説明

自動変速装置および変速機の変速段の異常判定方法

【課題】変速機の変速段の異常を誤判定するのを抑制する。
【解決手段】車速Vに基づいて許容最低変速段GSminを設定し(S110)、推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満のときには(S120)、その要因が推定変速段GSestの変更によるものであるときには自動変速機の変速段は異常であると判定し(S130,S140)、その要因が許容最低変速段GSminの変更によるものであるときには、推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったことだけでは自動変速機の変速段が異常であるとは判定せず、入力軸回転速度Ninに応じて自動変速機の変速段が異常であるか否かを判定する(S130〜S150)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速装置および変速機の変速段の異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動変速装置としては、走行状態に応じて変速機の変速を行なう自動変速モードと、手動操作に基づいて変速機の変速を行なう手動変速モードとを有し、手動変速モードが選択されているときでも、ブレーキ操作されて車両が停止したり減速した場合には第1速もしくは第2速への変速を実行し、高車速で第1速や第2速などの低速段が指示されている場合には所定の中高速段に変速するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、こうした制御により、前者の場合には変速機の入力軸に接続されたエンジンのストールを防止し、後者の場合にはエンジンのオーバーレブなどを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−83327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした自動変速装置では、変速機の変速段を変速機の入力軸の回転速度が所定回転速度以下となる(超えない)最低変速段と比較して、変速機の変速段が最低変速段よりギヤ比の大きい(低速側の)変速段のときに、その変速段は異常であると判定することが考えられている。しかしながら、自動車の走行状態などによっては、実際にはその変速段は異常でないにも拘わらず変速段が最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となることがあり、この場合、変速機の変速段と最低変速段との単純な比較だけでは変速段の異常を誤判定してしまうおそれがある。
【0005】
本発明の自動変速装置および変速機の変速段の異常判定方法は、変速機の変速段の異常を誤判定するのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動変速装置および変速機の変速段の異常判定方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の自動変速装置は、
複数の摩擦係合要素のうち組み合わせの異なる2つの摩擦係合要素を係合した状態とすることによって複数の変速段を実現する変速機を備える車載用の自動変速装置であって、
車速を取得する車速取得手段と、
前記変速機の変速段を取得する変速段取得手段と、
前記取得された車速に基づいて、前記複数の変速段のうち前記変速機の入力軸の回転速度が予め定められた所定回転速度以下となる変速段であって、最もギヤ比の大きい変速段としての許容最低変速段を設定する許容最低変速段設定手段と、
前記変速機の変速段の変更によって、前記変速段取得手段により取得された変速段が前記許容最低変速段設定手段により設定された許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには前記変速段は異常であると判定し、前記許容最低変速段設定手段により設定される許容最低変速段の変更によって、前記変速段取得手段により取得された変速段が前記許容最低変速段設定手段により設定された許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには前記変速段が異常であるとは判定しない異常判定手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の自動変速装置では、車速に基づいて複数の変速段のうち変速機の入力軸の回転速度が予め定められた所定回転速度以下となる変速段であって最もギヤ比の大きい変速段としての許容最低変速段を設定し、変速機の変速段の変更によって変速段が許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには変速段は異常であると判定し、許容最低変速段の変更によって変速段が許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには変速段が異常であるとは判定しない。即ち、変速機の変速段が許容最低変速段よりギヤ比の大きい(低速側の)変速段となったときには、その要因によって変速機の変速段が異常であるか否かを判定するのである。これにより、変速機の変速段が許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったことだけで変速機の変速段が異常であると判定するものに比して、変速機の変速段の異常を誤判定するのを抑制することができる。
