説明

自動変速機の変速制御装置

【課題】摩擦要素の締結進行と係合要素の噛み合い解除変速を中立状態の発生無しに、噛み合い解除を好適瞬時に行う。
【解決手段】変速指令時よりダイレクトクラッチの締結により、伝達トルク(Tf)を最大値まで漸増時に、前期TM1は通常の速度αで、後期TM2は緩やかな速度βで増大させ、これに伴いリダクションブレーキ(R/B)の伝達トルク(Tc)は、前期に急速に、後期に緩やかに低下され、かかる後期の好適タイミングよりR/Bへ抜き力(Fr)を付与しておくと、その伝達トルクTcが抜き力Frに対応した値に低下する。R/Bは抜き力Frにより噛み合い状態から非噛み合い状態へと切り替わり変速が完遂され、中立状態の発生無しに変速を行うことができる。またR/BのTcが緩やかに低下している後期TM2にFrを付与するため、Frの付与タイミングt3を、R/Bの噛み合い解除が好適な瞬時t4に生起されるタイミングとなす制御が可能。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の変速制御装置に関し、特に、摩擦クラッチや摩擦ブレーキのような摩擦式変速要素を解放状態から締結状態へ切り替える動作と、ドグクラッチのような係合式変速要素を抜き力の付与により噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替える動作とによる、所謂変速要素の掛け替えによって行う変速の品質を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦式変速要素を解放状態から締結状態へ切り替えると共に、係合式変速要素を抜き力の付与により噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えて行う変速を有した自動変速機としては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
【0003】
この自動変速機は、ハイブリッド車両のモータ伝動系に用いられ、電動モータの回転を高速で伝達する高速伝動系、および電動モータの回転を低速で伝達する低速伝動系のいずれを選択して用いるかを決定するためのものである。
概略説明すると、ドグクラッチの噛み合い状態と、摩擦クラッチの解放状態とにより、低速伝動系を選択することができ、ドグクラッチの非噛み合い状態と、摩擦クラッチの締結状態とにより、高速伝動系を選択することができる。
【0004】
かかる自動変速機の場合、低速伝動系を用いている状態から、高速伝動系を用いる状態への切り替え(変速)に際しては、ドグクラッチを噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えると共に、摩擦クラッチを解放状態から締結状態へ切り替えて行う当該変速(アップシフト)を行うこととなる。
【0005】
特許文献1に記載の発明では、この変速に際し、先ずドグクラッチを噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替え、その後に摩擦クラッチを解放状態から締結状態へ切り替えることにより当該変速(アップシフト)を行うこととしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−188795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、かように先ずドグクラッチを非噛み合い状態に切り替え、その後に摩擦クラッチを締結状態に切り替えるのでは、一時的にこれらドグクラッチおよび摩擦クラッチが共に動力伝達不能である時間が発生し、この間、自動変速機がニュートラル状態(中立状態)になる。
【0008】
かかる自動変速機の一時的なニュートラル状態(中立状態)は、車両の駆動トルクを0となして減速感を与えるほか、自動変速機の入力側回転数(電動モータの回転数)を一時的に上昇させ、この入力回転数が変速後ギヤ比相当値に低下するとき変速ショックが発生し、いずれにしても変速品質が悪くなるという問題を生ずる。
【0009】
なおこの問題解決のためには、ニュートラル状態になる時間が発生しないようにすべく、ドグクラッチを非噛み合い状態へ切り替えるに先立って、先ず摩擦クラッチを解放状態から締結状態への状態切り替えを進行させ、所定の進行度合いになったときドグクラッチを、抜き力の付与により噛み合い状態から非噛み合い状態に切り替えることが考えられる。
【0010】
この場合、ドグクラッチを非噛み合い状態にするための抜き力の付与タイミングは、摩擦クラッチの締結進行によりそのトルク分担割合が高くなって、その分だけドグクラッチのトルク分担が低くなった時とするのが良い。
その理由は、ドグクラッチのトルク分担(伝達トルク)が小さいと、ドグクラッチを非噛み合い状態にするための抜き力が小さくてよく、ドグクラッチを非噛み合い状態にするときのエネルギー消費が少なくなって、有利であるためである。
【0011】
しかし変速時間を、所定の変速品質となるよう目標時間内の短時間となすためには、摩擦クラッチの締結進行速度も、これに対応した速度である必要がある。
従って摩擦クラッチの締結進行は、或る程度高速で行う必要があり、このように変速品質(変速時間)を考慮して摩擦クラッチの締結進行速度を定めた場合、以下のような問題を生ずる。
【0012】
つまり、摩擦クラッチの締結進行速度がかように或る程度の高速である場合、これに呼応して発生するドグクラッチのトルク分担(伝達トルク)の低下も、摩擦クラッチの締結進行速度に対応した高速で行われることとなる。
しかし、かようにドグクラッチのトルク分担(伝達トルク)の低下速度が速いと、当該ドグクラッチのトルク分担(伝達トルク)が丁度良い値に低下したタイミングに調時して、ドグクラッチを非噛み合い状態にするための抜き力を付与する制御が困難である。
【0013】
このため、ドグクラッチの非噛み合い状態への切り替えタイミングが不適切になることが多く、このタイミングが遅れて自動変速機がインターロック傾向となり、トルクの引き込みショックを生じたり、上記のタイミングが早すぎて変速機入力回転数の一時的な上昇により変速終了時に大きな変速ショックが発生するという、変速品質の悪化に関した問題を生ずる。
【0014】
なお、摩擦クラッチの締結進行速度を低速にすれば、これに呼応して発生するドグクラッチのトルク分担(伝達トルク)の低下も対応した低速で生起されることとなり、当該ドグクラッチのトルク分担(伝達トルク)が丁度良い値に低下したタイミングに調時して、ドグクラッチを非噛み合い状態にするための抜き力を付与する制御が可能になり、上記の問題を回避し得る。
【0015】
しかしこの場合、摩擦クラッチの低い締結進行速度が自動変速機の変速時間を、変速品質上許容できる時間を超えて長くしてしまい、変速品質の悪化を招くほか、摩擦クラッチがスリップ状態である時間の長さ故に耐久性を著しく低下されるという問題を生ずる。
【0016】
本発明は、前記した処から明らかなように、係合式変速要素を抜き力の付与により噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えるべきは、摩擦式変速要素の解放状態から締結状態への切り替えが或る程度進んで、係合式変速要素の伝達トルクが小さな値まで低下したとき以降の後期であり、この後期に摩擦式変速要素の解放状態から締結状態への状態切り替え速度を緩やかにすれば、
