説明

膜厚計測方法、膜厚計測装置およびプログラム

【課題】塗膜の膜厚を、低コストで、非接触で正確に計測する。
【解決手段】カメラ(撮像部)13は、照明光12で照射された試料20の表面をカラー撮像する。この際、膜厚を計測する際には、位置(A)に設置され、照明光12の反射光14がこのカメラ13に直接入射しない構成とする。これにより、カメラ13が検出する光の大部分は、照明光12の試料20による散乱光15となる。パーソナルコンピュータ(制御部)16は、R信号、G信号、B信号の強度を、色相h、彩度s、明度vのHSV信号に変換する。パーソナルコンピュータ16は、この散乱光におけるh、s、vの値から塗膜22の膜厚tを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物表面における塗膜の膜厚を非接触で測定する膜厚計測方法に関する。また、この膜厚計測方法を実行する膜厚計測装置、及びこれに用いられるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
タンカー等の大型船舶においては、船体保護のために、船体に塗装を施すことが義務づけられており、その膜厚についても、IMO(International Maritime Organization:国際海事機関)の海上安全委員会で規定されている。
【0003】
この委員会においては、(1)塗膜の乾燥時の膜厚の基準値を320μmとすること、(2)測定点の90%でこの基準値以上の膜厚であり、かつ残りの10%での膜厚はこの基準値の90%を下回らないこと、(3)塗料の仕様によって決まる乾燥時の最大膜厚をこえないこと、(4)平坦部における測定点の密度は1点/5mとすること、(5)防撓材においては、エッジや溶接部から15mm以内で1点/2〜3mの密度で計測すること、等が規定されている。この条件に従って計測を行う場合、例えば大型船舶においては、その測定点は10万点にも達する。
【0004】
こうした点を考慮して、例えば、非特許文献1に記載されるように、SI(Self Indicating)塗料が船舶に用いられている。SI塗料においては、上記の基準値近辺の膜厚において、塗膜の色の膜厚依存性が特に大きい。従って、作業者が目視で膜厚のむらを確認することができ、大型の船舶に対しても、これをむらなく塗布することができる。また、目視で確認された色が所定の色とは異なる場合には、膜厚が設定値から異なっていることを容易に認識できる。
【0005】
ただし、上記の規定を遵守するためには、作業者がむらを目視で確認するだけでなく、膜厚を数値化して確認することが必要になる。薄膜の膜厚を計測する方法としては多数のものが知られているが、その中でも非接触・非破壊でこれを計測する方法は、特に簡便かつ有効である。非接触で膜厚計測を行う場合には、光の反射・干渉等を利用した方法が用いられる場合が多いが、例えば、上記の膜厚を測定する場合のように、使用する光の波長よりもはるかに厚い試料に対しての適用は困難である。
【0006】
上記の膜厚程度の塗膜の膜厚を計測する方法は、例えば特許文献1に記載されている。この技術においては、光源から発した光を試料表面で反射させ、その反射光のスペクトルを測定することによって、膜厚を算出する。従って、鋼板上に塗布されたSI塗料の膜厚を非接触で計測することができる。
【0007】
この他に、レーザーによって加熱された塗膜表面からの赤外線輻射を検出することにより塗膜の膜厚を測定する技術が、非特許文献2に記載されている。更に、パルス状のテラヘルツ波を発振し、その塗膜/鋼板界面からの反射波と塗膜表面からの反射波の干渉を利用して膜厚を測定する技術が、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本ペイントマリン株式会社ホームページ(平成21年2月26日検索)、インターネット<URL:http://www.nippe-marine.co.jp/products/noa.html>
【非特許文献2】株式会社ケンオートメーションホームページ(平成21年2月26日検索)、インターネット<URL:http://www.kenautomation.com/optisense00.html>
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−116520号公報
【特許文献2】特開2004−28618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、反射光を検出する特許文献1に記載の方法では、様々な外的要因によって、算出された膜厚が異なることがあった。例えば、光源から発した以外の光が試料に入射した場合には、正確な膜厚を算出することが困難であった。