【0009】
こうした本発明の自動変速装置において、前記異常判定手段は、前記設定される許容最低変速段の変更によって前記取得された変速段が前記設定された許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには、前記変速機の入力軸の回転速度が前記所定回転速度より大きな回転速度として定められた第2の所定回転速度より大きくなったときに前記変速段は異常であると判定する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、変速機の変速段の異常をより確実に検出することができる。
【0010】
また、本発明の自動変速装置において、前記変速段取得手段は、現在形成されている変速段として前記複数の摩擦係合要素に作動流体を給排するアクチュエータにおける複数のソレノイドバルブの各々に印加される電流値に基づいて推定される変速段,現在形成されている変速段として前記変速機の入力軸の回転速度と該変速機の出力軸の回転速度との回転速度比に基づいて推定される変速段,形成すべき変速段として車速に基づいて設定される変速段のいずれかを取得する手段である、ものとすることもできる。
【0011】
本発明の変速機の変速段の異常判定方法は、
複数の摩擦係合要素のうち組み合わせの異なる2つの摩擦係合要素を係合した状態とすることによって複数の変速段を実現する変速機を備える車載用の自動変速装置における変速機の変速段の異常判定方法であって、
車速に基づいて、前記複数の変速段のうち前記変速機の入力軸の回転速度が予め定められた所定回転速度以下となる変速段であって、最もギヤ比の大きい変速段としての許容最低変速段を設定し、
前記変速機の変速段の変更によって該変速段が前記設定した許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには前記変速段は異常であると判定し、前記設定した許容最低変速段の変更によって前記変速段が前記設定した許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには前記変速段が異常であるとは判定しない、
ことを特徴とする。
【0012】
この本発明の変速機の変速段の異常判定方法では、車速に基づいて複数の変速段のうち変速機の入力軸の回転速度が予め定められた所定回転速度以下となる変速段であって最もギヤ比の大きい変速段としての許容最低変速段を設定し、変速機の変速段の変更によって変速段が許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには変速段は異常であると判定し、許容最低変速段の変更によって変速段が許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには変速段が異常であるとは判定しない。即ち、変速機の変速段が許容最低変速段よりギヤ比の大きい(低速側の)変速段となったときには、その要因によって変速機の変速段が異常であるか否かを判定するのである。これにより、変速機の変速段が許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったことだけで変速機の変速段が異常であると判定するものに比して、変速機の変速段の異常を誤判定するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例としての自動変速装置20を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】自動変速装置20の機械的構成の概略を示す構成図である。
【図3】自動変速機30の各変速段とクラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1,B−2の作動状態との関係を表した作動表を示す説明図である。
【図4】自動変速機30を構成する回転要素間における回転速度の関係を例示する共線図を示す説明図である。
【図5】クラッチC−1〜C−3やブレーキB1とリニアソレノイドバルブ52〜58との関係の一例を示す説明図である。
【図6】変速マップの一例を示す説明図である。
【図7】変速機ECU80により実行される異常判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】許容最低変速段設定用マップの一例を示す説明図である。
【図9】推定変速段GSestの変更によって推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったときの車速V,許容最低変速段GSmin,推定変速段GSest,変速段の異常の判定の時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【図10】許容最低変速段GSminの変更によって推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったときの車速V,許容最低変速段GSmin,推定変速段GSest,入力軸回転速度Nin,変速段の異常の判定の時間変化の様子の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としての自動変速装置20を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図であり、図2は、自動変速装置20の機械的構成の概略を示す構成図である。