説明

腸溶ポリマーを含むナノ粒子とカゼインを含む医薬組成物

【課題】低溶解性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子、ならびにカゼインまたはその薬学的に許容できる形態を含む組成物の提供。
【解決手段】(a)低水溶性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子12であって、(i)前記低水溶性薬の水中溶解度がpH範囲6.5〜7.5にわたって5mg/mL未満であり、(ii)前記ナノ粒子中の前記薬物の少なくとも90wt%が非結晶形態であり、(iii)前記ナノ粒子の平均サイズが500nm未満であり、(iv)前記低水溶性薬と前記腸溶ポリマーの質量比が9未満:1であるナノ粒子と、(b)カゼイン16またはその薬学的に許容できる形態とを含み、(1)前記カゼインと(2)前記低水溶性薬および前記腸溶ポリマーの合計質量の質量比が少なくとも1:20である固体医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低溶解性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子、ならびにカゼインまたはその薬学的に許容できる形態を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
低水溶性薬は、ナノ粒子として調製できることが知られている。ナノ粒子は、低水溶性薬の生物学的利用能を向上させるため、体の特定部位への標的を絞った薬物送達をもたらすため、副作用を減らすため、あるいはin vivoにおけるばらつきを減らすためといった種々の理由から重要である。
【0003】
ナノ粒子として薬物を調製するために種々の手法が利用されてきた。1つの手法は、表面改質剤の存在下で薬物を研削または摩砕することによって結晶性薬物のサイズを低減させることである。例えば、米国特許第5,145,684号を参照されたい。ナノ粒子を形成するための別の手法は、ポリマーなどの塗膜形成物質の存在下で薬物を沈殿させることである。例えば、米国特許第5,118,528号を参照されたい。
【0004】
体に医薬化合物を送達するためのナノ粒子の使用に関連するいくつかの問題が残っている。ナノ粒子は、水性懸濁液中で凝集してより大きい粒子にならないように安定させなければならない。多くの場合、界面活性剤などの表面改質剤を使用してナノ粒子を安定させるが、こうした物質は、in vivo投与したときに有害な生理学的作用があり得る。その上、表面改質剤が存在しない場合、ナノ粒子の表面は保護されず、性能および安定性の低下を招く。さらに、乾燥物質として調製する場合、組成物を水性使用環境に加えたときに、組成物は自然にナノ粒子を形成すべきである。
【0005】
カゼインは、キサントフィルおよび他の活性物質(actives)のための保護コロイドとして使用されている。米国特許第6,863,914号および公開された米国特許出願番号2002/0110599A1を参照されたい。カゼインは、結晶性および非晶質シクロスポリンナノ粒子のための表面安定剤の長い一覧表の中にも含まれている。米国特許第6,656,504号を参照されたい。カゼインは、治療薬およびリン酸カルシウムを含むコアを含有する粒子の保護コーティングとしても使用されている。公開された米国特許出願番号2002/0054914A1を参照されたい。カゼインは、ナノ粒子の架橋基質としても使用されている。米国特許第4,107,288号を参照されたい。しかしながら、低水溶性薬から形成したナノ粒子およびカゼイン単独では、上記の問題が十分に解決されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、凝集してより大きい粒子にならないという意味で安定な、かつ低溶解性薬の生物学的利用能を向上させるナノ粒子の継続的必要性が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、固体医薬組成物は、(a)(i)低水溶性薬の水性溶解度がpH範囲6.5〜7.5にわたって5mg/mL未満であり、(ii)ナノ粒子中の薬物の少なくとも90wt%が非結晶形態であり、(iii)ナノ粒子の平均サイズが500nm未満であり、(iv)低水溶性薬と腸溶ポリマーの質量比が9未満:1(less than 9:1)である、低水溶性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子と、(b)カゼインまたはその薬学的に許容できる形態とを含み、(1)カゼインと(2)低水溶性薬および腸溶ポリマーの合計質量の質量比が少なくとも1:20である。
【0008】
一実施形態では、カゼインは、ナノ粒子中に存在する。別の実施形態では、固体組成物は、カゼイン基質中に複数のナノ粒子を含む。さらに別の実施形態では、固体組成物は、カゼイン基質中にナノ粒子を含み、カゼインもナノ粒子中に存在する。
【0009】
別の態様では、医薬組成物は水性懸濁液を含み、水性懸濁液は、(a)(i)低水溶性薬の水性溶解度がpH範囲6.5〜7.5にわたって5mg/mL未満であり、(ii)ナノ粒子中の薬物の少なくとも90wt%が非結晶形態であり、(iii)ナノ粒子の平均サイズが500nm未満であり、(iv)低水溶性薬および腸溶ポリマーがナノ粒子の少なくとも60wt%を占め、(v)低水溶性薬と腸溶ポリマーの質量比が9未満:1(less than 9:1)である、低水溶性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子と、(b)カゼインまたはその薬学的に許容できる形態と、(c)水とを含む。
【0010】
本発明の組成物は、従来技術に比べていくつかの利点をもたらす。医薬組成物は(a)低水溶性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子と、(b)カゼインとを含むので、ナノ粒子中の非結晶性薬物の安定性およびナノ粒子の懸濁/再懸濁安定性をそれぞれ独立に扱うことができ、性能および安定性が向上したナノ粒子が得られる。
【0011】
第1に、ナノ粒子に使用した腸溶ポリマーは、低水溶性薬の安定化を助ける。腸溶ポリマーは、薬物の一部分が腸溶ポリマー中で溶解するように選択する。これは、ナノ粒子中の非結晶性薬物の結晶化速度の抑制または低減を助ける。
【0012】
第2に、カゼインは、ナノ粒子の水性懸濁液の安定、ナノ粒子の凝集の低減、減速、または抑制の促進を助ける。カゼインの使用はまた、界面活性剤を基剤とした安定剤およびイオン性(ionizable)ポリマーを基剤とした安定剤に比べてナノ粒子を含有する固体組成物の再懸濁性を向上させ、本発明の固体組成物は水溶液中に投与した場合にナノ粒子を再懸濁させる。
【0013】
最後に、本発明のナノ粒子は、ナノ粒子を安定させるために相当量の界面活性剤を取り込む従来のナノ粒子に比べて許容量(toleration)の向上をもたらし得る。
【0014】
本発明の前述および他の目的、特徴、および利点は、本発明の下記の詳細な説明を考察すると、より容易に理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の組成物は、(a)それぞれのナノ粒子に薬物および腸溶ポリマーが含まれる複数のナノ粒子、ならびに(b)カゼインに関する。医薬組成物、ナノ粒子、腸溶ポリマー、カゼイン、薬物、任意選択の表面安定剤、ならびにナノ粒子および組成物を作製するための方法を以下に詳細に説明する。
【0016】
固体医薬組成物
一態様では、本発明は、(a)低水溶性薬および腸溶ポリマーを含む複数のナノ粒子、ならびに(b)カゼインまたはその薬学的に許容できる形態を含む固体医薬組成物を含む。本明細書では、「固体医薬組成物」という用語は、組成物が固形形態であり、実質的に液体を含まないことを表す。固体医薬組成物の例示的な形態には、粒子、顆粒、粉体、微粉、ペレット、フレーク、スラブ、棒、および錠がある。こうした固体組成物を作製するための方法を以下に説明する。
【0017】
「ナノ粒子」とは、粒子の平均サイズが約500nm未満である複数の小さい粒子を表す。懸濁液中では、「平均サイズ」とは、例えば、Brookhaven Instruments’ 90Plus分粒装置を用いて、動的光散乱によって測定した有効キュムラント直径を表す。「サイズ」とは、球状粒子の直径、または非球状粒子の最大直径を表す。好ましくは、ナノ粒子の平均サイズは、400nm未満、より好ましくは300nm未満、最も好ましくは200nm未満である。
【0018】
懸濁液中の粒径分布の幅は、当業者には周知のように、相関崩壊率分布における相対分散と定義する、粒子の「多分散性」によって与えられる。キュムラント直径および多分散性の議論には、B.J.Fisken、「Revisiting the method of cumulants for the analysis of dynamic light−scattering data」、Applied Optics、40(24)、4087〜4091頁(2001年)を参照されたい。ナノ粒子の多分散性は、0.5未満であることが好ましい。ナノ粒子の多分散性は、約0.3未満であることがより好ましい。一実施形態では、ナノ粒子の平均サイズは、500nm未満で、多分散性は0.5以下である。別の実施形態では、ナノ粒子の平均サイズは、300nm未満で、多分散性は0.5以下である。
【0019】
一実施形態では、カゼインは、低水溶性薬および腸溶ポリマーと一緒にナノ粒子中に存在する。この実施形態では、カゼインは、表面安定剤として働くことができ、形成プロセス中または水性懸濁液中に存在するときにナノ粒子を安定させ、ナノ粒子の凝集またはフロキュレーションを低減または抑制する。
【0020】
別の実施形態では、固体組成物は、カゼイン基質中に複数のナノ粒子を含む。「カゼイン基質」とは、固体組成物中のナノ粒子の少なくとも一部分がカゼインによってカプセル化されていることを表す。「ナノ粒子の少なくとも一部分がカゼインによってカプセル化されている」とは、カゼインが組成物中の複数のナノ粒子の少なくとも一部分をカプセル化していることを表す。カゼインは、ナノ粒子の一部分だけをカプセル化でき、あるいは組成物中の本質的に全てのナノ粒子をカプセル化することができる。
【0021】
例えば、図1は、カゼイン16によってカプセル化されているナノ粒子12を含む組成物10Aを概略的に示す。カゼイン16によってカプセル化されていないナノ粒子12’は、それらの表面の少なくとも一部分がカゼイン16と接触している。組成物10Bは、本質的に全てのナノ粒子12がカゼイン16でカプセル化されている。したがって、組成物は、少なくとも一部分がカゼインによってカプセル化されている複数のナノ粒子を含有することができる。
【0022】
カゼイン基質中にナノ粒子を含む組成物の場合、固体組成物中にナノ粒子が存在することは、以下の手順を用いて確認することができる。固体組成物の試料を適当な材料、例えばエポキシまたはポリアクリル酸(例えば、London Resin Co.、ロンドン、英国製のLR White)中に包埋する。次いで試料をミクロトームで薄切して、約100〜200nm厚の固体組成物の断面を得る。次いでエネルギー分散X線(EDX)分析を備えた透過型電子顕微鏡法(TEM)を用いてこの試料を分析する。TEM−EDX分析は、試料の表面上のホウ素よりも大きい原子の濃度および種類を定量的に測定する。この分析から、カゼインが豊富な領域から薬物および腸溶ポリマーが豊富な領域を区別することができる。薬物およびポリマーが豊富な領域のサイズは、この分析において平均直径が500nm未満となり、固体組成物に薬物および腸溶ポリマーのナノ粒子、およびカゼインが含まれることを示す。TEM−EDX法のさらなる詳細には、例えば、Transmission Electron Microscopy and Diffractometry of Materials(2001年)を参照されたい。
