説明

膜体、およびこの膜体を用いた多重膜構造体

【課題】膜体の外縁部の強度を向上させるためにこの膜体が有する帯状膜材群の外縁部が折り返されて熱溶着された場合でも、この膜体、およびこの膜体を用いた多重膜構造体の寿命の向上が達成されるようにする。
【解決手段】膜体8は、一方向Aに沿って複数枚並設される帯状膜材12を有している。一方向Aで互いに隣り合う両帯状膜材12,12の互いの両対向縁部13,13が重ねられてこれら両対向縁部13,13が互いに熱溶着W1される。各帯状膜材12の長手方向Bにおけるこれら帯状膜材12群の外縁部17を構成する基部側17aに対し端縁側17bが折り返され、これら基部側17aと端縁側17bとが互いに熱溶着W2される。基部側17aにおける両対向縁部13,13に対し端縁側17bが重なる部分に、開口26が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚並設される帯状膜材を互いに熱溶着することにより形成される膜体、およびこの膜体を用いた多重膜構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記多重膜構造体には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、多重膜構造体は、互いに重ねられる内、外膜体を備えている。これら内、外膜体の各外縁部は互いに結合されると共に、構築物の基体側に連結具により連結されている。上記内、外膜体は、これらの間の空間に空気が封入されて膨張させられており、これにより上記内、外膜体に張力が付与されている。そして、この張力により、上記内、外膜体が上記構築物の屋根および天井を構成するよう所定形状に保持される。
【0003】
一方、上記膜体には、次のようなものが提案されている。即ち、膜体は、その面方向での一方向に沿って複数枚並設される帯状膜材を有している。上記一方向で互いに隣り合う両帯状膜材の互いの両対向縁部が重ねられてこれら両対向縁部が互いに熱溶着されている。また、上記各帯状膜材の長手方向におけるこれら帯状膜材群の外縁部を構成する基部側に対し端縁側が折り返され、これら基部側と端縁側とが互いに熱溶着されている。
【0004】
上記帯状膜材は、成形機により一定幅でその長手方向に連続的に形成されるもので、その後、所望長さに切断されたものを熱溶着により一体化して上記膜体の形成に供される。また、上記したように帯状膜材群の外縁部における基部側に対し端縁側が折り返されて熱溶着されることにより、膜体の外縁部の強度が向上させられている。そして、これにより、上記構築物の基体側に対し上記膜体の外縁部が強固に定着されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−10561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したように構築物の基体側に対し膜体の外縁部を強固に定着させようとして、帯状膜材群の端縁側を折り返し熱溶着した場合には、上記基部側において互いに重ねられていた前記両対向縁部の両膜材に対し更に上記端縁側の膜材が重ねられることとなり、これにより多重溶着部が形成される結果となる。
【0007】
すると、第1に、上記多重溶着部からこれに隣接する溶着されていない膜材への遷移部では、例えば、二重の膜材の溶着部からこれに隣接する一枚の膜材への遷移部に比べて、厚さ寸法の変化が大きくなり、この遷移部では強度が急変しがちとなる。
【0008】
また、第2に、上記多重溶着部では、まず、上記両対向縁部の両膜材が溶着され、次に、これら両膜材に対し上記端縁側の膜材が重ねられてこれら膜材が更に一体的に熱溶着される。このため、上記両対向縁部の両膜材は同じ箇所で熱溶着が繰り返されることから、母材が損傷して、上記多重溶着部の一部の強度が低下するおそれもある。
【0009】
