説明

自動測定用カートリッジおよび測定方法

【課題】
自動測定装置と組み合わされて用いられる試薬入りカートリッジを温度調節するに際して、用いられる試薬の絶対量が少ない場合などの、温度センサで直接に試薬温度を計測できない場合であっても、試薬カートリッジ周辺温度を計測するのではなく、カートリッジ内部の温度を直接に計測することでより現実的な温度情報を得る。
【解決手段】
試薬槽と 反応槽を含む複数の槽を有する自動測定用カートリッジにおいて、内部を直接に温度センサにより温度を計測される試薬温度制御専用槽をさらに有するカートリッジである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動測定装置と組み合わされて用いられる試薬入りカートリッジに関し、特に、温度調節を必要とするカートリッジと、その温度調節の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの血液等の体液中の微量成分を定量分析することにより、病気の診断や治療に役立たせようとするいわゆる診断薬の分野において、従来から、種々の特異選択的反応が利用されている。このような特異選択的反応は、血液等の体液を検体とし、この中に存在する蛋白質等の微量成分の量を測定することを目的とするものであり、例えば、抗原抗体反応等が挙げられる。また、このような抗原抗体反応と発色等の測定に必須の反応とを組み合わせることにより、いわゆる免疫測定法等が行われている。
【0003】
このような免疫測定法のなかでも、酵素免疫測定法(EIA)及びラテックス凝集法は、高感度でありながらも平易な測定法として汎用されている。
【0004】
近年、この分野での改良が進み、現在では免疫測定法の工程のすべてを自動的に行う自動測定法が盛んになってきている。それらは、必要な全ての試薬類がパック化された複数槽を有するカートリッジを用い、カートリッジに対応する専用の自動測定装置で簡易に分析が可能なものである。使用者はカートリッジ内の反応槽へ検体を入れ、自動測定装置へセットするだけでよい(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭53−91120号公報
【特許文献2】特開平3−181853号公報
【特許文献3】特開平11−316226号公報
【特許文献4】特開2001−318101号公報
【0006】
また、このような自動測定装置とカートリッジを用いる場合、自動測定装置内部において、外部からの熱的影響をキャンセルし、カートリッジ内部での試薬および検体の反応促進を目的として、温度調節が行われることが一般的である(専用カートリッジではなく汎用の96穴プレートであるが、例えば、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8を参照)。
【0007】
【特許文献5】特開平8−233826号公報
【特許文献6】特開平8−271532号公報
【特許文献7】特開平8−271533号公報
【特許文献8】特開平8−297126号公報
【0008】
自動測定装置におけるカートリッジの温調方法は、金属ブロックが使用されることが一般的である。例えば、カートリッジに接触する金属ブロックの裏側にシリコンラバーヒータを取りつけて、PID温度制御により該カートリッジ内の複数槽の温度調節を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このとき、試薬や検体の温度を計測する際には、測定装置内部の雰囲気温度、または試薬槽周辺のカートリッジ表面の温度を計測することで、その試薬の温度であるとして間接的に認識することが一般的である。もちろん、用いられる試薬が大量の場合には、試薬中へ直接に温度センサを挿入することが有り得るものの、このような免疫関連の試薬は、検体や酵素などが高価な場合が多く、用いられる試薬の絶対量(カートリッジに封入されている量)が少ない場合が多く、直接に温度センサで計測できない場合が殆どである。
【0010】
例えば、雰囲気温度を測定する場合には、温度測定位置が試薬カートリッジ設置位置から離れており、試薬カートリッジ温度と計測している装置内温度に深い関連がないため、試薬カートリッジの温度に合わせて温度制御することが不可能である。その結果、ヒーター部を常に目標温度に保つ必要があり、また、温調完了までに要する時間は、試薬カートリッジが設置されてから常に固定の一定時間となる。この一定時間は、考えられる試薬カートリッジの最低温度が、目標温度に到達するまでの時間であり、試薬カートリッジの温度に関係なくこの一定時間は必須である。
