形状が抗原もしくはエピトープと結合することを可能にする抗体の形状を模擬する分子を包含する。
【0116】
抗原または他の結合パートナーと結合することができる抗体フラグメントの例は、VL、VH、ClおよびCH1ドメインから成るFabフラグメント;VHおよびCH1から成るFdフラグメント;抗体の単一アームのVLおよびVHドメインから成るFvフラグメント;VHドメインから成るdAbフラグメント;単離されたCDR領域およびF(ab')2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントである。1本鎖Fvフラグメントも含まれる。
【0117】
モノクローナル抗体を、組換えDNA技術の技法で処理して元来の抗体の特異性を保持する他の抗体またはキメラ分子を産生させることができる。かかる技法は、抗体の免疫グロブリン可変域、または相補性決定領域(CDR)をコードするDNAを、異なる免疫グロブリンの定常域、または定常域+フレームワーク領域に導入することに関わりうる。例えば、EP-A-184187、GB-A-2188638またはEP-A-0239400を参照されたい。キメラ抗体のクローニングおよび発現は、EP-A-0120694およびEP-A-0125023に記載されている。
【0118】
VDU1活性の好ましいアクチベーターは、VDU1の発現を増強する薬剤である。かかる薬剤は、例えば、細胞内の自然のVDU1の産生を増強する薬剤であってもよいし、またはVDU1をコードする核酸、例えば、標的細胞内でVDU1を発現するように設計された遺伝子治療ベクターであってもよい。
【0119】
インヒビターは核酸であって、VDU1核酸分子の配列の全てもしくは一部分に対応するまたは相補的な配列を含んでなり、該モジュレーターが細胞内に存在するとVDU1発現を低下させる上記核酸であってもよい。かかるインヒビターは、例えば、アンチセンスRNA、siRNA、または、以下に説明するように、細胞内でプロセシングされてsiRNAを生成しうる2本鎖RNAであってもよい。他の可能な核酸分子インヒビターには、VDU1 mRNAをターゲティングするリボザイムが含まれる。これらの薬剤は、遺伝子の発現を低下させるために個体の標的細胞内のVDU mRNAに向けられる。核酸は裸の核酸またはその製剤、例えば、細胞の取込みを増強するように設計されたリポソーム製剤として送達することができる。標的細胞内で核酸を発現するDNA分子または遺伝子治療ベクターを利用することもできる。好適なベクターの例を以下にさらに考察する。
【0120】
RNA干渉は2ステップのプロセスである。最初にdsRNAが細胞内で切断され、5'に末端リン酸および3'に短いオーバーハング(2nt程度)を備えたほぼ21〜23nt長さの短い干渉RNA(siRNA)を生じる。siRNAは対応するmRNA配列を特異的にターゲティングして破壊する(Zamore P.D. Nature Structural Biology, 8, 9, 746-750, (2001))。従って、siRNAインヒビターは、VDU1をコードする配列を含んでなる2本鎖RNAであって、例えば(例えば、上記のように、プロセシングされてsiRNAとなりうる)「長い」2本鎖RNAであってもよい。これらのRNA産物はin vitroで、例えば、通常の化学合成法により合成することができる。
【0121】
RNAiはまた、3'-オーバーハング端末を持つ同じ構造の化学的に合成したsiRNA2本鎖を用いて効率的に誘導することもできる(Zamore PDら Cell, 101, 25-33, (2000))。合成siRNA2本鎖は、広範囲の哺乳動物培養細胞株において、内因性および異種遺伝子の発現を特異的に抑制することが示されている(Elbashir SM.ら Nature, 411, 494-498, (2001))。
【0122】
従って、VDU1インヒビターはまた、VDU1配列の20〜25bp、さらに好ましくは21〜23bpを含有するsiRNA2本鎖であって、例えば、合成により、場合によっては分解を防止する保護された形態で生産することもできる。あるいは、siRNAを、ベクターからin vitroで(回収と利用のために)またはin vivoで生産してもよい。
【0123】
一実施形態においては、ベクターは、VDU1配列の一部分に対応するセンスおよびアンチセンス両方向の核酸配列を含んでなり、RNAとして発現されると、センスおよびアンチセンスセクションが結合して2本鎖RNAを生成してもよい。これは、例えば長い(例えば、23nt以上の)2本鎖RNAであってもよく、それが細胞内でプロセシングされてsiRNAを産生してもよい(例えば、Myers (2003) Nature Biotechnology 21:324-328を参照)。あるいは、2本鎖RNAがsiRNA2本鎖を生成する配列を直接にコードしてもよい。他の実施形態においては、センス配列とアンチセンス配列を異なるベクター上に提供する。
【0124】
リボザイムは特定の核酸配列を有する他のRNA分子を切断する触媒RNA分子である。ヘアピンリボザイム、ハンマーヘッドリボザイム、RNASEPリボザイム(すなわち、原核生物または真核生物からの天然のRNASEPリボザイムから誘導されるリボザイム)を含むリボザイムを構築する一般的方法は、当技術分野で公知である。Castanottoら, (1994) Advances in Pharmacology 25: 289-317は、グループIリボザイム、ハンマーヘッドリボザイム、ヘアピンリボザイム、RNASEP、およびアクスヘッド(axhead)リボザイムを含むリボザイム全体の概観を提供している。
【0125】
VDU1をモジュレートする薬剤は、治療の必要がある被験者に、いずれの好適な剤形で投与してもよい。通常、薬剤は、薬剤を製薬上許容される担体と混合した医薬組成物の剤形になっているであろう。担体は、薬剤の所望の投与経路にとって好適であるように適合させるであろう。薬剤は、例えば、経口、局所、皮下、または他の経路により投与することができる。
【0126】
一般的に、本発明における使用を意図する医薬組成物は、固体、溶液、乳濁液、分散液、ミセル、リポソームなどの剤形であってもよく、ここで、得られる組成物は、本発明における使用を意図する1種以上の活性化合物をその活性成分として、経腸または非経口の適用に好適な有機もしくは無機担体または賦形剤との混合物で含有する。活性成分は、例えば、通常の無毒の製薬上許容される担体を用いて、錠剤、ペレット、カプセル、座薬、溶液、乳濁液、懸濁液、および使用に好適であるいずれかの他の剤形に調合することができる。利用しうる担体には、ブドウ糖、乳糖、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプンのり、三ケイ酸マグネシウム、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイド状シリカ、ジャガイモ デンプン、尿素、中鎖長トリグリセリド、デキストラン、および調製物の製造に好適な固体、半固体または液体形態の他の担体が含まれる。
【0127】
本発明に意図される活性成分を含有する医薬組成物は、経口用に好適な剤形、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ錠、水性もしくは油性懸濁液、分散性粉末もしくは顆粒、乳濁液、ハードもしくはソフトカプセル、またはシロップもしくはエリキシル剤であってもよい。経口用に意図される組成物は、当技術分野で公知の医薬組成物の製造方法によって調製することができる。
【0128】
いくつかの事例では、経口用製剤は、活性成分を不活性な固体希釈物、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、カオリンなどと混合したハードゼラチンカプセルの剤形であってもよい。経口用製剤はまた、活性成分を水性もしくは油性基剤、例えばピーナッツオイル、液状パラフィン、またはオリーブオイルと混合したソフトゼラチンカプセルの剤形であってもよい。