実施例の自動車10は、図1および図2に示すように、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関としてのエンジン12と、エンジン12を運転制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)16と、エンジン12のクランクシャフト14に取り付けられた流体伝動装置22と、この流体伝動装置22の出力側に入力軸31が接続されると共にギヤ機構48やデファレンシャルギヤ49を介して駆動輪11a,11bに出力軸32が接続され入力軸31に入力された動力を変速して出力軸32に伝達する有段の自動変速機30と、流体伝動装置22や自動変速機30に作動油を供給する油圧回路50と、油圧回路50を制御することによって流体伝動装置22や自動変速機30を制御する変速機用電子制御ユニット(以下、変速機ECUという)80と、図示しない電子制御式油圧ブレーキユニットを制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、ブレーキECUという)17と、を備える。ここで、実施例の自動変速装置20としては、主に自動変速機30,油圧回路50,変速機ECU80が該当する。
【0016】
エンジンECU16は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。エンジンECU16にはクランクシャフト14に取り付けられた回転速度センサ14aからのエンジン回転速度Neなどのエンジン12の運転状態を検出する各種センサからの信号やアクセルペダル93の踏み込み量としてのアクセル開度Accを検出するアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,車速センサ98からの車速Vなどの信号が入力ポートを介して入力されており、エンジンECU16からは、スロットルバルブを駆動するスロットルモータへの駆動信号や燃料噴射弁への制御信号,点火プラグへの点火信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0017】
流体伝動装置22は、図2に示すように、ロックアップクラッチ付きの流体式トルクコンバータとして構成されており、フロントカバー18を介してエンジン12のクランクシャフト14に接続された入力側流体伝動要素としてのポンプインペラ23と、タービンハブを介して自動変速機30の入力軸31に接続された出力側流体伝動要素としてのタービンランナ24と、ポンプインペラ23およびタービンランナ24の内側に配置されてタービンランナ24からポンプインペラ23への作動油の流れを整流するステータ25と、ステータ25の回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ26と、ダンパ機構を有するロックアップクラッチ28と、を備える。この流体伝動装置22は、ポンプインペラ23とタービンランナ24との回転速度の差が大きいときにはステータ25の作用によってトルク増幅機として機能し、ポンプインペラ23とタービンランナ24との回転速度の差が小さいときには流体継手として機能する。また、ロックアップクラッチ28は、ポンプインペラ23(フロントカバー18)とタービンランナ24(タービンハブ)とを連結するロックアップとロックアップの解除とを実行可能なものであり、自動車10の発進後にロックアップオン条件が成立すると、ロックアップクラッチ28によってポンプインペラ23とタービンランナ24とがロックアップされてエンジン12からの動力が入力軸31に機械的かつ直接的に伝達されるようになる。なお、この際に入力軸31に伝達されるトルクの変動は、ダンパ機構によって吸収される。
【0018】
自動変速機30は、6段変速の有段変速機として構成されており、シングルピニオン式の遊星歯車機構35とラビニヨ式の遊星歯車機構40と3つのクラッチC−1,C−2,C−3と2つのブレーキB−1,B−2とワンウェイクラッチF−1とを備える。シングルピニオン式の遊星歯車機構35は、外歯歯車としてのサンギヤ36と、このサンギヤ36と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ37と、サンギヤ36に噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のピニオンギヤ38と、複数のピニオンギヤ38を自転かつ公転自在に保持するキャリア39とを備え、サンギヤ36はケースに固定されており、リングギヤ37は入力軸31に接続されている。ラビニヨ式の遊星歯車機構40は、外歯歯車の2つのサンギヤ41a,41bと、内歯歯車のリングギヤ42と、サンギヤ41aに噛合する複数のショートピニオンギヤ43aと、サンギヤ41bおよび複数のショートピニオンギヤ43aに噛合すると共にリングギヤ42に噛合する複数のロングピニオンギヤ43bと、複数のショートピニオンギヤ43aおよび複数のロングピニオンギヤ43bとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア44とを備え、サンギヤ41aはクラッチC−1を介してシングルピニオン式の遊星歯車機構35のキャリア39に接続され、サンギヤ41bはクラッチC−3を介してキャリア39に接続されると共にブレーキB−1を介してケースに接続され、リングギヤ42は出力軸32に接続され、キャリア44はクラッチC−2を介して入力軸31に接続されている。