【0011】
また、試薬カートリッジ周辺温度(カートリッジの外壁などの温度)を計測し、温調制御する場合には、試薬カートリッジ周辺温度と、カートリッジ内試薬液温に相関があれば温調制御が可能となる。ただし、液温を直接測定するわけではなく、理想的な制御を組むことは困難である。
【0012】
さらに、試薬カートリッジ周辺温度を計測する場合には、
1.カートリッジ外壁が液温と相関が出るように、カートリッジを設計しなければならない。(ヒータ部の熱がカートリッジ外壁を回り込み、その温度測定外壁部が内部液温と相関関係がなく、ヒータ部と相関関係があるようでは理想的な制御は不可能である)
2.温度計測部はヒータ温度を計測しないような位置に設計しなければならない。
3.温度計測部は、装置外環境温度に影響を受ける、装置内の雰囲気温度に影響されない位置に設計しなければならない。
など注意事項を払わなければならない。つまり、試薬カートリッジ周辺の温度を計測する場合、外乱となる因子が多く、設計が困難になりがちである。
【0013】
別の手法として、少量しかない試薬へ直接に温度センサを挿入すると、センサに付着する試薬の量が相対的に無視できないほどの量になること、複数の槽の間で、その付着した試薬又は検体によるコンタミネーションの問題が生じてしまう。かといって、上記のような間接的な計測では、試薬温度を直接に制御しないために、試薬反応時の試薬温度にバラツキを生じる可能性がある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、用いられる試薬の絶対量が少ない場合などの温度センサで直接に試薬温度を計測できない場合であっても、カートリッジ内部の温度を直接に計測することでより現実的な温度情報を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記のような問題を解決するために、本発明は、化学反応に用いる試薬が封入されている試薬槽と前記反応のための反応槽を含む複数の槽を有し、検体中に存在する微量成分を自動的に分析する自動測定装置に組み込まれて用いる自動測定用カートリッジであって、
前記反応の際の温度調節を行うために試薬温度を測定するにおいて、内部を直接に温度センサにより温度を計測される試薬温度制御専用槽をさらに有することを特徴とする自動測定用カートリッジである。以下に本発明を詳述する。
【0016】
また、本発明は、検体中に存在する微量成分を自動的に分析するための化学反応に用いる試薬が封入されている試薬槽と前記反応のための反応槽を含む複数の槽を有するカートリッジと、該カートリッジと組み合わされる自動測定装置を用いる測定方法であって、該カートリッジへ試薬温度制御専用槽をさらに設け、該試薬温度制御専用槽中に含まれる流体を直接に温度センサで計測し、その温度情報をもとにカートリッジ全体の温度調節へフィードバックすることを特徴とする測定方法である。
【0017】
本発明の自動測定用カートリッジにおける試薬温度制御専用槽中には、試薬の性状に応じた流体が封入されていることが好ましい。流体があることで、温度センサによる計測が、より確実になる。
【0018】
また、本発明の自動測定用カートリッジにおける試薬槽に封入されている一般的な試薬は、粉末試薬と液状試薬があるが、封入されている前記試薬が液状である場合には、試薬の性状に応じたその試薬温度制御専用槽中の流体が液体であることが好ましい。もちろん、封入試薬が粉体であっても、検体が液状であり、試薬と検体が混合されて反応溶液になった場合には、試薬温度制御専用槽中の流体が液体であってもよい。
【0019】
試薬温度制御専用槽中の流体が液体である場合、試薬槽中の試薬の性状により、試薬温度制御専用槽中の液体もまた、その種類を変更することができる。試薬槽中の液状試薬だけでなく、試薬と検体が混合された反応溶液における、溶媒と溶質との比率、粘性及び熱伝導性などのパラメータを確認しておくことで、試薬槽中の液状試薬により近似の挙動を示す液体を選択することができる。それら液体は、例えば蒸留水、各種水溶液又はオイルの中から選択される。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、用いられる試薬の絶対量が少ない場合であって温度センサで直接に温度を計測できない場合であっても、カートリッジ内部の温度を直接に計測することで、より理想的な、現実に即した温度情報を得ることができる。制御槽液温とカートリッジ内試薬液温の相関を直接に求めるため、その温調時間も最短にすることが可能であり、装置を設計する際も、温度測定手段(温度センサ)が完全に液中に入るため、外乱を深く考慮する必要もない。