【0129】
医薬組成物は無菌注射用懸濁液の剤形であってもよい。この懸濁液は、公知の方法によって、好適な分散または湿潤剤および懸濁剤を用いて製剤することができる。無菌注射用調製物はまた、無毒で非経口投与に許容される希釈剤または溶媒中の無菌注射用溶液または懸濁液、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液であってもよい。無菌で不揮発性の油を溶媒または懸濁媒質として採用すると好都合である。この目的に対していずれの無刺激性で不揮発性の油を採用してもよく、これには、合成モノまたはジグリセリド、脂肪酸(オレイン酸を含む)、ゴマ油、ココナッツオイル、ピーナッツオイル、綿実油などのような天然植物油、またはオレイン酸エチルなどの合成脂肪ビヒクルが含まれる。必要によっては、バッファー、保存剤、抗酸化剤などを組み込むこともできる。
【0130】
例えば、局所投与用化合物の製剤には、活性薬の皮膚を通過する摂取を増強するように設計した経皮製剤が含まれる。経皮送達デバイス、例えばパッチは当技術分野で周知であって薬剤の経皮製剤を作るために利用することができる。
【0131】
投与される薬剤の量は、薬剤の性質およびその投与の経路と用量に依存しうる一方、患者とその特定の必要性も考慮に入れる。
【0132】
体細胞の遺伝子治療は、例えばレトロウイルスベクター、他のウイルスベクターの利用により、または非ウイルス遺伝子導入により実施することができる(詳細は、T. Friedmann, Science 244 (1989) 1275;Morgan 1993, 「RACデータ管理レポート(RAC DATA MANAGEMENT REPORT)」, June 1993を参照)。
【0133】
遺伝子治療用に好適なベクター系は、例えば、レトロウイルス(Mulligan, R. C. (1991) in 「ノーベル・シンポジウム8:DNAレベルにおけるヒト疾患のエチオロジー(Nobel Symposium 8: Ethiology of human disease at the DNA level)」 (Lindsten, J.およびPattersun編), 143-189頁, Raven Press)、アデノ随伴ウイルス(McLughlin, J. Virol. 62 (1988), 1963)、ワクシニアウイルス(Mossら, Ann. Rev. Immunol. 5 (1987) 305)、ウシパピローマウイルス(Rasmussenら, Methods Enzymol. 139 (1987) 642)またはヘルペスウイルスのグループ由来のウイルス、例えばエプスタイン・バーウイルス(Epstein Barr virus)(Margolskeeら, Mol. Cell. Biol. 8 (1988) 2937)またはヘルペスシンプレックスウイルスである。
【0134】
また公知の非ウイルス送達系もある。例えば、米国特許第6,228,844(Wolff)号を参照されたい。このためには、通常「裸の(nude)」核酸、好ましくはDNAを用いるかまたは補助剤、例えば導入試薬(リポソーム、デンドロマー(dendromer)、ポリリシン-トランスフェリン-複合体(Wagner, 1990; Felgnerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84 (1987) 7413))と一緒に核酸を用いる。
【0135】
従って、標的細胞内で機能性のあるプロモーターと機能しうる形で連結されたVDU1をコードする配列を含んでなる遺伝子治療ベクターを用いて、HIF-αを安定化しかつHIFが媒介する応答を増加することができる。
【0136】
他の実施形態においては、遺伝子治療ベクターは、プロモーターと機能しうる形で連結されたVDU1配列の全てもしくは一部分に対応するまたは相補的である配列を含んでもよく、上記ベクターを用いてVDU1の発現を減少させかつHIF-αを脱安定化し、先に考察したように、HIFが媒介する応答を低下することができる。
【0137】
様々な脊椎動物系に利用するのに好適なプロモーターは周知である。例えば、強力なプロモーターには、RSV LTR、MPSV LTR、SV40 IEP、およびメタロチオネインプロモーターが含まれる。CMV IEPがヒト用にはさらに好ましい。
【0138】
CYLD
先に記載したように、円柱腫症を患う個体は、染色体16q12-13上に位置するCYLD遺伝子に病変があってこれがCYLD遺伝子産物の突然変異または発現の欠如をもたらす個体である。Bignellら(同上)はCYLDの構造の同一性を報じ、そして多くの罹患した個体がCYLDコード配列の3'の3分の2に位置する突然変異を有することを報じている。他のヒトの個体は遺伝子が位置する染色体の全領域の欠失を有しうる。
【0139】
円柱腫症を患う個体の症状を治療するために、彼らに有効量のNF-κBインヒビターを投与することができる。
【0140】
「治療」は疾患のいずれかの程度の軽減を意味し、腫瘍の増殖速度の抑制も含む。これは、手術介入を必要とする時間を延長するために有益である。
【0141】
NF-κBを抑制することが知られる多数の薬剤が当技術分野で公知である。例えば、米国特許第5,985,592号はペントキシフィリンまたはその機能的誘導体または代謝物がNF-κBの活性化により特徴付けられる疾患の治療に使用しうることを開示している。「ペントキシフィリンまたはその機能的誘導体/代謝物」というフレーズは、化合物1-(5-オキソヘキシル)-3,7-ジメチルキサンチン(ペントキシフィリン)ならびにその酸化、還元、置換および/または転位産物、例えば、LukeおよびRocci in J. Chromatogr. 374(1):191-195 (1986)に記載の代謝物1〜代謝物7(例えば、1-(5-ヒドロキシヘキシル)-3,7-ジメチル-キサンチン(代謝物1))およびそれらの合成変異体(例えば、プロペントフィリン)を意味する。
【0142】
米国特許第6,090,542号は、NF-κB活性が、IκBのαサブユニットであるIκB-αのタンパク分解を抑制する物質を用いて細胞を処置することにより抑制することができると教示している。
【0143】
NF-κBを抑制することが公知の他の薬剤には、アスピリン、イブプロフェン、スリンダク、フルルビプロフェンおよびサリチル酸塩;ならびにA型およびJ型cyPGのようなシクロペンテノンプロスタグランジン(cyPG)、例えばプロスタグランジンA1(PGA1)およびcyPG、15-デオキシ-Δ12,14-PGJ2が含まれる。
【0144】
さらなる薬剤のクラスは核酸配列を含むものであって、アンチセンス核酸、siRNAおよびリボザイムを含む。これらの薬剤は、遺伝子の発現を低下させるために、個体の標的細胞内のNF-κB mRNAを指向する。核酸は、裸のDNAとしてまたはその製剤、例えば、細胞摂取を増強するように設計されたリポソーム製剤として送達することができる。標的細胞内で核酸を発現する遺伝子治療ベクターを利用してもよい。
【0145】
NF-κBを抑制する薬剤は、治療の必要な被験者にいずれの好適な剤形で投与してもよい。通常、薬剤は、薬剤を製薬上許容される担体と混合した医薬組成物の剤形であろう。担体は、薬剤の所望の投与経路にとって好適であるように適合させうる。薬剤は、例えば、経口、局所、皮下、または他の経路により投与することができる。
【0146】
