説明

自動二輪車用トラクション制御装置

【課題】カーブ走行時に後輪のトラクションが喪失して車体が転倒するのを防ぐことができる自動二輪車用トラクション制御装置を提供する。
【解決手段】自動二輪車の車体の傾斜角を検出する車体傾斜角検出器2と、リアサスペンションの変位を検出するサスペンション変位センサ3と、車体傾斜角検出器の出力から車体の傾斜角が設定値以上であることが検出されている状態で、サスペンション変位センサの出力からリアサスペンションのショックアブソーバが設定値以上の伸びを示したことが検出されたときに後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定するスリップ判定部401と、スリップ判定部によりトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定されたときにエンジン1の出力を低下させるようにエンジンの出力を調整するエンジン出力調整部402とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のトラクションを制御するトラクション制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車が車体を傾斜させてコーナーに進入した際に、車体の傾斜角が大き過ぎたり、走行速度が速すぎたりすると、後輪がスリップしてトラクション(路面をグリップして車体を前進させようとする力)を喪失し、車体が転倒するおそれがある。
【0003】
自動二輪車が転倒する危険があることを警告して運転者に危険を回避する操作を促す装置として、特許文献1に示されているように、車体の傾斜角を検出する手段と、走行速度を検出する手段と、後輪の横滑りを検出する手段とを設けて、これらの検出結果から車体が転倒するおそれがあるか否かを判定するようにしたものが提案されている。
【0004】
また特許文献2には、自動二輪車の前輪のサスペンションの伸長状態と、加速度と、後輪のスリップ率(後輪の周速と車速との差の車速に対する比)とを検出する手段を設けて、自動二輪車の前輪のサスペンションが伸び切ったことが検出されている状態で、自動二輪車の加速度が基準値以上で、かつ後輪のスリップ率が基準値よりも大きいことが検出されたときに、自動二輪車の車輪がスリップしていると判定して、エンジンの出力を低下させる制御を行うことにより、車輪がスリップするのを防ぐ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−280387号公報
【特許文献2】特公平3−41660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示された発明では、車体の傾斜角と、走行速度と、後輪の横滑りとから転倒のおそれがあるか否かを判定しているが、このように3つの判定条件を用いて転倒のおそれの有無を判定するためには、3つの判定条件のそれぞれに対する閾値を適正に設定する必要があるため、転倒のおそれがあることを的確に検出することが容易ではない。
【0007】
特に自動二輪車が車体を傾けてコーナに進入した際には、運転者が意図的に後輪を滑らせて回頭を早めるドリフト走行を行うことがあるため、上記判定条件に対する閾値の設定が困難である。また3つの判定条件を判定する方法によった場合には、判定条件が多い分、判定に時間がかかるため、転倒につながる後輪のスリップを検出できたとしても、スリップを防止するための措置を講じるまでに時間がかかり、転倒を防止できないおそれがある。
【0008】
また特許文献2に示された発明では、前輪のサスペンションが伸び切ったこと(前輪が浮き上がったこと)が検出されたときにのみ、加速度とスリップ率とから後輪がスリップしているか否かを判定するため、自動二輪車が車体を傾けてカーブを走行する際のように、前輪が浮き上がることがない状況での後輪のスリップには対処することができない。従って、特許文献2に示された発明では、車体が過度に傾いた状態でカーブに進入した際に後輪がトラクションを喪失して転倒するのを防ぐことができない。
【0009】
自動二輪車が最も転倒しやすいのは、カーブを走行する際であるので、カーブ走行時の転倒を防止することは極めて重要である。
【0010】
本発明の目的は、自動二輪車が車体を傾斜させてカーブを走行する際に後輪(駆動輪)が危険なスリップを起こしてトラクションを喪失するか否かを迅速かつ的確に判定して、トラクションを喪失するおそれがあると判定されたときに後輪のグリップ力を回復させるようにエンジンを制御することにより、転倒を防止することができるようにした自動二輪車用トラクション制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前輪及び後輪がそれぞれフロントサスペンション及びリアサスペンションを介して支持された車体と、後輪を駆動するエンジンとを備えた自動二輪車のトラクションを制御する自動二輪車用トラクション制御装置を対象とする。
【0012】