変速時間の問題とるような延長を生ずることなく、係合式変速要素への抜き力の付与を丁度良いタイミングに調時して行わせ得て、上記の諸問題をことごとく解消することができるとの観点から、この着想を具体化した自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的のため、本発明による自動変速機の変速制御装置は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となる自動変速機を説明するに、これは、
摩擦式変速要素を解放状態から締結状態へ切り替える動作と、係合式変速要素を抜き力の付与により噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替える動作とにより変速が可能なものである。
【0018】
本発明の変速制御装置は、上記の自動変速機に対し以下のような摩擦式変速要素切り替え速度制御手段と、係合式変速要素切り替え手段とを設けた構成に特徴づけられる。
前者の摩擦式変速要素切り替え速度制御手段は、上記摩擦式変速要素の解放状態から締結状態への切り替えを、後期は前期よりも緩やかに進行させるものであり、また、
後者の係合式変速要素切り替え手段は、前者の摩擦式変速要素切り替え速度制御手段により摩擦式変速要素が緩やかに解放状態から締結状態に切り替えられている後期の所定タイミングより上記係合式変速要素への抜き力の付与を行って、該係合式変速要素の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えを生起させるものである。
【発明の効果】
【0019】
かかる本発明による自動変速機の変速制御装置にあっては、
摩擦式変速要素の解放状態から締結状態への切り替えを、後期では前期よりも緩やかに進行させ、当該後期の所定タイミングより係合式変速要素に抜き力を付与して、係合式変速要素の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えを生起させるため、以下の効果を奏し得る。
【0020】
つまり、係合式変速要素の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えに先行して摩擦式変速要素の解放状態から締結状態への切り替えを進行させ、これに伴って係合式変速要素の伝達トルクが低下したとき、係合式変速要素を抜き力により噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えて、対応する変速を遂行させることとなる。
【0021】
従って、係合式変速要素および摩擦式変速要素が共に動力伝達不能になる時間が存在せず、このため、自動変速機が変速中に動力伝達不能なニュートラル状態(中立状態)になることがなく、変速中に駆動トルクが0になって減速感が発生するのを防止可能である。
また同様な理由から、自動変速機の入力側回転数が一時的に上昇されることもなく、この入力回転変化に伴うた変速ショックも回避することができる。
よって本発明によれば、いずれにしても、特許文献1所載の従来の変速制御装置が抱えていた変速品質の悪化に関する問題を解消することができる。
【0022】
更に本発明では、係合式変速要素に抜き力を付与する後期において摩擦式変速要素の解放状態から締結状態への状態切り替えを緩やかに進行させるため、当該摩擦式変速要素の状態切り替えに呼応した係合式変速要素の伝達トルクの低下も緩やかなものにし得る。
このため、係合式変速要素の伝達トルクが丁度良い値に低下したタイミングに調時して、係合式変速要素を非噛み合い状態にするための抜き力を付与する制御が容易になる。
【0023】
よって、係合式変速要素の非噛み合い状態への切り替えタイミングが不適切になることがなく、このタイミングが遅れて自動変速機がインターロック傾向となり、トルクの引き込みショックが生じたり、上記のタイミングが早すぎて変速機入力回転数の一時的な上昇により大きな変速ショックが発生するという、変速品質の悪化に関する問題を回避することができる。
【0024】
しかも上記の問題解決に当たり、係合式変速要素に抜き力を付与する後期においてのみ摩擦式変速要素の解放状態から締結状態への状態切り替えを緩やかに進行させ、前期においては摩擦式変速要素の状態切り替え速度を正規の速いままにするため、
上記のごとく低下させた摩擦式変速要素の締結進行速度が自動変速機の変速時間を、変速品質上許容できる時間を超えて長くするようなことがないと共に、摩擦式変速要素の変速時スリップ時間を、摩擦式変速要素の耐久性に影響が及ぶほどに長くすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例になる変速制御装置を具えた自動変速機を内包するハイブリッド車両の駆動装置を、自動変速機の変速制御システムと共に示す略線図である。
【図2】図1における変速機コントローラが実行するアップシフト用の変速制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】図2の変速制御プログラムによるアップシフト制御時の動作タイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例の構成>
図1は、本発明の一実施例になる変速制御装置を具えた自動変速機を内包する車両の駆動装置を示し、これを以下に説明するような構成となす。
【0027】
この駆動装置は、電動モータを可とする原動機1と、自動変速機2と、終減速歯車組3と、ディファレンシャルギヤ装置4と、左右輪駆動軸5L,5Rとを有する。
自動変速機2は、入力軸11および出力軸12を同軸に突き合わせて相対回転可能に軸承し、これら入出力軸11,12間に遊星歯車式変速機構13を介在させて構成する。
【0028】
遊星歯車式変速機構13は、入力軸11に結合したサンギヤ14と、これを同心に包囲するリングギヤ15と、これらサンギヤ14およびリングギヤ14に噛合する複数個一組のプラネタリピニオン16と、これらプラネタリピニオン16を回転自在に支持するキャリア17とから成る単純遊星歯車組で構成する。
【0029】
キャリア17は出力軸12に駆動結合し、入力軸11および出力軸12の同軸突き合わせ端間を、ダイレクトクラッチD/Cにより適宜駆動結合し得るようになす。
またリングギヤ15は、リダクションブレーキR/Bにより適宜変速機ケース18に固定し得るようになす。
【0030】
ダイレクトクラッチD/Cは、本発明における摩擦式変速要素に相当し、油圧作動式または電動式に解放状態と締結状態との間で状態切り替えされる摩擦クラッチなどにより構成する。
リダクションブレーキR/Bは、本発明における係合式変速要素に相当し、ドグクラッチ型式の噛み合いブレーキにより構成して、以下のように機能するものとする。
【0031】
つまりリダクションブレーキR/Bは、油圧作動式または電動式の噛み合い力または抜き力を付与されて噛み合い状態または非噛み合い状態にされ、噛み合い状態でリングギヤ15を固定状態となし、非噛み合い状態でリングギヤ15を非固定状態となすものである。
【0032】