一般的に、本発明における使用を意図する医薬組成物は、固体、溶液、乳濁液、分散液、ミセル、リポソームなどの剤形であってもよく、ここで、得られる組成物は、本発明における使用を意図する1種以上の活性化合物をその活性成分として、経腸または非経口の適用に好適な有機もしくは無機担体または賦形剤との混合物で含有する。活性成分は、例えば、通常の無毒の製薬上許容される担体を用いて、錠剤、ペレット、カプセル、座薬、溶液、乳濁液、懸濁液、および使用に好適であるいずれかの他の剤形に調合することができる。使用しうる担体には、ブドウ糖、乳糖、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプンのり、三ケイ酸マグネシウム、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイド状シリカ、ジャガイモ デンプン、尿素、中鎖長トリグリセリド、デキストラン、および調製物の製造に好適な固体、半固体または液体形態のその他の担体が含まれる。
【0147】
本発明に意図される活性成分を含有する医薬組成物は、経口用に好適な剤形、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ錠、水性もしくは油性懸濁液、分散性粉末もしくは顆粒、乳濁液、ハードもしくはソフトカプセル、またはシロップもしくはエリキシル剤であってもよい。経口用に意図される組成物は、当技術分野で公知の医薬組成物の製造方法によって調製することができる。
【0148】
いくつかの事例では、経口用製剤は、活性成分を不活性の固体希釈物、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、カオリンなどと混合したハードゼラチンカプセルの剤形であってもよい。経口用製剤はまた、活性成分が水性もしくは油性基剤、例えばピーナッツオイル、液状パラフィン、またはオリーブオイルと混合したソフトゼラチンカプセルの剤形であってもよい。
【0149】
医薬組成物は無菌注射用懸濁液の剤形であってもよい。この懸濁液は、公知の方法によって、好適な分散または湿潤剤および懸濁剤を用いて製剤することができる。無菌注射用調製物はまた、無毒で非経口投与に許容される希釈剤または溶媒中の無菌注射用溶液または懸濁液、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液であってもよい。無菌で不揮発性油を溶媒または懸濁基剤として採用すると好都合である。この目的に対して、いずれの無刺激性で不揮発性の油を採用してもよく、これには、合成モノまたはジグリセリド、脂肪酸(オレイン酸を含む)、ゴマ油、ココナッツオイル、ピーナッツオイル、綿実油などのような天然植物油、またはオレイン酸エチルなどの合成脂肪ビヒクルが含まれる。必要によっては、バッファー、保存剤、抗酸化剤などを組み込むこともできる。
【0150】
例えば、局所投与用化合物の製剤には、活性薬の皮膚を通過する摂取を増強するように設計した経皮製剤が含まれる。経皮送達デバイス、例えばパッチは当技術分野で周知であって薬剤の経皮製剤を作るために利用することができる。例えば、米国特許第6,368,618号が記載しているアスピリンの経皮投与用に好適な製剤は、アスピリン(例えば、1%〜約30%w/w)を、イソプロピルアルコール、エチルアルコールおよびプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種のアルコール(例えば、1%〜約40%w/w)およびチモール、メントール、ユーカリプトール(eucalyptol)、オイゲノール、サリチル酸メチル、サリチル酸フェニル、カプサイシン、ブチル化ヒドロキシトルエン、局所麻酔薬、およびそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の融点降下剤と一緒に含んでなり、上記融点降下剤はアスピリンの重量のほぼ1/4未満(例えば、1/20〜1/4)の量で組成物中に存在し;上記組成物は自然に水相および油相と平衡化していて、ここでアスピレーションは25℃にて実質的に融解した形態であり、そしてここで油相中のアスピリンの濃度は、重量で、少なくとも油相の重量の40%である。
【0151】
投与される薬剤の量は、薬剤の性質およびその投与の経路と用量に依存し、かつ患者とその特定の必要性も考慮に入れる。例えば、経口投与するアスピリンおよび他のNSAIDは100〜1000mgの単位用量で与え、1日当たり1〜5回摂取することができる。上記医薬の他の投与経路は、同等のレベルで投与されうる。ペントキシフィリンまたはその機能的誘導体または代謝物の投与量については、米国特許第5,985,592号を参照することができる。プロスタグランジンを、1日当たり0.1〜100mg/kg体重の範囲で投与してもよい。
【0152】
CYLDはまた、他の癌、例えば乳癌、肺癌、大腸癌および前立腺癌においても、突然変異している可能性がある。従って、本明細書で参照する薬剤およびその製剤ならびに送達の経路および用量は、CYLD遺伝子の突然変異に関連する他の癌症状の治療に用いることができる。
【0153】
CYLDはNF-κBの抗アポトーシス効果を抑制するので、細胞内のCYLDのレベルを増強してIκBからのNF-κBの遊離を抑制することにより、細胞増殖に関連する疾患を治療する効能が提供される。かかる疾患には、間質性肺疾患、ヒト繊維性肺疾患(例えば、特発性肺線維症(IPF)、成人呼吸促進症候群(ARDS)、肺疾患の腫瘍支質、全身性硬化症、ヘルマンスキー‐パドラック(Hermansky-Pudlak)症候群(HPS)、石炭労働者塵肺症(CWP)、慢性肺高血圧、AIDS関連肺高血圧など)、ヒト腎疾患(例えば、ネフローゼ症候群、アルポート(Alport)症候群、HIV関連腎障害、多発性嚢胞腎疾患、ファブリー(Fabry)病、糖尿病腎障害など)、糸球体腎炎、全身性エリテマトーデス関連腎炎、肝線維症、心筋線維症、肺線維症、グレーブス(Grave)眼症、薬物に誘導された麦角中毒、循環器病、癌、アルツハイマー病、瘢痕(scarring)、強皮症、リフラウメニ(Li-Fraumeni)症候群におけるグリア芽細胞腫、散発性グリア芽細胞腫、骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病、脊髄形成異常症候群、骨髄増殖性症候群、癌、例えば乳癌、肺癌、大腸癌、前立腺癌または婦人科癌(例えば、卵巣癌、Lynch症候群など)、カポジ肉腫、ハンセン病、炎症性腸疾患などが含まれる。
【0154】
CYLDレベルの増強は、細胞内の自然CYLDの産生を増強する薬剤の投与により、または標的細胞内でCYLDを発現するように設計した遺伝子治療ベクターの導入により達成することができる。体細胞の遺伝子治療は、例えばレトロウイルスベクター、他のウイルスベクターの利用により、または非ウイルス遺伝子導入により達成することができる(詳細は、T. Friedmann, Science 244 (1989) 1275;Morgan 1993, 「RACデータ管理レポーター(RAC DATA MANAGEMENT REPORT)」, June 1993を参照)。
【0155】
遺伝子治療用に好適なベクター系は、例えば、レトロウイルス(Mulligan, R. C. (1991) in 「ノーベル・シンポジウム8:DNAレベルにおけるヒト疾患のエチオロジー(Nobel Symposium 8: Ethiology of human disease at the DNA level)」 (Lindsten, J.およびPattersun編), 143-189頁, Raven Press)、アデノ随伴ウイルス(McLughlin, J. Virol. 62 (1988), 1963)、ワクシニアウイルス(Mossら, Ann. Rev. Immunol. 5 (1987) 305)、ウシパピローマウイルス(Rasmussenら, Methods Enzymol. 139 (1987) 642)またはヘルペスウイルスのグループ由来のウイルス、例えばエプスタイン・バーウイルス(Epstein Barr virus)(Margolskeeら, Mol. Cell. Biol. 8 (1988) 2937)またはヘルペスシンプレックスウイルスである。
