説明

自動分析装置

【課題】自動分析装置を用いて、血球成分の溶血を行い、上記溶血後の試料を用いて血球成分の濃度を測定する場合において、溶血に失敗した試料を自動検出することにより、誤った測定結果の報告を防止し、異常試料に対する無駄な試薬の消費を抑え、報告遅延の防止はかることともに、データ信頼性を確保することにある。
【解決手段】反応容器に血液試料を供給する血液試料供給機構と、該反応容器に溶血処理液を供給する前処理液供給機構と、該反応容器中の血液試料と溶血処理液の混合液の吸光度を測定する吸光度測定機構と、該吸光度測定機構により測定された吸光度に基づいて血液試料の溶血処理が成功したか否かを判定する判定機構と、を備えた自動分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿などの多成分を含む試料中の目的成分の濃度又は活性値を測定する自動分析装置、特に、複数個の反応容器を順次移送しながら、各反応容器に試料および試薬を順次分注し、その反応容器の中の反応液を分光光度計にて所定の時間間隔で吸光度を測光する自動化学分析装置に関するものである。このような自動分析装置はその他の試料の化学分析一般にも利用される。
【背景技術】
【0002】
ヘモグロビンA1c(以下、HbA1cと略記する)は、糖尿病の診断マーカとして使用されており、試料と試薬が混合された反応液を反応容器兼測光セルに収容して吸光度測定法により試料中の目的成分を定量する自動化学分析装置(反応容器直接測光型自動分析装置)で測定される。自動分析装置では、被験者から採取した検体(血液)の血球成分、例えば検体を遠心分離して沈降した血球部分からノズルにて一定量反応容器へ分注した後で、試薬、例えば、前処理液にて検体の血球成分を溶血させ、溶血させた検体を試料として当該反応容器から一定量を別の反応容器へ分注し、試薬と溶血試料を反応させて吸光度から求めたヘモグロビン(以下、Hbと略する)の濃度およびHbA1cの濃度から、Hbに占めるHbA1cの割合(%)を求めることにより診断している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、検体を溶血させるために一定量の血球成分を反応容器に分注し、前処理液にて溶血させるが、血球成分が、例えば、検体を遠心分離してから長時間が経過し血球の粘性が高まったことにより、所定時間内にうまく溶血できなかった場合は、Hb濃度が必要量含まれておらず、感度不足により、HbA1c(%)の測定を失敗することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3763212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血球成分、例えば遠心分離後の血球部分の粘性は、検体毎あるいは採血管の種類(例えばメーカ毎、あるいはNaF入り,EDTA入りなど)により異なるが、一般的に遠心後の放置時間が長くなるほど高くなる傾向にある。したがって、放置時間が長く粘性が高くなった血球部分をノズルにて反応容器へ分注後、前処理液にて溶血処理を行うときに、所定時間内に溶血が完了しないうちに、次のステップである溶血済み試料として別の反応容器へ分注されることがある。この状態でHb濃度およびHbA1c濃度の測定が行われると結果的にHbA1c(%)測定が正しくできない。こうして、誤った測定結果が出力されることから、再検査する必要が発生し、結果的に無駄な試薬を消費することとなる。また再検査にあたっては、このような粘性の非常に高い検体に対しては、上記のように自動分析装置を使った試料溶血機能では溶血できないため、前処理として測定者のマニュアル操作による試料の溶血処理後、自動分析装置にてHbA1c(%)を測定することになる。よって、早い段階で溶血試料が異常であることを測定者に対し知らせることができれば、再検査処理を早い段階で対応できるので報告遅延を防止することができる。
【0006】
またその他の問題点として、粘性が非常に高い検体は前処理液では溶血されずに反応容器に付着したままとなり、その後自動的に行われる反応容器洗浄では付着した血球を落としきれずに、反応容器に残った血球が次項目の測定値に悪影響を及ぼすこともあった。
【0007】
そこで本発明の目的は、自動分析装置を用いて、血球の溶血を行い、溶血後の試料を用いてHb濃度やHbA1c濃度など血球成分の濃度を測定する場合において、試料の溶血処理が失敗していると思われる試料を装置が自動判別することで、データの信頼性向上を図ることが可能な自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
