説明

膜分離方法および膜分離装置

【課題】 下水や工場廃水等の汚水を処理する膜分離活性汚泥法を含む膜分離方法において、分離膜表面における洗浄効率を阻害することなく、即ち、膜ろ過フラックスを低下させることなく、酸素供給効率を高めることを目的とする。また、同時に槽内の微生物濃度を高め、生物反応効率を高めると同時に、膜分離活性汚泥法の場合には余剰汚泥発生量の削減を図ることができる経済的な膜分離方法を提供する。さらに、微細気泡を膜面に効率よく供給し、十分な膜表面洗浄効果を得るための浸漬型膜分離装置を提供する。
【解決手段】
少なくとも分離膜と該分離膜の下方に気泡を発生させる散気装置とを備えた浸漬型膜分離装置を、微生物含有液に浸漬設置して、前記散気装置から発生する気泡を前記分離膜の表面に作用させて、分離膜表面を洗浄しながら前記微生物含有液を膜分離処理するに際し、前記散気装置を連続的または間欠的に動かす膜分離方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性汚泥を含む微生物含有液を、膜を用いて固液分離する膜分離方法及び膜分離装置に関する。具体的には、下水等の汚水を、活性汚泥処理した後に膜分離処理する、いわゆる膜分離活性汚泥法を用いた廃水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、廃水処理方法として、膜分離活性汚泥法が開発され普及しつつある。この膜分離活性汚泥法は、通常の活性汚泥法の最終沈殿池の代わりに、精密ろ過膜あるいは限外ろ過膜等の分離膜を用いて膜分離処理する処理方法であって、生物反応槽内の被処理水の生物量(一般にMLSS(=Mixed Liquor Suspended Solids、混合液懸濁物質)で表す。)を高く保つことで、生物反応槽自体のサイズを小さくすることが出来ること、汚泥と処理水の分離は重力沈降によらず膜ろ過により行うため、処理水にSS(=Suspended Solids、懸濁物質)が流出することがなく、清澄な処理水を得ることができること、等の利点がある。中でも、膜分離装置を曝気槽内部に浸漬した浸漬型方式の膜分離活性汚泥法は、曝気エネルギーを酸素供給と膜面洗浄に兼用できるため、膜分離装置を曝気槽外部に設置し循環ポンプが必要な外部循環方式の膜分離活性汚泥法に比べて必要動力が少なく、最終沈澱池が不要となるため省スペースとなり、膜価格の低下などと併せて、急速に普及してきている。
【0003】
浸漬型方式の膜分離活性汚泥法による膜分離処理を行う際には、通常、分離膜表面を洗浄するため、分離膜の下方に散気装置を設置して粗大気泡を発生(曝気)させ、この粗大気泡によって発生する気液混合上向流を膜表面に作用させて膜面洗浄することが行われている。ここで、膜面に作用する気泡が大きいほど、膜面への堆積汚泥に対する剪断力が高くなるので、分離膜表面の洗浄効率を高めることができる。従って、分離膜の洗浄用には粗大気泡を用いることが必要と考えられている。
【0004】
一方、槽内に設置した散気装置から発生する気泡は、被処理液を生物処理する活性汚泥に酸素供給するためにも必要である。しかし、分離膜表面の洗浄に好適な粗大気泡は水中での比表面積が小さいので、酸素を水中に溶解させる効率が低くなってしまうという問題があり、活性汚泥に必要な酸素量を供給するためには散気量を多くすることが必要となり、散気効率が低下する。
【0005】
そこで、散気効率を高めるために、粗大気泡による分離膜表面の洗浄効率を維持しつつ、生物処理に必要な酸素供給のための散気量を極力少なくすることが検討され、微細気泡と粗大気泡とをともに発生させる散気方法や、微細気泡を発生させた後に気泡を粗大化させる散気方法が提案されている。例えば、分離膜(膜ユニット)の下方に、粗大気泡散気装置と微細気泡散気装置との両方を設置して、粗大気泡と微細気泡を共に発生させる処理装置が提案されている(特許文献1参照)。また、分離膜(膜ユニット)の下方に、上下2段に散気装置を設け、下段の散気装置からは微細気泡を発生させ、上段の散気装置からは粗大気泡を発生させる処理装置が提案されている(特許文献2参照)。さらにまた、分離膜(膜ユニット)よりもかなり下方位置に、微細気泡散気装置を設け、その上方で分離膜の直下の位置に気泡合一装置を設置して気泡を粗大化させる処理装置が提案されている(特許文献3参照)。また、平膜を複数枚並べてその下方から微細気泡を発生させる外部循環式の膜分離活性汚泥法が提案されている(特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、上記のような微細気泡を用いる方法の場合、微細気泡は酸素溶解効率が高い反面、水中の汚泥を乾燥させやすいといった特徴を有している。すなわち、一旦散気装置に汚泥が付着すると、付着した汚泥は微細気泡によって乾燥固化しやすく、散気装置表面に汚泥が蓄積することになりやすいという問題がある。散気装置表面に汚泥が蓄積すると、膜面に気泡を均等に作用させることが難しくなり、その結果、気泡の大きさに起因して膜表面の洗浄効率が低下するだけでなく、さらに膜表面の洗浄効率が低下する。
【0007】
加えて、特許文献1および特許文献2に記載されている技術では、粗大気泡と微細気泡とを併用するために、粗大気泡用、微細気泡用の両方の散気装置が必要となり、特許文献3の技術では、微細気泡を粗大化させる気泡合一装置の設置や、散気効率を高める膜から微細気泡までの距離を十分に長くすることが必要となるので、装置コスト的に高価となり易く、また、同時に粗大気泡を利用するため十分に散気効率を高めることができないなど、工業的実施のためには好ましくないものであった。また、特許文献4の技術では、外部循環のための高流量の汚泥送液ポンプが必要であり、これにより微細気泡のエアリフトによる上向流以上の流速を発生させる必要があるため、微細気泡が汚泥内に滞留している時間が短く、酸素供給効率を十分に高めることができず、全体的に装置コストおよび運転コストが高くなってしまい、工業実施のためには好ましくないものであった。