【0156】
また公知の非ウイルス送達系もある。例えば、米国特許第6,228,844(Wolff)号を参照されたい。このためには、通常「裸の(nude)」核酸、好ましくはDNAを用いるか、または補助剤、例えば導入試薬(リポソーム、デンドロマー(dendromer)、ポリリシン-トランスフェリン-複合体(Wagner, 1990; Felgnerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84 (1987) 7413))と一緒に核酸を用いる。
【0157】
従って、標的細胞内で機能性のあるプロモーターと機能しうる形で連結されたCYLDをコードする配列(その配列はBingnellら(同上)で利用しうる)を含んでなる遺伝子治療ベクターを用いてNF-κBの抗アポトーシス効果を抑制することができる。様々な脊椎動物系に利用するのに好適なプロモーターは周知である。例えば、強力なプロモーターには、RSV LTR、MPSV LTR、SV40 IEP、およびメタロチオネインプロモーターが含まれる。CMV IEPがヒト用にはさらに好ましい。
【0158】
本発明による試験は、NF-κB経路が活動している任意の培養細胞株、好ましくは哺乳動物培養細胞株、さらに好ましくはヒト培養細胞株において実施することができる。細胞は、自然状態で欠陥CYLD(例えば、円柱腫症を患う被験者に由来する)を含有しうるしまたは一時的にもしくは永久にCYLD遺伝子を抑制するよう改変されていてもよい。CYLDの活性の抑制は、付随する実施例に説明したように、siRNAにより達成することができる。
【0159】
本発明の試験においては、CYLD活性が抑制されているかまたは消失した細胞培養を、試験すべき薬剤と接触させる。例えば1〜48時間の細胞のインキュベーション後に、NF-κBの活性を測定する。
【0160】
本発明の試験に加えることができる薬剤の量は、通常、使用する化合物のタイプに応じて、試行錯誤により決定しうる。典型的には、薬剤化合物の0.01〜100nM濃度、例えば0.1〜10nMを使用することができる。使用しうる薬剤化合物は、医薬スクリーニングプログラムにおいて使用される天然または合成の化合物であってもよい。いくつかの特徴付けられたまたは特徴付けられてない化合物を含有する植物または微生物の抽出物も使用することができる。
【0161】
NF-κBの活性は、様々な方法により測定することができる。例えば、細胞内のNF-κBタンパク質の量は、免疫学的技術、例えばウェスタンブロットにより試験することができる。細胞内のNF-κBタンパク質の量は、例えばノーザンブロットもしくは定量的PCRを用いて試験することができる。あるいは、NF-κBの量は、レポーター遺伝子試験を用いて、すなわち、そのプロモーターがκエンハンサーエレメントの1個以上(例えば、2個、3個または4個)のタンデムコピーを含有するレポーター遺伝子(例えば、ホタルルシフェラーゼ、分泌される塩基性ホスファターゼ(SEAP)または緑色蛍光タンパク質)の発現量を測定することにより試験することができる。かかる構築物は市販されている(例えば、BD Biosciences Clontech, Palo Alto, CAからのpNF-κB-Lucベクター)。
【0162】
以下の実施例は本発明を説明するものである。
【0163】
実施例
タンパク質ユビキチン化は、タンパク質を主にプロテアソームが介在する破壊のためにターゲティングするのに利用される(後記の参考文献1、以下同じ)。タンパク質ユビキチン化は、ユビキチン複合化酵素およびユビキチン分子を基質に付加するユビキチンリガーゼの大ファミリー、ならびにタンパク質基質からユビキチンを除去するあまり研究されていない脱ユビキチン化酵素(DUB)のファミリーが関わる動的プロセスである。DUBは2つのクラス、すなわち、ユビキチンC-末端加水分解酵素(UCH)およびユビキチン特異的プロセシングプロテアーゼ(UBP)に区分することができる(参考文献1〜3)。UBP酵素はユビキチン部分のC末端において切断することによりユビキチン残基を大きな基質から除去するものであって、ユビキチン複合化/ライゲーション系の候補アンタゴニストである。癌におけるDUB遺伝子の役割は、このファミリーが発癌遺伝子(参考文献6、7)および腫瘍抑制遺伝子(参考文献4)の両方を含有するという事実により暗示される。さらに、DUBファミリーのメンバーは、p53(参考文献8)およびBRCA1(参考文献9)およびvon Hippel Lindau(VHL)腫瘍抑制遺伝子(参考文献10)と相互作用することが記載されている。
【0164】
実施例1
このDUB酵素のファミリーの個々のメンバーの機能を研究するために本発明者らが追求したストラテジーは、RNA干渉を介して独立したファミリーメンバーの発現を抑制し、そしてDUBの消失により誘発される表現型を探索することであった。本発明者らは最初に、DUBの触媒ドメインと相同性をもつ遺伝子についていくつかのヌクレオチド配列データベースを探索した。全部で50遺伝子がこのモチーフを持つことを同定することができ、そしてこれらには、円柱腫症腫瘍抑制遺伝子(CYLD)(参考文献4)およびTRE2発癌遺伝子(参考文献6)、およびVDU1に対応するDUB33番(DUB no.33)が含まれた。
【0165】
次に、これらの潜在的DUBに対応するcDNA配列を検索し、それぞれの転写物から4種のユニークな19量体配列を選択してpSUPER中にクローニングした;ここでpSUPERベクターはsiRNA様特性を有するRNAの短いヘアピンの合成を介して遺伝子発現の抑制を媒介するベクター(参考文献11)である。本発明者らは、それぞれのDUBに対して4種のノックダウンベクターを作ることを選んで、有意なDUB発現の抑制を得る機会を増加した。全部で、本発明者らは200個のノックダウンベクターを作り、次いでこれらを、それぞれのベクターのセットが単一のDUB転写物をターゲティングするように設計して、4種のベクターの50セットにプールした。
【0166】
4種のノックダウンベクターのセットがDUB遺伝子発現を抑制する効果を調べるために、本発明者らはDUBの4種のオープンリーディングフレームをGFPと融合し、DUBノックダウンベクターの同時発現の非存在および存在のもとでのGFP-DUB融合タンパク質発現のレベルを測定した。293細胞を同時トランスフェクトしてGFP抗体を用いて免疫ブロットした。P21-RFPをトランスフェクション対照とした。タンパク質レベルの有意な低下が全ての4種のDUBノックダウンベクターにより誘導されたが、対照P21-RFP融合タンパク質は影響を受けなかった。本発明者らはこのストラテジーによってDUB発現の効率的な抑制が可能になると結論した。
【0167】
実施例2
この実施例の4種のpSUPER VDU1ノックダウンベクターは、次の配列を含有した:
配列番号1
GATCCCCGAGCCAGTCGGATGTAGATTTCAAGAGAATCTACATCCGACTGGCTCTTTTTGGAAA
配列番号2
GATCCCCGTAAATTCTGAAGGCGAATTTCAAGAGAATTCGCCTTCAGAATTTACTTTTTGGAAA
配列番号3
GATCCCCGCCCTCCTAAATCAGGCAATTCAAGAGATTGCCTGATTTAGGAGGGCTTTTTGGAAA
配列番号4
GATCCCCGTTGAGAAATGGAGTGAAGTTCAAGAGACTTCACTCCATTTCTCAACTTTTTGGAAA
4種の配列のそれぞれはセンスおよびアンチセンス配列を含有し、そして細胞内で発現するとヘアピンループを形成する。これらのヘアピンは細胞により2本鎖siRNA分子に変換される。
【0168】