そして、上記第1、第2の場合には、前記構築物の基体側に定着させられた膜体に対し上記基体側から付与される外力や、多重膜構造体として膨張させられた膜体に対し付与される張力により、上記遷移部や多重溶着部の一部には応力集中が生じやすくなる。よって、これら遷移部や多重溶着部が破損し易くなって膜体の寿命が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、膜体の外縁部の強度を向上させるためにこの膜体が有する帯状膜材群の外縁部が折り返されて熱溶着された場合でも、この膜体、およびこの膜体を用いた多重膜構造体の寿命の向上が達成されるようにすることである。
【0011】
請求項1の発明は、一方向Aに沿って複数枚並設される帯状膜材12を有し、上記一方向Aで互いに隣り合う両帯状膜材12,12の互いの両対向縁部13,13が重ねられてこれら両対向縁部13,13が互いに熱溶着W1され、上記各帯状膜材12の長手方向Bにおけるこれら帯状膜材12群の外縁部17を構成する基部側17aに対し端縁側17bが折り返され、これら基部側17aと端縁側17bとが互いに熱溶着W2される膜体において、
上記基部側17aにおける上記両対向縁部13,13に対し上記端縁側17bが重なる部分に、開口26が形成されることを特徴とする膜体である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の膜体8に重ねられる他の膜体9,10が設けられ、上記基部側17aと端縁側17bとを有する上記膜体8の外縁部20と上記他の膜体9,10の外縁部21,22とが重ねられてこれら各外縁部20,21,22が互いに熱溶着W2されることを特徴とする多重膜構造体である。
【0013】
請求項3の発明は、上記他の膜体10が、その面方向での他の一方向Cに沿って複数枚並設される帯状膜材12を有し、上記他の一方向Cで互いに隣り合う両帯状膜材12,12の互いの両対向縁部13,13が重ねられて熱溶着W1され、上記膜体8と他の膜体10との間の空間24に気体が封入されることを特徴とする請求項2に記載の多重膜構造体である。
【0014】
請求項4の発明は、特に図6で例示するように、互いに重ねられる膜体8および複数枚の他の膜体9,10が設けられ、上記膜体8が、その面方向での一方向Aに沿って複数枚並設される帯状膜材12,12を有し、上記一方向Aで互いに隣り合う両帯状膜材12,12の互いの両対向縁部13,13が重ねられてこれら両帯状膜材12,12が互いに熱溶着W1され、上記各帯状膜材12,12の長手方向Bにおけるこれら帯状膜材12群の外縁部17を構成する基部側17aに対し端縁側17bが折り返され、これら基部側17aと端縁側17bとを有する上記膜体8の外縁部20と上記各他の膜体の外縁部とが重ねられてこれら各外縁部20,21,22が互いに熱溶着W2される多重膜構造体において、
上記基部側17aにおける上記両対向縁部13,13に対し上記膜体8に隣接する他の膜体9の外縁部21が重なる部分に、開口27が形成されることを特徴とする多重膜構造体である。
【0015】
請求項5の発明は、上記膜体8の外縁部20が有する上記基部側17aと端縁側17bとの間に上記他の膜体9,10の外縁部21,22が挿入されることを特徴とする請求項2から4のうちいずれか1つに記載の多重膜構造体である。
【0016】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0017】
本発明による効果は、次の如くである。
【0018】
請求項1の発明は、一方向に沿って複数枚並設される帯状膜材を有し、上記一方向で互いに隣り合う両帯状膜材の互いの両対向縁部が重ねられてこれら両対向縁部が互いに熱溶着され、上記各帯状膜材の長手方向におけるこれら帯状膜材群の外縁部を構成する基部側に対し端縁側が折り返され、これら基部側と端縁側とが互いに熱溶着されている。
【0019】
つまり、上記膜体が有する帯状膜材群の外縁部を構成する基部側に対し端縁側が折り返されて熱溶着されることにより、上記膜体の外縁部の強度が向上させられている。
