説明

自動変速機におけるエア分離構造

【課題】連通管を流れるオイル内のエアを取り除いて、変速機構に供給されないようにする。
【解決手段】トルクコンバータ11と変速機構21とが切り離して設けられており、エンジン駆動されるオイルポンプ12が、トルクコンバータ11側に設けられて、変速機構21側のオイルパン24から、連通管14を介してオイルを吸引する自動変速機1において、オイルポンプ12とオイルパン24との間の連通管14の途中に設けられて、エアとオイルとを分離する分離室30と、分離室30内のエアを排出させる電動ポンプ60と、電動ポンプ60を制御する制御手段40と、を設け、制御手段40が、エンジンを起動させるパワースイッチ42がオン位置であって、エンジン回転数Neが、連通管14内にエアのかたまりが滞留できないオイルの流速を実現するエンジン回転数を規定した閾値回転数Nth以下である間、電動ポンプ60を稼働させる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータと変速機構とが切り離されて別々に設けられた自動変速機におけるエア分離構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機のトルクコンバータと変速機構とが切り離されて、トルクコンバータがエンジンと共に車両前部に、変速機構が差動装置と共に車両後部に設けられて、トルクコンバータから変速機構への動力の伝達を、トルクコンバータと変速機構とを繋ぐプロペラシャフトを介して行うようにした自動変速機が、特許文献1に開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示された自動変速機では、トルクコンバータ側に設けられたオイルポンプが、変速機構側にあるオイルパン内のオイルを、連通管を介して吸引し、吸引したオイルを加圧した後に、別の連通管を介して、変速機構の締結要素に作動オイルとして供給するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−88795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この自動変速機では、オイルポンプとオイルパンとが離れて位置しているため、オイルパンから吸引したオイルをオイルポンプに供給するための連通管の長さが長くなっており、さらに連通管の途中には複数の曲がり部分が存在している。
そのため、連通管内を流れるオイルに含まれている微細な気泡(エア)が、オイルポンプに向けて連通管内を流れている間に徐々に集まって大きなエアのかたまりを形成し、連通管の曲がり部分や上部に滞留することがある。
【0006】
この連通管内で滞留したエアのかたまりは、連通管内を流れるオイルの流速が早くなると、オイルポンプ内に引き込まれることがある。このオイルポンプ内に引き込まれたエアのかたまりが変速機構の締結要素に供給されると、例えば締結油圧が確保されなくなって、ショックを発生することがあった。
【0007】
自動変速機では、エアブリーザを用いたエア抜きが、一般的に行われているので、このエアブリーザを、連通管内に滞留したエアを除去するために用いることが考えられる。
しかし、オイルポンプの稼働時には、連通管内が僅かに負圧状態になっているため、連通管内の曲がり部分などに、大気圧よりも僅かに圧の低いエアのかたまりが滞留することがあり、このような圧の低いエアの場合には、エアブリーザを設けても外部に排出させることができなかった。
【0008】
よって、本発明は、連通管を流れるオイル内のエアを取り除いて、変速機構に供給されないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トルクコンバータと変速機構とが切り離して設けられており、エンジン駆動されるオイルポンプが、トルクコンバータ側に設けられて、変速機構側のオイルパンから、連通管を介してオイルを吸引する自動変速機において、オイルポンプとオイルパンとの間の連通管に設けられて、エアとオイルとを分離させる分離室と、分離室内のエアを排出させる排出ポンプと、排出ポンプを制御する制御手段と、を設け、制御手段は、エンジンを起動させるパワースイッチがオンであってエンジン回転数が閾値回転数以下の間、排出ポンプを稼働させる構成とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、連通管を流れるオイル内のエアのかたまりは、分離室内でオイルから分離され、エアのかたまりを含むオイルが、オイルポンプを経て変速機構に供給されないので、エアのかたまりに起因するショックの発生を好適に防止できる。