【0008】
さらに、膜分離活性汚泥法では、固液分離を沈殿槽で行う活性汚泥法に比べて、生物処理槽に保持する活性汚泥量を増やした低汚泥負荷での運転が可能になるため、廃水処理とともに生じる余剰汚泥発生量が減ることが知られている(非特許文献1、2参照)。このことは、次の式1でもって説明することができる。
【0009】
【数1】

【0010】
上記の式1から、汚泥滞留時間を長くし、生物処理槽に保持する活性汚泥量をさらに増やした運転を行った場合、余剰汚泥発生量がいっそう減ることになる。しかしながら、汚泥滞留時間を長くするほど、粘度上昇によって膜の目詰まりや酸素供給不足のリスクが高くなり、また上記したような微細気泡を膜面に作用させる方法ではなおさら膜面を十分に洗浄することが困難となる。そのため汚泥滞留時間を極端に長くするという方法は曝気量過剰な運転でもしない限り実現は困難である。そこで、実用施設では、汚泥滞留時間を制御して、余剰汚泥を定期的に引き抜き、汚泥濃度が8〜12g/L程度の管理濃度の範囲に保持する様に運転が行われているが、これでも産業廃棄物である余剰汚泥が依然として著量発生するので、環境負荷や廃水処理費用を減らす観点から、余剰汚泥発生量のより少ない技術が望まれている。
【特許文献1】特開2002−224685号公報
【特許文献2】特開2001−212587号公報
【特許文献3】特開2003−53368号公報
【特許文献4】特開平8−323165号公報
【非特許文献1】化学工学、第64巻8号(2000)、390〜392、山本和夫
【非特許文献2】情報技術センター、「汚泥減容化システムの比較と汚泥対策コストダウン」講習会(2004.6.25)テキスト
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、下水や工場廃水等の汚水を処理する膜分離活性汚泥法を含む膜分離方法において、分離膜表面における洗浄効率を阻害することなく、即ち、膜ろ過フラックスを低下させることなく、酸素供給効率を高めることを目的とする。また、同時に槽内の微生物濃度を高め、生物反応効率を高めると同時に、膜分離活性汚泥法の場合には余剰汚泥発生量の削減を図ることができる経済的な膜分離方法を提供することを目的とする。さらに、微細気泡を膜面に効率よく供給し、十分な膜表面洗浄効果を得るための浸漬型膜分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、本発明は以下の(1)〜(10)のいずれかの構成からなる。
(1)少なくとも分離膜と該分離膜の下方に散気孔から気泡を発生させる散気装置とを備えた浸漬型膜分離装置を、微生物含有液に浸漬設置して、前記散気孔から発生する気泡を前記分離膜の表面に作用させて、分離膜表面を洗浄しながら前記微生物含有液を膜分離処理するに際し、前記散気孔を連続的または間欠的に動かすことを特徴とする膜分離方法。
(2)前記散気孔を回転もしくは振動により連続的または間欠的に動かすことを特徴とする、前記(1)に記載の膜分離方法。
(3)表面粗さが0.1μm以下の分離膜を用いるとともに、該分離膜の表面に直径2mm以下の大きさの微細気泡を作用させることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の膜分離方法。
(4)前記微生物含有液の懸濁成分濃度が15,000mg/L以上であることを特徴とする、前記(3)に記載の膜分離方法。
(5)少なくとも、微生物含有液に浸漬設置される分離膜と、該分離膜の下方に設置され散気孔から気泡を発生させる散気装置と、前記散気孔を連続的または間欠的に動かす機構とを備えていることを特徴とする膜分離装置。
(6)前記散気孔を動かす機構が、前記散気孔を備えている散気面を回転もしくは振動する機構であることを特徴とする、前記(5)に記載の膜分離装置。
(7)前記分離膜は表面粗さが0.1μm以下であり、前記散気装置は直径2mm以下の大きさの微細気泡を発生するものであることを特徴とする、前記(5)または(6)に記載の膜分離装置。
(8)前記散気装置は、散気面が、伸縮により開閉する散気孔が多数形成された弾性シートからなり、前記散気孔の開閉により気泡が放出されることを特徴とする、前記(5)−(7)のいずれかに記載の膜分離装置。
(9)前記弾性シートは、伸縮によりスリットが開閉するものであることを特徴とする、前記(8)に記載の膜分離装置。
(10)前記分離膜が、ポリフッ化ビニリデン製の多孔質分離機能層を有する平膜である、前記(5)−(9)のいずれかに記載の膜分離装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、散気装置を連続的または間欠的に動かすことで散気装置内の汚染を軽減させることができるので、微細気泡であっても膜面に効率よく供給され、十分な膜表面洗浄効果を得ることが容易となり、そのため活性汚泥への酸素供給効率を高めることも可能となる。そして、これにより、安定運転可能な浸漬型膜分離装置の運転が実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、少なくとも分離膜と該分離膜の下方に散気孔から気泡を発生させる散気装置とを備えた浸漬型膜分離装置を、微生物含有液に浸漬設置して、散気孔から発生する気泡を前記分離膜の表面に作用させて、分離膜表面を洗浄しながら微生物含有液を膜分離処理するに際し、散気孔を連続的または間欠的に動かすことを特徴とするが、本発明に供する浸漬型膜分離装置の一例を図1に示し、この図1の浸漬型膜分離装置を利用して、有機性汚水などの廃水を本発明法により処理する方法を、以下説明する。
【0015】