ところで、上記抜き力の付与による噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えは、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の伝達トルクが、上記抜き力に応じた所定値よりも大きい間、当該抜き力の付与によっても行われ得ず、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の伝達トルクが上記所定値以下に低下したとき、抜き力によってリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)が噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えられる。
【0033】
上記した自動変速機2は、入力軸11に減速機1の出力軸(モータ軸)を結合し、出力軸12に終減速歯車組3のドライブギヤ3aを結合して実用する。
終減速歯車組3のドリブンギヤ3bは、ディファレンシャルギヤ装置4を介して左右輪駆動軸5L,5Rに結合する。
【0034】
<実施例の作用>
原動機1の回転は自動変速機2の入力軸11へ伝達され、自動変速機2はこの入力回転を以下のように左右輪駆動軸5L,5Rへ伝達可能である。
自動変速機2は、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)を解放状態にして入力軸11および出力軸12間を切り離すと共に、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)を非噛み合い状態にしてリングギヤ15を回転可能にしている場合、
入力軸11への回転を出力軸12に向かわせ得ないニュートラル状態であって、左右輪駆動軸5L,5Rを駆動し得ず、車両を停止させておくことができる。
【0035】
このニュートラル状態から、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)を締結して入力軸11および出力軸12間を結合すると、自動変速機2は入力軸11への回転をそのまま出力軸12に向かわせる高速段選択状態となり、左右輪駆動軸5L,5Rを高速駆動して車両を走行させることができる。
【0036】
ニュートラル状態から、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)を噛み合い状態にしてリングギヤ15を固定すると、自動変速機2は入力軸11への回転を減速してキャリア17から出力軸12に向かわせる低速段選択状態となり、左右輪駆動軸5L,5Rを低速駆動して車両を走行させることができる。
【0037】
<自動変速機の変速制御>
ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の解放状態、締結状態、およびリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の噛み合い状態、非噛み合い状態は、変速機コントローラ21によって制御し、
変速機コントローラ21は、これらダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)およびリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の状態切り替えによって自動変速機2を変速制御する。
【0038】
このため変速機コントローラ21には、変速制御に際して必要な車速VSPやアクセル開度APOなどの変速制御情報を検出するセンサ群22からの信号を入力する。
変速機コントローラ21は、これら入力情報を基に自動変速機2を低速段選択状態にすべきか、高速段選択状態にすべきかを判定し、この判定結果と、現在の選択変速段との対比結果に応じ適宜、高速段選択状態から低速段選択状態への変速(ダウンシフト)を指令したり、低速段選択状態から高速段選択状態へ変速(アップシフト)を指令する。
【0039】
ダウンシフト指令時は変速機コントローラ21が、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)を締結状態から解放状態に切り替えると共に、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)を非噛み合い状態から噛み合い状態に切り替えることにより、自動変速機2をダウンシフトさせる。
アップシフト指令時は変速機コントローラ21が、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)を解放状態から締結状態に切り替えると共に、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)を噛み合い状態から非噛み合い状態に切り替えることにより、自動変速機2をアップシフトさせる。
【0040】
本実施例はこれら変速のうち特に、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の解放状態から締結状態への切り替えと、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えとによる、自動変速機2の変速(アップシフト)を好適に遂行する技術に係わり、
従って本実施例においては変速機コントローラ21が、図2の制御プログラムを実行して、図3のタイムチャートに示すごとくに、自動変速機2の当該アップシフトを遂行するものとする。
【0041】
図2のステップS11においては、自動変速機2の低速段選択状態で高速段へのアップシフト指令が発生したか否かを、つまり図3の瞬時t1に至ったか否かをチェックする。
このアップシフト指令が発生しない間は、図2の制御が不要であるから、図2のごとくに制御をそのまま終了する。
【0042】
図2のステップS11でアップシフト指令が発生したと判定するとき、制御をステップS12以降に進めて、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の伝達トルクTfが図3の瞬時t1〜t4間に見られる態様で増大するよう、解放状態のダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)を締結進行させる。
【0043】
図3の瞬時t1〜t4間におけるダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大態様は、変速指令時t1から所定時間TM1中の前期ではダイレクトクラッチ伝達トルクTfが0から比較的急速な時間変化勾配αで増大し、変速指令時t1から所定時間TM1が経過した瞬時t2より所定時間TM2中(瞬時t4まで)の後期ではダイレクトクラッチ伝達トルクTfが、瞬時t2における増加値から比較的緩やかな時間変化勾配βで増大し、最終的に最大値(Max)になるものとする。
【0044】
ここで、瞬時t1〜t2間の前期時間TM1中におけるダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大速度αは、通常通りの考え方に基づき、変速時間を変速品質上の目標時間内における短時間となし得るような速度に決定する。
しかし瞬時t2〜t4間の後期時間TM2中におけるダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大速度βは、上記のαよりも緩やかな速度とし、これを以下のように定める。