【0011】
また、赤外線やテラヘルツ波を利用した非特許文献2、特許文献2に記載の技術においては、正確な膜厚を算出することが可能であるが、レーザー光源や、テラヘルツ波発振源等の高価な部品が必要であるため、膜厚計測装置全体のコストが高くなった。
【0012】
従って、塗膜の膜厚を、低コストで、非接触で正確に計測することは困難であった。
【0013】
本発明は、斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の請求項1に係る膜厚計測方法は、被検査物表面に形成された塗膜の膜厚を非接触で計測する膜厚計測方法であって、前記被検査物に照射された光の散乱光を撮像部を用いてカラー撮像するステップと、前記撮像部の出力であるカラー画像信号における色の属性値を算出するステップと、前記色の属性値を入力値とした数式を用いて前記膜厚を算出するステップと、を具備することを特徴とする。
この発明においては、非検査物からの散乱光のカラー画像信号における色の属性値が算出される。この属性値を数式に入力して膜厚が算出される。この散乱光の元となる光としては、LED、蛍光灯等、色の属性値が有意に得られるものであれば、任意の光源から発するものを用いることができる。
また、本発明の請求項2に係る膜厚計測方法において、前記塗膜は、SI(Self Indicating)塗料により形成されることを特徴とする。
この発明においては、色の膜厚依存性が特に顕著であるSI塗料が塗膜を構成する材料として用いられる。
また、本発明の請求項3に係る膜厚計測方法は、前記属性値として、色相の値を用いることを特徴とする。
この発明においては、膜厚との関係における照明光依存性が特に小さい色相(h)が、色の属性値として用いられる。
また、本発明の請求項4に係る膜厚計測方法は、前記カラー画像信号におけるR(Red)信号、G(Green)信号、B(Blue)信号を元に前記属性値を算出することを特徴とする。
この発明においては、一般的なカラー撮像の出力信号として用いられるRGB信号から色の属性値であるhsv信号が算出される。
また、本発明の請求項5に係る膜厚計測方法は、前記被検査物に対して、光源から発せられた照明光を照射することを特徴とする。
この発明においては、散乱光の元となる照明光を発するための光源が特に用いられる。
本発明の請求項6に係るプログラムは、前記膜厚計測方法を実行させることを特徴とする。
この発明によって、前記膜厚計測方法が例えばパーソナルコンピュータ上で実行される。
本発明の請求項7に係る膜厚計測装置は、被検査物表面に形成された塗膜の膜厚を非接触で計測する膜厚計測装置であって、前記被検査物に照射された光の散乱光をカラー撮像する撮像部と、前記撮像部の出力であるカラー画像信号における色の属性値を算出し、該属性値を入力値とした数式を用いて前記膜厚を算出する制御部と、を具備することを特徴とする。
この発明においては、非検査物からの散乱光が撮像部によってカラー撮像される。制御部は、このカラー画像信号における色の属性値を算出し、この属性値から数式を用いて、膜厚を算出する。この散乱光の元となる光としては、LED、蛍光灯等、色の属性値が有意に得られるものであれば、任意の光源から発するものを用いることができる。
また、本発明の請求項8に係る膜厚計測装置において、前記色の属性値は色相の値であることを特徴とする。
この発明においては、膜厚との関係における照明光依存性が特に小さい色相(h)が色の属性値として用いられ、制御部がこれを用いて膜厚を算出する。
また、本発明の請求項9に係る膜厚計測装置において、前記制御部は、前記カラー画像信号におけるR(Red)信号、G(Green)信号、B(Blue)信号を元に前記色の属性値を算出することを特徴とする。
この発明においては、制御部が、一般的なカラー撮像の出力信号として用いられるRGB信号から色の属性値であるhsv信号を算出する。
また、本発明の請求項10に係る膜厚計測装置は、前記被検査物に対して照明光を発する光源を具備することを特徴とする。
この発明においては、散乱光の元となる照明光を発するための光源が特に用いられる。
また、本発明の請求項11に係る膜厚計測装置において、前記照明光は白色光であることを特徴とする。
この発明においては、単一波長の光ではない白色光が特に照明光として用いられる。
また、本発明の請求項12に係る膜厚計測装置は、前記撮像部と前記光源の位置関係が、少なくとも、前記撮像部が前記照明光の前記被検査物側からの反射光を検出せず前記被検査物からの散乱光を検出する位置に設定される構成を具備することを特徴とする。