図1に示す廃水処理装置には、活性汚泥を含む微生物含有液が貯留され活性汚泥による生物処理を行うための曝気槽(微生物含有液収容槽)2と、その曝気槽2に原水(被処理液としての廃水)を供給するための原水供給ポンプ3及び原水供給管1と、生物処理された活性汚泥混合液を固液分離する膜分離装置4と、膜分離装置で固液分離された膜透過水を吸引する吸引ポンプ6と、曝気槽内の余剰汚泥を引き抜く汚泥引き抜きポンプ7が設けられている。
【0016】
膜分離装置4は、分離膜を備えた膜モジュール5と、その下方に設置された散気装置9と、散気装置可動機構10とから構成される。膜分離装置4は、曝気槽2内の液中に浸漬されており、散気装置9は、空気配管(気体供給配管)11を介して空気供給装置8と連通している。即ち、空気供給装置8によって散気装置9に空気を供給し、散気装置9から気泡が活性汚泥中に散気されることによって、活性汚泥による好気処理を進行させるとともに、膜面の洗浄を行う。
【0017】
ここで、散気装置可動機構10は、散気装置9の上部に堆積した汚泥を除去する目的で備えられているもので、散気装置9の少なくとも散気孔を連続的または間欠的に動かすものである。かかる機構としては少なくとも散気孔を動かすことができればいかなる機構でもよいが、例えば、散気孔を備えた配管を中心軸とする回転機構や振動機構が効率的で好ましい。回転機構の場合は、360度回転可能であることも問題ないが、本発明の主旨である汚泥除去を達成するためには、とくに制約されるものではなく、45〜135度回転できればその機能を十分に達成することが可能である。また、回転させるための機構としては、図2に例示するように、散気孔を有する配管に直結するレバー28による駆動機構であったり、曝気槽2を通して磁力で散気孔を有する配管を回転させる機構も可能である。さらに、図3に示すように、散気孔を有する配管の回転翼14を設ければ、槽内の旋回流を利用して回転させることも可能である。動かす頻度としては、特に制限はなく、連続でも間欠でも問題ないが、汚泥の堆積はそれほど急速ではないので、間欠で十分である。具体的には、1日〜10日に1回とするのがよい。
【0018】
曝気槽2としては、活性汚泥を貯え、膜分離装置4を原水と活性汚泥の混合液(微生物含有液)に浸漬することができれば、その大きさや材質等は特に制限されるものではなく、例えば、コンクリート槽、繊維強化プラスチック槽などが好ましく用いられる。また、曝気槽の内部が複数に分割された槽構造でもよいし、その複数に分割されている槽のうちの一部の槽内に膜分離装置4を浸漬することにしてもよい。その他、曝気槽の前段に、嫌気槽、無酸素槽、好気槽などを別に設けて、有機物のほか、窒素・リンなどの栄養塩を除去できるプロセスにしてもよい。
【0019】
原水供給ポンプ3は、原水(廃水)を曝気槽2内に送液することができるポンプであれば特に制限されるものではなく、渦巻ポンプ、ディフューザーポンプ、渦巻斜流ポンプ、斜流ポンプ、ピストンポンプ、プランジャポンプ、ダイアフラムポンプ、歯車ポンプ、スクリューポンプ、ベーンポンプ、カスケードポンプ、ジェットポンプなどを用いることができる。
【0020】
吸引ポンプ6は、膜透過水配管12内の膜透過水を吸引するポンプであり、このポンプによる吸引力によって、膜分離装置4による膜ろ過固液分離を行うために必要な駆動力が与えられ、水の流れが生じる。この吸引ポンプ6の形状等は特に制限されるものではなく、制御方法や容量によって適宜選択することが出来る。また、この吸引ポンプ6の代わりに、水頭圧力差を駆動力として膜ろ過を行うことも可能である。さらに、一定ろ過圧力運転の場合は安全運転が容易でないため、一定ろ過流束となるように駆動力を調整することが好ましい。なお、膜ろ過流束(単位膜面積あたりの膜ろ過流量)は、水処理方法の効率性を決定する上で極めて重要な項目であり、膜ろ過流束が高ければ、小さい膜面積の膜分離装置で一定流量の廃水を処理することが可能であり、水処理装置の設置面積の削減、膜表面に必要な曝気エネルギーの削減などに寄与する。しかしながら、膜ろ過流束を高くするほど膜ろ過抵抗が高くなるので安定運転が難しくなる。ところが、本発明にかかる方法によると、微細気泡であっても膜面に効率よく供給され、十分な膜表面洗浄効果を得ることが容易となり、そのため活性汚泥への酸素供給効率を高めることも可能となるので、比較的高い膜ろ過流束である0.5m/日以上でも、安定運転が可能となる。
【0021】
また、膜ろ過の運転は連続的に実施することも問題ないが、間欠的に実施する、すなわち、一定時間ろ過運転をした後に一定時間ろ過を休止する方法を採ることも出来れば、高ろ過流束と低ろ過流束を組み合わせることも可能である。膜ろ過膜面への汚れの付着はろ過による流れによって促進され、気液混合流による膜面洗浄効果との関係によって膜面への汚れ付着の進行速度が決定される。従って、ろ過を定期的に停止したり低ろ過流束に切り替えることで、膜面へ付着した汚れを気液混合流によって除去することが出来る。
【0022】
ただし、停止や低ろ過流束の時間が長いと洗浄効果は大きいが、得られるろ過量が減少するので、なるべく停止や低ろ過流束の時間は短い方が好ましい。従来技術では、膜分離の停止時間が不足すると膜表面からの膜汚れの剥離が不十分となり易かったが、本発明において表面粗さが0.1μm以下の分離膜、特に、表面粗さが0.1μm以下で、かつ平均孔径が0.2μm以下である分離膜を用いた場合には、たとえば1回の膜分離の停止もしくは低ろ過流束の時間を15秒以上3分以下、さらには、30秒以上90秒以下としても効果的な膜面洗浄が出来る。さらに、膜分離の停止時間の割合に関しては、洗浄効果という観点から従来15%以上が好ましかったが、本発明においては15%以下と短くても十分に膜汚染物質を膜表面から剥離できる。特に、ろ過継続時間(もしくは、高ろ過流束継続時間)を20分以下とした場合においては、上記の膜ろ過安定性の向上が顕著となるため、さらに好ましいことが判明した。なお、膜分離の停止時間の占める割合は式2のように定義される。
【0023】
【数2】

【0024】