また、キャリア44はブレーキB2を介してケースに接続されると共にワンウェイクラッチF−1を介してケースに接続されている。図3に自動変速機30の各変速段とクラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1,B−2の作動状態との関係を表した作動表を示し、図4に自動変速機30を構成する回転要素間における回転速度の関係を例示する共線図を示す。この自動変速機30は、図3の作動表に示すように、クラッチC−1〜C−3のオンオフ(オンが係合状態でオフが解放状態)とブレーキB−1,B−2のオンオフとの組み合わせによって前進1速〜6速と後進とニュートラルとを切り替えることができる。
【0019】
流体伝動装置22や自動変速機30は、変速機ECU80によって駆動制御される油圧回路50によって作動する。油圧回路50は、エンジン12からの動力を用いて作動油を圧送するオイルポンプや、オイルポンプからの作動油を調圧してライン圧PLを生成するプライマリレギュレータバルブ,プライマリレギュレータバルブからのライン圧PLを減圧してセカンダリ圧Psecを生成するセカンダリレギュレータバルブ,プライマリレギュレータバルブからのライン圧PLを調圧して一定のモジュレータ圧Pmodを生成するモジュレータバルブ,シフトレバー91の操作位置に応じてプライマリレギュレータバルブからのライン圧PLの供給先(クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2)を切り替えるマニュアルバルブ,図示しない補機バッテリから印加される電流に応じてマニュアルバルブからのライン圧PLを調圧して対応するクラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2へのソレノイド圧を生成するノーマルクローズ型の複数のリニアソレノイドバルブ52〜58などを備える。図5は、クラッチC−1〜C−3やブレーキB1とリニアソレノイドバルブ52〜58との関係の一例を示す説明図である。なお、ブレーキB2は、実施例では、前進1速でのエンジンブレーキ時にはクラッチC−3に対応するソレノイドバルブ56からの作動油が図示しない切り替えバルブを介して供給され、シフトレバー91の操作位置がリバースポジション(Rポジション)のときにはマニュアルバルブから作動油が供給されるようになっているものとした。即ち、実施例では、油圧回路50はブレーキB2専用のリニアソレノイドバルブを有しないものとした。
【0020】
変速機ECU80は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。変速機ECU80には、クランクシャフト14に取り付けられた回転速度センサ14aからのエンジン回転速度Neなどのエンジン12の運転状態を検出する各種センサからの信号や、入力軸31に取り付けられた回転速度センサ31aからの入力軸回転速度Ninや、出力軸32に取り付けられた回転速度センサ32aからの出力軸回転速度Nout,ソレノイドバルブ52〜58に印加される電流を検出する電流センサ52a〜58aからの電流Ic1〜Ib1,シフトレバー91の位置を検出するシフトポジションセンサ92からのシフトポジションSP,アクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル95の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ96からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ98からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されており、変速機ECU80からは、油圧回路50への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0021】
なお、エンジンECU16とブレーキECU17と変速機ECU80は、相互に通信ポートを介して接続されており、相互に制御に必要な各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。また、シフトレバー91のシフトポジションSPとしては、実施例では、駐車時に用いる駐車ポジション(Pポジション)、後進走行用のリバースポジション(Rポジション)、中立のニュートラルポジション(Nポジション)、前進走行用の通常のドライブポジション(Dポジション)が用意されている。
【0022】