【0023】
固体組成物がナノ粒子を含有することを実証する別の手順は、固体組成物の試料を水に投与してナノ粒子の懸濁液を形成することである。次いで懸濁液を、以下に説明する動的光散乱(DLS)によって分析する。本発明の固体組成物は、平均キュムラント直径が500nm未満のナノ粒子を形成するはずである。
【0024】
固体組成物がナノ粒子を含有することを実証するための特定の手順は、以下の通りである。固体組成物の試料を周囲温度で水に加え、固体の濃度が約1mg/mL未満になるようにする。次いでそのようにして形成した懸濁液をDLSによって分析する。DLS分析の結果、平均キュムラント直径が500nm未満の粒子が得られた場合、固体組成物はナノ粒子を含有する。
【0025】
本発明の固体組成物は、上記試験の少なくとも一方、好ましくは両方でナノ粒子が存在することを示すはずである。
【0026】
一般に、本発明の固体組成物は、小さい粒子または粉体の形態であることが好ましい。小さい粒子または粉体は、固体組成物を作製するプロセス中に形成でき、あるいは固体組成物の形成後に形成することができる。本発明の組成物を調製するためのプロセスを以下に論じる。
【0027】
本発明の組成物の小さい粒子の平均径は、約1μm〜約500μmの範囲になることが好ましい。固体組成物の処理を向上させるためには、より大きい粒子が一般に好ましい。したがって、粒子の平均径は、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも10μm、またはさらにより好ましくは少なくとも25μmである。しかしながら、粒子が大きすぎると、粒子の崩壊速度に影響を及ぼし得る。したがって、平均径は、直径で500μm未満、または100μm未満であってよい。粒子の平均径は、好ましくは10μm〜500μm、より好ましくは25μm〜100μmの範囲である。
【0028】
ナノ粒子およびカゼインは、組成物の全質量の約60wt%〜100wt%の範囲の量で固体組成物中に集合的に存在する。好ましくは、ナノ粒子およびカゼインは、集合的に組成物の少なくとも70wt%、より好ましくは少なくとも80wt%、さらにより好ましくは少なくとも90wt%を占める。一実施形態では、組成物は、ナノ粒子およびカゼインから本質的になる。「〜から本質的になる」とは、組成物が任意の他の賦形剤を1wt%未満含有し、このような任意の賦形剤が組成物の性能または特性に影響を与えないことを表す。
【0029】
組成物中のカゼインとナノ粒子の質量の質量比は、1:20〜約9:1の範囲であってよい。固体組成物を水性使用環境に投与したときにナノ粒子が再懸濁するように、カゼインは、十分な量で存在することが好ましい。さらに、水性使用環境への投与後により大きい粒子への凝集を抑制または阻止するために、十分な量のカゼインが存在することが好ましい。したがって、カゼインとナノ粒子の質量比は、少なくとも約1:20、より好ましくは少なくとも約1:15、より好ましくは少なくとも約1:10、より好ましくは少なくとも約1:7、より好ましくは少なくとも約1:5、最も好ましくは少なくとも約1:4である。
【0030】
好ましい実施形態では、本発明の固体組成物は、組成物中の薬物、腸溶ポリマー、およびカゼインの全質量に対して、以下の組成を有する:
薬物1〜60wt%、
腸溶ポリマー10〜80wt%、および
カゼイン5〜50wt%。
【0031】
別の実施形態では、本発明は、複数のナノ粒子、カゼイン、および水を含む水性懸濁液を含む。懸濁液中でカゼインがナノ粒子と結びついていることが好ましい。「〜と結びついている(associated with)」とは、懸濁液中のカゼインの一部分がナノ粒子の表面に接触しているまたは吸着していることを表す。
【0032】
ナノ粒子、カゼイン、および水を含む懸濁液は、上記の固体医薬組成物を水または他の適切な水溶液に投与することによって形成することができる。あるいは、懸濁液は、水溶液中でナノ粒子を形成し、カゼインを加えることによって形成することができる。さらに別の方法では、懸濁液は、カゼインを含有する水溶液中でナノ粒子を形成することによって形成することができる。本発明の懸濁液を形成するためのこれらおよび他の方法を以下に説明する。
【0033】
ナノ粒子
本発明の組成物は、複数のナノ粒子を含み、それぞれのナノ粒子には薬物および腸溶ポリマーが含まれる。その純粋な形態である薬物が結晶性または非結晶性のいずれでもよい場合、ナノ粒子中の薬物の少なくとも90wt%が非結晶性である。「結晶性」という用語は、本明細書では、三次元で長距離配列を示す化合物の特定の固形形態を表す。「非結晶性」は、長距離三次元配列を有していない物質を意味し、本質的に配列していない物質だけでなく、若干の度合いの配列を有し得るが、その配列が三次元に満たない、および/または短距離にわたっているに過ぎない物質も含むものとする。物質の非結晶形態に対する別の用語は、物質の「非晶質」形態である。生物学的利用能が乏しい低水溶性薬では、ナノ粒子中に非結晶状態で存在する薬物の割合が増大するにつれて生物学的利用能が向上することが判明している。好ましくはナノ粒子中の薬物の少なくとも約95wt%が非結晶性であり、言い換えれば、結晶形態の薬物の量が約5wt%を超えない。結晶性薬物の量は、粉末X線回折(PXRD)、示差走査熱分析(DSC)、固体状態核磁気共鳴(NMR)、または任意の他の既知の定量的測定法によって測定することができる。
【0034】
ナノ粒子中の非結晶性薬物は、純粋な相、腸溶ポリマーの全体にわたって均一に分散した薬物の固溶体、あるいはこれらの状態またはそれらの間にある状態の任意の組合せとして存在することができる。少なくとも一部の薬物および腸溶ポリマーが固溶体の形態でナノ粒子中に存在することが好ましい。固溶体は、熱力学的安定であってよく、その場合薬物が腸溶ポリマー中の薬物の溶解度限界未満で存在し、あるいは薬物が腸溶ポリマー中のその溶解度限界を超える過飽和固溶体であってよい。本質的に全ての薬物および腸溶ポリマーが固溶体として存在することが好ましい。
【0035】
一実施形態では、ナノ粒子は、コアを含み、コアには、非結晶性薬物および腸溶ポリマーが含まれる。本明細書では、「コア」という用語は、ナノ粒子の中心部を意味する。以下に説明するいくつかの実施形態では、物質は、コアの表面に吸着していてよい。コアの表面に吸着した物質は、ナノ粒子の一部と考えられるが、ナノ粒子のコアと区別することができる。コア中に存在する物質とコアの表面に吸着した物質を区別する方法には、(1)熱的方法、例えば示差走査熱分析(DSC)、(2)分光法、例えばX線光電子分光法(XPS)、エネルギー分散X線(EDX)分析を備えた透過型電子顕微鏡法(TEM)、フーリエ変換赤外(FTIR)分析、およびラマン分光法、(3)クロマトグラフ技術、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、およびゲル透過クロマトグラフィー(GPC)、ならびに(4)当技術分野で周知の他の技術がある。
【0036】
一実施形態では、非結晶性薬物および腸溶ポリマーは、コアの少なくとも60wt%、より好ましくはコアの少なくとも80wt%を占める。別の実施形態では、コアは、非結晶性薬物および腸溶ポリマーから本質的になる。
【0037】
コア中に存在する非結晶性薬物は、腸溶ポリマーの全体にわたって均一に分散した非結晶性薬物の熱力学的に安定な固溶体、腸溶ポリマーの全体にわたって均一に分散した非結晶性薬物の過飽和固溶体、あるいはこれらの状態またはそれらの間にある状態の任意の組合せとして、非結晶性の純粋な薬物ドメイン中に存在することができる。非結晶性薬物のガラス転移温度(T)が純粋なポリマーのTと少なくとも約20℃異なる場合、コアは、純粋な非結晶性薬物または純粋なポリマーのTの間であるTを示し得る。好ましくは、薬物の20wt%未満が非結晶性薬物ドメイン中に存在し、残りの薬物が腸溶ポリマーの全体にわたって均一に分散している。
【0038】
さらに別の実施形態では、コアは、非結晶性薬物、腸溶ポリマー、およびカゼインまたはその薬学的に許容できる形態を含む。コアは、(1)薬物、腸溶ポリマー、およびカゼインの均一な分子混合物、(2)コアの全体にわたって分散した純粋な薬物のドメイン、純粋な腸溶ポリマーのドメイン、および純粋なカゼインのドメイン、あるいは(3)これらの状態またはそれらの間にある状態の任意の組合せであってよい。一実施形態では、薬物、腸溶ポリマー、およびカゼインは、過飽和固溶体としてコアの全体にわたって均一に分散している。別の実施形態では、コアの外面は、コア全体に対してカゼインの濃度がより高い。
【0039】
さらに別の実施形態では、コアは、非結晶性薬物および腸溶ポリマーを含み、カゼインがコアの表面に吸着している。
【0040】
さらに別の実施形態では、コアは、非結晶性薬物、腸溶ポリマー、およびカゼインの一部分を含む。カゼインの残りの部分は、コアの表面に吸着している。この実施形態では、カゼインの一部分は、コアと一体化しているが、カゼインの残りの部分は、コアの表面に吸着している。
【0041】
ナノ粒子中の薬物と腸溶ポリマーの質量比は、約1:999〜約9:1(すなわち、ナノ粒子中の薬物および腸溶ポリマーの全質量に対して薬物約0.1wt%〜薬物90wt%)の範囲であってよい。好ましくは、薬物と腸溶ポリマーの質量比は、約1:99〜約4:1(すなわち、薬物および腸溶ポリマーの全質量に対して薬物約1wt%〜約80wt%)、より好ましくは約1:19〜約3:1(すなわち、約5wt%〜約75wt%)、さらにより好ましくは約1:9〜約2:1(すなわち、ナノ粒子中の薬物および腸溶ポリマーの全質量に対して薬物約10wt%〜約67wt%)、最も好ましくは約1:3〜約3:2(すなわち、ナノ粒子中の薬物および腸溶ポリマーの全質量に対して薬物約25wt%〜約60wt%)の範囲である。一実施形態では、薬物と腸溶ポリマーの質量比は、9未満:1(less than 9:1)、好ましくは4未満:1(less than4:1)、より好ましくは3未満:1(less than 3:1)、最も好ましくは3未満:2(less than 3:2)である。別の実施形態では、薬物と腸溶ポリマーの質量比は、少なくとも1:999、好ましくは少なくとも1:99、より好ましくは少なくとも1:9、最も好ましくは少なくとも1:3である。
【0042】
製剤の全質量を最小化するため、高薬物充填が望ましい。しかしながら、ナノ粒子中の薬物の量が高すぎる場合、ナノ粒子は、不安定になり得る。これは、(1)ナノ粒子中の薬物の結晶化、および/または(2)ナノ粒子中の薬物の相分離を招く可能性があり、その両方が非均質組成物をもたらす。絶対条件では、ナノ粒子中の薬物の量は、ナノ粒子の全質量の約90wt%未満、より好ましくは約80wt%未満、さらにより好ましくは約75wt%未満であることが一般に好ましい。
【0043】
腸溶ポリマー
「ポリマー」という用語は、従来から使用されており、結合させてより大きい分子を形成したモノマーから作製した化合物を表す。ポリマーは一般に、結合させた少なくとも約20個のモノマーからなる。したがって、ポリマーの分子量は一般に、約2000ダルトン以上になる。ポリマーは、有害な形で薬物と化学的に反応しないという意味では不活性でなければならず、薬学的に許容できなければならない。
【0044】
ポリマーは、「腸溶ポリマー」であり、ポリマーがpH約4.5以下で水に低溶解性であるが、約5よりも高いpHで水に可溶であることを意味する。本明細書において腸溶ポリマーと関連して使用される「低溶解性」という用語は、pH約4.5以下の水に濃度0.2mg/mLで投与した場合の約0.1mg/mL未満またはそれ以下の溶解度を意味する。腸溶ポリマーは、約5より高いpHでイオン化できる少なくとも1個のイオン化可能な置換基を有する。腸溶ポリマーは通常、pKaが約3〜6のポリ酸である。例示的なイオン化可能な置換基には、カルボン酸、チオカルボン酸、およびスルホネートがある。好ましいイオン化可能な置換基には、エーテル結合アルキルスルホネート、例えばエチルスルホネート、エーテル結合アルキルカルボキシ基、例えばカルボキシメチルおよびカルボキシエチル、ならびにカルボン酸基を含むエステル結合置換基、例えばサクシネート、フタレート、トリメリテート、およびマレエートがある。ポリマーに共有結合したイオン化可能な基の数は、ポリマー1グラム当たり少なくとも約0.05ミリ当量であることが好ましい。この数は、ポリマー1グラム当たり少なくとも約0.1ミリ当量であることが好ましい。