上記は、膜ろ過の運転と停止、高ろ過流束と低ろ過流束の切り替えを時間によって切り替えたが、膜ろ過流量や膜ろ過差圧が設定値に達した場合に運転を停止したり低ろ過流束に切り替える方法を採ることも可能である。
【0025】
膜ろ過停止やろ過流束を一定時間ごとに切り替える機能を有するための膜分離運転停止制御手段13は、たとえば膜透過水配管に設置される。その制御手段は特に限定されないが、例えば、図1のように吸引ポンプ6により固液分離に必要な駆動力を与える場合、膜分離運転停止制御手段13としては、タイマーを内蔵し、予め記録されたプログラムに従い、定期的に吸引ポンプの運転/停止を切り替えるリレースイッチによる制御装置が挙げられる。また、自然水頭差を駆動力とする場合には、膜ろ過水の配管途中に電磁弁を設け、その電磁弁の開閉により上記の場合と同様に制御する制御装置などが挙げられる。
【0026】
本発明の装置、方法により処理することができる廃水(汚水)としては、産業廃水や生活廃水等が挙げられる。特に、化学工場や食品工場などから排出される有機物に富んだ産業廃水に対する処理に本発明は好適である。
【0027】
汚泥引き抜きポンプ7は、曝気槽内のMLSS濃度を一定に保つために、汚泥を定期的に引き抜くためのポンプである。粘性の高い汚泥を送液できるものであれば、特に制限されるものではない。膜分離活性汚泥法における一般的なMLSS濃度は3〜20g/L程度であるが、より安定した膜ろ過流束を保つためにはMLSS濃度を5〜15g/L程度とすることが好ましいといわれている。一般的に、MLSS濃度を大きくすることによって、容積あたりの有機物除去速度が高くなり、高効率な水処理を行うことができるが、膜ろ過に関しては、MLSS濃度が高くなるのに従い膜ろ過抵抗が高くなり、膜ろ過の安定運転が難しくなる。しかしながら、本発明によると、微細気泡を用いて活性汚泥への酸素供給効率を高めつつ、かかる気泡を膜面に効率よく供給することができるので、十分な膜表面洗浄効果を得ることができ、比較的高濃度である15g/L以上のMLSS濃度でも、安定運転が可能となる。
【0028】
また、後述するように膜表面粗さが0.1μm以下と平滑な膜表面をもつ平膜形状の分離膜を用いることで、散気装置から発生させる微細気泡(たとえば分離膜の表面における大きさが直径2mm以下の微細気泡)のみでも十分な膜面洗浄がなされ、実際の膜ろ過運転上に必要な一定のフラックス条件下でも、安定な運転を行うことができる。しかも、MLSS濃度が15g/L以上の高汚泥濃度の場合にも安定した膜ろ過運転を行うことが可能である。具体的には、たとえば水温25℃の条件下、MLSS濃度10g/Lのときは1.0m/d程度の膜ろ過流束で、15g/Lのときは0.7m/d程度の膜ろ過流束で、20g/Lのときは0.4m/d程度の膜ろ過流束で、30g/Lのときは0.2m/d程度の膜ろ過流束で、それぞれ1ヶ月以上膜間差圧10kPa以内で運転することができる。
【0029】
余剰汚泥発生量削減の効果の程度は、廃水の種類や活性汚泥、運転条件等の違いにより異なるので、一律的に議論することは困難であるが、たとえばBOD濃度が200〜1,500ppmの廃水を、BOD容積負荷0.5〜2.0kg−BOD/m/日で、MLSS濃度を15g/Lの状態で、本発明にて処理した場合高い効果が得られる。
【0030】
汚泥濃度は、低いと汚泥の自己分解速度や内生呼吸による有機物分解の効果が十分でないため高くすることが好ましく、MLSS濃度で15g/L以上が好ましく、より好ましくは20g/L以上である。しかし、あまり汚泥濃度が高すぎると、粘性が高くなり曝気槽内での活性汚泥液の混合が不良となる、汚泥の性状が悪化する、など運転のリスクが高まるため、MLSS濃度は高くても40g/L以下であることが好ましい。MLSS濃度を15〜40g/Lの範囲内のどの水準に管理するかは、容積負荷や汚泥削減のニーズに応じて決めればよく、特に限定されるものではないが、BOD汚泥負荷が0.1kg/MLSS/日となるようなMLSS濃度が目安となる。さらに汚泥を削減したい場合は0.05kg/MLSS/日となるようなMLSS濃度が目安となり、より一層に汚泥を削減したい場合は0.02kg/MLSS/日となるようなMLSS濃度が目安となる。なお、汚泥濃度は、基本的にMLSS濃度を15g/L以上とする場合であっても、運転期間の一部に、汚泥の引き抜き等の理由により15g/L以下になる期間があってもよい。ただし、余剰汚泥発生量を抑制するには、15g/L以上で運転する期間が長い方がまとまった一定期間での余剰汚泥発生量発生量を抑えることが可能であり望ましく、例えば、年間の50%以上、より好ましくは70%以上、MLSS濃度15g/L以上に維持することが好ましい。
【0031】
空気供給装置8は、圧縮空気を送風する装置のことであり、一般にはブロア、コンプレッサ等が用いられる。送風された空気は散気装置9の散気孔から槽内に気泡として送出され、この気泡により、膜分離装置の分離膜表面の洗浄が行なわれるとともに、生物処理(好気処理)に必要な酸素が液中に供給される。このとき、曝気風量(散気装置9の散気量)を多くするほど分離膜表面の洗浄が行われやすくなるが、曝気風量が多くなるほど曝気風量増分に対する洗浄効果増分が小さくなるため、曝気効率が低下する。さらに、曝気風量が多すぎると、単位曝気風量あたりの酸素溶解効率が低下し、エネルギー効率が悪くなる。一方、曝気風量が少なすぎると、分離膜表面の洗浄が不十分となるだけでなく、設置面積あたりの曝気効率が小さくなり、不経済となる。そこで、曝気風量は、曝気エア流路単位面積あたりの曝気風量で、0.13〜0.5L/分/cmであることが好ましく、0.18〜0.4L/分/cmであることがさらに好ましく、0.18〜0.25L/分/cmであることが最も好ましい。
【0032】
膜分離装置4は、上述したように、基本的に上部の膜モジュール5と下部の散気装置9によって構成される。金属や樹脂などの部材を利用して枠体を形成するなどして、前記膜モジュール5と散気装置9、可動機構10を一体化することが好ましい。