自動分析装置を用いて試料の溶血処理を行う際には、一定量の血球を検体からノズルで反応容器へ分注し、その後試薬、例えば前処理液などを分注させ血球の溶血処理をしている。従来の自動分析装置では、この間の溶血中の検体は、Hb濃度およびHbA1c濃度などを測定するための前処理段階であるため濃度測定をする必要がなく、測光機能を有している反応容器中にて溶血が行われているが吸光度の測光は実施していなかった。そこで、本発明では上記一定量の血球を検体からノズルで反応容器へ分注し、前処理液などにて血球を溶血させた後、次のステップであるHb濃度やHbA1c濃度などを測定するために、当該反応容器からノズルにて溶血済み試料として別の反応容器へ分注されるまでの時間と反応液の測光機能を利用して、溶血中である反応容器中の血球と前処理液などの混合液の吸光度をモニタリングしておき、吸光度の測光値が安定しており、かつ必要以上の吸光度が得られているならば溶血が成功していると判定しそのままHb濃度やHbA1c濃度などの測定を続行させる。逆に吸光度の測光値がばらついていたり、必要以上の吸光度が得られていなければ溶血不十分と判定して、当該検体のHb濃度やHbA1c濃度などの測定を中止させる。そのとき、測定者に当該検体の溶血が不十分である旨を知らすアラームを発生させる。これにより、Hb濃度やHbA1c濃度などの測定が正しく行えない検体に対しては、測定を実施しないため、誤った測定結果を報告することがなくなり、また再検査のために使用される無駄な試薬の消費も抑えることができる。また、Hb濃度やHbA1c濃度などの測定をする前の検体溶血段階で失敗を知らせるアラームを出力することで、測定者は当該検体の再検査依頼や検体の状況チェックなどの対応処理を早い段階で実施できるため報告遅延を防止することもできる。さらに、溶血に失敗した検体に使用された反応容器もわかるので、この反応容器は血球が付着して、通常の洗浄では汚れを落とせないリスクがあるため、血球除去を目的に、自動的に念入りな洗浄を実施することも可能となり、データの信頼性を確保することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動分析装置の測光機能を有する反応容器を利用して、血球の溶血を自動的に行い、溶血試料のHb濃度測定やHbA1c濃度測定によりHbA1c(%)を求めるなど血球成分を測定する項目に対して、測定が失敗となる検体を溶血段階で判定することができるため、誤った測定結果を報告することがなくなり、再検査に使用してしまう無駄な試薬の消費を抑えることもできる。また失敗した時点でアラームを発生させることで、測定者は早い段階で検体対応処理ができるため報告遅延防止をはかることもでき、また溶血を失敗した検体を使用した反応容器が特定できるため、当該反応容器に対してのみ念入りに洗浄させることで、より信頼性の高い自動分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係わる自動分析装置の構成の例を示した図である。
【図2】本発明の実施形態に係わる制御コンピュータの機能ブロックの構成の例を示した図である。
【図3】本発明の実施形態に係わる血球分注から血球成分濃度測定までにおける動作シーケンスの流れの例を示した図である。
【図4】本発明の実施形態に係わる制御コンピュータにおける溶血異常チェック設定画面の例を示した図である。
【図5】検体溶血中に測光した試料別吸光度データの例をグラフで示した図である。
【図6】図5における吸光度データから求めた吸光度データ変化率の例をグラフで示した図である。
【図7】本発明の実施形態に係わる制御コンピュータにおける、血球成分を自動分析装置にて溶血させ、溶血試料として測定する項目における、溶血異常を検出する処理の流れの例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、適宜、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る自動分析装置の構成の例を示した図である。図1に示すように、自動分析装置1は、分析装置5と制御コンピュータ6とによって構成される。なお、図1における分析装置5は、その上面図を模式的に描いたものである。
【0013】