【0045】
瞬時t2〜t4間の後期時間TM2中においてもダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大速度を、前期におけるαと同じ高速のままにすると、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大に呼応して発生するリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)のトルク分担(リダクションブレーキ伝達トルクTc)の低下も、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大速度に対応した高速で行われることとなる。
かようにリダクションブレーキ伝達トルクTcの低下速度が速いと、このリダクションブレーキ伝達トルクTcが丁度良い値に低下したタイミングに調時して、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)を非噛み合い状態にするための抜き力Frを図3の瞬時t3におけるごとくに付与する制御が困難である。
【0046】
この場合、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の非噛み合い状態への切り替えタイミングが、図3にt4で示すごとき適切なものにならず、これからずれた不適切なタイミングになることが多い。
リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の非噛み合い状態への切り替えタイミングが適切タイミングt4よりも遅れると、自動変速機2がインターロック傾向となり、トルクの引き込みショックを生じ、
逆にリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の非噛み合い状態への切り替えタイミングが適切タイミングt4よりも早すぎると、変速機入力回転数の一時的な上昇により変速終了時に大きな変速ショックが発生し、いずれにしても変速品質が悪化するという問題を生ずる。
【0047】
この問題に鑑み、瞬時t2〜t4間の後期時間TM2中におけるダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩やかな増大速度βは、リダクションブレーキ伝達トルクTcが丁度良い値に低下したタイミングt3に調時して、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)に抜き力Frを付与する(リダクションブレーキR/Bの非噛み合い状態への切り替えが適切なタイミングt4に生起される)制御が可能となるよう、リダクションブレーキ伝達トルクTcの低下速度を緩やかなものにし得る、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大速度に決定する。
【0048】
また、瞬時t1〜t2間における前期時間TM1、および、瞬時t2〜t4間における後期時間TM2のうち、後者の後期時間TM2は、リダクションブレーキR/Bの非噛み合い状態への切り替えを適切なタイミングt4に生起させるのに必要な抜き力Frの付与時間TM3に余裕分を加算した時間長とし、前者の前期時間TM1は、トルクフェーズ時間(変速指令時t1から、リダクションブレーキR/Bの非噛み合い状態への切り替え完了により変速機入出力回転比である実効ギヤ比が変速前値から変速後値に変化し始めるイナーシャフェーズ開始時t4までの時間)の初期目標値から後期時間TM2を差し引いた時間長とする。
【0049】
図2のステップS12においては、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの上記した増大速度(急増速度αおよび緩増速度β)と、前期時間TM1および後期時間TM2とを読み込む。
次のステップS13においては、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfが急増速度αで増大するようダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)を締結進行させる。
ステップS14においては、変速指令時t1から前期時間TM1が経過したか否かにより、図3の瞬時t2に至ったか否かをチェックする。
【0050】
前期時間TM1が経過する瞬時t2以前においては、ステップS13を繰り返し実行することにより、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfが急増速度αで増大するようダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の締結進行を継続させる。
この締結進行によりダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)は、トルク分担割合(伝達トルクTf)を速度αで増大され、この増大分だけリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の伝達トルクTcは図3に示すごとく対応した速度で速やかに低下される。
【0051】
ステップS14で前期時間TM1が経過した(図3の瞬時t2に至った)と判定するとき、ステップS15においてダイレクトクラッチ伝達トルクTfが緩増速度βで増大するようダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)を締結進行させる。
従ってステップS15は、本発明における摩擦式変速要素切り替え速度制御手段に相当する。
ステップS16においては、TM1時間経過瞬時t2から後期時間TM2が経過したか否かにより、図3の瞬時t4に至ったか否かをチェックする。
【0052】
後期時間TM2が経過する瞬時t4以前では、ステップS17において瞬時t2から(TM2−TM3)時間が経過して図3の瞬時t3に至ったか否かをチェックし、未だ(TM2−TM3)時間が経過していない(図3の瞬時t3よりも前)と判定する間は、ステップS15を繰り返し実行することにより、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfが緩増速度βで増大するようダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の締結進行を継続させる。
この締結進行によりダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)は、トルク分担割合(伝達トルクTf)を速度βで増大され、この増大分だけリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の伝達トルクTcは図3に示すごとく対応した速度で緩やかに低下される。
【0053】
ステップS17で瞬時t2から(TM2−TM3)時間が経過した(図3の瞬時t3に至った)と判定するときは、ステップS18を実行した後にステップS15を繰り返し実行する。
ステップS18ではリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)に対し、これを噛み合い状態から非噛み合い状態に切り替えるための抜き力Frを図3のごとくに付与する。
