説明

自動変速機のリバースインヒビット装置

【課題】ソレノイドの作動頻度が低く、電気系の故障時には自動的にロック解除され、かつ構造の簡単な、自動変速機のリバースインヒビット装置を提供する。
【解決手段】シフトロックカム20に、シフトレバー1がN位置でかつノブボタン3を操作した状態でガイドピン4と当接する当接部を設け、一端がシフトロックカムに連結されたシフトロックケーブル25の他端にスライドロック部材32を連結する。スライドロック部材は、ブレーキペダルと連動するブレーキ連動部材42によってP,N位置からR位置への動きがロックされる。所定車速以上でかつブレーキペダルが踏み込まれたときのみ通電されるソレノイド11を設け、その通電時にシフトレバーのN位置からR位置への動きをロックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動変速機のリバースインヒビット装置、詳しくは前進走行中にシフトレバーがDレンジからRレンジへシフトされようとした時、設定車速以上でRレンジへのシフトを禁止する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動変速機はP(パーキング),R(リバース),N(ニュートラル),D(ドライブ)などのレンジと呼ばれる切替位置を備えているが、Dレンジで走行中に運転者が誤ってシフトレバーをRレンジへシフトすると不意のショックを伴うので、設定車速以上でRレンジへのシフトを禁止するリバースインヒビット装置が設けられている。
【0003】
特許文献1には、Pレンジにおける機械式のシフトロック装置が開示されている。このシフトロック装置は、ブレーキペダルを踏み込み、かつキーをACC位置に回すことで、ロックを解除し、Pレンジから他のレンジへシフト可能とするものである。このシフトロック装置の場合、機械式のために構造が簡単であり、電気系の故障による解除装置も不要であるが、停車中のN→Rシフトロック機能はなく、走行中のリバースインヒビット機能もない。
【0004】
特許文献2には、Pレンジにおけるシフトロック機能とNレンジにおけるシフトロック機能とを有するシフトレバー装置が開示されている。この装置では、Pレンジ用の第1シフトロック部材とNレンジ用の第2シフトロック部材とを連動可能に設け、ブレーキペダルの踏み込み時に作動するソレノイドにより、第1シフトロック部材をロック解除方向に作動させると共に、第2シフトロック部材を第1シフトロック部材に連動してロック解除方向に作動させるものである。ソレノイドをブレーキペダルの踏み込み時だけでなく、車速信号によっても制御すれば、走行中のリバースインヒビットを達成することが可能である。
【0005】
一般にリバースインヒビット装置では、ソレノイドONのときにリバースインヒビットを行う場合と、ソレノイドOFFのときにリバースインヒビットを行う場合とがある。前者の場合には、走行中ソレノイドをONし続ける必要があるため、通電時間が長くなり、耐久性の低下や発熱の問題がある。後者の場合には、通電時間は短くなるが、断線等の電気系の故障時にはロック解除を行うことができず、手動式ロック解除機構を別途追加する必要がある。
【0006】
特許文献2では、ブレーキペダルの踏み込み時と走行中とにおいて、ソレノイドをONし続ける必要があり、ソレノイドの作動頻度が高くなるという欠点の他、Pレンジ用の第1シフトロック部材とNレンジ用の第2シフトロック部材との間に複雑な連動機構を設ける必要があるため、構造が複雑になるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−188062号公報