図1において、分析装置5の筐体上には、反応容器35が円周上に載置された反応ディスク36が配置され、また、その反応ディスク36の内側に試薬ディスク42が、外側に試薬ディスク41が配置されている。そして、その試薬ディスク41,42には、それぞれ複数の試薬容器40が円周上に載置されている。ここでは、1つの試薬容器40は、2つに区画され、通常、それぞれ異なる試薬が入れられる。
【0014】
反応ディスク36の近傍には、サンプル容器10を載置し、ラック11を移動する搬送機構12が設けられている。また、試薬ディスク41,42の上方部には、レール25,26が設けられ、レール25には、レールと平行な方向および上下方向に移動可能な試薬プローブ20,21が架設され、レール26には、レールと3軸方向に移動可能な試薬プローブ22,23が架設されている。試薬プローブ20,21,22,23は、それぞれ図示されていない試薬用ポンプが接続されている。
【0015】
反応容器35と搬送機構12との間には、回転および上下動可能なサンプルプローブ15,16が設置されている。サンプルプローブ15,16には、それぞれ図示されていないサンプル用ポンプが接続されている。また、反応ディスク36の周囲には、攪拌装置30,31,光源50,測光装置51,容器洗浄機構45が配置されている。容器洗浄機構45には、図示されていない洗浄用ポンプが接続されている。サンプルプローブ15,16,試薬プローブ20,21,22,23、および、攪拌装置30,31のそれぞれの動作範囲には、洗浄ポート54が設置されている。
【0016】
次に、分析装置5の動作について説明する。ここでは、2試薬系の分析法(2種類の試薬を、時間差を設けて検体に分注して反応させる分析法)に従った分析を行うときの動作を説明する。
【0017】
まず、血液などの検査対象の試料が入れられたサンプル容器10は、ラック11に載せられて搬送機構12によってサンプルプローブ15,16の近くまで搬送される。次に、サンプルプローブ15,16は、サンプル容器10から試料を採取し、所定の量を反応ディスク36に並べられている反応容器35に分注する。
【0018】
続いて、試薬プローブ20,21は、試薬ディスク41または42に載置された試薬容器40から、所定量の第1の試薬を採取し、反応容器35に分注する。攪拌装置30,31は、適宜、反応容器35の試料と試薬とを攪拌する。その後、所定の時間経過後に、試薬プローブ22または23は、反応容器35に試薬ディスク41または42に載置された試薬容器40から所定量の第2の試薬を採取し、反応容器35に分注する。攪拌装置30,31は、適宜、反応容器35の試料と試薬とを攪拌する。
【0019】
さらに、所定の時間経過後に、測光装置51は、光源50が発する光を、反応容器35を通して測定することにより、試薬に反応した試料の吸光度などの測定データを取得し、その取得した測定データを、制御コンピュータ6へ出力する。
【0020】
以上のような分析装置5において、反応ディスク36は、所定時間ごとに(例えば、10秒ごとに)1回転+1反応容器分の回転動作と停止動作とを繰り返す。従って、その動作の繰り返しの中で、反応容器35は、停止するたびに1反応容器分ずつ、例えば、反時計回りに回転移動する。そして、反応ディスク36が停止しているときに、試料や試薬がそれぞれ所定の位置にある反応容器35に分注され、また、他の位置にある反応容器35が洗浄されたり、その中の試料が攪拌されたりする。
【0021】
また、反応ディスク36が1回転+1反応容器分の回転動作をするとき、すべての反応容器35は、光源50と測光装置51の間を横切る。従って、測光装置51は、所定時間ごとに(例えば、10秒ごとに)、すべての反応容器35内の試薬が分注された試料について、その吸光度などの測定データを取得することができる。図1に示していないが、測光に際しては、反応容器の数に応じた検知板を有する反応容器位置検知手段により、各々の反応容器の位置を検知しながらタイミングを合わせて測光する。
【0022】
図2は、本発明の実施形態に係る自動分析装置の制御コンピュータの機能ブロックの構成の例を示した図である。図2に示すように、制御コンピュータ6は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、記憶装置などからなる情報処理装置60と、キーボード,マウスなどからなる入力装置80と、LCD(Liquid Crystal Display)などからなる表示装置90と、を含んで構成される。また、情報処理装置60は、測定データ取得部61,吸光度データ変化率算出部62,分析データ算出部63,分析データ表示部64,吸光度データ変化率許容範囲設定部65,異常測定データ検出部66などの処理機能ブロックと、測定データ記憶部71,吸光度データ変化率記憶部72,分析データ記憶部73,吸光度データ変化率許容範囲記憶部74、などの記憶機能ブロックとを含んで構成される。ただし、これらの機能ブロックは、本実施形態にかかる機能ブロックであり、情報処理装置60は、このほかにも分析装置の動作制御などに係る他の多数の機能ブロックを有するが、それらの機能ブロックの説明は、省略する。