こうして構成された実施例の自動変速装置20では、変速機ECU80は、アクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Accと車速センサ98からの車速Vと図6の変速マップとに基づいて目標変速段GS*を設定し、設定した目標変速段GS*が自動変速機30に形成されるよう、即ち、クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2のうち目標変速段GS*に応じたクラッチやブレーキがオンとなり他のクラッチやブレーキがオフとなるよう油圧回路50を制御する。具体的には、図6の変速マップに示すように、アクセル開度Accと車速Vとからなる作動ポイントが1−2アップシフトライン,2−3アップシフトライン,3−4アップシフトライン,4−5アップシフトライン,5−6アップシフトラインを左の数字以下の変速段(例えば2−3アップシフトラインでは1速〜2速)の状態で左側から右側に超えるときにそのときの変速段から右の数字の変速段(例えば2−3アップシフトラインでは3速)にアップシフトするようクラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2をオンオフし、アクセル開度Accと車速Vとからなる作動ポイントが6−5ダウンシフトライン,5−4ダウンシフトライン,4−3ダウンシフトライン,3−2ダウンシフトライン,2−1ダウンシフトラインを左の数字以上の変速段(例えば4−3ダウンシフトラインでは4速〜6速)の状態で右側から左側に超えるときにそのときの変速段から右の数字の変速段(例えば4−3ダウンシフトラインでは3速)にダウンシフトするようクラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2をオンオフする。
【0023】
次に、実施例の自動変速装置20の動作、特に、自動変速装置20の自動変速機30の変速段が異常であるか否かを判定する際の動作について説明する。図7は、変速機ECU80により実行される異常判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎や数十msec毎)に繰り返し実行される。
【0024】
異常判定ルーチンが実行されると、変速機ECU80は、まず、回転速度センサ31aからの入力軸回転速度Ninや車速センサ98からの車速V,自動変速機30の変速段として推定される推定変速段GSestなどのデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、推定変速段GSestは、シフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPや、エンジンECU16からのエンジンブレーキ中か否かの信号,電流センサ52a〜58aからの電流Ic1〜Ib1などに基づいてクラッチC−1〜C−3,ブレーキB−1,B−2のうちオンとなっているものを特定することによって現在形成されている変速段を推定して入力するものとした。
【0025】
こうしてデータを入力すると、入力した車速Vに基づいて、入力軸回転速度Ninが上限回転速度Ninmaxより若干低い所定回転速度Ninref以下となる変速段のうち最もギヤ比の大きい変速段としての許容最低変速段GSminを設定する(ステップS110)。ここで、許容最低変速段GSminは、実施例では、車速Vと許容最低変速段GSminとの関係を予め実験や解析などによって許容最低変速段設定用マップとして変速機ECU80の図示しないROMに記憶しておき、車速Vが与えられると記憶したマップから対応する許容最低変速段GSminを導出して設定するものとした。図8に許容最低変速段設定用マップの一例を示す。図8から分かるように、許容最低変速段GSminには、車速Vが高いほどギヤ比(入力軸31の回転速度/出力軸32の回転速度)の小さい(高速側の)変速段が設定される。なお、前述の図6の変速マップは、許容最低変速段GSminと同一またはそれよりギヤ比の小さい変速段が目標変速段GS*に設定されるよう定められている。また、上限回転速度Ninmaxは、入力軸回転速度Ninの許容範囲の上限として、自動変速機30の入力軸31に流体伝動装置22を介して接続されたエンジン12の仕様などによって定められ、例えば、5000rpmや6000rpmなどを用いることができる。さらに、所定回転速度Ninrefは、上限回転速度Ninmaxより数十rpm〜数百rpm程度低い回転速度などを用いることができる。
【0026】
続いて、入力した推定変速段GSestを許容最低変速段GSminと比較し(ステップS120)、推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin以上(許容最低変速段GSminと同一またはそれよりギヤ比の小さい(高速側の)変速段)のときには、そのまま本ルーチンを終了する。
【0027】
推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満(許容最低変速段GSminよりギヤ比の大きい(低速側の)変速段)のときには、変速段が異常である可能性があると判断し、推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となった要因を調べ(ステップS130)、その要因が推定変速段GSestの変更によるものであるときには、自動変速機30の変速段が異常であると判定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。これにより、例えば、許容最低変速段GSminが4速であり、目標変速段GS*が5速でクラッチC−2,C−3をオンとすべきとき(オンで保持すべきとき)に何らかの異常によってクラッチC−1,C−3がオンとなって3速が形成されてしまった場合などに、自動変速機30の変速段の異常を検出することができる。なお、推定変速段GSestの変更によって推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となる場合としては、例えば、変速機ECU80による演算異常や指令値の出力異常が生じたとき,油圧回路50の作動異常が生じたとき,電流センサ52a〜52aの検出異常が生じたときなどが考えられる。また、実施例では、自動変速機30の変速段の異常を判定すると、自動車10の図示しない警告灯の点灯や、警告音や音声による警告,ギヤ比の小さい(高速側の)変速段への変速,クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2の開放などの処理を必要に応じて行なうものとした。