従ってステップS18は、本発明における係合式変速要素切り替え手段に相当する。
この抜き力Frは、リダクションブレーキ伝達トルクTcが瞬時t4における小さな値に低下した時にリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)を噛み合い状態から非噛み合い状態に切り替えて、その伝達トルクTcを0にするような小さい予定値に定める。
【0054】
かかる抜き力Frの付与中も、ステップS15が繰り返し実行されることで、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfが緩増速度βで増大するようダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の締結進行を継続させる。
【0055】
ステップS16でTM1時間経過瞬時t2から後期時間TM2が経過した(図3の瞬時t4に至った)と判定するとき、制御をステップS19に進め、ここでリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)への抜き力Frを図3のごとく0にすると共に、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfが最大値MaxとなるようダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)を完全締結させる。
【0056】
以上のような、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の解放状態から締結状態への切り替え動作と、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替え動作とにより、自動変速機2は低速段選択状態から高速段選択状態へ変速(アップシフト)される。
【0057】
かかる変速の終了後は図2のステップS20において、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の締結進行速度であるダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αおよび緩増速度βと、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfを速度αで急増および速度βで緩増させる前期時間TM1および後期時間TM2とを、以下の学習(1)〜(6)により更新して、次回以降の変速制御に資する。
従ってステップS20も、本発明における摩擦式変速要素切り替え速度制御手段に相当する。
【0058】
<学習(1)>
瞬時t2〜t4の後期におけるダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の緩やかな締結進行速度を指定する、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βは、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の解放状態から締結状態への切り替え動作が開始されるアップシフト指令時t1から、当該動作の進行によるダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大で、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)が抜き力Frにより噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えられる瞬時t4までの実トルクフェーズ時間t1〜t4に応じ、以下のように学習制御する。
【0059】
つまり、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間よりも長い場合は、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを大きく(急に)して後期時間TM2の短縮により、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間となるようダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを学習制御し、この学習値にダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを更新して変更する。
【0060】
また逆に、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間よりも短い場合は、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを小さく(緩やかに)して後期時間TM2の延長により、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間となるようダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを学習制御し、この学習値にダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを更新して変更する。
【0061】
<学習(2)>
ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βは更に、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの変化速度を急増速度αから緩増速度βに低下させる、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の状態切り替え速度低下開始タイミングt2から、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)が抜き力Frにより噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えられる瞬時t4までの実後期時間t2〜t4に応じ、以下のように学習制御する。
【0062】
つまり、実後期時間t2〜t4が目標後期時間よりも長い場合は、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを大きく(急に)して後期時間TM2の短縮により、実後期時間t2〜t4が目標後期時間となるようダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを学習制御し、この学習値にダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを更新して変更する。
【0063】
また逆に、実後期時間t2〜t4が目標後期時間よりも短い場合は、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを小さく(緩やかに)して後期時間TM2の延長により、実後期時間t2〜t4が目標後期時間となるようダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを学習制御し、この学習値にダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを更新して変更する。