【特許文献2】実開平4−119662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ソレノイドの作動頻度を低くでき、電気系の故障時には自動的にロック解除され、かつ構造の簡単な、自動変速機のリバースインヒビット装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、少なくともP−R−N−Dの各レンジへ順に切替可能とされ、操作ノブにノブボタンが設けられたシフトレバーと、前記シフトレバーのノブボタンと連動してシフトレバーの軸方向に移動するガイドピンと、前記各レンジ位置に対応して形成され、前記ガイドピンが係合可能なガイド窓と、前記ガイドピンと接触し、P位置において前記ガイドピンを係止して前記シフトレバーをP位置にロックする回動可能なシフトロックカムであって、前記ノブボタンを操作した状態で前記シフトレバーをN位置からR位置へシフトしたとき前記ガイドピンと当接する当接部が設けられたシフトロックカムと、一端が前記シフトロックカムに連結されたシフトロックケーブルと、ブレーキペダルの踏み込みに連動して移動するブレーキ連動部材と、前記シフトロックケーブルの他端に連結され、固定部材に対してスライド可能に設けられたスライドロック部材であって、前記シフトレバーがP,N位置でかつブレーキペダルが踏み込まれないとき、前記ブレーキ連動部材によってP,N位置からR位置への動きがロックされる、スライドロック部材と、通電時に前記シフトレバーのN位置からR位置への動きをロックし、非通電時に前記ロックを解除するソレノイドであって、所定車速以上でかつブレーキペダルが踏み込まれたときのみ通電されるソレノイドと、を備えた自動変速機のリバースインヒビット装置を提供する。
【0010】
本発明では、Pレンジ及びNレンジでブレーキペダルと連動した機械式シフトロック装置を備えているので、ブレーキペダルを踏まないまま、シフトレバーをP→Rへシフトすることができず、N→Rへシフトすることもできない。そのため、シフト操作と同時にブレーキペダルと間違ってアクセルペダルを踏み込んだ場合でも、P、Nレンジが維持され、急発進を防止できる。本発明の機械式シフトロック装置は、既存のシフトロック装置の構成部品(シフトロックケーブル、シフトロックカム、スライドロック部材、ブレーキ連動部材など)を利用することができるため、大幅な設計変更を必要とせずに実現可能である。
【0011】
さらに本発明では、機械式シフトロック装置に加えて、リバースインヒビット用のソレノイドを設けてある。ブレーキペダルを踏み込まないときには、車速に関係なく機械式シフトロック装置によってN→Rのシフトを阻止するため、ソレノイドに通電することなくリバースインヒビット機能を達成できる。また、所定車速以上の走行中にブレーキペダルを踏み込むと、機械式シフトロック装置はロック解除状態になるが、ソレノイドが通電状態となるので、リバースインヒビット機能を達成できる。ソレノイドの通電時間は、所定車速以上でかつブレーキペダルを踏み込んだときだけであるから、ソレノイドの作動頻度を低くでき、耐久性や発熱の問題を解消できる。また、ソレノイドの作動回路に断線等の故障があると、ソレノイドは自動的にロック解除状態となるので、手動式ロック解除機構を別途追加する必要がない。所定車速未満では、ブレーキペダルを踏み込まないときにはN→Rへのシフトを阻止するので、不意のショックを招くことがない。
【0012】
ソレノイドの通電によりシフトレバーのN→Rへの動きをロックする手段として種々の構造が考えられる。例えば、ソレノイドのON/OFFによりインヒビット部材を係止位置と非係止位置とに作動させ、このインヒビット部材が係止位置にあるとき、ガイドピンを係止してN→Rへのシフトを阻止するようにしてもよい。インヒビット部材としては、例えばソレノイドにより揺動するレバーを使用したり、既存のシフトロック装置に設けられている部材(例えばシフトロックカムなど)を利用することも可能である。
【0013】
本発明におけるN→Rシフトとは、N→Rシフトそのものの他、DやLなどの前進レンジからRレンジへのシフトを含む。その理由は、P−R−N−Dのように、前進レンジとRレンジとの中間にNレンジが存在するので、前進レンジ→Rシフトをする場合には、その途中でNレンジを必ず通過するからである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、P,Nレンジでブレーキペダルと連動した機械式シフトロック装置を備えているので、ブレーキペダルを踏まないままでのP→Rシフト、N→Rシフトを確実にロックできる。また、所定車速以上でブレーキペダルを踏み込むとソレノイドが通電状態となり、N→Rシフトを阻止するので、走行中のリバースインヒビットを達成できる。ソレノイドの通電時間は、所定車速以上でかつブレーキペダルを踏み込んだときだけであるから、ソレノイドの作動頻度を低くでき、消費電力を低減でき、耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るリバースインヒビット装置を備えたシフトレバー機構の一例の一側面図である。