この発明においては、撮像部が被検査物からの反射光を検出せず散乱光を検出する位置に設定される。従って、撮像部は、反射光の影響を受けずに散乱光の撮像を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の膜厚計測方法、膜厚計測装置、プログラムは以上のように構成されているので、塗膜の膜厚を、低コストで、非接触で正確に計測することができる。
この際、SI塗料で構成された塗膜に対しては、特に高い精度で膜厚を計測することができる。
色の属性値として、特に色相(h)を用いた場合には、照明光の照度等に関する情報を用いずに膜厚を算出することができる。
また、照明光を発するのに特定の光源を用いれば、特に高い精度で膜厚を計測することができる。あるいは、照明光として白色光を用いれば、より安価な光源を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態となる膜厚計測装置の構成を示す図である。
【図2】計測・算出された色相h(a)、彩度s(b)、明度v(c)の膜厚依存性である。
【図3】複数の膜厚範囲におけるデータを利用して算出された膜厚と、実際の膜厚との誤差(rms値)を調べた結果である。
【図4】実際の膜厚と、本発明の実施の形態に係る膜厚計測方法で算出された膜厚との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る膜厚計測装置において反射光を撮像した際の明度vの分布の測定結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態となる膜厚計測装置について説明する。図1は、この膜厚計測装置10の構成を示す図である。図1において長破線で囲まれた領域で示される膜厚計測装置10は、非特許文献1や特許文献1に記載されたSI(Self Indicating)塗料の膜厚を非接触で計測する。
【0018】
SI塗料の一例としては、例えば、日本ペイントマリン社製のN.O.A(商品名)がある。このSI塗料においては、所定の色をもつ顔料粒子が所定密度で樹脂成分に含有され溶剤が混合されている。塗布膜厚が薄い場合にはこの色成分が薄くなり、塗布膜厚が厚い場合にはこの色成分が濃くなるように設定されている。この際の色変化は、特にIMOの海上安全委員会で規定されている膜厚の基準値である320μm程度で大きくなるように設定されている。このSI塗料は、塗布された後で溶剤が蒸発することによって樹脂成分が固化し、安定した塗膜が得られる。
【0019】
図1において、光源11は、例えばLED(発光ダイオード)であり、照明光12を発する。照明光の波長としては、可視光域におけるある一定の波長を用いることができるが、白色光を用いることもできる。従って、LED以外でも、蛍光灯等の安価な光源を用いることができる。
【0020】
この照明光は、試料20に照射される。試料20(被検査物)は、例えば鋼板21上にSI塗料の塗膜22が塗布された構成である。鋼板21の表面は鏡面ではなく、ラッピング処理後の表面であることが、鋼板21の表面での反射光を発生しにくいために好ましい。
【0021】
カメラ(撮像部)13は、照明光12で照射された試料20の表面をカラー撮像する。この際、膜厚を計測する際には、図1の実線で示される位置(A)に設置され、照明光12の反射光14がこのカメラ13に直接入射しない構成とする。これにより、カメラ13が検出する光の大部分は、照明光12の試料20による散乱光15となる。ただし、膜厚の絶対値を計測するのではなく、例えば塗膜における凹凸の有無だけを検出する場合には、図1中の破線で示された位置(B)にカメラ13を設置することができ、反射光14を検出する構成とすることもできる。すなわち、カメラ13の位置は可変とする。
【0022】
また、カラー画像は、RGB(Red:Green:Blue)毎の画像信号として取得される。この各信号は、通常知られるように、2次元CCDイメージセンサにおいてRed、Green、Blueのフィルタを画素毎に配列した構成を用いることによって得ることができる。2次元CCDイメージセンサの画素数は、カメラ13の光学系や試料20における被測定個所の大きさに応じて適宜設定される。また、RGB信号が得られる受光素子であれば、2次元CCDイメージセンサの代わりに用いることができる。
【0023】