また、排出ポンプで分離室内のエアを排出するので、オイルから分離されて分離室内に集積されたエアは、大気圧よりも圧の低いエアであっても分離室から確実に排出されて、分離室内に留まることがない。
さらに、エンジン回転数が閾値回転数以下であるために、エンジン駆動されるオイルポンプが吸引したオイルの流速が遅く、連通管内にエアのかたまりが滞留しやすい間だけ、排出ポンプが稼働するので、大量のエアが連通管内に溜まることがなくなり、非常にコンパクトなポンプで対応ができ、さらに排出ポンプを効率良く稼働させつつ、エアを除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態にかかるエア分離構造を採用した自動変速機の概略構成図である。
【図2】連通管に設けられた分離室を説明する図である。
【図3】エンジン回転数と配管内を流れるオイルに含まれるエアの量との相関図である。
【図4】電動ポンプの制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明にかかる自動変速機におけるエア分離構造を、トルクコンバータと変速機構とが切り離されて別々に設けられた自動変速機1に採用した場合を例に挙げて説明する。
図1は、実施形態にかかるエア分離構造を採用した自動変速機1の概略構成図である。図2は、連通管14に設けられた分離室30を説明する図である。
【0013】
実施形態に係る自動変速機1は、エンジン2と共に車両前部に設けられたフロントユニット10と、図示しない差動装置と共に車両後部に設けられたリアユニット20とから構成され、フロントユニット10からリアユニット20への動力伝達が、フロントユニット10とリアユニット20とを接続する図示しないプロペラシャフトを介して行われるようになっている。
【0014】
フロントユニット10は、トルクコンバータ11と、エンジン駆動されるオイルポンプ12とを備えて構成され、これらはコンバータケーシング13内に収容されている。
【0015】
トルクコンバータ11は、エンジン2からの回転が入力されるポンプインペラと、これに対向配置されたタービンランナと、両者の間を循環するオイルの流れを制御するステータと、を備える。
このトルクコンバータ11では、ポンプインペラに入力された回転が、流体などを介してタービンランナに伝達されたのち、このタービンランナにプロペラシャフトを介して連結したリアユニット20の変速機構21に、回転が入力されるようになっている。
【0016】
オイルポンプ12は、連通管14を介してリアユニット20のコントロールバルブボディ23と連結しており、コントロールバルブボディ23には、図示しないオイルストレーナが付設されている。
オイルポンプ12は、オイルストレーナを介して、オイルパン24内のオイルを吸引し、吸引したオイルを加圧したのち、トルクコンバータ11に作動オイルとして供給すると共に、コントロールバルブボディ23に供給する。
コントロールバルブボディ23に供給されたオイルは、図示しないコントロールバルブにより圧力が調圧されたのち、変速機構21の所定の締結要素に供給される。
【0017】
リアユニット20は、変速機構21と、差動装置(図示せず)とを備えて構成される。
変速機構21は、フロントユニット10側から入力される回転を変速し、差動装置は、変速された回転を駆動輪(図示せず)に伝達する。
【0018】
変速機構21は、図示しないギヤおよび締結要素などから構成され、変速機ケース22内に収容されている。
変速機ケース22の下面には、コントロールバルブボディ23が固定されると共に、このコントロールバルブボディ23を覆うように、オイルパン24が設けられている。
【0019】
変速機ケース22の下部は開口しており、変速機構21の締結要素の潤滑や締結に用いられたオイルが、自重によりオイルパン24内に移動するようになっている。