【0021】
例えば、環境温度5℃〜35℃で使用可能な専用装置において、カートリッジに封入された試薬液温の目標調節温度37℃であり、液温が38℃以上になると失活等が発生する場合を考えると、
雰囲気温度制御の場合:試薬カートリッジ温度が冷蔵保存されて5℃の場合でも、室温保存されて35℃の場合でも、温度調節に同一時間が必要となる。
本発明による制御の場合:試薬カートリッジ温度が5℃の場合、初期時にヒータ部50℃などの高温状態に高めておくことでカートリッジの高速な昇温が可能である一方、液温が38℃以下の37℃になるように制御することができ、試薬パック初期温度差によって理想的で高速な温度制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明で使用される自動測定用カートリッジの形状は、概念的には、例えば図1に示すような、試薬が封入されている試薬槽1と、化学反応のための反応槽を含む複数の槽2と、試薬温度制御専用槽3とを有していれば特に限定されず、例えば、反応槽と複数の格納槽とが並列的に並んで存在する舟型のもの等が挙げられる。もちろん、化学反応の種類・段階数により、試薬槽と反応槽の数や大きさは適宜変更される。図1では、試薬槽は3個、反応槽は2個である。なお、aは使用者が検体を入れるための任意の槽である。後述するが、カートリッジ上面はシール片で貼着されて各槽は密封されている。
【0023】
上記自動測定用カートリッジの大きさは特に限定されないが、自動測定装置に組み込んで用いるためには、より小型であることが好ましく、例えば、長さ1cm〜10cm、高さ0.5cm〜5cm、厚さ0.3cm〜3cm程度のもの等が挙げられる。また、反応槽、場合により試薬槽自身が吸光度測定などの光学的測定のセルとして利用されること一般的であるが、セル壁面の厚みとしては0.3mm〜1.5mmが好ましい。
【0024】
上記反応槽と試薬槽と試薬温度制御専用槽の槽自体の大きさや形状は、後述するような化学反応と試薬の格納を行うことができるものであれば特に限定されないが、例えば、直径1〜10mm程度の円筒型のものや直方体型のもの等が好ましい。これらは、上記カートリッジの本体を穿つようにして構成することができる。例えば、カートリッジ中の複数個の各槽は、一列に並んで形成されていてもよく、また円状の断面を有するカートリッジ本体中に均等に並んで形成されていてもよい。また、槽自体の形状は、円筒状でも角柱状でもよく、底面は円弧状でも角状でもよい。
【0025】
本発明の特徴である試薬温度制御専用槽の位置と個数は、カートリッジ中において特に限定されないが、試薬槽を両端から挟み込むような形で複数の温度制御槽があること(例えば、温度制御層−試薬層−温度制御層−試薬層−温度制御層・・・)が、温度調整を考える上では望ましいが、カートリッジ端に1箇所設ける態様でも十分に理想的な温調制御は可能であり、コスト的にも設計の容易さなどのメリットを考慮すると望ましい。
【0026】
必要な検体は通常200μl以下であるため、反応槽の内容積は20μl〜500μlが好ましい。試薬温度制御専用槽の内容量は、反応槽中の化学反応溶液の容積に合わせ、その熱容量を元に決定することができる。
【0027】
本発明のカートリッジは一体成型することが好ましく、その材質としてはポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフロロエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート等の、安価な各種プラスチックが用いられる。化学反応において、光学的に比色法等を行う場合を考慮して、無色透明な樹脂を用いることが好ましい。本発明のカートリッジにおいては、化学反応結果を吸光度測定することが好ましいことから、少なくとも化学反応槽の側面の少なくとも一部分に該当するカートリッジ部分が透明な材質の物質で形成されていることが望ましい。
【0028】
反応槽と試薬槽の上部開口部には、シール片が貼着され、各槽を気密に閉塞している。このシール片により、カートリッジの使用直前まで、試薬槽内部の試薬が液状の場合には蒸発を防ぎ、試薬槽内部の試薬が固体(例えば凍結乾燥品を粉末にしたもの)である場合には散逸および吸湿を防ぐことができる。同様に、試薬温度制御専用槽の上部開口もシール片で貼着され、該試薬温度制御専用槽中に封入されている流体が液体である場合は蒸発を、粉体といった固体である場合には、散逸および吸湿を防いでいる。