パーソナルコンピュータ(制御部)16は、R信号、G信号、B信号の強度(それぞれ、R、G、Bとする)を、色相h、彩度s、明度vのHSV信号に変換する。この変換は、よく知られるように、MAX=max(R、G、B)、MIN=min(R、G、B)として、次式に従い行われる。
【0024】
【数1】

【0025】
パーソナルコンピュータ16は、この散乱光におけるh、s、vの値から塗膜22の膜厚tを算出する。この関係は、例えば以下に示す3次多項式で表すことができる。
【0026】
【数2】

【0027】
ここで、係数a〜a、b〜b、c〜c、dは、下地(鋼板21)の材質及び表面状態、塗膜22(SI塗料の種類)、あるいは照明光による照度等によって決まる。具体的には、下地の材質及び表面状態。SI塗料の種類毎、照明光による照度毎に複数通りの膜厚を設定した試料を作成し、その結果から、重回帰分析等によってこれらの係数を求めることができる。
【0028】
実際にSI塗料として、NOAマイティ60HSバフ(300μmタイプ)を200mm×300mmの鋼板(非鏡面)上に予め設定された様々な厚さで塗布した試料20を作成した。これらの試料について、図1の構成における光源11として白色LEDを用い、かつ、室内照明として蛍光灯を用いた場合においてカメラ13によって撮像を行い、色相h、彩度s、明度vの算出を行った。カメラ13としては、画素数が1080×1600、RGB3色対応、焦点距離55mm、F値5.6のものを用いた。ここで、室内照明(蛍光灯)の点灯数を変えることによって、試料20の表面の照度を変化させた。室内照明(蛍光灯)を全部オフしてLEDのみによる照明を行った場合にはこの照度は945ルクスであり、蛍光灯の点灯数を変えることにより、この照度を992ルクス、1081ルクス、1345ルクスとした。
【0029】
計測、算出されたこれらの値の膜厚依存性を、図2(a)に色相h、図2(b)に彩度s、図2(c)に明度vについてそれぞれ示す。ここで、光源11と試料との距離は95cm、カメラ13と試料との距離は132cmとした。
【0030】
この結果より、特に400μmまでの膜厚において、これらのパラメータには大きな膜厚依存性があることが明らかである。400μm以上ではどのパラメータも飽和するが、これは、膜厚方向で微視的に見た場合に、これ以上の厚さでは顔料粒子で全面が覆われた状態となるためである。従って、この飽和膜厚は、顔料粒子の粒径やその密度によって適宜設定できる。ただし、前記のIMOの海上安全委員会で規定されている膜厚の基準値は320μmであるため、この飽和膜厚は400μm程度とすることが好ましい。
【0031】
従って、照度毎に係数a〜a、b〜b、c〜c、dを測定結果を元に最小2乗法等によるフィッティングで求めた値に設定すれば、式(4)を用いて高い精度で膜厚を算出することができる。この際、このフィッティングを行う膜厚範囲を最適化することによって、この精度を高めることができる。照明光として、(1)LEDのみを用いた場合(945ルクス)、LEDと蛍光灯を用いた場合(992ルクス)、LEDと蛍光を用いた場合(1081ルクス)、を用い、フィティングにおいて用いられた複数種類の膜厚範囲毎にこの誤差(rms値)を求めた結果を図3に示す。ここでは、0〜1063μm、0〜679μm、0〜561μm、0〜389μmの4種類の膜厚範囲とした。この結果より、特に0〜389μmとした場合に、誤差を小さくすることができることが確認できる。
【0032】
この際に得られた係数a〜a、b〜b、c〜c、dの値の例を表1に示す。なお、これらの係数は、用いるSI塗料の種類毎、鋼板21の種類毎及びその表面の状態毎に算出される。ただし、実際には、SI塗料の種類、鋼板21の種類やその表面状態は、一つの船体においては一様である場合が多いため、測定点を多数設けた場合でも、同一の係数を使用できる場合が多い。
【0033】
【表1】

【0034】
図4に、横軸に実際の膜厚を、縦軸に、計測・算出されたh、s、vを用いて(4)式によって算出されたt及びその実際の膜厚との誤差(rms誤差)を示す。この結果より、上記の方法によって、小さなrms誤差で膜厚を算出することができることが確認された。ここで、この結果においては照明光として蛍光灯のみを利用しているが、蛍光灯とLEDとを併用した場合であっても同様であった。
【0035】
すなわち、この膜厚計測装置10において実行される膜厚計測方法は、散乱光15をカメラ13を用いてカラー撮像するステップと、カメラ13の出力であるカラー画像信号における色の属性値をパーソナルコンピュータ16が算出するステップと、この属性値を入力値とした数式を用いてパーソナルコンピュータ16が膜厚を算出するステップとを具備する。この膜厚計測方法を実行させるプログラムは、パーソナルコンピュータ16において実行できる構成とすればよい。この場合、パーソナルコンピュータ16は、カメラ16の出力を上記の通りに処理するだけでなく、パーソナルコンピュータ16によって光源11、カメラ13が制御される構成とすることができる。