コントロールバルブボディ23の下に付設されたオイルストレーナ(図示せず)の吸入口は、オイルパン24内に位置し、排出口は、コントロールバルブボディ23に連結された連通管14に連絡している。
【0020】
連通管14は、分離室30とコントロールバルブボディ23とを連通させる連通管14aと、分離室30とオイルポンプ12とを連通させる連通管14bと、から構成され、連通管14aと連通管14bとの間に、連通管14内を流れるオイルからエアのかたまりを分離するための分離室30が介在させて設けられている。
【0021】
図2の(a)は、分離室30の断面図であり、(b)は、(a)におけるA−A線断面図であり、(c)は、(a)におけるB−B線断面図である。
【0022】
分離室30は、上下端が封止された円筒形状を有しており、上端30aから下端30b側に所定距離オフセットした位置に連通管14aが連結され、下端30bの近傍に連通管14bが連結されている。
【0023】
図2の(b)に示すように、連通管14aおよび連通管14bは、分離室30の上方(軸方向)から見て、分離室30の外周が成す円の接線Tに平行な直線X上を、互いに反対方向に延びるように設けられている。
【0024】
連通管14aは、その中心を通る直線Xが、分離室30の中心Oを通る直径線Dに対して所定角度αで交差するように設けられている。
連通管14aを通って分離室30内に供給されるオイルが、円柱形状の分離室30内の空間Sに対して接線方向から流入するようにして、分離室30内に供給されたオイルが旋回流を形成するようにするためである。
【0025】
連通管14bは、分離室30と連通管14aとの接続位置よりも下端30b側の側面から、分離室30内に形成される旋回流の旋回方向における下流側に延出するように設けられている。分離室30内で旋回流を形成するオイルが、分離室30の内周面を周方向に沿って流れながら、自重により下端30b側に移動してオイルの渦を形成したのち、下端30b側の連通管14bから排出されるようにするためである。
【0026】
分離室30における連通管14aとの接続位置よりも上端30a側は、オイルから分離したエアを捕捉する捕捉空間31とされている。
分離室30の上端30aには、電動ポンプ60(図1参照)から延びる吸入管61が接続しており、吸入管61の吸入口61aは、分離室30内でオイルが形成する旋回流の中心(分離室30の中心O)の直上に位置している。
【0027】
図1に示すように、電動ポンプ60は、吸入管61を介して分離室30に接続すると共に、排気管62を介して変速機ケース22に接続している。
【0028】
実施の形態では、電動ポンプ60は、制御手段40により、稼働/非稼働が制御されるようになっており、稼働時には、吸入管61を介して分離室30内のエアを吸引し、吸引したエアを、排気管62を介して変速機ケース22内に排出する。
この際、電動ポンプ60は、分離室30内を大気圧よりも若干低い負圧状態にするように設定されており、負圧状態のもとで、オイルに包含された比較的大きなエアのかたまりのみならず、細かな気泡もまたオイルから分離され易くなるようにしている。
負圧状態にすることで細かな気泡も体積が膨張して、分離室30内を流れるオイルから分離され易くなるからである。
さらに、オイルから分離されたエアのかたまりが、大気圧よりも圧が低いエアのかたまりであって、従来のエアブリーザでは排出できないようなものであっても、分離室30に留まることなく、排出されるようにしている。
【0029】
制御手段40には、エンジン回転数センサ41からの信号と、パワースイッチ42からの信号とが入力される。
この制御手段40の機能は、図示しないATCU(自動変速機制御ユニット)が備えるCPUにより実現される。
【0030】
エンジン回転数センサ41は、エンジン2の図示しないクランクシャフトの回転を検出するセンサであり、エンジン回転数を示す信号を、制御手段40に出力する。
【0031】
パワースイッチ42は、操作ノブの操作により、オン位置(電源供給位置)と、オフ位置(電源非供給位置)との間での切り換えられるスイッチである。