【0045】
約5より高いpHでは、腸溶ポリマーは水溶性である。「水溶性」とは、NaOHを用いてpH6.5に調整した20mMリン酸ナトリウム(NaHPO)、47mMリン酸カリウム(KHPO)、87mM NaCl、および0.2mM KClの水溶液からなるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液に、ポリマーを固体濃度0.2mg/mLで単独で投与した場合に、ポリマーの溶解度が0.1mg/mLより高いことを表す。好ましくは、ポリマーの溶解度は、少なくとも0.13mg/mL、より好ましくは少なくとも0.15mg/mL、最も好ましくは少なくとも0.17mg/mLである。
【0046】
腸溶ポリマーは、有機溶媒中に可溶であることも好ましい。好ましくは、腸溶ポリマーの有機溶媒中の溶解度は、少なくとも約0.1mg/mL、好ましくは少なくとも1mg/mLである。腸溶ポリマーは、架橋していないことが好ましい。
【0047】
腸溶ポリマーは、高ガラス転移温度(T)も有していてよい。「高ガラス転移温度」とは、75%以上の相対湿度(RH)で測定した場合に、腸溶ポリマーのTが少なくとも50℃であることを表す。好ましくは、腸溶ポリマーのTは、75%以上のRHで測定した場合に、少なくとも60℃、より好ましくは少なくとも70℃である。
【0048】
適当な腸溶ポリマーには、置換多糖類、および非多糖類がある。置換多糖類とは、腸溶ポリマーが、糖類繰返し単位上のヒドロキシル基の少なくとも一部分と化合物の反応によって改変されてエステルまたはエーテル置換基が形成された多糖類骨格を有することを表す。例示的な多糖類骨格ポリマーには、セルロース、デンプン、デキストラン、デキストリン、アミロース、アミロースペクチン、およびプルランがある。
【0049】
一実施形態では、置換多糖腸溶ポリマーは、セルロース系ポリマーである。「セルロース系」とは、糖類繰返し単位上のヒドロキシル基の少なくとも一部分と化合物の反応によって改変されてエステルまたはエーテル置換基が形成されたセルロースポリマーを表す。
【0050】
例示的な腸溶セルロース系ポリマーには、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートトリメリテート、およびその混合物がある。
【0051】
別の実施形態では、腸溶ポリマーは、非多糖ポリマーである。例示的な非多糖腸溶ポリマーには、ビニルポリマー、例えばポリビニルアセテートフタレート、酢酸ビニル−無水マレイン酸コポリマー;ポリアクリレート、ポリメタクリレート、およびそのコポリマー、例えばメチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー、エチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー;スチレン−マレイン酸コポリマー;セラック、ならびにその混合物がある。
【0052】
一実施形態では、腸溶ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートトリメリテート、ポリビニルアセテートフタレート、酢酸ビニル−無水マレイン酸コポリマー、ポリアクリレート、メチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー、エチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー、スチレン−マレイン酸コポリマー、セラック、およびその混合物からなる群から選択される。
【0053】
別の実施形態では、腸溶ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、メチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー、エチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー、およびその混合物からなる群から選択される。
【0054】
表面安定剤
本発明のナノ粒子は、薬物および腸溶ポリマーに加えて表面安定剤を任意選択により含んでいてよい。表面安定剤の目的は、水性懸濁液中でのナノ粒子の凝集またはフロキュレーションを低減または抑制し、安定性が向上したナノ粒子を得ることである。一実施形態では、表面安定剤は、形成プロセス中にナノ粒子を安定させるために使用する。安定剤は、有害な形で薬物と化学的に反応しないという意味では不活性でなければならず、薬学的に許容できなければならない。
【0055】
任意選択の表面安定剤は、ナノ粒子の全質量の0wt%〜約40wt%を占めていてよい。一般に、表面安定剤は、より低濃度であることが好ましい。したがって、好ましくは、表面安定剤は、ナノ粒子の全質量の約35wt%以下、より好ましくは約30wt%以下、最も好ましくは約25wt%以下を占める。
【0056】
一実施形態では、低水溶性薬、腸溶ポリマー、任意選択の表面安定剤、およびカゼインは、本発明の固体組成物の少なくとも90wt%を占める。別の実施形態では、本発明の固体組成物は、低水溶性薬、腸溶ポリマー、任意選択の表面安定剤、およびカゼインから本質的になる。
【0057】
一実施形態では、表面安定剤は、両親媒性化合物であり、疎水性および親水性領域のどちらも有することを意味する。別の実施形態では、表面安定剤は、アニオン、カチオン、双性イオン、および非イオン界面活性剤を含めた界面活性剤である。表面安定剤の混合物も使用することができる。
【0058】
例示的な表面安定剤には、カゼイン、カゼイン塩、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリ(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)(ポロキサマーとしても知られている)、トラガカント、ゼラチン、ポリエチレングリコール、胆汁酸塩(例えばコール酸、グリココール酸、およびタウロコール酸のナトリウムおよびカリウム塩を含めた、ジヒドロキシコール酸の塩)、リン脂質(例えばPPCまたはレシチンとも呼ばれる1,2−ジアシルホスファチジルコリンを含めたホスファチジルコリン)、ドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウムとしても知られている)、塩化ベンザルコニウム、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート)、ポリオキシエチレンステアレート、トリエタノールアミン、ナトリウムドキュセート、フマル酸ステアリルナトリウム、シクラミン酸ナトリウム、ならびにその混合物および薬学的に許容できる形態がある。
【0059】
カゼインを表面安定剤として使用する場合、以下で論じているように、カゼインは、ナノ粒子の形成中に存在していてよく、あるいはナノ粒子の形成後に加えてもよい。ナノ粒子を安定させるのに必要なカゼインの量は、一般にナノ粒子の全質量の少なくとも5wt%、好ましくはナノ粒子の少なくとも10wt%でなければならない。カゼインを表面安定剤として使用する場合、上記の通りに、ナノ粒子がカゼイン基質中に存在するように追加のカゼインが組成物に含まれていてよい。
【0060】
カゼイン
本発明の組成物はまた、カゼインまたはその薬学的に許容できる形態を含む。本明細書では、「カゼイン」という用語は、乳、チーズ、および他の天然物中に生じるリンタンパク質を意味する。カゼインという用語には、レグミンまたはアベニンとしても知られているいわゆる植物性カゼインも含まれる。植物性カゼインは、豆および堅果中に含まれており、乳中に存在するカゼインに似ているグロブリンタンパク質である。カゼインは、分子量が約10,000ダルトン〜約50,000ダルトンの範囲の小さいタンパク質である。牛乳のカゼイン含有量は、乳タンパク質の約80%に相当するが、カゼインは、人乳中のタンパク質の約40%だけに相当する。カゼインは通常、pH4.6、20℃で沈殿させることによって乳から得られる。これらの条件下で、沈殿するタンパク質がカゼインと呼ばれる。ウシカゼイン中には主要なタンパク質が4つある:αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、およびκ−カゼイン。
【0061】
カゼインは、両親媒性であり、比較的疎水性の領域および比較的親水性の領域を持っている。結果として、カゼインは、表面活性が高い。カゼインは、水にやや難溶であり、カゼインミセルとして知られているコロイド粒子中に通常存在する。κ−カゼインは、ミセルの表面上に位置し、ミセルの安定性および構造に寄与すると考えられている。例えば、Proteins in Food Processing、(第3章、「The Caseins」、P.F.FoxおよびA.L.Kelly、Woodhead Publishing Limited、2004年)を参照されたい。
【0062】
本明細書では、「その薬学的に許容できる形態」とは、カゼインの酸または塩基付加塩のどちらかを表す。カゼインの好ましい一形態は、カゼイン塩である。「カゼイン塩」は、カゼインとアルカリ物質の反応によって生成される。例示的なカゼイン塩には、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウムおよびカゼインアンモニウムがある。
【0063】
一実施形態では、カゼインは、乳中に含まれるカゼインの混合物である。別の実施形態では、カゼインは、牛乳中に含まれるカゼインの混合物である。さらに別の実施形態では、カゼインは、αs1−カゼインである。さらに別の実施形態では、カゼインは、αs2−カゼインである。さらに別の実施形態では、カゼインは、β−カゼインである。さらに別の実施形態では、カゼインは、κ−カゼインである。さらに別の実施形態では、カゼインは、薬学的に許容できる塩形態、例えばカゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウムまたはカゼインアンモニウムとして存在する。さらに別の実施形態では、カゼインは、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、植物性カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼインアンモニウム、およびその混合物からなる群から選択される。
【0064】
薬物
薬物は、「低水溶性薬」であり、薬物の水中溶解度(25℃でpH範囲6.5〜7.5にわたって)が5mg/mL未満であることを意味する。薬物の水溶性が低減するにつれて、本発明の有用性は増大する。薬物は、さらに低い水中溶解度、例えば約1mg/mL未満、約0.1mg/mL未満、さらには約0.01mg/mL未満を有していてよい。
【0065】
一般に、薬物の用量対水性溶解度比は、約10mL超、より一般的に約100mL超であると言うことができ、その場合水性溶解度(mg/mL)は、USP擬似胃および腸緩衝液(USP simulated gastric and intestinal buffers)を含めた任意の生理学的に適切な水溶液(すなわち、pH1〜8の溶液)で観察された最小値であり、用量はmg単位である。したがって、用量対水性溶解度比は、用量(mg単位)を水性溶解度(mg/mL単位)で割ることによって計算することができる。