【0020】
そして、上記基部側における上記両対向縁部に対し上記端縁側が重なる部分に、開口が形成されている。
【0021】
このため、前記したように、膜体の外縁部の強度を向上させた場合でも、上記基部側において互いに重ねられた上記両対向縁部の両膜材に対し、上記端縁側の折り返しによって更にこの端縁側の部分である膜材が重ねられる、ということは上記した開口の形成によって防止される。つまり、上記端縁側が折り返されるとしても、多重溶着部が形成されることは抑制される。
【0022】
ここで、前記従来の技術にて説明のように、仮に、上記した多重溶着部が形成された場合には、この多重溶着部からこれに隣接する溶着されていない部分への遷移部では強度が急変しがちとなり、また、上記多重溶着部では同じ箇所で熱溶着が繰り返されることにより、この多重溶着部の一部の強度が低下するおそれがある。そして、この場合には、これら遷移部や多重溶着部の一部に応力集中が生じ易くなって、破損し易くなるおそれがある。しかし、上記発明によれば、上記したように多重溶着部の形成が抑制されることから、上記応力集中に基づく破損は未然に防止される。よって、この膜体の寿命の向上が達成される。
【0023】
請求項2の発明は、請求項1の膜体に重ねられる他の膜体が設けられ、上記基部側と端縁側とを有する上記膜体の外縁部と上記他の膜体の外縁部とが重ねられてこれら各外縁部が互いに熱溶着されている。
【0024】
ここで、多重膜構造体の形成に際し、膜体と他の膜体との各外縁部が互いに重ねられてこれら各外縁部が互いに熱溶着される場合には、上記多重溶着部の形成の可能性がより高くなる。しかし、上記発明によれば、開口を形成したことにより、上記多重溶着部の形成が抑制される。よって、上記各膜体の寿命の向上が達成され、つまり、多重膜構造体の寿命の向上が達成される。
【0025】
請求項3の発明は、上記他の膜体が、その面方向での他の一方向に沿って複数枚並設される帯状膜材を有し、上記他の一方向で互いに隣り合う両帯状膜材の互いの両対向縁部が重ねられて熱溶着され、上記膜体と他の膜体との間の空間に気体が封入されている。
【0026】
ここで、上記したように膜体と他の膜体とは、これらの間の空間に気体がを封入されて膨張させられることにより、上記各膜体には張力が付与される。この場合、上記したように他の膜体は上記膜体とほぼ同構成であるため、各膜体には互いにバランスよく張力が付与される。そして、このような張力の付与により、これら各膜体で構成される多重膜構造体を、構築物の屋根、天井、および壁など所望形状に保持させることができる。
【0027】
請求項4の発明は、互いに重ねられる膜体および複数枚の他の膜体が設けられ、上記膜体が、その面方向での一方向に沿って複数枚並設される帯状膜材を有し、上記一方向で互いに隣り合う両帯状膜材の互いの両対向縁部が重ねられてこれら両帯状膜材が互いに熱溶着され、上記各帯状膜材の長手方向におけるこれら帯状膜材群の外縁部を構成する基部側に対し端縁側が折り返され、これら基部側と端縁側とを有する上記膜体の外縁部と上記各他の膜体の外縁部とが重ねられてこれら各外縁部が互いに熱溶着されている。
【0028】
つまり、互いに重ねられる膜体および複数枚の他の膜体が設けられた多重膜構造体において、上記膜体が有する帯状膜材群の外縁部を構成する基部側に対し端縁側が折り返されて熱溶着されることにより、上記多重膜構造体の外縁部の強度が向上させられている。
【0029】
そして、上記基部側における上記両対向縁部に対し上記膜体に隣接する他の膜体の外縁部が重なる部分に、開口が形成されている。
【0030】
このため、前記したように、多重膜構造体の外縁部の強度を向上させた場合でも、上記基部側において互いに重ねられた上記両対向縁部の両膜材に対し、更に上記端縁側と他の膜体の外縁部との各膜材が重ねられる、ということは上記した開口の形成によって防止される。つまり、上記帯状膜材群の端縁側の折り返しに加え、上記他の膜体の外縁部が重ねられるとしても、多重溶着部が形成されることは抑制される。