パワースイッチ42は、車室内の運転者による操作可能な位置に設けられており、オン位置に切り換えられると、エンジン2の駆動指令を図示しないエンジンECUに出力してエンジン2を始動させると共に、操作ノブで選択された操作位置(オン位置/オフ位置)を示す信号を、制御手段40に入力する。
【0032】
実施の形態では、制御手段40は、パワースイッチ42がオン位置であり、かつエンジン回転数Neが閾値回転数Nth以下(Ne≦Nth)であるときに、電動ポンプ60を稼働状態にする。
また、パワースイッチ42がオン位置であり、かつエンジン回転数Neが閾値回転数Nthよりも大きい(Ne>Nth)とき、またはパワースイッチ42がオフ位置のときに、電動ポンプ60を非稼働状態にする。
【0033】
ここで、エンジン回転数Neと、連通管14内を流れるオイルに含まれるエアの量との関係を説明する。
図3は、電動ポンプを活用しないときのエンジン回転数Neと、連通管14内を流れるオイルに含まれるエアの量(管路内のエア蓄積量)との相関図である。
【0034】
実施の形態では、自動変速機1のオイルポンプ12が、エンジン2から入力される回転により回転駆動されるようになっているので、エンジン回転数Neとオイルポンプ12の回転数は比例し、エンジン回転数Neが低くなるとオイルポンプ12の回転数もまた低くなる。
ここで、連通管14内を流れるオイルの流速は、オイルポンプの回転数に応じて決まるので、オイルの流速もまたエンジン回転数に比例する。
【0035】
エンジン回転数が低くなってオイルポンプ12の回転数が低くなると、連通管14内を流れるオイルの流速が遅くなり、連通管14内の曲がり部分などにエアが溜まりやすくなる。
そして、連通管14に溜まるエアの量は、エンジン回転数Neが低くなるほど(オイルの流速が遅くなるほど)多くなる。
【0036】
例えば、図3に示すように、エンジン回転数Neが、アイドリング時の回転数Ne1から回転数Ne3に向けて上昇すると、オイルポンプ12の回転数の上昇に伴って、連通管14内を流れるオイルの流速が速くなる。
そうすると、連通管14内の曲がり部分などに滞留していたエアが、オイルの流れに引き込まれて、オイルと共に流れるようになるので、オイルに含まれるエアの量が、図中符号aで示すように、エンジン回転数Neの上昇と共に多くなる。
【0037】
そして、オイルの流速が十分に速くなって、連通管14内の曲がり部分などにエアが滞留できない流速になると、エアが一気にオイルポンプに吸引されて、図中符号bで示すように、ある回転数Ne2を境にエアの量が急激に減少し、回転数Ne3以降は、図中符号cで示すように、エアの量がほぼゼロになる。
エンジン回転数Neが低いときに連通管14内の曲がり部分などに溜まったエアのほぼ総てが、オイルの流れに引き込まれて無くなってしまうと共に、オイルの流速が速くて連通管14内の曲がり部分などにエアが新たに溜まることがないからである。
【0038】
なお、閾値回転数Nthを超えていたエンジン回転数Neが低下して、再び閾値回転数Nth以下になると、連通管14内を流れるオイルの流速が遅くなって、連通管14内の曲がり部分などに徐々にエアが溜まるようになる。そして、エアが溜まる量は、図中符号dで示すように、エンジン回転数Neが低くなるほど多くなる。
【0039】
実施の形態では、連通管14(管路)内のエアの蓄積量が略ゼロになるエンジン回転数(連通管14内の曲がり部分などにエアのかたまりが滞留できないオイルの流速を実現するエンジン回転数)のうちの最も低い回転数を、実験などにより求め、求めた回転数に基づいて、閾値回転数Nthを決定している。
そして、この閾値回転数Nthよりも低回転数側では、制御手段40が、パワースイッチ42がオン位置である条件の下で電動ポンプ60を稼働状態にし、高回転側では、電動ポンプ60を非稼働状態にするように設定している。
連通管14内を流れるオイルにエアが多く含まれる間だけ、電動ポンプ60を稼働させることで、エアのかたまりに起因するショックの発生を十分に抑えることができ、さらに、電動ポンプ60の稼働に消費されるエネルギーを抑えると共に、電動ポンプ60が連続して稼働される場合に比べて、電動ポンプ60の寿命を延ばすことができるからである。
【0040】