【0066】
好ましいクラスの薬物には、高血圧治療薬、抗不安薬、抗凝固薬、抗痙攣薬、血糖低下薬、うっ血除去薬、抗ヒスタミン剤、鎮咳薬、抗悪性腫瘍薬、β遮断薬、抗炎症薬、抗精神病薬、向知性薬、抗アテローム性動脈硬化薬、コレステロール低下薬、トリグリセリド低下薬、抗肥満薬、自己免疫障害薬、抗インポテンス薬、抗菌薬および抗真菌薬、催眠薬、抗パーキンソン症薬、抗アルツハイマー病薬、抗生物質、抗うつ薬、抗ウイルス薬、グリコゲンホスホリラーゼ阻害剤、コレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害剤、ミクロソームトリグリセリド転送蛋白(MTP)阻害剤、抗血管新生薬、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体阻害剤、および炭酸脱水酵素阻害剤があるが、それだけには限定されない。
【0067】
指定されたそれぞれの薬物には、薬物の中性形態または薬物の薬学的に許容できる形態が含まれることを理解されたい。「薬学的に許容できる形態」とは、立体異性体、立体異性体混合物、鏡像異性体、溶媒和物、水和物、同形体、多形体、偽形体、中性形態、塩形態およびプロドラッグを含めた、任意の薬学的に許容できる誘導体または変形形態を表す。
【0068】
ナノ粒子で使用するのに適した例示的な薬物は、シルデナフィルおよびクエン酸シルデナフィル、アトルバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン、イタバスタチン、ニスバスタチン、ビサスタチン(visastatin)、アタバスタチン(atavastatin)、ベルバスタチン、コンパクチン、ジヒドロコンパクチン、ダルバスタチン、フルインドスタチン、ピチバスタチン(pitivastatin)、メバスタチン、ベロスタチン(シンビノリンとも呼ばれる)、バルデコキシブ、セレコキシブ、トルセトラピブ、ジプラシドン、およびニフェジピンがある。ナノ粒子で使用するのに適した他の低溶解性薬は、参照により本明細書に組み込む、米国公開特許出願2005/0031692に開示されている。
【0069】
一実施形態では、薬物は、コレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害剤である。CETP阻害剤は、CETP活性を阻害する薬物である。その開示が参照により本明細書に組み込まれる、MortonによるJ.Biol.Chem.256、11992頁、1981年およびDiasによるClin.Chem.34、2322頁、1988年に本質的には既に記載されているように、また米国特許第6,197,786号に示されているように、CETPの活性に対する薬物の効果は、リポ蛋白画分間での放射標識脂質の相対転送比(relative transfer ratio)を測定することによって決定することができる。CETP阻害剤の効力は、様々な濃度の試験化合物の存在下で上記アッセイを行い、リポ蛋白画分間での放射標識脂質の転送の50%阻害に必要とされる濃度を調べることにより決定することができる。この値は、「IC50値」と定義される。好ましくは、CETP阻害剤のIC50値は、約2000nM未満、より好ましくは約1500nM未満、さらにより好ましくは約1000nM未満、最も好ましくは約500nM未満である。
【0070】
CETP阻害剤の具体例には、そのどちらの開示も参照により本明細書に組み込む、本願の権利者が所有する米国特許出願番号09/918,127および10/066,091に開示されている薬物である、[2R,4S]4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−メトキシカルボニル−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸エチルエステル(トルセトラピブ);[2R,4S]4−[アセチル−(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸イソプロピルエステル;[2R,4S]4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−メトキシカルボニル−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボン酸イソプロピルエステル;(2R)−3−[[3−(4−クロロ−3−エチルフェノキシ)フェニル][[3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)フェニル]メチル]アミノ]−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール;(2R,4R,4aS)−4−[アミノ−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル−フェニル)−メチル]−2−エチル−6−(トリフルオロメチル)−3,4−ジヒドロキノリン−1−カルボン酸イソプロピルエステル;S−[2−([[1−(2−エチルブチル)シクロヘキシル]カルボニル]アミノ)フェニル]2−メチルプロパンチオエート;trans−4−[[[2−[[[[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]メチル](2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)アミノ]メチル]−4−(トリフルオロメチル)フェニル]エチルアミノ]メチル]−シクロヘキサン酢酸;trans−(4−{[N−(2−{[N’−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンジル]−N’−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)アミノ]メチル}−5−メチル−4−トリフルオロメチルフェニル)−N−エチルアミノ]メチル}シクロヘキシル)酢酸メタンスルホネート;trans−(2R,4S)−2−(4−{4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボニル}−シクロヘキシル)−アセトアミド;メチルN−(3−シアノ−5−トリフルオロメチルベンジル)−[6−(N’−シクロペンチルメチル−N’−エチルアミノ)インダン−5−イルメチル]−カルバメート;メチル(3−シアノ−5−トリフルオロメチルベンジル)−[6−(N−シクロペンチルメチル−N−エチルアミノ)インダン−5−イルメチル]−カルバメート;エチル4−((3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)メチル)−2−エチル−6−(トリフルオロメチル)−3,4−ジヒドロキノキサリン−1(2H)−カルボキシレート;tert−ブチル5−(N−(3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンジル)アセトアミド)−7−メチル−8−(トリフルオロメチル)−2,3,4,5−テトラヒドロベンゾ[b]アゼピン−1−カルボキシレート、(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−[2−(シクロヘキシル−メトキシ−メチル)−5−トリフルオロメチル−ベンジル]−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミン;1−[1−(2−{[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミノ]−メチル}−4−トリフルオロメチル−フェニル)−2−メチル−プロピル]−ピペリジン−4−カルボン酸;(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−[2−(1−メトキシ−シクロヘプチル)−5−トリフルオロメチル−ベンジル]−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミン;および(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−[2−(1−シクロヘキシル−1−メトキシ−エチル)−5−トリフルオロメチル−ベンジル]−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミン、ならびにその全ての開示を参照により本明細書に組み込む、以下の特許および公開された出願:DE19741400 A1;DE19741399 A1;WO9914215 A1;WO9914174;DE19709125 A1;DE19704244 A1;DE19704243 A1;EP 818448 A1;WO9804528 A2;DE19627431 A1;DE19627430 A1;DE19627419 A1;EP 796846 A1;DE19832159;DE818197;DE19741051;WO9941237 A1;WO9914204 A1;JP 11049743;WO0018721;WO0018723;WO0018724;WO0017164;WO0017165;WO0017166;EP 992496;EP 987251;WO9835937;JP 03221376;WO04020393;WO05095395;WO05095409;WO05100298;WO05037796;WO0509805;WO03028727;WO04039364;WO04039453;WO0633002と;そのどちらも2006年3月10日出願の、米国仮特許出願番号60/781488および60/780993に開示された薬物がある。
【0071】
したがって、一実施形態では、CETP阻害剤は、上記の化合物の群から選択される。別の実施形態では、CETP阻害剤は、トルセトラピブ;(2R)−3−[[3−(4−クロロ−3−エチルフェノキシ)フェニル][[3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)フェニル]メチル]アミノ]−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール;(2R,4R,4aS)−4−[アミノ−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル−フェニル)−メチル]−2−エチル−6−(トリフルオロメチル)−3,4−ジヒドロキノリン−1−カルボン酸イソプロピルエステル;trans−(2R,4S)−2−(4−{4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボニル}−シクロヘキシル)−アセトアミド;(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−[2−(シクロヘキシル−メトキシ−メチル)−5−トリフルオロメチル−ベンジル]−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミン;1−[1−(2−{[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミノ]−メチル}−4−トリフルオロメチル−フェニル)−2−メチル−プロピル]−ピペリジン−4−カルボン酸;(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−[2−(1−メトキシ−シクロヘプチル)−5−トリフルオロメチル−ベンジル]−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミン;(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−[2−(1−シクロヘキシル−1−メトキシ−エチル)−5−トリフルオロメチル−ベンジル]−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミン、およびその薬学的に許容できる形態からなる群から選択される。