【0028】
推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となった要因が推定変速段GSestの変更によるものではなく許容最低変速段GSminの変更によるものであるときには、入力時回転速度Ninを上述の上限回転速度Ninmaxと比較し(ステップS140)、入力軸回転速度Ninが上限回転速度Ninmax以下のときには、自動変速機30の変速段が異常であると判定せずにそのまま本ルーチンを終了し、入力軸回転速度Ninが上限回転速度Ninmaxより大きいときには、自動変速機30の変速段は異常であると判定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。即ち、推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となった要因が許容最低変速段GSminの変更によるものであるときには、入力軸回転速度Ninに応じて自動変速機30の変速段が異常であるか否かを判定するのである。例えば、車速センサ98が自動車10の駆動輪11a,11bの駆動輪速などに基づいて車速Vを算出するものであり、自動変速装置20が駆動輪11a,11bの空転によるスリップ時などにはギヤ機構48やデファレンシャルギヤ49の過回転を抑制するなどのために自動変速機30のアップシフトを行なわないものである場合を考えると、駆動輪11a,11bの空転によるスリップなどによって車速センサ98からの車速Vが上昇したときに許容最低変速段GSminが3速から4速などギヤ比の小さい(高速側の)変速段に切り替わるにも拘わらず推定変速段GSestは切り替わらない場合が生じる。この場合、推定変速段GSestが変更された訳ではなく自動変速装置20のいずれかで異常が生じているとは言い難いため、自動変速機30の変速段が異常であるとは判定しない方が好ましい。実施例では、推定許容変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったことだけでは自動変速機30の変速段が異常であるとは判定しないことにより、推定許容変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったことだけで自動変速機30の変速段が異常であると判定するものに比して、自動変速機30の変速段の異常を誤判定するのを抑制することができる。しかも、実施例では、その後に入力軸回転速度Ninが上限回転速度Ninmaxを超えたときには、自動変速機30の変速段は異常であると判定するから、自動変速機30の変速段の異常をより確実に検出することができる。そして、実施例では、入力軸回転速度Ninが上限回転速度Ninmaxより大きくなって自動変速機30の変速段が異常であると判定すると、ギヤ比の小さい(高速側の)変速段への変速や、クラッチC−1〜C−3やブレーキB−1,B−2の開放などの処理を行なうものとした。これにより、自動変速機30の入力軸31やその入力軸31に流体伝動装置22を介して接続されたエンジン12の過回転を抑制することができる。
【0029】
図9は、推定変速段GSestの変更によって推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったときの車速V,許容最低変速段GSmin,推定変速段GSest,変速段の異常の判定の時間変化の様子の一例を示す説明図であり、図10は、許容最低変速段GSminの変更によって推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったときの車速V,許容最低変速段GSmin,推定変速段GSest,変速段の異常の判定の時間変化の様子の一例を示す説明図である。図9の例では、推定変速段GSestの変更によって推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったとき(時刻T1)に自動変速機30の変速段の異常であると判定する。一方、図10の例では、許容最低変速段GSminの変更によって推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったとき(時刻T2)には自動変速機30の変速段の異常とは判定せず、その後に、その状態で入力軸回転速度Ninが上限回転速度Ninmaxを超えたとき(時刻T3)に自動変速機30の変速段の異常と判定する。このように推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となった要因に応じて自動変速機30の変速段が異常であるか否かを判定することにより、この判定をより適正に行なうことができる。
【0030】