【0031】
ここで、前記従来の技術にて説明のように、仮に、上記した多重溶着部が形成された場合には、この多重溶着部からこれに隣接する溶着されていない部分への遷移部では強度が急変しがちとなり、また、上記多重溶着部では同じ箇所で熱溶着が繰り返されることにより、この多重溶着部の一部の強度が低下するおそれがある。そして、この場合には、これら遷移部や多重溶着部の一部に応力集中が生じ易くなって、破損し易くなるおそれがある。しかし、上記発明によれば、上記したように多重溶着部の形成が抑制されることから、上記応力集中に基づく破損は未然に防止される。よって、上記各膜体の寿命の向上が達成され、つまり、多重膜構造体の寿命の向上が達成される。
【0032】
請求項5の発明は、上記膜体の外縁部が有する上記基部側と端縁側との間に上記他の膜体の外縁部が挿入されている。
【0033】
このため、上記他の膜体の外縁部は、一体物である上記膜体の外縁部の基部側と端縁側との間に挟まれるため、上記各膜体の各外縁部の互いの結合強度が向上する。よって、その分、各膜体の寿命の向上が達成され、つまり、多重膜構造体の寿命の向上が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1を示し、多重膜構造体の部分平面展開図である。
【図2】実施例1を示し、多重膜構造体を用いた構築物の側面図である。
【図3】実施例1を示し、多重膜構造体を用いた構築物の平面図である。
【図4】実施例1を示し、図3のIV−IV線矢視断面拡大図である。
【図5】実施例1を示し、多重膜構造体の部分斜視展開図である。
【図6】実施例2を示し、図1に相当する図で多重膜構造体の部分展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の膜体、およびこの膜体を用いた多重膜構造体に関し、膜体の外縁部の強度を向上させるためにこの膜体が有する帯状膜材群の外縁部が折り返されて熱溶着された場合でも、この膜体、およびこの膜体を用いた多重膜構造体の寿命の向上が達成されるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0036】
即ち、膜体は、その面方向での一方向に沿って複数枚並設される帯状膜材を有している。上記一方向で互いに隣り合う両帯状膜材の互いの両対向縁部が重ねられてこれら両対向縁部が互いに熱溶着される。上記各帯状膜材の長手方向におけるこれら帯状膜材群の外縁部を構成する基部側に対し端縁側が折り返され、これら基部側と端縁側とが互いに熱溶着される。上記基部側における上記両対向縁部に対し上記端縁側が重なる部分に、開口が形成されている。
【実施例1】
【0037】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例1を添付の図1〜5に従って説明する。
【0038】
図において、符号1は地面上に設置された構築物1で、この構築物1は、地面上に立設される複数(4本)の柱2と、これら柱2の上端部に架設され、平面視で、矩形状に枠組みされた複数の梁3と、これら梁3の枠内で水平方向に延び、その外縁部が上記構築物1の基体側である梁3に連結具4により連結されて屋根および天井を構成する多重膜構造体5とを備えている。
【0039】
上記多重膜構造体5は、水平方向に延びる膜体8と、この膜体8の下側に位置してこの膜体8と重ねられる複数枚(2枚)の他の膜体9,10とを備えている。これら各膜体8,9,10は、平面視で全体として互いにほぼ同形同大の矩形をなしている。
【0040】
上記膜体8は、その面方向(水平方向)での一方向Aに沿って複数枚並設される帯状膜材12を有し、これら各帯状膜材12は上記一方向Aに直交する方向に直線的に延びている。上記一方向Aで互いに隣り合う両帯状膜材12,12の互いの両対向縁部13,13が互いに面接触するよう重ね合わされている。そして、これら両対向縁部13,13の合い面が全体的に互いに熱溶着W1され、その熱溶着W1部は上記各帯状膜材12の長手方向Bに沿って帯状に直線的に延びている。