【0033】
膜モジュール5は、槽内の活性汚泥を含む微生物含有液を固液分離する機能を発揮する分離膜を配設させた構造を有するモジュールである。そのための分離膜の形状としては平膜や中空糸膜などがあるが、本発明においては平膜であることが好ましい。膜モジュール形状については特に限定しないが、ろ過膜(分離膜)の取り扱い性や物理的耐久性を向上させるために、例えば、図4(概略斜視図)に示すように、樹脂や金属等で形成されたフレーム15の表裏両面に透過水流路材を挟んで平板状の分離膜(平膜)16を配置し平膜の周囲を接着固定した構造の分離膜エレメント18を用い、この平膜を用いた分離膜エレメント18の複数〜多数を膜面平行に配置しているモジュールであることが望ましい。平膜エレメントの構造は上記に限定されるものではない。平膜エレメントを備えてなる膜モジュール5は、膜面に平行な流速を与えた場合の剪断力による汚れの除去効果が高いことから、本発明に適している。ここで使用する平膜(分離膜)は後で詳細に説明するように、膜表面粗さが0.1μm以下の平滑表面をもつことが好ましい。
【0034】
また、図3に示すように、平膜を用いた分離膜エレメント18の複数枚〜多数枚を一定の間隔をあけて垂直かつ膜面平行に配置する膜モジュール構造であることが好ましい。ここで、図3は、隣り合う2枚の分離膜エレメント18を示す概略斜視図であり、隣り合う分離膜エレメント18の膜面の間には所定の間隔が空けられていて、この間隔を、槽内液の上昇流、特に気泡と槽内液との混合流が上昇する。分離膜の膜面洗浄を満遍なく良好に行うためには、この膜面空間Aの鉛直下方から微細気泡を含んだ気液混合流を上向きに流すことが好ましい。
【0035】
膜モジュールにおける体積当たりのろ過面積を増やすためには、分離膜エレメント18の膜面間隔を狭くし、より多くの分離膜エレメントを配置することが望ましいが、膜面間隔が狭すぎると分離膜エレメントの膜面に気液混合流が流れる圧力損失が大きくなり、十分な流束が得られずに膜面洗浄が不十分となってしまう。一方、膜面間隔が広すぎると、膜モジュール体積あたりのろ過面積が減少するばかりでなく、気液混合流が膜面に作用する専断力が小さくなってしまう。効率よく膜ろ過を行うためには、膜面どうしの間隔は1〜15mmであることが好ましく、さらには5〜10mmであることがより好ましい。
【0036】
散気装置9としては、微細気泡を発生させることができる散気面を備えた散気装置であれば特に限定されるものではないが、例えば、空気吐出部の材質に、金属、セラミック、多孔性のゴム、メンブレンを用いた散気装置を使用することができ、一般に酸素溶解効率が高い散気装置として知られているものを使用することができる。また散気装置8の圧力損失は、高すぎると消費電力が増し、省エネルギー性、経済性を損ねることにつながるため、圧力損失が低い方が好ましい。
【0037】
本発明法において用いる気泡は、孔径が1〜500μmの散気孔から散気されることにより発生する微細気泡であることが好ましい。散気孔の孔径は、散気孔が設けられた部分が金属管等の非伸縮性材質から構成される場合には、その散気孔の孔径を直接測った値である。このとき、散気孔が円形の場合には、その円直径を孔径とするが、円形でない場合には、写真から孔の有効面積を算出し、円換算したときの直径を孔径とする。即ち、孔の有効面積がAの場合には、孔径は、2×(A/π)1/2 として求めればよい。また、孔径の異なる複数個の孔が存在するときには、それぞれの孔径の平均値を、散気孔の孔径とする。また、ゴム製の多孔質膜のように伸縮性の素材からなる部分に散気孔が設けられている場合には、その散気装置内に所定の圧力をかけて散気孔を開いた状態にして写真撮影し、写真から孔径を測る方法をとればよい。
【0038】
また、微細気泡は、直径2mm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、0.5〜1.5mmである。気泡径は小さいほど酸素溶存効果が高くなるが、発生させるためのエネルギー(圧力損失)が大きくなり、気泡の上昇によって発生する気液混合上昇流の流速が小さくなる。この気泡径は、清水環境下で曝気を行い、膜面相当位置の気泡を写真撮影し、その写真から気泡径の平均値を評価する方法をとればよい。なお、膜面相当位置に関し、膜の高さに差がある場合は、一定間隔毎の高さにおけるサンプリングを行い、数平均値をとることによって求める。そのときの測定数は、少なくとも100個の平均値とすることが好ましい。このような直径2mm以下の微細気泡は、たとえば前記の孔径が1〜500μmの散気孔から散気することにより形成されるが、散気装置から粗大気泡を発生させた後、例えば、金属メッシュの超音波振動によって気泡を分散して微細化させる気泡微細化装置を、散気装置9と膜モジュール11の中間に設置することによって微細気泡を形成してもよい。
【0039】
また、散気装置は、散気面が、伸縮により開閉する散気孔が多数形成された弾性シートからなり、その散気孔の開閉により微細気泡が放出される構造の散気装置であることが好ましい。ここで、伸縮により開閉する散気孔としては、微細スリットが挙げられる。具体的には、円筒状支持管の外周面を覆うように、微細スリットが形成された弾性シートを設け、前記円筒状支持管と弾性シートとの間に空気を供給した際に、弾性シートが膨らみ、弾性シートに形成された微細スリットが開くことにより、微細気泡が発生する構造の散気装置であることが好ましい。このような散気装置としては、(株)美鈴工業により市販されているゴム製円筒型散気管が例示される。
【0040】