DUBファミリーの個々のメンバーの機能を同定するために、本発明者らは低酸素誘導レポーター(3xRE-ルシフェラーゼHIFα応答レポーター)を用いてDUB発現の消失の効果を測定した。正常酸素条件下でHIF-1αは、VHLが媒介する連続ユビキチン化に因って非常に短い半減期をもつタンパク質である。しかし低酸素条件下でHIF-1αは急速に安定化されて転写アクチベーターとして機能し、標的遺伝子の転写を刺激する。図1は、HEP-G2細胞内のDUB33番(DUB no.33)の消失が、低酸素条件下での低酸素誘導レポーターの活性低下をもたらすことを示す(グラフは逆数値を示す)。
【0169】
図2に示したように、VDU1ノックダウンは、低酸素および正常酸素条件の両方のもとでレポーター活性の低下をもたらす。SV40レニラ(Renilla)ルシフェラーゼを内部対照とした。
【0170】
VDU1の消失はレポーター遺伝子活性に影響を与えるだけでなく細胞内の低酸素応答にも真に影響を与えるかどうか試験するために、本発明者らはU2OS細胞をpSUPER-VDU-1およびpSUPER対照ベクターを用いてトランスフェクトし、そしてHIF-1α活性化をウェスタンブロットによりモニターした。予想通り、細胞の低酸素模擬デスフェリオキシアミンを用いた細胞の12時間処理はHIF-1αの増加をもたらすが、pSUPER-VDU-1を用いてトランスフェクトした細胞は低酸素条件下でHIF-1αの顕著な低下を示す(図3)。HIF-1αが主にユビキチン誘導性タンパク質分解により調節され、そして脱ユビキチン化酵素VDU1の消失がHIF-1αタンパク質レベルに影響を及ぼすので、VDU1がHIF-1αに作用して結合したユビキチン鎖を除去することは非常に確からしい。これは、HIF-1αの最大限の活性化は、ユビキチン化を抑制しかつHIF-1αが積極的に脱ユビキチン化する条件のもとでのみ得られることを示唆する。
【0171】
材料と方法
材料、抗体、およびプラスミド構築
DUBノックダウンベクターを作製するために、1つのDUB酵素に対応する短いヘアピン転写物をコードする4種のオリゴヌクレオチドのアニーリングしたセットを、個々にpSUPER中にクローニングした。細菌コロニーをプールし、プラスミド調製に用いた。GFP-DUB融合タンパク質を作製するために、対応するDUB酵素をヒトcDNAライブラリーからのDNAをテンプレートとして用いてPCR増幅し、そしてpEGFP-N1中にクローニングした。低酸素誘導レポータープラスミドは、ルシフェラーゼと連結した3x低酸素応答エレメントとした。
【0172】
細胞培養物、一過性トランスフェクションおよびレポーター試験
全ての細胞は10%ウシ胎児血清を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。細胞の高効率エレクトロポレーションは記載の通り行った(参考文献20)。レポーター試験は、0.5μg 3xRE-ルシフェラーゼ、1ng SV40-レニラおよび2.5μg pSUPERベクターのリン酸カルシウムトランスフェクションを用いて実施した。低酸素を模擬するために、細胞をトランスフェクション後48時間にスタートして12時間1mMデスフェリオキサマン(DFO)に曝した。
【0173】
免疫ブロット
ウェスタンブロットは、全細胞抽出物を用いて実施し、8-12% SDS-PAGEゲル上で分離し、そして二フッ化ポリビニリジンメンブラン(Millipore)にトランスファーした。ウェスタンブロットを、記載した抗体を用いてプローブした。記載したプラスミドを用いて形質転換したヒト胚腎細胞(293細胞)をリン酸カルシウム沈降によりトランスフェクトし、トランスフェクション後48時間の細胞を、「コンプリート」プロテアーゼインヒビター(Roche)を補充したELBバッファー(0.25M NaCL、0.1% NP-40、50mM Hepes pH 7.3)に溶解し、遠心分離し、そしてタンパク質複合体を、プロテインGセファロースビーズと複合した記載した抗体の2μgを用いて免疫沈降させた。ビーズを4回ELBバッファーを用いて洗浄し、そしてタンパク質複合体をSDSサンプルバッファー中でボイルすることにより溶出し、10%SDS-PAGE上で分離した。
【0174】
実施例3
DUBファミリーのメンバーの機能をさらに研究するために、本発明者らは、いずれかのDUBの抑制がNF-κB(顕著な抗アポトーシス活性をもつ癌関連転写因子(参考文献12))の活性に影響を与えうるかを調べた。本発明者らは、NF-κB-ルシフェラーゼレポーター遺伝子(3 x RE)を4種のDUBノックダウンベクターの50セットのそれぞれと一緒に、ヒトU2-OS細胞中にトランスフェクトし、48時間後にTNF-α(20ng/ml)による一夜の刺激とルシフェラーゼ活性の測定により、NF-κBの腫瘍壊死因子-α(TNF-α)活性化レベルに与えるDUBノックダウンの効果を測定した。SV40 レニラ・ルシフェラーゼを内部対照とした。
【0175】
この実施例の4つのpSUPER CYLD(DUB36)ノックダウンベクターは次の配列:
配列番号5
GATCCCCCAGTTATATTCTGTGATGTTTCAAGAGAACATCACAGAATATAACTGTTTTTGGAAA
配列番号6
GATCCCCGAGGTGTTGGGGACAAAGGTTCAAGAGACCTTTGTCCCCAACACCTCTTTTTGGAAA
配列番号7
GATCCCCGTGGGCTCATTGGCTGAAGTTCAAGAGACTTCAGCCAATGAGCCCACTTTTTGGAAA
配列番号8
GATCCCCGAGCTACTGAGGACAGAAATTCAAGAGATTTCTGTCCTCAGTAGCTCTTTTTGGAAA
を含有した。
【0176】
4つの配列のそれぞれはセンスおよびアンチセンス配列を有し、そして細胞内で発現するとヘアピンループを形成する。これらのヘアピンは細胞により2本鎖siRNA分子に変換される。
【0177】
DUBノックダウンベクターのセットのうちのただ1つのセット(#36)がTNF-αによるNF-κBの活性化を有意に増強した。DUB#36のノックダウンはE2F-ルシフェラーゼレポーターまたは低酸素誘導因子1-α(HIF-1α)-応答プロモーターに影響を与えない(データは示してない)ので、この効果は特異的であった。重要なことは、DUB#36セットのノックダウンベクターが円柱腫症腫瘍抑制遺伝子CYLD4(立証されている脱ユビキチン化酵素13)を標的とすることであって、CYLDがNF-κBのレギュレーターであることを示唆する。
【0178】
CYLDノックダウンベクターが効率的にCYLDタンパク質の存在量を抑制するかを調べるために、本発明者らはHAエピトープタグ付きCYLD発現ベクターを作製し、このベクターをpSUPER-CYLDノックダウンベクター(最初の4種のCYLDノックダウンベクターのプールの中で、4種のCYLDノックダウンベクターのうち最高の活性のベクター)とともに同時トランスフェクトした。U2-OS細胞をHA-タグ付きCYLDおよびpSUPER-CYLDまたは空ベクターを用いてトランスフェクトした。全細胞抽出物をHA抗体によって免疫ブロットした。GFPをトランスフェクション対照とした。HA-CYLDタンパク質レベルはpSUPER-CYLDにより有意に押し下げられ、このCYLDノックダウンベクターがCYLDを効率的にターゲティングして抑制することを立証した。
【0179】
NF-κBは、細胞質中でIκBインヒビタータンパク質により不活性型で保持されている。IκBキナーゼIKKαおよびβならびに構造成分NEMO(またはIKKγ)を含有するIκBキナーゼ(IKK)複合体を介するシグナル伝達により、IκBのリン酸化と次いで分解が起こって、NF-κBの核移動が行われる12,14。原理的に、CYLDノックダウンの、TNF-αによるNF-κBの刺激に与える観察された効果は、CYLDの、TNF-α受容体に与える効果、さらに下流のIKK複合体に与える効果、またはIκB/NF-κB複合体それ自身に直接与える効果から生じうる。腫瘍プロモーターであるホルボール(phorbol)12-ミリステート-13-アセテート(PMA)はTNF-α受容体の下流のNF-κBを活性化するので、本発明者らは、CYLDノックダウンがPMAが媒介するNF-κBの活性化にも影響を与えるかを調べた。図4はCYLDノックダウンはNF-κB活性の基底レベルを増強しなかったが、PMAおよびTNF-αが活性化するNF-κBレベルをさらに増加したことを示す。これは、CYLD消失がTNFα受容体の下流のNF-κBに影響を与えることを示唆する。