【0029】
上記シール片としては、例えば、アルミニウム箔や高分子フィルム等を、例えば、ホットメルト型接着剤でカートリッジ上部表面に接着させたもの等が挙げられる。アルミニウム箔によるシールは、自動測定装置に備えられたブレイカー等により容易に破られることができ、かつ密封性も良好であることから好ましい。
【0030】
本発明の自動測定用カートリッジで測定する検体とは、例えば、ヒトの血液等の体液等が挙げられる。検体中の微量成分を分析することによりヒトの病気の診断・治療に役立てることができるものであり、例えば、テオフィリン、フェニトイン、バルプロ酸等の薬剤;サイロキシン、エストロゲン、エストラジオール等の低分子ホルモン;PSA、CEA、AFP、CA19−9等の癌マーカー;HIV、ATLA、HBV等のウイルス;甲状腺刺激ホルモン、インシュリン等の高分子ホルモン;IL−1、IL−2、IL−6等のサイトカイン;EGF、PDGF等のグロースファクター;上記ウイルスの適当なDNA、RNA等が挙げられる。
【0031】
微量成分を分析するための化学反応とは、例えば、これら微量成分に対する抗体、抗原及びレクチン、アビジン、ビオチン等の特異的な結合を生じる物質を用いる生化学的な反応のほか、相補的な遺伝子断片等を用いる遺伝子学的な反応や、無機化合物を試薬とした各種化学反応が挙げられる。
【0032】
本発明において、上記化学反応は、単に単一の反応である場合に限定されず、例えば、上記微量成分を特異的に認識する抗体1と、上記抗体1を特異的に認識する抗体2とを組み合わせて用いることも可能である。また、本発明において、一つの反応槽内で一段階目の化学反応を終了させた後、また別の反応槽内へ反応溶液を移動させて、また別の試薬と反応させることも、通常行うことができる。
【0033】
本発明において、温度センサの種類は、熱起電力を計測し、温度換算するもの(熱電対など)、熱に敏感な抵抗体を用いて、温度変化によって変動する抵抗値を測定し温度換算するもの(サーミスタ、白金温度センサなど)、サーモスタットなどが好ましく使用できる。それら温度センサの構造や大きさは特に限定されないが、カートリッジにおける試薬温度制御専用槽中に挿入できなければならない。その点、サーミスタであれば1mm四方の大きさに収まる仕様もあり、好ましく使用することができる。
【0034】
これら温度センサは、流体が液体の場合には浸水防止のために、防水処理を施したものを使用することができ、その周辺が温度制御液で覆われることが望ましい。流体が粉末である場合には、防塵処理を施すことができる。
【0035】
液温を測定するための温度センサはまた、カートリッジのシール片を破るためのシールブレイカー(主に鋭利な円錐型が多い)の内部に仕込むことが望ましい。シールブレイカーが温度測定部と兼用されることで、シールを破いた状態でもシール片とブレーカーによって試薬温度制御専用槽は密閉されたままの状態となるが、温調時は試薬層のパックシールはシールされている状態で密閉されているために、計測条件が揃うという利点もある。
【0036】
試薬カートリッジを温度調節するためのヒータの種類としては、一般的な抵抗加熱によるヒータ、つまりシーズヒータ、シリコンラバーラインヒータ、シリコンコードヒータ、高電力金属皮膜抵抗などを使用することができる。ヒータ自身の大きさは、特に限定されないが、加熱ムラのない温度調節を行うために、温度調節ブロック(金属など熱伝導の良いもの)に埋め込めるものが好ましく、また、該温度調節ブロック(ヒータブロック)の形状を、カートリッジを均一に温調できる形状へ加工することも好ましい。例えば、カートリッジの外壁へ密着する形状へ加工することができる。
【0037】
試薬カートリッジを温度調節するために、自動測定装置へペルチェ素子等を利用した冷却機能を持たせることもできる。基本的には、冷却する場合は自然放熱でも問題ないが、自然放熱の場合の制御では、ヒーターブロック冷却に一定の時間を必要とし、加熱時、冷却時によって制御方法を変える必要がある場合もある。冷却機能があるほうが、より高速な制御が可能であることは言うまでもなく、冷却機能なしの場合、液温を計測できる場合とできない場合では、液温を計測できる場合の方がより良い制御が可能である。
【0038】