以上説明した実施例の自動変速装置20によれば、推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満のときには、その要因が推定変速段GSestの変更によるものであるときには自動変速機30の変速段は異常であると判定し、その要因が許容最低変速段GSminの変更によるものであるときには推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったことだけでは自動変速機30の変速段が異常であるとは判定しないから、目標変速段GS*や推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったときに他の条件に拘わらず自動変速機30の変速段は異常であると判定するものに比して、自動変速機30の変速段の異常を誤判定するのを抑制することができる。しかも、推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となった要因が許容最低変速段GSminの変更によるものであるときにおいて、入力軸回転速度Ninが上限回転速度Ninmaxを超えたときには、自動変速機30の変速段は異常であると判定するから、自動変速機30の変速段の異常をより確実に判定してその後に適正な対処をすることによって自動変速機30の入力軸31や入力軸31に流体伝動装置22を介して接続されたエンジン12の過回転を抑制することができる。
【0031】
実施例の自動変速装置20では、推定変速段GSestは、シフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPや、エンジンECU16からのエンジンブレーキ中か否かの信号,電流センサ52a〜58aからの電流Ic1〜Ib1などに基づいてクラッチC−1〜C−3,ブレーキB−1,B−2のうちオンとなっているものを特定することによって現在形成されている変速段を推定するものとしたが、これに限られず、例えば、自動変速機30の入力軸31の回転速度である入力軸回転速度Ninと出力軸32の回転速度である出力軸回転速度Noutとの回転速度比(Nin/Nout)に基づいて変速段を推定するものなどとしてもよい。
【0032】
実施例の自動変速装置20では、推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったときにその要因に応じて自動変速機30の変速段が異常であるか否かを判定するものとしたが、推定変速段GSestに代えてまたは加えて、上述の目標変速段GS*などを用いるものとしてもよい。この場合、目標変速段GS*の変更によって目標変速段GS*が許容最低変速段GSmin未満となる場合としては、例えば、変速機ECU80による演算異常が生じたときなどが考えられる。
【0033】
実施例の自動変速装置20では、許容最低変速段GSminの変更によって推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったときには、回転速度センサ31aからの入力軸回転速度Ninと上限回転速度Ninmaxとの比較によって自動変速機30の変速段が異常であるか否かを判定するものとしたが、これに代えて、回転速度センサ14aからのエンジン回転速度Neと上限回転速度Ninmaxに対応するエンジン12の回転速度としてのエンジン側上限回転速度Nemaxとの比較によって自動変速機30の変速段が異常であるか否かを判定するものとしてもよい。
【0034】
実施例の自動変速装置20では、6速の自動変速機30を用いるものとしたが、3速や4速,5速の自動変速機を用いるものとしてもよいし、7速や8速以上の自動変速機を用いるものとしてもよい。
【0035】
実施例では、自動変速装置20の形態に適用するものとしたが、変速機の制御方法の形態としてもよい。
【0036】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、自動変速機30が「変速機」に相当し、車速センサ98やその車速センサ98からの車速Vを入力する図7の異常判定ルーチンのステップS100の処理を実行する変速機ECU80が「車速取得手段」に相当し、シフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPや、エンジンECU16からのエンジンブレーキ中か否かの信号,電流センサ52a〜58aからの電流Ic1〜Ib1などに基づいて推定した推定変速段GSestを入力する図7の異常判定ルーチンのステップS100の処理を実行する変速機ECU80が「変速段取得手段」に相当し、車速センサ98からの車速Vが高いほどギヤ比の小さい(高速側の)変速段を許容最低変速段GSminに設定する図7の異常判定ルーチンのステップS110の処理を実行する変速機ECU80が「許容最低変速段設定手段」に相当し、推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満のときには、その要因が推定変速段GSestの変更によるものであるときには自動変速機30の変速段は異常であると判定し、その要因が許容最低変速段GSminの変更によるものであるときには推定変速段GSestが許容最低変速段GSmin未満となったことだけでは自動変速機30の変速段が異常であるとは判定しない図7の異常判定ルーチンのステップS120〜S150の処理を実行する変速機ECU80が「異常判定手段」に相当する。