【0064】
<学習(3)>
瞬時t1〜t2の前期におけるダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の急な締結進行速度を指定する、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αは、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の解放状態から締結状態への切り替え動作が開始されるアップシフト指令時t1から、当該動作の進行によるダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大で、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)が抜き力Frにより噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えられる瞬時t4までの実トルクフェーズ時間t1〜t4に応じ、以下のように学習制御する。
【0065】
つまり、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間よりも長い場合は、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを大きく(急に)して後期時間TM2の短縮により、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間となるようダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを学習制御し、この学習値にダイレクトクラッチ伝達トルクTfの緩増速度βを更新して変更する。
【0066】
また逆に、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間よりも短い場合は、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを小さく(緩やかに)して後期時間TM2の延長により、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間となるようダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを学習制御し、この学習値にダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを更新して変更する。
【0067】
<学習(4)>
ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αは更に、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの変化速度を急増速度αから緩増速度βに低下させる、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の状態切り替え速度低下開始タイミングt2から、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)が抜き力Frにより噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えられる瞬時t4までの実後期時間t2〜t4に応じ、以下のように学習制御する。
【0068】
つまり、実後期時間t2〜t4が目標後期時間よりも長い場合は、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを大きく(急に)して前期時間TM1の短縮により、実後期時間t2〜t4が目標後期時間となるようダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを学習制御し、この学習値にダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを更新して変更する。
【0069】
また逆に、実後期時間t2〜t4が目標後期時間よりも短い場合は、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを小さく(緩やかに)して前期時間TM1の延長により、実後期時間t2〜t4が目標後期時間となるようダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを学習制御し、この学習値にダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αを更新して変更する。
【0070】
<学習(5)>
ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の締結進行速度を低下させるために、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増加速度を急増速度αから緩増速度βに切り替える、ダイレクトクラッチ(摩擦式変速要素)締結進行速度低下開始タイミングt2は、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の解放状態から締結状態への切り替え動作が開始されるアップシフト指令時t1から、当該動作の進行によるダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大で、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)が抜き力Frにより噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えられる瞬時t4までの実トルクフェーズ時間t1〜t4に応じ、以下のように学習制御する。
【0071】
つまり、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間よりも長い場合は、ダイレクトクラッチ(摩擦式変速要素)締結進行速度低下開始タイミングt2を、前期時間TM1の延長および後期時間TM2の短縮により遅らせて、急増速度αの使用時間を延長すると共に緩増速度βの使用時間を短縮することにより、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間となるよう、前期時間TM1および後期時間TM2を学習制御し、これらの学習値に前期時間TM1および後期時間TM2を更新して変更する。
【0072】
また逆に、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間よりも短い場合は、ダイレクトクラッチ(摩擦式変速要素)締結進行速度低下開始タイミングt2を、前期時間TM1の短縮および後期時間TM2の延長により早めて、急増速度αの使用時間を短縮すると共に緩増速度βの使用時間を延長することにより、実トルクフェーズ時間t1〜t4が目標トルクフェーズ時間となるよう、前期時間TM1および後期時間TM2を学習制御し、これらの学習値に前期時間TM1および後期時間TM2を更新して変更する。
【0073】
<学習(6)>