【図2】図1に示すシフトレバー機構の他側面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】インヒビットリンクがガイド窓に嵌合した状態の拡大図である。
【図5】Nレンジにおけるシフトレバー機構の拡大側面図である。
【図6】N→Rシフト途中におけるシフトレバー機構の拡大側面図である。
【図7】Rレンジにおけるシフトレバー機構の拡大側面図である。
【図8】本発明に係るシフトロック装置の一例のPレンジ、ブレーキOFF時の横断面図、及びA−A線断面図である。
【図9】図8に示すシフトロック装置のPレンジ、ブレーキON時の横断面図、及びB−B線断面図である。
【図10】NレンジにおけるブレーキOFF/ON時のシフトロック装置の動作図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るリバースインヒビット装置を図1〜図10を参照しながら説明する。
【0017】
まず最初に、本発明のリバースインヒビット装置が適用されるシフトレバー機構について説明する。図1は自動変速機のシフトレバー機構の概略構造の一例を示す。このシフト機構はフロアシフトタイプの例であり、シフトレバー1は、車体5に支軸6を中心として車体前後方向へ回動可能に取り付けられている。なお、フロアシフトタイプに限らず、コラムシフトタイプでも同様に適用できる。シフトレバー1の操作ノブ2には、指で操作できるノブボタン3が設けられている。シフトレバー1の中間部両側部には長孔1a(図5参照)が形成されており、これら長孔1aからガイドピン4が両側方へ突出している。ノブボタン3を押し込むことによって、ガイドピン4がシフトレバー1の軸方向下方へ移動することができる。なお、ガイドピン4は、シフトレバー1に内装されたスプリング(図示せず)によって、常時上方へ付勢されている。本実施例ではガイドピン4の先端部の断面形状が角形であるが、円形であってもよい。
【0018】
シフトレバー1の両側方の車体5上には一対のガイドプレート7,8が固定されており、両方のガイドプレート7,8にはシフトポジションに対応した凹凸部を有するガイド窓9,10(図2参照)がそれぞれ形成されている。なお、本実施例では、両方のガイドプレート7、8にそれぞれ対称形状のガイド窓9,10を形成したが、いずれか一方のガイドプレートのガイド窓は省略可能である。
【0019】
シフトレバー1のガイドピン4はガイド窓9,10に挿入されており、ガイドピン4がガイド窓9,10の凹凸部に係合することで、P(パーキング),R(リバース),N(ニュートラル),D(ドライブ),2(セカンド)及びL(ロー)の各レンジ位置に順に切替可能になっている。なお、2,Lレンジは、前進走行レンジであれば、他のレンジに設定してもよい。本実施例のガイド窓9,10の具体的形状は、P位置に対応した部分が深い凹溝状に形成され、凸部を間にしてR位置が凸部より一段低い段差状に形成され、N位置がR位置よりさらに低い段差状に形成され、D位置はN位置とほぼ同じ高さに形成されている。2位置はD位置より一段高い段差状に形成され、L位置は2位置よりさらに高い段差状に形成されている。但し、ガイド窓9,10の形状は任意に変更できる。上述のように、ガイドピン4は常時上方へ付勢されているので、ノブボタン3を操作しない状態では、ガイドピン4はガイド窓9,10の凹凸状溝部の上縁に係合している。
【0020】
なお、ガイド窓9,10とは別に、ガイドプレート7又は8にディテント溝(図示せず)を形成し、このディテント溝にシフトレバー1に取り付けられたディテントスプリング(図示せず)を係合させることにより、シフトレバー1をP,R,N,D,2及びLの各位置に節度感をもって位置決め可能としてもよい。