【0072】
別の実施形態では、CETP阻害剤は、トルセトラピブである。
【0073】
さらに別の実施形態では、CETP阻害剤は、(2R)−3−[[3−(4−クロロ−3−エチルフェノキシ)フェニル][[3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)フェニル]メチル]アミノ]−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールである。
【0074】
さらに別の実施形態では、CETP阻害剤は、trans−(2R,4S)−2−(4−{4−[(3 15−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボニル}−シクロヘキシル)−アセトアミドである。
【0075】
別の態様では、薬物は、シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の阻害剤である。COX−2阻害剤は、抗炎症、鎮痛および解熱作用を示す非ステロイド系抗炎症薬である。好ましくは、COX−2阻害剤は選択的なCOX−2阻害剤であり、シクロオキシゲナーゼ−1(COX−1)を著しく阻害しないで薬物がCOX−2を阻害できることを意味する。COX−2阻害剤は、in vitro試験においてCOX−2酵素の50%を阻害する薬物の濃度(すなわち、IC50値)が約10μM未満、好ましくは5μM未満、より好ましくは2μM未満であるような効力を有することが好ましい。さらに、COX−1に対して、COX−2阻害剤が選択的であることもより好ましい。したがって、化合物のIC50、COX−2とIC50、COX−1の比は、0.5未満、より好ましくは0.3未満、最も好ましくは0.2未満であることが好ましい。
【0076】
COX−2阻害剤の具体例には、4−(5−(4−メチルフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−1H−ピラゾール−1−イル)ベンゼンスルホンアミド(セレコキシブ);4−(5−メチル−3−フェニルイソオキサゾール−4−イル)ベンゼンスルホンアミド(バルデコキシブ);N−(4−(5−メチル−3−フェニルイソオキサゾール−4−イル)フェニルスルホニル)プロピオンアミド(パラコキシブ(paracoxb));ナトリウム(S)−6,8−ジクロロ−2−(トリフルオロメチル)−2H−クロメン−3−カルボキシレート;ナトリウム(S)−7−tert−ブチル−6−クロロ−2−(トリフルオロメチル)−2H−クロメン−3−カルボキシレート;2−[(2−クロロ−6−フルオロフェニル)アミノ]−5−メチルベンゼン酢酸(ルミラコキシブ);4−(3−(ジフルオロメチル)−5−(3−フルオロ−4−メトキシフェニル)−1H−ピラゾール−1−イル)ベンゼンスルホンアミド(デラコキシブ);4−(4−(メチルスルホニル)フェニル)−3−フェニルフラン−2(5H)−オン(ロフェコキシブ);5−クロロ−2−(6−メチルピリジン−3−イル)−3−(4−(メチルスルホニル)フェニル)ピリジン(エトリコキシブ);2−(3,4−ジフルオロフェニル)−4−(3−ヒドロキシ−3−メチルブトキシ)−5−(4−(メチルスルホニル)フェニル)ピリダジン−3(2H)−オン;(Z)−3−((3−クロロフェニル)(4−(メチルスルホニル)フェニル)メチレン)−ジヒドロフラン−2(3H)−オン;N−(2−(シクロヘキシルオキシ)−4−ニトロフェニル)メタンスルホンアミド;4−メチル−2−(3,4−ジメチルフェニル)−1−(4−スルファモイル−フェニル)−1H−ピロール;6−((5−(4−クロロベンゾイル)−1,4−ジメチル−1H−ピロール−2−イル)メチル)ピリダジン−3(2H)−オン;4−(4−シクロヘキシル−2−メチルオキサゾール−5−イル)−2−フルオロベンゼンスルホンアミド(チルマコキシブ);2−(4−エトキシフェニル)−4−メチル−1−(4−スルファモイルフェニル)−1H−ピロール;4−ヒドロキシ−2−メチル−N−(5−メチル−2−チアゾリル)−2H−1,2−ベンゾチアジン−3−カルボキサミド−1,1−ジオキシド(メロキシカム);4−(4−クロロ−5−(3−フルオロ−4−メトキシフェニル)−1H−ピラゾール−1−イル)ベンゼンスルホンアミド(シミコキシブ(cimicoxib))、およびその薬学的に許容できる形態;ならびにその開示を参照により本明細書に組み込む、以下の特許および公開された出願:US5,466,823、US5,633,272、US5,932,598、US6,034,256、US6,180,651、US5,908,858、US5,521,207、US5,691,374、WO99/11605、WO98/03484、およびWO00/24719に開示された化合物がある。COX−2阻害剤は、セレコキシブ;バルデコキシブ;パラコキシブ;ナトリウム(S)−6,8−ジクロロ−2−(トリフルオロメチル)−2H−クロメン−3−カルボキシレート;ナトリウム(S)−7−tert−ブチル−6−クロロ−2−(トリフルオロメチル)−2H−クロメン−3−カルボキシレート;およびその薬学的に許容できる形態からなる群から選択されることが好ましい。一実施形態では、COX−2阻害剤は、セレコキシブまたはその薬学的に許容できる形態である。
【0077】
ナノ粒子を形成するためのプロセス
ナノ粒子は、非結晶性薬物および腸溶ポリマーを含むナノ粒子の形成をもたらす任意のプロセスによって形成することができる。
【0078】
ナノ粒子を形成するための一プロセスは、乳化プロセスである。このプロセスでは、薬物および腸溶ポリマーを、薬物および腸溶ポリマーの溶解性が低い水溶液と混和しない有機溶媒中に溶解させ、有機溶液を形成する。薬物および腸溶ポリマーを溶解させた溶液を形成するのに適した溶媒は、薬物および腸溶ポリマーが相溶性であり、水溶液と混和しない任意の化合物または化合物の混合物であってよい。本明細書では、「混和しない」という用語は、有機溶媒の水溶液中の溶解度が、約10wt%未満、好ましくは約5wt%未満、最も好ましくは約3wt%未満であることを表す。溶媒が、150℃以下の沸点で揮発性でもあることが好ましい。さらに、有機溶媒は、毒性が比較的低いことが好ましい。例示的な有機溶媒には、塩化メチレン、トリクロロエチレン、トリクロロ−トリフルオロエチレン、テトラクロルエタン、トリクロロエタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、酢酸エチル、フェノール、クロロホルム、トルエン、キシレン、エチル−ベンゼン、ベンジルアルコール、クレオソール、メチル−エチルケトン、メチル−イソブチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、エーテル、およびその混合物がある。好ましい有機溶媒は、塩化メチレン、酢酸エチル、ベンジルアルコール、およびその混合物である。水溶液は、水であることが好ましい。
【0079】
有機溶液を形成した後、次いでそれを水溶液と混合し、ホモジナイズして、水相の全体にわたって分散した水不混和性溶媒の微細な液体粒子からなる乳濁液を形成する。このプロセスで使用する有機溶媒と水溶液の体積比は、一般に1:100(有機溶媒:水溶液)〜2:3(有機溶媒:水溶液)の範囲になる。有機溶媒:水溶液の体積比は、1:9〜1:2(有機溶媒:水溶液)の範囲であることが好ましい。乳濁液は一般に、二段階均質化手順によって形成する。薬物、腸溶ポリマーおよび有機溶媒の溶液を、まずローター/ステーターまたは同様のミキサーを用いて水溶液と混合して「プレ−乳濁液」を作製する。次いでこの混合物を、液体粒子を高剪断応力にさらす高圧ホモジナイザーでさらに処理し、微小液体粒子の均一な乳濁液を作製する。次いで有機溶媒の一部分を除去し、水溶液中におけるナノ粒子の懸濁液を形成する。有機溶媒を除去するためのプロセスの例には、蒸発、抽出、ダイアフィルトレーション、パーベーパレーション、蒸気透過、蒸留、およびろ過がある。有機溶媒は、The International Committee on Harmonization(ICH)ガイドラインに従って許容できるレベルまで除去することが好ましい。ナノ粒子懸濁液中の有機溶媒の濃度は、水溶液中での有機溶媒の溶解度未満であることが好ましい。さらに低濃度の有機溶媒が好ましい。したがって、ナノ粒子懸濁液中の有機溶媒の濃度は、約5wt%未満、約3wt%未満、1wt%未満、さらには0.1wt%未満であってよい。
【0080】
ナノ粒子を形成するための代替プロセスは、沈殿プロセスである。このプロセスでは、薬物および腸溶ポリマーをまず、薬物および腸溶ポリマーの溶解性が低い水溶液と混和する有機溶媒中に溶解させる。得られた有機溶液を水溶液と混合し、ナノ粒子を沈殿させる。薬物および腸溶ポリマーを溶解させた溶液を形成するのに適した溶媒は、薬物および腸溶ポリマーが相溶性であり、水溶液と混和する任意の化合物または化合物の混合物であってよい。有機溶媒が、150℃以下の沸点で揮発性であることが好ましい。さらに、有機溶媒は、毒性が比較的低くなければならない。例示的な溶媒には、アセトン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン(THF)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)がある。腸溶ポリマーおよび薬物が、薬物および腸溶ポリマーを溶解させるのに十分可溶性である限り、溶媒の混合物、例えば50%メタノールと50%アセトンも使用でき、水との混合物も同様である。好ましい溶媒は、メタノール、アセトン、およびその混合物である。
【0081】
水溶液は、沈殿してナノ粒子が形成されるように薬物および腸溶ポリマーが十分に不溶性である任意の化合物または化合物の混合物であってよい。水溶液は、水であることが好ましい。
【0082】
有機溶媒溶液および水溶液は、固体をナノ粒子として沈殿させる条件下で合わせる。混合は、水溶液の撹拌容器に溶媒溶液のボーラスまたは水流を加えることによって行ってよい。交互に溶媒溶液の水流または噴流を水溶液の移動流と混合してもよい。どちらの場合にも、沈殿の結果、水溶液中におけるナノ粒子の懸濁液が形成される。
【0083】
沈殿プロセスの場合、溶媒溶液中の薬物およびポリマーの量は、溶媒中のそれぞれの溶解度ならびに得られたナノ粒子中の所望の薬物とポリマーの比によって決まる。溶液は、溶解固体約0.1wt%〜約20wt%を含んでいてよい。約0.5wt%〜10wt%の溶解固体含有量が好ましい。
【0084】
有機溶媒:水溶液体積比は、ナノ粒子が凝固し急速に凝集しないほど十分に水溶液がナノ粒子懸濁液中に含まれるように選択しなければならない。しかしながら、水溶液が過剰だと極めて希薄なナノ粒子の懸濁液が得られ、最終利用にはさらに処理を必要とすることがある。一般に、有機溶媒:水溶液体積比は、少なくとも1:100でなければならないが、一般に1:2(有機溶媒:水溶液)未満でなければならない。有機溶媒:水溶液体積比は、約1:20〜約1:3の範囲であることが好ましい。
【0085】
ナノ粒子懸濁液を作製した後、当技術分野で既知の方法を用いて有機溶媒の一部分を懸濁液から除去することができる。溶媒を除去するためのプロセスの例には、蒸発、抽出、ダイアフィルトレーション、パーベーパレーション、蒸気透過、蒸留、およびろ過がある。有機溶媒は、ICHガイドラインに従って許容できるレベルまで除去することが好ましい。したがって、ナノ粒子懸濁液中の有機溶媒の濃度は、約10wt%未満、約5wt%未満、約3wt%未満、1wt%未満、さらには0.1wt%未満であってよい。
【0086】
組成物の形成