ここで、閾値回転数Nthは、管路内のエアの蓄積量がゼロになるエンジン回転数のうちの最も低い回転数であって、実験などで求めた回転数よりも高回転側にオフセットした値に設定されていることが好ましい。ロットの違いによるオイルポンプ特性のブレの影響を受けずに、エアの除去を確実に行えるようにするためである。
【0041】
以下、制御手段40による電動ポンプ60の稼働制御を、図1および図4を参照して説明する。
図4は、制御手段40が実施する電動ポンプ60の稼働/非稼働の制御のフローチャートである。
【0042】
制御手段40は、パワースイッチ42がオン位置に操作されてエンジンが起動されると(ステップ101)、ステップ102において、エンジン回転数センサ41からの信号が示すエンジン回転数Neが、閾値回転数Nth以下(Ne≦Nth)であるか否かを確認する。
【0043】
ステップ102においてエンジン回転数Neが閾値回転数Nth以下(Ne≦Nth)である場合、ステップ103において、制御手段40は、電動ポンプ60を稼働状態にする。連通管14内を流れるオイルにエアが多く含まれるので、オイル内のエアを除去するためである。
【0044】
一方、ステップ102においてエンジン回転数Neが閾値回転数Nth以下(Ne≦Nth)でない、すなわち閾値回転数Nthよりも大きい(Ne>Nth)場合には、制御手段40は、電動ポンプ60を非稼働状態にする(ステップ106)。電動ポンプ60によるエネルギー消費を抑えるためである。
【0045】
ステップ103において電動ポンプ60を稼働状態にしたのち、ステップ104において、制御手段40は、エンジン回転数Neが、アイドリング時の回転数Ne1よりも小さくなって、エンジンが停止したか否かを確認する。
そして、エンジン回転数Neがアイドリング時の回転数Ne1も大きく、エンジンが停止していない場合には、ステップ102の処理に移行する。
【0046】
一方、ステップ104においてエンジン回転数Neがアイドリング時の回転数Ne1よりも小さい場合、ステップ105において、制御手段40は、パワースイッチ42がオフ位置であるか否か(オフ位置に切り換えられたか否か)を確認する。
そして、オフ位置である場合には、処理を終了し、オフ位置でなくオン位置である場合には、ステップ102の処理に移行する。
【0047】
これにより、以降、パワースイッチ42がオフ位置に切り換えられるまでの間、ステップ102からステップ106までの処理が繰り返されて、エンジン回転数Neが閾値回転数Nth以下(Ne≦Nth)である間は、電動ポンプ60が稼働状態にされ、閾値回転数Nthよりも大きい(Ne>Nth))間は、電動ポンプ60が非稼働状態にされる。
【0048】
電動ポンプ60が稼働状態である場合における分離室30内でのエアの分離を、図2を参照して説明する。
連通管14aから分離室30内に接線方向から供給されて分離室30内に旋回流を形成したオイルは、分離室30の内周面を周方向に沿って流れながら、自重により下端30b側に移動してオイルの渦を形成し、下端30b側の連通管14bから排出される。
この際、分離室30内を流れるオイルには遠心力が作用して、オイルが分離室30の内周面側に押しつけられるので、分離室30の中心O側には減圧された空間が形成される。
ここで、オイルに含まれているエアは、オイルに比べて質量が無視できるので、遠心力の影響を受けず分離室30の中心O側に集積される。
そのため、オイルに含まれたエアは、分離室30の中心O側の減圧された空間に接する面でオイルから分離されて、分離室30の上部にある捕捉空間31内に捕捉される。
【0049】
よって、オイルに含まれていたエアのかたまりは、オイルから分離されるので、オイルポンプを経てオイルと共に変速機構に供給されない。
さらに、オイルから分離されて捕捉空間31内に捕捉されたエアは、電動ポンプ60により吸引されて、変速機ケース22内に排出されるので、連通管14を流れるオイルの流速が速くなっても、オイルポンプに引き込まれることがない。
【0050】
この際、電動ポンプ60により負圧状態にされた分離室30内では、オイルが渦巻き状の旋回流を形成するので、オイルが分離室内を螺旋状に旋回しながら移動する際に、オイルに含まれているエアのみならず気泡もまた、オイルからより多く分離させることができるようになる。
【0051】
ここで、実施形態における電動ポンプ60が、発明における排出ポンプに相当する。