本発明においては、車体の傾斜角を検出する車体傾斜角検出器と、リアサスペンションの変位を検出して該リアサスペンションのショックアブソーバの変位と一定の関係を有する電気信号を出力するサスペンション変位センサと、車体傾斜角検出器の出力から車体の傾斜角が設定値以上であることが検出され、かつサスペンション変位センサの出力からリアサスペンションのショックアブソーバが設定値以上の伸びを示したことが検出されたときに後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定するスリップ判定部と、スリップ判定部により後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定されたときにエンジンの出力を低下させるようにエンジンの出力を調整するエンジン出力調整部とを設けた。
【0013】
車体の傾斜角については色々な定義の仕方が考えられるが、本明細書においては、後輪の車軸の軸線と直交する平面が鉛直面に対してなす角度を車体の傾斜角とする。
【0014】
自動二輪車がカーブを走行していて、後輪のスリップがドリフト走行を行う際の範囲にあり、車体の転倒を招く大きさに至らない状態(後輪のトラクションが喪失していない状態)では、リアサスペンションのショックアブソーバのストローク(変位)が、路面から受ける振動に応答して一定の振幅範囲で細かく変化する。このときサスペンション変位センサの出力信号の波形は、細かく振動する波形となるが、カーブ走行時に後輪がトラクションを喪失していない状態では、サスペンション変位センサの出力信号の振動の振幅がほぼ一定の範囲に収まる。
【0015】
これに対し、自動二輪車が車体を傾けてカーブを走行している際に、後輪がスリップするようになってトラクションを喪失する際には、前駆現象として後輪に大きな横滑りが生じ、リアサスペンションにかかる荷重が一気に抜けるため、ショックアブソーバが大きな伸びを示す。従って、カーブ走行時に、後輪がトラクションを喪失しようとするときには、サスペンション変位センサの出力信号が、ショックアブソーバが伸長する際の変化方向に、一定の振幅範囲を越えて大きな変化を示す。本発明においては、この信号の変化から、後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定する。
【0016】
本発明では、スリップ判定部により、後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定されたときに、エンジン出力調整部がエンジンの出力を低下させるようにエンジンの出力を調整するため、後輪が路面をグリップする力を回復させて、後輪のトラクションを回復させることができ、車体が転倒するのを防ぐことができる。
【0017】
上記のように、車体の傾斜角を検出する車体傾斜角検出器と、リアサスペンションの変位を検出するサスペンション変位センサとを設けて、車体傾斜角検出器の出力から車体の傾斜角が設定値以上であることが検出されている状態で、サスペンション変位センサの出力からショックアブソーバが設定値以上の伸びを示したことが検出されたときに後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定するようにすると、カーブ走行時に(車体の傾斜角が設定値以上であるときに)、サスペンション変位センサの出力信号のみから後輪のトラクションが喪失したことを検出することができる。そのため、後輪のトラクションが喪失しようとしたときに、それを瞬時に検出して、エンジンの出力を低下させて後輪のトラクションを回復させる措置を迅速に講じることができ、転倒を防止する効果を高めることができる。
【0018】
上記エンジン出力調整部は、エンジンの点火を制御することによりエンジンの出力を調整するように構成することができる。
【0019】
エンジン出力調整部はまた、エンジンに燃料を供給する燃料噴射装置の燃料噴射量を制御することによりエンジンの出力を調整するように構成してもよく、燃料噴射装置の燃料噴射時期を制御することによりエンジンの出力を調整するように構成してもよい。
【0020】
上記エンジン出力調整部はまた、エンジンの吸入空気量を調節する電動スロットルのバルブ開度を調節することによりエンジンの出力を調整するように構成してもよく、エンジンの吸入空気量を調節するスロットルバルブに対して並列に設けられたバイパスバルブの開度を調節することによりエンジンの出力を調整するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、車体の傾斜角を検出する車体傾斜角検出器と、リアサスペンションの変位を検出するサスペンション変位センサとを設けて、車体傾斜角検出器の出力から車体の傾斜角が一定値以上であることが検出されている状態で、サスペンション変位センサの出力からショックアブソーバが一定値以上の伸びを示したことが検出されたときに、後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたことを検出するようにしたので、カーブ走行時にサスペンション変位センサの出力レベルを監視するだけで、後輪のトラクションが喪失しようとしていることを検出して、後輪のトラクションを回復する措置を迅速に講じることができ、転倒を防止する効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の構成を概略的に示したブロック図である。
【図2】本発明の実施形態で用いるエンジン出力調整部の構成例を示したブロック図である。