本発明の組成物は、薬物および腸溶ポリマーを含むナノ粒子、ならびにカゼインを含む。カゼインは、ナノ粒子を形成するために使用するプロセス中またはナノ粒子が形成した後にナノ粒子と一緒に製剤することができる。
【0087】
一実施形態では、カゼインは、ナノ粒子−形成プロセス中にナノ粒子と一緒に製剤する。この実施形態では、カゼインは、ナノ粒子の一部であると考えることができる。上記の乳化および沈殿プロセスでは、カゼインは、薬物および腸溶ポリマーを含む有機溶液に加えても、薬物およびポリマーの溶解性が低い水溶液に加えてもよい。好ましい実施形態では、カゼインは、水溶液に加える。形成されると、カゼインがナノ粒子のフロキュレーションまたは凝集の低減または排除を促進するので、水溶液中でカゼインを製剤することは有利である。
【0088】
したがって、一実施形態では、本発明の組成物は、(a)水−不混和性溶媒中に溶解させた低水溶性薬および腸溶ポリマーを含む有機溶液を形成するステップ、(b)カゼインを含む水溶液を形成するステップ、(c)有機溶液および水溶液を混合して乳濁液を形成するステップ、ならびに(d)乳濁液から水−不混和性溶媒を除去して、低水溶性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子とカゼインを含む水性懸濁液を形成するステップを含むプロセスによって形成する。
【0089】
別の実施形態では、本発明の組成物は、(a)水−混和性溶媒中に溶解させた低水溶性薬および腸溶ポリマーを含む有機溶液を形成するステップ、(b)カゼインを含む水溶液を形成するステップ、(c)有機溶液および水溶液を混合して、低水溶性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子とカゼインを含む水性懸濁液を形成するステップを含むプロセスによって形成する。
【0090】
別の実施形態では、カゼインは、ナノ粒子が形成した後にナノ粒子と一緒に製剤する。これは、ナノ粒子懸濁液から溶媒を除去するためのプロセスによってカゼインも除去される場合(例えば、ダイアフィルトレーション)に利点がある。この実施形態は、懸濁液中のナノ粒子の濃度を増大させるためにプロセスを用いる場合にも好ましい。一般に、この実施形態では、カゼインをナノ粒子を含有する懸濁液に投与する。ナノ粒子を水溶液中に懸濁させている場合、カゼインは、水に完全に溶解しないことがあることを注意されたい。上記のように、カゼインは、水に加えるとしばしばミセルを形成する。このような場合には、カゼインは、ミセルの形態で存在していることがある。
【0091】
さらに別の実施形態では、ナノ粒子を形成するためのプロセスは、(a)(i)薬物の水中溶解度がpH範囲6.5〜7.5にわたって5mg/mL未満であり、(ii)低水溶性薬と腸溶ポリマーの質量比が9未満:1(less than 9:1)である、溶媒中に溶解させた低水溶性薬および腸溶ポリマーを含む有機溶液を形成するステップ、(b)水溶液を形成するステップ、(c)有機溶液と水溶液を混合して第1の混合物を形成するステップ、(d)(i)ナノ粒子の平均サイズが500nm未満であり、(ii)ナノ粒子中の薬物の少なくとも90wt%が非結晶性である、第1の混合物から溶媒を除去してナノ粒子および水溶液を含む懸濁液を形成するステップ、ならびに(e)カゼインと低水溶性薬および腸溶ポリマーの質量比が少なくとも1:20である、ステップ(b)の水溶液またはステップ(d)の懸濁液のいずれかにカゼインを加えるステップを含む。一実施形態では、このプロセスは、懸濁液から液体を除去してナノ粒子およびカゼインを含む固体組成物を形成する追加ステップ(f)を含む。
【0092】
低水溶性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子、ならびにカゼインを含む固体組成物を形成するために、種々のプロセスを使用することができる。ナノ粒子またはカゼインの特性に影響を与えない限り、固体組成物を形成するために、懸濁液から液体を除去する本質的にいかなるプロセスも使用できる。プロセスの例には、噴霧乾燥、スプレーコーティング、スプレーレイヤーリング、凍結乾燥、蒸発、真空蒸発、およびろ過がある。好ましいプロセスは、実施例に記載したように、噴霧乾燥である。ナノ粒子/カゼイン懸濁液から液体を除去し固体組成物を得るために、1つまたは複数のプロセスを組み合わせてもよい。例えば、ナノ粒子を濃縮するために有機溶媒および水溶液の一部分をろ過によって除去し、続いて残りの液体の大部分を除去するために噴霧乾燥し、続いて棚型乾燥などの乾燥ステップをさらに行うことができる。
【0093】
固体組成物を形成した後、上記のように小さい粒子の固体組成物を形成することが望ましいことがある。上記のプロセスの一部、例えば噴霧乾燥は、通常小さい粒子の固体組成物を生成するはずである。固体組成物を形成するために使用する他のプロセスは、より大きい粒子、シート、フレーク、または他の形態の固体組成物をもたらし得る。したがって、固体組成物の粒子サイズは、当技術分野で既知の種々の技術を用いて、例えばグラインダーおよびミルの使用によって調整することができる。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版(2000年)を参照されたい。
【0094】
再懸濁性
一実施形態では、本発明の固体組成物は、界面活性剤を基剤とした安定剤およびポリマーを基剤とした安定剤に比べてナノ粒子の再懸濁性を向上させる。本明細書では「再懸濁性」という用語は、水性使用環境に投与したときの固体物質のナノ粒子懸濁液を形成する能力を表す。
【0095】
水溶液に投与したときの固体組成物のナノ粒子を再懸濁させる能力は、以下の手順を用いて決定することができる。第1の手順では、再懸濁させた物質の平均粒子サイズは、以下のようにして決定する。固体組成物を水溶液、例えば水、PBS、またはMFD溶液に加えて、懸濁液を形成する。固体組成物の試料を、固体の濃度が約1mg/mL未満となるように周囲温度で水に加える。次いで、この(再)懸濁中に形成したナノ粒子の平均粒子サイズを動的光散乱(DLS)技術によって測定する。固体組成物は、水溶液への投与後、DLS技術によって測定した平均粒子サイズが、固体組成物の回収前のナノ粒子の平均粒子サイズの少なくとも50%および200%以下である場合、優れた再懸濁性をもたらすと言われている。この製剤は、固体組成物の回収前の平均粒子サイズの少なくとも67%および150%以下の平均粒子サイズをもたらすことが好ましい。この製剤は、固体組成物の回収前の平均粒子サイズの少なくとも75%および133%以下の平均粒子サイズをもたらすことがさらにより好ましい。
【0096】
第2の手順は、フィルター効力試験として知られている。この試験では、ナノ粒子の懸濁液をフィルターに通過させた後の薬物の濃度を調べる。上記のように水溶液に固体組成物を加える。次いで、標準的な技術を用いて、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、そのようにして形成した懸濁液中の薬物の濃度を測定する。次に、懸濁液をフィルターに通してろ過し、ろ過した試料中の薬物の濃度を標準的な技術によって測定する。試料をフィルターに通してろ過した後の効力の低下は、試料中のナノ粒子がフィルター孔径よりも大きいことを示している。この試験で使用できるフィルターの例には、1−μmガラス繊維フィルター、0.45−μmシリンジフィルター、および0.2−μmシリンジフィルターがある。ナノ粒子が確実にフィルター上に保持されないようにフィルターの孔径を選択しなければならないことを当業者は理解されよう。一般に、フィルターの孔径およびナノ粒子平均直径の範囲を以下のように示す:
【0097】
【表1】

【0098】
固体組成物は、ろ過した試料中の薬物の濃度の割合がろ過していない試料中の薬物の濃度の少なくとも60%である場合、優れた再懸濁性をもたらすと言われている。ろ過した試料中の薬物の濃度が、ろ過していない試料中の薬物の濃度の少なくとも70%であることが好ましい。ろ過した試料中の薬物の濃度が、ろ過していない試料中の薬物の濃度の少なくとも80%であることが最も好ましい。
【0099】
特に好ましい実施形態では、組成物は、上記のどちらの試験でも優れた再懸濁性をもたらす。
【0100】
投与形態
本発明の組成物は、任意の既知の投与形態を用いて投与することができる。ナノ粒子は、動物、例えば哺乳動物、特にヒトの経口、皮下、鼻腔内、頬、くも膜下腔内、目、耳内、皮下空間、関節内、膣管、動脈および静脈血管、肺管または筋肉内組織を経由した投与のために製剤することができる。経口投与形態には、散剤または顆粒剤、錠剤、咀嚼錠、カプセル剤、当技術分野で「サッシェ」または「構成用経口粉末」(OPC)とも呼ばれる1回分包装(unit dose packets)、シロップ剤、および懸濁剤がある。非経口投与形態には、溶解性(reconstitutable)散剤または懸濁剤がある。局所投与形態には、クリーム剤、パスタ剤、懸濁剤、散剤、発泡体およびゲル剤がある。経眼投与形態には、懸濁剤、散剤、ゲル剤、クリーム剤、パスタ剤、固体インサートおよびインプラントがある。
【0101】
一実施形態では、本発明の組成物は、腸溶ポリマーまたはカゼインを全く含まない薬物単独から本質的になる対照組成物に対して使用環境において溶解させた薬物の濃度を向上させることができる。in vitroにおける濃度増大を調べるために、「自由」薬物、または溶媒和薬物の量を測定する。「自由」薬物とは、溶解させた薬物の形態であり、あるいはミセル中に存在するが、ナノ粒子または500nmより大きい任意の固体粒子、例えば沈殿物中に含まれていない薬物を表す。本発明の組成物は、水性使用環境に投与したときに、対照組成物によってもたらされる自由薬物濃度の少なくとも1.25倍の自由薬物濃度をもたらす場合、濃度増大をもたらす。好ましくは、本発明の組成物によってもたらされる自由薬物濃度は、対照組成物によってもたらされる値の少なくとも約1.5倍、より好ましくは少なくとも約2倍、最も好ましくは少なくとも約3倍である。
【0102】
あるいは、本発明の組成物は、ヒトまたは他の動物に経口的に投与したとき、対照組成物と比較して観察した値の少なくとも1.25倍である血漿または血清中の薬物濃度のAUC(または相対的生物学的利用能)をもたらす。好ましくは、血中AUCは、対照組成物の値の少なくとも約2倍、より好ましくは少なくとも約3倍、さらにより好ましくは少なくとも約4倍、さらにより好ましくは少なくとも約6倍、さらにより好ましくは少なくとも約10倍、最も好ましくは少なくとも約20倍である。AUCの決定は、よく知られた手順であり、例えば、Welling、「Pharmacokinetics Processes and Mathematics」、ACS Monograph 185(1986年)に記載されている。
【0103】
あるいは、本発明の組成物は、ヒトまたは他の動物に経口的に投与したとき、対照組成物と比較して観察した値の少なくとも1.25倍である血漿または血清中の最大薬物濃度(Cmax)をもたらす。好ましくは、Cmaxは、対照組成物の値の少なくとも約2倍、より好ましくは少なくとも約3倍、さらにより好ましくは少なくとも約4倍、さらにより好ましくは少なくとも約6倍、さらにより好ましくは少なくとも約10倍、最も好ましくは少なくとも約20倍である。したがって、in vitroまたはin vivo性能基準、あるいは両方を満たす組成物は、本発明の範囲内であると考えられている。
【0104】
これ以上の詳述なしに、当業者は、前述の説明を用いて、本発明を十二分に利用できると思われる。したがって、以下の具体的な実施形態は、一例に過ぎず、本発明の範囲を制限するものではないとみなすべきである。当業者は、以下の実施例の条件およびプロセスの変形形態を使用できることを理解されよう。
【0105】
(実施例)
実施例で使用した薬物
以下の実施例において、薬物1は、構造:
【0106】
【化1】