【0041】
上記帯状膜材12は、フッ素樹脂であるETFEによるフィルムであるが、PVDFや、PFA、FEP等他のフッ素樹脂フィルムや他の熱可塑性樹脂によるフィルムであってもよい。また、基材が天然繊維や合成繊維、無機繊維からなる織物に熱可塑性樹脂を被覆した膜材であってもよい。特に膜材が基材を有さない樹脂フィルムのみの場合は、基材を有さないことから、多重溶着部が形成されることによる強度低下の影響を受けやすい。よって、この場合には本発明を適用することが好ましい。
【0042】
上記帯状膜材12は幅寸法が1000〜4000mm程度である。膜材の厚さは、0.1〜1mm程度であるが、好ましくは0.1〜0.4mm程度の厚みの場合に本発明を適用することが好ましい。その理由は、ある程度厚みのある膜材であれば、多重溶着部が形成されたとしても、母材強度により強度低下は少ないが、0.1〜0.4mm程度の厚みの場合は、母材自体の強度が限られるので、多重溶着部が形成されることによる強度低下の影響を受けやすいためである。また、上記のように重ねられて熱溶着W1された両対向縁部13,13の幅寸法は20〜60mm程度である。
【0043】
また、上記一方向A(および長手方向B)は、上記膜体8の外縁に対しほぼ45°傾斜しているが、これら膜体8の外縁と一方向A(もしくは長手方向B)とは、互いに平行であってもよい。
【0044】
上記両他の膜体9,10のうち、多重膜構造体5の外面を形成する最下側の他の膜体10は、上記膜体8の各帯状膜材12と同じ断面形状の帯状膜材12を複数枚有している。上記他の膜体10の各帯状膜材12は、この他の膜体10の面方向(水平方向)での他の一方向Cに沿って並設され、この他の一方向Cで互いに隣り合う両帯状膜材12,12の互いの両対向縁部13,13が重ねられて熱溶着W1されている。つまり、上記膜体8と他の膜体10とのそれぞれ帯状膜材12群の横断面形状は互いに同形同大とされている。
【0045】
図例では、上記一方向Aと他の一方向Cとは互いに同じ方向であり、平面視で、上記膜体8の各帯状膜材12と、他の膜体10の各帯状膜材12とは互いに同じところに位置している。なお、上記一方向Aと他の一方向Cとは平面視で互いに直交するなど相違していてもよい。また、上記膜体8の帯状膜材12と他の膜体10の帯状膜材12との各幅寸法は互いに相違していてもよい。また、上記膜体8と他の膜体10との間に位置する更に他の膜体9は、詳図しないが、上記他の膜体10と同構成で同形同大とされる。なお、上記他の膜体9,10は、熱溶着W1の無い、単なる平坦な膜体であってもよい。
【0046】
上記各帯状膜材12の長手方向Bにおけるこれら帯状膜材12群の外縁部17を構成する基部側17aに対し端縁側17bが折り返され、これら基部側17aと端縁側17bとは互いに熱溶着W2される。この場合、上記基部側17aと端縁側17bとの谷折れ部の内部に可撓性のロープ19が挿入されている。
【0047】
より具体的には、上記基部側17aと端縁側17bとを有する上記膜体8の外縁部20と、この外縁部20に対応する上記各他の膜体9,10の外縁部21,22とが互いに面接触状に重ね合わされてこれら各外縁部20,21,22が互いに熱溶着W2されている。この場合、上記膜体8の外縁部20が有する上記基部側17aと端縁側17bとの間に上記各膜体9,10の各外縁部21,22がそれぞれ挿入され、これら外縁部21,22は上記基部側17aと端縁側17bとにより挟まれている。
【0048】
上記したように、各膜体8,9,10の各外縁部20,21,22は上記熱溶着W2により互いに結合されると共に、前記連結具4により挟み付けられ、かつ、この連結具4に上記膜体8の外縁部20を介しロープ19が係止させられて前記構築物1の梁3に定着されている。