【0023】
以下、図2を参照して、制御コンピュータ6を構成する機能ブロックそれぞれの機能について説明する。
【0024】
測定データ取得部61は、分析装置5の測光装置51などによって所定の時間間隔(例えば、10秒)で測定された吸光度などの測定データを取得し、その取得した測定データを測定データ記憶部71に格納する。測定データ記憶部71では、測定データは、反応容器35、つまり、試薬が分注された試料ごとに、所定の時間間隔ごとの時系列のデータとして測定データ記憶部71に保管される。本明細書では、その時系列の測定データを
m(i)(i=1,2,…,n)
と表す。ここで、iは、時系列のデータの順番を表す数で、m(i)は、時刻t(i)に取得された測定データである。
【0025】
吸光度データ変化率算出部62は、前記時系列の測定データm(i)の単位時間当たりの変化率(測定データ変化率)を算出し、その算出した吸光度データ変化率を吸光度データ変化率記憶部72に格納する。ここで、測定データ変化率v(i)は、次の式(1)によって算出することができる。
【0026】
v(i)={m(i+1)−m(i)}/{t(i+1)−t(i)} 式(1)
ただし、i=1,2,…,n−1
【0027】
すなわち、吸光度データ変化率v(i)は、測定データm(i)を微分したものに相当する。
【0028】
また、通常、測定データ取得の時間間隔は、iの値にかかわらず同じなので、式(1)
において、その時間間隔を単位時間とすれば、t(i+1)−t(i)=1とすることができ
る。その場合には、測定データ変化率v(i)は、次の式(2)によって算出することが
できる。
【0029】
v(i)=m(i+1)−m(i) 式(2)
ただし、i=1,2,…,n−1
分析データ算出部63は、測定データ記憶部71に記憶された測定データに基づき、その測定データが取得された試料の分析項目に応じて所定の演算を行い、その試料に対する分析データを算出する。そして、その算出した分析データを分析データ記憶部73へ格納する。
【0030】
吸光度データ変化率許容範囲設定部65は、入力装置80から入力される測定データ変化率の上限値と下限値とを読み取って、その読み取った吸光度データ変化率の上限値と下限値とを吸光度データ変化率許容範囲記憶部74に格納する。
【0031】
異常測定データ検出部66は、後記するように、Hb濃度やHbA1c濃度測定項目など、検体の血球成分を自動分析装置1を用いて溶血させ、溶血検体を試料として測定する分析において、反応容器35中の溶血工程中のそれぞれの試料の一連の時系列の吸光度データごとに、その吸光度データ変化率が、吸光度データ変化率許容範囲記憶部74に記憶されている上限値と下限値との範囲内に含まれているか否かを判定し、その上限値と下限値との範囲内に含まれていなかったときには、その吸光度データを異常吸光度データとして検出する。
【0032】
分析データ表示部64は、異常吸光度データ検出部66によって異常吸光度データが検出されたときには、その溶血工程中の試料に対して、異常吸光度データが検出された旨を示すアラームを付して表示する。
【0033】
なお、以上に説明した情報処理装置60の各処理機能ブロックの機能は、情報処理装置60の図示しないCPUが図示しない記憶装置に格納された所定のプログラムを実行することによって実現される。また、情報処理装置60の各記憶機能ブロックは、記憶装置上に構成されたテーブルやファイルによって実現される。
【0034】