【0180】
次に、本発明者らは、CYLDが物理的にNF-κBシグナル伝達機構の公知のメンバーと結合しうるかを調べた。この実験においては、293細胞を記載したようにトランスフェクトし、48時間後にライセートを調製し、そしてタンパク質複合体をFlag抗体を用いて免疫沈降(IP)した。免疫沈降物をHAタグ付きCYLDに対して免疫ブロットし、全細胞抽出物をFlagタグ付きIκBα、IKKβおよびNEMO/IKKγに対してならびにHAタグ付きCYLDに対して免疫ブロットした。CYLDはNEMO/IKKγにより特異的に免疫共沈降したが、IκBαまたはIKKβによっては免疫共沈降しなかった。これは、CYLDがIκBキナーゼ複合体に、直接結合を介して作用することを示唆する。これを解析するために、本発明者らは、TNF-α刺激後のIKKβキナーゼ活性を、CYLDノックダウンの存在および非存在のもとで、in vitroキナーゼ試験を用いて測定した。総括すると、U2-S細胞をFlagタグ付きIKKβおよびpSUPER-CYLDまたは空ベクターを用いて同時トランスフェクトした。記載したように細胞を刺激し、IKKβを細胞ライセートから免疫沈降し、そしてGST-IκBα(1-72)とともに32P-γATPの存在のもとでインキュベートした。免疫沈降したIKKβを、Flag抗体による免疫ブロットにより可視化した。TNF-α非存在のもとで、IκBαに対するIKKβキナーゼ活性は検出されなかった。予想通り、TNF−α処理はIKKβキナーゼ活性を有意に刺激した。重要なことは、この活性は、細胞をCYLDノックダウンベクターを用いて同時トランスフェクトすると、さらに増強されることであった。CYLDノックダウンのIKKβタンパク質レベルに与える効果は見られず、CYLDはIKKβ存在量を調節する作用のないことを示唆した。
【0181】
CYLDノックダウンによるIKKβキナーゼ活性の増加と一致して、本発明者らは、CYLDノックダウンがIκBαレベル、すなわちIKKβキナーゼの内因性基質の有意な低下をもたらすことを観察した。これを試験するためにU2-OS細胞を、ピューロマイシン耐性マーカーと一緒にpSUPER-CYLDまたは空ベクターを用いてエレクトロポレーションをおこなった。トランスフェクトした細胞を48時間ピューロマイシン(2.0μg/ml)を用いて選択し、そしてTNF-α(15 ng/ml)を用いて刺激した。全細胞抽出物を内因性IκBαについて免疫ブロットした。これらのデータも、一緒に、CYLDが、非触媒NEMO/IKKγ成分との直接結合を介してIKK複合体のアンタゴニストとして作用すること、およびCYLD発現の低下がIKK複合体を介するシグナル伝達を刺激することを示す。
【0182】
転写または翻訳のインヒビターと一緒になると、TNF-αはある特定の細胞型におけるアポトーシスの強力なインデューサーである。TNF-αのこのプロアポトーシス活性は、多数の抗アポトーシス遺伝子を活性化するNF-κBの同時活性化により抑制することができる15。CYLDノックダウンはNF-κBのPMA誘導活性化を刺激するので、本発明者らは、CYLDとPMAはまた、TNF-α誘導アポトーシスを抑制するために共同するかを調べた。これを研究するために、本発明者らはHela細胞をTNF-αを用いてシクロヘキシミド(CHX)の存在のもとで処理してPMAを用いる前処理有りおよび無しの両方でアポトーシスを誘導した(方法の項を参照)。TNF-αによる12時間処理はHela細胞のほぼ95%にアポトーシスを誘導した。予想通り、PMAによる前処理は、生存細胞数のほぼ4倍増加をもたらした。CYLDノックダウンベクターを用いてトランスフェクトしておいたHela細胞におけるPMA前処理は、有意に、生存細胞のさらに大きい割合をもたらし、CYLD腫瘍抑制遺伝子の消失はNF-κBの活性化を介してアポトーシスの誘導に対する耐性を与えるのは非常に確からしいことを示唆した。この考えと一致して、CYLDノックダウンとPMAもHela細胞におけるNF-κB活性化に共同して作用した。
【0183】
NF-κBは、アスピリンおよびプロスタグランジンA1(PGA1)を含む多数の薬理学的薬剤により抑制することができる(参考文献5、16)。両化合物は、CYLDノックダウンの結果として超活性化される上記キナーゼのIKKβに対して作用することが示されている。この事は、CYLDノックダウンのNF-κB活性化に与える効果がアスピリンまたはPGA1により打ち消されうるという可能性を生じさせる。これを調べるために、本発明者らはU2-OS細胞をNF-κB-ルシフェラーゼ レポータープラスミドを用いてトランスフェクトし、そしてPMA(200nM)またはPMAおよびアスピリン(10mM)またはPMAおよびプロスタグランジンA1(8μM)によるトランスフェクション後48時間に、NF-κBを活性化した。先に観察したように、CYLDのノックダウンは、NF-κBのPMA刺激した活性をさらに増強した。極めて印象的なことに、CYLDノックダウンのNF-κB活性に与えるこの効果は、アスピリンとPGA1の両方により有意に抑制することができて、これらの化合物が本試験におけるCYLD抑制を補償しうることを示した。
【0184】
先に考察したように、CYLD腫瘍抑制遺伝子の消失は、NF-κBの活性化を介してアポトーシスに対する耐性を与えることが可能である。もしこの考えが正しければ、CYLDノックダウンのアポトーシスに対する保護効果はNF-κBインヒビター、アスピリンにより逆転されうることが予想される。本発明者らはこれを、Hela細胞を、TNF-α(10ng/ml)ならびにPMA(200ng/ml)またはPMAおよびアスピリンを用いて、CYLDノックダウンの存在のもとで処理することにより試験した。シクロヘキシミド(10μg/ml)をTNFとともに用いてアポトーシスを誘導した。CYLDノックダウンとPMA処理の組合わせは、再びTNF-α誘導アポトーシスに対する有意な耐性を与えた。意味深いこととして、TNF-α処理前の細胞の10nMアスピリンへの曝露は、CYLDノックダウンのTNF-α誘導アポトーシスに与える保護効果を完全に無効化してしまい、アスピリンもCYLD消失の抗アポトーシス効果を逆転できることを示した。この結果は、CYLDノックダウンが、IKKβおよびNF-κBの活性化を介してTNF-α誘導アポトーシスから保護するという考えと一致する。
【0185】