【0049】
上記した各膜体8,9,10の各外縁部20,21,22の熱溶着W2により、上記膜体8,9,10の間の空間24はほぼ密閉空間とされている。この空間24に気体が封入されて、上記空間24および各膜体8,9,10がそれぞれ膨張させられることにより、これら各膜体8,9,10にそれぞれ張力が付与される。そして、この張力の付与により、上記各膜体8,9,10が上記構築物1の屋根および天井を構成するよう所望形状に保持される。上記気体は、空気や窒素、ヘリウム等用途により所望のものが封入される。
【0050】
なお、上記多重膜構造体5として、上記各膜体8,9,10のうち、これらの中間に位置する他の膜体9は設けなくてもよく、また、上記各膜体8,9,10に更に他の膜体を加えてもよい。また、上記各膜体8,9,10のうち、他の膜体9,10は設けなくてもよく、この場合、膜体8は、これ単独として、例えば、農場における温室用ハウスやテントの壁、屋根、および天井などに利用される。
【0051】
上記空間24が外部と連通することが回避される範囲で、上記基部側17aにおける上記両対向縁部13,13に対し上記端縁側17bが重なる部分に、切り欠きである開口26が形成される。なお、この開口26は円形、長孔、もしくは矩形の貫通孔であってもよい。また、上記基部側17aにおける上記両対向縁部13,13に対し上記膜体8に隣接する他の膜体9の外縁部21が重なる部分に、切り欠きである他の開口27が形成されている。この他の開口27の一部は、上記他の膜体9によって分割された空間24の2つの分割空間を互いに連通させている。なお、上記他の開口27も円形等の貫通孔であってもよいが、この他の開口27は設けなくてもよい。
【0052】
上記構成によれば、一方向Aに沿って複数枚並設される帯状膜材12を有し、上記一方向Aで互いに隣り合う両帯状膜材12,12の互いの両対向縁部13,13が重ねられてこれら両対向縁部13,13が互いに熱溶着W1され、上記各帯状膜材12の長手方向Bにおけるこれら帯状膜材12群の外縁部17を構成する基部側17aに対し端縁側17bが折り返され、これら基部側17aと端縁側17bとが互いに熱溶着W2されている。
【0053】
つまり、上記膜体8が有する帯状膜材12群の外縁部17を構成する基部側17aに対し端縁側17bが折り返されて熱溶着W2されることにより、上記膜体8の外縁部20の強度が向上させられている。
【0054】
そして、上記基部側17aにおける上記両対向縁部13,13に対し上記端縁側17bが重なる部分に、開口26が形成されている。
【0055】
このため、前記したように、膜体8の外縁部20の強度を向上させた場合でも、上記基部側17aにおいて互いに重ねられた上記両対向縁部13,13の両膜材に対し、上記端縁側17bの折り返しによって更にこの端縁側17bの部分である膜材が重ねられる、ということは上記した開口26の形成によって防止される。つまり、上記端縁側17bが折り返されるとしても、多重溶着部が形成されることは抑制される。
【0056】
ここで、前記従来の技術にて説明のように、仮に、上記した多重溶着部が形成された場合には、この多重溶着部からこれに隣接する溶着されていない部分への遷移部では強度が急変しがちとなり、また、上記多重溶着部では同じ箇所で熱溶着が繰り返されることにより、この多重溶着部の一部の強度が低下するおそれがある。そして、この場合には、これら遷移部や多重溶着部の一部に応力集中が生じ易くなって、破損し易くなるおそれがある。しかし、上記構成によれば、上記したように多重溶着部の形成が抑制されることから、上記応力集中に基づく破損は未然に防止される。よって、この膜体8の寿命の向上が達成される。
【0057】
また、前記したように、膜体8に重ねられる他の膜体9,10が設けられ、上記基部側17aと端縁側17bとを有する上記膜体8の外縁部20と上記他の膜体9,10の外縁部21,22とが重ねられてこれら各外縁部20,21,22が互いに熱溶着W2されている。