本発明において、自動測定装置が冷却機能を有していないと仮定し、例として、例えば、環境温度5℃〜35℃で使用可能な専用装置において、カートリッジに封入された試薬液温の目標調節温度37℃であり、液温が38℃以上になると失活等が発生する場合を考えると、試薬温度が冷蔵で5℃、ヒータブロック温度が50℃の場合、試薬温度が35℃に上昇してもブロック温度50℃に維持されていると、ブロック加熱をやめてもなかなか温度が下がらないために、試薬温度が38℃の失活温度を超える可能性が出てくる。しかし、試薬温度が5℃、10℃、15℃、20℃・・・37℃と上昇するにつれてヒータの出力を下げるような制御を行っている(例えばヒータブロックの温度は50℃、45℃、41℃、39℃、・・・37℃となる)ような制御を行っている場合には、試薬温度は37℃以上にならないように制御可能である。
【0039】
また、本発明のカートリッジにおける試薬温度制御専用槽は、反応槽や試薬槽に加えて追加されることが好ましいが、カートリッジ内の任意の槽に空きがある場合には、その空いた槽へ本願発明の試薬温度制御の機能を持たせ、試薬温度制御専用槽として活用することもできる。このとき、内部を直接に温度を計測される試薬温度制御専用槽として、試薬の性状に応じた流体が封入される場合、蒸発して散逸しないように、充分な量の流体を封入しておくとよい。
【0040】
以下、本発明にかかわる試薬カートリッジを用いた、自動測定装置内での測定シークエンスの例を具体的に挙げる。
【実施例】
【0041】
図2に、温度センサで試薬温度制御専用槽中の液体温度を計測して、その情報をヒータへフィードバックした際の流れ図を示す。制御方式は特に限定されないが、PID制御、P制御、PD制御、PI制御などが一般的であり、図2ではPID制御を行った例について示す。
【0042】
図3に、本発明にかかわる試薬カートリッジの構成を示すまた別の例である。本発明を説明するにあたり使用するカートリッジは、セル(A、B、C)と、ウェル(1〜6)を有する。セルとは測光を行うための反応槽であり、ウェルとは試薬を格納した試薬槽を意味する。
【0043】
これらのセル・ウェルの他に、カートリッジ使用前はピペッティング作業を行うための使い捨てピペットチップを包含する槽であり、使用後はピペットチップを廃棄するための槽を任意に有する(図3中、右端)。
【0044】
また、使用者がカートリッジへ検体を直接に注入する際に用いる検体槽と、本発明にかかわる試薬温度制御専用槽(図3中、左端。図中では制御槽と記載)を有する。カートリッジ内部の検体槽と、試薬温度制御専用槽の位置変更は任意であり、装置側へシークエンス変更を指示することで容易に達成できる。
【0045】
カートリッジの使用前では、検体槽とウェル1とセルABCと廃棄槽は空である。ウェル2にはヘモグロビン補正を行うためのヘモグロビン測定試薬が、ウェル3には溶血用希釈液(サポニン含有生理食塩水)が、ウェル4には緩衝液が、ウェル5にはチップ洗浄液(蒸留水)が、ウェル6にはラテックス懸濁液が、試薬温度制御専用槽(制御槽)には生理食塩水がそれぞれ充填封入されている。測定項目により試薬種類が変化するため、余分のセル・ウェルの位置関係は変化する。なお、ウェル6内のラテックスに結合させる抗体等は適宜変更され得るため、以下の説明では、生化学測定項目の具体的な分析行為は省略している。
【0046】
カートリッジの検体槽へ検体である全血を注入し、カートリッジを装置へセットすると、次のような測定手順が自動的に行われる。
【0047】
装置内のシールブレイカー兼用の温度センサの鋭利な先端部により、カートリッジの試薬温度制御専用槽部分のラミネートシールが破られ、制御槽内の液体の温度を計測し始める。
【0048】
各ウェルと各セル部分のラミネートシールを破る前に、上記制御槽において得られたリアルタイム計測温度をもとに、各ウェル内に封入された試薬温度が一定温度になるまで、温調制御を行う。ラミネートシールを破る前に温度を一定にする理由は、温調前より先にシールを破ると、カートリッジ初期温度によって、微量の試薬液が蒸発し、試薬濃度に影響が出る可能性があるためである。温度が一定になった後も試薬温度が大きく変化しないよう温度制御を行う。以下一連のシークエンスの間、温度制御を行い続ける。
【0049】
装置内のシールブレイカー兼用のピペットノズルが、各ウェルと各セル部分のラミネートシールを破いた後、装置側のピペットノズルと、カートリッジに包含されているピペットチップがドッキングする。
【0050】
次に、ピペット動作により、ウェル3からウェル1へ溶血用希釈液95μl×2回、合計190μlの分注が行われる。
【0051】
次に、ウェル4からセルBへ緩衝液が84μl分注される。
【0052】
次に、ウェル2からセルAへ、ヘモグロビン測定試薬が77μl×2回、合計154μlの分注で行われる。
【0053】