【0036】
従って、上記の膜厚計測装置10、あるいはこの膜厚計測方法によって、非接触で、塗膜の膜厚を正確に計測することができる。この際、非特許文献2、特許文献2に記載の技術のように、高価なレーザー光源やテラヘルツ波発振源を必要とせず、例えば安価なLED(発光ダイオード)や蛍光灯を用いることができる。従って、この膜厚計測装置10は低コストとなる。
【0037】
また、彩度s(図2(b))、明度v(図2((c))には明確な照明光(照度、あるいはLEDの有無)依存性が見られるのに対し、色相h(図2(a))における照明光依存性はこれらと比べて小さい。従って、式(4)における係数b〜b、c〜cを用いず(これらを全て零とする)、係数a〜a、dを最小2乗法等によるフィッティングで求めた値とすることによって、hのみを用いてtを算出することもできる。この場合、係数a〜a、dの値は、照度にはよらない値とすることができる。すなわち、照明光の照度等の情報を用いずに、高い精度で膜厚を算出することができる。この場合には、特別な光源としてのLED等は不要である。図2(a)の結果より、一般に室内灯等として用いられる蛍光灯等から発する光を照明光として用いることができる。従って、この膜厚計測装置10を更に低コスト化することができる。
【0038】
上記の方法においては、検出されたRGB信号から、色の属性値として、色相h、彩度s、明度vが算出され、用いられる。この色は塗料に含まれる顔料の色に基づいて決まり、顔料の色が決まっていれば、膜厚方向から見た場合のこの顔料粒子の密度によってこの色が決まる。一方、非特許文献2、特許文献2に記載の方法では、塗膜自身の熱的性質や、塗膜自身の光学的性質に基づいて膜厚が算出される。塗膜の熱的性質や光学的性質は顔料粒子以外の部分にも大きく依存し、ここでいう顔料粒子以外の部分とは、固化後は樹脂成分であり、固化前には樹脂成分と溶剤との混合物である。従って、これらの性質は塗料の固化(乾燥)の前後で異なることがあり、測定される膜厚も、乾燥前後で異なる。これに対して、色の属性より膜厚を算出する上記の方法においては、この色はほぼ顔料のみによって決まるため、算出される膜厚は乾燥前後でほぼ同一である。従って、塗装作業者が、塗布直後に上記の方法によって乾燥後の塗膜の膜厚を算出することができる。
【0039】
また、塗膜22の膜厚の絶対値を計測するのではなく、単なる表面の凹凸の有無を検出する場合においては、散乱光を撮像することは必ずしも有効ではない。図5は、図1における破線で示された箇所にカメラ13を設置し、反射光14をカメラ13で撮像し、上記と同様にして求められた明度vの1次元強度分布、及びその平滑化曲線、この平滑化曲線からの偏差である。反射光14の強度は特に塗膜22表面の凹凸の影響を強く受けるため、この場合においては、特に明度vを計測し、利用者が明度vの表示画像を目視することによって凹凸を容易に認識することができる。すなわち、この膜厚計測装置10においては、カメラ13を図1における破線で示された箇所(B)に設置し、色の属性値(特に明度v)を検出することによって、塗膜22表面の凹凸を高い精度で検出することもできる。ただし、この場合に認識されるのは凹凸の有無だけであり、膜厚の絶対値は、カメラ13を図1における実線で示された箇所(A)に設置し、色の属性値(特に色相h)を検出することによって、算出することができる。こうした測定は、カメラ13の反射光14に対する位置関係を可変とすることによって、適宜行うことができる。
【0040】
すなわち、この膜厚計測装置10においては、カメラ13の反射光14に対する位置関係を可変とすることによって、塗膜22表面の凹凸の確認と、膜厚の絶対値の計測をそれぞれ最適な状態で行うことができる。この位置関係は、少なくとも、カメラ13が反射光14を検出する位置、及びカメラ13が反射光14を検出せず散乱光15を検出する位置、のいずれかに選択されて設定される構成を具備すればよい。この構成は、カメラ13及び/又は光源11の試料20に対する位置を可変とすることによって実現できる。
【0041】
なお、上記の例では、測定対象である塗膜はSI塗料によるものとしたが、含有する顔料によって色が決まる塗料であれば、同様の効果を奏することは明らかである。また、塗膜の下地として、鋼板を用いた場合につき記載したが、下地表面からの反射光が散乱光に悪影響を与えない材料であれば、同様に測定対象の下地として用いることができることは明らかである。