【図3】図1の実施形態の要部を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態で用いるエンジン出力調整部の他の構成例を示したブロック図である。
【図5】本発明の実施形態で用いるエンジン出力調整部の更に他の構成例を示したブロック図である。
【図6】本発明の実施形態で用いるエンジン出力調整部の更に他の構成例を示したブロック図である。
【図7】(A)及び(B)はそれぞれ自動二輪車がカーブを走行している状態で後輪がグリップ力を確保している状態及びグリップ力を喪失したときのサスペンション変位センサの出力波形を示した波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の構成を概略的に示したもので、同図において、1は、前輪及び後輪がそれぞれフロントサスペンション及びリアサスペンションを介して支持された自動二輪車の車体に搭載されて、後輪を駆動するエンジンである。2は、自動二輪車の車体の傾斜角を検出する車体傾斜角検出器、3はリアサスペンションのショックアブソーバの変位を検出するサスペンション変位センサ、4は車体傾斜角検出器2により検出された車体の傾斜角と、サスペンション変位センサ3により検出されるリアサスペンションのストロークの変化とに応じて後輪のトラクションを制御する電子式制御ユニット(ECU)である。
【0024】
サスペンション変位センサ3は、リアサスペンションの変位を検出して、リアサスペンションのショックアブソーバのリニア変位と一定の関係を有する電気信号を発生するセンサである。このサスペンション変位センサとしては、サスペンションストロークセンサとして市販されているものを用いることができる。
【0025】
電子制御ユニット(ECU)4は、マイクロプロセッサを備えて、該マイクロプロセッサに所定のプログラムを実行させることにより、エンジンを制御するために必要な各種の機能ブロックを構成するもので、通常、エンジンの点火時期を制御する点火時期制御ブロックや、エンジンに燃料を供給する燃料噴射装置の燃料噴射時期や燃料噴射量を制御する燃料噴射制御ブロック等をソフトウェア的に構成する他、エンジンを点火する点火装置の主要部を構成する点火回路や、燃料噴射装置のインジェクタを駆動するインジェクタ駆動回路などのハードウェア回路を内蔵している。図1においては、これらの図示を省略している。
【0026】
本実施形態においては、ECU4が、上記の構成要素の他に、トラクションを制御するために、スリップ判定部401と、エンジン出力調整部402とを備えている。
【0027】
スリップ判定部401は、車体傾斜角検出器2の出力から車体の傾斜角が設定値以上であることが検出され、かつサスペンション変位センサの出力からショックアブソーバが設定値以上の伸びを示したことが検出されたときに後輪にトラクションの喪失を招く(そのまま放置するとトラクションが喪失する)スリップが生じたと判定する手段である。
【0028】
本発明においては、車体の傾斜角が設定値以上であるときに,自動二輪車がカーブを走行していると判定する。したがって、車体の傾斜角に対して設定する設定値は、自動二輪車がカーブを走行していることを判定するのに適した値に設定する。
【0029】
エンジン出力調整部402は、スリップ判定部401により後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定されたときにエンジンの出力を低下させるようにエンジンの出力を調整する。
【0030】
自動二輪車のリアサスペンションは、例えば、一端が車体にピボットを介して回動自在に結合され、他端が後輪の車軸に結合されたスウィングアームと、スウィングアームの他端と車体との間に設けられたショックアブソーバとを備えていて、後輪が路面から受ける反力の変化に応答してショックアブソーバが伸縮する。サスペンション変位センサ3は、ショックアブソーバのリニア変位を直接検出するように設けてもよく、スウィングアームの変位を検出することによりショックアブソーバの変位を間接的に検出するように設けてもよい。
【0031】
自動二輪車がカーブを走行していて、後輪にスリップが生じてもその大きさがドリフト走行を行う際の範囲にあり、後輪のトラクションの喪失を招く大きさに至らない状態では、リアサスペンションのショックアブソーバのストローク(変位)が、路面から受ける振動に応答して一定の振幅範囲で細かく変化する。従って、カーブ走行時に後輪がトラクションを喪失するおそれがない状態にあるとき(後輪が路面をグリップしているとき)、サスペンション変位センサの出力信号は、図7(A)に示すように、振幅が一定の範囲に収まる振動波形を示す。
【0032】
これに対し、自動二輪車が車体を傾けてカーブを走行している状態で後輪がトラクションを喪失しようとする際には、前駆現象として後輪に大きな横滑りが生じ、リアサスペンションにかかる荷重が一気に抜けるため、ショックアブソーバが大きい伸びを示す。そのため、カーブ走行時に後輪がトラクションを喪失しようとする際には、サスペンション変位センサの出力信号のレベルが、図7(B)の時刻t1からt2までの波形に見られるように、ショックアブソーバが伸長する際の変化方向に、一定の振幅範囲を越えて大きな変化を示す。スリップ判定部は、この現象を利用して、カーブ走行時に、後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定する。
【0033】