【0058】
ここで、多重膜構造体5の形成に際し、膜体8と他の膜体9,10との各外縁部20,21,22が互いに重ねられてこれら各外縁部20,21,22が互いに熱溶着W2される場合には、上記多重溶着部の形成の可能性がより高くなる。しかし、上記構成によれば、開口26,27を形成したことにより、上記多重溶着部の形成が抑制される。よって、上記各膜体8,9,10の寿命の向上が達成され、つまり、多重膜構造体5の寿命の向上が達成される。
【0059】
また、前記したように、他の膜体10が、その面方向での他の一方向Cに沿って複数枚並設される帯状膜材12を有し、上記他の一方向Cで互いに隣り合う両帯状膜材12,12の互いの両対向縁部13,13が重ねられて熱溶着W1され、上記膜体8と他の膜体10との間の空間24に気体が封入されている。
【0060】
ここで、上記したように膜体8と他の膜体10とは、これら8,10の間の空間24に気体が封入されて膨張させられることにより、上記各膜体8,10には張力が付与される。この場合、上記したように他の膜体10は上記膜体8とほぼ同構成であるため、各膜体8,10には互いにバランスよく張力が付与される。そして、このような張力の付与により、これら各膜体8,10で構成される多重膜構造体5を、構築物1の屋根、天井、および壁など所望形状に保持させることができる。
【0061】
また、前記したように、上記膜体8の外縁部20が有する上記基部側17aと端縁側17bとの間に上記他の膜体9,10の外縁部21,22が挿入されている。
【0062】
このため、上記他の膜体9,10の外縁部21,22は、一体物である上記膜体8の外縁部20の基部側17aと端縁側17bとの間に挟まれるため、上記各膜体8,9,10の各外縁部20,21,22の互いの結合強度が向上する。よって、その分、各膜体8,9,10の寿命の向上が達成され、つまり、多重膜構造体5の寿命の向上が達成される。
【0063】
なお、以上は図示の例によるが、多重膜構造体5の各膜体8,9,10を縦方向や傾斜方向に延ばすことにより、上記多重膜構造体5が構築物1の屋根、天井、および壁を構成するようにしてもよい。
【0064】
以下の図6は、実施例2を示している。この実施例2は、前記実施例1と構成、作用効果において多くの点で共通している。そこで、これら共通するものについては、図面に共通の符号を付してその重複した説明を省略し、異なる点につき主に説明する。また、これら実施例における各部分の構成を、本発明の目的、作用効果に照らして種々組み合せてもよい。
【実施例2】
【0065】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例2を添付の図6に従って説明する。
【0066】
図6において、上記端縁側17bには開口26は形成されていない。一方、上記基部側17aにおける上記両対向縁部13,13の熱溶着W1部に対し上記膜体8の下側に隣接する他の膜体9の外縁部21が重なる部分に、開口27が形成されている。なお、図6中一点鎖線で示すように、上記基部側17aにおける上記両対向縁部13,13の熱溶着W1部に対し前記他の膜体10の外縁部22が重なる部分に、他の開口28を形成してもよい。
【0067】
上記構成によれば、互いに重ねられる膜体8および複数枚の他の膜体9,10が設けられた多重膜構造体5において、上記膜体8が有する帯状膜材12群の外縁部17を構成する基部側17aに対し端縁側17bが折り返されて熱溶着W2されることにより、上記多重膜構造体5の外縁部20,21,22の強度が向上させられている。
【0068】
そして、上記基部側17aにおける上記両対向縁部13,13に対し上記膜体8に隣接する他の膜体9の外縁部21が重なる部分に、開口27が形成されている。
【0069】