本発明者らは本明細書において、NF-κBの新規レギュレーターを同定するための、哺乳動物細胞における最初のハイスループットRNA干渉スクリーニングを記載する。本発明者らは、ユビキチン特異的プロセシングプロテアーゼ(UBP)に重点をおいたが、その理由は、これらのタンパク質がよく研究されているユビキチン複合酵素およびユビキチンリガーゼの潜在的アンタゴニストであるからである。思いがけなく、本発明者らは家族性円柱腫症腫瘍抑制遺伝子(CYLD)を新規のNF-κBのネガティブレギュレーターとして同定し、かくして、NF-κBシグナル伝達カスケードと腫瘍抑制遺伝子の間の直接の結び付きを初めて確立した。本発明者らの結果は、CYLD遺伝子における家族性突然変異を患う患者における表皮垂(epidermal appendices)の無制御増殖に対する説明を与えるものである。NF-κBが正常な皮膚増殖に必要であることは十分確定されている(参考文献14)。例えば、NF-κBを抑制されたマウスは毛包および外分泌腺の発生に障害があり、アポトーシス速度の増加をもたらす(参考文献17)。さらに雌NEMO/IKKγへテロ接合マウスは、ケラチノサイトのアポトーシスの増加を含む重篤な皮膚障害を有する(参考文献18)。同様な皮膚障害はヒト遺伝的障害の色素失調症(参考文献19)に見出され、これもまたNEMO/IKKγ遺伝子の突然変異からもたらされる。このように、皮膚におけるNF-κBの抑制はアポトーシスの増加を引き起こす。従って、本発明者らは、円柱腫症を患う患者における皮膚垂の無調節増殖は、活性NF-κBの増加からもたらされる増殖による、増殖とアポトーシスの間のバランスの摂動からもたらされることを示唆する。円柱腫症が正常増殖の比較的弱い摂動からもたらされることはまた、ほとんどの円柱腫症が二倍体核型(diploid karyotype)を有して転移性は稀である(参考文献4)という考えからも支持される。CYLD抑制からもたらされるアポトーシスからの保護の増強が、アスピリンおよびプロスタグランジンA1のような単純な薬理学的薬剤により逆転されうるという観察は、家族性円柱腫症の患者において正常な増殖制御を回復する方法を示唆するものである。
【0186】
方法
材料、抗体、およびプラスミド構築
DUBノックダウンベクターを作製するために、1つのDUB酵素に対応する4種の短いヘアピン転写物をコードするアニーリングしたオリゴヌクレオチドのセットを、個々にpSUPER中にクローニングした。細菌コロニーをプールし、プラスミド調製に用いた。GFP-DUB融合タンパク質を作製するために、対応するDUB酵素を、ヒトcDNAライブラリーからのDNAをテンプレートとして用いてPCR増幅し、そしてpEGFP-N1中にクローニングした。pNF-κB-Lucベクターは、Clontechから、SV40-レニラはPromegaから入手した。PMA、TNF-αおよびプロスタグランジンA1ならびにシクロヘキシミドはSigmaから購入した。HAタグ付きCYLDはヒトcDNAライブラリーからPCR増幅してpCDNA3.1(-)中にクローニングし、Flagタグ付きNEMOはEcoRI-XbaI NEMOを含有する断片をpcDNA-flag中にクローニングすることにより作製した。抗IκB-α(c-21)およびHAタグ(Y-11)抗体はSanta Cruzから、抗Flag M2はSigmaから、そして抗GFPウサギポリクローナル血清はJ. Neefjesから好意による提供を受けた。
【0187】
細胞培養、一過性トランスフェクションおよびレポーター試験
全ての細胞は、10%ウシ胎児血清を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。細胞の高効率エレクトロポレーションは記載の通り行った(参考文献20)。
【0188】
レポーター試験は、0.5μg NF-κB-Luc、1ng SV40-レニラおよび2.5μg pSUPERベクターのリン酸カルシウムトランスフェクションを用いて実施した。トランスフェクション後48時間に、細胞を200nM PMAまたは20 ng/ml TNF-αを用いて刺激し、トランスフェクション後72時間に、ルシフェラーゼ活性を測定した。トランスフェクション後48時間に、アセチルサリチル酸ナトリウム(10mM)またはプロスタグランジンA1(8μM)を細胞に加え、そしてトランスフェクション後72時間に、ルシフェラーゼ活性を測定した。Hela細胞においては、NF-κB活性をPMA刺激後2時間に測定した。
【0189】
免疫ブロット、免疫沈降およびキナーゼ試験
ウェスタンブロットは、全細胞抽出物を用いて実施し、8〜12%SDS-PAGEゲル上で分離し、そして二フッ化ポリビニリジンメンブラン(Millipore)に移した。ウェスタンブロットを、記載した抗体を用いてプローブした。記載したプラスミドを用いて形質転換したヒト胚腎細胞(293細胞)をリン酸カルシウム沈降によりトランスフェクトし、トランスフェクション後48時間の細胞を、「コンプリート」プロテアーゼインヒビター(Roche)を補充したELBバッファー(0.25M NaCL、0.1% NP-40、50mM Hepes pH 7.3)に溶解し、遠心分離し、そしてタンパク質複合体を、プロテインGセファロースビーズと複合した記載した抗体の2μgを用いて免疫沈降させた。ビーズを4回ELBバッファーを用いて洗浄し、タンパク質複合体をSDSサンプルバッファー中でボイルすることにより溶出し、10%SDS-PAGE上で分離した。免疫沈降/キナーゼ試験は本質的に記載の通り実施した(参考文献21)。
【0190】
アポトーシス試験
記載したプラスミドを用いてエレクトロポレーションしたHela細胞を、トランスフェクション後72時間に、200nM PMAを用いて2〜3時間処理し、次いで12時間、10ng/ml TNF-αおよび10μg/mlシクロヘキシミドを含有する培地中でインキュベートした。生存細胞を、トリパン-ブルー排除方法を用いて計数した。あるいは、アポトーシス細胞をPBS洗浄により除去し、付着細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%クリスタルバイオレット(Sigma)を用いて染色して590nmにおける光学密度を記載のように測定した(参考文献22)。NF-κB活性を抑制するために、TNF-αを加える3.5時間前に10mMアセチルサリチル酸ナトリウムを培地に補充した。
【0191】
配列情報
配列番号1

配列番号2

配列番号3

配列番号4

配列番号5

配列番号6

配列番号7

配列番号8

【0192】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】HEP-G2細胞において低酸素を模擬する条件(トランスフェクション後48時間にスタートして12時間の1mMデスフェリオクサミン(DFO)曝露)下での、3xRE-ルシフェラーゼHIF-1α応答レポーターの逆数値とDUBノックダウンライブラリーの個々のメンバーとの関係。SV40レニラルシフェラーゼを内部対照に用いた。
【図2】正常酸素条件および低酸素模擬条件(12時間DFO)下での、pSUPER-VDU-1の存在および非存在における3xREルシフェラーゼレポーターの活性。SV40レニラルシフェラーゼを内部対照に用いた。
【図3】U2-OS細胞を、pSUPERまたはpSUPER-VDU-1を用いてトランスフェクトし、1mM DFOに12時間曝した。全細胞抽出物をHif1-α特異的抗体により免疫ブロットした。
【図4】CYLDはNF-κBシグナル伝達のアンタゴニストである。U2-OS細胞をNF-κBルシフェラーゼレポーターおよびpSUPER-CYLDまたは空ベクターを用いてトランスフェクトした。トランスフェクション後48時間に細胞をPMA(200nM)またはTNF-α(20ng/ml)を用いて一夜刺激し、そしてルシフェラーゼ活性を測定した。SV40レニラルシフェラーゼを内部対照に用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推定モジュレーターとVDU1ポリペプチドを接触させるステップ;
推定モジュレーターがVDU1と結合するおよび/またはVDU1の活性をモジュレートするかどうかを確認するステップ;ならびに
HIF-αおよびVDU1を含んでなる試験系において、推定モジュレーターの、HIF-α安定性および/またはHIF-αのユビキチン化状態に与える効果を確認するステップ:
を含む試験方法。
【請求項2】
VDU1ポリペプチドを推定モジュレーターと接触させるステップ;
VDU1ポリペプチドと推定モジュレーターの間の結合を確認するステップ;
推定モジュレーターをHIF-αおよびVDU1を含んでなる試験系と接触させるステップ;ならびに;
推定モジュレーターの、HIF-αの安定性および/またはユビキチン化状態に与える効果を確認するステップ:
を含む、請求項1に記載の試験方法。