次に、ウェル3に残った溶血用希釈液で110μlの吸引吐出が2回行われたあと、ウェル5の蒸留水50μlが廃棄槽へ移送されることによりチップが洗浄される。
【0054】
次に、検体槽の検体10μlがウェル1に分注され、110μlでの吸引吐出が5回行われ、攪拌・混合・希釈が行われる。このとき、溶血が行われるが、溶血が効率良く行われるように、試薬温度制御専用槽で計測されている温度情報が常にフィードバックされ、カートリッジ内の反応溶液の温度は常に37℃に調節されている。
【0055】
ウェル3に残った生理食塩水で110μlの吸引吐出が2回行われたあと、ウェル5の蒸留水50μlが廃棄槽へ移送されることによりチップが洗浄される。
【0056】
次に、ウェル1の希釈検体28μlがセルAに分注され、110μlでの吸引吐出が5回行われ、攪拌・混合される。そうして吸光度変化が検出され、ヘモグロビン濃度が測定される。得られたヘモグロビン濃度からヘマトクリット値を算出する。このとき、試薬温度制御専用槽で計測されている温度情報が常にフィードバックされ、セルA付近の反応溶液の温度は常に37℃に調節されている。
【0057】
一方、ウェル4に残った緩衝液で110μlの吸引吐出が2回行われたあと、ウェル5の蒸留水50μlが廃棄槽へ移送されることによりチップが洗浄される。
【0058】
次に、ウェル1の希釈検体48μlがセルBに分注され、85μlでの吸引吐出が5回行われ、攪拌・混合される。ウェル5に残った蒸留水で110μlの吸引吐出が2回行われたあと、ウェル5の蒸留水110μlが廃棄槽へ移送されることによりチップが洗浄される。
【0059】
次に、ウェル6のラテックス液28.2μlがセルBに分注され、110μlでの吸引吐出が3回行われ、攪拌・混合される。そうして、生化学項目にまつわる吸光度変化が検出され、目的とする項目の成分濃度が測定される。このとき、試薬温度制御専用槽で計測されている温度情報が常にフィードバックされ、セルB付近の反応溶液の温度は常に37℃に調節されている。
【0060】
最後に、セルBにて得られた成分濃度と、同時にセルAにて得られたヘマトクリット値から、成分濃度の補正が行われる。

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の自動測定用カートリッジの一実施形態を示す断面該略図である。
【図2】本発明において温度制御を行う際の、温度情報をフィードバックする際のフローチャートである。
【図3】本発明の自動測定用カートリッジの別の一実施形態を示す断面該略図である。
【符号の説明】
【0062】
1:試薬槽
2:反応槽を含む複数の槽
3:試薬温度制御専用槽
a:使用者が検体を入れるための槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学反応に用いる試薬が封入されている試薬槽と前記反応のための反応槽を含む複数の槽を有し、検体中に存在する微量成分を自動的に分析する自動測定装置に組み込まれて用いる自動測定用カートリッジであって、
前記反応の際の温度調節を行うために試薬温度を測定するにおいて、内部を直接に温度センサにより温度を計測される試薬温度制御専用槽をさらに有することを特徴とする自動測定用カートリッジ。
【請求項2】
該試薬温度制御専用槽中には、試薬の性状に応じた流体が封入されている特許請求の範囲第1項に記載のカートリッジ。
【請求項3】
前記試薬が液状であり、試薬の性状に応じた流体が液体である特許請求の範囲第2項に記載のカートリッジ。
【請求項4】
前記試薬の性状により、試薬の性状に応じた流体である液体が、蒸留水、水溶液又はオイルである特許請求の範囲第3項に記載のカートリッジ。
【請求項5】
検体中に存在する微量成分を自動的に分析するための化学反応に用いる試薬が封入されている試薬槽と前記反応のための反応槽を含む複数の槽を有するカートリッジと、該カートリッジと組み合わされる自動測定装置を用いる測定方法であって、
該カートリッジへ試薬温度制御専用槽をさらに設け、該試薬温度制御専用槽中に含まれる流体を直接に温度センサで計測し、その温度情報をもとにカートリッジ全体の温度調節へフィードバックすることを特徴とする測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−125868(P2006−125868A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311004(P2004−311004)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】