図3は、本発明の実施例に係わる自動分析装置における血球試料の溶血処理の流れを示している。最初に採血後の採血管を遠心分離により、血漿部分と血球部分に分離したのち、ラック11にサンプル容器10として採血管をセットし、サンプルプローブ15,16にて採血管底の血球部分から血球を反応容器35に分注する。つづいて、試薬ディスク41あるいは42上に、試薬容器40に充填された前処理液をセットしておき、試薬プローブ20,21あるいは22,23にて前記血球分注済み反応容器35に分注後、攪拌装置30,31にて攪拌させ、均一に溶血が進行するようにする。所定時間経過後、例えば攪拌後90秒後にサンプルプローブ15,16にて溶血検体が入った反応容器35から別の反応容器35へ溶血済み試料を分注する。その後試薬容器35,40に入ったHb測定用試薬やHbA1c測定用試薬を試薬プローブ20,21あるいは22,23にて分注後、攪拌装置30,31にて攪拌させ、反応液を測光装置51により測光することにより濃度を求める。
【0035】
ここで、採血管底から分注した血球が、例えば遠心分離後数日経過した検体であったり、または薬剤などの影響により血球部分の粘性が高い状態の検体の場合、容易に溶血しない状態となる。このような性状の血球を前処理液分注後、攪拌装置30,31にて攪拌しても、一定時間内に溶血が完了せず、図3に示すように、溶血が不均一であったり、溶血不足の状態のまま、次のステップである、溶血済み検体として別の反応容器へ溶血試料を分注する工程へと進む。その結果、Hb濃度測定やHbA1c濃度測定などが正しく測定できないことがあった。
【0036】
そこで、本発明では血球と前処理液とを攪拌する溶血処理のスタートから終了までを通して、反応容器中の溶血液の吸光度を測光し、溶血の成否を判定し、溶血失敗時には、溶血試料を使用する項目であるHb試薬やHbA1c試薬の試薬分注を中止して、無駄な試薬の消費を防ぐこと、および同時にアラームから溶血失敗を知ることができるので、測定者は再検査依頼や異常検体の処理対応を溶血の終了時点の早い段階で対応できるため、臨床への報告遅延を防止することもできる。
【0037】
なお図3の本例では、遠心分離後の採血管底にある血球部分の分注について説明しているが、採血管の前処理動作として遠心分離を実施しないで、全血検体をそのままラック11にセットし、サンプルプローブ15,16にて分注して、溶血動作をさせることもある。
【0038】
図4は、本発明の溶血中試料の吸光度が異常であるかどうかの閾値を設定するための画面である。後述するが、溶血試料の吸光度のばらつきを確認することを目的に、チェックする測光開始ポイントと終了ポイントを設定し、算出した吸光度データ変化率チェック値が、設定した変化率チェック値の上限値と下限値の範囲以内であるかを判別し、範囲外であった場合は、溶血失敗とみなし、Hb試薬やHbA1c試薬など本溶血試料を使って測定する該当試薬の分注を中止し、溶血失敗の旨を知らせるアラームを出力する。また、アラームだけを発生させることができるように、アラーム発生レベルの設定もある。これは溶血の成否が微妙なグレーゾーン時のときは、上記該当試薬を分注し測定は実行するが、測定結果にはグレーゾーン溶血試料であったことを知らせるアラームを出力させるためであり、アラーム発生レベルの上限値と下限値の範囲を超えた場合には、測定結果にグレーゾーン試料であった旨を知らせるアラームを発生させる。
【0039】
また、図3に示した溶血失敗例の溶血不足試料の場合には、血球の粘性が高く、一定時間内に前処理液にて血球全量を溶かしきれず、溶液は均一には溶血しているが溶血試料が薄いために、試薬感度不足によりHb濃度やHbA1c濃度を測定することができなくなる。よって上記試薬の感度を確保するために、溶血試料の最低濃度を溶血試料の吸光度から定性的に推測できることを利用して、図4に示す溶血吸光度の感度チェック値をあらかじめ設定しておくことで、溶血吸光度の値が設定値以下の場合は、感度不足によりHb濃度やHbA1c濃度は測定できないと判断し、自動的に試薬の分注を中止し、溶血失敗の旨を知らせるアラームを出力する。
【0040】
本実施例では、図4に示す溶血異常チェック設定画面にて自由に条件を設定できる例を示したが、あらかじめ装置側で条件を作り込んでおき、自動的に溶血不足を判断しても良い。
【0041】
図5は、実際に溶血中試料の吸光度を、溶血試料の吸収がある主波長600nm/副波長660nmの2波長差測光したときの吸光度データの例を示す。横軸が一定間隔で測光したときのそれぞれの測光ポイントであり、縦軸はそのとき測光したときの吸光度となる。図4で設定した溶血吸光度の変化率チェックの演算開始ポイントは2、終了ポイントは6であるから、2〜6ポイント目までの5ポイントを使って、溶血異常のチェックを行う。図5の例では、溶血が正常に行われている場合は吸光度がほぼ一定の割合で変化しているのに対し、溶血がうまくいっていない検体では、特に2ポイントと4ポイントとの間に吸光度のギャップが生じている。この吸光度のギャップを異常として認識する必要がある。また、溶血吸光度の感度チェック値は6ポイント目で16000であることから、図5の2例では、どちらも16000以上の吸光度を確保しているので感度は確保されていることになるため、測定は実行される。なお、図5の例では、測定波長は主波長600nm/副波長660nmの2波長固定としたが、測定波長を自由に選択できるようにしても良いし、単波長による測光も選択できるようにしてもよい。