本発明では、スリップ判定部により、後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定されたときに、エンジン出力調整部がエンジンの出力を低下させるようにエンジンの出力を調整するため、後輪が路面をグリップする力を回復させて、後輪のトラクションを回復させることができ、車体が転倒するのを防ぐことができる。
【0034】
上記のトラクション制御を行わせるために、ECU4のマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの一例を示すフローチャートを図3に示した。図3に示した処理は、一連のタスクを所定の順序で繰り返し行うタスク処理の中に組み込まれて、所定のタイミングが到来する毎に実行される。
【0035】
図3の処理が立ち上がると、先ずステップ101において、車体の傾斜の度合を示す車体傾斜角検出器3の出力Aを読み込み、次いでステップ102で、読み込んだ出力Aが設定値以上であるか否か(車体の傾斜角が設定値以上であるか否か)を判定する。
【0036】
なお車体傾斜角検出器3の出力Aは、車体の傾斜角そのものを示すものでもよく、車体の傾斜角と一定の関係(例えば比例関係)を有する電圧値等であってもよい。
【0037】
ステップ102で車体検出器3の出力Aが設定値以上でないと判定された場合には、車体の傾斜角が設定値未満であるとしてこの処理を終了する。
【0038】
ステップ102で車体検出器3の出力Aが設定値以上であると判定されたときには、車体の傾斜角が設定値以上であるとして、ステップ103に進み、現在のサスペンション変位センサの出力レベルBを読み込む。
【0039】
次いで、ステップ104で、前回読み込まれたサスペンション変位センサの出力レベルB′と今回読み込んだサスペンション変位センサの出力レベルBとを比較して、サスペンション変位センサのレベル変化B−B′を算出し、ステップ105で、レベル変化B−B′が正の値を有する設定値以上であるか否かを判定する。なおここでは、ショックアブソーバが伸長したときにサスペンション変位センサの出力信号のレベルが増大するものとしている。
【0040】
この判定の結果、レベル変化B−B′が設定値未満である場合(負である場合を含む)には、以後何もしないでこの処理を終了する。ステップ105でレベル変化B−B′が設定値以上であると判定されたときには、ステップ106に進んで後輪のトラクションが喪失するおそれがあると判定し、エンジンの出力調整部にエンジン出力抑制指令を与えてこの処理を終了する。
【0041】
図3に示したアルゴリズムによる場合には、ステップ101ないし106により、車体傾斜角検出器2の出力から車体の傾斜角が設定値以上であることが検出され、かつサスペンション変位センサ3の出力からショックアブソーバが設定値以上の伸びを示したことが検出されたときに後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定するスリップ判定部401が構成される。
【0042】
エンジン出力調整部402としては、種々の構成を有するものを用いることができる。図2はエンジン出力調整部402の構成例を示したもので、この例では、エンジンの回転速度を検出する回転速度検出部402Aと、エンジンの吸入空気量を調節するスロットルバルブの開度(スロットル開度という。)を検出するスロットル開度検出部402Bと、エンジン出力抑制指令が与えられたときに、回転速度検出部402Aにより検出されたエンジンの回転速度とスロットル開度検出部402Bにより検出されたスロットル開度とに応じてエンジンの出力を低下させるように点火時期を制御する点火時期制御部402Cとによりエンジン出力調整部402が構成されている。点火時期制御部402Cは例えば、エンジン出力抑制指令が与えられたときに、エンジンの回転速度とスロットル開度とに対して点火時期の遅角量を演算して、演算された遅角量だけエンジンの点火時期を遅角させるように構成することができる。
【0043】
図4は、エンジン出力調整部402の他の構成例を示したものである。この例では、エンジンの回転速度を検出する回転速度検出部402Aと、エンジンの吸入空気量を調節するスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度検出部402Bと、エンジン出力抑制指令が与えられたときに、回転速度検出部402Aにより検出されたエンジンの回転速度とスロットル開度検出部402Bにより検出されたスロットル開度とに応じて、エンジンの出力を低下させるように、エンジンに燃料を供給する燃料噴射装置を制御する燃料噴射制御部402Dとによりエンジン出力調整部402が構成されている。
【0044】
この場合、燃料噴射制御部402Dは、エンジン出力抑制指令が与えられたときに、エンジンの回転速度とスロットル開度とに対して演算した角度だけ、燃料噴射装置の燃料噴射時期をエンジンの出力を低下させる方向にシフトさせることによりエンジンの出力を低下させるように構成してもよく、エンジン出力抑制指令が与えられたときに、エンジンの回転速度とスロットル開度とに対して演算した量だけ、燃料噴射装置の燃料噴射量を減少させることによりエンジンの出力を低下させるように構成してもよい。
【0045】