ダイレクトクラッチ(摩擦式変速要素)締結進行速度低下開始タイミングt2は更に、この瞬時t2から、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)が抜き力Frにより噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えられる瞬時t4までの実後期時間t2〜t4に応じ、以下のように学習制御する。
【0074】
つまり、実後期時間t2〜t4が目標後期時間よりも長い場合は、ダイレクトクラッチ(摩擦式変速要素)締結進行速度低下開始タイミングt2を、前期時間TM1の延長および後期時間TM2の短縮により遅らせて、実後期時間t2〜t4が目標後期時間となるよう、前期時間TM1および後期時間TM2を学習制御し、これらの学習値に前期時間TM1および後期時間TM2を更新して変更する。
【0075】
また逆に、実後期時間t2〜t4が目標後期時間よりも短い場合は、ダイレクトクラッチ(摩擦式変速要素)締結進行速度低下開始タイミングt2を、前期時間TM1の短縮および後期時間TM2の延長により早めて、実後期時間t2〜t4が目標後期時間となるよう、前期時間TM1および後期時間TM2を学習制御し、これらの学習値に前期時間TM1および後期時間TM2を更新して変更する。
【0076】
<実施例の効果>
上記した本実施例の変速(アップシフト)制御によれば、
ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の解放状態から締結状態への切り替えを、瞬時t2〜t4の後期では瞬時t1〜t2の前期よりも緩やかに進行させ、後期t2〜t4の所定タイミングt3よりリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)に抜き力Frを付与して、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えを生起させるため、以下の効果を奏し得る。
【0077】
つまり、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えに先行してダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の解放状態から締結状態への切り替えを進行させ、これに伴ってリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の伝達トルクTcが低下した瞬時t4に、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)を抜き力Frにより噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えて、対応する変速を遂行させることとなる。
【0078】
従って、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)およびダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)が共に動力伝達不能になる時間が存在せず、このため、自動変速機2がアップシフト中に動力伝達不能なニュートラル状態になることがなく、変速中に駆動トルクが0になって減速感が発生するのを防止可能である。
また同様な理由から、自動変速機2の入力側回転数が一時的に上昇されることもなく、この入力回転変化に伴う変速ショックも回避することができる。
【0079】
更に本実施例では、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)に抜き力Frを付与する後期t2〜t4においてダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の解放状態から締結状態への状態切り替えを(ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大を)βで示すごとく緩やかに進行させるため、当該ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の状態切り替えに呼応したリダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の伝達トルクTcの低下も緩やかなものにし得る。
このため、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の伝達トルクTcが丁度良い値に低下したタイミングt3に調時して、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)を非噛み合い状態にするための抜き力Frを付与する制御が容易になる。
【0080】
よって、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)の非噛み合い状態への切り替えタイミングt4が不適切になることがなく、このタイミングが遅れて自動変速機2がインターロック傾向となり、トルクの引き込みショックが生じたり、上記のタイミングが早すぎて変速機入力回転数の一時的な上昇により大きな変速ショックが発生するという、変速品質の悪化に関する問題を回避することができる。
【0081】
しかも当該問題解決に当たり、リダクションブレーキR/B(係合式変速要素)に抜き力Frを付与する後期t2〜t4においてのみダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の解放状態から締結状態への状態切り替え(ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大を)をβのごとく緩やかに進行させ、前期t1〜t2においてはダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の状態切り替え速度(ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大速度)を正規の速いまま(α)にするため、
上記のごとく低下させたダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の締結進行速度βが自動変速機2の変速時間を、変速品質上許容できる時間を超えて長くするようなことがないと共に、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の変速時スリップ時間を、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の耐久性に影響が及ぶほどに長くすることがない。
【0082】
更に加えて本実施例では、アップシフト終了の度にステップS20で前記の学習(1)〜(6)により、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の締結進行速度であるダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αおよび緩増速度βと、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の締結進行速度(ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大速度)を低下させ始めるタイミングt2、換言すればダイレクトクラッチ伝達トルクTfを速度αで急増および速度βで緩増させる前期時間TM1および後期時間TM2とを、実トルクフェーズ時間t1〜t4や実後期時間TM2が目標時間となるよう学習制御し、α,β,TM1,Tm2をそれぞれ当該学習値に更新して、次回以降のアップシフト制御に資するため、