上記のような散気装置の構造と動作について説明する。図5に散気装置の中心軸での断面図を示す。散気装置9は、中心部に支持管20があり、この支持管20の外周全面を覆うように弾性シート19が設けられ、弾性シート19の軸方向両端部は、環状固定具21により固定されている。弾性シート19には複数の散気スリット(散気孔、図示なし)が形成されている。個々の散気スリットの長手方向の長さは0.1〜10mm、特に、0.5〜5mmが好適である。
【0041】
支持管20の片端は分岐管23と接続しており、接続端付近に貫通孔22が設けられている。分岐管23から供給された空気は貫通孔22を通った後、支持管20と弾性シート19の間に入り、弾性シート19を膨張させる。弾性シート19が膨張したことによって散気スリットが開き、供給された空気が微細気泡となって、曝気槽2内の液中に噴出される。空気供給が停止した時には弾性シート19が収縮して散気孔が閉じるので、微細気泡が放出されない時に散気孔から槽内の微生物含有液が散気装置内に流入することがなく、膜ろ過運転を行う過程で微生物含有液中の汚泥による散気孔の閉塞や散気装置内の汚れを防ぐことができる。
【0042】
分岐管23および支持管20の材質としては、散気による振動などの負荷によって破損しない剛性を持つ材質であれば特に限定されるものではない。例えば、ステンレスなどの金属類、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどの樹脂、繊維強化樹脂(FRP)などの複合材料、その他の材質などを好ましく使用することができる。
【0043】
弾性シート19の材質については特に限定されず、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、シリコンゴム、ウレタンゴムなどの合成ゴムや、その他の弾性材を適宜選択して使用することができる。なかでも、エチレンプロピレンジエンゴムは耐薬品性に優れるので好ましい。
【0044】
また、膜モジュール内の分離膜エレメント18の膜間空間A内に、下方から気泡を上昇させて膜面に気泡を作用させるためには、その膜間空間Aの鉛直下方向に散気孔が満遍なく存在するように散気装置9を配置することが好ましい。これにより、分離膜エレメント18の膜面に均一に気泡を作用させ、分離膜表面を効率よく洗浄することができ、高い膜ろ過流束を得ることができる。
【0045】
具体的な散気装置としては、散気孔が設置された散気面をもつ管状の散気管を例示できるが、その管の横断面は、円でもよいし楕円でもよいし、そのほかの形状でもよい。
【0046】
一般的に、分離膜の膜面洗浄用に粗大気泡を用いると、前述したとおり、膜表面に付着する汚泥の洗浄除去効果は高まるが、気泡と水との接触面積が小さくなるので酸素が液中に溶解する効率が低くなり、散気効率が低下する。しかし、本発明では、上記のとおり散気孔を連続的または間欠的に動かすことで、好ましくは、膜表面粗さが0.1μm以下、さらに好ましくは、膜表面粗さが0.1μm以下かつ膜表面平均孔径が0.2μm以下という表面性状で特定される分離膜を膜分離装置4に用いることで、洗浄効果が低いと考えられてきた微細気泡を用いても十分な膜面洗浄効果を得ることができ、膜分離活性汚泥法で求められる通常のフラックス条件下で安定運転することができる。
【0047】
本発明において、膜分離装置4に用いる分離膜は、被ろ過液側に圧力を加えて、もしくは透過側から吸引することによって被ろ過液中に含まれる一定粒子径以上の物質を捕捉する機能を有する分離膜であり、その捕捉粒子径の違いにより、ダイナミックろ過膜、精密ろ過膜、および限外ろ過膜と分類されるが、好ましくは、精密ろ過膜である。
【0048】
本発明で用いる分離膜は、膜表面における表面粗さが0.1μm以下であり、好ましくは、膜表面粗さが0.1μm以下かつ膜表面における平均孔径が0.2μm以下であり、さらに好ましくは、膜表面の表面粗さが0.001〜0.08μm、かつ膜表面の平均孔径が0.01〜0.15μmであり、最も好ましくは、膜表面の表面粗さが0.01〜0.07μm、かつ膜表面の平均孔径が0.01〜0.1μmである。
【0049】
膜表面における表面粗さとは、分離膜が被ろ過液と接触する膜表面に対して垂直方向の高さの平均値ということができ、以下のような装置・手法により測定することができる。測定装置として原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments社製Nanoscope IIIa)を用い、探針としてSiNカンチレバー(Digital Instruments社製)を用い、走査モードはコンタクトモード、走査範囲は10μm×25μm、走査解像度は512×512として各ポイントのZ軸(膜表面に対して垂直方向)の高さ(Ziとする)を測定し、データを取得する。試料となる膜サンプルには、測定前に常温でエタノールに15分浸漬した後、逆浸透膜ろ過水中に24時間浸漬して洗浄した後、風乾する前処理を行う。そして測定データのベースラインを水平化する処理を行い、下記の式3による計算を行って求められる二乗平均粗さRMS(μm)を膜表面の表面粗さとする。
【0050】
【数3】

【0051】
膜表面における平均孔径とは、分離膜表面における細孔径の平均値であり、この膜表面の平均孔径を測定するためには、例えば、膜表面を走査型電子顕微鏡を用いて倍率10,000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意の細孔の直径を測定し、数平均して求める。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求められる。細孔径の標準偏差σが大きすぎると、ろ過孔径性能の劣る孔の割合が多くなるため、標準偏差σは0.1μm以下であることが好ましい。
【0052】