図5は、エンジン出力調整部402の更に他の構成例を示したものである。この例では、回転速度検出部402Aと、スロットル開度検出部402Bと、エンジン出力抑制指令が与えられたときに、回転速度検出部402Aにより検出されたエンジンの回転速度とスロットル開度検出部402Bにより検出されたスロットル開度とに対して演算した角度だけ、エンジンの吸入空気量を調節するスロットルバルブに対して並列に設けられた吸気バイパスバルブの開度をエンジンの出力を低下させる方向に変化させるように吸気バイパスバルブを制御する吸気バイパスバルブ制御部402Eとにより、エンジン出力調整部402が構成されている。
【0046】
図6は、エンジンが電子制御スロットルを備えている場合に好適なエンジン出力調整部402の構成例を示している。この例では、エンジンの回転速度を検出する回転速度検出部402Aと、電子制御スロットルのスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度検出部402Bと、エンジン出力抑制指令が与えられたときに、回転速度検出部402Aにより検出されたエンジンの回転速度とスロットル開度検出部402Bにより検出されたスロットル開度とに対して演算した角度だけ電子制御スロットルのバルブ開度を絞ることにより、エンジンの出力を低下させるように電子制御スロットルを制御する電子制御スロットル制御部402Fとにより、エンジン出力調整部402が構成されている。
【0047】
上記のように、車体の傾斜角を検出する車体傾斜角検出器の出力から車体の傾斜角が設定値以上であることが検出されている状態で、サスペンション変位センサの出力からリアサスペンションのショックアブソーバが設定値以上の伸びを示したことが検出されたときにトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定するようにすると、カーブ走行時に(車体の傾斜角が設定値以上であるときに)、サスペンション変位センサの出力信号のみから後輪のトラクションが喪失するおそれがあることを検出することができる。そのため、後輪のトラクションが喪失するおそれがあるときに、それを瞬時に検出して、エンジンの出力を低下させて後輪のトラクションを回復させる措置を迅速に講じることができ、転倒を防止する効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン
2 車体傾斜角検出器
3 サスペンション変位センサ
4 ECU
401 スリップ判定部
402 エンジン出力調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪がそれぞれフロントサスペンション及びリアサスペンションを介して支持された車体と、前記後輪を駆動するエンジンとを備えた自動二輪車のトラクションを制御する自動二輪車用トラクション制御装置であって、
前記車体の傾斜角を検出する車体傾斜角検出器と、
前記リアサスペンションの変位を検出して該リアサスペンションのショックアブソーバの変位と一定の関係を有する電気信号を出力するサスペンション変位センサと、
前記車体傾斜角検出器の出力から車体の傾斜角が設定値以上であることが検出され、かつ前記サスペンション変位センサの出力からリアサスペンションのショックアブソーバが設定値以上の伸びを示したことが検出されたときに後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定するスリップ判定部と、
前記スリップ判定部により後輪にトラクションの喪失を招くスリップが生じたと判定されたときにエンジンの出力を低下させるようにエンジンの出力を調整するエンジン出力調整部と、
を具備してなる自動二輪車用トラクション制御装置。
【請求項2】
前記エンジン出力調整部は、前記エンジンの点火を制御することにより前記エンジンの出力を調整するように構成されている請求項1に記載の自動二輪車用トラクション制御装置。
【請求項3】
前記エンジン出力調整部は、前記エンジンに燃料を供給する燃料噴射装置の燃料噴射量を制御することにより前記エンジンの出力を調整するように構成されている請求項1に記載の自動二輪車用トラクション制御装置。
【請求項4】
前記エンジン出力調整部は、前記エンジンに燃料を供給する燃料噴射装置の燃料噴射時期を制御することにより前記エンジンの出力を調整するように構成されている請求項1に記載の自動二輪車用トラクション制御装置。
【請求項5】
前記エンジン出力調整部は、前記エンジンの吸入空気量を調節する電動スロットルのバルブ開度を調節することにより前記エンジンの出力を調整するように構成されている請求項1に記載の自動二輪車用トラクション制御装置。
【請求項6】
前記エンジン出力調整部は、前記エンジンの吸入空気量を調節するスロットルバルブに対して並列に設けられたバイパスバルブの開度を調節することにより前記エンジンの出力を調整するように構成されている請求項1に記載の自動二輪車用トラクション制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−179397(P2011−179397A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44152(P2010−44152)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】