を有する(2R)−3−[[3−(4−クロロ−3−エチルフェノキシ)フェニル][[3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)フェニル]メチル]アミノ]−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノールであった。薬物1のPBS中の溶解度は、0.1μg/mL未満であり、Clog P値は、9.8である。薬物1のTは、10℃であり、Tは、DSC分析によって−16℃に決定された。
【0107】
実施例で使用した賦形剤
以下の腸溶ポリマーを実施例で使用した:ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(Shin Etsu、東京、日本製HPMCAS−L、AQOAT−L)、およびカルボキシメチルエチルセルロース(Freund Industrial Co.,Ltd.、日本から入手可能なCMEC)。
【0108】
カゼインナトリウムをいくつかの供給源から得た:(1)Spectrum Chemicals、米国カリフォルニア州Gardena、(2)American Casein Company、米国ニュージャージー州Burlington、および(3)Sigma Chemicals、米国ミズーリ州St Louis。
【実施例1】
【0109】
薬物1、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(Shin Etsu、東京、日本製HPMCAS−L、AQOAT−L)、およびカゼインを含有する実施例1のナノ粒子を作製した。まず、薬物1 150mgおよびHPMCAS 150mgを3:1酢酸エチル:塩化メチレン5mLに溶解して有機溶液を形成した。次に、カゼインナトリウム100mgを脱イオン水20mLに加えて水溶液を形成した。次いで有機溶液を水溶液に注ぎ込み、Kinematica Polytron 3100 ローター/ステーター(Kinematica AG、Lucerne、スイス)を用いて10,000rpm(高剪断混合)で3分間乳化した。この溶液をさらに、Microfluidizer(氷浴および冷却コイルを備えたMicrofluidics[米国マサチューセッツ州Newton]モデルM−110S F12Y)を用いて6分間乳化した(高圧均質化)。酢酸エチルおよび塩化メチレンを合計濃度約3wt%未満までロータリーエバポレータを用いて乳濁液から除去し、ナノ粒子の水性懸濁液を37.5:37.5:25薬物1:HPMCAS:カゼイン塩の質量比で得た。
【0110】
光散乱分析
水性懸濁液中のナノ粒子の粒径を、以下のようにして動的光散乱(DLS)を用いて決定した。まず、水性懸濁液を、1μmガラス膜フィルター(Anotopフィルター、Whatman)を用いてろ過し、キュベットに注ぎ込んだ。BI−9000AT相関器を備えたBrookhaven Instruments(米国ニューヨーク州Holtsville)BI−200SM粒径分析器を用いて光散乱を測定した。自己相関関数からの指数の和を分析して試料から粒度分布を抽出し、大きさをキュムラント値として報告する。平均直径は100nmであり、多分散性が0.25を示すことがわかった。
【0111】
実施例1の水性懸濁液を混合せずに周囲条件で24時間放置して、安定性を測定した。DLS分析から、懸濁液中のナノ粒子の平均キュムラント直径が119nmであり、多分散性が0.26を示すことがわかった。これらの結果は、懸濁液中の実施例1のナノ粒子が著しく粒子凝集することなく貯蔵中に安定であったことを示す。
【0112】
固体組成物の単離
実施例1のナノ粒子懸濁液を以下のようにして噴霧乾燥させた。懸濁液を貯留槽に加え、噴霧乾燥チャンバー中に設置された二流体ノズルにHPLCポンプ(モデル515、Waters Corp.、米国マサチューセッツ州Milford)を用いて流速約0.15g/minで送り込んだ。噴霧乾燥チャンバーは、2つの部分:長手部(先端)、および円錐部(底部)で構成されていた。長手部の先端には、噴霧液入口が備えられていた。噴霧液を、二流体ノズルを用いて噴霧液入口を通して噴霧乾燥チャンバーの長手部に噴霧した。長手部の直径は10cmであり、長さは19cmであった。
【0113】
乾燥ガス(窒素)は、流量約1.0 SCFMおよび入口温度約120℃で乾燥ガス入口を通って円錐部に入った。壁に付かないよう噴霧乾燥チャンバーの壁に到達する時までに霧状にした噴霧液が十分に乾燥しているように、乾燥ガスおよび噴霧液の流速を選択した。先端における円錐部の直径は10cmであり、円錐部の先端から底部までの距離は19cmであった。円錐部の底部には、金属スクリーンによって支持された0.8μmナイロンフィルター(Magna、GE Osmonics、米国ミネソタ州Minnetonka)が取り付けられた4.7−cm直径の出口ポートがあった。噴霧乾燥した組成物をフィルター上で捕集し、蒸発させた溶媒および乾燥ガスを、出口ポートを通して噴霧乾燥チャンバーから除去した。
【0114】
ナノ粒子再懸濁
試料8.7mgを脱イオン水2mLに加えることによって、実施例1の固体組成物を再懸濁させた。DLS分析から、ナノ粒子懸濁液の平均キュムラント直径が144nmであり、多分散性が0.44を示すことがわかった。これは、実施例1の固体組成物の単離後小さい粒径が保持され、その後再懸濁されたことを示す。
【0115】
フィルター効力
実施例1の再懸濁させたナノ粒子を特徴付けるためにフィルター効力を利用した。まず、水性ナノ粒子懸濁液の試料50μLをメタノール1mLに加え、溶液中の薬物の濃度をHPLCによって分析した。次に、0.45μmフィルターを用いて懸濁液をろ過し、HPLC分析のためにメタノール中に希釈した。
【0116】
ナノ粒子懸濁液の効力を表2に示す。表2の結果から、0.45μmフィルターを用いた実施例1のろ過後にナノ粒子懸濁液の効力の82%が維持されることがわかる。これは、懸濁液中のナノ粒子が小さく、凝集しないままであることを示す。
【0117】
【表2】

【実施例2】
【0118】
実施例2では、以下のように沈殿法を用いて薬物1を含有するナノ粒子を調製した。まず、薬物1 200mgおよびHPMCAS−L 373.2mgをメタノール37mLに溶解させることによって水混和性有機溶液を形成した。ナノ粒子を形成するために、有機溶液を含有するガラス漏斗の軸をろ過水343mLからなる水溶液の表面下に挿入し、一度に撹拌渦中に送達し、急速にナノ粒子が形成した。ロータリーエバポレータを用いてメタノールを約0.1wt%未満の濃度まで除去し、ナノ粒子の水性懸濁液を得た。DLS分析から、懸濁液中のナノ粒子の平均キュムラント直径が109nmであり、多分散性が0.26を示すことがわかった。
【0119】
Millipore Biomax(登録商標)300 50cmポリエーテルスルホン膜(Millipore Corp.、米国マサチューセッツ州Billericaから入手可能)を備えた接線流ろ過を用いて水性懸濁液を濃縮した。水性ナノ粒子懸濁液約345mLからなる供給溶液を最終体積24mLまで濃縮した。
【0120】
本発明の水性懸濁液を形成するために、カゼインナトリウムをこの濃縮懸濁液に加え、26.2:48.8:25薬物1:HPMCAS−LF:カゼインからなるナノ粒子懸濁液を得た。
【0121】
固体組成物の単離
実施例1に記載した手順を用いて実施例2のナノ粒子懸濁液を噴霧乾燥し、本発明の固体組成物の形成をもたらした。
【0122】
ナノ粒子再懸濁
試料約5mg/mLを脱イオン水に加えることによって、実施例2の固体組成物を再懸濁させた。DLS分析から、再懸濁させたナノ粒子の平均キュムラント直径が157nmであり、多分散性が0.26を示すことがわかった。これは、固体組成物の単離後に小さい粒径を保持でき、その後再懸濁されることを示す。
【0123】
フィルター効力
実施例2の再懸濁させたナノ粒子を特徴付けるためにフィルター効力試験を利用した。実施例2の水性ナノ粒子再懸濁液の試料50μLをメタノール1mLに加え、溶液中の薬物の濃度をHPLCによって分析した。次に、0.2μmフィルターを用いて懸濁液をろ過し、HPLC分析のためにメタノール中に希釈した。
【0124】
ナノ粒子懸濁液の効力を表3に示す。表3の結果から、0.2μmフィルターによるろ過後にナノ粒子懸濁液の効力の94%が維持されることがわかる。これは、懸濁液中のナノ粒子のほとんどが小さく、凝集しないままであることを示す。
【0125】
【表3】

【実施例3】
【0126】
以下の例外を含む実施例2で概説した手順を用いて、薬物1および腸溶ポリマーカルボキシメチルエチルセルロース(Freund Industrial Co.,Ltd.、日本から入手可能なCMEC)を含有するナノ粒子を調製した。薬物1 93mgおよびCMEC 181.2mgをメタノール20mLに溶解させることによって水混和性有機溶液を形成した。水溶液は、ろ過水180mLからなっていた。次いで有機溶液および水溶液を急速に混合してナノ粒子を形成した。回転蒸発を用いてメタノールを0.5wt%未満の濃度まで除去し、34:66(wt:wt)薬物1:CMECからなるナノ粒子懸濁液を得た。DLS分析から、懸濁液中のナノ粒子の平均キュムラント直径が110nmであり、多分散性が0.39を示すことがわかった。実施例2に記載した通りに水性懸濁液を濃縮した。
【0127】
本発明の水性懸濁液を形成するために、カゼインナトリウムをこの濃縮懸濁液に加え、25.5:49.5:25薬物1:CMEC:カゼインからなるナノ粒子懸濁液を得た。
【0128】
固体組成物の単離
実施例1に記載した手順を用いて実施例3のナノ粒子懸濁液を噴霧乾燥し、本発明の固体組成物の形成をもたらした。
【0129】
ナノ粒子再懸濁
試料38mgを脱イオン水2mLに加えることによって、実施例3の固体組成物を再懸濁させた。DLS分析から、ナノ粒子懸濁液の平均キュムラント直径が165nmであり、多分散性が0.38を示すことがわかった。これは、固体組成物の単離後に小さい粒径を保持でき、その後再懸濁されることを示す。
【0130】
前述の明細書で使用した用語および表現は、その中で限定ではなく説明の用語として使用しており、かかる用語および表現の使用において示したおよび記載した特徴に相当するものまたはその一部分を除外する意図はなく、本発明の範囲が下記の特許請求の範囲によってのみ定義および限定されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の固体組成物を概略的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)低水溶性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子であって、
(i)前記低水溶性薬の水中溶解度がpH範囲6.5〜7.5にわたって5mg/mL未満であり、
(ii)前記ナノ粒子中の前記薬物の少なくとも90wt%が非結晶形態であり、
(iii)前記ナノ粒子の平均サイズが500nm未満であり、
(iv)前記低水溶性薬と前記腸溶ポリマーの質量比が9未満:1(less than 9:1)であるナノ粒子と、
(b)カゼインまたはその薬学的に許容できる形態と
を含み、(1)前記カゼインと(2)前記低水溶性薬および前記腸溶ポリマーの合計質量の質量比が少なくとも1:20である固体医薬組成物。
【請求項2】