【0021】
一方のガイドプレート7の外側面には、図2、図3に示すようにリバースインヒビット用のソレノイド11が固定されている。このソレノイド11は、図示しない電子制御装置によって制御され、所定車速(例えば10km/h)以上でかつブレーキペダルが踏み込まれたとき(ブレーキスイッチON時)のみ通電される。ソレノイド11には上下方向に移動可能なプランジャ12が設けられ、プランジャ12の先端には、インヒビットリンク(インヒビット部材)14の一端部14aが係合するつば部12aが形成されている。ソレノイド11と一端部14aとの間には、プランジャ12を常時下方へ突出付勢するリターンスプリング13が介装されている。インヒビットリンク14は、その長さ方向中間部がガイドプレート7の側面に支軸15を中心として揺動可能に取り付けられている。インヒビットリンク14の他端部には、ガイド窓9のR〜P位置に対応する部位に嵌合可能な突起部14bが形成されている。
【0022】
ソレノイド11の非通電時には、リターンスプリング13によってプランジャ12が突出しており、インヒビットリンク14の突起部14bがガイド窓9から外れている(図3(a)参照)。ソレノイド11に通電するとプランジャ12が引き込まれ、インヒビットリンク14が揺動して、突起部14bがガイド窓9に嵌合する(図3(b)参照)。嵌合状態では、図4のように突起部14bがガイドピン4のN→Rへの移動を阻止しており、リバースインヒビット機能を達成する。特に、ガイドピン4がR方向に強く操作されても、突起部14bの背面(図4の左側側面)がガイド窓9の規制面9a(図4の左側側縁)に当接することにより、確実にリバースインヒビットを達成できる。なお、ガイドプレート7にガイド窓9を形成しない場合には、突起部14bの背面を支える規制壁をガイドプレート7に形成してもよい。
【0023】
他方のガイドプレート8の外側面には、図1、図5に示すように、シフトロックカム20が支軸21を中心として回動可能に取り付けられている。シフトロックカム20にはガイドピン4を収容可能なU字溝20aが略半径方向に形成されている。シフトレバー1がP位置にある状態(かつブレーキペダルを踏み込んだ状態)でノブボタン3を押し込むと、ガイドピン4がシフトロックカム20を図1の左回り方向(R方向)に回動させるので、ガイドピン4はガイド窓10を摺動して他のレンジ位置へ移動できる。シフトレバー1がP位置にある間は、ガイドピン4はU字溝20a内に位置しており、R位置以降ではガイドピン4はU字溝20aから外れる。
【0024】
シフトロックカム20にはシフトロックケーブル25のインナケーブル26の一端が連結されている。シフトロックケーブル25はインナケーブル26とアウタケーブル27とを有しており、アウタケーブル27の一端がブラケット28によって車体5に固定されている。シフトロックカム20はリターンスプリング24によって図1の左回り方向に回動付勢されている。なお、リターンスプリング24のばね力は、シフトレバー1に内装されたガイドピン4の付勢用スプリングのばね力より小さい。シフトロックケーブル25の他端は、ブレーキペダル40の近傍に配置されたシフトロック装置30まで延設されている。
【0025】
シフトロックカム20のU字溝20aを間にして一方側の腕部先端には、当接部20bが設けられている。この当接部20bは、後述するN位置からR位置へシフトする時にガイドピン4と当接し、N→Rシフトをロックする機能と、ブレーキペダル40を踏み込んだ状態では、ガイドピン4によって押されてシフトロックカム20の図1の右回り方向への回転を許容し、R位置へのシフトを許容するロック解除機能とを持つものである。
【0026】