【0042】
つづいて、図5に示す溶血検体の吸光度データから溶血の成否を判断するための一連の処理を図7に示すフローチャートに従い説明する。まず自動分析装置を利用して血球検体を溶血させ、溶血済み試料を使って測定する項目かどうかを識別する。例えばHbA1c(%)を求める項目かを判別する(ステップS701)。HbA1c(%)を求める項目であれば図5に示す血球検体溶血中の吸光度データm(i)を取得する(ステップS702)。ここで変数iは測光ポイントを表す。測光された吸光度データが所定の範囲内の値であるか否かを判定する(ステップ703)。つまり、図4の溶血吸光度の感度チェックで設定した測光ポイントiにおける設定値以上であるか否かを判定する。その結果、設定値以上であったときには(ステップ703でYes)、溶血感度に異常はなかったものとして、次の処理のステップ704へ進む。一方設定値未満であったときには(ステップ703でNo)、溶血工程に何らかの異常があったものとして、当該溶血試料を使って測定をする上記HbA1c(%)測定項目試薬の分注を中止し(ステップ706)、溶血検体が異常であったために上記HbA1c(%)項目の測定を中止した旨を知らせるアラームを出力する(ステップ707)。
【0043】
ステップ703でYesと判定された後は、取得した吸光度データm(i)の吸光度データ変化率v(i)を求める(ステップS704)。吸光度データ変化率v(i)の求め方は、例えば先に述べた式(1)により求めることができる。図6は、図5の溶血中試料の吸光度データについて式(1)を使い算出した吸光度データ変化率のグラフを示した図である。図5の吸光度データのように、ギャップなどが生じたりすると、図6のように異常に大きい値の吸光度変化率が現れる。そこで、情報処理装置60は、このような吸光度変化率の異常値を検出して、溶血状況の異常と判定する。本発明において、吸光度変化率が異常かどうかの検出は、算出された吸光度変化率が、図4の溶血吸光度の変化率チェックで設定した上限値と下限値の範囲内含まれているか否かで判定する。ここで、ステップ703で算出した吸光度変化率を演算開始ポイントの値で規格化して判定しやすくしても良い。規格化するとは、ステップ704で算出した各測光ポイントの吸光度変化率の値から、演算開始ポイントの吸光度変化率の値を差し引いたりすることである。この場合、規格化した吸光度変化率の値は、ほぼ“0”となるので、上限値および下限値の設定がしやすくなる。なお、規格化に際しては、他の測光ポイントの吸光度変化率の値により規格化してもよい。さらには、当該演算ポイント区間における吸光度変化率の平均値を求めた上で、その平均値により吸光度変化率を規格化してもよい。
【0044】
続いて、図7において、吸光度変化率が所定の範囲内の値かどうかを判定する。つまり、吸光度変化率が図4の溶血吸光度の変化率チェック画面で設定した上限値と下限値の範囲内含まれているか否かを判定する。その結果、その範囲に含まれていたときは(ステップS705でNo)、溶血検体に異常はなかったものとして、当該溶血試料を使って測定をする上記HbA1c(%)項目の測定を実施する。一方、設定範囲に含まれていなかったときは(ステップS705でYes)、溶血工程に何らかの異常があったものとして、当該溶血試料を使って測定をする上記HbA1c(%)測定項目試薬の分注を中止し(ステップ706)、溶血検体が異常であったために上記HbA1c項目の測定を中止した旨を知らせるアラームを出力する(ステップ707)。図6の異常溶血検体の吸光度変化率は、図4で設定した溶血吸光度の変化率チェック値の上限値:3000〜下限値:−3000に対して上限値である3000を超えているため、ステップS705でYesと判断され、HbA1c(%)測定が中止されアラームが出力されることとなる。
【0045】