実トルクフェーズ時間t1〜t4および実後期時間TM2を常に目標時間に保つことができて、変速品質を長期不変に狙い通りの高品質に維持し得ると共に、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)が変速時に長時間に亘ってスリップするのを防止して、その耐久性が低下するのを回避することができる。
【0083】
<他の実施例>
なお、ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの急増速度αおよび緩増速度β、および、ダイレクトクラッチD/C(摩擦式変速要素)の締結進行速度低下開始タイミング(ダイレクトクラッチ伝達トルクTfの増大速度低下開始タイミング)t2を決定する前期時間TM1および後期時間TM2の前記した学習(1)〜(6)は、必ずしも全て実行する必要はなく、どれか一つだけを実行したり、任意のものを組み合わせて実行してもよいのは言うまでもなく、この場合も、程度の差はあれ、前記の効果を奏し得ること勿論である。
【符号の説明】
【0084】
1 原動機(電動モータ)
2 自動変速機
3 終減速歯車組
4 ディファレンシャルギヤ装置
5L,5R 左右ホイールシャフト
11 入力軸
12 出力軸
13 遊星歯車式変速機構
14 サンギヤ
15 リングギヤ
16 プラネタリピニオン
17 キャリア
21 変速機コントローラ
22 変速制御情報検出センサ群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦式変速要素を解放状態から締結状態へ切り替える動作と、係合式変速要素を抜き力の付与により噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替える動作とにより変速が可能な自動変速機において、
前記摩擦式変速要素の解放状態から締結状態への切り替えを、後期は前期よりも緩やかに進行させる摩擦式変速要素切り替え速度制御手段と、
該手段により摩擦式変速要素が緩やかに解放状態から締結状態に切り替えられている後期の所定タイミングより前記係合式変速要素への抜き力の付与を行って、該係合式変速要素の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えを生起させる係合式変速要素切り替え手段とを具備してなることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された、自動変速機の変速制御装置において、
前記後期における摩擦式変速要素の緩やかな解放状態から締結状態への状態切り替え速度は、前記係合式変速要素切り替え手段による抜き力付与開始タイミングを、前記係合式変速要素が適切なタイミングで噛み合い状態から非噛み合い状態へ切り替えられるよう制御し得る緩やかな状態切り替え速度であることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された、自動変速機の変速制御装置において、
前記摩擦式変速要素切り替え速度制御手段は、摩擦式変速要素を解放状態から締結状態へ切り替える動作の開始時から、前記係合式変速要素の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えが生起されるまでの時間が目標時間となるよう、前記後期における摩擦式変速要素の緩やかな状態切り替え速度を変更するものであることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された、自動変速機の変速制御装置において、
前記摩擦式変速要素切り替え速度制御手段は、前記摩擦式変速要素の状態切り替え速度を低下させ始める摩擦式変速要素状態切り替え速度低下開始タイミングから、前記係合式変速要素の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えが生起されるまでの時間が目標時間となるよう、前記後期における摩擦式変速要素の緩やかな状態切り替え速度を変更するものであることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された、自動変速機の変速制御装置において、
前記摩擦式変速要素切り替え速度制御手段は、摩擦式変速要素を解放状態から締結状態へ切り替える動作の開始時から、前記係合式変速要素の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えが生起されるまでの時間が目標時間となるよう、前記前期における摩擦式変速要素の速やかな状態切り替え速度を変更するものであることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載された、自動変速機の変速制御装置において、
前記摩擦式変速要素切り替え速度制御手段は、前記摩擦式変速要素の状態切り替え速度を低下させ始める摩擦式変速要素状態切り替え速度低下開始タイミングから、前記係合式変速要素の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えが生起されるまでの時間が目標時間となるよう、前記前期における摩擦式変速要素の速やかな状態切り替え速度を変更するものであることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載された、自動変速機の変速制御装置において、
前記摩擦式変速要素切り替え速度制御手段は、摩擦式変速要素を解放状態から締結状態へ切り替える動作の開始時から、前記係合式変速要素の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えが生起されるまでの時間が目標時間となるよう、前記摩擦式変速要素の状態切り替え速度を低下させ始める摩擦式変速要素状態切り替え速度低下開始タイミングを変更するものであることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載された、自動変速機の変速制御装置において、
前記摩擦式変速要素切り替え速度制御手段は、前記摩擦式変速要素の状態切り替え速度を低下させ始める摩擦式変速要素状態切り替え速度低下開始タイミングから、前記係合式変速要素の噛み合い状態から非噛み合い状態への切り替えが生起されるまでの時間が目標時間となるよう、前記摩擦式変速要素状態切り替え速度低下開始タイミングを変更するものであることを特徴とする自動変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−83312(P2013−83312A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223887(P2011−223887)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】