前記カゼインと前記低水溶性薬および前記腸溶ポリマーの前記質量比が、少なくとも1:10である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記低水溶性薬、前記腸溶ポリマー、および前記カゼインが、前記組成物の少なくとも70wt%を占める、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記低水溶性薬、前記腸溶ポリマー、および前記カゼインが、前記組成物の少なくとも80wt%を占める、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記低水溶性薬、前記腸溶ポリマー、および前記カゼインから本質的になる、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記低水溶性薬と前記腸溶ポリマーの前記質量比が、4未満:1(less than4:1)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記低水溶性薬と前記腸溶ポリマーの前記質量比が、1:19〜3:1の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記腸溶ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートトリメリテート、ポリビニルアセテートフタレート、酢酸ビニル−無水マレイン酸コポリマー、ポリアクリレート、メチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー、エチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー、スチレン−マレイン酸コポリマー、セラック、およびその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記腸溶ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、メチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー、エチルアクリレート−メタクリル酸コポリマー、およびその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記カゼインが、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、植物性カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼインアンモニウム、およびその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記ナノ粒子が表面安定剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記低水溶性薬、前記腸溶ポリマー、前記表面安定剤、および前記カゼインが、前記組成物の少なくとも90wt%を占める、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記低水溶性薬、前記腸溶ポリマー、前記表面安定剤、および前記カゼインから本質的になる、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記表面安定剤が、カゼイン、カゼイン塩、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリ(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)、トラガカント、ゼラチン、ポリエチレングリコール、胆汁酸塩、リン脂質、ドデシル硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアレート、トリエタノールアミン、ナトリウムドキュセート、フマル酸ステアリルナトリウム、シクラミン酸ナトリウム、ならびにその混合物および薬学的に許容できる形態およびその混合物からなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記低水溶性薬1wt%〜60wt%、前記腸溶ポリマー10wt%〜80wt%、および前記カゼイン10wt%〜50wt%を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記低水溶性薬および前記腸溶ポリマーが、前記ナノ粒子中に固溶体の形態で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記ナノ粒子が、前記カゼイン内にカプセル化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記ナノ粒子が、前記カゼインをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
前記固体組成物が水をさらに含み、25℃で前記水中に懸濁された前記ナノ粒子の平均直径が500nm未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
前記低水溶性薬がコレステリルエステル転送蛋白阻害剤である、請求項1から19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記コレステリルエステル転送蛋白阻害剤が、トルセトラピブ;(2R)−3−[[3−(4−クロロ−3−エチルフェノキシ)フェニル][[3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)フェニル]メチル]アミノ]−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール;(2R,4R,4aS)−4−[アミノ−(3,5−ビス−(トリフルオロメチル−フェニル)−メチル]−2−エチル−6−(トリフルオロメチル)−3,4−ジヒドロキノリン−1−カルボン酸イソプロピルエステル;trans−(2R,4S)−2−(4−{4−[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミノ]−2−エチル−6−トリフルオロメチル−3,4−ジヒドロ−2H−キノリン−1−カルボニル}−シクロヘキシル)−アセトアミド;(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−[2−(シクロヘキシル−メトキシ−メチル)−5−トリフルオロメチル−ベンジル]−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミン;1−[1−(2−{[(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミノ]−メチル}−4−トリフルオロメチル−フェニル)−2−メチル−プロピル]−ピペリジン−4−カルボン酸;(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−[2−(1−メトキシ−シクロヘプチル)−5−トリフルオロメチル−ベンジル]−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミン;(3,5−ビス−トリフルオロメチル−ベンジル)−[2−(1−シクロヘキシル−1−メトキシ−エチル)−5−トリフルオロメチル−ベンジル]−(2−メチル−2H−テトラゾール−5−イル)−アミン;およびその薬学的に許容できる形態からなる群から選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記低水溶性薬がシクロオキシゲナーゼ−2の阻害剤である、請求項1から19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記シクロオキシゲナーゼ−2の阻害剤が、セレコキシブ;バルデコキシブ;パラコキシブ;ナトリウム(S)−6,8−ジクロロ−2−(トリフルオロメチル)−2H−クロメン−3−カルボキシレート;ナトリウム(S)−7−tert−ブチル−6−クロロ−2−(トリフルオロメチル)−2H−クロメン−3−カルボキシレート;およびその薬学的に許容できる形態からなる群から選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
水性懸濁液を含む医薬組成物であって、前記水性懸濁液が、
(a)低水溶性薬および腸溶ポリマーを含むナノ粒子であって、
(i)前記低水溶性薬の水中溶解度がpH範囲6.5〜7.5にわたって5mg/mL未満であり、
(ii)前記ナノ粒子中の前記薬物の少なくとも90wt%が非結晶形態であり、
(iii)前記ナノ粒子の平均サイズが500nm未満であり、
(iv)前記低水溶性薬および前記腸溶ポリマーが前記ナノ粒子の少なくとも60wt%を占め、
(v)前記低水溶性薬と前記腸溶ポリマーの質量比が9未満:1(less than 9:1)であるナノ粒子と、
(b)カゼインまたはその薬学的に許容できる形態と、
(c)水と
を含む組成物。
【請求項25】
前記ナノ粒子の平均サイズが300nm未満である、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記ナノ粒子および前記カゼインが、前記懸濁液中に少なくとも1mg/mLの濃度で集合的に存在する、請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
前記カゼインが、前記ナノ粒子の表面に結びついている、請求項24に記載の組成物。
【請求項28】
前記懸濁液が、請求項1から19のいずれか一項に記載の組成物を水に投与することを含む方法によって形成される、請求項24に記載の組成物。
【請求項29】
ナノ粒子を形成するための方法であって、
(a)溶媒中に溶解させた低水溶性薬および腸溶ポリマーを含む有機溶液を形成するステップであって、
(i)前記薬物の水中溶解度がpH範囲6.5〜7.5にわたって5mg/mL未満であり、
(ii)前記低水溶性薬と前記腸溶ポリマーの質量比が9未満:1(less than 9:1)であるステップと、
(b)水溶液を形成するステップと、
(c)前記有機溶液と前記水溶液を混合して第1の混合物を形成するステップと、
(d)前記第1の混合物から前記溶媒を除去して前記ナノ粒子および水溶液を含む懸濁液を形成するステップであって、
(i)前記ナノ粒子の平均サイズが500nm未満であり、
(ii)前記ナノ粒子中の前記薬物の少なくとも90wt%が非結晶性であるステップと、
(e)ステップ(b)の前記水溶液またはステップ(d)の前記懸濁液のいずれかにカゼインもしくはその薬学的な形態を加えるステップであって、(1)前記カゼインと(2)前記低水溶性薬および前記腸溶ポリマーの合計質量の質量比が少なくとも1:20であるステップと
を含む方法。
【請求項30】
(f)前記懸濁液から液体を除去して前記ナノ粒子および前記カゼインを含む固体組成物を形成する追加ステップ
を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記液体を、噴霧乾燥、スプレーコーティング、スプレーレイヤーリング、凍結乾燥、蒸発、真空蒸発、およびろ過からなる群から選択される1つまたは複数のプロセスによって除去する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記液体を噴霧乾燥によって除去する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記有機溶媒が、前記水溶液と混和せず、塩化メチレン、酢酸エチル、ベンジルアルコール、およびその混合物からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記有機溶媒が、前記水溶液と混和し、メタノール、アセトン、およびその混合物からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−163009(P2008−163009A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−306852(P2007−306852)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】