【0052】
以上の通り、本実施形態では、トルクコンバータ11と変速機構21とが切り離して設けられており、エンジン駆動されるオイルポンプ12が、トルクコンバータ11側に設けられて、変速機構21側のオイルパン24から、連通管14(14a、14b)を介してオイルを吸引する自動変速機1において、オイルポンプ12とオイルパン24との間の連通管14の途中に設けられて、エアとオイルとを分離する分離室30と、分離室30内のエアを排出させる電動ポンプ60と、電動ポンプ60の稼働/非稼働を制御する制御手段40と、を設け、制御手段40が、エンジンを起動させるパワースイッチ42がオン位置であって、エンジン回転数Neが、連通管14内にエアのかたまりが滞留できないオイルの流速を実現するエンジン回転数を規定した閾値回転数Nth以下(Ne≦Nth)である間、電動ポンプ60を稼働させる構成とした。
これにより、連通管14を流れるオイル内のエアのかたまりは、分離室30内でオイルから分離されて、エアのかたまりを含むオイルが、オイルポンプ12を経て変速機構21に供給されないので、エアのかたまりに起因するショックの発生を好適に防止できる。
また、電動ポンプ60により、分離室30に捕捉されたエアを排出するので、捕捉されたエアが、大気圧よりも圧が低いエアであっても分離室30から確実に排出されて、分離室30内に留まることがない。
さらに、連通管14の長さが長くなり、連通管14内の曲がり部分の数が多くなっても、好適にエアを除去できるので、自動変速機における油圧配管のレイアウトの自由度が向上する。
また、エンジン回転数Neが、連通管14内の曲がり部分などにエアのかたまりが滞留できないオイルの流速を実現するエンジン回転数を規定した閾値回転数Nth以下である間、すなわち、エンジン回転数Neが低いためにオイルポンプ12が吸引したオイルの流速が遅く、連通管14内にエアのかたまりが滞留しやすい間だけ、電動ポンプ60が稼働される。
よって、閾値回転数Nthに基づいて電動ポンプの稼働を決めることで、エアの量が多くなっても、エアを確実に除去して変速機ケース側に排出できる。
さらに、電動ポンプ60の稼働/非稼働が適宜切り換えられるので、電動ポンプ60の稼働に消費されるエネルギーを抑えると共に、電動ポンプ60が連続して稼働される場合に比べて、電動ポンプ60の寿命を延ばすことができる。
特に、電動ポンプ60の稼働時間が短くなるので、電動ポンプ60の部品の耐久信頼性が向上すると共に、電動ポンプ60を連続して稼働する場合よりも、部品に要求される耐久性能の要求が緩和されるので、その分だけ部品の作製コストの低減が可能であり、電動ポンプをより安価で提供できる。
また、電動ポンプ60を稼働させると、オイルポンプ12の駆動により負圧状態とされている分離室30内の負圧度が、さらに高くなるので、オイルポンプ12の吸引力が電動ポンプ60によりアシストされた状態となり、効率の良いポンプ吸引が可能となる。
【0053】
以下、実施の形態における特徴を抽出して記載する。
連通管14は、分離室30と、オイルパン24内のオイルを吸引するオイルストレーナが付設されたコントロールバルブボディ23とを接続する連通管14aと、分離室30とオイルポンプ12とを接続する連通管14bと、から構成され、連通管14aは、分離室30の上端30aから下端30b側にオフセットした位置で、分離室30に接続し、連通管14bは、連通管14aよりも下端30b側の位置で分離室30に接続し、分離室30では、連通管14aの接続位置よりも上端30a側を、オイルから分離したエアの捕捉空間31とした。
連通管14aを流れるオイル内のエアのかたまりの多くは、オイルで満たされた連通管14a内の上部側を流れるので、オイルが分離室30内に供給されると、分離室30の上部にはオイルが満たされない捕捉空間31が確保されているので、オイル内のエアのかたまりは、オイルから分離して、捕捉空間31内に捕捉される。よって、オイル内のエアのかたまりが、オイルポンプ12を経てオイルと共に変速機構21に供給されない。
また、電動ポンプ60が分離室30(捕捉空間31)内のエアを吸引して、変速機ケース22内に排出しているので、捕捉空間31の容積以上のエアがオイルから分離しても、捕捉空間31からエアがあふれてオイルポンプ12に供給されることがない。さらに、オイルが分離室30内を上方から下方に向かって流れるので、捕捉空間31内に捕捉されたエアが、オイルポンプ12に引き込まれることがない。