また、本発明で用いられる分離膜は、高透水性や運転安定性の観点から、水透過性に優れた膜を使用することが好ましい。透過性の指標としては、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができる。分離膜の純水透過係数は、逆浸透膜による25℃の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出した値で2×10−9/m/s/pa以上であることが好ましく、より好ましくは40×10−9/m/s/pa以上であり、この範囲で実用的に十分な透過水量が得られる。
【0053】
本発明においては、特に上述したような表面粗さが0.1μm以下の分離膜を用いるとともに、かかる分離膜に直径2mm以下の大きさの微細気泡を作用させることが好ましい。このような表面性状を有する分離膜の表面に微細気泡を作用させることによって特に良好に膜面洗浄することができるが、その理由は、次のように考えられる。
【0054】
すなわち、膜表面粗さが小さい分離膜ほど、膜表面における非膜透過物質剥離係数比率が大きくなる傾向がある。膜表面における非膜透過物質剥離係数とは、分離膜表面に付着している被ろ過液の非膜透過物質が分離膜からの剥離し易さを表す剥離係数であり、試料膜の剥離係数を標準膜の剥離係数に対する比率でもって表した値が非膜透過物質剥離係数比率である。即ち、この剥離係数比率が高いほど、分離膜に付着している非膜透過物質が分離膜から剥離し易く、膜表面に非膜透過物質のケーク層が形成されにくいものであり、膜ろ過性能が高くなる。したがって、一般的に、散気装置から発生されて膜表面に作用させる気泡として、粗大気泡ではなく微細気泡を用いると、気液混合上向流により励起される膜表面洗浄応力が小さくなると考えられるが、膜表面粗さが0.1μm以下の分離膜では、非膜透過物質剥離係数比率が高いために、膜表面から分離膜に付着している非膜透過物質が分離膜表面から剥離し易く、膜表面に非膜透過物質のケーク層が形成されにくいのであり、この結果、微細気泡による膜面洗浄でも、十分な膜ろ過性能が得られる。なお、ここでいう標準膜とは、ミリポア社製のデュラポア膜フィルターVVLP02500(親水性PVDF製、孔径0.10μm)である。
【0055】
また、平均孔径が小さい分離膜ほど、ろ過抵抗係数比率が小さい傾向がある。ろ過抵抗係数比率は、膜表面に付着している非膜透過物質の単位物質量あたりの抵抗発生量を表すろ過抵抗係数を、標準膜のろ過抵抗係数に対する比率でもって表した値である。即ち、ろ過抵抗係数比率が小さいほど、分離膜表面に非膜透過物質が付着しても膜ろ過抵抗として表れにくいものであり、透水性が高くなる。
そして、分離膜の膜素材としては、有機材料、無機材料のいずれでもよいが、製造コスト、浸漬用途での取り扱い易さから特に高分子の有機材料が好適に使用できる。この場合好適な膜素材としては、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリ3フッ化エチレン、ポリ6フッ化プロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース誘導体、及びこれらの共重合体、混合物などが例示されるが、これに制限されない。しかし、曝気による耐擦過性や生物処理槽で使用するための耐微生物性や耐薬品性の点から、ポリフッ化ビニリデン製の多孔質分離機能層が形成されてなる平膜が優れている。さらに、分離膜は、不織布や繊維で補強してあるとなお良い。
【実施例】
【0056】
ろ過水の流路を形成する目的で凹凸を両面に形成した、高さ1000mm×幅500mm×厚み6mmのABS製支持板の表裏面に、それぞれ分離膜(平膜)を設置して、両面あわせた有効膜面積が0.9mの分離膜エレメントを作成した。ここで、分離膜としては、不織布の表面にポリフッ化ビニリデン製の表面平均孔径0.08μm、表面粗さ0.062μmの薄膜を形成した平膜を用いた。
【0057】
次に、図6に示すように、内寸が高さ1000mm×幅515mm×奥行290mmで上下が開放した筐体24を製作し、該筐体24の中に20枚の分離膜エレメント18を装填した。なお、筐体24の下には脚体25が連接されていて、脚体25内の空間の所定位置に、散気装置を固設し、エレメント下端から散気装置までの上下方向の距離が220mmとなるようにした。また膜エレメントの配列方向と平行な側面で、散気装置より上方で、かつ、筐体24よりも下方の開口部の面積は、片面側227cmであった。筐体内に20枚の膜エレメントを装填したときの、筐体上部の膜エレメント上面の開口部の面積は700cmであった。散気装置としては、長さ2mmの微細スリットが多数設けられている直径70mmの微細気泡散気管26を3本用い、該散気管26へ空気を送給する空気供給管27を脚体25に固定した。なお、散気管同士の水平間隔は125mmとした。また、3本それぞれを、図2に示されるようなレバー28による可動機構10に連結し、散気管の管軸を中心に90度回転できるような構造として散気孔を動かした。
【0058】
以上のようにして、20枚の膜エレメント18(図6においては5枚のみ図示)が筐体24内に装填され、脚体25と散気管26とが設置された浸漬型膜分離装置4を製作した。
【0059】
この装置を用いて図7に示すフローの廃水処理装置を組み立て、表1にまとめて示す条件にて、生活廃水の処理を行った。図7では、浸漬型膜分離装置4を、膜エレメントが装填された膜モジュール部分5と散気装置9とに簡略化して示している。図7に示すように、原水(生活廃水)44は、原水供給ポンプ46を介して、まず脱窒槽47に導入され活性汚泥と混合される。その後、この活性汚泥混合液は曝気槽41に導入される。生物処理工程は、窒素除去のため、硝化工程(好気)と脱窒工程(無酸素)により処理が進められる。後段の曝気槽41(好気槽)でアンモニア性窒素(NH−N)の硝化を進め、前段の脱窒槽47へ硝化液を汚泥循環ポンプ48により循環し、脱窒槽47にて窒素を除去する。
【0060】
ここで、曝気槽41内では、空気供給装置42により送風された空気が散気管26を介して曝気される。この曝気により、活性汚泥が好気状態に維持され、硝化反応やBOD酸化が行われる。さらに、この空気曝気により、膜モジュール部分5内の膜面上へ付着する汚泥の付着・堆積が洗浄される。