【0042】
また、上記の例では、色の属性値から膜厚を算出するのに3次多項式である式(4)を用いたが、この換算式は適宜設定することが可能である。従って、上記の例では設定される係数はa〜a、b〜b、c〜c、dの10個であったが、この係数の種類、数もこれに応じて適宜設定される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
上記の通り、この膜厚計測装置、及び膜厚計測方法は、特に船体上の塗膜に対して好ましく適用することができるが、同様に、非接触で正確に塗膜の膜厚を計測する場合には、船体以外にも、例えば自動車の車両や航空機等、任意の被検査物に対しても適用が可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 膜厚計測装置
11 光源
12 照明光
13 カメラ(撮像部)
14 反射光
15 散乱光
16 パーソナルコンピュータ(制御部)
20 試料(被検査物)
21 鋼板
22 塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物表面に形成された塗膜の膜厚を非接触で計測する膜厚計測方法であって、
前記被検査物に照射された光の散乱光を撮像部を用いてカラー撮像するステップと、
前記撮像部の出力であるカラー画像信号における色の属性値を算出するステップと、
前記色の属性値を入力値とした数式を用いて前記膜厚を算出するステップと、
を具備することを特徴とする膜厚計測方法。
【請求項2】
前記塗膜は、SI(Self Indicating)塗料により形成されることを特徴とする請求項1に記載の膜厚計測方法。
【請求項3】
前記属性値として、色相の値を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の膜厚計測方法。
【請求項4】
前記カラー画像信号におけるR(Red)信号、G(Green)信号、B(Blue)信号を元に前記属性値を算出することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の膜厚計測方法。
【請求項5】
前記被検査物に対して、光源から発せられた照明光を照射することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の膜厚計測方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の膜厚計測方法を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項7】
被検査物表面に形成された塗膜の膜厚を非接触で計測する膜厚計測装置であって、
前記被検査物に照射された光の散乱光をカラー撮像する撮像部と、
前記撮像部の出力であるカラー画像信号における色の属性値を算出し、該属性値を入力値とした数式を用いて前記膜厚を算出する制御部と、
を具備することを特徴とする膜厚計測装置。
【請求項8】
前記色の属性値は色相の値であることを特徴とする請求項7に記載の膜厚計測装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記カラー画像信号におけるR(Red)信号、G(Green)信号、B(Blue)信号を元に前記色の属性値を算出することを特徴とする請求項7又は8に記載の膜厚計測装置。
【請求項10】
前記被検査物に対して照明光を発する光源を具備することを特徴とする請求項7から請求項9までのいずれか1項に記載の膜厚計測装置。
【請求項11】
前記照明光は白色光であることを特徴とする請求項10に記載の膜厚計測装置。
【請求項12】
前記撮像部と前記光源の位置関係が、少なくとも、前記撮像部が前記照明光の前記被検査物側からの反射光を検出せず前記被検査物からの散乱光を検出する位置に設定される構成を具備することを特徴とする請求項10又は11に記載の膜厚計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−276349(P2010−276349A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126141(P2009−126141)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【出願人】(505302948)財団法人日本船舶技術研究協会 (13)
【Fターム(参考)】