よって、エアのかたまりに起因するショックの発生を好適に防止できる。
【0054】
連通管14aは、分離室30内の円柱状の空間Sに、接線方向からオイルを流入させて、分離室30内に供給されたオイルが旋回流を形成するように、分離室30の側面に接線方向から連結している構成とした。
これにより、連通管14aを通って分離室30内に導かれたオイルは、分離室30内を、内周面に沿って旋回しながら自重により上端30a側から下端30b側に移動するので、分離室30内にはオイルにより渦巻き状の旋回流が形成される。
この際、分離室30内を流れるオイルは、遠心力により分離室30の内周面側に押しつけられるので、分離室30の中心O側には減圧された空間が形成される。ここで、オイルに含まれているエアは、オイルに比べて質量が無視でき、遠心力の影響を受けず分離室30の中心O側に集積されるので、減圧された空間に接する面でオイルから分離されて、分離室30の上部にある捕捉空間31内に捕捉される。
また、分離室30内にはオイルにより渦巻き状の旋回流が形成されるので、分離室30内でのオイルの滞留時間と移動距離が長くなり、その分だけ、エアがオイルから分離する機会が増加する。
さらに、自動変速機が搭載された車両の傾きに関係なく、分離室30内に渦巻き状の旋回流が形成されるようになるので、車両の傾きに影響をされないで、オイルからエアを確実に分離できるようになる。
また、電動ポンプ60が分離室30内を負圧状態にするので、オイルに含まれる細かな気泡であっても体積が膨張して、オイルから分離され易くなる。
【0055】
実施の形態では、パワースイッチを採用した場合を例示したが、車載機と運転者が所有する携帯機との間で無線通信による認証を行って、暗号キーが一致した場合に、例えばボタン操作のみでエンジンの起動・停止を行えるようにした車両、いわゆるキーレスエントリーシステムを採用した車両の自動変速機においても好適に適用できる。
この場合、エンジンの起動・停止を行うボタンがオンされて、エンジン回転数Neが閾値回転数Nth以下である間、電動ポンプ60が稼働状態にされることになる。
また、パワースイッチの代わりにイグニッションスイッチを採用した車両の自動変速機においても好適に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 自動変速機
2 エンジン
10 フロントユニット
11 トルクコンバータ
12 オイルポンプ
13 コンバータケーシング
14、14a、14b 連通管
20 リアユニット
21 変速機構
22 変速機ケース
23 コントロールバルブボディ
24 オイルパン
30 分離室
30a 上端
30b 下端
31 捕捉空間
40 制御手段
41 エンジン回転数センサ
42 パワースイッチ
60 電動ポンプ(排出ポンプ)
61 吸入管
61a 吸入口
62 排気管
S 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータと変速機構とが切り離して設けられており、エンジン駆動されるオイルポンプが、前記トルクコンバータ側に設けられて、前記変速機構側のオイルパンから、連通管を介してオイルを吸引する自動変速機において、
前記オイルポンプと前記オイルパンとの間の連通管に設けられて、エアとオイルとを分離させる分離室と、
前記分離室内のエアを排出させる排出ポンプと、
前記排出ポンプを制御する制御手段と、を設け、
前記制御手段は、前記エンジンを起動させるスイッチがオンであってエンジン回転数が閾値回転数以下の間、排出ポンプを稼働させることを特徴とする自動変速機におけるエア分離構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−69463(P2011−69463A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222611(P2009−222611)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】