【0061】
また、曝気槽41と脱窒槽47内のMLSS濃度維持のため、定期的に汚泥を、汚泥引き抜きポンプ49により引き抜いた。
【0062】
膜モジュール部分5による膜ろ過は吸引ポンプ43で透過水側を吸引することにより行った。また、分離膜の膜表面への汚泥付着防止のため、タイマーを内蔵し、予め記録されたプログラムに従い、定期的に吸引ポンプの運転/停止を切り替えるリレースイッチを用いることにより、膜ろ過は、8分運転と2分休止とを繰り返す間欠運転で行い、膜ろ過流束は1.0m/day(平均フラックス)と固定した運転を行った。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例1)
レバー28により散気管26を1日1回の頻度で90度回しながら、30日間の運転を続けたところ、差圧上昇速度は0.11kPa/dであり、ほぼ安定した運転を継続することができた。また、運転後に浸漬型膜分離装置を引き上げて調べたところ、散気管26に汚泥の付着はほとんどなく、膜エレメントにも汚泥の付着はほとんど認められなかった。
(比較例1)
散気管26を回転させない他は実施例1と同様の運転条件で運転したところ、30日間の運転における差圧上昇速度が0.93kPa/dであり、安定運転することができなかった。また、運転後に浸漬型膜分離装置を引き上げて散気装置を調べたところ、散気装置には汚泥が付着しており、膜エレメントにも汚泥の固まりが散見された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、下水処理、工業廃水処理全般に適用可能であるが、とくにビルや船舶などスペースが限られたところでの廃水処理に適している。さらに、食品、化学、制約など生物培養や発酵における膜分離処理への適用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係る浸漬型膜分離装置の概略図の一例である。
【図2】本発明に係る浸漬膜分離装置に適用可能な散気孔の可動機構の一例である。
【図3】本発明に係る浸漬膜分離装置に適用可能な散気孔の可動機構の他の一例である。
【図4】本発明に適用可能な分離膜モジュール内の2枚の隣接する分離膜エレメントを示す概略斜視図である。
【図5】本発明に適用可能な散気装置の長手方向中心軸での縦断面図である。
【図6】実施例における浸漬型膜分離装置の概略斜視図である。
【図7】実施例における廃水処理装置の概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1:原水
2:曝気槽
3:原水供給ポンプ
4:膜分離装置
5:膜モジュール
6:吸引ポンプ
7:汚泥引き抜きポンプ
8:空気供給装置
9:散気装置
10:散気装置可動機構
11:空気配管
12:膜透過水配管
13:膜分離運転停止制御手段(吸引ポンプ制御手段)
14:回転翼
15:フレーム
16:膜
17:透過水ノズル
18:分離膜エレメント
19:弾性シート
20:支持管
21:環状固定具
22:貫通孔
23:分岐管
24:筐体
25:脚体
26:散気管
27:空気供給管
28:レバー
29:原水(生活廃水)
30:原水協級ポンプ
31:脱窒槽
32:曝気槽
33:汚泥循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも分離膜と該分離膜の下方に散気孔から気泡を発生させる散気装置とを備えた浸漬型膜分離装置を、微生物含有液に浸漬設置して、前記散気孔から発生する気泡を前記分離膜の表面に作用させて、分離膜表面を洗浄しながら前記微生物含有液を膜分離処理するに際し、前記散気孔を連続的または間欠的に動かすことを特徴とする膜分離方法。
【請求項2】
前記散気孔を回転もしくは振動により連続的または間欠的に動かすことを特徴とする請求項1に記載の膜分離方法。
【請求項3】
表面粗さが0.1μm以下の分離膜を用いるとともに、該分離膜の表面に直径2mm以下の大きさの微細気泡を作用させることを特徴とする請求項1または2に記載の膜分離方法。
【請求項4】
前記微生物含有液の懸濁成分濃度が15,000mg/L以上であることを特徴とする請求項3に記載の膜分離方法。
【請求項5】
少なくとも、微生物含有液に浸漬設置される分離膜と、該分離膜の下方に設置され散気孔から気泡を発生させる散気装置と、前記散気孔を連続的または間欠的に動かす機構とを備えていることを特徴とする膜分離装置。
【請求項6】
前記散気孔を動かす機構が、前記散気孔を備えている散気面を回転もしくは振動する機構であることを特徴とする請求項5に記載の膜分離装置。
【請求項7】
前記分離膜は表面粗さが0.1μm以下であり、前記散気装置は直径2mm以下の大きさの微細気泡を発生するものであることを特徴とする請求項5または6に記載の膜分離装置。
【請求項8】
前記散気装置は、散気面が、伸縮により開閉する散気孔が多数形成された弾性シートからなり、前記散気孔の開閉により気泡が放出されることを特徴とする請求項5−7のいずれかに記載の膜分離装置。
【請求項9】
前記弾性シートは、伸縮によりスリットが開閉するものであることを特徴とする請求項8に記載の膜分離装置。
【請求項10】
前記分離膜が、ポリフッ化ビニリデン製の多孔質分離機能層が形成されてなる平膜である請求項5−9のいずれかに記載の膜分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−178696(P2009−178696A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22461(P2008−22461)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】