【0037】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0038】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、自動変速装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 自動車、11a,11b 駆動輪、12 エンジン、14 クランクシャフト、14a 回転速度センサ、16 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、17 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU」)、18 フロントカバー、20 動力伝達装置、22 流体伝動装置、23 ポンプインペラ、24 タービンランナ、25 ステータ、26 ワンウェイクラッチ、28 ロックアップクラッチ、30 自動変速機、31 入力軸、31a 回転速度センサ、32 出力軸、32a 回転速度センサ、35 遊星歯車機構、36 サンギヤ、37 リングギヤ、38 ピニオンギヤ、39 キャリア、40 遊星歯車機構、41a サンギヤ、41b サンギヤ、42 リングギヤ、43a ショートピニオンギヤ、43b ロングピニオンギヤ、44 キャリア、48 ギヤ機構、49 デファレンシャルギヤ、50 油圧回路、80 変速機用電子制御ユニット(変速機ECU)、91 シフトレバー、92 シフトポジションセンサ、93 アクセルペダル、94 アクセルペダルポジションセンサ、95 ブレーキペダル、96 ブレーキスイッチ、98 車速センサ、B−1,B−2 ブレーキ、C−1〜C−3 クラッチ、F−1 ワンウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の摩擦係合要素のうち組み合わせの異なる2つの摩擦係合要素を係合した状態とすることによって複数の変速段を実現する変速機を備える車載用の自動変速装置であって、
車速を取得する車速取得手段と、
前記変速機の変速段を取得する変速段取得手段と、
前記取得された車速に基づいて、前記複数の変速段のうち前記変速機の入力軸の回転速度が予め定められた所定回転速度以下となる変速段であって、最もギヤ比の大きい変速段としての許容最低変速段を設定する許容最低変速段設定手段と、
前記変速機の変速段の変更によって、前記変速段取得手段により取得された変速段が前記許容最低変速段設定手段により設定された許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには前記変速段は異常であると判定し、前記許容最低変速段設定手段により設定される許容最低変速段の変更によって、前記変速段取得手段により取得された変速段が前記許容最低変速段設定手段により設定された許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには前記変速段が異常であるとは判定しない異常判定手段と、
を備える自動変速装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速装置であって、
前記異常判定手段は、前記設定される許容最低変速段の変更によって前記取得された変速段が前記設定された許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには、前記変速機の入力軸の回転速度が前記所定回転速度より大きな回転速度として定められた第2の所定回転速度より大きくなったときに前記変速段は異常であると判定する手段である、
自動変速装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動変速装置であって、
前記変速段取得手段は、現在形成されている変速段として前記複数の摩擦係合要素に作動流体を給排するアクチュエータにおける複数のソレノイドバルブの各々に印加される電流値に基づいて推定される変速段,現在形成されている変速段として前記変速機の入力軸の回転速度と該変速機の出力軸の回転速度との回転速度比に基づいて推定される変速段,形成すべき変速段として車速に基づいて設定される変速段のいずれかを取得する手段である、
自動変速装置。
【請求項4】
複数の摩擦係合要素のうち組み合わせの異なる2つの摩擦係合要素を係合した状態とすることによって複数の変速段を実現する変速機を備える車載用の自動変速装置における変速機の変速段の異常判定方法であって、
車速に基づいて、前記複数の変速段のうち前記変速機の入力軸の回転速度が予め定められた所定回転速度以下となる変速段であって、最もギヤ比の大きい変速段としての許容最低変速段を設定し、
前記変速機の変速段の変更によって該変速段が前記設定した許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには前記変速段は異常であると判定し、前記設定した許容最低変速段の変更によって前記変速段が前記設定した許容最低変速段よりギヤ比の大きい変速段となったときには前記変速段が異常であるとは判定しない、
変速機の変速段の異常判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−211634(P2012−211634A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77272(P2011−77272)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】