シフトロック装置30は、図8、図9に示すようにハウジング(固定部材)31を備えており、このハウジング31にシフトロックケーブル25のアウタケーブル27の他端が固定されている。シフトロックケーブル25のインナケーブル26の他端は、ハウジング31内にスライド自在に配置されたスライドロック部材32と連結されている。スライドロック部材32は、軸方向に間隔をあけて2つの円筒状ランド部33、34を有しており、先端側の第1ランド部33は、スライドロック部材32に対して直交するキーインターロック部材35と係合することで、スライドロック部材32をケーブル押し込み状態(図8の状態)でロックすることができる。キーインターロック部材35はキーインターロックケーブル36を介して図示しないキーシリンダと連結されている。エンジンキーをキーシリンダに挿入してLOCK位置からACC位置に回すと、キーインターロック部材35はスライドロック部材32の第1ランド部33から外れ、ロックを解除するようになっている。なお、キーインターロック機構自体については、例えば特許文献1等により公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0027】
スライドロック部材32の2番目の第2ランド部34の両面に、第1係止面34aと第2係止面34bとが形成されている。図8の右側の第1係止面34aはP→R時のシフトロックを行う面であり、左側の第2係止面34bはN→R時のシフトロックを行う面である。ハウジング31には、ブレーキスイッチ部材42がスライドロック部材32に対して直交方向にスライド可能に配置されている。ブレーキスイッチ部材42の内部には、スライドピン43とこのスライドピン43を突出方向(ブレーキペダルとの接触方向)に付勢する第1スプリング44とが設けられている。ブレーキスイッチ部材42から外部へ突出したスライドピン43の先端部が、ブレーキペダル40の接触部41に当接している。ブレーキスイッチ部材42とスライドピン43と第1スプリング44とによって、ブレーキペダル40の踏み込み/解除に連動してON/OFFするブレーキスイッチが構成されている。
【0028】
図8、図9に示すように、ブレーキスイッチ部材42は、スライドロック部材32の第2ランド部34と交差する位置と離れた位置との間をスライド可能である。なお、本実施例では、ブレーキペダル40の踏み込み時には接触部41がハウジング31から離れ、非踏み込み時には接触部40がハウジング31に近づくように設定されている。ブレーキスイッチ部材42の先端部には細い軸部42aが一体に突設されており、この軸部42aが図8(b)に示すように、スライドロック部材32の第2ランド部34と干渉しない位置に延びている。軸部42aとハウジング31との間には第2スプリング45が介装され、この第2スプリング45により、ブレーキスイッチ部材42を含むブレーキスイッチ全体がブレーキペダル40の接触部41との接触方向に付勢されている。
【0029】
次に、本発明のシフトレバー機構及びシフトロック装置の作動について説明する。
〔P→Rシフトロック〕
まず、機械式シフトロック装置の作動について説明する。Pレンジでは、図8に示すように、シフトロックケーブル25のインナケーブル26がハウジング31内に押し込まれた位置にある。キー位置がLOCK位置にあると、キーインターロック部材35がスライドロック部材32の第1ランド部33を係止するため、ブレーキペダル40の踏み込みとは関係なく、P位置から他の位置へシフトすることはできない。また、エンジンキーをACC位置又はそれ以後の位置へ回しても、ブレーキペダル40を踏み込んでいない状態では、ブレーキスイッチ部材42がスライドロック部材32の第2ランド部34の右側の第1係止面34aを係止するので、やはりP位置から他の位置へシフトすることができない。
【0030】
Pレンジにおいて、エンジンキーをACC位置さらにはそれ以後の位置へ回し、ブレーキペダル40を踏み込むと、図9のようにキーインターロック部材35がスライドロック部材32の第1ランド部33から外れ、かつブレーキスイッチ部材42がスライドロック部材32の第2ランド部34から外れるので、シフトレバー1をP位置から他の位置へシフトすることが可能になる。ノブボタン3を押しながらシフトレバー1を操作すると、ガイドピン4がシフトロックカム20を図1の左回り方向へ押すため、R位置へのシフトが可能になる。
【0031】
〔N→Rシフトロック〕