このため、前記したように、多重膜構造体5の外縁部20,21,22の強度を向上させた場合でも、上記基部側17aにおいて互いに重ねられた上記両対向縁部13,13の両膜材に対し、更に上記端縁側17bと他の膜体9,10の外縁部21,22との各膜材が重ねられる、ということは上記した開口27の形成によって防止される。つまり、上記帯状膜材12群の端縁側17bの折り返しに加え、上記他の膜体9,10の外縁部21,22が重ねられるとしても、多重溶着部が形成されることは抑制される。
【0070】
ここで、前記従来の技術にて説明のように、仮に、上記した多重溶着部が形成された場合には、この多重溶着部からこれに隣接する溶着されていない部分への遷移部では強度が急変しがちとなり、また、上記多重溶着部では同じ箇所で熱溶着が繰り返されることにより、この多重溶着部の一部の強度が低下するおそれがある。そして、この場合には、これら遷移部や多重溶着部の一部に応力集中が生じ易くなって、破損し易くなるおそれがある。しかし、上記構成によれば、上記したように多重溶着部の形成が抑制されることから、上記応力集中に基づく破損は未然に防止される。よって、上記各膜体8,9,10の寿命の向上が達成され、つまり、多重膜構造体5の寿命の向上が達成される。
【符号の説明】
【0071】
5 多重膜構造体
8 膜体
9 膜体
10 膜体
12 帯状膜材
13 対向縁部
17 外縁部
17a 基部側
17b 端縁側
20 外縁部
21 外縁部
22 外縁部
24 空間
26 開口
27 開口
28 開口
A 一方向
B 長手方向
C 他の一方向
W1 熱溶着
W2 熱溶着

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に沿って複数枚並設される帯状膜材を有し、上記一方向で互いに隣り合う両帯状膜材の互いの両対向縁部が重ねられてこれら両対向縁部が互いに熱溶着され、上記各帯状膜材の長手方向におけるこれら帯状膜材群の外縁部を構成する基部側に対し端縁側が折り返され、これら基部側と端縁側とが互いに熱溶着される膜体において、
上記基部側における上記両対向縁部に対し上記端縁側が重なる部分に、開口が形成されることを特徴とする膜体。
【請求項2】
請求項1の膜体に重ねられる他の膜体が設けられ、上記基部側と端縁側とを有する上記膜体の外縁部と上記他の膜体の外縁部とが重ねられてこれら各外縁部が互いに熱溶着されることを特徴とする多重膜構造体。
【請求項3】
上記他の膜体が、その面方向での他の一方向に沿って複数枚並設される帯状膜材を有し、上記他の一方向で互いに隣り合う両帯状膜材の互いの両対向縁部が重ねられて熱溶着され、上記膜体と他の膜体との間の空間に気体が封入されることを特徴とする請求項2に記載の多重膜構造体。
【請求項4】
互いに重ねられる膜体および複数枚の他の膜体が設けられ、上記膜体が、その面方向での一方向に沿って複数枚並設される帯状膜材を有し、上記一方向で互いに隣り合う両帯状膜材の互いの両対向縁部が重ねられてこれら両帯状膜材が互いに熱溶着され、上記各帯状膜材の長手方向におけるこれら帯状膜材群の外縁部を構成する基部側に対し端縁側が折り返され、これら基部側と端縁側とを有する上記膜体の外縁部と上記各他の膜体の外縁部とが重ねられてこれら各外縁部が互いに熱溶着される多重膜構造体において、
上記基部側における上記両対向縁部に対し上記膜体に隣接する他の膜体の外縁部が重なる部分に、開口が形成されることを特徴とする多重膜構造体。
【請求項5】
上記膜体の外縁部が有する上記基部側と端縁側との間に上記他の膜体の外縁部が挿入されることを特徴とする請求項2から4のうちいずれか1つに記載の多重膜構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−12894(P2012−12894A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152554(P2010−152554)
【出願日】平成22年7月3日(2010.7.3)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】