【請求項3】
VHLポリペプチド、VDU1ポリペプチドおよび推定モジュレーターを接触させるステップ;
推定モジュレーターがVHLとVDU1ポリペプチドの相互作用をモジュレートするかどうかを確認するステップ;
推定モジュレーターをVDU1、VHLおよびHIF-αを含んでなる試験系と接触させるステップ;
推定モジュレーターのHIF-αの安定性および/またはユビキチン化状態に与える効果を確認するステップ:
を含む、請求項1に記載の試験方法。
【請求項4】
試験方法が、モジュレーターの非存在のもとでVHLポリペプチドとVDU1ポリペプチドが複合体を生成する能力がある条件下で、VHLポリペプチド、VDU1ポリペプチドおよび推定モジュレーター化合物を接触させるステップを含んでなることを特徴とする、請求項3に記載の試験方法。
【請求項5】
推定モジュレーターをVDU1およびユビキチン化されたVDU1基質と接触させるステップ;
推定モジュレーターの、VDU1による基質の安定性および/またはユビキチン化状態をモジュレートする能力を確認するステップ;
推定モジュレーターをVDU1およびHIF-αを含んでなる試験系と接触させるステップ;
推定モジュレーターのHIF-αの安定性および/またはユビキチン化状態に与える効果を確認するステップ:
を含む試験方法。
【請求項6】
試験系がさらにVHLを含んでなることを特徴とする、請求項1、2、または5のいずれか1項に記載の試験方法。
【請求項7】
試験系が細胞であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の試験方法。
【請求項8】
細胞が低酸素条件下にあることを特徴とする、請求項7に記載の試験方法。
【請求項9】
細胞が正常酸素条件下にあることを特徴とする、請求項7に記載の試験方法。
【請求項10】
推定モジュレーターのHIF-α安定性に与える効果をHIF応答レポーター遺伝子の活性により確認することを特徴とする、請求項7〜9のいずれか1項に記載の試験方法。
【請求項11】
推定モジュレーターをVDU1およびユビキチン化されたHIF-αを含んでなる試験系と接触させるステップ;
推定モジュレーターの、VDU1によるHIF-αの安定性および/またはユビキチン化の状態をモジュレートする能力を確認するステップ:
を含む試験方法。
【請求項12】
試験系がさらにVHLを含んでなることを特徴とする、請求項11に記載の試験方法。
【請求項13】
推定モジュレーターを、モジュレーターの非存在のもとでVDU1がHIF-αを安定化する能力のある条件下で試験系と接触させることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の試験方法。
【請求項14】
医学的治療の方法に使用するためのVDU1のモジュレーター。
【請求項15】
VDU1に対する抗体である、請求項14に記載のモジュレーター。
【請求項16】
VDU1をコードする配列を含んでなる核酸であって、細胞内に存在するとVDU1発現を増強させる請求項14に記載のモジュレーター。
【請求項17】
VDU1 mRNAとハイブリダイズする配列を含んでなるアンチセンスRNA、2本鎖VDU1 RNA、もしくはVDU1 RNAをターゲティングするリボザイムであるモジュレーターか、または上記アンチセンスRNA、2本鎖VDU1 RNA、もしくはリボザイムをコードするベクターであるモジュレーターであって、細胞内に存在するとVDU1発現を低下させる請求項14に記載のモジュレーター。
【請求項18】
VHLまたはVDU1アミノ酸配列の一部分に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドであり、そしてVHLまたはVDU1と特異的に結合してVHLおよびVDU1が相互作用するのを防止する、請求項14に記載のモジュレーター。
【請求項19】
HIFのモジュレーションが治療上重要な症状を治療する医薬を製造するための、VDU1のモジュレーターの使用。
【請求項20】
モジュレーターが請求項15〜18のいずれか1項に記載のモジュレーターであることを特徴とする、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
HIF活性の抑制が治療上重要な症状を治療する医薬を製造するためのVDU1のインヒビターの使用を含んでなる、請求項19または20に記載の使用。
【請求項22】
疾患が炎症性疾患、癌、黄斑変性症および糖尿病性網膜症、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、乾癬、慢性関節リウマチおよび子宮内膜症からなる群から選択される
ことを特徴とする、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
HIFの活性化が治療上重要な症状を治療する医薬を製造するためのVDU1のアクチベーターの使用を含んでなる、請求項19または20に記載の使用。
【請求項24】
疾患が末梢および冠動脈疾患ならびに心筋虚血からなる群から選択される、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
HIFのモジュレーションが治療上重要な方法であって、個体にVDU1の活性をモジュレートする薬剤の有効量を投与することを含んでなる上記方法。
【請求項26】
VDU1のモジュレーターおよび製薬上許容される賦形剤を含んでなる組成物。
【請求項27】
モジュレーターが請求項15〜18のいずれか1項に記載のモジュレーターであることを特徴とする、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
個体にNF-κBインヒビターの有効量を投与することにより、円柱腫症を患う個体を治療する方法。
【請求項29】
上記インヒビターがアスピリンまたはプロスタグランジンA1であることを特徴とする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
円柱腫症の治療用医薬を製造するためのNF-κBインヒビターの使用。
【請求項31】
上記インヒビターがアスピリンまたはプロスタグランジンA1であることを特徴とする、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
個体におけるNF-κBの活性化に関連する疾患を治療する方法であって、個体にCYLDの発現を増加する薬剤の有効量を投与することを含んでなる上記方法。
【請求項33】
NF-κBの活性化に関連する疾患の治療用医薬を製造するための、CYLDの発現を増加する薬剤の使用。
【請求項34】
CYLD活性が抑制されているかまたは消失している細胞培養を提供するステップ;
上記培養を、試験すべき薬剤と接触させるステップ;および
NF-κBの活性に与える上記薬剤の効果を確認するステップを含んでなる試験方法。
【請求項35】
CYLD活性がsiRNAを用いて抑制されている、請求項34の方法。
【請求項36】
薬剤の効果をレポーター遺伝子構築物を用いて確認する、請求項34または35の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−518995(P2006−518995A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500600(P2006−500600)
【出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【国際出願番号】PCT/EP2004/000408
【国際公開番号】WO2004/064711
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(504367645)トポターゲット ユーケー リミテッド (12)
【Fターム(参考)】