図5は車両停止又は設定車速以下であって、シフトレバー1がN位置にある状態を示す。ガイドピン4がガイド窓10のN位置にあり、シフトロックカム20の当接部20bがガイドピン4の側面に当接している。ノブボタン3を押していない状態では、ガイドピン4は上側位置(実線で示す)にあり、ガイド窓10のN位置に係合しているが、ノブボタン3を押すと、ガイドピン4は下側位置(二点鎖線で示す)に移動し、ガイド窓10のN位置から外れる。しかし、ノブボタン3を押しても、シフトロックカム20の当接部20bがガイドピン4の前方に立ちふさがっているので、シフトロックカム20を回さない限り、R位置へはシフトできない。
【0032】
シフトレバー1がN位置で、かつブレーキOFF(ブレーキペダル40を踏み込んでいない状態)のとき、シフトロック装置30は図10(a)に示すように、ブレーキペダル40の接触部41によりブレーキスイッチ部材42が押し込まれた位置にある。ブレーキスイッチ部材42がスライドロック部材32の第2ランド部34の左側の第2係止面34bを係止するので、シフトロックケーブル25の押し方向(R方向)の動きがロックされる。つまり、シフトロックカム20の回転がロックされる。この状態で、ノブボタン3を押しながらシフトレバー1をR方向へ操作しても、図5のようにガイドピン4が当接部20bに当たり、R位置へシフトできない。このようにブレーキペダル40を踏み込まないまま、N→Rシフトしようとしても、Rレンジを達成できないので、ブレーキペダルと間違ってアクセルペダルを踏み込んだ場合でも、急発進を防止できる。
【0033】
図6はブレーキON状態(ブレーキペダル40を踏み込んだ状態)で、シフトレバー1をN→R位置へシフトする途中を示す。シフトロック装置30については、図10(b)に示すように、ブレーキペダル40の接触部41がハウジング31から離れるので、それに応じてブレーキスイッチ部材42が第2スプリング45により後退して第2ランド部34から外れ、スライドロック部材32のロックが解除される。そのため、シフトロックケーブル25の押し方向(R方向)の動き、つまりシフトロックカム20の回転が可能になる。この状態で、ノブボタン3を押しながらシフトレバー1をR方向へ操作すると、ガイドピン4がシフトロックカム20の当接部20bを押してR位置へシフト可能になる。
【0034】
図7はブレーキON状態でシフトレバー1をR位置へシフトした後の状態を示す。ガイドピン4はガイド窓8のR位置へ移動し、シフトロックカム20の当接部20bの縁部と接している。この状態では、シフトロック装置30のブレーキスイッチ部材42がスライドロック部材32の第2ランド部34の外周面に接触しているので、ブレーキペダル40の踏み込みとは関係なく、スライドロック部材32はスライド可能であり、シフトロックカム20の回転も可能になる。そのため、R→P、R→Nのいずれにもシフトが可能である。なお、ノブボタン3を押しながらシフトレバー1をR→Pへシフトすると、ガイドピン4はシフトロックカム20の当接部20bを乗り越えてU字溝20aへ入り込み、図1の状態に戻ることができる。
【0035】
表1は、N→Rシフトロックの態様を表したものである。表1において、車速Loとは設定車速未満(車両停止時を含む)を示し、車速Hiとは設定車速(例えば10km/h)以上を示す。「機械」とは機械式シフトロック装置の動作を示し、「電気」とはソレノイド11の動作(通電時にロック状態)を示す。「総合」とは機械式シフトロック装置とソレノイドとを統合した全体の状態を示す。機械/電気のいずれか一方がロック状態の時、全体がロック状態となる。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、N→Rシフトロックが解除される(全体がフリーになる)のは、車速LoでかつブレーキON時のみであり、この状態ではたとえN→Rシフトしても、不意のショックや駆動機構の損傷を防止できる。ソレノイド11に通電されるのは、車速HiでかつブレーキON時のみであり、通電時間が短くて済む。そのため、ソレノイドの作動頻度を低くでき、耐久性や発熱の問題を解消できる。また、ソレノイド11の作動回路に断線等の故障があっても、ソレノイド11はインヒビットリンク14を非係止位置に保持するので、手動式ロック解除機構を別途追加することなく、ロック状態を解除できる。
【0038】