また、ステップS705でNoと判定された次のステップとして、図4に示すアラーム発生レベルで設定した上限値と下限値の範囲に含まれているか否かを判定する(ステップS709)。これは、溶血検体の吸光度変化率が、当該溶血試料のHbA1c(%)測定を中止するまで異常ではないが、測定者に対し溶血試料の異常がグレーゾーンであった旨を知らせるために、上記HbA1c(%)測定結果(ステップS711)に併記するかたちで、アラームを出力させる(ステップS710)ための機能である。
【0046】
最後に本発明では、ステップS708として、溶血検体の溶血状態が異常と判断された当該反応容器は、血球成分の粘性が高く反応容器内面にこびり付いてしまうリスクが高く、通常の反応容器自動洗浄では血球成分を除去できないので、次に当該反応容器を使用して測定する結果に悪影響を及ぼす恐れがあるため、特殊洗浄を実施して血球成分を除去する。これによりデータ信頼性向上を図ることも可能となる。
【0047】
また、本例のステップS708の特殊洗浄は、装置側が強制的に自動洗浄するが、例えば図4に示す設定画面上に特殊洗浄実施有無や条件、洗剤の種類などを設定できるようにしても良い。
【符号の説明】
【0048】
1 自動分析装置
5 分析装置
6 制御コンピュータ
10 サンプル容器
11 ラック
12 搬送機構
15,16 サンプルプローブ
20,21,22,23 試薬プローブ
25,26 レール
30,31 攪拌装置
35 反応容器
36 反応ディスク
40 試薬容器
41,42 試薬ディスク
45 容器洗浄機構
50 光源
51 測光装置
54 洗浄ポート
60 情報処理装置
61 測定データ取得部
62 吸光度データ変化率算出部
63 分析データ算出部
64 分析データ表示部
65 吸光度データ変化率許容範囲設定部
66 異常吸光度データ検出部
71 測定データ記憶部
72 吸光度データ変化率記憶部
73 分析データ記憶部
74 吸光度データ変化率許容範囲記憶部
80 入力装置
90 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器に血液試料を供給する血液試料供給機構と、
該反応容器に溶血処理液を供給する前処理液供給機構と、
該反応容器中の血液試料と溶血処理液の混合液の吸光度を測定する吸光度測定機構と、
該吸光度測定機構により測定された吸光度に基づいて血液試料の溶血処理が成功したか否かを判定する判定機構と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記判定機構は、時間あたりの吸光度変化に基づいて判定することを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記判定機構は、主波長600nm/副波長660nmの2波長差測光にて算出した溶血中試料の時間あたりの吸光度変化量情報に基づいて求めたチェック値が、溶血を失敗したかを判定するための閾値である下限値−3000,上限値3000の範囲以内であり、かつ溶血処理終了時点での溶血中試料の吸光度値が、溶血中試料の最小吸光度レベルをチェックする閾値である1.0Abs.以上であれば、試料の溶血が成功であると判定することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記判定機構が、試料の溶血が失敗と判定した場合は、当該溶血試料を使った測定項目は自動的に分注せず測定を中止するように制御する制御機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記判定機構が、試料の溶血が失敗と判定した場合は、前記溶血試料を使った測定項目に対して、溶血状況が異常であったことを知らせる手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項2記載の自動分析装置において、
前記判定機構は前記血液試料の溶血処理が成功したか否かを判定するための溶血試料の時間あたりの吸光度変化の閾値を設定する設定機構を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記判定機構が血液試料の溶血処理が失敗したと判定した血液試料が入っていた反応容器に対して、自動的に特殊な洗浄を実施する手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−149832(P2011−149832A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11565(P2010−11565)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】