上記実施例では、インヒビット部材として支軸15を中心として揺動し、先端部14bがガイド窓9に嵌合してガイドピン4をロックするインヒビットリンク14を使用したが、これに限定されるものではなく、ソレノイド11の作動によってシフトレバー1のN→Rシフトをロックできるものであれば、その構造は任意である。例えば、シフトレバー1そのものをロックしてもよいし、シフトロックカム20の回転をロックしてもよい。
【0039】
上記実施例では、キーインターロック部材35がスライドロック部材32の第1ランド部33に係合する例を示したが、キーインターロック部材35がスライドロック部材32に係合することは本発明において必須ではない。例えば、キーインターロック部材35がシフトロックカム20に係合するように配置することで、P位置から他の位置へのキーインターロックを行うようにしてもよい。
【0040】
また、スライドロック部材32として、中心軸に複数のランド部を設け、一方のランド部34の両側面を第1、第2係止面とした部材を用いたが、これに限るものではなく、特許文献1のように角柱状部品の側面に複数の係合溝を形成し、これら係合溝の側面を第1、第2係止面としてもよい。スライドロック部材32の第1係止面及び第2係止面を係止するブレーキ連動部材として、ブレーキペダル40と当接するブレーキスイッチ部材42を用いたが、ブレーキスイッチに限るものではなく、ブレーキペダルと連動して移動する部材であればいかなる部材でも使用できる。さらに、ブレーキスイッチ部材42、スライドピン43、第1スプリング44、軸部42a、第2スプリング45の構成も図8のような構造に限るものではなく、例えば特許文献1のような構造でもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 シフトレバー
3 ボブボタン
4 ガイドピン
7、8 ガイドプレート
9、10 ガイド窓
11 ソレノイド
14 インヒビットリンク(インヒビット部材)
14b 突起部
20 シフトロックカム
20a U字溝
20b 当接部
25 シフトロックケーブル
26 インナケーブル
27 アウタケーブル
30 シフトロック装置
32 スライドロック部材
34 第2ランド部
34a 第1係止面
34b 第2係止面
40 ブレーキペダル
41 接触部
42 ブレーキスイッチ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともP−R−N−Dの各レンジへ順に切替可能とされ、操作ノブにノブボタンが設けられたシフトレバーと、
前記シフトレバーのノブボタンと連動してシフトレバーの軸方向に移動するガイドピンと、
前記各レンジ位置に対応して形成され、前記ガイドピンが係合可能なガイド窓と、
前記ガイドピンと接触し、P位置において前記ガイドピンを係止して前記シフトレバーをP位置にロックする回動可能なシフトロックカムであって、前記ノブボタンを操作した状態で前記シフトレバーをN位置からR位置へシフトしたとき前記ガイドピンと当接する当接部が設けられたシフトロックカムと、
一端が前記シフトロックカムに連結されたシフトロックケーブルと、
ブレーキペダルの踏み込みに連動して移動するブレーキ連動部材と、
前記シフトロックケーブルの他端に連結され、固定部材に対してスライド可能に設けられたスライドロック部材であって、前記シフトレバーがP,N位置でかつブレーキペダルが踏み込まれないとき、前記ブレーキ連動部材によってP,N位置からR位置への動きがロックされる、スライドロック部材と、
通電時に前記シフトレバーのN位置からR位置への動きをロックし、非通電時に前記ロックを解除するソレノイドであって、所定車速以上でかつブレーキペダルが踏み込まれたときのみ通電されるソレノイドと、を備えた自動変速機のリバースインヒビット装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−71506(P2013−71506A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210440(P2011−210440)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】